「主の為の足を…!貴様ァァ!」
両足を焼き切られたマキアは怒り狂っていた。己の身体は己の物ではない。主人であるAFOの所有物だ。それが大いに傷付けられたのだ。その怒りは凄まじく、興奮することで身体は更なる巨体へと膨れ上がった。
そして片手で上体を起こすと、もう片方の腕で妹紅を叩き潰すべく振りかぶる。しかし、空を飛ぶ妹紅がわざわざ彼の攻撃範囲に入るはずもなく、彼女は範囲外から『パゼストバイフェニックス』を操っていた。
「戻ってこいフェニックス」
狙いは上体を支えているマキアの片腕である。引き返してきた巨大な火の鳥はその腕を通り過ぎ、手首を残して肘付近を焼失させた。
「うおおおお!?」
「『デスパレートクロウ』」
上半身の支えを失い、再びバランスを崩して倒れるギガントマキア。彼の意識がフェニックスに向いたので、今度は妹紅本人が巨大な炎爪をもって残った片腕を肩口から切り落とした。
確かにギガントマキアのパワーはオールマイト級だったのかもしれない。しかし、スピードに関しては比べ物にならないほど劣っており、それでいて動きは単調。しかも、巨大化してくれているおかげで的もデカく、葉隠たちのおかげで場も整っている。
正直な話、超高威力の必殺技を持つ妹紅にとって彼はカモでしかなかったのだ。
「腕が!?主の為の腕ェ!うおおお!」
「うるさいな。さっさと『超再生』してかかってこい。抵抗を諦めるまで焼いてやる」
ギガントマキアの叫び声で大気がビリビリと震えた。凄まじい声量である。妹紅はその騒音に眉を顰めつつも彼を睨みつけていた。この四肢切り落としは初手でしかない。ここから脳無と同じように無限に『超再生』してくる手足を焼き切り続け、巨人の無力化を維持する必要があった。
故に、妹紅に油断はない。彼女は『パゼストバイフェニックス』を操りつつも、『デスパレートクロウ』を携えて注意深くギガントマキアの様子を伺っていた。
「主…!主よォォ…!」
「ん…?」
しかし、ギガントマキアは泣き叫ぶばかりである。『超再生』特有の傷口から肉が湧き出るかのような様子はなく、欠損した四肢はそのまま。妙な違和感に妹紅は“あれ?”という表情を浮かべた。
「おおおぉぉ…申し訳ございません…主よぉ…!」
「え、うそ…」
四肢を失った箇所は炭化しているため、ギガントマキアに出血はない。それと同時に傷口が再生する様子もない。彼は歪なダルマ状態のまま地面に横たわっていた。
予想外だ。予想外のことが起きている。妹紅の表情にも焦りが浮かび始めていた。
「うおおぉぉん…うおおぉぉん…!」
「お前まさか…複数個性持ちなのに『超再生』持ってないの…?え、なんでぇ…?」
子どものように泣き喚くギガントマキア。『巨大化』していた身体は徐々に萎んでいっている。そんな状況に妹紅は思わず素の言葉使いで尋ねてしまっていた。
『歩く災害』ことギガントマキア。元々、彼は体力を爆増させる『耐久』という個性を所持していたが、そこにAFOによって6つの個性が入れられていた。
それらの個性とは、痛みを感じなくなる『痛覚遮断』。興奮すると身体が大きくなる『巨大化』。嗅覚・聴覚を強化する『犬』。睡眠時間を短縮して僅かな栄養・水分で活動できる『エネルギー効率』。硬く強靭な筋肉を得られる『剛筋』。地中を掘り進むモードに変形する『
元の個性と合わせて7つの肉体活性系の個性である。常人ならばとっくに精神と肉体が壊れるであろう個性の数だが彼は耐えたのだ。…だが、肝心の『超再生』は所持していなかった。恐らく彼の身体と『超再生』の個性因子の相性が悪く、上手く付与できなかったのだろう。あるいは、もっと単純にAFOの慢心によって付与されなかっただけなのかもしれない。妹紅はそう推測した。
いずれにしてもギガントマキアは妹紅の予想から大きく外れるほどに弱かった。なにせ最低でも『超再生』を所持。『炎熱耐性』や『干渉個性無効』なども当然のように所持していると考えていたし、加えて様々な強個性を持っている存在がマウントレディ以上の身長でオールマイト級のパワーとスピードを持ち、それら全ての能力を人間の知能で駆使しつつ襲ってくると妹紅は予想していたからだ。
