もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんと雄英体育祭 昼休憩

『早速上位4チームを見てみよか!1位、藤原チーム!2位、轟チーム!3位、鉄て…アレェ!?オイ!3位、心操チーム!いつの間に逆転してたんだよ!?そして、4位は爆豪チーム!以上4組が最終種目へ進出だあぁーーー!!』

 

「クソクソクソ!俺が4位だと!?クソがあああ!!」

 

 爆豪は騎馬戦の結果に激怒していた。爆豪チームは中盤から物間チームと戦いを繰り広げ、終盤に物間のポイントを奪うことに成功したが、残った試合時間はほんの僅か。妹紅チームの1000万を奪う時間も無く、彼等自身のポイントと物間チームのポイントしか得ることしか出来ず、最終的に爆豪たちは進出ギリギリの4位となってしまっていた。

 そんな屈辱の結果に、爆豪は拳を地面に叩き付けて怒りを露わにするのだった。

 

 

「すまねぇ、俺の凝固が足りなかった…」

 

 一方、爆豪にポイントを奪われた物間チームは、この騎馬戦で敗退となった。チームの前騎馬をつとめた円場が、ガックリと肩を落として謝る。彼の個性は『空気凝固』。空気を固めて壁や足場に出来るという防御に優れた個性だったが、それを爆豪に破られてしまった。守りの要を自覚していた彼は、負けてしまった事に人一倍の責任を感じていた。

 

「円場の責任じゃない。アレは爆豪がおかしいだけだよ。それに、責任は騎手の僕に有る。謝るのは僕の方さ」

 

 そんな円場に物間は声をかけた。嫌味な性格をしているが、責任を他人に押し付けるような男ではない。実際は仲間想いな男だ。ただ、精神が少しアレなだけなのである。

 

(それにしても、藤原は意外だったかな。あれだけバンバン炎を使えば、疲れ果てそうなものだけど、未だに疲れた様子をみせていない…使い方にコツでもあったのかな?だとしたら、せっかくコピーをしたのに惜しいことをしてしまったな。まぁ、今更か)

 

 物間は妹紅を観察してみるが、彼女に疲れた様子は無い。何かしらの秘密があるのだろう、と考察したが、時既に遅し。物間は諦めて去って行くのだった。

 

 

 

「悔しいわ。三奈ちゃん、おめでとう」

 

「爆豪、氷対策に私入れてくれていただけで、実力に見合っているのか分からないよー」

 

 午前の部が終わり、騎馬戦に参加していた生徒たちも昼休憩に入る。皆、スタジアムの通路を歩きながら雑談に花を咲かせていた。

 

「飯田くん。あんなスピードアップ技があったなんて知らなかったよ!」

 

「あれはただの誤った使用法だ。しかし、重量過多でなければ更に…っと、いや、何でも無い。騎馬戦では負けてしまったが、最終種目で君たちにリベンジするつもりだ。特に緑谷くんとは張り合いたくてな」

 

 麗日がそう言うと、飯田は手を横に振りながら応えた。本来であればレシプロバーストは更に速いスピードが出せる、と言いそうになったが慌てて口をつぐむ。友人ではあるが最終種目で戦うかもしれないライバルの1人なのだ。決着は未だ付いていないのだから、もちろん言う訳にはいかなかった。

 

「男のアレだな~。…ていうか、そのデクくんは…どこだ?」

 

 麗日は辺りを見渡すが、周囲に緑谷の姿は見つけられなかった。

 

 

 

「あの…轟くん…話って、なに?」

 

 スタジアムの学校関係者専用の入り口通路。騎馬戦終了後、轟から話があると切り出された妹紅と緑谷は、轟の後を追って利用者の少ないこの通路に来ていた。

 両手をポケットに入れて無言で佇む妹紅。その隣で緑谷が怖ず怖ずと問いかけると、轟は冷たい威圧感をもって睨み付けながら応えた。

 内容は先の騎馬戦時の事。轟が緑谷と相対した際に、彼から本気のオールマイトと似た何か(・・)を感じたのだという。

 

「なぁ…お前、オールマイトの隠し子か何かか?」

 

 轟の言葉に妹紅は思わず緑谷の顔をマジマジと見てしまった。確かに彼の個性はオールマイトに似た増強型であるが、彼の外見からオールマイトの面影などは全く見当たらない。

 

「ち、違うよ、それは…。隠し子だったら違うって言うに決まっているから納得しないと思うけど、とにかくそんなんじゃなくて…逆に聞くけど…なんで僕なんかにそんな…」

 

 緑谷は冷汗を垂らしながら慌てて否定した。当然、緑谷とオールマイトに血縁関係は無い。しかし、彼はオールマイトから『ワン・フォー・オール』を受け継いだという秘密があった。絶対に他言してはならない重大な秘密だ。

 そんな緑谷を見て、轟は続ける。

 

「その言い方は少なくとも何かしらの言えない繋がりがあるってことだな。俺の親父はエンデヴァー、知っているだろ。お前がNo.1ヒーローの何かを持っているなら、俺は尚更勝たなきゃいけねぇ」

 

