もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんと仮免一次試験

「ここら辺でいいか…」

 

 平地、山、水場、森、繁華街、高層ビル、工場地帯など。試験会場には様々なフィールドが用意されていた。また、妹紅のように飛行能力を持つ個性ならば空だって立派な戦場になるだろう。とはいうものの、試験開始前の個性発動は反則なので、試合開始までは妹紅の移動も徒歩だ。

 そんな中、妹紅が選んだ地形は平地だった。広く、障害物も無いため個性を展開しやすい地形である。妹紅はここで戦うことに決めた。

 しかし、ここは1500人以上が競い合う試験会場。それも戦いやすい適度な広場ともなれば、人も多く集まるのも当然だった。広場には既に他校の生徒100人以上が戦闘の準備をしており、そこに現われた妹紅は彼らの視線を一身に集めていた。

 

「おい、藤原妹紅だ!」

 

「あれが不死身の個性の…!」

 

「マジか。1人だけだぞ」

 

「えぇ!?なんで1人なの!?」

 

 周囲が驚愕の視線で妹紅を見た。どう考えてもこの試験は団体で戦う方が有利である。各校とも当然のように団結して行動しているのだから、単独行動など狙ってくれと言っているようなものだった。

 

「ふぅん、有名人は特別ってわけ?」

 

「余裕のつもりかよ…。俺がやってやる…!」

 

 調子に乗っているとも受け取れる妹紅の行動は、彼らを不愉快にさせた。相手は雄英体育祭で優勝し、神野区の悪夢では凄まじい戦闘を全国に見せつけた誰もが知っている超有名人。誰からも褒めそやされて、雄英卒業後はすぐにでもトップ10ランキング入り確実とまで称される高校1年生。

 そんな妹紅に、無名校の2年生3年生たちが僅かでも妬み嫉みを抱かないというのは嘘になる。叶うのならば無名なりの意地を見せつけてやりたい。そういう気持ちは誰しもが持っているはずだ。

 だからこそ彼らは考えてしまった。数的有利なこの状況。中には初見殺し系の個性を持っている者だって少なくない。“あの藤原妹紅に勝てるかもしれない”。一度でもそう脳裏によぎると、欲心がムクムクと頭をもたげてきてしまった。

 

「この人数なら俺たちでも勝てるんじゃないか…?」

 

「ええ、やれるわ。やるわよ!」

 

「お、俺たちはどうする…?」

 

「無理だろ!?なぁ止めとこうぜ!?」

 

「落ち着けよ。このルールなら『不死鳥』の強みは活かせねぇ。勝機はある」

 

「フフ、今年の雄英潰しは不死鳥狩りね」

 

「待てって!先着100人しか通れねぇのに雄英潰しやってる場合かよ!?」

 

「じゃあ、お前だけ好きな所に行けよ。俺たちは他校と協力するぞ!」

 

「よし、共闘だ!俺たちで藤原妹紅を脱落させて、有名になってやろうぜ!」

 

「馬鹿行くな!…クソ!ここで別行動になったら戦力が半減しちまうだろうが!やるしかねぇのかよ!」

 

 その場に居た生徒の半数近くが妹紅をターゲットに定めた。積極的に妹紅へと挑まんとするだけはあって、彼らは己の個性に自信を持っている各校の主戦力だ。しかし、それ故に残された者たちは大変だった。彼らと別行動をとってしまえば戦力の大幅ダウンは免れず、しかも、雄英潰しで共闘状態になっている場所以外は各校入り乱れる大乱戦が勃発すること間違いなし。その為、妹紅との戦闘に懐疑的な者たちも包囲に加わる以外に選択肢が無かったのである。

 しかし、クラスの制御が出来ている。もしくは個々が高い実力を備えてさえいれば、そんな悩みは必要ない。例を挙げると、たまたま近くに居た士傑高校の一団がそれに当たるだろう。

 彼らを取り纏める毛深い男子。士傑高校2年1組委員長の毛原(もうら)は、妹紅の姿を確認するなり移動の指示を皆に告げた。

 

