もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんVS超常解放戦線 4

「急げ、ギガントマキア。いつ藤原妹紅が来てもおかしくねぇ。全速力で駆け抜けろ」

 

「主の元へ!HAHAHAHA!」

 

 複数個性の怪物、ギガントマキアが20メートルを超える巨体で走り出していた。目的地は死柄木のいる蛇腔市だ。その背には荼毘やスピナー、コンプレス、スケプティックたちが搭乗しており、巨人の歩みは彼らの運搬も兼ねていた。

 

「待て、そっちじゃない!荼毘、一度戻るように言え!リ・デストロが捕らわれてしまった!早くお助けせねば!」

 

「俺が何言ったところで死柄木への最短距離以外は走らねぇよ、コイツは」

 

 ギガントマキアは目的地へ向かって一直線。飛んでくる自動操作の火の鳥を羽虫の様に弾き飛ばしながら走っていた。しかし、リ・デストロの敗北を知ったスケプティックは彼の背の上で大きく狼狽していた。

 そもそもスケプティックは己の意志でマキアに乗った訳ではなく、後方で隠れて情報収集していたところを荼毘に拉致されるような形で乗せられたのだ。彼は集めた情報を活用してリ・デストロを助けに行くつもりだったのだが、ヴィラン連合の面々はそんなことよりも死柄木との合流を優先としていた。

 

「見ろ、トランペットが居たぞ。残った連中を率いて包囲を突破しようとしているみたいだ」

 

「丁度いいじゃん。少しでも藤原妹紅の妨害をしておかないとね。スケプティック、ちょっとこっち来てよ」

 

「は?何をするつもりだ?」

 

 ギガントマキアの背の端に立ったコンプレスがチョイチョイと手でスケプティックを呼び寄せた。幸いギガントマキアはまだ走り出したばかりでそこまでスピードは出ていない。スケプティックを隣に置いたコンプレスは眼下の解放戦士たちに向けて大声を発した。

 

「ゴホン…同士諸君!これより我々はリ・デストロと共に蛇腔市に向かう!しかし、今!藤原妹紅が我らを追ってきている!飛行可能な者はリ・デストロの為に藤原妹紅を迎え撃つのだ!解放せよ!リ・デストロの為に!…これでよし、ちゃんと聞こえたかな?お、大丈夫そうだ」

 

 最後に指を額にあてる解放のポーズを決めて完了だ。ギガントマキアの足音がうるさかったが、コンプレスの声は彼らに届いたようだ。スケプティックが隣に立っていたことで信用もしたのだろう。早速トランペットは空を指差し、周囲の解放戦士たちに指示を出し始めていた。

 

「な、な、なにを言っている貴様ーッ!?待てトランペット、今のは違う!リ・デストロはここではなく後方で…ッ!」

 

「もう通り過ぎたぞ」

 

「んなぁ!?」

 

 コンプレスのタイミングでもギリギリだったのだ。慌てて訂正するスケプティックの声など届くはずもなく、トランペットたちの姿はとっくに小さくなっている。ショックを受けたスケプティックは白目を剥いてひっくり返ってしまった。

 

「ま、それでも相手は藤原妹紅だ。速く飛べそうなヤツも居なかったし、精々1分くらい足止めできれば上等ってところかな」

 

「それだとすぐに追いつかれるんじゃないか?」

 

「街にさえ下りてしまえば強力な炎は使えなくなるだろうし、それまでの時間を稼いでもらうだけさ。マキアの最高速度は時速100キロを超えるし、そう簡単には追いつけないはず……簡単には追いつけないよな?」

 

「知らねぇよ…」

 

 コンプレスとスピナーは不安気にそう語り合う。彼らにとって妹紅は死神のような存在だ。現役時代のオールマイトくらい怖い。

 彼らも最悪の場合はドクターに『転送』してもらえる手筈になっていたが、わざわざギガントマキアが動いたということは向こうもかなり切迫しているのだろう。だからこそ、どんな手を使ってでも死柄木の元へ向かわなければならなかった。

 

「なんて…なんてことを…リ・デストロ、申し訳ございません…」

 

「呆けてねぇでテメェはホークスがトゥワイス殺したシーンの動画をさっさと編集してネット上にアップしろ。そのために連れて来たんだから早くしろ。焼き殺すぞ」

 

「揃いも揃って貴様らという連中はーッ!」

 

