ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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※今回の話には、私の独自解釈に基づいたオリジナル設定が含まれています。


超越形態への挑戦

 

 

 大猿――それはサイヤ人が本来の力を解放した姿だ。

 

 太陽の光を満月が反射した時、「ブルーツ波」というものが発生する。サイヤ人の目はそれを受信することが出来る構造になっており、受信した出力(ゼノ)が1700万の数値を超えると尻尾が反応し、大猿に変身するのだ。

 大猿化したサイヤ人の戦闘力は受信したブルーツ波の強さが影響し、満月が一つならばその力は通常の10倍に跳ね上がる。かつて地球に襲来したサイヤ人の王子ベジータは地球に月が無いことから代用のエネルギーボールを利用して変身したが、その時は満月のブルーツ波による大猿よりもやや戦闘力の上昇率は落ちていた。

 

 しかし逆に、この数値を過剰な出力で受信した場合はどうなるのか。

 

 満月よりも強力なブルーツ波を浴びた場合には、10倍以上の力を持ったさらに強力な大猿に変身することが出来る。

 しかし、どんな莫大なエネルギーも過剰に過ぎれば器の崩壊を招く。サイヤ人の肉体もまた、本来ではあり得ない量のブルーツ波を浴びることによって、その体組織に異常を来す可能性があった。

 

 ベビーに宿るツフル王の知識を基にサイヤ人について研究していたネオンは、彼らを大猿に変化させる「ブルーツ波」の存在にブロリー打倒の可能性を見出していた。

 

「まあ、要は大猿化させる為の「ブルーツ波」を過剰に摂取させることで、アイツらの身体を内側から爆発させようって作戦さ。昔のツフル人も、悪いサイヤ人を打倒する為にそんな作戦を考えたことがあるみたい」

「爆発って……おっかないですね」

「私とベビーは時間を掛けて、ブルマさんに意見を貰ったりもして人工的にその「ブルーツ波」を増幅させる装置を作った。月は無いけれど、地球からも微弱なブルーツ波が出ていてね。それさえ増幅すれば、月以上のブルーツ波を浴びせることが出来るんだ」

 

 かつてピッコロに破壊されたことによって今は月が存在していない地球だが、地球自体も出力は弱いが月と同じようにブルーツ波が発生していた。

 そこでネオンは「ブルーツ波増幅装置」という、地球から発生している微弱なブルーツ波を自在に増幅させる装置を作ったのだ。

 その装置によって過剰な出力まで増幅させた膨大なブルーツ波をブロリーに浴びせることによって、彼の力を無理矢理膨れ上がらせて自爆を引き起こすことが、ネオン達の企てた元々の計画だった。

 しかし、今はその装置を本来の用途で利用する気は無いのだと彼女は語る。

 その理由は、相手がブロリーだからという一言に尽きた。

 

「自爆を狙っても、ブロリーがその力に耐え抜いて自分のものにしてしまったら……」

「そう、君の言う通りだ。完成したのはいいけど、ブロリーの力は私達の予想を遥かに超えていた。パラガスはともかくブロリーの力は本当に常識外れで……過剰なブルーツ波を浴びせたところで、自爆するどころかさらにパワーアップさせてしまう危険の方が大きかったんだ。

 だからその装置は、出来れば使いたくない最後の手段にすることにしたわけだけど……そこに君達が現れた。君達が居れば、その装置も別の使い方が出来ると思ったんだ」

「別の使い方?」

 

 そこまで言って、ネオンは悟飯とトランクスの姿をまじまじと見つめる。

 そして二人の腰部に目を向けて一瞥するなり、むむ……と、眉間にしわを寄せながら問い質した。

 

「悟飯、トランクス君。君達に尻尾が無いのは生まれつきで、半分が地球人だからなのかい?」

「? いえ、昔は生えていましたけど、切れて無くなってしまったんです」

「僕は、赤ん坊の頃に取ってしまったと母さんに聞きました」

「そうか……いや、その方が都合が良いのか」

 

