群訝作戦に参加している雄英1年生
A組 妹紅、八百万、芦戸、耳郎、葉隠、常闇、上鳴、切島、瀬呂、障子、峰田、尾白、砂藤
B組 拳藤、鉄哲、骨抜、塩崎、小森、取蔭、宍田、黒色、庄田、小大、柳
青山君の代わりに妹紅が入っている以外は原作通りの参加メンバーです。
(分断された!マズすぎる!)
『決シテ許サンゾ!』
「今、ここに神罰を」
コンプレスは窮地に陥っていた。『ダークシャドウ』と『ツル』という個性。どちらも炎系には劇的に弱い個性であるが、逆にそれ以外の個性に対しては有利を取りやすい個性である。特に、近接型の個性に対しては極めて強く出ることが可能であり、この2人が揃うと『ツル』で相手の動きを阻害し、その隙に『ダークシャドウ』が一撃必殺を叩き込むという連携も可能なコンビだった。
そして何より、この連携に悪戦苦闘するコンプレスは塩崎の『ツル』にカビの塊のような灰色の小さなキノコが付着していることに気付くことができなかったのである。
(徹底して中距離攻撃!近づいて『圧縮』ができねぇ!こちとら火傷で腕がマトモに動かねぇってのによ!)
コンプレスは常闇と塩崎を相手にするだけでも防戦一方だった。彼らは付かず離れずの距離で苛烈に攻め立ててきており、逆にコンプレスの手は全く届かない。相手の攻撃に対して『圧縮』で削りにかかるも『ツル』は一瞬で成長して元に戻り、『ダークシャドウ』は闇を補充して欠損すら治してしまう始末。
しかも、それだけではなかった。
「俺は邪魔にならない程度に『テープ』で援護しますよ、っと」
「私は『ポルターガイスト』で」
「ケヒヒ、逃げようとしたらまた足を引っ張ってやる」
「クリエティがさすまたを創ってくれた!近接班は『圧縮』対策にこれを持って包囲だ!連合はまだスピナーが残っているハズだし、包囲外からの奇襲もありえるかもしれねぇ!気をつけろよ!」
「む、見事な連携だ。下手に我が介入すると、むしろ包囲を崩しかねんな…。ならば我は樹上から警戒を行おう」
遠距離から的確な援護を放ってくる瀬呂と柳。服のどこに隠れたのかと思えば、いつの間にか木々の影の中で薄笑いを浮かべている黒色。さすまたを持って現れた切島、鉄哲、小大、庄田。そして万が一のイレギュラーに警戒する№7ヒーロー、シンリンカムイ。やり過ぎなほどの包囲であった。
(雄英生がどんどん集まってきてやがる!加えてシンリンカムイだと!?ふざけんな、新人ヒーローなら手柄を奪い合って隙を晒せよ!)
事ここに至っては最早コンプレスに有効策はなかった。新人にありがちな手柄の奪い合いもなく、猟犬に狙われた獲物のごとく追い込まれていく。逃げようにもトガを置いて逃げる訳にもいかず、仮に1人で逃げ出したとしても地上は包囲されてしまっている。得意の軽業で木々の上を移動しようにも、そこは既にシンリンカムイの『樹木』が辺りに張り巡らされている。
苦肉の策で先ほどトガを助けた際に『圧縮』した火の鳥を投げて放つが、既に妹紅の操作から解除された火の鳥は形を崩しており、僅かな炎を一瞬見せるだけで消えていく。
準備していた手札も全て使い切ってしまった。最早、コンプレスはどう足掻いても詰みであった。
「クソ、ここまでか…!」
「ああ、そうだ。大人しく投降しろ、Mr.コンプレス」
「はははっ。投降…投降ね…」
コンプレスは諦めた。もうトガと共に脱出することはできない。そこはもう諦めるしかない。だから自分自身を犠牲にしてでもトガだけは逃がしてみせると、そう覚悟を決めた。
彼女の『変身』は有用だ。己の『圧縮』なんかより、よほど死柄木の力になる。何よりトゥワイスだけでなく自分にとっても大事な妹分だ。だから逃がす。一年にも満たない付き合いだったというのに、コンプレスは不思議とそれが当たり前のように感じていた。
「…なにをするつもりだ?」
「なぁに、公演の最後には幕引きのショーってのが必要だろ?見せてやるぜ、最高のエンターテインメントを」
常闇はコンプレスが纏う雰囲気の変化を肌で感じていた。どこか切なく、同時に晴れやかな気配。決してヴィランが出せるような雰囲気ではなく、むしろ師であるホークスが纏っているような――自己犠牲の気配。