 荼毘の心無い追撃にブチギレ絶叫するスケプティックだったが、それでも非常に有能な男である。キレて文句を叫びながらも手はパソコンを叩いて丁寧な編集を始めていた。

 

「おい、そんなことより前見ろ!コンクリで前を塞がれたぞ!」

 

「チッ。セメントスか、手強いな。マキア!モグラ形態でコンクリを掘り進め!」

 

 セメントスの攻撃が行く手を阻むと荼毘はギガントマキアに向けてそう言い放った。

 死柄木以外の命令は聞かない彼だが、一応仲間の意見を参考にする程度の知能はあるようだ。七つ所有している個性の中の一つ『土竜(モグラ)』を発動して、堅く強靭な爪によってセメントスのコンクリを破壊していく。柔らかく流動してマキアの手足にまとわりつくコンクリもあったが、彼はまるで水滴を払うかのように手足を振るうだけでそのコンクリを払い飛ばしていた。

 

「止めろ!あの巨人を止めるんだ!」

 

「うおおお!」

 

「HAHAHA!」

 

 ヒーローの包囲網など巨人にとっては無いにも等しい。止めようと向かってくるヒーローたちを羽虫の様に弾き飛ばし、轢き殺しながらギガントマキアは走っていた。

 そうしていると、今度は彼らの前に巨大化したマウントレディが現れた。

 

「こンの、止まりなさいッ!!」

 

「うお、マウントレディ!?」

 

「しかも、セメントスのコンクリを身に着けてやがる。超重量級だな。何がなんでも足止めする気か」

 

 コンクリを鎧のように纏った彼女の姿を名付けるとするならば、アーマード・マウントレディといったところか。頭部にもコンクリ製のヘッドギアを着けている。彼女はそのまま正面からブチ当たり、全力で組みついた。

 しかし、ギガントマキアは止まらない。走るスピードは多少落ちたものの、それでもマウントレディを押し込みながら前進していた。

 

「何としてでも止めろォ!」

 

「頑張れマウントレディ!」

 

「ンばってますってぶぁ!」

 

 鼻血が噴き出すほどの力を込めるマウントレディ。それを鬱陶しく思い始めたギガントマキアは『土竜』の強靭な爪を彼女に向けて振るってきた。コンクリの鎧で防御しているとはいえ爪の攻撃力は凄まじい。コンクリはすぐに削られてしまい、ついには彼女の皮膚にも爪が突き刺さってしまった。

 

「マズイ!鎧を貫通している!」

 

「しかも、ますます身体がデカくなってやがる!?このままじゃ突破されちまうぞ!」

 

 援護のために後を追っているヒーローが声を上げる。

 ギガントマキアの個性の一つ、『巨大化』は自身の興奮度合いによって大きさが変わる個性であった。今の彼は主人である死柄木の命を受けてルンルンの興奮状態。そこにマウントレディという邪魔が入り、怒りと苛立ちで更に興奮しているのである。彼女と交戦前は20メートル程度の身長であったギガントマキアは今や30メートル近くまで巨大化しており、更に大きくなりつつあった。

 

「いッッたいでしょ!このチクショウがぁあ!!」

 

 しかし、マウントレディの心はまだ折れていない。痛みを怒りに変え、怒りを力に変えて全身全霊でギガントマキアを妨害する。圧倒的に体格とパワーで負けていたが、彼女はそれを気合だけで補ってみせていた。

 

「なんて気迫だマウントレディ…!援護を続けろ!彼女の努力を無駄にするな!」

 

「止められずとも奴の足を鈍らせさえすれば、きっと追いついてくれるはずだ!……来た、来てくれたぞ!もこたんだ!」

 

「おい待て。今、あの巨人の背中から現れなかったか?それになんで雄英の体操服を着ている…?まさか…!」

 

 サポート型のヒーローたちも懸命に支援する。その甲斐もあってかギガントマキアの足は僅かに鈍り、そして彼の近くにはいつの間にか接近していた藤原妹紅の姿があった。

 その妹紅は炎を腕に溜めて放つ。強力な火の鳥だ。その炎はギガントマキアの横を通り過ぎ、マウントレディの顔面に直撃した。

 

「う…ぎ…!」

 

「な、なに!?」

 

「なぜマウントレディを!?」

 

「違う!チクショウ、やられた!あれはトガヒミコだ!」

 

