もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんと雄英体育祭 最終種目 2

「妹紅、お帰り!あれ?ヤオモモは?」

 

「念の為、リカバリーガールの検査を受けているところだ。…第8戦?第7戦の上鳴の試合はどうなった?」

 

「あの馬鹿、瞬殺されちゃった」

 

 妹紅が戻ると、第8戦の芦戸対常闇の試合が既に始まっていた。先程の妹紅と八百万の試合は第6戦。第7戦は上鳴とB組の『ツル』の個性を持った塩崎という女子の試合だったはずだ。

 妹紅は葉隠の隣の席に座りながら問いかけると、耳郎が試合から目を離さずに応えてくれた。どうやら上鳴は負けてしまったらしい。

 

「相手の個性と、相性が悪かったからみたいだから仕方無いんだけど……三奈、危ない!ああー…」

 

 耳郎が芦戸の名を呼んだ時には、彼女は場外へと投げ出されていた。射程距離とスピードに秀でた常闇の『ダークシャドウ』に、翻弄され続けてしまった事が敗因だった。芦戸を応援していた女子組は落胆の声を上げていた。

 

『芦戸場外!常闇、二回戦進出!切島と鉄哲の両名も回復したとの連絡が入ったぜ!種目は腕相撲!さぁ、腕力で二回戦の切符を掴み取れ!』

 

 セメントスが作った即席のアームレスリングテーブルで男の戦いが始まった。切島と鉄哲は全力を右手に込めて競い合う。激闘の末に勝利したのは切島だった。これにより、二回戦目の進出者が出揃った。

 二回戦のトップバッターは緑谷と轟。勝ち進んでいる者等も、敗退に終わってしまった者等も、この戦いを糧にするべく、彼等に集中していた。リカバリーガールの検査を終えて、無事に戻ってきた八百万もしっかりと傾注している。

 

『今回の体育祭、両者トップクラスの成績だ!行くぜ!?緑谷対轟!レディ、スタート!』

 

 開始した瞬間に2人は動いた。轟は氷結攻撃を繰り出し、緑谷は指を弾いた勢いで衝撃波を生み出す。それらはぶつかり合い相殺された。しかし、緑谷の個性は諸刃の剣。弾いた指は拉げて赤黒く変色している。緑谷と轟の戦いはこうして幕を開けた。

 

 

「ゲッ、始まってんじゃん」

 

「お、切島。二回戦進出やったな!でも、お前と爆豪の試合って、この次だろ。2人とも控え室で待ってなくて良いのか?」

 

 二回戦進出の切符を手に入れた切島が観客席に戻って来るなり、上鳴が手を振って彼を出迎えた。次の試合について聞くと、切島は頷いて応えてみせる。

 

「おう、セメントス先生とミッドナイト先生がな。試合が速攻で決まるにしろ長引くにしろ、轟の試合の後は氷を溶かす時間が必要だから、決着までは観客席で観戦していてもいいってよ。爆豪にもそう伝えておけって言われたけど、どうせオメーは最初(はな)からそのつもりだっただろ?まぁとにかく、次はオメーとだ。よろしくな」

 

「ぶっ殺す」

 

「ハッハッハ、やってみな!…とか言って、おめーも轟も藤原も強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー…」

 

 爆豪は試合から目を離さずに暴言を吐き捨てるも、切島は気にせずに笑い流す。しかし、すぐに表情を一転させて、真面目な顔で愚痴を溢した。隣に座っていた瀬呂が声を上げて同意したが、爆豪はそれに対して反論を唱える。

 

「ポンポンじゃねぇよ、ナメんな。筋肉酷使すりゃ筋繊維が切れるし、走り続けりゃ息が切れる。個性だって身体機能だ。奴等だって何らかの限度はあるはずだろ」

 

 爆豪は自分の手のひら、妹紅、轟と順に視線を向けた。彼にとっての“限度”は威力だ。一定以上の大きな爆破は自分の手を痛める。先の麗日戦では、空から振ってきたガレキを吹き飛ばすために特大の火力で対応したが、その後しばらくは痛みが続いた。そういう個性だった。

