ドラゴンボールNEXUS 時空を越えた英雄   作:GT(EW版)

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憎しみの記憶

 人の目が寄り付かない荒野の岩場には、「魔導師バビディ」の宇宙船があった。

 宇宙船ごと地下に埋め込んで偽装している施設の中では、地球に住む如何なる獣人とも似つかない容貌をしている緑色の魔導師バビディが、大男を伴いながら巨大な玉を見つめていた。

 

 ――魔人ブウ。

 

 それは、かつてバビディの父ビビディが作り出し、宇宙に未曾有の破壊と殺戮をもたらした最強の魔人の名だ。

 この玉の中には、そのビビディが死の間際に封印した魔人ブウが眠っているのだ。

 魔人ブウの力はあまりにも強大すぎた為に、創造主たるビビディでさえも制御することができなかった。

 故に彼は、苦肉の策としてブウを封印することを選んだ。

 

 しかしビビディの息子であるバビディは今、かつて父が施した封印を解くべく暗躍していた。

 

 バビディの力は、ビビディよりも遥かに強い。

 その事実は彼が現在傍らに伴っている暗黒魔界の王、ダーブラの存在が証明していた。

 バビディは彼のような邪悪な心を持つ者を、自在に自らの手駒として支配することができるのだ。

 そんな彼の魔術の前では、暗黒魔界最強の存在であるダーブラさえも成す術がなかったのである。

 

 故にバビディは、仮に魔人ブウが自分に従順な存在でなかったとしても、最悪彼のように己の魔術の虜にしてしまえば良いと考えていた。

 

 父ビビディですら手に余った存在を嬉々として蘇らせようとするバビディは、自分自身の魔術に対して絶対的な自信を持っていたのだ。

 

「だけどパパの作った魔人ブウが、こんな星に封印されていたなんてねぇ」

「バビディ様、どうやらこの星にはそれなりのキリを持つ人間が何人かいるようです」

「へぇ……それは朗報だね。少しはエネルギーの足しになると良いんだけど」

 

 魔人ブウが封印されている玉は現在、彼の宇宙船の中で装置に繋がれている。

 その装置はブウの封印を解く為にバビディが作らせたものであり、真ん中には装置を作動させるエネルギー量を示すメーターの針が揺れ動いていた。

 このメーターが100%の数値を指し示した時、伝説の魔人ブウはフルパワーで復活を遂げるのだ。

 しかし現在針が差しているのは必要なエネルギーの一割にも及ばず、ブウの復活にはまだ時間が掛かることを意味していた。

 

「ふむ……私の力を分け与えられれば良かったのですが」

「それが出来れば手っ取り早かったんだけどねぇ……必要なのは、澄み切った純粋なエネルギーなんだよ」

 

 ブウの復活に必要となるエネルギーは、邪悪な者ではない人間が持つ純粋な生体エネルギーだ。

 いかに強大な力を持つダーブラと言えど、彼の持つ邪悪なエネルギーではブウを復活させることはできない。

 故に、バビディは喉から手が出るほどに欲していた。彼自身がこの宇宙で最も嫌悪する、正義感の強い純粋な人間のエネルギーを。

 

 そんな二人の会話の間に、招かれざる客の声が割り込んできたのは、その時だった。

 

「邪念以外のエネルギーを糧にする……オレ達とは正反対なんだね、その玉は」

 

 女性的なトーンをした、少年のような声質だった。

 その声を耳にした瞬間、ダーブラが主の身を守るように前に立ち、不意に現れた気配へと向き直った。

 

「そこにいるのは誰だ?」

「う~ん……今の声、僕の手下じゃないよねぇ」

 

 バビディの拠点であるこの宇宙船には、彼が宇宙中から集めた何人もの手下達が闊歩している。

 しかしその手下達の中に、今しがた聴こえてきた声色の者は一人もいなかった。

 バビディは手下の顔など一々記憶していないが、ダーブラはその事実に気づいていたのだろう。

 侵入者の存在をいち早く察した彼は、警戒の目を向けた。

 

「こんにちは」

 