 妹紅の突然の裏切りに驚愕するヒーローたちだったが、彼らはすぐに気が付いた。トゥワイスの無限増殖に次ぐ脅威。それがトガの『変身』なのである。彼らはそれにまんまと引っかかってしまった。

 炎で焼かれたマウントレディは失神して崩れ落ちる。そんな彼女をギガントマキアは片手で払い飛ばした。木々を圧し折りながらマウントレディは何十メートルも転がっていく。幸い、削られたとはいえコンクリのアーマーとヘッドギアを身に着けていたことで命こそは無事であったが、打撲や裂傷、火傷によるダメージは大きく意識不明の重体。彼女は戦闘不能になってしまった。

 

「何とかして俺たちで足止めを――ぐあああ!?」

 

「荼毘の蒼炎!?いや、荼毘だけじゃねぇ!ヴィラン連合の奴らが巨人の背中に乗ってやがるんだ!」

 

「マズイ、火の鳥と蒼炎で森が燃えている!山火事になるぞ!怪我人を避難させろ!」

 

 マウントレディが敗れてもなお食い下がるヒーローたち。しかし、荼毘の蒼炎とトガの火の鳥が猛威を振るい、彼らは撤退を余儀なくされた。

 

 

「ヒーローどもを追い払ったはいいものの、コチラの手がバレちまったか…。マウントレディをナメすぎたな…」

 

 ヴィラン連合の面々からすれば、ギガントマキアの背に乗っていることもトガが妹紅に『変身』していることも可能な限り伏せておきたいカードであった。だが、マウントレディを含めたプロヒーローたちの覚悟がそれを許さなかったのである。荼毘は不機嫌そうに眉をしかめていた。

 

「トガちゃん早く戻ってきて!マキアがスピードに乗ったら追いつけなくなっちゃうよ!」

 

「………」

 

「トガちゃん…」

 

 加えてトガも普段の様子ではなかった。コンプレスの忠告を聞いて巨人の背に戻ってきたトガだが、彼女の心は大きな怒りと悲しみで満ちていた。

 ギガントマキアが動き出す前。トゥワイスの分身体が本体の死を告げ、目の前で謝りながら崩れていったのだ。トゥワイスの死亡にトガの心は破裂寸前。ストックしていた妹紅の血を啜り、彼女に『変身』することで心の均衡を保っていた。

 

 

 

「ミッドナイト!どうしますか!?」

 

「シンリンカムイ、私を運んでちょうだい。巨人の顔付近まで近づけるかしら?」

 

 一方で、後を追うヒーローたちも諦めていない。当初から巨人の対抗策として作戦に参加していたミッドナイトはシンリンカムイの手を借りて木々を高速で移動していた。

 

「木々が燃えて近づけません!蒼炎と火の鳥が厄介すぎる!それに…速い!これ以上速くなると追うことすらも難しくなります!」

 

「分かったわ。大人(プロ)として不甲斐ない話だけど、やはり生徒の手を借りるしかなさそうね」

 

「ええ、もこたんなら速く飛べるし炎熱無効で接近できるはずです!」

 

 シンリンカムイの『樹木』は炎熱系に弱い。荼毘一人だけなら隙を突いて接近できるかもしれないが、トガにまで火の鳥で警戒されると接近は不可能に近いだろう。己の安否の心配ではなく、対巨人の要であるミッドナイトを分の悪いギャンブルに賭ける訳にはいかなかったのである。

 

「む、この方向は…マズイ!この先の後衛は雄英のインターン生たちです!」

 

「大丈夫、彼らには既に連絡しているわ」

 

「良かった、もう避難したんですね」

 

 巨人が向かう先に気が付いたシンリンカムイだったが、彼女の言葉にホッと息を吐いた。彼が所属するヒーローチーム『ラーカーズ』は上鳴や瀬呂、峰田、塩崎たちをインターン生として受け入れている。彼にとっては大事な大事な後輩だ。そうでなくても、まだプロではない子どもたちをこんな所で死なせる訳にはいかなかった。

 そのため既に避難したのだと安堵した彼だったが、ミッドナイトはとんでもないことを口にした。

 

「いいえ、逆よ。あの子たちには巨人の足止めを頼んだわ」

 

「はぁッ!?正気ですかミッドナイト!?」

 

