もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんとお買い物 後編

「え?あの女の子たちテレビで見たことある!」

 

「藤原妹紅だ。すげー、ホントに真っ白」

 

「あの子のリボン、どこで売ってるんだろう…」

 

「雄英の1年生たちだ。可愛い~」

 

 妹紅たちが歩く度にざわめきが起こる。やはり容姿が目立ちすぎるようだ。なにせ妹紅だけでなく、芦戸の容姿も目立つものだし、葉隠もある意味で目立っている(透明人間が服を着ていると、普通以上に視線を集めてしまうようだ)。更に、そんな彼女等を微笑ましく見守る美女も一緒に居るのだから、ついつい凝視してしまうのも仕方無いのかもしれない。

 

「3人とも体育祭すごく格好良かったよー!」

 

「ありがとうございますー!」

 

「すいません、写真撮っても良いですか!?」

 

「良いですよ~!ほら、妹紅。ピース、ピース!」

 

「ワーハクタクだ…。私服だしプライベートかな…?」

 

 応援してくれる人には手を振って笑顔で、写真を頼む人にはピースサインで応じる。そんな葉隠と芦戸に促され、妹紅も控え目ながら同じように応えていた。

 

「いやぁ、凄いね!私1人じゃあ、体育祭の直後でもここまで話しかけられたこと無かったよ!」

 

「私も、私も!これがもこたん効果だね!」

 

「もこたん効果…」

 

 葉隠も芦戸も楽しそうに声を上げながら歩いていく。そうしているうちに目的地へと到着した。集合場所から割と近い場所だ。

 

「あ、ここだよ。レディース水着ショップ!可愛いの有るかな~」

 

 オシャレな店内にカラフルな水着が所狭しと並んでおり、店の規模も中々のものだ。ここならば、お目当てのデザインが見つからない、なんて事にはならないだろう。早速、葉隠たちが店の中を見渡して品定めを始めている。

 

「私、肌の色的にダークブラウン系が合うんだよねぇ。でも、今日は他の色も試してみようかな!妹紅は何か決めてる?」

 

「いや、特に…。そういうのは、あまり得意じゃないんだ。コスチュームのデザインもほとんどデザイナーに任せっきりだったし…。私服も姉さんや兄さんのお下がりを適当に着ている」

 

 芦戸の肌はピンク色だ。他人と比べて彼女のコーディネートは特殊になるだろう。だが、芦戸はそれを自前のセンスで補っていた。例えば、ピンク色にダークブラウンを合わせると彩度の高い鮮やかなピンク色は一層明るく見える。これは色彩対比と呼ばれる視覚効果であり、芦戸はそれらを意識して身に付ける物を選んでいた。

 一方、妹紅はそういうものに一切気にせず選んでしまっている。今日の黒いワイシャツに青のデニムパンツという服装だって、お下がりの服から適当に選んできた物だ。

 

「ふふん、それなら私たちに任せなさい!妹紅は肌が真っ白だから濃い色が似合うよね。赤とか黒とかは、白に良く映える。逆に、薄過ぎる色とか白色の水着はダメ。見栄えしないし、遠目から見ると裸に見えちゃう。ただ、濃い色は派手に見られやすいんだよね。水着のデザインを控え目なものにすると良いかも」

 

「なるほど…。詳しいな、葉隠」

 

 芦戸の色彩対比とは違い、葉隠が述べたこれは明度対比と呼ばれている。明度の異なる二色を並べると、明るい色はより明るく、暗い色はより暗く見えるという視覚効果である。下地(肌や髪)が真っ白な妹紅であれば、そちらを重視する方が良い。だから、今日着ているような何の変哲も無い黒のワイシャツだって妹紅が着ると見栄えするのだ。黒色の他にもワインレッドなどの濃い色も良く似合うだろう。

 しかし、今から選ぶのは水着だ。派手過ぎるのは学生として良くない(喜ぶ者は居るだろうが)ので、そこはデザインで抑えるという感じらしい。

 

「ふっふっふ。私は透明だから身に付ける物くらいはオシャレしたいのさ!うーん、この赤色も良いけど、妹紅は青色も似合いそうだなぁ。ブルーもこたんって感じで!」

 

「赤と青、どちらにしようかな…」

 

 葉隠のアドバイスを受け、妹紅は自分に合う水着を探す。すると、すぐにショップの店員がやって来て水着選びを手伝ってくれた。妹紅は葉隠と店員のアドバイスを聞きながら自分に合う物を選んでいく。

 

「上白沢さんもどうですか?水着!」

 