「場所変えるぞ。藤原妹紅を狙ったところで我々にメリットはないし、そもそもターゲットが1人しかいない状態で他校と共闘しても意味が無い。それに…」

 

「それに?」

 

 毛原が言葉の途中で妹紅から視線を外し、周囲を見渡す。その様子にクラスメイトの男子が首を傾げて問うと、毛原は溜息を吐きながら言葉を続けた。

 

「肉倉をはじめとする、『もこたんガチ勢』が遠巻きに監視をしている」

 

「も、もこたんガチ勢!?ていうか肉倉のヤツ何してんだ!?気付けばイナサも居なくなってるしよ!」

 

 慌てて周りの士傑メンバーを確かめると、確かに肉倉が居ない。ついでに1年坊の夜嵐までも居なかった。夜嵐はともかく、普段は規律・責務・矜恃と口うるさい肉倉が独断行動に出るのは珍しい。

 そう疑問に思って毛原の視線の先に居る肉倉を見てみると…納得がいった。彼は熱狂的な視線で妹紅を見ているのだ。更に、肉倉以外にも同じ熱視線で妹紅を見ている者が複数人居た。関係の無い他校の生徒たちのようだが、肉倉を含め彼らはお互いに争うつもりがないらしい。

 なるほど、確かに毛原の言う通り彼らは『もこたんガチ勢』だ。同好の士として停戦協定が結ばれているのだろう。

 

「肉倉は藤原妹紅の死闘に心酔していたからな。『あの不死鳥がこの程度の試練に落ちる筈はないが、万が一の時は我々が手助けに動く』。彼女を見守っている連中はそういう心積もりなのだろう。まぁ放っておけ。肉倉の個性ならば、よほど馬鹿な真似をしない限りこの試験内容では落ちん。何処へ行ったかは知らんがイナサも同様だ。…そろそろ始まるな、早く移動するぞ。ケミィ、離れるなよ。お前は放っておくと多分ダメそうだ」

 

「なにそれマジ憤怒」

 

 唯一残った問題児(ケミィ)に注意を促しつつ、毛原はクラスメイトを連れて動く。

 まずは確実に一次試験を通過することが大事だ。その為には藤原妹紅から距離を取らなければならない。彼女と戦うくらいならば他校の生徒100人に囲まれた方が遙かにマシだと思っている毛原は、足早にその場を後にするのであった。

 

 

 

『それでは試験開始のカウントダウンを始めます。10、9、8、7、6…』

 

 試験開始のカウントダウンと共に、数え切れない程の大勢の受験生たちがジリジリと妹紅に躙り寄っていた。360度の包囲網は幾重にも重ねられ、狩人たちはボールを片手に試合開始を今か今かと待ち焦がれている。

 一方で、妹紅はというと実に自然体だった。一度だけ包囲網をチラリと見渡しただけで、それ以降はいつもの無表情で前方を見つめている。開始直前になってもボールすら構えていない余裕過ぎる態度に、包囲者たちから発せられる圧は増えていった。

 

『5、4、3、2、1、試験スタート!』

 

 開始の合図と同時に、周囲の受験生たちがボールを振りかぶり、そして個性に秀でた者は自慢の必殺技を発動させようとする。しかしその瞬間、妹紅からノーモーションで繰り出された炎が受験生たちの頭スレスレに放たれた。目の前に炎が迫れば、人間である以上どうしても本能的に怯んでしまう。彼らも例に漏れず、思わず頭を庇ってしまった。

 

「っぶねぇ!なんて炎だ!」

 

「なんで!?炎の精密操作はルーティンしないと出来ないんじゃなかったの!?」

 

「もうルーティンを修正したのか!?体育祭からまだ3ヶ月くらいしか経ってないんだぞ!?」

 

 “ルーティンは!?”。何人かが焦ったようにそう叫んだ。それが雄英体育祭で見せた妹紅の唯一といえる弱点だったからだ。

 確かに、妹紅はポケットに手を突っ込んで目を瞑ることをルーティンにしており、そのルーティンが出来ない時は、必ずと言っていいほど初手に防御を選んでいた。それは個性の精密操作が苦手だということ。そういう意味では、ルーティンを行っていない妹紅を狙うという彼らの作戦は実に正しかった。