 シンリンカムイは目を見開いて驚愕した。無理だ。プロヒーローが束になっても止められない巨人である。無駄死にしてしまうだけだと必死で説得する彼であったが、ミッドナイトは神妙ながらも確信めいた表情で反論した。

 

「もちろん正面から戦わせるつもりなんてないわ。数秒でも動きが鈍ればそれでいいの。それに彼らをナメすぎよシンリンカムイ。あの子たちはね、この一年間ずっと藤原妹紅と共に学んで戦ってきたのよ。それが何を意味するのか…。これ以上の適任者は居ないわ」

 

 ミッドナイトの“生徒たちの手を借りる”という発言の真意はコレだった。妹紅だけではない、教え子たち全員の実力と連携を信頼しているからこその任務要請である。

 シンリンカムイは木々を高速で移動しながらゴクリと息を呑む。そして彼らの成功と無事を心から祈るのであった。

 

 

 

 ギガントマキアの進行方向、群訝山荘包囲網の後方地点では雄英のインターン生が全速力で罠の設置を図っていた。

 ミッドナイトから要請があった時、彼らは相当に緊張してしまったものの尻込みする者は誰一人としていなかった。常日頃から藤原妹紅という怪物を相手に訓練しているのである。恐怖で動けなくなるという無様を晒す筈もなく、即座に動いてみせていた。

 

特殊繊維(ダイニーマ)製のネット、完成いたしましたわ!後はお願いいたします!」

 

「おう、任せろ!」

 

 八百万は太いロープで編まれた巨大ネットを創り出すと後方地点へと移動を開始した。彼女が創ったダイニーマ繊維とは世界最強と称されるほどに強靭な超高強度繊維である。強度は同重量の鉄の15倍、ピアノ線の8倍。それでいて比重は1.0を下回っており、水に浮くほど軽いという凄まじい素材だった。*1

 そんな丈夫な繊維で作られた巨大ネットを増強型の生徒が集まって持ち上げる。軽い素材とはいえデカければそれだけ重く、その重量は数百キロを超えていた。それでもギガントマキアを網にかけるにはまだまだ小さいネットでしかない。

 しかし、彼らはそれで良かった。

 

「準備いいか、小大(ルール)!このまま真上に投げるぞ!それ!」

 

「今だ!」

 

「ん、『大』」

 

「私は唯をキャッチっと」

 

 小大がネットの上に乗り、増強型の面々は彼女ごとネットを上空に放り投げた。投げ上げられたネットは空中で小大の『サイズ』によって何十倍にも大きくなり、辺りの森を覆う。そして小大は上半身を空に飛ばしていた取蔭によってキャッチされ回収された。

 小大の個性によって元から大きかったネットは更に巨大化。ロープは丸太の様に太くなり、縦横のサイズは50メートル以上。網目間は5メートル四方ほどもあり、踏み込めばギガントマキアの巨大な足ですら絡めるだろう。

 八百万単独では決して作れなかっただろう巨大すぎるネット。だが、小大と連携すれば簡単に作れる。これこそ妹紅との模擬戦でも活躍した八百万の『創造』と小大の『サイズ』による個性コンボであった。

 

「よっしゃあ、皆で手分けしてネットを整えろ!連合の奴らが背中に乗っているらしい!木に引っかかった部分を上から見られたら避けられちまうかもしんねぇぞォ!」

 

「そこ!木に引っかかって上から見える!コッチは上手く広がってなくて網目が潰れてる!」

 

「ん、アッチも」

 

「急げ!マウントレディを吹っ飛ばしてから速度が上がっている!到達まで残り20秒…いや15秒!」

 

 切島の威勢のいい号令と共に生徒たちが速やかに動き、上空の取蔭たちが指摘した場所を急いで整えていく。『複製腕』の目で到達時間を計測している障子が注意を促す中、彼らは全速力で行動した。

 

「相手に引っかかりやすくなるよう私の『ツル』をネットに巻きつけます。…森林の色との兼ね合いでカモフラージュにもなるでしょう」

 

「オイラの『もぎもぎ』もオマケだぜ!」

 

「俺の『テープ』もね」

 

 ネットを整えつつ塩崎や峰田、瀬呂らは工夫を拵える。巨人に引っ付いたり絡まりやすくなる確率が僅かでも上がるのであれば、たとえそれが1%の違いだとしてもやらない理由はなかった。