 そうして轟は語り始めた。オールマイトを超えられなかった父、エンデヴァーが個性婚を行い、母の個性を無理矢理手に入れたこと。両親の個性を受け継いで生まれてきた自分をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで己の欲求を満たそうとしていること。心を病み、涙を流していた母のこと。そして、その母に『お前の左側が醜い』と、煮え湯を浴びせられたこと。

 緑谷は轟の壮絶な過去に絶句しており、妹紅は痛ましそうに眉をひそめて目を閉じている。

 

「クソ親父の個性を使わず、一番になる事で奴を全否定する」

 

 轟は静かに憎しみを滾らせる。その両目には父への憎悪が宿っていた。

 

「そして誰であろうと炎熱系個性持ちが一番になるなんて俺は許せねぇ。ガキみてぇな理屈でいきなり突っかかって、藤原たちには悪いと思っているが…」

 

 轟が妹紅を見て、そう言った。憎悪や困惑、罪悪感。そのような感情が交ざった複雑な表情が浮かんでいる。轟は自身が感情で行動してしまっている事を理解しており、相手からしてみれば傍迷惑な話である事も分かっていた。

 それでもなお、己の感情を止める事が出来ずにいたのだった。

 

「…轟の感情を否定するつもりはない。それに私は偉大なヒーローやNo.1ヒーローを目指している訳では無いしな」

 

「何…?」

 

「え!?で、でも、藤原さんの個性なら十分にトップクラスのヒーローだって狙えるし、オールマイトは常にトップを目指すべきだって言っていたよ!?」

 

 妹紅が静かに首を横に振って応えると、轟は怪訝そうに呟く。一方、緑谷はオールマイトからアドバイスを受けていたようで、声を大にして反論する。オールマイトから言われた事を順守しようとしている彼の姿を見て、まるで慧音と自分のような関係なのかもしれないな、と妹紅は僅かに思った。

 

「…緑谷が尊敬しているヒーローはオールマイトか?」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「そうか、私もオールマイトを尊敬している。だけど、私が最も尊敬しているヒーローは慧音…いや、ワーハクタクというヒーローだ」

 

 轟は首を傾げる。特に聞き覚えのあるヒーロー名では無かった。しかし、ヒーローオタクである緑谷の記憶にはかろうじて残っているようだった。

 

「ワーハクタク…えっと、確か『獣化』の個性を持った女性ヒーローだったはず。何年か前のヒーロー名鑑で見た記憶があるけど、最近は載っていなかったような…」

 

「ワーハクタクは5年前に現役を引退したよ。引退後は『寺子屋』という児童養護施設を作り上げた。今、私はそこに住んでいる」

 

 それはつまり、親が死亡している、もしくは何らかの重大な理由で親と離れて暮らしているということだ。その事実に緑谷は息を呑み、轟は一瞬たじろいだ。そんな中、妹紅は続ける。

 

「私だけではない、何人もの子どもたちも同じ境遇にある。ああ、誤解するな。私たちは幸せに暮らせている。むしろ、恵まれた環境に居るのではと思うくらいだ。そんな彼女を身近で見てきたからこそ、私はワーハクタクのようなヒーローになりたいんだ。子どもを、弱い人たちを守れるヒーローに、な…」

 

 現役時代の慧音は、都市部に事務所を構えていた。数多くのヴィランを捕らえた実績もある武闘派ヒーローだった。ヒーローランキングトップ100に載ることは無かったものの、その名はそこそこ知られていた。

 その後、ヴィランとの戦闘で負った怪我が原因で現役を退いたが、引退した身でも何か出来る事を、と始めたのが児童養護施設の経営であった。

 

 妹紅は慧音のようになりたいと思っているが、彼女の経歴をそっくりそのまま真似るつもりは無い。現役でありながら、多くの恵まれぬ子どもたちの力になれるようなヒーロー活動を行う事が、妹紅の目的だ。

 具体的にどのようなヒーロー活動をすればいいのか、それに関して慧音が妹紅に何か助言することは無かった。それは妹紅自身が熟考しなければならないことだと彼女が判断していたからだ。妹紅もそれを理解しており、それらをプロヒーローになる前までに、つまり雄英在籍中に考え出すつもりだった。

 そして、そのヒーロー活動のために有名ヒーローになる必要やランキング入りする必要があるというのならば、それらを目指すだけ。名誉や知名度など、妹紅にとってはその程度の位置付けでしかなかった。

 

「そう…か。お前には既に強く想う“将来(ヴィジョン)”があるんだな…。俺には……、いや、なんでもない。そうだとしても、俺は右だけでお前の上を行く。そこは…譲れねぇ」

 

 轟は己の右手を見つめながら言った。

 彼は今まで右のみで1番になる事で己の道を示し、歩んできた。しかし、妹紅の歩む道に触れたことで、自分はどうするべきか、そして自分は正しいのか、そんな迷いが生じてしまっていた。

 だが、迷いを振り払うかのように轟はかぶりを振った。父への憎悪は生半可ではなく、簡単に拭えるモノでは無い。母の為にも、父であるエンデヴァーを否定したかった。

 

