もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんと仮免試験結果発表

「フッ、炎と風の熱風牢獄か…。良いアイデアだ。並のヴィランであれば諦め、泣いて許しを乞うだろう」

 

 今回の試験にサイドキックたちと共にヴィラン役として抜擢されたNo.10ヒーロー、ギャングオルカは巻き起こる炎の竜巻の中でそう声を上げた。

 ヴィラン役を前にしながらケンカを始めた愚か者の2人、轟と夜嵐。彼らを撃破したギャングオルカだったが、そんな彼らは地に伏したまま協力して炎の竜巻を作り、ギャングオルカを閉じ込めてみせたのだ。

 それで彼らの愚行が消える訳ではないが、過ちに気付いて取り返さんとする足掻きは嫌いではないとギャングオルカは小さく笑みを零す。

 しかし、それはそれとしてヴィラン役を務める彼も簡単に負けるつもりはなかった。

 

「だが、並のヴィランでなかった場合は?放った時には既に次の手を講じておくものだ。…で?次は?」

 

(ねェよ!)

 

 シャチっぽいことが陸上でも出来るというギャングオルカの個性、『シャチ』。彼の持つ必殺技の1つに『超音波アタック』というものがある。超音波を対象に叩きつけることで身体を麻痺させる技なのだが、彼はそれを周囲に放つことで炎の竜巻を見事に消し飛ばしてみせた。

 そうして、ギャングオルカはただでさえ怖い顔を殊更に凄ませて轟と夜嵐を威嚇する。2人の力を合わせても全く歯が立たない彼の強さに、轟たちは倒れ伏したまま悔しさに顔を歪ませた。

 そんな轟たちを救おうと、緑谷が動きをみせる。せめて2人には近づけまいと彼がギャングオルカに蹴りを放とうとしたその時――極大の炎の壁がヴィランたちと救護所までの道を阻んだ。

 

「うわ!?」

 

「この炎は…!」

 

 受験生も、ヴィラン役のヒーローも、HUCの被救護者たちさえも。皆が呆気にとられて巨大な炎を見上げた。轟と夜嵐の炎の竜巻が児戯に思える程の炎。突破するという考えすら浮かばない圧倒的な熱量。

 藤原妹紅の登場であった。

 

「轟、何をしている。お前の大氷壁なら敵の進路を塞げた筈だろう。何故やっていない」

 

「…すまねぇ」

 

 炎翼で空を飛ぶ妹紅が不機嫌そうに見下ろしながら轟に問いかける。しかし、彼はバツの悪そうに謝るだけしか出来なかった。

 そもそも、轟の個性『半冷半燃』は制圧能力だけでなく、遅滞戦闘にも秀でていた。敵に破壊されようとも次々に氷壁を重ね、隙を見て炎で牽制する。残存する氷の塊は障害物となるが、己に不都合な氷だけを溶かすことで相手にだけ不利を押し付ける。それだけで轟は人間要塞と化すのだ。そのため、轟と妹紅が模擬戦などをすると氷炎移動要塞VS極熱爆炎戦闘機といった有様で、戦闘後はフィールドの修復作業にセメントスが泣くほどだった。

 

 だというのに、この戦闘において轟がその力を発揮した様子は見られなかった。火災現場の救助が完了し、妹紅が未だ戦闘の続く襲撃現場へと来てみると氷結の跡はほとんど無く、火力の弱そうな炎の竜巻が上がっているだけ。それに疑問を感じている間に竜巻は消し飛ばされて、まだまだ元気なヴィラン役のヒーローと、ぶっ倒れている轟と夜嵐が現われた。

 妹紅からしてみたら、“轟は一体何をしていたんだ?”という感想が出ても仕方無いという話だったのだ。

 

「まぁいい。後は私がやろう」

 

 しかし、何があったにせよ轟たちが負けてしまったのなら仕方無い。今、ここで行うべきは敵の制圧。それだけだった。

 妹紅は身に纏う炎を高めていく。敵を阻んでいる炎の壁は健在であるため、ヴィラン役のヒーローたちに逃げ場は無い。即ち、彼らの勝ち筋は二択のみ。どうにかして爆炎の壁を突破するか、継戦能力極高の妹紅を撃破するかのどちらかである。