 

「考えりゃ、そりゃそっか…じゃあ緑谷は瞬殺マンの轟に耐久戦を仕掛けるつもりか」

 

 切島がそう呟いて彼等の戦いを見つめた。当事者の轟も緑谷の思惑を理解したのか、強力な氷結攻撃を次々に放つ。緑谷は何とか相殺するが、既に両手はボロボロという有様だった。

 緑谷を圧倒する轟。しかし、そんな彼に僅かな変化が現れ始めた。試合を観戦していたA組の中でそれに気付いたのは、戦闘センスの塊である爆豪。そして戦闘訓練や騎馬戦で轟と直接戦った事がある妹紅だけだった。

 

(あの半分野郎、一瞬動きが…?)

 

「轟の動きが僅かに鈍った…か?おかしいな…」

 

「そうかしら?よく分からなかったわ。でも、何がおかしいのかしら、藤原ちゃん。爆豪ちゃんが言った通り、個性は身体機能の1つ。個性の使い過ぎで身体が鈍ってもおかしくは無いと思うわ」

 

 妹紅が溢した小さな疑問の声が聞こえたらしく、近くに座っていた蛙吹が反応を示す。妹紅は彼女に自身が感じた疑問点を話す事にした。

 

「私が轟と戦った時、アイツは今よりもずっと氷結攻撃を使っていたはずだが、動きは全く鈍っていなかった」

 

「そういえば…確かにそうね。だとしたら、何か秘密があるのかしら…」

 

 妹紅たちがそう話している間にも轟は攻撃を仕掛け続けるが、やはり彼の動きは鈍っているように見える。

 そうしていると突如、爆豪が椅子を殴りつけて声を荒げた。いきなりの事に、彼の隣に座っていた耳郎の肩がビクリと飛び上がる。

 

「そういう事か!あの舐めプ野郎ッ!」

 

 舐めプ。舐めたプレイの略だ。轟が手を抜いて試合を行っているという意味だろうが、彼が戦闘で炎を使おうとしないのは、爆豪も前々から知っていたはずだ。だというのに、今、その言葉が出てきたという事は、何かしらの理由があると思うが…。

 そこまで考えた時、妹紅も理解に達した。

 

「そうか、熱か」

 

「熱?」

 

 蛙吹だけで無く、周りのクラスメイトの視線までも妹紅に集まった。しかし、妹紅は気にも止めずに緑谷と轟の試合から目を離さずに話を続ける。

 因みに、爆豪に尋ねようとした男子も居たが、現在進行形でキレている彼は外野の声が全く聞こえていないようだった。

 

「恐らく氷結攻撃を行うと身体が冷えるのだろう。低体温時、人の身体機能は大きく下がると聞いた事がある。たぶん、それが轟の個性のリスク。戦闘訓練や騎馬戦で私と戦っていた時は、私の炎の熱が奴の身体を温めてしまったから、それが表に現れなかった。つまり…」

 

「なるほど、左の熱()を使えばそのリスクは解消される、という事ですわね」

 

 八百万が納得したかのように頷いた。

 同時に緑谷も看破したようだ。震えた声で妹紅たちと同じ推測を轟に叩き付けると、壊れた指を握り締めて大きく叫んだ。

 

「皆…本気でやってる。勝って…目標に近づくためにッ!半分の力で勝つ!?まだ僕は、君に傷一つつけられちゃいないぞ!全力でかかって来い!」

 

 緑谷の覚悟に皆が息をのんだ。緑谷はボロボロになった指を更に壊しながら、轟に抗い続ける。最早、A組の面々で言葉を発する者はいない。ただ、圧倒されたように彼等の戦いを見守り続けた。

 

 

「君の!力じゃないか!」

 

 戦いの中、緑谷がそう叫ぶと、轟の脳裏には母の姿が映し出された。血に囚われず、なりたい自分になっていいと背を押してくれた母。いつの間にか忘れてしまっていた幼い頃の記憶。