そんなヤバいレベルのヴィランを想定していたからこそ、初手奇襲からの四肢切り落としだったのだが…再生しないとなると明らかにやり過ぎだった。妹紅は『超凶悪なヴィランを捕まえるためには手足の一本くらい仕方なし』という割と過激な方針ではあるものの、だからといって率先してヴィランを傷つけて苦しめたい訳ではないのである。
「あっ、いや、分かったぞ。演技だな。私が居なくなったら『超再生』して、また走り出すつもりだろう?その手には乗らない」
演技なのかも。いや、演技であってほしいという願いを込めて、妹紅はキリっとした表情で彼を問い質した。
『超再生』がコントロール可能なのかは不明だが、可能であれば油断を誘うような使い方をしてきてもおかしくはない。そう思って妹紅は様子見してみるが、ギガントマキアの『巨人化』はもうほとんど解除されてしまっており、身長は2~3m程度まで小さくなっていた。ついでに『超再生』しそうな様子は全くない。彼はただ滂沱の涙を流していた。
「主に尽くす為の手足がぁ…!うおおぉぉん…!」
「…デスヨネ。ゴメンナサイ…」
申し訳なさがこちらの心に積もってくるほどギガントマキアは泣き喚く。キリっと上がっていた妹紅の眉が、ヘニョっとハの字に落ち込んでしまった。
プロヒーローが戦っているヴィラン相手に大怪我を負わせてしまったという事例は多々ある。それがヒーローの過失であると認められると過剰行動となり、ヒーローにも罰則が下されてしまうのだ。*1
(仮免取り消しくらいなら全然いいけど、雄英退学になったらヤダなぁ…)
妹紅の視点から見たギガントマキアはそれほどの強敵ではなかった。これはそれ故の素直な感想だった。
しかし実際は、ヒーローの包囲網を突破する段階でギガントマキアは何名かのプロヒーローを轢き殺している超凶悪犯だ。また過去にはAFOの為に強個性の市民やヒーローを襲って拉致などもしており、犯罪関与件数は無数にあるだろう。それら犯罪歴や複数個性の危険性を考えると妹紅の攻撃は過剰行動でも何でもなく、致し方ないものだ。たとえ訴訟されて裁判沙汰になったとしてもそう判断されるはずである。
『も、妹紅…!これはオペレーターしてた私の責任だから!妹紅の責任じゃないから…!』
「ち、違うぞ葉隠。私がやっちゃったんだから私の責任だ。葉隠は関係ない…あ、いや、今はそれよりも」
『…!うん、そうだ。まだやるべきことがあるもんね。群訝の全ヒーローに報告します!もこたんにより巨人の無力化に成功しました!背に乗っていたヴィラン連合のメンバーはその場から逃走!周囲のヒーローは包囲の形成と対応をお願いします!トガはもこたんに『変身』して『不死鳥』を使用しています!炎と飛行に注意を!』
妹紅と同じく『超再生』所持前提でオペレーションしていた葉隠は自分の責任だと彼女を庇う。
しかし、今は反省も後悔も後だ。葉隠はギガントマキア撃破の報告とヴィラン連合逃走の報告を行う。そして妹紅は複数個性のギガントマキアをそのままにしておく訳にもいかないので、彼を優しく失神させるべく低酸素炎を繰り出した。
「うおおおおぉぉん!うおおおおぉぉん!」
「あれ?低酸素で意識が落ちない?低酸素には耐性あるのかコイツ。よく分からない個性構成をしているな…」
号泣しており大きな呼吸を繰り返していることは間違いない。その呼吸に合わせて低酸素を吸わせてもいる。しかし、彼は失神するどころか呼吸難にすらなっていなかった。これは『エネルギー効率』の個性の効果であったが、妹紅には分からない情報だ。妹紅はこちらに向かってきているであろうミッドナイトに連絡を取った。
「ミッドナイト先生、個別通信失礼します。巨人は四肢を焼き切って無力化しましたが、低酸素では意識を失いませんでした。すみませんが、先生の『眠り香』をお願いします。『超再生』不所持だったので、恐らく『干渉個性無効』系も持っていないと思います。……あの、はい、そうです。焼き切った手足が再生しなくて…。すみません、やり過ぎました…」