 双方ともに困難な選択肢。しかし、妹紅の包囲戦術はその選択を敵に押し付ける。灼熱地獄の中でそれらを選ばなければならないヴィランの心境や如何なるものか。少なくともヴィラン役のサイドキックたちは、その二択の決断すらも出来ずにいた。

 

「シャ、シャチョー…!」

 

「お前たちは下がっていろ。『不死鳥』、個性相性は最悪。強敵だな」

 

 恐れ(おのの)くサイドキックたちを下がらせて、ギャングオルカは一歩前へと出た。妹紅の炎翼の前ではサイドキックたちが装備しているセメントガンなど当たらないだろうし、当たった所で焼き溶かされてしまうのがオチだろう。ならば、彼らには他の受験生の相手をしてもらった方が妹紅との戦闘に集中出来るというものだった。

 一方で、妹紅もギャングオルカを非常に警戒していた。彼はNo.10ヒーローを勤め上げている紛う事無きランキングヒーローの1人。警戒しない方がおかしいのだ。妹紅は炎翼で空中を小刻みに移動しながら戦闘に備えていた。

 

(トップヒーローのギャングオルカ。飛行能力に優れたレップウを倒しているということは何かしらの遠距離攻撃持ちね。下手に近づけない)

 

(ランダムに動き、距離も保つか。風使いが倒れているのを見て察したな。油断も無く、観察眼も良い。これで俺が勝てる可能性がほぼ消えた…。見事だな)

 

 互いに警戒する2人だが、利があるのは飛行能力と遠距離攻撃に優れた妹紅であった。加えて、ギャングオルカは乾燥にとても弱く、炎は大の天敵。更に、彼らヴィラン役のヒーローたちはハンデとして拘束用プロテクターを装備している。この条件では、いくらトップヒーローのギャングオルカといえども流石に勝てなかった。

 そんな負ける覚悟を決めながらも、彼はそれを表に出さずに妹紅と対峙する。負けることに対する悔しさは無い。むしろ、新しき時代の訪れに喜びが勝る。だが、ギャングオルカはそれすらも凶悪な顔をもって隠してみせた。

 

「来い、藤原妹紅!」

 

「火の鳥、鳳翼――」

 

 ギャングオルカに呼応するかのように妹紅は火の鳥を放つ――放とうとした。その瞬間、試験会場にブザーが鳴り響いた。

 

『えー、只今をもちまして配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。誠に勝手ではございますが、これにて仮免試験全行程は終了となります!』

 

「え!?お、終わった!?」

 

 アナウンスの内容に驚く緑谷の声が、妹紅の耳にも届く。試験としての(ブラフ)という訳では無いようで、ヴィラン役のサイドキックたちも一斉に抵抗を止めていた。

 そして妹紅と対峙していたギャングオルカというと、試験終了後も暫し彼女を見つめるも、フッと一瞬だけ口元を緩めてみせた。真の強者というのは矛を交えずとも対峙しただけで相手の強さを測ることが出来る。彼から見た藤原妹紅の強さは笑みが溢れてしまうくらい見事なものだった。

 

「ふむ、終了アナウンスの後も油断無し、か。ヴィラン戦において残心は重要。良い心構えだ。だが、試験は本当にこれで終了となる。御苦労だったな、受験生の諸君。さらばだ」

 

 ギャングオルカはそう言って踵を返す。そこでようやく妹紅も炎を解除した。ギャングオルカの顔が怖すぎて、試験が終わっても警戒を解けなかったのは内緒である。最後に彼が僅かに笑みを浮かべた時など、妹紅は内心ビクッと身体を強張らせてしまったほどだ。

 しかし、ギャングオルカは神野区の悪夢の際には妹紅・爆豪の救助作戦にも参加していたヒーローだ。妹紅としては一言謝辞を述べるのが礼儀というものだろうが、それすら思いつかなかった。流石はトップヒーローである。対峙した時の(顔の)(プレッシャー)が凄かった。

