もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんと雄英体育祭 最終種目 3

 とあるマンションの一室。照明を消し、カーテンも締め切った暗い部屋をテレビの明りだけが照らしている。そんな煌々と輝くテレビ画面の前で1人の男が座っていた。

 

「チッ…あの白いガキめ…!」

 

 男が、死柄木弔が忌々しげにそう吐き捨てた。テレビに映るは肌も髪も真っ白な少女。彼等、ヴィラン連合が雄英を襲撃した際に邪魔をしてきた少女だった。

 炎を扱っていた事から、奴がエンデヴァーの子どもだと思っていたが、雄英体育祭を見てみると轟姓では無く藤原妹紅という名前であった。本当のエンデヴァーの子どもは氷と炎の個性を持った少年の方だ。

 

「フジワラ モコウ。その子が“あの脳無”と戦ったという例の少女だね?」

 

「…来ていたのか、先生。ああ、そうだ…。何度殺しても蘇りやがった」

 

 後ろから投げかけられた言葉に死柄木は振り返らずに応えた。声の主は、かつて“悪の支配者”、“闇の帝王”などと呼ばれ裏社会から恐れられた伝説的な巨悪、オール・フォー・ワン(AFO)。死柄木たちが“先生”と呼んで慕う男だった。

 そんな彼を死柄木の部屋まで連れてきた黒霧は、散らかっている部屋内を見渡すと溜息を吐いて、ゴミを片づけるべく掃除を始めた。妙に手慣れているあたりに彼の苦労性が感じ取れる。

 

「フフフ、陳腐な言葉だけど運命ってヤツだね。ハハッ、楽しいな」

 

「あ?…んだよ、先生…」

 

 無性に上機嫌なAFOに対して、死柄木は鬱陶しげに聞き返す。すると、彼は饒舌に話し始めた。

 

「彼女は、“あの脳無”の素体になったチンピラの実子だよ。彼の『超再生』は期待外れだったから、彼の一族に使い勝手の良い再生系個性持ちはいないものかと思って調べた事があったんだ。でも結局、誰もろくなモノを持っていなくてねぇ。父親の彼は婚姻届も出生届も出していなかったものだから、彼に子どもが居たとは僕も気付かなかった。全く、お役所仕事はこれだから…」

 

「へぇ…じゃあ、あの時は親子で殺し合ってた訳だ…ハハハ、確かに運命的だ。笑えるな」

 

 AFOが妹紅の詳細を知ったのは、死柄木たちが雄英を襲い、情報を持ち帰った後のことだ。死柄木の情報を元に各所に探りを入れ、彼女等が親子だと知った時は、運命的な再会(殺し合い)に思わず胸が熱くなってしまったものだ。

 

「僕はチンピラの彼から奪った『超再生』を元に戻した。やはり個性は持っていた本人が一番馴染むからね。そしてドクターと共に、彼を素体にあの脳無を作ったんだ。気付かなかっただけで、彼の『超再生』にも蘇生能力があったのかもしれないなぁ。今度手元に戻って来る機会があれば(ころ)してみるか」

 

「ハッ…そんな面倒くせぇ事せずに、あの白いガキを拉致って個性奪えば良いだろ。炎熱系個性のオマケ付きだ」

 

 死柄木が頬杖をつきながら言うが、AFOは笑みを浮かべながらゆっくりと首を横に振ってそれを否定した。

 

「フフフ、ドクターが医師のコネクションルートで彼女のプロフィールを調べてくれたのだが、これが面白くてね。今はヒーローなんてモノを目指しているが、彼女の本質はきっと違う。恐怖、苦しみ、恨み、そして絶望。生と死を幾度となく繰り返し、幼くしてこの世の地獄を見た」

 

 楽しげに、そして愛しげに。AFOは言葉を紡ぐ。

 

「彼女の本質はヴィランだ。そう成り得る、歪みを(はぐく)んできた少女だよ」

 

 

 

 

 

 選手控え室に準備されていた予備の体操服を身につけた妹紅は、クラスメイトたちが待つ観客席に戻るべく廊下を歩いていた。“飯田の火傷は大丈夫だろうか?”などと考えながら歩いていると、曲がり角から巨大な人影が現れた。

 

「おォ、いたいた。藤原妹紅クン、準決勝進出おめでとう」

 