 しかし、それは体育祭時点での妹紅が相手ならば、という話である。そんな隙だらけのルーティンは妹紅自身でも危機感を覚えたし、慧音や相澤からも苦言を呈された。故に、訓練は精密操作に重点を置いていた訳であり、その成果として今ではほぼ無意識で炎の精密操作が出来るほどに進化していた。

 つまり、妹紅にとって、今に至るまでの時間は『3ヶ月しか(・・)なかった』のではない。『3ヶ月()あった』のだ。その認識の違いこそが、妹紅と彼らを隔てる大きな溝だった。

 

「しまった!炎の鳥を出された!」

 

「そんなことより藤原妹紅が居ない!逃げられたぞ!」

 

 試験開始直後に放たれた炎の中から、次々に火の鳥が現われる。数メートル級の大きな鳥から、小さいものはカラス程度の火の鳥まで様々なサイズが生み出され縦横無尽に飛び回る。そして、放たれた炎が火の鳥へと姿を変えた時には、妹紅の姿は消え去っていた。

 

「おい、見失ったぞ!どうするんだよコレ!?勝てるのかよ!?」

 

「落ち着け!今はとにかく早く藤原妹紅を見つけ出すんだ!」

 

「まだだ!まだ勝てる!こっちには初見殺しが出来る個性持ちだって居るんだ!見つけさえすれば何とかなる!」

 

「うわッ!?おい、気をつけろ!鳥がボールを咥えて飛んでいる!」

 

「きゃあ!?鳥にボールを盗られた!」

 

「う…頭痛が…。なんだこれ、体調が悪い…。誰かの個性に巻き込まれたのか?」

 

 獲物が居なくなったことで現場は慌てふためいてしまった。ここで妹紅に逃げられてしまえば共闘状態は崩れ、大乱戦へと発展してしまうだろう。そうなってしまえば妹紅の利にしかならないと、各校のリーダーは何とか混乱を収めようと仲間に檄を入れる。

 しかし、それでも彼らの状況は最悪だった。火の鳥の中にはボールを咥えている個体が何羽か混ざっており、それらが四方八方から襲ってくる。更に、腰のポーチに入れていたボールを火の鳥に奪われるなどして脅威が増えていく。

 極めつけは、謎の体調不良である。いずれも軽いが頭痛、目眩、吐き気などが込み上げ、身体を落ち着かせようと深呼吸すればするほど体調は悪化していく。とてもじゃないが激しい戦闘など出来るコンディションでは無かった。

 

「はぁはぁ…くそっ、開始数秒でもう2箇所やられた!畜生、囲んで倒すつもりが逆に囲まれている!早く奴を見つけないと、このまま一方的にやられるぞ!」

 

「3つ目のターゲットは絶対に死守しろォ!2人やられたら藤原妹紅が合格しちまうぞ!」

 

「と、とにかく鳥の咥えているボールにだけ気をつけろ!大怪我させないように手加減してるのか知らねぇが、火の鳥そのもので攻撃する気はないみたいだから、ボールさえ避ければ問題は無いはずだ!」

 

 リーダーたちは叫ぶように指示を飛ばした。圧倒的優勢を誇っていた包囲網は砂上の楼閣のように崩れ去り、今では混乱の坩堝と化している。それでも彼らは簡単に負けて堪るかと堅守に転じて起死回生をはかった。ターゲットは3つの内2つをやられてしまったが、残り1つだからこそ集中して堅く守ることが出来る。そう信じて防御に徹したのだ。

 しかし、妹紅にとってはそれすらも障害にはならなかった。

 

「はぁはぁ…え?」

 

「う、うそ!?」

 

 生徒たちの警戒はボールを咥えた火の鳥に向けられている中、2m級の火の鳥が彼らに接近した。それは周囲を何十羽と飛び交うボールを咥えていない火の鳥の中の1羽だが、“火の鳥そのもので攻撃するつもりは無い”ということもあり、彼らはソレにあまり注意を払っていなかった。