 

『集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ。他の方々は着替えて、しばし待機でお願いします』

 

 アナウンスの通り、妹紅たちは更衣室へと向かう。そこで他の女子たちとも合流した。話を聞くと彼女たちも個性を活用して活躍出来たようだ。八百万は後方支援、蛙吹は水難救助、麗日は瓦礫除去に加えて高所救助、耳郎は未発見被災者の捜索などである。

 しかし、芦戸と葉隠は『酸』で瓦礫を除去したり、『透明化』の光屈折で暗闇を照らしたりしていたが、どうにも効率が悪かったようで被災者の避難誘導に切り替えて行動したとのことだ。もちろん、地味とはいえ避難誘導も誰かがやらなければならない仕事である。彼女たちも立派に救助活動にあたったといえるだろう。

 

「こういう時間、いっちばんヤダ」

 

「分かる…!」

 

「分かります。でも、人事を尽くしたのなら、きっと大丈夫ですわ」

 

 着替えが終わり、待機時間が続く。採点基準が明かされていなかったこともあり、自分たちの行動がどの様に採点されていたのか不明だ。だからこそ緊張してしまう。

 耳郎が胸を押さえながら緊張の溜息を吐くと、麗日も同じように頷いて深い深呼吸を繰り返していた。そこに八百万も同意しながら2人を慰撫する。

 なお、峰田だけは深呼吸で上下する麗日の胸を人目を憚らずガン見していた。コイツだけは相変わらずである。

 

『皆さん、長いことお疲れ様でした。コレより合否の発表を行いますが、その前に一言。今回の採点方式ですが、我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり、危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています。以上の言葉を踏まえた上でモニターをご覧下さい。合格の方は五十音順で名前が載っています』

 

 ようやく採点が終わり、目良は100人の前で説明をする。この試験中、受験生は1人1人監視されており行動の全てを審査されていた。

 目良は試験結果をモニターに映した。合格者の名前がズラリと並んでおり、受験生たちは必死になってその中から己の名前を探す。当然、その中には藤原妹紅の名も有り、他のA組女子たちの名前も確認出来た。この試験に合格した人数は予想よりも多く、数えてみると100人中89人が合格しているようだった。

 しかし、それでもA組からは不合格者が出てしまっていた。

 

「轟…落ちたの?」

 

「え、爆豪も?」

 

「A組のスリートップの内、2人が落ちてんのかよ!?」

 

 そんなクラスメイトたちの驚く声が聞こえた。A組の不合格者は轟と爆豪。学校では成績トップクラスの彼らが落ちてしまっていたのだ。

 それを聞き、妹紅はピクリと片眉を動かして反応した。

 

「救助活動せずにヴィラン役の人たちを探していただけだったんだから、そりゃあ落ちるよな…」

 

「それと暴言改めよ?言葉って大事よ。お肉先輩もそう言ってたしさ」

 

「黙ってろ、殺すぞ!」

 

 切島が呆れたように言い、上鳴が爆豪を肘で軽く突きながら笑うと、彼は凄まじいオーラを発しながら爆ギレした。

 そう、彼はシナリオを聞いた最初の段階から、この試験にはヴィラン役が現われると察していたのだ。だから、彼は救助活動よりヴィラン役の撃破で点数を稼ごうとした。予想外だったのは、ヴィランと戦闘する前に試験が終わってしまったことだろう。

 結果、爆豪は救助活動らしいことをしていないし、むしろHUCの被救護者に暴言を吐いたことで減点されていた。恐らく、今回の彼の成績はダントツで最下位に違いない。

 

 そんな訳で、爆豪が不合格になったのは順当。轟は原因となった夜嵐とのいざこざを聞けば納得という感じだった。夜嵐自身も不合格になっており、近くにやって来ると全て自分のせいだと言って深く頭を下げて謝罪する。轟も己の非を認めて、2人はぎこちないながらも和解した。

 しかし、彼らの会話に目もくれず歩く者がいた。妹紅である。彼女はツカツカと爆豪に歩み寄り正面に立つと、彼に問いかけた。

 

