ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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超激戦

 伝説の超サイヤ人の体現者となったブロリーと悟飯の死闘は熾烈を極めた。

 一瞬の時間が一日よりも長く感じる人知を超えた戦いの中で、二人の拳や蹴りは何度ぶつかり合ったかわからない。

 火事場の馬鹿力という奴だろうか、悟飯はここに来て実力以上の力を発揮している自分に気づいていた。

 

「へあああっっ!」

「はあああっっ!」

 

 お互いに獣のような咆哮を上げながら、悟飯はブロリーに殴られ殴り返す。

 一進一退の攻防は、まるで燃え尽きる前のロウソクが放つ最後の輝きのようだった。

 

「負けられない……! もっとだ! 俺にパワーをくれえええっ!」

 

 自らの超越形態に対して、命じるようにその力を引き出す。

 彼の身から放たれる黄金の光が一際大きく広がった次の瞬間、悟飯の拳がブロリーの巨体を打ち、地面へと叩き落とした。

 しかしその敵を追い掛け、さらなる追撃を掛けようとした直後――悟飯の全身に堪えられない激痛が響き渡った。

 

「かはっ……ぐっ……!」

 

 身体中から急激に力が抜けていき、吐血を溢す。

 瞬間、悟飯の身体は糸が切れたように墜落していった。

 その瞳は金色の輝きを失い、満ち溢れていた筈の眩いオーラはあまりにも呆気なくプツリと途絶えた。

 とうとう肉体が超越形態の姿を保てなくなり、変身が解けてしまったのである。

 

「……う、嘘だ……まだ、俺は……っ、戦える……!」 

 

 ブラックアウト寸前の意識と痛覚さえ機能しなくなった肉体を引き摺りながら、悟飯は懸命に身を起こして立ち上がろうとする。

 しかし這い蹲った身体は彼の言うことを聞かず、どんなにもがこうと指一本動くことはなかった。

 その悟飯を復帰した空から見下ろしながら、悪魔がつまらなそうに問い掛ける。

 

「これで終わりかぁ? カカロットの息子ォ!」

 

 ブロリーとて、これまでの戦いで決して無傷だったわけではない。

 自らの圧倒的な戦闘力に任せてノーガードで飛び掛かっていく彼の戦闘スタイルは、スピードを軸にした超越形態の攻撃を幾度となく受け続け、剥き出しの上半身にはところどころに傷が刻まれ血が滲んでいた。

 しかし、それでもなお物足りないとでも言うように、彼の顔は不満そうだった。

 届かなかった……無理を通してまで得た超越形態の力をもってしても、悟飯は悪魔を倒しきることができなかったのである。

 

「お前が立ち上がらなければ……俺はこの星を破壊し尽くすだけだぁ!!」

 

 翠色のオーラを溢れさせながら、ブロリーが巨大な胸を張りながら高らかに叫ぶ。

 悟飯との戦いをもっと楽しみたいかのように語る口ぶりは、同じ純血サイヤ人である悟飯の父孫悟空にも似ていた。

 

 だが、違う。

 あれは悪魔だ。

 

 強くても、戦いが大好きでも、優しくて温かかった父とは似ても似つかないその姿を悟飯は怒りの目で見上げる。

 

「俺は……俺は……っ」

 

 両手をつきながらふらつく足に鞭を打ち、悟飯はゆっくりと立ち上がる。

 立ち上がったのだ。

 とっくに限界を超えている筈の肉体を起こしながら、孫悟飯は親から授かった二本の足で立ち上がり、抵抗の意志を見せてブロリーを睨んだ。

 

「さあ来い! ここがお前の死に場所だぁっ!!」

 

 伝説の超サイヤ人は立ち上がった悟飯の姿を、まるで遊び相手が帰ってきたかのように喜んだ。

 悟飯は額から滴り落ちる血流に視界を塞がれながらも、この悪魔と対峙し続ける。

 それが自らの宿命だと理解しているから。

 

 その悟飯に向かって右手をかざしながら、ブロリーがどこか感慨深そうな口調で言い放った。

 

「カカロットに会えるといいなぁ!」

「っ!」

 

 パシュ――と、ブロリーの右手から翠色の気弾が投げ放たれる。

 何の気なしに放たれたバスケットボールほどの大きさの気弾はスピードも遅く、普段の悟飯であれば簡単に避けられる筈の攻撃だった。

 

(くそっ……身体が……)

 

 思考が追いついても、身体が反応しない。

 もはや足で立ち上がれただけでも奇跡に等しい状態なのだ。そんな身体で敵の気弾を避ける余力など、今の悟飯に残っている筈がなかった。

 