 故に、その火の鳥の胴体からボールを持った白い手が急に飛び出し、最後に残った3つ目のターゲットを叩かれるその瞬間まで、彼らは気付くことが出来なかったのである。

 

『ッ!10秒!開始10秒で1人目の通過者です!えー、驚きすぎて目が覚めてしまいましたが、ドンドンいきましょう』

 

 2人を撃破したことで通過報告のアナウンスが流れると、妹紅は火の鳥を散らしてその中から姿を現した。妹紅が身に着けていたターゲットは3つとも光っており、彼女が合格したことを示している。

 試合開始から僅か10秒による決着。妹紅の圧勝だった。

 

「え…?何が起こったんだ…?」

 

「逃げたんじゃなくて、火の鳥の中に潜んでいたのか…!」

 

「そんな…!?」

 

「つ、強すぎる…!」

 

 妹紅に撃破された2人は元より、残された者たちもガックリと肩を落としていた。大人数なら勝てると思って意気揚々と挑んだにもかかわらず、手も足も出ず早々に越えていかれたのだ。酷く惨めだった。

 妹紅はそんな彼らを申し訳なさそうな視線で一瞬見るも、ここで一方的に同情しては彼らが更に傷つくだけだと思い、背を向けて合格者控え室へと歩くのであった。

 

 

 

「うひゃ~、瞬殺じゃん。真堂たちに『藤原妹紅とだけはやり合うな』って言っておいて良かったよ。流石に勝てないや、あれには」

 

 観客席から妹紅の戦闘を見ていたジョークが冷汗を浮かべながら声を上げた。同じく、バラけて座っていた他校の教員たちも顔を引き攣らせている。藤原妹紅という存在はそれほどの強さだったのだ。

 そんな中、唯一平然とした顔で戦闘を見ていた相澤は、試験場を見据えながら隣のジョークに語ってみせた。

 

「初手に炎の目眩まし。その間に火の鳥の中に潜み、紛れる。すぐさま姿を隠したのは、囲んでいた相手全てが何かしらの初見殺し系の個性と仮定してのことだろう。そして最後は個性が割れた者の中から、特に動きの鈍い相手を狙って奇襲した。一分の隙も見せず通過したな」

 

 他人に影響を与える個性の発動条件は、手で触れる、目で見る、音や声を聞かせる、匂いを嗅がせる等々、多岐にわたる。しかし、それらを分析してみると対象の五感を刺激することで発動するものがほとんどである。

 故に、妹紅は初手に目眩ましを放ち、火の鳥の中に潜んだ。これで視覚と触覚に関する発動条件を遮断した。更に、耳栓を着けて聴覚を遮断、息を止めて嗅覚、味覚を遮断。また、一対多数という状況から、相手の範囲内に入っただけで発動条件を満たす個性や、視認される(妹紅が相手を見る)ことで発動条件を満たす個性などは無いと判断した。

 その後の数秒は、火の鳥の中からコッソリ周囲を観察し、確実に倒せる者を狙ったのである。

 

「『不死鳥』の強みは大火力と蘇生・再生能力だから、この試験内容で戦えば優位に立てる。神野区の悪夢では大技ばかりが目立っていたせいかな。そう思い込んじゃった連中は、むしろ獲物でしかなかったわけだ。しかも、あの症状は低酸素症。炎の精密操作ヤッバいね。体育祭の時と比べ物にならない」

 

「藤原が本格的な炎の制御訓練を学んだのはエンデヴァーの職場体験でのこと。体育祭から成長しているのは当然だ。挑んだ連中はそれが分かっていなかった。そもそも、低酸素症もアイツがその気であれば最初の一呼吸目で全員の意識を刈りとれたはず。結局、単独行動していた藤原と相対したこと自体が奴等の判断ミスだったな」

 

 ジョークの言葉に相澤はつまらなさそうに答えた。『不死鳥』の炎は周囲制圧にも長けた個性であり、一対多という状況は妹紅にとって戦いやすい状況だったのだ。つまり、彼らは妹紅が単独行動していたことにもっと警戒すべきだった。