 ダーブラが視線を注ぐ機材の陰から、この宇宙船への侵入者が姿を現した。

 それは、暗黒魔界の王である彼からしてみれば拍子抜けするほど矮小な存在だった。

 肩先まで下ろされた白い髪が目に留まる、この星の住民と思わしき軟弱な姿。

 身体つきは子供のように華奢であり、色白な容貌も相まって、その姿はまるで争い事も知らぬか弱い少女のように見えた。

 

「地球人のガキか……どうやってここへ忍び込んだ?」

「こう、空間をちょちょっと弄って」

 

 ふん、と不遜な笑みを浮かべるダーブラの前で、おちょくるような顔で侵入者は返す。

 暗黒魔界一の戦士であるダーブラの探知にも引っ掛からなかったのだ。おそらく瞬間移動のような魔術的なものを使い、この場へ現れたか……あるいは存在が矮小すぎて誰にも気づかれなかったかのどちらかであると、ダーブラは彼女の侵入方法を冷静に判断した。

 

「俺に気づかれず、ここまでやってきたことは褒めてやろう。だが、好奇心で迷い込んだのが運のツキだったな。この俺直々に葬ってもらえることを、ありがたく思うといい」

「そうだねダーブラ、目障りだから殺しておいて」

「はいバビディ様」

 

 侵入者の姿は暗黒魔界の美醜感覚から見ても、素直に美しいと感じるものだった。今はまだ子供っぽさが抜けていない貧相な身体つきだが、成長すれば己の妹のような妖艶な美女に変貌する可能性も秘めているとダーブラは感じる。

 が、そこまでだ。

 武人気質の王であるダーブラは相手の美醜で生き死にを決める好色主義ではなかったし、今は何より主君たるバビディの命令が最優先だった。

 故に彼は何の躊躇いもなく、目の前の少女の細首をへし折りに動けた。

 そんなダーブラ――バビディの言いなりになっている彼の姿を見て、彼女は好戦的な笑みを浮かべて言った。

 

「魔界の王ダーブラか……オレは君みたいな邪悪な心を持つ人間が大っ嫌いでね」

 

 少女が、おもむろに右腕を振り上げる。

 その瞬間、彼女の周囲を覆う空間が粘土のようにぐにゃりと歪み、捩じれていった。

 

「……なに?」

「そんな連中は、この宇宙から一人残らず消し去ってやりたいんだよ」

 

 そしてその空間の歪みが収まった時――ダーブラの目の前には、いつの間にか出現していた異形の物体が立ち塞がっていた。

 

 

「ジャネンバ!」

 

 

 身体は黄色く、全体的に丸っこいシルエットをしているその物体。

 体長はダーブラを上回る大きな物体が、短い手足を幼児のようにばたつかせながら彼と向き合っていた。

 

「な、なんだコイツは……?」

「ダ、ダーブラ、こっちにもいるよ!」

 

 そしてそれは、一体だけではない。

 バビディの言葉に反応しダーブラが周囲に目を向けると、同じ姿をした異形の怪物が三十体以上もの大群をなして彼らを取り囲んでいた。

 

「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」

「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」

「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」

「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」「ジャネンバ!」

「ジャネンバ~!」「ジャネンバジャネンバ!」

 

 そしてその大群が、一斉にダーブラの元へと押し寄せてくる。

 最初に動いたのは、目の前の怪物だった。

 

「ジャネンバ!」

「ぐっ……おおおお!?」

 

 強い……ふざけた見た目をしているが、怪物が繰り出してきた超音速のパンチは真っ向からダーブラの顔面に突き刺さり、甚大なダメージを与えた。

 外見にそぐわない怪物の予想外な戦闘力に驚かされたダーブラは、完全に不意を突かれる形となり、慌てて飛び上がろうとした頃には時すでに遅く、背後からにじり寄って来たもう一体の怪物に圧し掛かられていた。

 

「馬鹿な……! 俺が、こんな奴らに……っ、ぐおおおおおっ!?」

「ヘラヘラヘラヘラ~!」

 

 一体を皮切りにして、総勢三十体もの「ジャネンバ」達が一斉に彼の身を圧殺しようと山のように積み重なっていく。

 その光景に緑色の顔をさらに青くさせたのは、彼の主君であるバビディだった。

 

「な、何をやってるんだよダーブラ! このっ……こいつら」

 