(……ごめん……みんな……)

 

 迫りくる翠色の光を見つめながら、悟飯の脳裏に走馬灯が流れていく。

 ブロリーの気弾は今の悟飯が死を悟るには、あまりにも過剰な威力が込められていた。

 

 

 

 

 しかし、ブロリーの凶弾がここで悟飯の命を奪うことはなかった。

 

 

 突如として違う方向の空から飛来してきた紫色の光弾が、ブロリーの気弾の前に割り込んでは弾き飛ばしていったのである。

 ブロリーが現れた介入者の元へ視線を動かす。

 それは、予想だにしない人物の横槍だった。

 

「いいザマだな、超サイヤ人」

「……っ、お前は……!」

 

 愕然と佇む悟飯の前に、その男は腕を組みながらゆっくりと降り立つ。

 彼の不遜な声を耳にした瞬間、悟飯は何故この男がここに……という感情と同時に、何故この男が自分を助けたのかと怪訝な目でその後ろ姿を見つめた。

 

「また一匹虫けらが死にに来たか」

 

 邪魔者が現れたことを、取るに足らないこととして反応したブロリーが呟く。

 そんな彼に対して眉間を歪めながら、彼――クウラは言い放った。

 

「化け物め、この俺をコケにするのもそこまでだ」

 

 フリーザと似た白い姿で、クウラはブロリーの姿を睨む。

 その言葉にブロリーが返したのは、けたたましい哄笑だった。

 

「俺が化け物……? 違う、俺は悪魔だ! ふふふ……ははは、はっはははは、エハハハハハ! ウハッハハハハハハハハハハ!」

 

 宇宙の帝王フリーザの兄にさえ化け物と言わしめた男は、自らの存在を悪魔と訂正し高らかに笑う。

 だが、悟飯にとって信じられなかったのはブロリーの発言ではなく、数日前に惑星シャモで戦った男がこの星に現れたという不可解な事実だった。

 

「……クウラ……お前、どうして……」

「勘違いするな。俺は貴様を助けに来たわけではない」

 

 悟飯に背を向けたまま、クウラが語る。

 

「この星に来たのは貴様に復讐する為だ。……とんでもない邪魔者がいたみたいだがな」

 

 そう言い放つクウラの横顔から見えたのは、想像以上の悪魔の存在に対する一筋の冷や汗だった。

 この地球を訪れたのは、悟飯への復讐の為。しかしあのような悪魔まで存在していたなどとは、彼の方とて到底想像していなかったようだ。

 

「……フリーザめ。惑星ベジータを滅ぼしておきながら、あんな化け物を野放しにしていたとは……どこまでも甘い男だ」

 

 サイヤ人を絶滅しそこなった亡き弟フリーザに対して苦言を呈しながら、クウラが自らの「気」を高めていく。

 そんな彼の眼差しは彼の復讐対象である悟飯ではなく、悟飯よりも遥かに恐ろしい悪魔に対して向けられていた。

 

「孫悟飯と言ったな。貴様は必ずこの俺が殺す。だがその前に、目障りな猿野郎を叩き潰してやる!」

 

 爆ぜる気の解放の光と共に、クウラの姿がフリーザに似た姿からブロリーに迫る大柄な体格へと変貌していく。

 フリーザをも上回る第五形態への変身は、この宇宙の誰よりも強い筈の姿だった。

 超サイヤ人という怪物の存在さえなければ。

 

「クウラ、駄目だ……! アイツは、とてもお前が戦える相手じゃない……」

「黙れ!」

 

 クウラは超越形態を手に入れる前の悟飯ですら、あっさりと倒すことができた相手だ。

 いかにフリーザよりも強いとは言え、そんな彼の実力ではブロリーの相手はあまりにも荷が重い――と、悟飯はお互いに敵同士の間柄である故に気休めもなく制止を呼び掛ける。

 しかしマスクを締めて変身を完了させたクウラは悟飯の声に聞く耳を持たず、遥か格上の相手であるブロリーへと無謀に挑んでいった。

 

「俺は、俺より強い奴の存在を許さん! 俺のプライドが許さん! 奴を殺した次は孫悟飯、貴様だ! どいつもこいつも一斉に始末してくれる!」

 

 紫色のオーラを放ちながら、飛び上がったクウラの拳がブロリーの胸板に向かって次々と叩き込まれる。

 それらを受けてもやはり微動だにしないブロリーは、新しい玩具の登場に喜ぶように唇をつり上げた。

 

