もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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前回のあらすじ

リフォームの匠セメントス「これは開放感が必要ですねぇ」シューッ…バァン!
マグマニスト妹紅「照明が足りない。どうだ明るくなったろう」マグマ ダバー!
解放戦線の皆様「俺たちの拠点がァァ!?止めろォォ!!(マジギレ)」

大体こんな感じ



もこたんVS超常解放戦線 2

 

「ふ、ふざけるな!ふざけるなーッ!!」

 

「スケプティック様!?」

 

「ここは危険です、お下がりください!」

 

 開放感あふれる館の中でスケプティックが叫んだ。こんな予定はなかった。妹紅は解放戦線の同志になるはずだったのだ。

 妹紅勧誘の計画は元々キュリオスの案だったが、彼女の死後は新しく加入したホークスが主軸となって進めていた。というのも彼は福岡のハイエンド脳無の件で妹紅の信頼を得ていたからだ。

 そんなホークスの話では、『真の信頼を得るためにもハイエンド脳無は犠牲を出さず倒すしかなかった』、『そのおかげでトッププロの立場から彼女に解放思想を刷り込んでいける』、『藤原妹紅の根底には確固たる意志がある。ヴィラン連合の勧誘を拒否したのはその為であり、逆にソコさえ否定しなければ解放思想を受け入れる可能性は高い』、『人質を取るような作戦はマジギレして意固地にさせてしまうから絶対に止めた方が良い』、などなど。

 そう。それらは全てホークスの言葉だったのだ。

 

「ホークスめッ!クソッ!クソォーッ!」

 

 スケプティックとて盲目的に彼を信用していた訳ではない。だが、スケプティックは解放軍で最高幹部に登りつめるほどの信者だ。彼にとっては解放思想こそが世界の常識であり、だからこそ妹紅の境遇と個性の強さならば解放思想に染まってもおかしくないという期待を抱いてしまったのである。

 その油断の結果がこの灼熱地獄だ。スケプティックは罵倒を繰り返しながら館の内部へと逃げるように撤退していく。そんな彼の背を守るべく覚悟を決めた解放戦士たちが立ち上がった。

 

「この先には行かせん!」

 

「館の中に火の鳥が雪崩れ込んでくる!迎え撃つぞ!」

 

「言われるまでもねェ!来いやァァ!!」

 

「うおおおお!」

 

 奇襲を受けたせいで統率は上手く取れていないが、彼らは解放に身を捧げた戦士である。敬愛する幹部を守る為、大事な同志を守る為、何より新しい世を作る為に。彼らが戦わない理由など無かった。

 

「ァっチィ!だが、数羽まとめてブッ潰してやったぜ!」

 

「私が全て撃ち落としてやるわ!」

 

 増強型個性で力自慢の男が巨腕の一振りで火の鳥たちを潰してみせた。遠距離攻撃持ちの個性の女は高所を飛ぶ火の鳥の群れに大量の礫を撃ちこみ多数を撃墜してみせた。他の者たちも個々に対応しようとしている。

 しかし、キリが無い。百の火の鳥を落としたところで、万の火の鳥が侵入しているのだから状況は悪化していく一方だ。最初は威勢よく撃退していた者たちも数分後には表情を歪ませ始めていた。

 

「潰せば潰すほど腕に火傷が…」

 

「ま、まだ来るの…!?もう残弾が…」

 

「神野区での炎を忘れたのか!?こんなものではないはずだぞ!」

 

「本体を狙うしかねェ!藤原妹紅はどこに居やがる!?」

 

「分からんが恐らく上空だ!火の鳥は空から湧いてきている!」

 

「そ、空だと…!」

 

 上を指差す仲間につられて周囲の者たちも空を仰ぎ見る。だが、赤だ。赤い色しか見えなかった。

 もう彼らに最初の威勢はない。物量をもって国を攻める予定だった彼らは、物量で押される恐怖を覚えてしまったのだ。

 

「なんて数…一体どこに…全然見えない…」

 

「くッ、索敵型の異能はどうだ!?」

 

「とっくに探してる!だが、全く見当たらない!」

 

「こ、こっちもだ…!少なくとも近くには居ない。かなり遠くから攻撃されている…!」

 

「誰か飛べる奴!上空を飛んで探してこい!」

 

「馬鹿か!?飛行の異能でこんな炎の中を飛んだら数秒で丸焼きになるぞ!?」

 

 彼らの中にも索敵型の個性持ちは少なくない。しかし、火の鳥に覆われた空は五感を強化する個性であっても見えず聞こえず感じられず。範囲型の個性であっても上空500メートルまで探れる者などそうそう居ない。たとえ索敵に成功したとしても攻撃手段は限られており、妹紅やマジェスティックも遠距離攻撃には常に警戒していた。