「私も?いやぁ、私はそういうの似合わないだろうから遠慮しておくよ」

 

 妹紅たちを見守りながら、店内の様子を窺っていた慧音に芦戸がそう声をかけた。だが、慧音は苦笑いを浮かべながらも首を横に振る。

 

「そんなこと無いですよ!スタイルも良いし、メチャクチャ美人なんですから、きっと似合いますよ!このパレオなんてどうですか?」

 

「ふふ、ありがとう。でも、やっぱり遠慮するよ。もう流石にいい歳だからね。さぁ、芦戸ちゃんも2人と一緒に選んでおいで」

 

「はーい!」

 

 芦戸が見せてくれたのは淡い緑色(パステルグリーン)のパレオ水着だ。過度な露出も無く、色も落ち着きがある。うっすらと青い髪色をしている慧音には、きっと良く似合うだろう。

 だが、それでも彼女は断った。口では年齢的な言い訳で断ったが、理由はそれだけでは無い。慧音は怪我が原因でプロヒーローを引退しているのだ。数多くのヴィランとの戦いでその身体は酷く傷つき、古傷も多く残っていた。顔や手などの目に見える範囲は化粧で誤魔化しているが、露出の多い水着などを着るのは厳しいのである。

 その身を犠牲に多くの人々を救ったヒーロー、ワーハクタク。今でも時折、怪我の後遺症に悩まされる事もあるが、慧音は己の生き様に後悔は無い。だが、水着すらも着られない身体になってしまったのは…少しだけ寂しくもあった。

 

「慧音先生」

 

 慧音は憂いの表情を僅かに浮かべながら周りの水着を見つめていると、妹紅に声をかけられた。妹紅は試着室のカーテンの隙間から顔だけを覗かせており、キョロキョロと周囲を見渡している。そして、男性が近くに居ないことを確認してカーテンを開けた。

 

「試着させてもらったのですけど…どうでしょうか?」

 

「最高…!」

 

 選んだ水着はフレアビキニ。トップ部分をフリル状の布で覆ったデザインの水着だ。色は妹紅の炎の如く燃えるような赤色で統一してある。色は派手だが、デザインは割と抑えめな水着だ。だが、慧音には十分過ぎる刺激だったらしい。憂いなど遙か彼方に吹き飛び、彼女はとても素敵な笑顔で妹紅を褒め称えるのであった。

 

 

 

「え!それじゃあ、慧音さんは相澤先生と雄英で同級生だったんですか!?」

 

「うん、イレイザーもマイクも同じクラスでね。A組だったよ」

 

「わぁ!じゃあ慧音さんは私たちの大先輩だ!」

 

 妹紅たちはそう時間もかからず水着の購入を終え、次はアウトドアシューズでも買いに行こうかと向かっていた。葉隠も芦戸も少しの時間で慧音と打ち解けており、仲良く語り合っている。

 

「相澤先生、そんなこと一言も話してくれないよね!雄英の卒業生って話も初耳だし!」

 

「そうそう!連絡事項とか必要な話だけだもん。それ以外は寝てるから、雑談なんて聞いたこと無いし!」

 

 妹紅は以前に慧音から聞いたことがあったので知っていたが、2人は初耳だ。そんな彼女等の反応に慧音はクスクスと笑って応える。

 

「フフフ、本当に変わってないな。イレイザーは入学した時から必要なこと以外は全然喋らなくてね。あまりにも喋らないものだから、良く出来たロボットなんじゃないかって噂が流れたほどだ。もちろん、噂の出所はマイクだったんだけどね」

 

「相澤先生とマイク先生は、昔から仲良かったんですね!」

 

「そうだね。イレイザーは良く寝ていたことも相まって、『省エネ消ちゃん』とか『休み時間のスリーピング王子』とか、そんな変な渾名を付けられていたけど、それを言い出したのも流行らせたのも全部マイクだったよ」

 

 相澤の隠された渾名を聞いて声を上げて笑う2人。妹紅の口元にも笑みが浮かんでいる。あの相澤にそんな渾名が付けられていたとは妹紅も知らなかった。しかし、妹紅たちが彼の渾名をA組内に広めようものなら、どんなカミナリが落ちるか分からない。慧音は“他の人には内緒だよ?”と、人差し指を口元にあてて悪戯っぽく笑った。

 

「あははは、私たちだけの秘密ですね!それじゃあ、林間合宿ってどんな感じでしたか?楽しかったですか?」

 