 クウラは不穏な叫びを上げながらも、ブロリーのことを自らの覇道において悟飯以上の障害と感じたのだろう。

 少なくとも今のところは悟飯に対して敵意を向けていない彼の姿は、本人の人格はさておきどこか心強い味方のように見えた。

 

「クウラ……これじゃ……まるで……」

 

 互いに敵として見定め合いながらも、共通の大敵を前にやむなく共同戦線を組む。

 まるで昔のピッコロさんやベジータのようだと、悟飯は今の彼の姿に在りし日の戦士の姿を思い出した。

 

 思わぬ援軍の登場に驚いた悟飯だが、しかし今更クウラが一人加わった程度で形勢は何ら変わらない。

 もはや立っているのも限界である悟飯は彼と組んで共闘することもできないまま、朦朧とする意識で片膝をつくばかりだった。

 

 しかし、悟飯には仲間がいた。

 

 超サイヤ人特有の黄金の光を放ちながらこの場に降り立った幼き戦士が、死に体な師の姿を見て血相を変えて駆け寄ってくる。

 

「悟飯さん! 良かった! ご無事でしたか」

「……トランクス……?」

「ネオンさんに言われて、俺のサイヤパワーを悟飯さんに渡すようにって!」

「……っ、そうか……確かにそれなら……ぐっ」

「ご、悟飯さん!」

「……だ、大丈夫だ……頼む、トランクス……クウラが、奴の注意を引き付けている内に……」

「クウラ!? は、はいっ!」

 

 パラガスを先に潰す為、ネオンと共にキングキャッスルへ向かっていた筈の弟子が、悟飯を助けるべく戻ってきたのである。

 確かにブロリーがあのような変身まで隠し持っていたとなれば、もはやパラガスを相手にする余裕もないだろう。

 今も疲労を感じさせない動きでクウラと遊んでいる(・・・・・)悪魔の姿を見て、悟飯は彼をこの場に寄越したネオンの判断を冷静に受け入れた。

 

(クウラも、あの時より強くなっているけど……それでも、ブロリーとは勝負にならない……)

 

 クウラも伊達に一度負けた悟飯に対し、リベンジをしに来たわけではないのだろう。

 その身から感じられる戦闘力は以前悟飯と戦った時よりも明らかに上昇しており、敗北を機に修行を積んできたのであろうことが窺えた。

 あれから数日程度しか経っていないことを考えれば、飛躍的なパワーアップと言ってもいいだろう。

 だがそれでも、悟飯の見立てでは今の彼の戦闘力はブロリーどころかネオンにすら勝てるか怪しいところだった。

 

「……奴とまともに戦えるのは、俺の超越形態だけだ……」

「悟飯さん……」

「トランクス……君は俺にパワーを与えたら、すぐにここから逃げるんだ。ネオンさんやブルマさん……みんなを連れて、地球から脱出しろ」

「っ、そんな……!」

 

 トランクスの手を掴み、早速サイヤパワーの吸収を行う。

 しかし、彼が飛べる分のパワーは残しておく。

 

 悟飯は既に察していた。

 トランクスのサイヤパワーでもう一度超越形態になり、おそらく数秒も持たないだろうその姿で戦ったところで……勝てる見込みは全くないことを。

 

 だが、希望はある。

 

 今回の戦いは少なくとも、超越形態ならばブロリーと渡り合うことができるという事実を示してくれた。

 ならば、もっと時間を掛けてこの力を磨き、より完全なものに仕上げることができれば……次こそは必ず、倒せる筈だ。

 

 自分よりも才能があるトランクスと、超科学力を持つネオン達さえ生き残れば、勝利への希望は残るのだ。

 

 そう思えば少しだけ……ほんの少しだけ、気持ちが楽になったような気がした。

 

(……元気でな、トランクス)

 

 カカロットの息子に興味を示しているブロリーは、決して俺を逃がしてはくれないだろう。

 だが、こんな身でも再度超越形態になれば二人を逃がすぐらいのことはできる。

 

 それがおそらく、自分にできる最後の役目なのだと悟飯は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気に入らない――配下を連れて地球を訪れたクウラが、初めて抱いたのはその感情だった。

 彼本人に対して言い放った言葉通り、クウラがこの星を訪れた目的は孫悟飯への復讐ただ一つだった。

 

 シャモ星での戦いに敗れたクウラはあの後、宇宙船のメディカルマシンによって治療を受け、間もなく完全な回復を遂げた。

 しかし命を拾うことができた彼の心にあったのは、自らが生き残ったことへの安堵などではなく、孫悟飯の慈悲によって見逃されたという事実への激しい屈辱だった。

 