 現段階において解放戦線の戦士たちは追い詰められている。それでもなく攻める手を緩めることなく、妹紅は次なる一手を打っていた。無数の火の鳥から落とされる『フェニックスの羽』である。

 

「チクショウ、火の鳥だけじゃねぇ!炎の羽根の一枚一枚がなんて熱さだ…!」

 

「うう…暑過ぎる…。誰か外典様に救援要請を…」

 

「馬鹿者!この状況なればこそ外典様はリ・デストロをお守りせねばならん!別の氷冷系の者を呼べ!」

 

 落ちてくる炎の羽根は彼らを頭上から焼き、地面に落ちた先でも消えずに残って熱を放ち続ける。上から下から熱せられ、まるでオーブンの中に閉じ込められたかのようだ。あまりの暑さに外典の『氷操』に頼ろうとした若者も居たが、年配の信者がそれを叱った。

 そもそも今、外典は戦場に居ない。奇襲の直後からリ・デストロの護衛に走り出しており、現在は地下神殿に向かっているところであったからだ。客観的に見ると、彼の行動は味方の被害拡大に繋がっている。しかし、解放信者にとってリ・デストロの安否は何よりも優先すべきもの。外典の行動は彼らにとって実に正しく、同時に妹紅たちヒーロー側にとっても予想されていた行動であった。

 故に、である。今こそ敵の数を削る絶好のタイミングだった。

 

「ひ、火の鳥が秘密通路の入り口に向かっている!」

 

「なんだと!?」

 

「なんで通路の位置がバレてんだ!?」

 

「守れ!死守しろ!停電で換気扇も動いてない地下だぞ!?侵入を許せば地下神殿に居る同士たちが窒息する!」

 

 地下神殿と地上を繋ぐ通路は屋敷内に5ヶ所、外部に3ヶ所ある。外部の連絡通路は既に他ヒーローたちにより埋め立てられており、残りは屋敷内の通路だけ。

 妹紅はこの5か所に向けて集中的に火の鳥たちを送り込んでいた。

 

「ぐあアア!!」

 

「きゃああ!」

 

「身体を張ってでも止めろ!地下のリ・デストロをお守り…うぐぁッ!?」

 

「いかん!これでは格好の的だ!」

 

「だが、ここを守らねば地下の同志たちが窒息して全滅する!」

 

 彼らは通路の入り口を守らなければならない。それこそ身を挺してでも、だ。つまり、妹紅からすれば狙わずとも敵が自ら倒されに来てくれるボーナスステージみたいなものだった。

 とはいえ、地下通路に大量の火の鳥を送り込むと本当に窒息死してヴィランたちを皆殺しにしてしまうかもしれない。その為これは火の鳥を送り込もうとするだけのフリだったのだが、必死で守らなければならない彼らはそれに気づけなかった。

 

「守れ!守ひゅっ、何だ!?ひゅっ、ひゅっ、い、息が?」

 

「うぇッ…急に眩暈と吐き気が?う…オエェ!?」

 

「嘔吐だと…!?まさか酸素濃度を…!炎が空気を焼いている!酸素の確保を第一に…ぐあっ!?」

 

「あ、足攣った!ちょ、足攣って動けな…ひ、火の鳥がこっちに向かって…ぎゃぁッ!」

 

「あちぃ…マジでヤベェ…水…誰か水持ってねぇか…?蛇口から水が出ねぇんだけど……」

 

 低酸素による運動能力の低下。高温状況下による熱中症と脱水症状。

 戦う覚悟をもってしても、解放を望む思想をもってしても。その程度の精神性では人体の生体機能には逆らえない。更に、そんな状態の彼らに向かって突っ込んでくる火の鳥による直接攻撃。彼らは完全に混乱の渦に陥っていた。

 

「こ、こんなの、どうすればいいんだ、こんなの!?」

 

「隊長たちは何処に!?どうか我らに御指示を!」

 

 解放戦士たちの嘆きが戦場に満ちていく。いや、最早ここは戦場ではなく狩場だ。ただし、狩人が鳥であり、獲物が人間というヒッチコックさながらの世界観ではあるが。

 そんな地獄のような光景を遠巻きに囲んで見つめるヒーローたちは驚嘆し、もしくは口をアングリと開けながら『不死鳥』の圧倒的な力を改めて実感していた。

 

「いや、いやいやいやいや…。もこたん、えっぐぅ。流石は神野区の余波だけでアメリカの気象を変えた子だわぁ」

 