 2m近い巨躯、オールマイトにも勝るとも劣らない筋肉。そして顔や身体から溢れる紅蓮の炎。妹紅の目の前に現れた人物の正体は轟焦凍の父、エンデヴァーその人であった。

 『ヘルフレイム』の個性を持ち、ヒーロー番付(ランキング)ではNo.2に君臨するトップヒーロー、エンデヴァー。No.2という事でオールマイトの後塵を拝しているイメージを持たれる事もある彼だが、実はこれまで解決してきた事件の数はオールマイトのそれをも超え、史上最多を更新し続けている。まさに炎熱系最強のヒーローと言えるだろう。

 

「予選から本選まで、君の活躍は見せてもらった。素晴らしい個性だ」

 

「……どうも」

 

 エンデヴァーは炎を纏った顔に笑顔を貼り付けて、妹紅を褒め称えた。しかし、炎から覗かせるその目は一切笑っていない。オールマイトとは異なる威圧感が溢れるヒーローであるが、妹紅は全く萎縮することなく、軽く会釈するだけの愛想の無い礼ですませた。

 以前までは、炎熱系個性でトップクラスまで上り詰めたヒーローという事で妹紅は尊敬しており、ネットに上がっていた彼の戦闘動画を見ながら、個性の訓練をした事もある。しかし、轟の話を聞いて以降、妹紅の中でのエンデヴァーのイメージは悪くなっていた。

 

「あの火力、我々プロヒーローから見ても賞賛に値する。あの力を得るために、どのような個性訓練をしてきたのか教えてくれないだろうか?」

 

「…特別な訓練などは別に何も」

 

「ふむ、そうか」

 

 エンデヴァーの問いかけに妹紅は素っ気なく応える。だが、それはエンデヴァーにとって想定通りの答えだ。強さの秘訣をそう易々と教える馬鹿はいないだろう。それは分かりきっていたことなのだ。重要なのはここからだ、とばかりにエンデヴァーは話を進めた。

 

「それにしても、まさか炎熱系と再生系のハイブリッド個性とはな。本当に素晴らしい個性だ。君の御両親も喜んでいるのでは――ッ!」

 

 話題が妹紅の両親に及んだ瞬間、周囲の空気が変わった。妹紅の双眸がエンデヴァーを捉えると、彼は思わず息を呑んでしまった。彼女の深紅の瞳は血を連想させ、感情の抜け落ちた表情からはまるで人間味を感じない。その姿は、エンデヴァーの脳裏に血塗れの人形を連想させるほどだった。

 ジットリと重く、それでいて刺々しい雰囲気が無言の2人の間に充満する。しばらくして妹紅がゆっくりと口を開いた。

 

「……私に両親はいません。孤児なので。…戻って次の試合を見る必要があるので、これで失礼します」

 

「なに…?それは失礼した。ならば、せめて個性名だけでも教えてくれないか?」

 

 妹紅は自身の事を告げると、エンデヴァーから視線を切って歩き始めた。

 エンデヴァーの無遠慮な言葉に腹が立った、という訳では無かった。こんな世間話で怒るほど妹紅は狭量では無い。ならば何故、彼女の機嫌が悪いのかというと、それは単純に両親への嫌悪感だった。

 虐待で妹紅を殺し続けた父、妹紅を産むだけ産んで居なくなった顔も名前も知らぬ母。妹紅は彼等の事を反吐が出るほどに嫌いだった。ましてや、自分の個性が両親を喜ばせるなど考えただけで虫酸が走る。そういう想いが外に滲み出てしまった。

 

 事情を知らなかったエンデヴァーは謝罪を口にする。しかし、妹紅の個性に探りを入れるという目的は忘れていなかった。彼は横を通り過ぎていく妹紅に個性を聞いた。

 

「……不死鳥」

 

「不死鳥…不死だと…?待て!貴様は一体どこまで再生出来る!?」

 

 歩みも止めず、ボソリと呟いた妹紅の声をエンデヴァーは確かに聞いた。プロヒーローとして様々な個性を見聞きしてきたエンデヴァーですら聞いた事が無い個性。そして“不死”という言葉。

 まさか、と思ったエンデヴァーは笑顔の仮面などかなぐり捨てて、怒鳴りつけるように妹紅を問い質す。廊下の角を曲がる直前、妹紅は一瞬だけだがエンデヴァーの方を見て、小さな声で応えた。

 

「たとえ死のうとも」

 

 妹紅はそう言い残して、その場から去って行った。後に残されたのはエンデヴァー1人。彼は無言のまま、その場に棒立ちになっていた。

 