 轟は泣きそうなほどに表情を歪める。そして様々な想いを胸に、轟は左半身から炎を生み出した。

 

「焦凍ォオオ!やっと己を受け入れたか!そうだ、いいぞ!俺の血をもって俺を超えていき、俺の野望をお前が果たせ!」

 

 エンデヴァーがスタジアムに響くほどの声量で轟に向けて叫ぶ。

 しかし、轟はそんなエンデヴァーを歯牙にもかけず、緑谷と向き合い続ける。そして、お互いが戦闘態勢をとった。

 

「緑谷、ありがとな」

 

 轟が小さく呟いた。その言葉と共に高熱の炎を放つ。緑谷も渾身の一撃を振るった。

 散々冷やされた周囲の空気が瞬間的に熱され急激に膨張する。更に緑谷の力も相まってとんでもない爆風が巻き起こった。ステージは爆弾が落ちたかのように破壊され、砂埃と湯気が煙のごとく立ちこめる。

 徐々に煙が晴れていくと、勝敗が露わとなる。破壊されたステージ上に立つ轟と、場外で横たわる緑谷。主審のミッドナイトは判定を下した。

 

「緑谷くん場外…。轟君、三回戦進出!」

 

 瞬間、割れんばかりの歓声が巻き起こる。緑谷が担架ロボに乗せられて退場すると、A組の数人が緑谷の怪我を心配して、リカバリーガールの元へと走って行った。周りがワイワイと先程の試合について談論する最中、妹紅は1人静かに彼等の戦いを胸に刻むのだった。

 

 

 

 爆豪対切島の試合は、爆豪が勝利を収めた。爆豪の戦闘センスは凄まじく、切島の『硬化』の綻びを見つけると容赦なく絨毯爆撃を決めて、彼をノックアウトしたのだった。

 

 

「全身全霊、本気で行かせてもらう!」

 

 次の試合は、飯田対妹紅。飯田は鼻息荒く宣言する。飯田とてNo.1を目指す者の1人だ。相手は女子であり大事な友人だが、既に優勝候補の呼び声高い彼女相手に手加減する気などさらさら無く、全力で挑む気でいた。

 妹紅はコクリと頷くだけですませて、いつものようにポケットに手を突っ込んで俯いた。それを見つめる飯田の瞳に油断は一切無い。

 

『この体育祭を見届けてきたのなら、この2人の強さの説明は不要だよな!?飯田天哉 対 藤原妹紅!レディ、スタート!』

 

 この試合、妹紅には作戦があった。飯田の個性は『エンジン』、スピード型の個性だ。多少の跳躍は出来ても空を飛べる個性では無い。即ち、空を飛びさえすれば、飯田は“詰み”となる。妹紅はそう考えていた。

 試合開始の声が聞こえた瞬間、妹紅はイメージ通りに炎翼を一瞬で展開する。後は羽ばたくだけで妹紅は優雅に宙を舞うだろう。しかし――

 

「ッ!?」

 

 飯田のエンジンが唸り声を上げ、レシプロバーストが本来のスピードを発揮する。妹紅は予想外のスピードに反応する事が出来ず、右側頭部に飯田の蹴りが叩き込まれた。視界中に火花が飛び、直後に地面に倒れ込む。集中が途切れたことで、炎翼が崩れて消えていった。

 だが、妹紅はよろめきながらもすぐに立ち上がった。ダメージを負った頭には既に再生の炎が覆っている。

 

「蹴り落とされた!」

 

「速ぇ!かなり重そうなのが頭に入ったぞ!」

 

 大勢の観客の声が耳の中でグワングワンとうるさく鳴り響く。平衡感覚も酷く失われ、地面が大きく波打っているように感じる。意識レベルが完全に回復するまで脳が再生するには、数秒はかかるだろう。とにかく身を守るべく、妹紅は全身から炎を発した。

 