 彼によって受けた敗北は、極悪人であるクウラに何の改心も引き起こさなかった。

 だがクウラの心の中には、それまでの彼になかったおびただしい執念の炎が燃え上がっていたのである。

 

 この世に俺に敵う者はいない。この俺が宇宙最強だと、そう確信していたクウラは周りの人間に興味を抱くことはなかった。

 あるのは宇宙最強としての力を証明する、圧倒的な破壊と殺戮だけだ。

 故にこそ、そんな行動原理の礎たる自分の強さへの自負を粉々に打ち砕いた孫悟飯の存在が許せなかった。

 

 しかし弟のフリーザとは違い、一族の中では異端なほど武人肌でもあるクウラは自らを超える超サイヤ人の力を好敵手として認めてもいた。

 

 この世にいる筈のないと思っていた、宇宙で唯一殺し甲斐のある相手――そんな感情を、クウラは悟飯に抱いたのだ。

 

 故にクウラは敗北後、鬼気迫る勢いで修練を積んだ。

 

 なまじ圧倒的な戦闘力を持つだけに、長らくの間戦いらしい戦いができなかったクウラは、孫悟飯との戦いを経て自らの驕り高ぶりと甘さを自覚したのである。

 そんな彼は父コルド大王を超える為に励んでいた若い時分よりも身体がなまっていたことに気づき、彼はその身体を鍛え直し、技を磨いた。その修行によって自らが制圧した惑星を七つほど宇宙の塵にしてしまったものだが、その程度の問題は些細なことだろう。

 それらで扱った修行場所に関してはフリーザやコルドの遺産が役に立ち、彼らが支配下に置いていた惑星の中から最も過酷な環境を選び修羅のようにトレーニングを行った。

 

 その結果、クウラの戦闘力は以前とは比べ物にならないほど強くなった。

 戦士とは、必要に迫られれば迫られるほど強く成長していくものなのだろうとこの時の彼は自覚していた。

 

 そうして自らの修行に手応えを感じたクウラは部下の機甲戦隊に宇宙船を出させると、孫悟飯の故郷だという地球へと向かった。

 

 噂の孫悟空や地球人類の死体の山をこれ見よがしに並べながら、彼は悟飯と再び戦おうとしていたのだ。

 

 ……しかし。

 

 到着した地球でクウラを待ち受けていたのは、次元の違う強さを持つ悪魔が支配するこの世の地獄だった。

 

「ちぃっ!」

「それで戦っているつもりかぁ? カワイイ攻撃だなぁ」

「ムカつく野郎だああああっ!!」

 

 復讐対象の孫悟飯は既に地球にいたにもかかわらず、彼は宇宙から接近するクウラの存在に気づきもしなかった。

 それは、クウラなどに構っている余裕もなかったということだろう。

 何故ならば彼はクウラよりも遥かに強大な敵を相手に、己の全神経を集中させていたのだから。

 

 ブロリー。

 

 クウラが憎悪する超サイヤ人は、同じ超サイヤ人と死に物狂いで戦っていた。

 そんな二人のぶつかり合いは、鍛え直したクウラの力が鼻で笑われるレベルの壮絶な死闘だった。

 宇宙船のモニターから孫悟飯とブロリーの姿を確認したクウラは、部下のサウザー達と共に衝撃を受け、震えている自分の身体に気づいたものだ。

 そしてその震えがさらなる屈辱を与え、クウラの憤怒はより一層激しく強まった。

 

 俺は宇宙最強だ。

 宇宙の覇王、クウラなんだ。

 その俺をさしおいて……奴らは一体、何をやっている……?と。

 

 クウラは自分より強い者の存在を許さない。

 故に、自らを打ちのめした孫悟飯よりも強い悪魔の存在も、彼には許せなかった。

 

 そして孫悟飯がとうとう追い詰められたのを見るや、クウラは気づけばこの場所にいた。

 部下の制止を無視して宇宙船を飛び出すと、自分でも理解しきれていない感情を抱えてブロリーに挑んだのだ。

 

「カァァァッ!!」

 

 パワーアップを遂げた渾身の力を振り絞り、クウラが至近距離から気功波を浴びせる。

 その威力はかつて悟飯に跳ね返されたスーパーノヴァよりも強力な一撃だったが――爆煙の中から出てきたブロリーの巨体には、欠片もダメージはなかった。

 

「馬鹿な……っ」

「なぁんなんだぁ今のはぁ?」

「貴様あああっ!!」

 

 孫悟飯はこんな化け物と戦っていたのかと……クウラは驚愕する心を押さえつけるように憤怒の叫びを上げ、ブロリーに拳を突き出した。

 






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