「体育祭の順位にも興味は無いのだが、施設の子どもたちがテレビで見ながら応援してくれているそうだからな。私も簡単に負けるつもりは無いさ」

 

 トップを目指している訳では無いが、だからといって負けるつもりも無い。ただ、己の実力を以って全力で挑むだけ。妹紅は轟に向かってそのように応えるのであった。

 妹紅の話を聞き終えた轟は、緑谷の方へと振り返る。

 

「緑谷、お前がオールマイトの何であろうと言えねえなら別にいい。俺は右だけでお前の上にいく。……2人とも時間とらせて悪かったな」

 

 そう言って、轟は緑谷に背を向けると食堂の方へと歩き始めた。早く昼食をとって、激戦が予想される午後に備えなければならない。妹紅も控え室に向かうために歩を進め始めた。その時、緑谷が意を決したように2人のに声をかけた。

 

「僕はずうっと助けられてきた。…僕は誰かに(たす)けられてここにいる」

 

 轟と妹紅が振り返って緑谷を見る。彼は自身の両手を見つめ、自分の想いを声に出していた。

 

「オールマイトのようになりたい。その為には1番になるくらい強くなきゃいけない。君たちに比べたら些細な動機かもしれないけど、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たちに応える為にも…!だから、さっき受けた宣戦布告。改めて…僕も君たちに勝つ!」

 

 緑谷は拳を握り締めて言い放つ。轟は一瞥して去りゆくも、瞳には彼の姿が焼き付いていた。一方、妹紅はコクリと頷く事で彼の宣戦布告に応じて立ち去るのであった。

 

 

 

 

 1-Aの控え室。今日も弁当を持参していた妹紅は、人混みに溢れた食堂に行く気も湧かず、誰もいない控え室で1人昼食をとっていた。弁当を食べた後、水筒に入れていたお茶を飲みながら最終種目に備えていていると、葉隠から『妹紅、今どこいる?』とSNSで連絡があった。すぐに『控え室に居る』と返信すると、しばらくしてパタパタと廊下を走る音が近づいてきて、控え室の扉が開いた。もちろん、現れたのは葉隠である。

 

「妹紅、妹紅!聞いた?応援合戦の話。レクリエーションの間、女子は全員チアの格好で応援しなきゃいけないんだって。」

 

「そうなのか?そんな話、初めて聞いたな…」

 

 妹紅は首を傾げる。そんな話は微塵も聞いていないし、生徒たちに配られた体育祭のスケジュールなどが載った冊子にも、そんなことは書かれていない。

 

「相澤先生がそう言っていたんだって。今、近くの女子更衣室でヤオモモが衣装を作ってくれてるよ」

 

「相澤先生が?そうか、教えてくれてありがとう。昼の休憩も残り10分くらいか…早く着替えるか」

 

「うん。こっちだよー」

 

 相澤先生が言っていたのなら間違いでは無いのだろうと、妹紅は納得して葉隠の案内に着いていく。妹紅たちの失敗は、この時、“本当にチアの格好で応援合戦をしないといけないのか?”と相澤に確認しなかった事だろう…。

 

 

 

『さぁ、そろそろ午後の部を始めるぜ!…って、どーしたA組!?』

 

 腹部の見えるほど丈の短いノースリーブのチアコスチュームに、膝上25センチのミニスカート。両手には黄色のポンポンを持って、1-Aの女子生徒たちはスタジアムの真ん中で立ち尽くしていた。皆の表情が無となってしまっている。

 

「他のクラスの女子…誰もチアの格好していないな…」

 

 長すぎる髪の毛をヘアゴムで纏め上げ、ポニーテールにしていた妹紅が無表情のままポツリと呟くと、隣で八百万が崩れるように肩を落とした。

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」

 

 限りなく落ち込む八百万。麗日がその背を優しくさすってあげている。一方、峰田と上鳴はクラスの女子たちのチアコスチュームを目に焼き付けながら、満足げな面持ちで親指を立てていた。

 つまりは応援合戦の話など、全て2人の嘘であり、八百万含め1-Aの女生徒たちは彼等に騙されてしまっていたのだ。

 

「アホだろアイツら…」

 

「まぁ、本選まで時間空くし、張り詰めててもシンドイしさ、いいんじゃない!?やったろ!」

 

「好きね、透ちゃん」

 

 耳郎は手に持っていたポンポンを投げ捨てるほど恥ずかしがって文句を言っているが、葉隠はむしろ楽しいらしく、気合いを入れて身体を動かしている。

 そんな中、プレゼント・マイクの声がスタジアムに響き渡った。

 

『さァさァ、皆楽しく競えよレクリエーション!A組の女子たちも応援してくれるってよ!それが終われば最終種目。進出4チームからなる総勢16名からなるトーナメント形式!一対一のガチバトルだ!』

 

 最終種目は一対一のガチンコ勝負。間違いなく白熱するであろう試合形式に、観客たちは期待を込めて、大きな歓声を上げるのであった。




 轟と緑谷に多少の事情を話したもこたん。しかし、2人にも詳しい事は話していません。もこたんが他人に自分の過去を話すには、まだ好感度が足りませぬ。

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