常闇の額に冷や汗が浮かんだ。そして、どんな攻撃が来てもいいように最大の警戒心で『ダークシャドウ』を構える。塩崎や包囲中の面々にも緊張が走った。
だが、それこそがコンプレスの策。彼はもう攻勢に出るつもりはなかった。『圧縮』で己の身体を削ぎ、目の前のヒーローの卵たちにぶちまける。そうして彼らが怯んだ隙に地面を『圧縮』して高速で掘り進み、茨の壁の下を潜るトンネルを作ってトガと合流するのだ。壁の向こうでは妹紅の炎やら火の鳥やらが飛んで来るだろうが己の身を盾にしてでもトガを『圧縮』し、川へ向かって全力で投げてみせる。攪乱のために『圧縮』した土の玉をあっちこっちに投げるのも良いだろう。全てが成功すればトガが海まで逃げ切れる。そんな仲間を逃がすためだけの一手。
分の悪いギャンブルであることは間違いない。だというのに、いっそ楽し気な心持ちでコンプレスは挑もうとしていた。
「さァ、見届けろ!Mr.コンプレス、一世一代の…ゴホッ!?」
しかし、である。
忘れてはならない。雄英高校1年B組には恐ろしい個性を持った女子生徒が在籍していた。その者の名は
「ゴホッ、ゲホッ!息がッ!?カハッ!なん…ゲホッゲホッ!ンだよ、これッ!?」
「わざわざ答える訳ないノコ」
そんなファンシーでキュートな個性(少なくとも小森本人はそう思っている)なのだが、彼女は実に恐ろしい必殺技を開発してしまった。それが『肺攻めスエヒロダケちゃん』という、相手の肺や気管支にスエヒロダケというキノコを生やして窒息一歩手前まで追い込むという必殺技だ。キノコの繁殖具合によっては気道を完全に塞いでしまうことだって可能だろう*1。
妹紅のような炎熱系個性持ちには炎で滅菌されてしまうため通用しないが、それ以外の相手には大体通用する。そして、やられた相手は何が起きたか分からない。まさか肺の中にキノコを生やされたなどとは思わないし、原因が分かったところで大抵はどうしようもない。そんな恐ろしすぎる必殺技だった。
小森はこのスエヒロダケの菌を塩崎の『ツル』に塗布し、それで戦わせていた。コンプレスは仮面を着けているため胞子を吸い込むのに時間がかかったが、一度吸い込んでしまえば彼に成す術はない。コンプレスは息も絶え絶えに膝をつき、喉や胸を掻き毟っていた。
「
「…神よ、我らの行いをお許しください」
「がはッ…!」
小森は木の裏から姿を見せずに声だけで指示を出していた。公明正大を旨とする塩崎にとっては本意と云える戦い方ではないが、だからといってこの場で手を抜くほど愚かでもない。彼女は眉間に深い皺を残しながらも『ツル』を的確に操りコンプレスをグルグル巻きにして締め落としにかかった。個性を使う右手だけは手の平が外を向くよう個別に拘束している。左の義手はダークシャドウが怒りを込めて握り潰していた。
「これさ、対象に手で触れて『圧縮』していたみたいだけどブラフかも。別の部位からでも発動できるとか、射程範囲内なら挙動なしでも発動可能とか、そういうのにも備えてた方が良いかもね」
「ええ、もちろん警戒しています。このヴィランだけでなく、周囲の森にも上空にも地面の中にもです」
「…見事だ。実に見事」
援護に徹していた瀬呂が冷静な視点でそう語る。それには塩崎も同意見であり、同時に周囲の環境にも警戒を強めていた。
瀬呂と塩崎のインターン先のプロヒーローであるシンリンカムイはその様子を手放しで褒める。個性のブラフや地中にまで警戒している姿はまるで歴戦のプロヒーローだ。これがインターン生、しかも高校一年生だというのだから凄まじい。今の雄英高校ヒーロー科は魔境か何かなのだろうか。シンリンカムイ自身ですら見習わなければと思うほど見事な手際だった。
「他にも何かあるかも。一手でひっくり返される可能性はゼロじゃないノコ。殴って確実に失神させた方が良いかな?」
『ヨシ、任セロ!』
「いや、警戒するだけでいい。呼吸の様子からして既に意識は混濁してきている。ここで変に打撃を与えると気つけ剤になってしまうかもしれん」
『殴ラセロォォッ!』
「うるさいぞ。黙って周囲の警戒をしていろ」
(嘘だろコイツ等…!この状況になっても油断しやがらねぇのかよ…!?)
