【とある魔術の禁書目録】朝起きたら人生勝ち組エリートコースだった俺が通りますよ   作:白滝

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警告タグ「残酷な描写」を今更ながらつけました。
日常ラブコメを期待されていた方には、本当に、本当に申し訳ございません。
しかし、2章を書いた1年前の時点で、既にこのシナリオが頭の中にあり、変更する予定はありませんでした。ご了承下さい。


第九章 何かの間違いで主役になってしまったモブキャラ Crazy_Woman...Kihara

「うげほっ!!ハァ、ハァ……」

 汚い水を大量に飲んでしまった。

 が、かなり遠くまで逃げれたはずだ。夕方を過ぎて夜だったこともあり、暗闇の中で水中を泳ぐ俺を追えるはずがない

 ……と、そう祈る事しかできないんだが。

 震える身体を動かして、路地に逃げ込んだ。

 ゴミ箱に腰をかけ、一息つく。

 この先、どうしたらいいか分からない。

 警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)も、頼っても事件を揉み消されてしまうんじゃないか?

 あの女、混晶ならやりかねない。

 いや、絶対にそうする。統括理事会の全権を握ってるんだし、そのくらい平然とやってのける。

 だから、警備員(アンチスキル)の詰め所に駆け込んだところで、自分の居場所を奴らに教えてしまうようなもんだ。

 ……というより、俺はこれから一生逃亡生活を続けるってのか!?

 無理だ……できっこない……

 学園都市から逃げ出そうか?

 いや、それも無理か。俺は統括理事会なんだし、俺を引き止めるように混晶に通達されてるかも……それも、博打だ。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

 もうどうしたらいいか分からない。

 もう、俺に逃げ場なんてない。

 大人しく殺されればいいのか?

 嫌だ、死にたくない!!

 俺は死にたくない!!

 もっと、もっと前に気付けたら、事態を回避できたんじゃないのか?

 つい、そう思ってしまう。

 混晶に統括理事会のビルに連れて行かれて、風呂ではしゃいでいた時。

 あれが最後のチャンスだったのに!!

 今思い返せば、本当に下らない。吐き気がする。

 自分自身がウザ過ぎて、無知過ぎて、愚か過ぎて……

 でも、あの時の俺は、ただただ目の前の事情しか呑み込めていなかった。

 振って湧いたような、宝クジより確立の低い奇跡のような幸せな状況に、疑問を抱いていなかった。

 考えを放棄していた。現実逃避していた。

 もし疑問を突き詰めていったら、この幸せな時間が終わってしまう気がしたから。

 ……なるほど、混晶に『無能』って言われる訳だ。

 彼女は、目の前の事態に疑問を抱かず、のうのうと遊んで暮らすだけの『無能』な人材を探していた。

 まさに俺じゃないか……

 今、この学園都市で、何が起きて、何が蠢き、何が暗躍し、何が死にゆくのか、俺は全く考えを巡らしていなかった。

 愚かだった。

 ちゃんと自分の頭でよく考えてから行動すればよかった。

 そうすれば、これほどクラスの皆の命を落とさせずに済んだというのに……

 後悔しても、遅い。

 後悔する段階にならなきゃ事態の深刻さに気付けないほど、俺は『無能』な人間だった。

 どこまでどこまでも致命的に遅すぎる。

 ボロボロと涙が流れた。

「騙された……騙された……あの女に、騙された……」

 悔しい。

 自分に対して。

 『無能』すぎる自分の惨めさが、ただただ悔しい。

 しかし、悲しみにくれる時間はなかった。

 携帯電話が鳴った。

 ビクリと震える。

 慌てて開くと、メールが受信されていた。

 件名も本文もなく、動画ファイルが添付されていた。

 ゴクリ、と。

 無意識の内に、唾を呑み込む。

 震える指を動かして、自分でもやっと思いで再生ボタンを押した。

 

『池村和清ォ!!逃げ出すとはいい度胸してるじゃないか!!そのテメェの「無能」さが、仲間をさらに危険に晒している事に気付けないのかぁ?……あぁ、「無能」だし気付くわけがねぇか』

 