「ファー、すんごいな!大炎上やん!」

 

「アッハッハッハ!あれでまだまだ余力を残してるってんだから、もう笑うしかないね!」

 

「だが、油断するな。今は圧倒しているように見えるが未だに脅威は数多くある。だからこそ彼女だけでなくこれだけの人数が集まっているのだ。それに捕縛も我々の仕事だ」

 

 マウントレディやファットガム、傑物教師のMs.ジョークらがそんな言葉を交わしていると、冷静に戦況を監視しているエッジショットが口を挟んだ。

 戦況は常に変化している。ここからは包囲中のヒーローたちの手も必要となるターンだ。エッジショットの見つめる先にはコチラに向かってくる複数の大きな火の鳥たち。そのカギ爪には防火・防熱素材の布が巻かれており、倒れた解放戦士たちを引っ掴んで飛んでいた。

 

「拘束具よし、治療道具よし、経口補水液よし。いつでも対応できます」

 

「よし。健在のまま倒れたフリをして火の鳥に運ばれてくるヴィランも居るかもしれん。意識や戦意の有無の確認を怠るなよ」

 

 輸送の目的は敵戦力の復帰阻止と救護のためだ。意識不明者を高温範囲に置き続けると熱中症で最悪死ぬ。また、失神時の嘔吐は吐瀉物が喉に詰まり窒息死する可能性もある。その応急処置もヒーローの仕事であった。

 

 

 

 

「…マジェスティック、そちらはどうですか?」

 

「駄目だ、見当たらない。地上で包囲している索敵型ヒーローからの報告もない」

 

 作戦開始より10分程度が経過。

 戦況は妹紅の攻撃によりヒーロー側が有利に見える。実際、解放戦線は既に3割程度の戦闘員が撃破されており、残りの者たちも低酸素と熱で体力を大きく減らされていた。

 戦況は間違いなくヒーロー側に傾いている。しかし、上空の妹紅とマジェスティックは非常に焦った表情でずっと何者かの姿を探していた。

 

「ホークス、一体どこに…」

 

 元々、潜入捜査中のホークスは最大の脅威となったトゥワイスを無力化して確保した後、そのタイミングでヒーローたちと合流する予定だったのだ。たとえ合流できなかったとしても何かしらの合図を出すという手筈であった。それが合図すら送られてきていない。状況的に考えるとホークスの身に何かがあったことは明白だった。

 

「彼が指定していた時刻を大幅に過ぎた。ホークスによるトゥワイスの確保は…失敗したと見るべきだろう」

 

「く…ッ!」

 

「だが、それなら既にトゥワイスの『哀れな行進(サッドマンズパレード)』が発動されていておかしくないはずだ。それがないということは相打ちか何かかもしれないが…ここは最悪を想定した作戦に切り替える。トゥワイスの『哀れな行進』を視認次第、速攻で周囲を高火力の炎で取り囲む。増える分身体を焼き払いつつ、内部のトゥワイス本体は酸欠で倒す。これしかない。瞬時に動けるよう限界まで高度を下げるよ」

 

 トゥワイスの個性は凄まじい。現在の戦況を一気にひっくり返す可能性すら普通に有している。だからこその今回の作戦であり最優先目標だったのだが、それが崩れてしまった。

 しかし、そんな最悪の事態も彼らは想定している。他の誰でもない、ホークスのおかげで備える時間が作れたのである。

 

「分かりました。事前の打ち合わせ通り、その際は6%以下の酸素濃度で実行します。一呼吸で昏倒しますが、呼吸停止や痙攣なども引き起こし、そのままでは本体のトゥワイスも6分以内に死亡しますので…マジェスティック、救助の準備をお願いします」

 

「…ああ、もちろん。任せてくれ。トゥワイスは俺が…」

 

 そう返答するマジェスティックの声は僅かに震えていた。

 この時、彼にはある報告が入っていた。それは蛇腔病院で『泥ワープ』使いの脳無の破壊が未だに確認されていないという報告である*1。これは作戦を根幹から揺るがす大事だった。幹部ヴィランたちを捕縛ではなく殺害しなければならなくなる。人命を守るべきヒーローに殺人行為が求められてしまうのだ。

 故に、マジェスティックはその報告が妹紅にいかないよう事前に本部に頼んでいた。万が一の際には己が手を汚す。妹紅のサポートが決まった時から彼はその覚悟を決めていた。だから声を震わせてしまう程度で済んだのだ。

 

「マジェスティック…?」

 

「あ、いや、俺の個性は救助に向いているからね……あれを!」

 