 二人がサイヤ人の血を引きながら、サイヤ人の象徴とも言える尻尾が無い理由についてネオンが思考を纏めるように頷きながら、ぶつぶつと呟く。

 そんな彼女の姿を見て、悟飯はあることを察した。

 

「ネオンさん、まさかその装置で俺達を大猿にする気じゃ……」

 

 彼女は最強の超サイヤ人であるブロリーに対して、悟飯達を大猿にして戦わせようとしているのではないのかと。

 だとすればそれは、とても容認出来ないことだ。悟飯が過去に大猿になったのは幼年時代の一度だけだが、大猿化した悟飯にその時の記憶は無く、ほとんど理性を失っていたという証言だけが亡き父やクリリンから聞き及んでいる。大猿化した自分は、見境なく大暴れしていたというのだ。

 その時は弱かった幼年時代だから、まだ取り返しがついた。しかし仮にも超サイヤ人にまでなった自分が大猿になってしまえば、理性が無くなっている間にこの地球を滅ぼしてしまうかもしれない。

 だから無謀すぎると意を唱えようとする悟飯の問いに、ネオンは答える。

 

「うん、半分正解」

「半分?」

「……何が半分なんですか?」

 

 要領を得ない答えにトランクスが首を傾げ、悟飯が怪訝に眉をしかめる。

 そんな二人に、ネオンが続ける。

 

「君が懸念している通り、君達が大猿になったらブロリーと戦うどころか地球が終わっちゃうからね。ツフル王の記憶によればプラント星を滅ぼしたのも、大体が理性を無くして無茶苦茶に暴れ回った下級戦士のせいだったって言うし……私だって、君達にそんなことはさせたくない」

「では、どうするんですか?」

 

 大猿化における多大なリスクは把握済みだと言った上で、彼女は語る。

 自身が開発した「ブルーツ波増幅装置」の、その使い方を。

 

「大猿にならずして、大猿の力を手に入れようってわけ」

 

 装置を使って悟飯達を大猿にするのではなく、大猿の力だけを獲得させる。

 姿は今のまま、大猿化の際におけるパワーアップだけを吸収するという、いわゆる良いとこどりである。

 確かにそれならば理性を手放して暴走する危険も無く、ブロリーに対抗出来る力が得られるかもしれない。しかしそのような都合の良いパワーアップが本当に可能なのかと、当然ながら悟飯の頭には疑問が浮かんだ。

 ネオンの言っていることは、それほど突飛な発想に基づいた未知の世界だったのだ。

 

「そんなこと……そんなことが、出来るんですか?」

「君達が浴びるブルーツ波の出力次第では、理論的には可能な筈なんだ」

 

 どこか学者然とした笑みを浮かべながら、心なしかメガネの似合いそうな表情をしたネオンが説明する。

 

「サイヤ人は大猿になると、どうしてパワーが上がるのかわかるかい? それは単純に身体が大きくなるのも理由の一つだけど、実はそれだけが理由じゃないんだ」

「違うんですか?」

 

 サイヤ人の持つ基本的な性質である大猿化。

 それは悟飯にとってはもはや懐かしく、彼よりも下の世代であるトランクスに至っては自分に関係する変身であることさえ実感がないだろう。

 そんな二人に対して、ネオンは大猿化にまつわる「サイヤ人」という種族そのものへの研究成果を口にした。

 

「君達サイヤ人の身体には、基本的な「気」とはまた別の、サイヤ人だけに宿っている特別なエネルギーがあるんだ」

「特別なエネルギー?」

 

 かつてサイヤ人と敵対し争っていたツフル人の王は、サイヤ人以上にサイヤ人の身体情報に詳しかった。

 そして今、ブロリーとパラガスという二人のサイヤ人を倒す為に研究を重ねてきた彼女らは、かの王が恐れたものと同じ可能性を彼らに見出していた。

 

「それが「サイヤパワー」……サイヤ人の持つ、力の根源さ」

「サイヤ、パワー……?」

「そんなものが、僕達の身体に……?」

 