「おおおおッ!」

 

 飯田が雄叫びを上げて鋭い蹴りを放った。風圧で炎を切り裂いて進路を開くと妹紅に肉薄し、火傷を負いながらも次々に蹴りを浴びせていく。左のミドルキックが妹紅の右脇腹にヒットし、肝臓にダメージを与える。右の前蹴りが鳩尾に突き刺さると、横隔膜が迫り上がり、一時的に呼吸が止まる。更に頭に向けた右のハイキック。これは腕で防御することに成功した。

 

『ラッシュ!ラッシュ!ラーッシュ!飯田!攻撃が止まらない!藤原は防戦一方!』

 

『藤原の放つ炎が弱すぎる。初撃で脳震盪を起こしたようだな』

 

 飯田が放った蹴りは、常人ならばどれもが悶絶する攻撃であり、クリーンヒットすれば容易に意識が飛んでもおかしくない攻撃ばかりだった。彼の作戦は、妹紅が空を飛ぶ前に速効の蹴りで昏倒させる、もしくは炎が使えないくらい意識を混濁させて、場外に放り出すというものだった。

 レシプロバーストの制限時間は残り7秒ほど。飯田の猛攻は続く。

 

「これじゃ爆豪対麗日戦の二の舞だ…」

 

「いや、あんな強烈な蹴りを何発もモロに受けているんだ。ダメージは麗日って子の比じゃねぇぞ…」

 

 見るに堪えない光景に、観客たちは表情を顰める。中には目を手で覆っている者もいる。しかし、審判たちが試合を止める気配は無かった。

 飯田の鋭いローキックが右足のふくらはぎにヒットして妹紅がガクリと片膝を突くと、それをチャンスと見た彼は上段に蹴りを放った。妹紅は咄嗟に左手を眼前で構え、右手を飯田に向ける。だが、防御に出した左手ごと妹紅は顔面を打ち抜かれた。

 

『顔面キック炸裂ーッ!これは勝負有りか!?』

 

「うわ、マジか…」

 

「えっぐ…」

 

 蹴られた衝撃で妹紅は片膝を突いたままの体勢で空を大きく仰いでいた。鼻からは大量の血がダラダラと垂れ、白い肌に紅い線が描かれていく。

 観客席からは半ば悲鳴のような声も上がる。飯田本人もこの状況に苦々しげに顔を歪ませていた。

 

(藤原くんには申し訳なく思う!再生能力で治るとは言え、女性の顔を蹴り飛ばすなんて最低の行為だ!しかし、俺も負けられんのだ!試合後は土下座してでも彼女に謝罪を…腕ッ!?)

 

『…!藤原が飯田の腕を捕らえている。顔面を蹴られた時か』

 

 解説の相澤がボソリと呟いた。

 相澤の言った通り、妹紅は蹴られた瞬間、飯田に向けて右手を伸ばしていた。彼の服でも掴み、多少でも動きを封じる事が出来れば御の字といった程度の抵抗だったが、運良く彼の右手首を掴む事に成功していたのだった。

 

(完全に蹴り抜いたはずだ!?何故瞬時に動ける!?)

 

 一方、飯田は驚愕に目を見開いていた。左手で防御されたが、それでも強烈な蹴りが彼女の顔面に確実に入っていた。実際、鼻血の量から間違いなく鼻は折れているだろう。

 それほどの威力であれば、気絶まではいかずとも呼吸困難や脳震盪、少なくとも痛みにより相当に狼狽する筈なのだ。しかし、妹紅にそんな様子は微塵も無い。

 

「いいば、じっでいるか」

 

 顔面を燃やしながら妹紅は立ち上がり、飯田に声をかけた。鼻が折れているため、声が濁っている。

 

(ッ!とにかく手を振り解いて――ッ!?なんて握力!引きはがせない!?)