『いいえ、もこたん。貴女は良くやったわ。アレが街に降りていれば数万という人々の命が失われていたでしょう。何も間違ったことはしていないわ。もしも、この対応に問題があったのであれば、その責任は私たちにある。貴女が気にすることはないのよ』
申し訳なさそうに平謝りする妹紅に対して、ミッドナイトはむしろ安堵するような心持ちで応じた。自慢の生徒たちならば大丈夫だと確信しながらも、やはり心配なものは心配だったのだ。
巨人の四肢を欠損させてしまったことも許容範囲内である。前例に無いレベルの大規模作戦だったことから動画での記録保存を行う人員なども少なからず配置されていた。頭のおかしな人権派団体などからは非難されるかもしれないが、ほとんどの人間ならば映像を見ただけであの尋常ならざる脅威を理解できるはずだ。
いずれにしても全ての責任は巨人の対処を妹紅に命じた大人たちにある。そこを違える気などミッドナイトには無いのであった。
『とはいえ再生個性の不所持が確定した訳じゃないわ。貴女が危惧しているように、負傷から一定時間後に『超再生』が発動する可能性や、もっと別の挽回できる個性を所持している可能性もある。すぐに『眠り香』で眠らせるわ。もこたんはその場で待機。休憩しながら巨人を見張っていて頂戴。その間に逃げた連合メンバーを包囲網で炙り出すわ』
「了解しました」
そう言って妹紅はミッドナイトとの通信を終えた。未だに泣いているギガントマキアを眼下に、妹紅は
なお、耐炎熱加工を施されている妹紅のもんぺポケットだが、強力な炎を全身から放つ『フジヤマヴォルケイノ』などを使用すると流石に中身は燃え尽きる。幸い、今のところポケットの中身はおやつも含めて全て無事であった。
(体力…4割くらい使ったかも。山荘を包囲している火の鳥と、巨人に使ったパゼストを回収すれば半分くらいは体力戻るかな?蛇腔もなんかヤバそうだし体力温存しておかないと…うわ、この羊羹うまっ。今度、大量買いしておこう)
多数の解放戦士、荼毘、外典、リ・デストロ、ギガントマキア。それらとの戦いで流石の妹紅も少し疲れてしまった。炎の使用だけでなく、緊張感から来る精神的な疲労などもあるのだろう。そういったストレスにも甘いものは良く効く。(食べ過ぎと依存には注意)
スイーツマスター砂藤がオススメしてくれた一品をモニュモニュと咀嚼する妹紅。そして別のポケットから取り出した200mlサイズのミニペットボトルのお茶を一口だけ飲んで口の中をスッキリさせた。汗をかかない妹紅は呼吸時の蒸発くらいでしか水分を失わない。そのため水分は少量で事足りた。
(でも、この巨人…。あの程度の強さなら慧音先生を襲撃したヴィランじゃなかったのかも)
ペットボトルの蓋を閉めてポケットに押し込みながら妹紅はそう考える。これを慧音が聞いたら『いや、コイツだぞ。増強型の私だと相性が悪すぎて勝てなかったってだけだぞ』と反論していただろう。マウントレディですら敵わなかった以上、ギガントマキアに勝てる増強型などオールマイトくらいなものだから当然だ。
因みに、寮生活以前の妹紅は模擬戦で慧音に負け越している。遠距離戦ならともかく、近接戦の場合は一瞬で頭部を殴打され倒されてしまうのだ。妹紅の個性の詳細や動きのクセ、および戦闘時の思考などを完全に把握されているが故の瞬殺であった。
インターンなどで成長した今の妹紅ならば、近接戦であっても勝機は大いにある。だが、どうにも勝てるイメージが湧かない。それだけ妹紅にとって慧音という存在は大きかったのだ。
(現役時代の慧音先生を倒したという謎の巨人ヴィラン。そんな恐ろしく強い敵が今後私の前にも現れるかもしれない。不安だ、私なんかじゃ勝てないかも…。でも、慧音先生の為にも、私はもっと強くなってその巨人ヴィランを必ず倒してみせるんだ…!)