実際のところ、もうコンプレスに打つ手は何もない。それでも彼らに油断はなかった。なにせ妹紅1人を相手にした模擬戦で最後の最後にやられた経験があるのだ。そして、それからはA組B組に問わず何度も訓練や模擬戦を共にした。有利な盤面から負けたこともあるし、不利な盤面から逆転勝利したこともある。故に油断はない。
そもそもこの戦闘における勝利条件はコンプレスを倒すことではなく、彼の身柄を逃さず確実に確保することなのだ。まだ見つかっていないスピナーの襲撃だけでなく、包囲を突破した解放戦線の戦士たちが幹部のコンプレスを取り返すべく襲い掛かって来る可能性だってある。
ある意味ここからが本番。彼らはそういう心構えでいた。
「ヴァイン、コイツのシルクハットと仮面を『ツル』で取ってくれ。天喰先輩に聞いたんだがよ、マスクの下に刃物を隠していたヴィランに斬られて、そこから戦闘の流れを大きく変えられちまったそうだ。用心しようぜ」
「はい。…仮面の下は目出し帽ですか。これも外しておきましょう」
切島の意見を採用して塩崎は仮面や帽子を回収する。幸い危険物や『圧縮』された玉などは入っていなかった。もしくはこれまでの攻防で使い切っただけなのかもしれない。
(トガちゃん…みんな……ごめ…ん……死柄木…あとは…たの……)
そうしてコンプレスの意識は闇に落ちていく。
私腹を肥やすヒーローモドキを標的に盗みを働き、盗んだ金品を市井にバラまき“世直し”を訴えたという伝説のスーパーヴィラン
しかし、それはもう成し得ない。最後は実にあっけなく、それでも心中で仲間に想いを託しながら倒れるのであった。
「ヴィラン連合のMr.コンプレス、撃破確認。スエヒロダケちゃん解除するノコ」
「…呼吸の確認よし。著しい呼吸困難に陥った場合や
「メイデンを要請した。我々は到着まで監視と警戒を行う。さて後は…」
コンプレスと周囲の警戒を続けながら常闇は茨の壁をチラリと見た。
壁の向こうでは妹紅とトガが戦っているはずだ。コンプレスの戦闘中、時折だが壁の高さを超えるほどの炎が見えていた。そして木々が燃えている匂いは今も漂っている。
あちらの状況次第では常闇たちも動きを大きく変えなければならない。彼らは緊張した様子で妹紅の勝利を願うのであった。
「ツルなんて炎で簡単に…ッ、がァッ!?」
「私と戦いながら、か?」
塩崎が『ツル』でトガとコンプレスを分断した直後のことである。
炎翼でトガを追っていた妹紅は上空5メートルほどで炎翼を畳むと、彼女に向かって急降下していた。足からの落下。つまり自身の体重と飛翔速度と重力加速度を利用した飛び蹴りである。落下する高さを調整すれば際限なく*2威力を高めることが可能であり、妹紅はこの必殺の飛び蹴りを『凱風快晴飛翔蹴』と名付けていた。
妹紅はこの威力抜群の蹴りをトガの頭部に叩き込むつもりであったが、寸前に気付かれてしまったことで頭部への命中は回避されてしまった。代わりに右肩から鎖骨あたりの部位にヒットし、周辺の骨を砕いていた。
「もご…だん…ッ!」
「ここで終わりにしよう、トガヒミコ」
トガが再生する隙を妹紅は逃さない。妹紅は手足に炎を纏って蹴り飛ばされた彼女に迫る。そして起き上がり際で膝を付いているトガの顔面に向かって蹴りを放った。助走を付けた全力のサッカーボールキックである。直撃すれば顔面の骨が砕けて失神もするだろう。