 動画は、パン屋の中だった。

 バニー女、鞠亜ちゃん、委員長、誘波ちゃんが順番に手錠で天井から吊るされていた。

 服は全て剥ぎ取られ、その身体はボコボコにされた打撲痕が残り、青黒い内出血の斑点がいくつも皮膚に浮き上がっている。

 全員が口を布で縛られ、声が出せないようになっていた。

 

『テメェが逃げたら、残されたコイツらが拷問されるとは思わなかった訳ぇ?あぁ、平和ボケしてるから、拷問とかいう発想が出てこねぇのか?……まぁいいや、今からコイツら順番に「壊し」てくわ』

 

 そう言って、動画の中で、混晶がメスを取り出した。

 バニー女の腹にエタノール液と書かれた洗瓶の液を塗りたくり、そして、

「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 俺の声など届くなずもなく、混晶がバニー女の腹を開いた。

 あろうことか、その腹から零れ出るの内臓を引っ掴み、引っ張り出した。

 

『おーおー、健康だねぇ、その若さが羨ましいわぁ。……はい、じゃあ、テメェは今から自分の小腸で二重跳びしろ』

 

 ……………は?

 

『おい、ボケっとしてんな、バニースーツの変態女。輸血は逐次行って殺さないようしてやってんだから、安心してさっさとやれよ。どんなに死にそうになっても、「絶対に延命させてやる」から、安心していいぞ』

 

 頭が、真っ白になった。

 

『おい、早くしろ。……あ、今の若い子って縄跳び知らないの?さすがに知ってるだろ、早くしろ。たった一○回でいいから』

 

 ボロボロと。

 バニー女が、涙を流しながら、自分の小腸を手で握り、縄跳びをし始めた。

 激痛が走るのか、絶叫するような悲鳴が炸裂する。

 

『おーし、いい悲鳴だ。これをBGMにしながら、次の拷問にいこうか』

 

「や、やめろ……やめてくれ……」

 動画内なのに、思わずそう呟いてしまう。

 混晶が、蛍光灯を引っ張り出してきた。誘波ちゃんに、近寄っていった。

 そして、

 

 

 なんと、それを彼女の性器に突っ込んだ。

 

 絶叫が響いた。

 

『いい悲鳴だァ……が、もっと昇天(イカ)せてやる』

 

 混晶が、距離を取った。助走をつけて走り出す。

 その意味が、分からなかった。

 直後だった。

 

 混晶が、誘波ちゃんの腹に跳び蹴りを喰らわせた。

 

 

 蛍光灯が、破裂した。

 彼女の膣が、内側から破れ――――

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 ケータイを投げ捨てた。

 もう見れない。

 見れない!!見れる訳がない!!

「うっ……お、ェ、ぇぇええええええええええええええええええええええ!!」

 吐き気がせり上がり、ゲロを吐いた。

 息が荒くなる。

「お、俺だ……俺のせいだ……俺が逃げたから、こ、こんなことに……」

 俺が『無能』だったから!!

 俺みたいなクズなんかが生き残るより、彼女たちの方が生きてる価値がある。

 なのに!!

 そのチャンスを放り投げてでも彼女たちは俺を助けに駆けつけて来てくれたのに!!

 俺は!!

 俺は、自分の事しか考えず、彼女たちを置き去りにして逃げてきてしまった!!

「クズだ……俺は、どうしようもないほどクズ野郎だ……」

 急いで、混晶に殺されに戻ろう。

 『不良の事故』で殺すって言ってたけど、それは俺に限る話で、彼女たちをどこまで延命させるかは混晶の気分次第だ。

 俺が逃げ続けて彼女たちに人質の価値がないって分かったら、マジで殺すだろう。

 あの女ならやるはずだ。

 でも、このまま俺がノコノコ戻ったって、『目撃者は殺す』的な感じで、混晶の秘密を知ってる彼女たちはどうせ殺されるんじゃないか?