「……。…くくく」

 

 妹紅が立ち去って数分が経った頃、ようやくエンデヴァーが動きを見せた。彼の口から笑い声が僅かに漏れ出ると、その声は徐々に大きくなっていき、そして己の野望をぶちまけた。

 

「くくく、くはは!ははははは!見つけたぞ!アレだ!アレと焦凍をかけ合わせればッ!『半冷半燃』は更なる上位互換に進化する!」

 

 個性婚。それは自身の個性をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び、結婚を強いるという倫理観の欠落した前時代的発想。しかし、エンデヴァーはこの個性婚を行い、息子の個性『半冷半燃』を作り上げた。全てはオールマイトを超える為であり、当然、彼は焦凍がいずれオールマイトを超えて、No.1ヒーローになると信じている。

 だが、そこでエンデヴァーが気になる事は、“次の世代の個性”。つまり、焦凍の子どもの個性であった。

 突然変異(ミューテーション)や無個性などの例外を除き、個性とは親のどちらかから、もしくは両親の個性が混ざり合って、子どもに引き継がれると言われている。即ち、焦凍の強個性がどこの馬の骨かもしれない女の雑魚個性と交わってしまえば、せっかく作った強個性が失われてしまうかもしれない。エンデヴァーにとってそれは許せる事では無かった。

 その為、焦凍と良個性を持った女をお見合いさせる事なども視野に入れていた彼だったのだが、1人の少女の登場でそれは覆された。藤原妹紅の『不死鳥』。彼女の言っていた事が本当ならば、焦凍の相手にこれ以上は無い。

 つまり、『半冷半燃』と『不死鳥』で個性婚を行えば、産まれてくる子の個性は…。

 

「産まれるぞ!最強の個性が!はははははッ!」

 

 更に大きい笑い声が廊下に響いた。その声は本人以外の耳に入る事無く、暗い廊下の中に消えていくのだった。

 

 

 

「常闇対B組の女子の試合は…今、終わったところか。チッ…」

 

「も、妹紅?大丈夫?」

 

 A組の観客席に戻ってきた妹紅であるが、常闇対塩崎の試合は既に終わっていた。常闇の勝利のようだった。

 次の対戦相手である常闇の試合を見逃し、虫の居所も悪い妹紅が舌打ちをすると、隣の葉隠が驚いて声をかけた。普段の妹紅は舌打ちや悪態を吐くなどはしないタイプなので、先の飯田戦で相当に鬱憤が溜まったのかと葉隠が誤解するほどだった。

 

「ん?ああ、すまない。何でも無い。次は轟対爆豪か。恐らくは轟が勝つだろうが…」

 

 妹紅がそう言うと、葉隠は多少の心配を残しながらもステージに目を向けた。クラスメイトも観客も、全員がステージに上がる轟と爆豪に集中している。轟の強さは言うまでも無く、爆豪の『爆破』は戦闘に特化した強力無比な個性だ。皆が注目するのも無理はない。

 妹紅の予想は轟の勝利だ。氷結の力だけで無く、炎熱まで使うようになった轟に弱点は無いと思っていた。しかし――

 

「てめぇ!ナメてんのか…ッ!俺じゃあ力不足かよ…ッ!」

 

 試合が始まるや否や、轟は大氷結攻撃を放つが、爆豪はそれを爆発で防御すると、氷を掘り進んで穴を開けて接近戦を仕掛けた。激しい攻防戦が繰り広げられるが、轟は炎熱の力を使わないばかりか、単調な氷結攻撃しかしていない。その姿はまるで何かを悩んでいる様にも見受けられた。

 とにかく、爆豪にはそれが気に入らなかった。

 

「虚仮にすんのも大概にしろよ!ぶっ殺すぞ!勝つつもりがねぇなら俺の前に立つな!何でここに立っとんだ、クソが!!」

 

 爆豪の望みは完膚なきまでの勝利。“全力の緑谷”を倒した“全力の轟”を更に上からねじ伏せる事に意味が有る。それ以外はゴミでしか無いのだ。爆豪は怒りを込めた一撃を轟に向けた。最大威力の爆発に勢いと回転を加えた彼の必殺技。その名も『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)』。正しく人間榴弾である。