だが、トガはギリギリのところで上半身と顔を逸らして妹紅の蹴りを避けた。妹紅の履くゴツいブーツがトガの顔を掠め、頬の肉が下顎からこめかみの辺りまで裂傷する。足に纏わせていた炎は蹴り上げた折りに周囲の空気を焼いていた。
更に妹紅の追撃。蹴り上げた足が今度は斧の様に振り落とされる。渾身のかかと落とし。妹紅は全身の各所から炎を噴出させて身体のバランスを取ることで難しい連撃すらも容易に可能とする技術を身に着けていた。
されどトガの身のこなしも決して並みではない。死穢八斉會の本部においては、あの相澤に対してナイフの一撃を入れた上で逃走にも成功した少女である。猫のような警戒心と俊敏性を持ち合わせていた。
トガは尻もちをつくような形で後ろに倒れ込むと、そのまま後ろにクルリと転がった。そして、その後転の勢いで立ち上がる。妹紅のかかと落としは空気を焼いて切り裂くだけに終わった。しかし、だからといってトガの状況が改善した訳ではない。妹紅の攻撃は目に見えぬ形で続いていた。
「ううッ…!なんで!なんでッ!なんでェェッ!!ヒュッ――!?」
トガが顔を歪めながら叫ぶ。彼女の放とうとした言葉は何であったのだろうか。妹紅が話を聞いてくれない悲しみか、捕まることへの恐怖か、それともこの世界への恨み言か。いずれにしても言葉にできない感情の発露だった。
その叫びの直後、トガの喉が詰まった。呼吸が出来ない。肺を動かす横隔膜が、いや全身の筋肉が痙攣している。突然の身体の異変に彼女の充血した目玉だけがギョロギョロと動いていた。
「かッ…はッ…!?」
「酸素濃度6%。一呼吸で昏倒、痙攣、呼吸停止……意識が落ちきっていないな。元から呼吸が浅かったか…?」
妹紅がそう呟いた。先ほどの蹴り技は本命であり布石でもあったのだ。命中すれば良し、外しても纏っていた炎が周辺の空気を焼いてトガを追い詰める。そういう意図を含んだ油断も容赦も一切ない苛烈な攻撃だったのである。
だが、トガはまだ寸前のところで意識を保っている。偶然にして呼吸が浅かったか、本能的な警戒心で低酸素状態を無意識的に感じていたか。判断はつかないが妹紅のやることは変わらない。妹紅は火の鳥を作ると、それをトガの腹に向けて突進させた。みぞおちの横隔膜に叩き込んで強制的に呼吸させ、トドメとなる低酸素を吸入させるつもりだった。
(仁くん…)
火の鳥が迫る。トガの瞳から大粒の涙が零れた。
トガにとって捕まることは死である。未成年は死刑にならないと言われているが、実はそれは正確ではない。凶悪かつ大規模な個性犯罪事件の被疑者となった場合は未成年であっても
また、終身刑だったとしてもトガは耐えられないだろう。“好き”に生きる為にヴィランになり、ヴィラン連合へ加入したのだ。不自由の極みである牢獄は彼女にとって死も同然だった。
(仁くん…仁くん…)
神野区では捕まるくらいなら妹紅に殺されたいと思っていた。泥花市では『変身』した妹紅の姿で一度死んで蘇った。トガはそのくらい妹紅が好きだった。それほど歪に妹紅を想っていた。きっと最後の最後まで彼女を想い続けるのだろうとトガは思っていた。
だが、違った。妹紅本人に倒されるというこの瞬間。想った相手は一目惚れしただけの妹紅ではなく。『変身』した対象は不死身の『不死鳥』ではなく。
トガが本当に好きになった相手。
(…大好きだよ…仁くん…!)