 ヘラヘラした笑いを浮かべて取り繕っていたマジェスティックだったが、その時に視界の端に蒼い炎が見えた。その瞬間、彼は指をさして大きく叫ぶ。火の鳥の群れの隙間から見えた小さな蒼炎。妹紅にも見えた。屋敷の未だ崩れていない部屋の窓から蒼炎が噴き出している。

 荼毘だ。奴が誰かと戦っている。火の鳥はまだそこに送り込んではいない。ヒーローたちもまだ突入していない。ならば荼毘の相手は誰か。

 考えるまでもなく妹紅は『マホウ』のリングから飛び降りていた。

 

「先行します!」

 

「すぐに追いつく!」

 

 妹紅はジェットエンジンのように炎を噴きながら頭から真下に急降下。続いてマジェスティックもリングの最高速で降りていくのであった。

 

 

 

 

「殺しやがったな…。よくも!トゥワイスを殺したな!」

 

「それが…!仲間を殺された奴の表情(かお)か…!?」

 

 その部屋には3人の人間がいた。

 まずは荼毘。蒼炎を全身から放ち身を焦がしながらも、その顔には壮絶な笑みが浮かんでいる。まさに狂気の表情であった。

 次にホークス。公安のスパイとして役目を果たすため、最大脅威の確保が彼の使命であった。しかし対象に強く抵抗され、更には荼毘の妨害もあったため彼は極限の中で決断を下す。その代償に荼毘に全身を酷く焼かれ、背中の『剛翼』など根元から無くなるほどに焼き尽くされていた。

 最後にトゥワイス。ホークスの説得を拒否して抵抗を続け、その果てに背中をホークスに貫かれ――死亡した。遺体の傍には白いハンカチ。大切な人から貰った大切な物だからこそ己の血で汚さぬようトゥワイスは最期に手放した。ハンカチの礼を言いたかった。仲間たちに謝りたかった。それが彼の最後の願いだった。

 

 

「なんって言い草だ!涙腺が焼けて泣けねぇんだよ俺ァよ!トゥワイスがいりゃあ俺の夢はより確実に叶ったんだ!悲しいに決まっている!すげぇ悲しいよ!」

 

「ぐっ…!連合の…素性を調べたっ!お前と…死柄木だけだ!何も出なかった人間は…!誰だ…!誰だ、お前は!」

 

 トゥワイスを殺したホークスを荼毘は蹴り、踏みつけ、そして焼く。何度も何度も執拗に彼を痛めつけた。もはやホークスの命は風前の灯である。そんな中、渾身の力を振り絞ってホークスは問う。

 警察の捜査はもちろんのこと、スパイ活動中の時ですら荼毘の正体は分からなかった。ヴィラン連合の仲間たちさえ彼の本名を知らなかったのである。

 恐らく無視されるであろうその質問。しかし、荼毘は気まぐれか、それとも冥途の土産のつもりか。彼は答えてみせた。

 

「轟 燈矢」

 

 有り得ないとホークスの目が見開く。『轟 燈矢』。その名前はエンデヴァーの長男の名前だ。過去に調べたニュースによれば、10年ほど前の山火事で死んでいるはずである。有り得るはずがなかった。

 だが、仮に本当だとしたら世間は揺れる。ただでさえエンデヴァーはオールマイトの後釜ということで比較されているのだ。公表のタイミング次第ではヒーローへの信頼が崩れかねない。特に昨今の情勢はその危うさを大きく秘めていた。

 

「トゥワイスよりも誰よりも、お前は俺をマークしなきゃいけなかったんだ。連合も死柄木も最初からどうでもいい。一人の人間のたった一つの執念で世界は変えられる。ステインの意志は俺が継ぐ」

 

 荼毘はそう語る。今はまだ手緩い。もっともっと犠牲者を出さなければ世界は変えられない。エンデヴァーの存在が罪なき人々を殺すのだ。そしてこれからも殺し続ける。その果てに荼毘が望む結末が待っている。待ってくれているハズなのだ。

 ホークスもその犠牲の一つとするべく荼毘がその手にかけようとした瞬間であった。蒼炎で破壊された窓枠から赤い炎を纏った妹紅が飛び込んできた。

 

「ホークス!」

 

「くッ!なんでこんな最悪のタイミングで…いや、さっきの蒼炎のせいか。しくったぜ」

 

 妹紅は部屋に飛び込んだ勢いのまま炎爪を振るった。撃破するための攻撃ではない。ホークスから荼毘を引き離すための威嚇攻撃だ。彼を人質にされてしまうと厄介なことになる。