ギガントマキアを監視しつつ、妹紅はグッと拳を握り誓ってみせた。妹紅の脳裏には慧音の優しい笑顔が浮かんでいる。もしも彼女の声が聞こえていたら『その巨人ヴィラン、今妹紅の目の前で号泣しているコイツだぞ~』と教えてくれていたことだろう。
まぁ、そんな幻聴は何も聞こえず。色々と間違っている妹紅は更なる強さを求めて、一人勝手に決意を固めるのであった。
「こ、これからどうする!?」
ギガントマキアが両足を焼き切られた直後。彼の背中から離脱したヴィラン連合の面々とスケプティックは木々に紛れて森を駆けていた。
移動手段がなくなり焦った声を出すスピナー。このまま走って逃げるだけではヒーローたちにあっという間に包囲されてしまうだろう。何かしらの作戦が必要だった。
「今考えてる。トガちゃんの炎翼と俺の『圧縮』のコンボで逃げれば…いや、ダメか」
「ああ、トガの飛行速度じゃ逃げても簡単に追いつかれちまう」
コンプレスが『変身』したトガの炎翼で空に逃げる案を出したが、彼女の『不死鳥』は所詮模倣だ。本家本元の練度に敵う訳がないし、加えて妹紅は炎翼を改良することでホークスに次ぐ速度を手に入れている。トガと妹紅の速度差は倍以上あるだろう。この案は不可能だった。
「貴様らが飛行できる戦士たちを囮にして使い潰したせいだろうが…!どうしてくれる…!」
「時間稼ぎも出来ずに瞬殺されたって時点で明らかに遅ェの確定してんだろ。奴より速く飛べるような戦士が居てくれりゃ、俺も重用してやったんだがな」
「ぐぎぎぎ…ッ!」
「おい!ケンカしてる場合じゃねぇぞ!」
ネチネチと噛み付いてくるスケプティックに対して、煽るような言葉で返す荼毘。しかし事実、荼毘の言う通りだった。妹紅よりも速く飛べる者、つまりホークスレベルの戦士など皆無なのだ。そこについてはスケプティックも反論できなかった。
因みにスピナーが二人の仲裁に入っていたが、相手にもされていなかった。
「じゃあさ、火の鳥を複数作ってもらって『圧縮』した俺たちを咥えて運んでもらうってのは?トガちゃんへの負担がかなり大きくなっちゃうけど」
「……」
コンプレスが次に出した案は全員を『圧縮』した上で、火の鳥にそれを運ばせるというものだ。これなら炎翼で飛ぶよりも目立たずに済むし、何十羽も作り出して適当に飛ばしておけば攪乱にもなるだろう。
欠点は、『変身』しての他人の個性使用は負荷が大きいため長時間の運送は不向きなこと。妹紅に見つかってしまったら速攻で撃墜されてしまうこと。そもそも火の鳥を操るトガが練度不足であるため、それが実行可能かも全くの不明であることだった。
「運要素が強すぎるし、移動手段としてはやっぱ遅ぇ。ノンビリしてると蛇腔に間に合わなくなっちまう。到着前に
「蛇腔…!そうだ早く死柄木を助けに行かねぇと!道路に出て車でもパクるか!?」
「蛇腔まで直線距離でも80km。山道を考えたら車じゃ時間かかるだろうし、蛇腔も群訝も周辺道路は封鎖されていると考えた方が良いでしょ」
「ぐ…!なら、どうすれば…!」
ギガントマキアが動いたということは死柄木の不完全な起床を意味する。つまり今の死柄木はヒーローたちに奇襲されて危機にあるかもしれないのだ。ボスであり友でもある彼を助けに行かねばとスピナーは必死で考える。