 

 妹紅の声にハッと我に返った飯田は掴まれた手を振り解こうとするが、引き剥がす事は出来なかった。妹紅の華奢な腕からは想像出来ないほどの握力で飯田の腕を締め上げる。

 ならば、と飯田は蹴りを放った。しかし、妹紅は飯田の腕を引き寄せ、密着するほどに距離を詰める。妹紅の脇腹に蹴りがヒットするが、打点のズレた蹴りにさしたる脅威は無い。妹紅は気にする素振りも見せずに、飯田の胸に左の手をヒタリとあてた。

 

「顔面で攻撃を受ければ、顔がクッションになって脳は揺れない――火の鳥」

 

 顔面の炎が収まり、鼻の治った妹紅がそう言った。同時に、飯田の胸にあてていた妹紅の腕の肘辺りが激しく燃え上がり、炎翼が現れる。炎翼に頭や胴体が次々に肉付けされ、鳥の姿を形取っていく。そして火の鳥が放たれた。

 

「ぐああああ!」

 

「火力は極限まで抑えた。軽度の火傷だけで済むはずだ…ふぅ…」

 

 火の鳥の嘴が飯田の胴体を挟み、一直線に飛んだ。火の鳥に捕らえられた飯田は足を激しく振って抵抗しているが、それが火の鳥の拘束から逃れるためなのか、火傷の痛みからくるものなのかは分からない。そして、抵抗空しく飯田は場外まで連れ去られ、そこで吐き捨てられた。飯田の身体が地面に落ちたと共に、主審のミッドナイトが右手を挙げて『勝負あり!』と宣言をした。

 

『飯田!場外!大逆転だああ!藤原、三回戦進出ーッ!』

 

 一瞬の静寂の後、スタジアムが大歓声に包まれた。すぐさま医療ロボが現れ、飯田を担架に乗せて去って行く。

 勝者となった妹紅は歓声も意に介さず、踵を返した。歩きながら手の甲で顔に残った鼻血を拭うと、炎の熱でパリパリに乾いていた血の汚れが落ちてゆく。次に右腕を軽く上げると、火の鳥がその腕に降り立った。火の鳥はハラハラと崩れていくと、炎となって妹紅の腕に染み込むように吸収されていった。

 頭上から降り注ぐ賞賛の雨の中、妹紅は無表情で歩く。脳内では先程の試合を振り返っていた。

 

(あっぶなー!負けるところだった!空を飛べば勝てるからって油断してた私が馬鹿だった。戦う時は炎に集中するんじゃなくて、相手に集中するべきね…でも、炎のコントロールを間違えると火傷どころの話じゃ無くなるしなぁ…どうしよう…)

 

 騎馬戦で飯田にスピードアップ技がある事は知っていた。彼1人ならば、更に速いだろうとも予測していたのだが、まさかアレ程のスピードが出せるとは思っていなかった。正直、負けてもおかしくない試合だったが、敗因が油断というのは、ただ負けるよりも余程恥ずかしい。勝てて良かったと内心ホッとすると同時に、今後の戦闘スタイルに悩む妹紅だった。

 

 

「鼻血が止まってる…?鼻が折れたかと思ったけど、折れては無かったようね。良かったわ。女の子なんだし、顔は大事にしないと」

 

「足取りもしっかりしているし、ダメージは無さそうだな。あの攻撃をほとんど防御していたという事か?すごいな、あの子…!」

 

「負けはしたが、インゲニウムの弟も流石のスピードだったな」

 

 プロヒーローが集う席では先の試合を論じていた。勝った妹紅はもちろん、圧巻のスピードを見せた飯田も評価は高い。彼等はステージから降りる妹紅に拍手を送りつつ、仲の良いヒーローたちとドラフト指名についての話に花を咲かせるのだった。

 しかし、気が付く者はいた。妹紅の個性、その本当の力に。

 

「…あの鼻血の量、間違いなく鼻は折れていた。それが治っている」

 

「ああ。それに恐らく治ったのは鼻だけじゃ無いな。頭も身体も全てだろう。攻撃される度に、その部位に炎を灯していたが、あの炎がキモか…?」

 

「チッ、アップでスローのVTRがほしいな。帰ったら録画を確認するか」

 

 数人のプロヒーローがボソボソと小さな声で話し合っている。他にも真剣な表情で論じ合う者たち、1人で考察に勤しむ者もいる。妹紅の再生に気が付いたプロヒーローは、全体の2~3割といったところだろうか。

 そして当然、この男も妹紅の個性に気が付いていた。

 

(炎と共に怪我が修復された!あの小娘、炎熱系と再生系のハイブリッド個性か!)