「俺もだぜ、トガちゃん」
愛は奇跡を呼ぶ。
朦朧とする意識の中、トガの身体は現れたトゥワイスに優しく支えられた。
死を覚悟するほどの愛。すなわち、純粋極まりない好意の想い。それこそが『変身』で相手の個性を使用できるようになる条件だった。そして、トガは『二倍』に対して今その条件を満たしたのだ。
「俺を呼んだかい?」
「助けに来たぜトガちゃん」
「君を、皆を、必ず助けるよ。今度こそ」
「アッヅ!?ちょ、なんで俺だけ…」
増えていく。トゥワイスが次々に増えていく。トガの腹に向けた火の鳥は増殖したトゥワイスの1人に当たり、その後は増えていく複数の彼に潰されてしまった。
その増殖スピードは異常の一言だ。壊れた水道管から噴き出す水のように無数のトゥワイスが溢れてきていた。
「やべぇ、呼吸止まりかけてる!人工呼吸だ!」
「でも、『変身』してるから見た目は俺だぜ?絵面キツくね?」
「馬鹿、中身はトガちゃんだぞ!」
「脳内変換余裕だろ!どけ、俺がやる!」
「いやいや、俺が」
「なんて奴だよ、JKといえども流石にこれは許せねぇな」
「俺ちゃん復活!」
「俺の本体死んだってマジ?じゃあ俺が次の本体じゃん」
「何言ってんだ、元から俺が本体だぞ」
「ホークスは絶対殺す。マジ殺す」
「ていうかヒーロー共は殲滅だろ」
「ま、そういう訳で」
「「「「お仕置きの時間だぜ、ヒーロー!」」」」
死ぬほど騒がしく、言っていることもてんでバラバラなトゥワイスたちだが、彼らの目的そのものは一貫している。“連合の仲間を守る。ヒーローは倒す”。それだけだ。その為なら彼は全てを捧げることができる。
そうして大群の彼らは妹紅に襲い掛かってきた。
「変だな」
「「「「アっツぅい!?」」」」
しかし、事もなげに放たれた妹紅の炎によって彼らは一瞬で焼き尽くされた。普段の妹紅はヴィランを焼き殺さないためにも火力をかなり抑えている。つまり、破壊してもいい分身体が相手ならば遠慮する必要はないのだ。精々、トゥワイスたちに守られたトガを焼き殺さない程度の手加減で妹紅は炎を放っていた。
そんな当の妹紅は小首を傾げて疑問顔である。
「分からないな。『変身』して『二倍』が使えるのなら何故最初から使わなかった?たしかに私の意表をつくという点では成功したみたいだが、事前に『二倍』で増えていればこの戦況をもっと有利に出来ていただろうに。発動条件の有無か、それとも何か別の理由があるのか…む?」
妹紅の視点からすると実に不思議だ。自分の目の前で『二倍』で増えるなんて、どうぞ焼いてくださいと言っているようなもの。『二倍』を使えるならもっとマシなタイミングがあったはずである。それをやられていたら妹紅たちヒーロー側はかなり劣勢に立たされることになっていただろう。
まさか土壇場で『二倍』が使えるようになったとは露にも思わず、妹紅は様々な可能性に考えを巡らせる。そうして炎が明けるとそこには倒れているトゥワイス(に変身しているトガ本体)と、それを守るように集まっている大勢の妹紅(に変身しているトガの分身体)たちが居た。
「ゲホッゲホッ…!はァはァ…!スゥー…ハァー…!仁くん…また仁くんを…!」
「トガ本体を炎と低酸素から守ったのは複数の
トゥワイスに『変身』したトガ本体。彼女を炎から守るために妹紅の姿に『変身』したトガの分身体。周囲は低酸素状態ではあるが、分身体が本体へと息を吹き込むことで呼吸を可能とさせていた。その度に息を使い尽くした分身体がバタバタと倒れていくが、本体さえ無事であれば新たな分身体は幾らでも作り出せる。すなわちトガは炎も低酸素も克服したということである。