 だが、それを理解している荼毘はホークスを手放さない。後ろに飛び退くような動きはせず、倒れているホークスを盾にするよう低く身を伏せることで妹紅の炎爪を躱していた。

 

「も…こ…」

 

「ホークス及び荼毘とトゥワイスを発見。ホークス重傷、荼毘健在、トゥワイス撃破済み…いや、この血の量と傷口は…」

 

 荼毘と対峙する妹紅。彼から視線を外さず、かつ視界の中で妹紅は周囲の情報を探る。ホークスは生きており、小さな呻き声も聞こえた。だが、全身大火傷で非常に危険な状態である。

 そして、うつ伏せで血だまりに倒れてピクリとも動かないトゥワイス。背中には大きな傷口が見えているのに、もう血は流れていない。それはつまり心臓が止まってしまっていることを意味していた。

 リアルタイムの状況を本部へ伝えていた妹紅も思わず口ごもる。誰が殺したのか。妹紅は察してしまったのである。それを見てニヤリと笑う荼毘はトゥワイスに向けて顎をしゃくってみせた。

 

「ああ、そうだ。よく見ろよ藤原妹紅。ホークスが殺した。仲間を守ろうと走るトゥワイスの背中を――チィ!話を聞く気なしかよ!」

 

 しかし、それはそれとして。荼毘がトゥワイスに視線を向けたので、その瞬間妹紅は炎爪を振りかぶって突っ込んだ。戦闘中に敵が隙を見せたのだから当然そこを狙うに決まっている。

 しかし、寸前のところで荼毘は回避した。そのまま慌ててホークスを引きずり起こして盾にする。妹紅はそれ以上の攻撃できなくなり、2人は再び対峙した。

 

「はッ、そうだな。今のは俺が悪かった。覚悟ガンギマリの奴にこの程度の揺さぶりなんて通用する訳ねぇもんな。だが、俺もこのまま捕まる訳にはいかねぇ。この死にかけのホークスを人質にして…なに!?」

 

 もう荼毘は妹紅への警戒を解かないだろう。だが、それこそが妹紅の狙いだった。

 突然、ホークスを掴んでいた荼毘の手がリング状の力場によって強く弾かれた。同時にホークスの身体が浮いて高速移動を始める。その移動先、荼毘の死角となっていた場所には個性を操るマジェスティックの姿があったが荼毘は振り返れない。振り返れば最後、次は間違いなく妹紅にやられるだろうという確信が彼にはあった。

 

「悪いね、救助は得意なもんで。…トゥワイスも蘇生治療を試みるよ、ダメ元だとしてもね」

 

 マジェスティックはホークスだけでなくトゥワイスも回収していた。建前上、彼はそう言ったがトゥワイスの蘇生は無理だ。トリアージであればブラック。完全に死亡している。おそらく形だけの治療が行われた後、医者による死亡の診断を下されるだろう。『治療の手を尽くすも健闘むなしく…』というヤツだ。

 公安はそういうことを平気でする。少なくとも表向きの報道はそうなるだろうと彼は理解していた。

 

「あぁクソ、ホッとしてしまった自分が本当に嫌になる。すまない、ホークス」

 

「マ…ジェ…」

 

 だが、トゥワイスが死んでいたことに安堵してしまった己に嫌悪感を抱いてしまう。マジェスティックは清濁併せ吞む覚悟でいたが、それをホークスにやらせてしまった。ヒーローランキングではホークスが上だが、年齢では自身より14コも下だ*2。そんな彼に汚れ仕事をさせてしまい後悔の念に駆られてしまった。

 しかし、そこはベテランのプロ。どんな精神状態でも仕事はキッチリこなす。マジェスティックは2人を回収すると速攻で後衛の救護班の下へと飛んだ。妹紅の戦闘の邪魔になるし、ホークスの容体が緊急を要するからである。

 それと同時に、妹紅が攻めに転じた。

 

「行け、火の鳥」

 

「く…!」

 

 荼毘は蒼炎で対抗しようとするが、完全炎熱耐性の妹紅には効果がない。逃走経路も既に火の鳥の包囲で断たれている。その上、妹紅の攻撃は容赦がなかった。

 更に、その炎によって部屋の酸素濃度が急激に低下。荼毘は呼吸を限界まで浅くすることでギリギリ失神を免れていたが、妹紅は超小型の酸素ボンベを咥内に仕込んでおり常時酸素を吸入していた。

 どう足掻いても1対1の戦いで荼毘に勝ち目はない。詰みであった。

 

「…無理か。ここまでだな…」

 