 気や戦闘力とは違う、サイヤ人の身体が宿す特殊なエネルギー。

 その単純にして明快なネーミングは、やはり悟飯達には実感の無いものだった。

 

「そのサイヤパワーは、何度か死に掛けたり地道に身体を鍛えたりしても増幅させることが出来る。だけどブルーツ波を目から浴びた時なんかは、桁違いに膨張していくものなんだ。大猿化したサイヤ人が戦闘力を増すのも、ブルーツ波を浴びたことによって力の根源たるサイヤパワーが跳ね上がるからだっていうのが私達の見解だね。

 ツフル王の記憶によるとサイヤ人が大猿化するのも、元々は膨れ上がった自分のサイヤパワーで身体が壊れないようにする為の防衛本能みたいなものらしい」

 

 あくまでも自分達の見解、仮説だと語るネオンだが、自信を持った解釈はこちらが納得したいと思える説得力がある。

 ブルーツ波を浴びることによって内に秘められたサイヤパワーが増幅され、そのサイヤパワーに肉体が対応する為に大猿へと変化する。ブルーツ波とは大猿化への引き金であると共に、サイヤパワー増幅への鍵でもあるのだ。

 そこでようやく、悟飯はネオンの狙いを理解した。

 

「そうか……ネオンさんは俺達にブルーツ波を浴びせることで、そのサイヤパワーというのを引き出そうと考えたんですね」

「正解。ある程度までなら過剰なブルーツ波を浴びても、尻尾がない今の君達なら大猿になることはない。サイヤパワーだけが膨れ上がって、いつもの姿のまま大きなパワーアップが出来る筈なんだ」

「でも、それでは俺達の身体が爆発してしまうんじゃないですか? 元々ネオンさんはブロリーを相手にそれを使って、自爆させようと考えていたんですよね?」

「そこは、受信させるブルーツ波の出力次第だね。普通の状態なら苦しくて耐えられないけど、超サイヤ人の状態ならなんとか耐えられる出力で浴びせればいい。最初は普通の状態で過剰なブルーツ波を浴びて、サイヤパワーの増幅が身体の限界に達した瞬間、大猿の代わりに超サイヤ人に変身するんだ」

 

 ネオンの解釈通り、サイヤ人の大猿化が膨れ上がった自分のサイヤパワーで身体が壊れないようにする為の変身であるのだとするならば、その変身は大猿でなくても良い筈なのだ。

 膨れ上がったサイヤパワーに押し潰されない姿になるという一点で言えば、大猿よりも遥かに強力な変身である黄金の戦士でも代用は可能な筈だった。

 

「そうか! 大猿に変身する代わりに、超サイヤ人に変身すればいいのか!」

「うん、伝わってくれて助かるよ。ブルーツ波の出力や変身するタイミングの調節はシビアになるけど、それはこっちでなんとかする」

「考えましたね。なんかネオンさん、学者さんみたいです」

「そ、そう? ありがとう」

 

 話が見えてきたことで、悟飯はその裏技めいた進化の可能性に一縷の希望の光を見出す。

 そしてここまでの話をまだ理解しきれていない様子のトランクスに対して、ネオンは自分の中でも話を纏めるように今回語った内容をおさらいした。

 

「えっと、それはつまり……」

「大量のブルーツ波を浴びせることで君達のサイヤパワーを増幅して、超サイヤ人を超越した新しい超サイヤ人をつくろうって話かな。簡単に言うと」

「……なんとなく、わかりました」

 

 幾つか仮説の入っているネオンの研究内容が全て正しいことが前提条件になるが、その実験が成功すれば超サイヤ人という悟飯達が行う変身をさらにもう一段階、科学的にパワーアップさせることが出来るだろう。

 大量のブルーツ波によって10倍化した大猿パワーを得た上に、重ね掛けした超サイヤ人への変身でさらに上乗せするのだ。予測される戦闘力は通常の400倍か、500倍か……それほどまでに、桁違いの数値を叩きだしていたとネオンは語る。