一方で、妹紅は自分の姿でトゥワイス(両方ともトガではあるが)に長々と
「トガヒミコ。最後にもう一度聞くが、投降する気はあるか?」
「ある訳ないでしょ!もういい、藤原妹紅…!所詮お前もルールに合っていただけ…!もう私はヴィラン連合以外何もいらない!全部、全部…!お前の目の前で何もかも焼いてやる!」
トガは激怒していた。妹紅とはどうやっても相容れないだろう。彼女はそれを理解してしまった。そして、これ以上会話を続けていると妹紅のことが大嫌いになってしまい、『不死鳥』が使用できなくなるかもしれない。そんな感覚が何となくあった。
だから、その前に終わらせる。大量に増やした『不死鳥』の
トゥワイスの『二倍』が使える時間は血の摂取量からして30~40分程度が限度だが、それも問題ない。この群訝山荘のどこかにトゥワイスの遺体があるはずだ。たとえヒーローが隠していようとも無限の人員で虱潰しに見つけ出すことができる。そして彼の遺体を愛しみ、血を啜ろう。残りは大事に保管して、必要な時にまた啜ろう。そうすれば、また一緒に居られるから。
「ヴィラン連合は全てをブッ壊す!こんな生きにくい世は燃え尽きてしまえ!!」
トガは抗う。最後まで。ただひたすらに。
トガヒミコとして、好きに生きる為に。
トゥワイスの疑似死者蘇生
ヒロアカ原作の最終戦争時。トガが『二倍』で増やした無数のトゥワイスは、実はトゥワイスではなく彼に『変身』したトガ分身体たちでした。そのため死んだトゥワイスを『二倍』で作り出すという疑似死者蘇生が出来るかどうかは原作において不明です。もしかすると“死んだ”と認識すると情報がアップデートされて作り出せなくなるのかもしれない。
このSSではトゥワイスの疑似死者蘇生に成功しましたが、それはこの時点のトガ視点では彼本人の死体を見ておらず、“トゥワイスは多分死んだ”という不確定情報の状態だったためギリギリ成功した。ということにしようと思います。
逆に、血を採取するためにトゥワイスの死体を確保すると、トガちゃんはトゥワイスの死亡を完全に認識しちゃって疑似死者蘇生が出来なくなるでしょう。なので、結局ずっとは一緒に居られません。悲しいなぁ、トガヒミコ…。
元ネタは東方深秘録の妹紅のスペルカード『不死「凱風快晴飛翔蹴」』。相手を一度上に蹴り上げてから地面に向かって蹴り落とした後、炎で作った富士山を噴火させてダメージを与える技。
このSSでの妹紅は単純な蹴り技として使っている。落下式のライダーキックであり、落下速度次第ではとんでもない威力になる。純粋な物理技が『ワーハクタク式格闘術』しかない妹紅にとっては貴重な高威力物理技であるが、加速し過ぎると衝撃で足と身体が潰れるし目標を外すとただの飛び降り自殺になる。5m程度の高さでも足は痛めるだろうから蘇生・再生が前提の技。
こんな生きにくい世は燃え尽きてしまえ!
元ネタは東方深秘録の妹紅の怪ラストワードである『こんな世は燃え尽きてしまえ!』から。ニッコニコの妹紅が青白い光の玉を作り出し、それを大爆発させてダメージを与える技。なお、妹紅の体力ゲージは全損するが、直後『リザレクション』使用時と同様に回復する。
このSSでは妹紅に変身したトガのセリフとして少し付け加えて引用。『二倍』で無数に増えた『不死鳥』トガなら本当に全世界を焼き尽くすことが出来るだろう。そして焦土と化した世界でヴィラン連合の原始生活編が始まるのである。海しか無事なトコが残ってねぇ!加減しろ莫迦!