 空爆の如き爆発音が鳴り響き、爆豪は氷もコンクリートも抉り壊した。全てを吹き飛ばすかのような爆発は、離れて見ていた観客席の人間ですらも腕で顔を守るほどだった。

 爆煙と蒸気、そして砂埃が晴れてゆく。現れたのはステージ上で膝をついている爆豪の姿。そして、氷の破片と共に場外に横たわる轟の姿だった。

 

「轟…そう簡単に迷いは晴れない…か…」

 

 意識を失って倒れた轟に向け、妹紅は人知れず呟くと席を立った。

 確かに轟は緑谷戦で炎を使った。しかし、それは決して父親(エンデヴァー)との確執を拭い去ったという訳では無い。ただ一瞬、緑谷に勝つためだけに力を使い、父を忘れていたのだ。

 試合後、轟はその事について考えてみた。だが、“考える”事すら考えに無かった轟では、答えを出す事が出来なかった。結局、爆豪との試合となっても迷いは消えず、轟は半分の力も出せずに敗北を喫した。

 爆豪はその結果に納得いかず、再戦を要求するため轟を叩き起こそうとしたが、ミッドナイトの個性『眠り香』で取り押さえられた。無論、再戦など認められず、ここに爆豪の決勝戦進出が確定したのだった。

 

 

 

「む!?藤原くん!先程は申し訳なかった。試合とはいえ女性の顔を蹴り飛ばすなど、ヒーローを目指す者としてあるまじき行いだった。僕に出来る事ならば、土下座でも何でもしよう!」

 

 妹紅が準決勝の試合に向かう途中で飯田に声をかけられた。彼は妹紅の前まで来ると腰をきっかり90度まで曲げて謝罪するが、そのせいで何事かといった感じで周りの生徒や観客から注目を集めてしまっていた。

 それでも、微動だにせず頭を下げ続ける飯田は、本当に真面目な男なのだなと妹紅は思わず感心してしまった。

 

「いや、そんなに気にするな。私の方こそ火傷を負わせてしまってすまなかったと思っている。お互い様だろう」

 

「しかし…いや、そうだな。ありがとう、藤原くん。気が楽になったよ。…おっと、僕と話していては試合に遅れてしまうな。試合、応援しているぞ!頑張ってくれ!」

 

 問題無いと言う妹紅に対して少々渋る飯田であったが、しつこい方が失礼だろうと判断して素直に受け取った。そして、グッと力強く握られた拳を掲げて、準決勝に赴く妹紅に応援の言葉をかけるのだった。

 

「ああ。ありがとう」

 

「では、失礼する。……ん?母さんから電話だ」

 

 妹紅は無表情ながらも片手を軽く上げて礼を言うと、試合に向けて歩を進めた。

 飯田は妹紅を見送り、自分も観客席に戻ろうとしたところで、ポケットに入れていた携帯の着信バイブに気が付いた。それは母からの電話だった。

 この電話が飯田のヒーロー人生における転換期の起首になろうとは…今の彼には知る由も無いのであった。

 




AFO「あの子の本質はヴィランや!」
慧音「は?慈愛に満ち溢れた聖女やぞ」

 USJ襲撃時、AFOたちは本当に脳無と妹紅の関係に気付いていません。後日、調べてみると、あらビックリ。親子じゃないの!襲撃前に知っていれば脳無の顔をパパのままにして、もこたんにサプライズが出来たのに、と残念がるAFOさんでした。

 次。熱血子育ておじさん。
 エンデヴァーさんが息子の嫁候補を見つけたそうです。孤児なら無理矢理でも個性婚させても誰からも文句言われないんじゃね?とか思っていますが、息子にバレたらガチで絶縁レベルで嫌われますし、慧音にバレたら、エンデヴァー事務所にカチコミが入ります。エンデヴァーの明日はどっちだ!

 次。正直カップリングとかは一切考えていないけども、もしも『半冷半燃』と『不死鳥』をかけ合わせた場合、産まれてくる最良の個性は…とかを考えたらちょっと楽しかった。

個性名『????』(半冷半燃×不死鳥)
 氷結と炎熱の力を使える。氷の鳥と火の鳥も操る事が出来る。氷結を使えば身体が冷え、炎熱を使えば身体が熱くなるが、お互いを使う事で体温の調節が可能。
 怪我もしくは死亡した際、身体が凍りつき、もしくは燃え上がる事で再生・蘇生される。氷結で再生・蘇生した場合は身体がより冷え、炎熱で再生・蘇生した場合は身体がより熱される。しかし、体温調節で無限復活可能。

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