 そして罠の仕上げはこの足止め作戦のキーパーソン、骨抜である。

 

「最後に地面を最大限深く広範囲に『柔化』してっと」

 

「罠の設置完了だ!皆、早く離れろ!」

 

 これで網の敷かれた沼罠の完成である。準備が終わると彼らは脱兎の如く走り出した。撤退地点は既に決めている。巨人から出来るだけ距離を取りつつも遠距離攻撃が届き、かつ()()()()()()()位置。この撤退地点は指示オペレーター役を引き受けた葉隠が定めていた。

 

「こっちだよ!急いで!もう来てる!」

 

「3、2、1…っし、位置ドンピシャ!」

 

「おっしゃあ!」

 

 そして全員が後方まで撤退した直後。ギガントマキアが罠に足を踏み込み、地滑りのような轟音をたてながら地面に沈み込んだ。

 地響きの中、生徒たちの歓声が上がる。これで最低でも10秒は稼げただろう。しかし、彼らの作戦はまだこれからである。

 

「追撃します!ネットランチャー発射!」

 

「撃て、撃て!」

 

 撤退先の後方地点で八百万が『創造』した3門のカノン砲が火を噴いた。ただし、実弾ではなくネット砲弾である。当然その素材は超高強度繊維で創られており、発射されたネットはギガントマキアの上半身にかかった。

 

「……」

 

「なにッ!?」

 

 しかし、ギガントマキアは砲弾のネットを容易く引き千切ってしまった。クモの巣を払うが如くである。恐ろしい怪力に皆が目を剥く。デカさはパワーだ。その力はオールマイトにも匹敵するレベルだった。

 

「くッそ、マジかよ…!」

 

「構いません!とにかく撃ちまくってください!」

 

 それでも八百万は諦めない。元よりネット砲弾は本命ではないのだ。ギガントマキアの気を散らせるための手段に過ぎず、あわよくば程度でしかなかった。

 八百万は次から次へと砲弾を創り出して砲手に渡していく。彼女に続いて他の生徒たちも援護に尽力していた。

 

「石でも木片でも何でも持ってきて。『ポルターガイスト』で背中に乗ってる連合の奴らを狙う」

 

「では、僕はそれに『ツインインパクト』を付与しよう」

 

「オイラの『もぎもぎ』も持ってけェ!ほら、早く操るんだよオイラのタマをよぉ!」

 

「言い方がサイアク!」

 

 遠距離個性である柳の『ポルターガイスト』を主軸に皆で協力して攻撃を加えていく。

 その猛攻にヴィラン連合の面々も焦りを見せ始めた。ここでの足止めはマズイ。ギガントマキアの背から身を乗り出して相手を確認したコンプレスは嫌そうに声を上げた。

 

「雄英!こんなに来てんのかよ…!」

 

 雄英高校一年ヒーロー科。たかが学生、たかがヒーローの卵だというのに、その実力は下手なプロよりも余程優れた子どもたちだ。

 現に解放軍でもプロヒーローでも止められなかったギガントマキアを見事に足止めした上に、更なる猛攻まで加えている。末恐ろしい卵たちだとコンプレスは舌を巻いていた。

 

「砲弾ネットはともかく足元で絡んでる極太ネットはマズくねぇか?地面が沈んで足場も悪ぃし、マキアのパワーでも千切れるかどうか…」

 

「確かにかなり頑丈みてぇだが…ポリエチレン系繊維の宿命だな、熱に弱ぇ。トガ、お前も炎で焼け」

 

「飛んでくるゴミがウザいです」

 

 スピナーは不安気な表情でギガントマキアの様子を伺っていたが、一方で荼毘は冷静だった。世界最強の強度を持つ繊維だが、材料は高分子ポリエチレンなのである。耐熱性が極めて低く、摩擦熱で融解することもあるため使用時は注意しなければならない。

 その弱点を見抜いた荼毘はネットを焼いていく。トガも『ポルターガイスト』で飛んでくる攻撃を処理しながら隙を見て火の鳥を放っていた。

 

(エミリー)!荼毘とトガを集中的に狙って!ネットを焼いてる!トガはもこたんの姿に『変身』してる!」

 

「弾になる瓦礫を持ってきたぞ!ドンドン飛ばせ!」

 

「任せて」

 