「み、みんなを助けなきゃ……お、俺しか……俺がやるしかないんだ……」

 膝がガクガク震えた。

 自分で言いながら、それが不可能だって事に無意識に気付いてる。

 無理だ。

 できる訳がない。

 だって、どうせ悪足掻きしてもどうにもできない『無能』さを見込まれたから、混晶は俺を統括理事会に仕立て上げたんだ。

 混晶に、この世の誰よりも『無能』である事を評価されたせいで、俺は今、こんな事になっているんだ。

 『無能』すぎる俺が、今更何をしたって、奴らをやっつけられる訳がないじゃないか……

 無理だ、無理に決まってる。

 彼女たちを、助けに迎えに行くヒーローみたいにはなれない。

 悪に立ち向かう勇気なんてない。

 悪を退ける力もない。

 俺なんかせいぜい、他人の足を引っ張る『無能』な役回りしかできない……

 

 

 そこまで考えて、俺はふと、とある事を思いついた。

 

「あれ……いや、待てよ……」

 

 もしかしたら、いけるかな、と思ってしまった。

 そんな訳ねぇだろ、と心の中で理性が叫んでいる。

 でも、この方法ならなんとかなるんじゃないか?

 そんな希望が、俺の目を曇らせた。

 どっちみち、これしか方法はない……と思う。

 あとは、俺が一歩を踏み出す勇気を出すだけ。

 もう、帰り道のない地獄への片道切符を手にするだけ。

「ふぅーー……ふぅーーーー……」

 大きく深呼吸する。

 まだ、終わっちゃいない。

 どんなに『無能』でクズな俺でも、まだ彼女たちを助けられる可能性が、ギリギリ、なくもないんだから……

 ケータイを開き、メール画面を開く。混晶のメールに、返信する。

 その、

 勇気を、

 俺は、

 踏み、出す!!

 

 

 

 

「一夜が明けたわ。昨晩、奴からメールで送られてきた話だけど、もうそろそろ明け方なんだし、奴がこのパン屋に戻って来るのよね?」

「はい、そうです。一応は逆探知をかけたんですが、途中でケータイは破棄されたようで、池村和清の姿は確認できませんでした」

「あっそ。まぁ、来なかったらこの哀れな女共を殺すからいいわ」

 そう言って、私、木原混晶は欠伸をしながらパン屋の外に出た。

 喉が渇き、外の自販機でジュースを買う。

 昨晩、池村からメールの返信があった事には驚いたが、今朝まで待ってくれ、という時間稼ぎの交渉にすぎなかった。

「まぁ、どうせあの『無能』なクズ野郎に今更できる事なんてないっしょ」

 そう言って、栄養ドリンクをゴクゴクと飲む。

 警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)絡みのツテを頼る程度なら、統括理事会の圧力で揉み消せるレベルに過ぎない。

 どうせ、あの男がどうにかできるはずがない。

 だからメールの条件を承諾した。

 日は昇り、朝になってるし、そろそろタイムリミットが近づいている。

 あと三○分以上経過したら、一人ずつ女を殺していこうか。

 そんな風に考えていた。

 

 その時だった。

 

 向いの道路を通り過ぎようとしていた、運送トラックが横転した。

 玉突き事故が巻き起こった。

 対向車線にもはみ出した自動車同士が真正面から衝突し、轟音を響かせた。

 ボンネットがひしゃげ、ガソリンが漏れ出ている。

(まっず!?)

 慌てて地面に伏せる。

 爆炎が撒き散らされた。

 爆風が自動車を次々と巻き込み、新たなガソリンに引火して、爆風がうねる様に拡大する。

 黒煙が道路に立ち込めた。

 慌ててパン屋から黒服達が飛び出してきて、私の護衛に入る。

「何が起こった!?」

「確認急げ!!」

「混晶様、室内に退避しましょう!!」

 そう言う黒服達の声を遮るように、一人の男が声を挟んできた。

 

「ちょっと待った。ちょい待ち、ちょい待ち。俺が通るんだ、道を開けてくれよ、おっさん達」

 

 私と黒服達が、一斉に背後を振り返る。

 そこにいたのは、パーカーで顔を隠した青年だった。

 いや、私はコイツの顔を知っている!!

 コイツは、

 

「池村、和清……ッッ!?」

「はいはい、退いた退いた。俺が誰か知ってんでしょ?」

 言いながら、両手を広げながら、ゆっくりと語る。その顔には、笑みが貼り付けてあった。

 

 

 

「――――朝起きたら人生勝ち組エリートコースだった俺が通りますよ」

 

 




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