 それを余裕や油断などという自分たちに都合の良い理由で解釈したものだから負けてしまったと言えよう。即ち、彼らの敗北は必然であった。

 

「あ~あ、可哀想なくらい落ち込んじゃって…。あの子たちはもうダメかな。心が折れちゃってる。監視していたガチ勢とやらに狩られるか、乱戦に巻き込まれて敗退するかのどちらかだろうね」

 

 ジョークが憐れみの視線と共に呟いた。確かに、妹紅に負けた者たちはその後の動きに精彩を欠けていた。低酸素症は既に解消されている筈なので、これは精神的なものであろう。

 そんな彼らを監視していたガチ勢は、満足げに負けた者たちを狩りに行ったり、他の場所へと向かったりしている。肉倉に至っては個性『精肉』で作った肉塊に乗ってまで誰かを探しに行ったようだ。

 

「ふん…。この程度で心折れるくらいなら、プロなんて夢のまた夢だ。諦めた方が幸せだと思うがな」

 

 相澤は心折れた者たちを冷たく見下ろしていた。ヒーローとは理不尽を覆す者であるというのに、逆に屈してどうするのか。彼らが相澤の生徒であれば容赦無く除籍処分にしていただろう。そう思える視線だった。

 

「相変わらずイレイザーは厳しいねー。でも、それだけ今のクラスがお気に入りって訳だ」

 

「別に」

 

「ブハッ!照れんなよ!結婚しよう!」

 

「黙れ」

 

 ジョークの冗談を相澤は一刀両断するが、彼女は気にすることなくヘラヘラと笑っている。しかし、傑物高校の生徒たちがいる方向を見つめると表情を戻して力強く呟いた。

 

「まぁ、確かに藤原妹紅もA組の他の子たちも強いだろうさ。でもね、志はウチの生徒たちだって負けていないよ。真堂、中瓶、真壁、投擲…みんな頑張んな!」

 

 

 

 

「ふぅ、眠い…。いやはや、少年少女たちの青春がほとばしっていますなァ」

 

 ヒーロー公安委員会の目良は、アナウンスマイクをオフにすると小さく溜息を吐いてそう呟いた。

 毎年のことだが、試験を受けに来た生徒たちは夢を掴もうと激闘を繰り広げている。特に今年は1540人を一次試験だけで100人に絞るという通過率6.5%という狭き門。例年以上の戦いが各所で勃発しており、それらを見守る教員たちも気が気でないようだった。

 

(力も魅力も全てにおいて一強だったオールマイトの引退。警視庁や公安は“次の彼”を待つよりも今まで以上に結束を強く意識した“群のヒーロー”で穴を補っていくことに決めました。ですが…、『不死鳥』の藤原妹紅。その戦いぶりを見ていると、彼女ならばもしやと思ってしまいますね)

 

 そんな大勢の生徒たちの中で目良が注目したのは、やはり妹紅である。神野区の悪夢で見せた彼女の実力に嘘偽りはなく、100人以上のライバルに囲まれる中でも僅か10秒で勝負を決してしまった。

 その強さは公安という時には非情に徹しなければならない仕事をしている目良ですらも、彼女の将来に期待を寄せてしまうほどだ。

 そんな未来を思い描いていると、新たな試験合格者の連絡があった。それを見て目良の眠たげな目が見開く。

 

「うぉ!?今度は1人で120人を撃破しての通過…あ、マイクつけてなかった。『うぉ!?今度は1人で120人を撃破しての通過です!一次試験2人目の通過者が出ました。これからドンドン来そうですね。皆さん頑張ってください』」

 

 目良の部下たちが『いや、“うぉ!?”は二回言わなくていいでしょ…。目良さん疲れてんだな…』と心の中で彼を労る。神野区の悪夢とオールマイトの引退もあり、公安の下っ端はともかく幹部クラスの目良は睡眠時間が激減しているのである。

 一次試験は始まったばかり。目良の安眠もまだまだ先になるのであった。

 


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