一方で、死柄木がヒーローたちを圧倒して皆殺しにするという可能性もあった。その場合、蛇腔に居るであろうNo.1ヒーロー、エンデヴァーも殺されるに違いない。そうなってしまうと今度はエンデヴァーに大事な用がある荼毘が困ってしまうのだ。
つまり、戦況がどちらに傾いているとしても今の彼らに必要なものは速さ。遅くとも1時間以内に蛇腔へ到着せねばパーティーに参加することすら出来ないだろうという予感があった。
故に、荼毘は決断した。
「仕方ねぇ、俺が炎で跳んで蛇腔に向かう」
「は?荼毘、お前飛べたのか?」
「炎の推進力で跳ぶだけだ。…かなり身体が焼けちまうだろうが、俺には蛇腔でやらなきゃいけねぇことがあるんでな。テメェらはどうする?これまでの義理だ。ポケットに入る程度の大きさなら一緒に連れて行ってやるよ」
荼毘としてもこれは最終手段だった。本来、荼毘はエンデヴァーの火力を超えるほどの個性を有していた。しかし、何の因果か彼の肉体には炎熱への適性がなく、炎を使えば使うほど身体が焼けていくというリスクがあったのだ。そんな状態で蛇腔まで跳ぶとなると荼毘の身体はただでは済まないだろう。
しかし、それほどの対価を支払ってでも成し遂げなければならない憎悪が彼にはあったのだ。
「俺は行くぞ!ミスター、俺を『圧縮』してくれ!」
「俺一人ではリ・デストロを助けられん…!俺も連れていけ!死柄木の力を使ってリ・デストロをお救いせねば!」
「テメェに聞いたつもりはねぇが、まぁいい。情報収集要員としてなら使えるだろうしな」
まず、スピナーとスケプティックが声を上げた。スピナーは純粋に迷いなく。スケプティックは死柄木を利用してリ・デストロを助けるためである。
「ミスター、40分だ。およそ40分後に『圧縮』を解け」
「時速120kmで跳ぶってか…。分かったよ、トガちゃんから『圧縮』するからコッチ来て」
「……」
「トガちゃん?」
荼毘が目的地までの時間を計算してコンプレスに告げた。荼毘は80kmの距離を40分で飛んでみせるという。彼の身体は相当に焼け爛れるだろうとコンプレスは心配するも他に手はないと頷くしかなかった。
そしてトガを『圧縮』しようとしたのだが、彼女は燃える空を見上げながらその場に佇み動かない。その横顔は酷く切なげだった。
「…私、行けません。もこたんに聞いてみたいんです。人を助ける人がヒーローなら、仁くんは人じゃなかったんでしょうか…。仁くんと戦ったのがホークスじゃなくてもこたんだったら、もこたんも殺していたんでしょうか…。そして私のことも…。今、聞いておかないともう二度ともこたんに会えない気がするんです」
生きにくかった。トガにとってこの世界はあまりにも生きにくかったのだ。
他者を愛するために血を吸ったが、誰からも受け入れられなかった。両親から異常者と呼ばれ、悍ましいと蔑まれ、『人間じゃない子産んじゃった』とまで言われた。
唯一、ヴィラン連合だけだ。ヴィラン連合だけが人間じゃないトガを“トガヒミコ”という人間として見てくれた。トゥワイスもそうだ。彼も分倍河原 仁という人間だった。しかし、人間だった筈なのにヒーローに殺された。ならば彼は人間じゃなかったのか。そして自分も人間じゃないというのならば――。
トガはただ空を見上げていた。
「いや、藤原妹紅も割と殺しに来てるだろ。ついさっきマキアの両足焼き切った女だぞ…おい、両腕も切り落とされたぞ!?普通そこまでするか!?」