「1年生の合宿(アレ)かぁ。強化合宿とも言うくらいだからね、かなりキツかったよ。でも、それ以上に楽しかった。クラスの枠を越えて交流出来るから、それが切っ掛けでB組の生徒とも仲良くなれたしね。昼は実力を高め合い、夜は女子だけで集まって沢山お喋りをした。一週間があっという間に過ぎていったのを覚えているよ」

 

 話題が間近に迫った林間合宿へと移ると、慧音は懐かしげに語る。僅か7日間の出来事だったが、それでも溢れんばかりの思い出があった。

 

「花火もしたし、肝試しもやった。恒例行事みたいなものだから今年もやるんじゃないかな?」

 

「わぁ、楽しみ!」

 

 まだ見ぬ合宿に浮かれる彼女たちと歩調を合わせて歩く慧音だったが、そんな彼女がふと足を止めた。そして、忙しなく辺りを見渡している。

 

「……皆、ちょっと止まって!」

 

「慧音先生、どうしました?」

 

 妹紅がそう問いかけた先には、慧音の真剣な表情があった。どうやら好ましい状況だとは言えないようだ。妹紅は思わず辺りを見渡す…が、特に大きな変化が周囲に有るようには思えなかった。

 

「人の流れがおかしい気がする。雑踏のざわつきも僅かに大きくなっているし、辺りを気にする人も数人だが見受けられる。モール内のイベントにしては表情に期待感が無い。不安…いや、困惑の表情。近くで何か事件があったな。恐らく軽犯罪の類いだと思うが…。3人とも、念の為、私の側から離れないようにしなさい」

 

 妹紅たちは気付かなかったが、慧音は付近の違和感を察知したのだ。一般人ならば全く気付かないであろう、そんな僅かな気配をプロヒーロー時代の経験から感じ取った。慧音は妹紅たちを気にかけつつ、携帯を取り出す。電話をかける相手はもちろん警察。ただし、一般回線では無い。プロヒーロー用に専用回線があるのだ。

 

「こちらプロヒーロー、ワーハクタク。木椰区ショッピングモール内の雰囲気に違和感を抱いた。何か事件の通報は受けていないか?」

 

『数分前に通報を受けている。ヴィラン連合の構成員と思われる男が少年に危害を加えた後、逃走した。管轄内のヒーローには全員通達したはずだが…ああ、貴女はこの管轄のヒーローでは無いな?ということはプライベートか。すまないが頼めるだろうか。他のヒーローたちも現在向かっているが、モール内の人が多いため到着が遅れている状況だ』

 

「ヴィラン連合だと…!?」

 

 思わず声に出てしまった。慧音は周囲の雰囲気からして、精々引ったくり程度の犯罪だろうと思っていただけに衝撃が大きかった。

 案の定、妹紅たちはその言葉に反応し、表情が強張っている。ヴィラン連合への恐怖だけでは無い。もしも、こんな大勢の人混みの中でUSJや保須市の様な事件が起きてしまったら…。そう考えただけでも妹紅の心臓は締め付けられそうだった。

 

『真偽は不明だが、そう通報があった。被害者の少年は軽傷。現場はモール中央1階の突き上げた拳のオブジェの近くだ。急ぎ向かってくれ。それと、被害者の少年および通報者の少女は共に雄英ヒーロー科の生徒らしいが、ヒーロー免許はおろか仮免も未取得とのことだ。一般人として扱うようにしてくれ』

 

「なッ…!?」

 

 警察からの情報に慧音は絶句してしまった。ここで雄英ヒーロー科の生徒が出て来るなど偶然が過ぎる。更に、その事件現場はA組の皆が待ち合わせにした場所の近くなのだ。ほぼ間違い無くA組の生徒が、先ほど顔を合わせた子どもたちの誰かが襲われたということになる。

 

「け、慧音さん!今、お茶子ちゃんから連絡あって、緑谷君がヴィラン連合の死柄木に襲われたって…!あ、でも、怪我らしい怪我は負ってないって!」

 

(危害を加えられた少年とは緑谷君だったか!マズいな、妹紅たちを連れて現場に向かうのは危険だが…連れて行くしか無いか。事件現場には警察やヒーローたちが大勢集まって来るはず。下手な場所に待機させておくより、こちらの方が遙かに安全だ)

 

 今し方、麗日から電話があったらしく、葉隠が慧音にそう伝えた。麗日は警察やヒーローに事件のことを通報した後、クラスメイトたちに気を付けるよう電話をかけまくっていたらしい。