 ネットが焼かれていく。しかし、そうはさせじと生徒たちも応戦する。取蔭からの情報を元に柳は次々と瓦礫を飛ばし、八百万たちもカノン砲を連射していた。この程度で勝てるはずもないが、時間稼ぎだけなら何とかなる。

 そんな希望を抱いた瞬間のことだった。

 

「…判断を誤った」

 

 そもそもギガントマキアは彼らを敵だと認識していなかった。生徒たちだけではない、包囲していたプロヒーローたちを含めてのことである。精々マウントレディの妨害が鬱陶しいと感じた程度であり、他のヒーローたちからの攻撃には気づいてすらいなかった。

 そのため沼罠に落ちたことも足を踏み外した程度にしか思っておらず、すぐ抜け出して再び走るつもりだったのだ。しかし、なんたる無様だろうか。コバエ如きに妨害され、主の元に向かう時間を数十秒も無駄にしてしまった。

 これは大罪だ。許されることではない。故に、ギガントマキアは彼らを無視すべき『羽虫』から排除すべき『敵』として認識を改めたのであった。

 

「敵は全て排除する…主の為に」

 

「この声…!?全員伏せろォォ!!」

 

 ギガントマキアが右腕を振りかぶった。十分な距離を取っている生徒たちに腕など届かないが、彼の狙いはソコではない。地面である。

 その脅威を真っ先に察知したのは切島だった。蘇る中学時代の苦い記憶。恐怖に竦んで人を助けるための一歩が出なかった当時。その恐怖の主が目の前に現れてしまった。

 だが、切島は動いてみせた。当時を後悔しているからこそ、二度と後悔しないことを誓ったのだ。そうして彼は前に躍り出ると、皆の盾となるべく全力で『硬化』した。

 

「『安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)』!」

 

「うおおお!『スティール』最大硬度だ!」

 

 切島に次いで鉄哲も前に出て防御を固める。

 同時にギガントマキアの巨大な爪が凄まじい勢いで大地を掻き毟り、地表を吹き飛ばした。土砂崩れなどという生易しいモノではない。音速で飛来する土石流だ。有効射程距離は数km。小指の爪サイズの石ころ一個でも当たれば肉を引き千切り、拳サイズの石にでも当たろうものなら人体など簡単に弾け飛ぶ。そんなものが、いや、それら以上の瓦礫が点ではなく面で飛来する。普通の人間ならば即死。一瞬でミンチ肉になってしまうだろう。

 そんな攻撃を切島と鉄哲は真正面から受けてみせた。

 

「うわあああ!?」

 

「きゃあああ!」

 

 切島たちが守っていても、なお爆風が吹き荒れる。後方の生徒たちは地面に蹲って必死に耐えた。気を抜けば吹き飛ばされそうである。ようやく物理的すぎる嵐が過ぎ去ると、彼らはすぐに安否を確認し合った。

 

「なんて威力だ…!全員、無事か!?」

 

「な、なんとか…。鉄哲(リアルスティール)切島(レッドライオット)が盾になってくれたおかげだ」

 

 守られた生徒たちが切島たちに感謝を述べる。しかし、当の本人たちは皆の無事を安堵しつつも、どうにも悔し気な表情を浮かべていた。

 

「いいや、柔造(マッドマン)のおかげだぜェ…!」

 

「ああ、土石流が『柔化』されていた土砂だったから何とかなった…。もし、そうじゃなかったらと思うと…チクショウ、俺もまだまだ漢気が足りねぇ…!」

 

 彼らの言う通り、ギガントマキアが飛ばしてきた土砂は骨抜によって『柔化』されていたものだった。沼罠に嵌っているのだから、その周囲まで柔らかくなっているのは当然。ギガントマキアはそれを失念していたのである。

 仮に地面が『柔化』されていなかったら、切島や鉄哲は土石流の破壊力に負けて吹き飛ばされてしまい後方を守れなかったかもしれない。二人が何とか耐えたとしても、股の下や脇の下などの隙間から細かい瓦礫が後ろに抜けていた可能性も高い。そうなれば生徒たちの多くは大怪我、もしくは致命傷を負ってしまっていただろう。それほどまでに恐ろしい攻撃だった。

 

「かなり暴れるだろうなって元から予想してたからね。そういうの見越して全力全開で柔らかくしておいたよ。でも、俺の『柔化』だけだったら危なかった。柔らかくなっても質量とかは変わらないんだし。『柔化』した上で二人が盾になってくれたから俺たちは全員無事だったってわけ。ナイス連携」