 荼毘は防御も逃走も諦めてコートのポケットに手を突っ込む。そこには己の正体と父エンデヴァーの所業を告白する動画データが入ったデバイスがあった。しかも、スケプティック特製のテレビ電波ハッキングシステムのおまけ付きである。

 荼毘はヒーロー側の奇襲が始まった時点でこのシステムを立ち上げており、タップ一つで何時でも起爆できるようにしていたのだった。

 

「せめて家族と世間の反応を見てから逝きたかったが…、まぁ仕方ねぇ」

 

 荼毘はポケットの中のそれを押した。直後にテレビへの電波ハッキングが始まり、加えてインターネット上にも動画が拡散されていく。これでもう止まらない。ここでそのデバイスを破壊しようが何をしようがもう手遅れだ。動画は世界中にアップロードされた。

 だが、その荼毘の不審な行動。つまり隙だらけの動きを妹紅は見逃さず火の鳥で攻撃。顔面への直撃を受けた荼毘はその場に倒れ伏した。

 

「ぐァッ!く…くく…!藤原妹紅、お前は俺を殺す権利がある…。だから最後に…見せてやるよ…俺の死出の炎を…」

 

(まだ意識を保っている。やはりコイツ微妙に炎熱耐性があるな…。仕方ない、下手に火力を上げて焼くと殺しちゃうかもしれないから、火の鳥のカギ爪で首を絞めてオトすか)

 

「赫灼ねっ…がッ…ァ…!?」

 

 妹紅は大きめの火の鳥を作り、そのカギ爪で倒れている荼毘の首を締め上げる。彼は最後に何かをしようとしていたようだが妹紅の知ったことではない。首の頸動脈を締めて脳への血流を止めると、どんな屈強な男であっても10秒足らずで失神するのだ。

 

 1秒…2秒…。荼毘は火の鳥から逃れようと必死に暴れていた。だが、その程度の力ではカギ爪は外れない。

 3秒…4秒…。荼毘の目がひっくり返り白目を剥いた。だが、身体はのた打ち回っている。まだ完全な失神には至っていない。

 5秒…この時であった。階下から突如として巨大な氷塊が飛び出し、妹紅たちが戦っていた部屋の半分を吹っ飛ばしたのである。

 しかも、その氷塊は荼毘を締め上げていた火の鳥に直撃し、消し飛ばしてしまった。それによって荼毘が拘束から解放されてしまったのである。

 

「氷…!敵幹部の外典か…!」

 

「ゴホッ、ゲホッ!はぁー、はぁー、ゲホッ!アイツが俺を助け……るハズねぇし偶然だな…ゴホッ!」

 

 タイミングからして外典が荼毘を助けに来たのだと妹紅は周囲を警戒するが、そうではない。外典は群訝山荘のエリア全域に氷塊をブッ放していたのだ。その証拠にあらゆる場所から巨大な氷塊が生えていた。

 幸い、包囲中のヒーローたちに被害はなかったものの、低空飛行をしていた火の鳥の群れが幾らか消し飛ばされてしまっている。ついでに彼の仲間である解放戦士たちも少々巻き込んでしまっている。同志であったとしても外典は弱者に厳しいのだ。

 加えて、屋敷も同様に氷塊で半壊してしまっており、妹紅たちが居る部屋も床の大部分が崩落していた。

 

「なんだよ…、俺にもまだツキはあるじゃねぇか。あばよ藤原妹紅…」

 

「荼毘!クソ、だが今は…!」

 

 荼毘は崩落した床を見るや否や、その穴に身を投げた。妹紅は慌てて穴を覗くが塵埃で底は見えない。落下して致命傷を負った可能性もあるが、『蒼炎』の個性なら炎を噴射して落下の勢いを弱めることも出来るだろう。荼毘は健在だと考えるべきだが、それ以上に外典を野放しには出来なかった。

 

「ああ、氷の冷気が気持ちいい…」

 

「溶けた氷で水分補給ができるぞ!」

 

「こ、呼吸が少し楽に…?そうか、氷塊が突き出してきた勢いで空気が攪拌されて酸素濃度が少しマシになったのか…!」

 

「流石は外典様だ!」

 

 半壊した館から飛び出し、妹紅は上空から戦況を確認する。外典の『氷操』の一撃で解放戦士たちは息を吹き返し始めていた。これが外典の討伐を急がなければいけない理由だ。彼を野放しにすると面倒くさいことになる*3

 だからこそ妹紅は実に冷静な視線で戦場を俯瞰した。当然、再びの『火の鳥-鳳翼天翔-』と『フェニックスの羽』を新たに展開しながらである。

 

「かの『不死鳥』も所詮は国の犬か…!これ以上リ・デストロの邪魔はさせん!死なぬというのならば殺し続けてやるまで!」

 