「俺らだって荼毘以外はマキアの個性の詳細なんて知らされてなかったし、あの子も複数個性持ちとしかホークスから聞かされてないんじゃない?何度も『
ズゥンという重い物が落ちたような地響き。その正体は妹紅の『デスパレートクロウ』で地面に切り落とされたギガントマキアの腕である。ヒーローらしからぬ攻撃にスピナーが恐れおののく一方で、コンプレスはさもあらんといった様子で首を横に振っていた。
現状、トガでは妹紅と戦っても絶対に勝てない。『変身』したトガがどんなに『不死鳥』で頑張っても精々が引き分け。むしろ『変身』の負荷でトガは早々に倒れるだろう。コンプレスは彼女にそう諭すが、トガの決意は折れなかった。
「それでも…です」
「ヴィランとの会話なんて奴が素直に付き合ってくれるとは思えねぇが…好きにしな。これを持っていけ、トゥワイスの血だ。事前に保管していたモノは全てホークスに破壊されてしまっていたが、トゥワイス本人から最期に採っておいた。藤原妹紅が来たせいで僅かしか採取できなかったがな」
荼毘は血液の入った小さなサンプルボトルをトガに渡した。血の量はほんの僅かだ。妹紅の血は拉致した際に大量に採取してあるので残りのストックに問題はないが、トゥワイスの血はコレだけ。『変身』時間に換算すると30~40分程度の量しかない。
しかし、問題はそこではなかった。
「仁くんの…。でも、もこたん以外は『変身』しても個性使えないですよ?」
「今までは、だろ。その
妹紅の個性が使えるようになってから、もちろんトガも他者の個性を色々試した。しかし、ダメだった。妹紅以外の個性は使用できなかったのである。
トガの『変身』は“好き”な相手の個性しか使えない。それは分かっている。己の個性故に本能的に把握できていた。だが、彼女はその“好き”の本質を理解できていなかったのだ。愛情も友情も親愛も慈愛も尊敬も懇情も。それら全て好意の感情だ。中には言語化されていないような感情もある。
その中のどれかが、もしくは複数の感情が強弱も含めて複雑に組み合わさり、合致した条件下でのみ『変身』は他者の個性を使用できるのだろう。そして、それはきっと理屈ではない。恐らく非常に曖昧で感情的なものであり、時に大きく変化するに違いない。
だからこそ荼毘はトガの思うままに行動させることにした。トゥワイスを失った今のトガなら『二倍』を使用できるのではないかと荼毘は考えたのである。一度発動してしまえば分身体は戦場を埋め尽くし、本物のトゥワイスの死体から更に多くの血も採取できるかもしれない。その可能性を狙ってのことだった。
「本気で残るつもりなんだな、トガ…。言っておくが、トゥワイスがやられて悔しいのはお前だけじゃねぇぞ。アイツにとって
スピナーは純粋に心配するも、仲間想いの彼だからこそトガを自由にさせた。再び集まることを条件に約束すると、トガはニコリと微笑む。返事をする訳でもなく頷く訳でもなく、ただ微笑んだのだ。
それはつまり、その約束は守れないかもしれないという彼女の覚悟を含んだ答えだった。
「で、ミスターはどうする」
「あー、もう!残るよ、残る!『二倍』が本当に使えるかも分かんないんだし、こんな状況でトガちゃん置いていけないでしょ!それにさぁ、荼毘が空跳んで逃げても誰かしら