 一方、葉隠から事の次第を聞いた慧音は一瞬で考えを巡らしていた。死柄木は現場から逃走しており、ヒーローや警察は現場に集結しようとしている。故に、事件現場こそが付近で最も安全な場所になるのだ。

 ただし、『犯人は現場に戻ってくる』という言葉もある。基本的にそれを行うのは犯罪心理学も知らない犯罪者(しろうと)だけで、狡猾なヴィランはそんな下手な行動は取らない。死柄木も狡猾なヴィランであると思われる為、現場に戻ってくる様な愚かな真似はしないだろうが…何事にも絶対は無い。たとえ、警察やヒーローが現場に大勢集まっていても、慧音は周囲の警戒を一切怠らないつもりでいた。

 

「こちらワーハクタク、了解した。現場へ向かう」

 

『すまない、助かる』

 

 慧音が携帯を収めると、妹紅たちを見つめる。彼女たちは真剣な面持ちで慧音の指示を待っていた。

 

「3人とも、良く聞きなさい。今から緑谷君の所に向かう。私たちが最初に集合した場所だ。皆は私の側から絶対に離れずに着いてくること。いいね?」

 

「は、はい!」

 

 妹紅たちは頷きながら返事をした。緊張しているようだが、良い返事だ。この様子であれば正義感から単独行動をしたり、恐怖によってパニックに陥ってしまうなどの予想外の行動は起こさないだろう。

 

「死柄木は現場から逃走している。この状況における最大の危険は逃走中の犯人と鉢合わせになることだ。万が一の遭遇時は、私が奴と戦う。その際、3人はすぐに私から離れて他のヒーローの所まで避難しなさい」

 

「でも、先生は身体の具合が…!」

 

 妹紅が焦ったように声を出した。妹紅は慧音が怪我でプロヒーローを引退したことを知っている。また、妹紅が幼い時は慧音と一緒に入浴することも多々あり、彼女の身体に刻まれた傷跡も目撃していた。

 

「大丈夫、短い時間なら今の私だって十分に戦える。ここなら現場にも近いから、少し時間を稼げばすぐにヒーローが集まってくるはずだ。だから、皆は決して応戦しないように。これは上白沢慧音ではなく、プロヒーローであるワーハクタクとして命じます」

 

「分かりました…」

 

 慧音は有無を言わさない声で妹紅を制した。葉隠も芦戸もそれに従うように頷く。それを見て、慧音は万全の警戒をもって現場へと赴くのであった。

 

 

 

「とまあ、そんなことがあってヴィランの動きを警戒し、例年使わせて頂いている合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」

 

 あの後。やはり死柄木は完全に姿をくらまし、慧音はショッピングモール内のA組生徒の保護に奔走した。緑谷は事情聴取の為に警察署に行くことになり、他の生徒たちは軽い聴取を受けた後は自宅へと帰らさせられ、妹紅たちも聴取を受けて帰宅。大変な1日となってしまった。

 しかも、この事件は雄英の行事にも大きな影響を与え、翌日のHR(ホームルーム)では合宿先の変更が相澤より伝えられるのだった。

 

「えー…、もう親に言っちゃってるよ」

 

「故にですわね。話が誰にどう伝わっているのか学校が把握出来ませんもの」

 

「合宿自体をキャンセルしねぇの英断過ぎるだろ!」

 

 騒々しくなる教室内だったが、今回ばかりは相澤も私語を注意すること無くHRを終えた。こういう時は愚痴らせた方がガス抜きになって良いだろう。後は原因となってしまった緑谷に過度な批難が向かわないようにすればいい。

 早速、爆豪が『骨を折ってでも殺しとけよ』というヒーローの卵とは思えぬ発言をしているが、周りのクラスメイトが緑谷を擁護して爆豪を注意していた。爆豪の暴言が周りのヘイトを一身に受ける為に放った言葉であれば、幼馴染み思いの素晴らしい心の持ち主といえるのだが…、残念ながら彼は完全に素で暴言を吐いている。まぁ、彼らしいといえば、彼らしい。もしも、爆豪が友愛に目覚めでもしたら、真っ先にヴィランの洗脳を疑うレベルなのだから。

 相澤はそんな騒々しい教室を背にして出て行きながら、林間合宿のプランを練り直すのであった。

 

 

 

「昨日は俺のクラスの生徒が世話になった。すまないな、上白沢」

 

 その日の放課後。相澤は職員室で電話をかけていた。相手は慧音だ。

 

『いや、気にしなくていいさ。それよりも…これは偶然だと思うか?ヴィラン連合関連はこれで三度目だぞ』

 