 一瞬にして怪物の大群に押し潰されていったダーブラの姿に慄きながら、血相を変えたバビディが自らの魔術でこの状況を打開しようとする。

 

 しかしそんな彼の小さな腕を――白い髪の侵入者が乱暴に掴んだ。

 

「させると思うかい?」

「……っ」

 

 無邪気な笑みを浮かべながら、彼女は愕然と震えるバビディの顔を見下ろす。

 そして少女は、そんな彼の額にコツンと二本の指を突き付けた。

 

「君達の邪念、いただいていくよ」

 

 ――それが、バビディがこの世で見た最後の光景となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上に降り立ち、黒く固まった地面を踏み締めると、悟飯は周囲に広がる目新しい景色に目を移した。

 この世界は悟飯のいた世界とは違って人も町も溢れているが、この場所にだけはやはり何も無かった。

 草も木も建物も無い。微かに存在しているのは風化した金属と、コンクリートの残骸だけだ。

 

 グラウンド・ゼロ――そこは紛れもなく、「爆心地」であった。

 

 地面は抉れ、焼土となり、通常では考えられない「町」の姿がそこにあった。

 跡形もないその姿からはほとんど考えも出来ないが、かつてはそこで多くの人々が日常を謳歌していたのだ。

 

「…………」

 

 東の都の、跡地である。

 悟飯が降り立ったその場所には、小さな石碑と華奢な少女の姿だけがそこにあった。

 

(ネオンさん……)

 

 凛とした顔立ちに、触れれば掠れてしまいそうな儚さを併せ持つ独特な雰囲気の少女。

 さらさらとした癖のない黒髪を風に靡かせる彼女の姿は、どこか神秘的に見えた。

 

「お墓、ですか?」

 

 そんな少女の姿に吸い込まれていくように、悟飯は彼女に話しかけた。

 後ろから急に声を掛けられた彼女は、特に慌てた素振りも無く返事を返す。

 

「うん。私が作った、小さなものだけどね」

 

 彼女の前にあるのは、一束の花が添えられた小さな石碑だ。

 それは、二人のサイヤ人に命を奪われたこの町の人々を弔うものなのだろう。

 祈りを捧げるように目を閉じていた彼女が、悟飯の姿を視界に映すと驚いたように口を開いた。

 

「孫悟空……?」

 

 悟飯の姿を見て、彼女は父の名を呼んだのだ。

 

「え?」

「あ……いや、貴方の格好が有名な武道家に似ていたから」

「ああ、そういうことですか」

 

 悟飯の父孫悟空は元々、天下一武道会でも優勝したことのある名高い武道家だ。

 彼自身が俗世から離れた人間である為にその名前は功績の割に世間に浸透していないが、武道家に詳しい者であれば一市民が知っていたとしてもおかしくはなかった。

 未来の彼女からは、彼女の死んだ父親が武道マニアだったと聞いたことがある。その伝手で、彼女は父悟空の名を知っていたのだろう。

 着ている道着こそ同じだが、悟飯は自らの名を正直に明かした。

 

「俺は、孫悟飯です」

 

 悟飯が自らの名前を名乗ると、彼女は「孫」という名字を聞いてすぐに思い至ったのだろう。

 納得したように相槌を打つと、まじまじと見つめながら彼女は言った。

 

「あれま、息子さんでしたか。私より年下だと思ってたけど、なんか年上に見えるね」

「それは、その……」

 

 困惑する悟飯に微笑みを向けながら、彼女が言う。

 確かに本来であれば、彼女の方が一つだけ年上である。

 しかしここより時間軸が未来の世界から来た悟飯の年齢は、現在の彼女より年上の身だ。

 今の悟飯は十九歳だが、この世界の彼女の年齢は恐らく十七歳。

 その外見も悟飯が受けた印象としては、自分の知っている彼女よりも少しだけあどけなく見えた。

 

 そして年齢以外にも、自分のいた世界とは大きな違いがある。

 悟飯は彼女の右腕(・・)を見ながら、そのことに気づいた。

 

(ベビーさんの気配は感じない。それに……腕もある)

 