トガの決意と覚悟に頭を抱えていたコンプレスは、亡きトゥワイスの為にも彼女と行動を共にすることにした。無論、理由はそれだけではない。妹紅の飛行速度は彼らの予想を遥かに越えて速かったからだ。このままでは荼毘が跳んで逃げたとしても妹紅に追撃されて終わり。どちらにしても誰かはこの場に残り、彼女の足止めをせねばならなかったのだ。
そして唯一、コンプレスの個性だけは妹紅を捕縛できる可能性を秘めていた。相手に触れるほど接近しなければならないが、一度『圧縮』で捕らえさえすれば恐らく妹紅ですら抜け出せない。もちろん、あの藤原妹紅がそんなに甘いはずはなく、勝算は限りなく低いだろう。しかし、『不死鳥』のトガと戦っている隙を突けば可能性はゼロではない。それを理解した上でのコンプレスの決断であった。
「そうか。精々俺の為に時間を稼いでくれ」
「お前ホント素直じゃないね…。荼毘、焼くなら手足までにしとけよ」
「あ?」
コンプレスは荼毘の皮肉に苦笑を浮かべながらスピナーとスケプティックを『圧縮』していく。そして『圧縮』された二人を荼毘に託すと、彼は真剣な様子で忠告を促した。
「手足までなら義手と義足でなんとかなる。死ぬなってことさ」
「はッ…考えておいてやるよ」
コンプレスが義手の左手で荼毘の胸を軽く小突くと、彼はニィっと太々しく笑って応えてみせた。それだけだ。たったそれだけを交わした後、彼らは互いに背を向けて走り出した。別れを惜しむ様子など微塵も見せず、成すべきことを成すために。
たとえ、この瞬間が今生の別れだったとしても彼らは後悔などしないだろう。自分の為だろうが仲間の為だろうが、己のやりたいことをやるだけ。
彼らはヴィラン。ただ、好きに生きる。
ミッドナイト生存・街も無事
妹紅が居る状況では余程下手なことをやらかさない限りギガントマキアを取り逃がすことはありません。そして解放戦士の追撃も無いのでミッドナイトが犠牲になることはありません。今まで原作のルートを辿ってきましたが、ここから原作の流れから変わってくるかと思います。※死亡キャラ生存のキーワードを追加しました。
ギガントマキア瞬殺
個性は『耐久』『痛覚遮断』『巨大化』『犬』『エネルギー効率』『剛筋』『土竜』の7つ。
妹紅視点だと『巨大化』すればするほど的がデカくなるだけという悲しき巨人。『超再生』や『炎熱耐性』が有れば、もう少し展開が違ったかもしれない。
とにかく妹紅とは個性相性が悪すぎた。連合メンバーを抱えていて地面に潜れないという縛りがあったのも悪かった。その結果が四肢欠損。やらかした妹紅本人が一番のドン引き。ギガントマキアさん、訴訟を起こす場合はエンデヴァー事務所宛でお願いします。
なお、マキアが『超再生』などを所持していなかった原因として“身体との相性が悪かった”、もしくは“AFOの慢心”と妹紅は推測していたものの、実際は山に潜伏していたため個性を与えるタイミングが無かっただけだと思われます。
しかし、芦戸・切島遭遇時のように出歩いている街で問題を起こしかけている程度のガバガバ潜伏なので、『超再生』を複製した後のAFOでも会うタイミングくらいはあったはず。そう考えると、やっぱりAFOの慢心だったのかもしれません。もしくはマキアのハイテンションが鬱陶しくて会いたくなかったか。