「爆豪。何故お前が落ちている」

 

「も、妹紅…?」

 

 妹紅が剣呑な雰囲気を纏っている。彼女と最も仲の良い葉隠は、一番にそのことに気付いた。いつもは感情を表に出さない妹紅が、明らかにブチ切れているのだ。

 余りにも普段と様子が違いすぎて、だからこそ葉隠は止めるのが遅れてしまった。

 

「あぁ!?うるせぇ!黙ってろクソが!」

 

「ふざけるな!お前なら分かっていた筈だ。どう見てもあれは神野区の再現だった。あの試験で誰が何人落ちようとも、私とお前だけは絶対に落ちてはならなかった!」

 

 爆豪の返答に妹紅の怒りは限界を超えた。彼の胸ぐらを思いっきり掴んで、声を大きく張り上げたのだ。周囲のクラスメイトたちも、他の学校の生徒たちもここで初めて騒ぎに気付く。そして、誰もがその怒りの理由を理解した。妹紅は誰よりも責任を感じていたのだ。故に、全力でこの仮免試験に挑んでいた。二度とあのようなことを引き起こさない為に。

 だからこそ、同じ立場で居た爆豪が不合格だったことに、妹紅は誰よりも許せなかった。

 

「ッ…!うるせぇつッてんだろ!放せクソ白髪女!テメェぶっ殺すぞ!」

 

「面白い。やってみろ」

 

 胸ぐらを掴んだ妹紅の手を振り払い、激しく恫喝する爆豪。だが、その程度で怯む妹紅ではない。

 あの悪夢の日の夜。爆豪は死柄木弔の勧誘を断り、己の憧れを語ってみせた。妹紅はそれを聞いて彼のことを見直したのだが、今の彼の姿はその憧れとは程遠い。それがまた妹紅の癪に障っていた。

 

「ちょ!?妹紅!待った待った!」

 

「妹紅さん、落ち着いて下さい!」

 

「爆豪も止めろって!おい、皆で2人を止めろ!」

 

 このまま大喧嘩に発展しようかというところで、我に返った友人たちが慌てて間に入った。妹紅は女子たちが、爆豪は男子たちが取り押さえて2人を引き離す。妹紅は彼女たちに従って素直に身を任せたが、爆豪は随分荒れていた。切島が『硬化』していなければ取り押さえていられなかっただろう。

 

「…わりぃ。落ちたら駄目だったのは俺もだ…」

 

「ヤバいぞ、流れ弾で轟が死ぬほど落ち込んでる」

 

「まぁ、轟は色々あったから…」

 

「轟、ごめんっス!」

 

「あ、ヤバ。私も落ちてる」

 

「ケミィ、お前…!?私があれほど…!」

 

 肩を落として酷く落ち込む轟。それを慰めたりする友人たちと、再び頭を下げて謝る夜嵐。そして、何があった訳でもなく普通に不合格になってしまった現見ケミィと、そのことに愕然とする毛原。爆豪は未だに背後で暴れており、状況はカオスだった。

 

『あのー…。元気なのは良いことですが、まだ連絡事項があるので…。ちゃんと聞いて下さいね?』

 

「…すみません」

 

「チッ!」

 

 目良に軽く怒られると、妹紅は項垂れて謝り、爆豪は舌打ちするも大人しく従った。そうやって受験生たちが静かになったところで目良は話を進めた。

 

『えー、はい、じゃあ皆さん結果は確認しましたね。続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されていますので、しっかり目を通して下さい』

 

 公安の職員たちが受験生1人ずつに採点用紙を配っていく。妹紅もそれを受け取ると、内容を読んでいく。点数は悪くない。ギャングオルカとの交戦は遅かったものの、それは轟や夜嵐たちが原因であるため、そこに対しての減点は無かった。

 

「妹紅、何点だった?」

 

「96点だ」

 

「おお~!」

 

 聞いてきた葉隠に対して妹紅は簡潔に答える。その高得点に周囲もざわめいた。合格者の多くは60~70点程度であり、高い者で80点を越えるくらいだ。その中で96点とは相当なものであろう。