 彼女から感じる気配は、大多数の一般人と比べても何ら変わらない平凡なものだ。

 それとなく探ってみたが、どうやら彼女の中にはベビーの存在はなく、どういうわけか右腕も欠損していない五体満足の姿だった。

 そんな彼女に向かって、悟飯は自分でもどう表現すれば良いのかわからない感情を込めて打ち明けた。

 

「実は俺……貴方のこと、知っているんです」

 

 初対面の少女に言う発言としては、我ながら問題があったと思う。

 しかし、別の世界でもこうして再び彼女と会うことができた悟飯には、言わずにいられなかったのである。

 精神的に、舞い上がっていたとも言える。無自覚の感情だった。

 

「貴方は、この町に住んでいたんですよね?」

 

 元の世界にいた頃、本人から聞いた彼女の身の上話を思い出しながら問い掛ける。

 彼女――ネオンはこの町、東の都出身の人間である。

 

「驚いたな……私なんかのことを、わざわざ調べたのかい?」

 

 二人のサイヤ人――ベジータとナッパが地球に襲来した時のことは悟飯が初めて命がけの実戦を行った日でもあり、ナッパに吹き飛ばされたこの町のことも直接現地に居合わせてこそないが、一瞬にして大勢の人が死んでいったあの日のことは今も覚えている。

 

「まあ、そんなところです」

「……そうだよ。二人の宇宙人が何もかも消した……この町には、私の家族が居たんだ。あの日まで私はお父さんとお母さんと、四歳の弟と暮らしていた……このちっぽけな石碑は、そんな私の家族と、町のみんなを弔うものだ」

 

 悟飯の言葉に返しながら石碑を眺めるネオンの目は深く悲しげで、今にでも泣き出してしまいそうに見えた。

 あの町に居た人間は、この世界でも死んだままなのだろう。

 悟飯のいた世界とは大きく歴史が違うようだが、この町がナッパによって吹き飛ばされ、彼女の家族がそれに巻き込まれたことは何も変わっていないようだった。

 事情を知る悟飯には、居たたまれない気持ちで目を伏せるしかない。

 自分にとって大切な存在が奪われるその気持ちは、悟飯自身も過剰なほど理解していたから。

 

「……ごめんなさい、湿っぽい話をしちゃったね。別にそんなつもりじゃなかったんだけど、ここに来るといつもセンチになるんだ」

「いえ……俺の方こそすみません」

 

 目元を擦る彼女に悟飯が声を掛けられないでいると、頼んでもいないのに重い話をして悪かったとネオンが頭を下げる。

 そんな彼女は、悟飯に対して言い返した。

 

「私もね、君達のことを知ってるんだ」

 

 悟飯が彼女のことを知っているように、彼女も悟飯のことを知っていると言う。

 悟飯はその発言を受けて一瞬、「もしや彼女も転移した身なのではないか」という考えが脳裏に過ったが、そういった意味ではないことを直後の言葉で理解した。

 

「この町をこんなにした人達に復讐しようと、小さい頃の私は私なりに色々調べてね。その中で、私は君達のことを知ったんだ。復讐する相手が、とっくにいなくなっていたこともね」

「ナッパ達と戦った俺達のことを、調べたんですか……」

「うん、復讐相手のことを調べている過程で、君と君のお父さんのことを知ったんだ。孫悟空と孫悟飯、クリリン、ヤムチャ、天津飯、餃子、ピッコロ大魔王……とんでもなく強い人達のことを」

 

 その一人である孫悟飯が目の前に唐突に現れて、本当にびっくりしたと彼女は語る。

 俄かに紅潮しているその顔は初対面の人間相手と言うよりは、憧れのスポーツ選手を見る表情に近かった。

 そんな言葉を聞いて、悟飯はこの世界の彼女にとっては初対面である筈の自分を彼女が不審がらない理由を理解した。

 苦笑しながら、恥ずかしそうに彼女が言う。

 

「実は私、奴らを叩きのめしてくれた君達のファンなんだよね」

「ファ、ファンですか……」

 

 今までに向けられたことのない視線に、悟飯はたじろぐ。

 しかし彼女の話を聞いて、自分達のことを知っているという彼女の思いを純粋に嬉しく思っている自分もいた。

 