 

 No.2ヒーロー、エンデヴァーが獰猛な笑みを見せた。今年の雄英体育祭、彼は己の最高傑作である焦凍の実力を見る為だけに来ていた。見る必要が有るモノは息子だけだと思っていたエンデヴァーだったが、今年は予想以上に面白い生徒がいる事に気付いた。

 まずは、緑谷出久。力だけはオールマイトに匹敵するといってもいい彼は、良いテストベッドになったばかりか、焦凍の『左』を解放させた。余計なお節介までオールマイトに似ているのは不愉快だが、興味深い小僧ではある。

 そして、藤原妹紅。己も炎熱系個性故に分かる事がある。あの強烈な炎は幾度となく限界突破することで培われたモノだ。焦凍と同じように、もしくはそれ以上に幼い頃から鍛錬を積んできたのだろうと思い、彼女を育てた親か師に多少だが興味が湧いた。

 しかし、先の試合で再生系個性も混ざっている事に気付き、エンデヴァーはその認識を変えた。

 

(あの小娘の個性も個性婚で作られたものか?…ふむ、少し話を聞く必要が有りそうだな)

 

 エンデヴァーは再び猛々しい笑みを浮かべると、選手控え室に歩を進めるのだった。

 




もこたん、ボコボコにされるの巻
 特に側頭部(こめかみ)にクリーンヒットした、初撃の上段回し蹴りが効いています。平衡感覚をやられ、脳震盪も起こしています。もこたんフラフラです。
 しかし、試合後半では既に再生し終わり、飯田を安全に倒すにはどうすれば良いかを蹴りを受けながら考えています。強い炎を使えば大火傷を負わせてしまうかもしれない。弱い炎では蹴り裂かれてしまう。考えた末、火力を抑えた火の鳥を放ちました。
 もちろん、レシプロバーストの制限時間が残り僅かだった為、火の鳥を使わずとも勝てていました。しかし、妹紅はレシプロの制限時間を知らないため、トドメをさしています。この間、十秒程度の攻防でした。

次、顔面で攻撃を受ければ脳は揺れない
 揺れるに決まってるだろ!
 側頭部や後頭部への攻撃に比べれば、脳へのダメージは少ないという意味では本当だと思います。でも、もこたんは言葉通り顔のパーツがクッションになっているからだと信じています。あながち、間違っていない…のか?

次、節穴モブヒーローズ
 麗日のガレキ流星群に気付かないくらいですから、妹紅の再生にも七割くらいのヒーローが気付いていません。もしも、体育祭の中で妹紅が一切炎を使っていなかったら、「お、あの子は再生個性か?」と気付いた観客も多かったでしょう。しかし、妹紅は炎をガンガン使って炎熱系個性を見せつけていたので、多くの観客が再生個性だと思わず、「あ、実はガードしていたんだな」と思っています。
 試合のVTRをスロー再生すれば素人でも一目瞭然ですが、女の子が血まみれになってしまった試合なので、雄英もマスコミもスロー再生でお茶の間に流せません。
 ネットでスロー再生動画が出回って気付くって感じでしょう。掲示板が盛り上がりそうですね。

次、エンデヴァー
 フラグが立ちました。それにしてもこのおっさん、観客席と控え室前の廊下を何度行き来しているのだろうか。数えてみたら原作だけでも三回行き来しています。

因みに、もこたんの体操服上下は炎で消し飛んでいるので、インナーとスパッツだけの格好です(最重要事項)

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