「一度目はオールマイトを狙った。二度目のステインは飯田や緑谷たちの方から飛び込んで行った。これらは理由ある遭遇だ。今回ばかりは偶然だと言っても可能性としては有り得る。だが…、この件の問題はそこでは無い」

 

『死柄木の殺害予告だな』

 

 緑谷は死柄木が立ち去る際に『次に会った時は殺す』的な内容の殺害予告を受けたという。また、特にオールマイトに対しては非常に強い怨みを抱いているようで、酷く狂気染みた笑みを浮かべていたらしい。

 

「あれが緑谷本人だけへの言葉なのか、それとも奴が憎むオールマイトに関わる全員への言葉なのかは分からんが…。今後、生徒が狙われる可能性が無いとは言い切れない」

 

『合宿を中止には…出来ないな。あれは個性の強化には欠かせない行事だ。普段とは異なる環境。競い合える仲間。朝から晩まで己の個性と向き合える貴重な時間だ。タイミングとしてもこの時期が最適。短時間で強くなっていくあの感覚は、今後の大きな自信になる』

 

 1年生のこの時期に強化合宿を行うのには理由がある。入学直後にクラスメイトというライバルが出来て、授業や体育祭で競い合う。体育祭では優勝者以外の全員が敗北する訳なのだから、鼻っ柱を折られて『もっと強くなろう』という向上心が生まれる。そして、職場体験で更なる力不足を痛感して、悶々としているところに合宿で個性の限界突破法を教えるのだ。すると、必死になって限界突破に打ち込み、僅か7日間で一回りも二回りも成長出来る。更に、それが自信にもなる。このスケジュールにはそういう思惑が込められていた。

 

「ああ。それにヴィラン連合に黒霧とかいうワープ個性持ちが居る以上、敵は生徒たちの登下校中だろうが在宅時だろうが何時でも襲撃出来る。忌々しいことに俺たちは後手に回るしかない…。そうである以上、生徒たちを守る為には、生徒たち自身を強くするのが合理的で現実的だろう。強化合宿は必須だ」

 

 ヴィラン連合はとにかく黒霧のワープ個性が厄介なのだ。あの個性をオールマイトの殺害ではなく、生徒の暗殺へと向けられたら…相澤たちではどう足掻いても防げない。たとえば、戦闘力の低い生徒が在宅時を狙われてしまったら、襲撃・殺害・逃亡までの流れを10秒もかからず黒霧は実行出来るだろう。ヒーローを呼ぶ暇も、警察に通報する暇も無い。また、刃物や銃器、爆発物、そして個性(にんげん)。どんな凶器でも持ち込めるという点も実に恐ろしい。

 この襲撃から身を守る為には生徒自身が強くなるか、完全防犯の寮を雄英の敷地内に作り、そこに生徒たちを住ませるくらいしかない。もしも、ヴィラン連合がこのまま捕まらなかったら、いずれ(・・・)雄英は全寮制になってしまうだろう。

 

『合宿の中止は問題を先送りにするだけじゃなく、成長の妨げになるからな…。とはいえ、心配なのは変わらない。対策はしてあるんだろうな?』

 

「もちろんだ。秘匿事項だから流石に話せないがな」

 

 生徒の保護者かつヒーローの慧音ではあるが、残念ながらここでは部外者だ。機密情報は話せない。慧音は納得するしかなかった。

 

『そうか…そうだな。頼んだよ、イレイザー』

 

「任せておけ」

 

 慧音には一抹の不安が有った。しかし、雄英には絶大な信頼が有るし、相澤のことも当然信頼している。だが、いくら拭い去っても心の奥から染み出してくるこの不安感は何なのだろうか…。慧音はそんな胸騒ぎを抑えつつ、相澤に全てを託すのであった。

 




妹紅は濃い色が似合うイメージ。
 赤はデフォルトカラーで、青は2Pカラーの通称「青妹紅」。黒もキャラクターカラーの一つ。通称「黒妹紅」。黒妹紅はなんか不良っぽいイメージですね…。
 なお、芦戸ちゃんがダークブラウンが似合うというのはヒロアカ原作9巻の裏表紙折り返しの水着カラーイラストから。え、葉隠ちゃんに似合う水着?私にも分からん。
 因みに、水着の試着は下着などの上から着けるのがマナーです。フル○ンで試着するのはやめろォ!

次。相澤先生の学生時代の渾名とか
 なんと全て公式である。ヒロアカ小説版の三巻より。

次。林間合宿
 中止に出来ない理由を考えるのが大変だった。はえ~、すっごい不穏…。

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