 

「スゴ!?そこまで行くと逆に何を減点されたん!?」

 

「火災現場でトリアージブラックの傷病者を見つけて、その処置を…戸惑ってしまった。それで減点4だな」

 

 麗日が驚きながら聞いてくる。それに妹紅が答えると、周りはハッと息を飲んだ。トリアージにはレッド、イエロー、グリーン、そしてブラックの四段階があるのだ。

 

救命順位最下位(トリアージブラック)…。明らかに救命が不可能な者、もしくは既に死亡している者…。僕たちが救出したHUCにはいなかったけど、もしかしたら各所に用意されていたのかも…」

 

 話を聞いていた緑谷が俯くように呟いた。既に死亡した者を救命することは出来ない。また、どんなに優れた救助・医療活動をしようとも救命が不可能な被害者というのも現実的に存在する。緊急時において、そういった人々は軽傷者よりも後回しにされるのだ。

 徹底的に効率化された人命救助。それがトリアージという考え方だった。

 

「私が火災現場で見つけたトリアージブラックは人形だったが、本物の人間と見間違えるほど良く出来ていてな。発見時には、腹部から下が瓦礫に挽き潰されて内臓損傷に血糊の大量出血。心肺停止していたから死亡者として扱うのかと思ったが、ペンライトの光を目に当てたら瞳孔が動いた。どうやら助かる見込みのない瀕死の被害者という設定だったようだ。…10歳くらいの男の子の人形だったよ」

 

「妹紅、それで…」

 

 妹紅は無表情ながらも疲れたような声色で語った。精巧だが人形だと分かっていた。分かっていたが、その片腕にトリアージブラックのタグをかけるだけの動作すらも酷く緩慢になってしまった。これが人形ではなく、本当の人間だとしたら。あの悪夢の被害者だったとしたら。そう思い至ってしまった訳であり、だからこそ救助活動を疎かにする爆豪が許せなかったのだ。

 

「俺、84点。見て、凄くね?地味だけど実は優秀なのよね、俺って!…は?藤原が96点?俺の点数が地味に…!?」

 

「ドンマイ」

 

「てか、藤原スゲー!絶対それが最高点だろ!」

 

 ともあれ、妹紅の減点はその部分だけであり、クラスメイトたちが驚くほどの高得点であることには違いない。瀬呂もかなりの高得点なのだが、妹紅と比べると霞んでしまうようで、その地味さに落胆していた。もはや瀬呂の持ちネタである。

 また、上鳴などは妹紅の点数が最高点だと思っているようだが、それは違う。A組には自分などよりも、もっと優れた人物が居ることを妹紅は知っているのだ。そして、その人物の試験結果内容を見せてもらったところ、その予想は正解だった。

 

「いや、ヤオモモが100点とってる。最高得点者はヤオモモだ」

 

「満点!?ヤオモモすげぇ!?」

 

 八百万は何も無い臨時救護所を病院へと変えてみせた。更に、創った医療道具とその知識を駆使して、運ばれてきた被救護者の治療を次々に行っていたのだ。彼女は実質150点分くらいの働きはしており満点は納得である。周りから驚かれた八百万も、気恥ずかしさで頬を染めているが自慢気に胸を張っていた。

 

 その後は、合格者に説明があった。仮免取得者は緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使出来る立場となる。しかし、それは己の行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じるということでもあると目良は説明した。

 加えて、オールマイトが引退した以上、均衡が崩れて世の中は大きく変化するだろうこと。その為にも仮免は半人前程度に考え、各々更なる精進に励んで欲しいと目良は語るのであった。

 そして最後に、二次試験で不合格になった11人に対しても、チャンスはあると説明する。公安はより質の高いヒーローをなるべく多く欲しいと考えており、2ヶ月間の特別講習を受講して個別テストに合格すれば、今回不合格になった彼らにも仮免許を発行するつもりなのだという。

 当然、不合格となった彼らは受講を願い出た。爆豪や轟はこれから学校の授業と特別講習で非常に忙しくなるだろう。だが、轟はクラスメイトたちに『すぐ、追いつく』と答えて僅かに微笑むのであった。