「彼女には聖女としての役割があったのですが…、まことに残念ですね」

 

「外典様!トランペット様!よくぞ御無事で!」

 

「うおおおお!外典様!トランペット様!」

 

 発見した。5ヶ所ある地下出入り口の1つ、その付近で敵の戦意が大きく高揚している。上空から観察しているとその様子はすぐに見つけることができた。おまけに幹部のトランペットまでも発見。

 すぐさま妹紅は彼らに向けて手動操作の火の鳥たちをけしかけた。

 

「あ、あれは!?」

 

「また火の鳥…!それもとんでもない数の大群だ!」

 

「お、お気をつけください、こちらに迫ってきております!」

 

「どけ貴様ら、邪魔だ。そんなもの僕が――いえ、失礼しました」

 

 火の鳥を発見した解放戦士たちが酷く怯えた声を上げた。無理もない、2万人近い大軍が僅かな時間で全滅しかけたのだ。もはやトラウマとして刻まれたといっても過言ではなかった。

 そんな情けない弱者たちに侮蔑の視線を向けつつ、外典は氷を纏う。そうして怒気を露わにしながら迎撃の構えを取っていたが、背後からの気配を察すると彼は恭しく一歩下がった。

 

「解放60%、『負荷塊(フカカイ)』!」

 

 幹部2人の後ろから現れた男は、腕を大きく振るって黒い衝撃波を放った。元解放軍の最高指導者、リ・デストロの攻撃である。彼の個性は『ストレス』。溜めたストレスをパワーに変えるという単純な個性であるが、彼はこれを徹底的に鍛えぬいていた。

 その結果がこれだ。たかが6割の力で彼は向かって来ていた火の鳥の大群を消し飛ばしてみせたのだ。

 

「フン…、この程度では気など晴れんな。ああ、実に不愉快な気分だ…!」

 

「リ・デストロ!」

 

「おおおお!最高指導者が来てくださったぞ!」

 

「なに!?そちらに居られるのか!?」

 

 リ・デストロはストレスを具現化した黒いエネルギーを身に纏いながら闊歩する。そんな彼の力強い登場に戦士たちは沸きあがった。更に、その歓声を聞きつけた周囲の者たちも大いに士気を上げる。

 しかし、その様子は上空の妹紅からも丸見えで、丸聞こえであった。

 

「報告します。リ・デストロらが地下の出入り口から現れました。場所は…はい、そこです。荼毘には逃げられ、トゥワイス以外の連合メンバーもまだ発見できていませんが、元解放軍の連中に対しては作戦通りの手筈で…はい、よろしくお願いしますエッジショット」

 

 制空権を完全に掌握しているのだ。攻撃だけではない、情報を収集してリアルタイムで地上部隊と共有することも可能だった。それもこれもホークスが事前に調査してくれたおかげである。彼の為にも妹紅は、ヒーローたちは負けるわけにはいかなかった。

 そんな彼女の眼下で新たな動きが起こる。無論、これもホークスが事前に予想していた通りの流れであった。

 

「リ・デストロ!最高指導者様!」

 

「すぐに参りますぞ!」

 

「我らも今そちらへ!御身のお傍へ!」

 

 炎の熱から身を隠していた戦士たちが立ち上がり、教祖の下へと駆け出した。次第に戦力が集中していく。追い込まれたが故の心理作用と言っていい。しかし同時に、その集団は妹紅にとって格好の的になることも意味していた。

 

「また来た…!また火の鳥が、しかも更に数を増やしてこちらへ……途切れることなく…!」

 

「これは…なるほど。許容上限(キャパ切れ)の気配は一切感じませんね。外典やリ・デストロが火の鳥攻撃に対応し続けたところで、このままではジリ貧でしょう」

 

「おのれ藤原妹紅め…!」

 

「解放70%、『負荷塊(フカカイ)』!うむ、ある程度は吹き飛ばした!解放戦士たちよ、闇雲に火の鳥と張り合ってはならん!今のうちに一点集中して敵陣に突入するのだ!ヒーロー共と乱戦になれば火の鳥の脅威はない!各々、隊長の指示に従い……え、隊長たちは?」

 

 リ・デストロが戦士たちに指示を出す…が、戦場に隊長の面々は不在だった。隊長格はつい先ほど地下から出て来た自分たちしか見当たらない。

 ポカンとした表情で尋ねるリ・デストロに、一般戦士の1人が酷く憔悴しきった表情で答えた。

 