 

「そうだな…!俺たちは一人じゃねぇ、ナイス連携!」

 

「さすが柔造!柔軟な思考だぜ!」

 

 グッと親指を立てて二人を讃える骨抜に、切島と鉄哲もサムズアップを返す。

 ヒーローは一人で戦わねばならない時もあるだろうが、少なくとも今この場には大勢の仲間がいるのだ。仲間を頼りにすることは何ら恥ではなく、むしろ当然。骨抜の柔軟な発想のおかげで頭が固い二人も気を取り直すことが出来ていた。

 

「しぶとい…」

 

 そんな中、ギガントマキアは苛立ちと共にそう呟いた。皆殺しにするつもりの攻撃だったのにも関わらず、誰一人として死んでいないのだ。ならば念入りに潰してやろうと動き出した彼を荼毘が止めた。

 

「追撃はいい。それより急げマキア。足に絡んでいたネットは全て焼き切った。さっさと移動しねぇとヤツが――クソ…!」

 

 言葉の途中で荼毘は悪態を吐いた。来てしまった。ついに藤原妹紅が追いついてしまったのだ。

 飛行系個性の解放戦士が数十名。決死の覚悟で足止めに向かった彼らは30秒足らずで妹紅に処理された。マウントレディらプロヒーローたちが、そして生徒らインターン生たちが全身全霊をかけて稼いだ僅かな時間が功を奏し、この場に妹紅が到着したのである。

 

『うん、みんな足元から避難済み。私たちだけじゃなくプロヒーローも全員ね。背後から“パゼスト”でしょ?その範囲を見越して余裕をもって避難してるよ。森の消火準備は三奈(ピンキー)響香(イヤホン)が整えてくれてる。だから、いつでもオーケー』

 

「了解。ありがとう、葉隠(インビジブル)。おかげで全力を出せる……『パゼストバイフェニックス』」

 

 妹紅との連携は完璧。作戦の指示オペレーター役を葉隠が受け持ってくれたからだ。

 この場に居る誰よりも妹紅のことを理解している彼女は、この状況において妹紅がどんな攻撃を仕掛けるのか最初から把握していたのだ。妹紅の必殺技の威力も範囲も、葉隠の頭には全て入っている。その上で妹紅のプレッシャーにならないよう安全マージンも取っており、想定している必殺範囲から余裕をもって避難していた。加えて、消火準備も出来ているという。

 妹紅にとっては非常にありがたい配慮だった。そのおかげで森林という環境の中でも妹紅は何の心配もなく最高火力の必殺技『パゼストバイフェニックス』を放つことが出来たのである。

 

「むぅ…?」

 

 狙いはギガントマキアが沼罠から這い上がる際の足。最強の火の鳥は彼の背後から足元に向かい、両膝以下を焼き尽くして抜き去っていった。両足が焼失したギガントマキアはそのままうつ伏せに倒れた。

 ギガントマキアに痛覚はない。無痛症などではなく『痛覚遮断』という個性を所持しているためである。そのため何が起きているのか分からないという様子で太腿だけになってしまった両足をバタバタさせていた。

 

「足払いのつもりで放っただけだったのに…なんだ、炎熱耐性ないのかコイツ。それなら、いくらでもやりようがあるじゃないか」

 

 妹紅が拍子抜けしたかのように呟いた。そう、ギガントマキアは複数個性ながらも炎熱耐性系の個性を所持していなかったのだ。

 確かに弱い炎程度ならば分厚い皮膚と硬く強靭な増強型の個性によって意にも介さない。しかし、だからといって鋼鉄をも蒸発させる妹紅の炎に耐えられるのかいうと、そんな訳がなかったのである。

 

「ば、馬鹿な…!?あの巨人がこんな簡単に…!?」

 

「マキアはもう駄目だ、離脱するぞ」

 

 スケプティックは驚いているが、荼毘など連合メンバーには分かりきっていたことだった。だから彼らは最初から逃げの一手だったのである。

 荼毘は蒼炎を広範囲に放ち、目隠しのカーテンにしつつ森を燃やす。その隙にマキアの背中から彼らは地上へと飛び降りるのであった。

 

*1
リアルで実在する。というか普通に実用化も商品化もされていて、割と身近にあったりする。

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