 

 

 こうして仮免試験は終わり、合格者には仮免許証が発行された。緑谷は泣いて喜んでいるし、尾白は無意識に尻尾をブンブンと振っている。他の者たちも嬉しそうだ。妹紅も携帯のカメラで仮免許証を撮ると、すぐに慧音に送っていた。

 そうしていると、士傑の夜嵐と肉倉がやって来た。別れの挨拶に来たようだ。

 

「おーい、轟!また講習で会おうな!けどな、正直まだ好かん!先に謝っとく!ごめん!」

 

「…こっちも善処する」

 

 それだけ言い残して夜嵐は走って去っていった。謎の気遣いだったが、轟は肯定的に捉えたようだ。この様子であれば、今日のような喧嘩はもう起きないだろう。そう思える一幕だった。

 一方で、肉倉は脇目も触らずに妹紅の前まで来ると、最高に綺麗な敬礼を決めてみせた。

 

「妹紅殿!この不肖肉倉!貴女のお言葉を胸に刻み、より一層精進する所存であります!」

 

「え?あ、はい。えっと…頑張って下さい?」

 

 相変わらずの瞳孔ガン開きである。しかも、妹紅は肉倉とほとんど会話をしていない筈なのに何の言葉を胸に刻んだというのか。もしかしたら、夜嵐から妹紅との会話を聞き出したのかもしれない。そうでなかったとしたら、恐らく彼の幻聴だ。聞こえてはいけないものが聞こえているに違いない。

 とりあえず、妹紅は当たり障りのない返答をした。しかし、肉倉はそれだけで堪らなく嬉しかったらしく、狂気的な笑みを顔一杯に浮かべると深々と頭を下げた。

 

「はっ!ありがとうございます!それでは、もこたんガチ勢四天王筆頭の肉倉、これにて失礼致します!」

 

「いや、そのガチ勢四天王っていうのは一体…。行ってしまった…」

 

「ちゃっかり妹紅に伝えて、そして去っていきおったーッ!?」

 

 彼の言葉で謎の組織が結成されていることを思い出した妹紅が問い質そうとするが、肉倉は足取り軽くご機嫌な様子で行ってしまう。妹紅もクラスメイトたちも呆気に取られて、麗日などは驚愕の声を上げるほどだった。

 

「あの様子だと今ので藤原公認で四天王筆頭になったって言い出すぜ、きっと」

 

「つーか、俺らのこと見もしなかったぞ、あの人…」

 

 上鳴が今後を予想して言った。実際に交戦したからこそ、肉倉の性格をある程度理解していたのだ。とはいえ、自分を撃破した者たちが近くに居るのに憎しみを向けるどころか、一切の興味を示さないのは信じがたい。前向き(ポジティブ)…というよりも、妹紅の方しか向いていないことにドン引きする切島だった。

 

「さぁ、皆!バスに乗ろう!雄英に帰ろうじゃないか!」

 

 飯田の号令でゾロゾロとバスへ乗り込んでいく。A組からは不合格者は出てしまったものの、幸い救済措置が受けられる。それもあって皆の表情は明るく、帰りのバスでも楽しげに会話を弾ませていた。

 しかし、ただ1人。爆豪だけはキレる訳でもイラつく訳でもなく、ただ無表情で窓の外だけを見ていた。心に燻る罪悪感に葛藤しながら、苦しみながら。ただただ流れていく風景を彼は静かに眺めるのであった。

 




 自分のせいで一般人が死にまくったことを気にする妹紅と、オールマイトを引退させてしまったことを気にする爆豪。ですが、もちろん妹紅もオールマイトの引退の原因になってしまったことを気にしているし、爆豪も一般人の犠牲が出てしまったことを気にしているという感じ。どっちに重きをおいているかという違いです。
 まぁ、原作の爆豪はオールマイトの引退のことしか吐き出していませんでしたが、人死の原因になってしまった罪悪感も多少は有るはずです。
 あ、有るよね、かっちゃん…?


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