「お、居りません…。当初はスケプティック様が指示を出してくださっていたのですが、火の鳥に襲撃された以降は見ておらず…。他の隊長の方々は一度も見かけておりません…!」

 

「なぜ連合の奴らが誰も居ない!?まさか姿をくらましたのかヴィラン連合のチンピラ共め!リ・デストロ!あんな奴らを隊長に任じたのがそもそもの間違いだったのです!」

 

 外典は激怒しながら訴えかけた。

 超常解放戦線ではリ・デストロが全軍の総司令官。トランペットがその補佐であるため両者とも直属部隊は持っていない。また、外典は遊撃連隊(ヴァイオレット)の隊長なので人の事はとやかく言えないが、彼はリ・デストロの護衛も兼ねていた。

 そのため、基本的には抗争の勝者であるヴィラン連合の面々が実質的な隊長の任に就いていたのだが、その彼らは誰一人として戦場に出てきていない。それが外典の怒りを買っていた。

 

「落ち着きたまえ外典。キミがストレスを抱えても仕方ないだろう。ふむ、速攻で藤原妹紅に倒されたか、それとも本当に雲隠れしたのか…。いずれにしても、もう彼らをアテには出来ぬな。各々、新体制の枠組みは忘れて旧体制の指示系統で動くように。トランペットは全軍の指揮を取りヒーロー共を貫け。同志たちを頼んだぞ」

 

「お任せください。この命に代えましても」

 

 リ・デストロからの使命を恭しく拝命するトランペット。彼は政党の一つである心求党を率いており、人を束ねる才能がある。個性も『煽動』という味方を強化することに向いたものだ。

 サポートアイテムであるスピーカー付きの専用マスク『セブンスクラウド』を被り、トランペットは陣頭に立った。

 

「行きますよ、皆さん」

 

「はッ!ですが、リ・デストロと外典様は…!?くぅ、また火の鳥だ!」

 

 一般戦士たちもトランペットに率いられることに否やはない。しかし、何故リ・デストロ本人が戦士たちを率いないのか。そんな疑問を口にしていたところで、またもや火の鳥が襲ってきた。

 これにブチ切れたのが元から怒り心頭だった外典である。

 

「奴め!リ・デストロを狙って何度も何度も…!決して許さん!」

 

 外典は目を血走らせてそう叫ぶと、操っている氷を足場にして空を飛んだ。最初に作り出した周囲の氷も合流していき、彼が乗る氷は巨大な竜の形となる。質量にして数千トンを超える氷のバケモノだ。外典はこれで妹紅を圧殺するつもりであった。

 

「うむ、飛行可能な外典には藤原妹紅の相手をしてもらう。殺せぬというのならば潰して冷凍保存してしまえばよい話だ。その間に戦士たちは包囲を食い破れ。そして、この私だが……火の鳥に対処する私の背中でも狙うつもりだったのかね?そこに隠れている者、出てきたまえ」

 

「…解放戦線のリ・デストロだな」

 

 外典を見送ったリ・デストロは振り返り、崩れた館の瓦礫に向かって声をかける。無人である筈の瓦礫内からスルリと現れたのはヒーローのエッジショットだ。先ほどの妹紅の連絡を受けて単身で敵地へ潜入。解放の象徴であり、士気の源でもあるリ・デストロを仕留めるつもりでいた。

 

「エッジ…!?援護いたします、リ・デストロ!」

 

「無用だ。全員トランペットと共に行け。このイラ立ち…どうにも加減できそうにないのでな。No.4ヒーロー、エッジショット。私のストレスの捌け口になってくれるかね?」

 

「これより任務を遂行する」

 

 リ・デストロの肉体はミチミチと肥大化していき、黒いエネルギーが皮膚を覆っていく。彼が全力を出すのだ。味方など近くに居ようものなら巻き込んで消し飛ばしてしまうだろう。

 一方で、エッジショットは手で印を組んで忍者ポーズを決めた。特に意味はないが、とても格好良い。

 

 派手な炎熱包囲戦も所詮は前哨戦に過ぎない。妹紅も、エッジショットも。そして群訝のヒーローたちも、蛇腔のヒーローたちも。

 いずれの戦場も、真の激闘はここからである。

 

*1
実はミルコの大暴れによって既に破壊されているのだが、彼女本人すら破壊したことに気づいていないのである。

*2
マジェスティック36歳、ホークス22歳

*3
なお、外典としてはイラ立ちに任せて氷塊ブッパしただけである




 なお同時刻。原作通り公安本部はリ・デストロ(複製体)によって壊滅し、中枢メンバーは死亡or重症で機能停止した模様。

 中枢メンバー集めた状態で戦闘すなーっ!
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