 

「超サイヤ人をさらに超えるだなんて……そんな発想は、なかったな」

 

 超サイヤ人の時点で圧倒的なパワーアップをしている以上、さらにその上の変身が出来るなどとは現実的に難い話だと悟飯は思っていた。

 しかしサイヤ人という種族は、元来途方も無い可能性を秘めた生き物なのだ。そういう意味では己に流れる半分の血が地球人である悟飯達は、サイヤ人の力を未だ過小評価していると言えた。

 問題なのは敵もまたサイヤ人であるということだが、そこは最初から計算で推し量れるものではない。

 

「本物のサイヤ人を相手に試したことがない以上、今のところは成功率どころか失敗した際にどんなリスクがあるのかもわからない。だけど君達が五日以内にブロリーを超える力を身に着けるには、これが一番の近道だと思う」

 

 かつてサイヤ人に滅ぼされたツフル人の技術が、今を生きるサイヤ人に道を示す。何とも皮肉な話だ。

 しかしツフルの頭脳とサイヤの力が合わさればどんな敵にも負けないという彼女の言葉は、二つの種族を語る以上この上ない説得力があった。

 頭脳と力にそれぞれ特化している二つの種族は、互いの短所を補い合いながら、互いの長所をより引き出せる関係なのだ。……その関係が、友好的でさえあれば。

 

「……俺達の身体が超サイヤ人を持ってしてもブルーツ波に耐えられなかった時は、自爆する危険があるんですよね?」

「うん。持ち掛けておいてなんだけど、はっきり言ってこれは危険な賭けになる。だけど君達がこれからの五日間私達の研究や調整に付き合ってくれれば、なんとか成功率を100%に近づけてみせる。だから……申し訳ないけど、この賭けに協力してほしい。……私も、君達がしてほしいことは何でもするから」

 

 入念な準備は既に行っているが、何分前例が無い為にどんな事態を引き起こすことになるかわからない。

 科学者としては少々頼りない、正直な話を言い放つネオンだが、それは彼女なりに表した悟飯達への誠意でもあった。

 一か八かの危険な賭けであり、最悪の場合はブロリーと戦う前に命を失うことになるかもわからない。しかしそれでも、今は迷っている時間すらないのが彼らを取り巻いている厳しい状況だった。

 

「やりましょう、悟飯さん! ブロリーを倒せるなら、危険でもやるしかないです!」

 

 威勢よくそう言い放ったのは、彼女の言葉を純粋な心で信じたトランクスの言葉だ。

 命と隣合わせの行動など、今までだって散々してきたことだ。彼らは数々のそれを乗り越えてここに居り、何よりブロリーを倒すという目的の為にはそれだけの覚悟が必要だった。

 幼いからこそ未来を恐れない、勇敢な目だ。そんな弟子の眼差しを受けた悟飯は幾ばくの間を置いてネオンに向き直り、言った。

 

「……そうだな。とりあえず、その装置っていうのを見せていただけますか?」

「うん。この町から地上に出て、北に飛んだところに私のラボがあるんだ。着いてきて」

 

 悟飯も本当ならば、すぐにでも彼女の申し出を受けたいところだった。しかし、大人になった今はどうしても色々と考えてしまう。

 まずは彼女の作った「ブルーツ波増幅装置」というものをこの目で見て、こちらが信頼して命を預けるに足るものなのかを確認する。

 ネオンやツフル人の科学力を信じていないわけではないが、自分だけならばともかく、この賭けに愛弟子の命を預けるには慎重を期した。

 

 

 

 

 

 

 

 






 ブルーツ波万能説。
 本作ではこんな感じに、オリジナル設定を交えながらGTで登場した設定「サイヤパワー」に踏み込んでいきます。当分登場はないかと思いますが、本作では超サイヤ人4についてはジェネシックガオガイガーばりに扱いを大きくしていく予定です。

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