「……でも、俺達の仲間以外にも、お父さんの凄さをわかる人がいてくれて嬉しいです」

「そうかな? 私としては、世界中のみんなが君達の凄さを知るべきだと思うけど」

 

 父の活躍が人に認められるのは嬉しいことだが、自分もその対象になっているとも言われれば照れくさくもなる。

 そんな感情が表に出ていたのか、彼女は悟飯の顔を微笑ましい物をみるような目で眺める。

 

「この町の仇を討ってくれたこと……そのつもりはなかっただろうけど、私の家族の仇を討ってくれて、ありがとね」

「あっ……それは、どうも」

 

 面と向かって礼を言われ、悟飯は顔を赤らめる。

 悟飯としてはあの時の戦いでは師匠であるピッコロの足を引っ張っていた記憶の方が大きいのだが……そんな自分でも、こうして誰かに認められるのは嬉しかった。

 特に彼女に礼を言われるのは……何と言うか、不思議な高揚を感じるのだ。

 

「今更だけど、私の名前はネオン。会えて嬉しいよ、悟飯くん」

 

 風に靡く髪を右手で抑えながら、微笑みを浮かべながら彼女は自らの名を名乗った。

 ネオン――未来の世界で、悟飯が死なせてしまった女性だ。

 改めて彼女の正体を確認し、悟飯は明らかにイレギュラーであるこの出会いを喜んだ。

 このネオンは自分の知る彼女ではないが、この世界では無事に生きていたのだ。

 ただその事実が、悟飯には嬉しい。

 

「なんだろうね……何故だか、君と会うのが初めてじゃないような気がする」

「……そうですか」

 

 小首を傾げながら呟く彼女の顔を、改まって見つめる。

 そんな悟飯の様子を不思議そうな眼差しで見やりながら、ネオンは彼に問い掛けた。

 

「人の顔を、じろじろ見つめてどうしたの? もしかして、私に一目惚れしちゃったとか?」

 

 なーんてねと冗談めかした悪戯っぽい表情を浮かべながら、ネオンは悟飯から向けられる不躾な視線をやんわりと指摘する。

 しかし悟飯がそんな彼女の言葉に対して返したのは照れでも謝意でもなく、ある種の開き直りだった。

 

「そうかもしれませんね」

「……へ?」

 

 間を空けて、ネオンが硬直した反応を返す。

 この世界で生きている彼女の顔を見て、感慨に浸りながら見惚れていたことはれっきとした事実だったのだ。

 改めて、こう思ったことも。 

 

「いえ、やっぱり綺麗な人だなぁって思って」

「そ、それは……ど、どうも」

 

 人の美醜など、あちらの世界では、気にしている余裕もなかったものだが。

 彼女が美人であるという認識自体はかつてからもあったが、今の悟飯の視野は以前よりも少しだけ広くなっていた気がした。

 それはこの世界が平和であることと、ブロリーを倒したことによって以前よりも心に余裕が生まれたからなのかもしれない。

 ネオンとしてはそんな悟飯の天然女たらしのような発言が予想外だったのか、完全にペースを乱されたようにあわついた反応を見せる。そんな彼女の姿が、悟飯には新鮮だった。

 

「貴方が、ネオンさんなんですね……」

 

 自覚してはいなかったが、あちらの世界ではネオンの方が年上だった為に、彼女のことをどこか頼れる姉のように思っていたのかもしれない。

 その点、二つほど年下であるこの世界のネオンの姿を見ていると、良い意味で微笑ましさを感じたのだ。

 彼女との会話を弾ませながら、悟飯は初対面とは思えないやり取りを交わしていく。

 

 しかしそんな二人を包んでいた和やかな雰囲気は、緑色の闖入者によって破られた。

 

 

「孫悟飯も色を知る歳になったか。どうやら私が地獄にいる間、随分と時間が経ってしまったようだな」

 

 嘆かわしいことだ……そう言いながら地上に降り立った怪物は、多くの人間の「気」が混じった得体の知れない気配を漂わせていた。

 

 






 誤字指摘をしてくださる方には本当に感謝感謝です。
 今回の章はオリキャラと原作キャラの設定を絡めつつ劇場版ドラゴンボール的な展開にしていきたいと思います。

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