あっ! カルデアのマスターがあらわれた!   作:私ワタシ渡しタワシ

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使用 かつての霊基、かつての偽名


毎朝起こしに来てくれる幼馴染系サッバーハ

 『――――ったく。ボーっとしやがって。バカリツカはオレがいないとほんと駄目駄目だな』

 

 『……リツカ。お前はオレの『はいか』なんだからな。『はいか』はオレの言う事をちゃんと聞かなきゃだし、ちゃんとオレの事を見てないと駄目なんだ。分かったか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――懐かしい夢を見た。

 

 寝ぼけ眼の瞼を擦る。起き抜けの朝は最も堕落を感じる瞬間だ。体を起こそうにも、ベッドに横たわった体は一向にやる気を見せない。睡魔は依然としてオレの精神に居座り続けている。

 せめてもの抵抗に手足を伸ばしてみると、前に突き出された指が、何か柔らかいものに触れた。次いで、か細い声が漏れ出る。

 

 「んっ……」

 

 

→【――――!】

 

 

 瞬時に覚醒してみせた視界が、それを捉える。褐色の肌に、深い青色の髪。物憂げな印象を受ける瞳は、オレのしでかした行いを受けてか驚きを色濃く映す。

 サッバーハさん家の『ジール』はオレと向き合うような形をとって、同じベッドに横たわっていた。そして、この指越しに感じる柔らかい感触は、まさか、

 

 「あっ……」

 

 勢いよく飛び起きたオレを、どことなく悲しげに見つめるジール。物憂げな表情は相変わらずで、胸元に添えられた手は罪悪感を募らせる。

 動揺するオレを尻目に、彼女はとんでもない事を言って見せた。

 

 「……もっと触っていただいても、宜しかったのに」

 

 

→【!?】

 

 

 「……今日の寝顔も、大変素敵、でした。見惚れてしまって、起こすのが遅れてしまい申し訳ありません」

 

 ぺこりとベッドの上で三つ指をつく少女に、毎度の事ながら何も言えなくなってしまう。

 ジール・サッバーハは隣の家に住む一つ年下の少女である。独断で忍び込んではベッドに潜り込んでくる荒業にオレはほとほと参ってしまっていたが、悲しそうな顔を見る度、怒る気が失せてしまう。もう一方に比べればまだ穏便であるため、なし崩し的に現状維持が続いている形だ。

 

 

→【ハサンお爺ちゃんにまた怒られるよ?】

 

 

 「……! いえ、でも、これが私の責務ですので……」

 

 

→【頭を出せい……!】

 

 

 「――――!」

 

 らしくもなく気丈に振舞って見せるも、彼女の表情は強張るばかりだ。ハサンお爺ちゃんの拳骨はそれほどまでに脅威らしく、文字通り脳髄に刻み込まれていると言っていい。目をぎゅっと閉じて恐怖に震えるその姿は、あんまりにも不憫に思えた。

 脅かした事を詫びつつ、未だ腫れの残る彼女の頭を撫でる。手が触れたその瞬間、彼女はびくりと大きく目を見開いたが、再び目を閉じて体を預けてきた。なんだか妹が出来たみたいな感覚だ。

 

 「ん……貴方とこうして触れ合えるだけで、私は、幸せです」

 

 腕に頬を寄せて喜びを爆発させる彼女に、オレは何とも言えない気持ちになった。

 発端はそう――――小学生の頃に、彼女へのいじめを止めさせた事だ。正直、大した理由ではなかった覚えがあるし、そこまで大それた事をしたつもりもない。

 たまたま運悪くいじめの対象になって、それを解決したのが偶然オレだっただけの話だ。

 

 【大げさだよ】

 

→【オレもご飯食べて支度するから、ジールも準備してきなよ】

 

 「……はい。それでは門の前でお待ちしてます。…………ありがとうございました」

 

 ふと目を離した時には彼女はその姿を消していた。音もなく、影の如く忍び寄る事を踏まえれば、まるで『忍者』を思わせる芸当である。時折家の都合と称して早めに帰る事を踏まえれば、彼女の実家は闇夜を駆け抜ける仕事人集団なのかもしれない。

 なんて阿呆な事を考えつつ手早く準備を済ませて門を開けると、そこには制服姿のジールが立っていた。黒を基調とした格好が彼女によく似合っている。

 

 「至らぬ身ではございますが、お供させていただきます」

 

 そう言って彼女はオレの後方に陣取る。彼女の悪い癖だった。定位置とでも言いたげにぴったりと背中に張り付いている。まるで影のような有様だ。

 これでは何のために一緒に登校しているのかわからない。

 

 「いえ、私は……こうして傍にいられるだけで満足ですので。それに、前に出るだなんて恐れ多くて……」

 

 はっきり言おう。ムッとした。

 ――――何かの『主従関係』がある訳でもないのだ。こうも下手に出られると、何か悪い事をしている気分になってくる。

 背中に張り付くジールの手を強引に握ったオレは、彼女を無理やり表舞台へと引き上げた。

 

 「あっ……」

 

 

 

→【顔を見ながら喋りたい】

 

 

 

 朱が差し込む頬を恥ずかしがってか、彼女は俯いてしまう。

 しかし、じっと見つめ続けるオレに、堂々巡りの予感を感じ取ったのだろう、彼女はやがてゆっくりとこちらに目線を合わせると、か細い声で、

 

 「…………今日も良い天気ですね」

 

 

→【良い青空だ】

 

 【夜から雨が降るってさ】

 

 

 「……! 貴方と同じ目線で話すという事は、こうも幸せな気持ちに陥るものなのですね」

 

 オーバーな表現には呆れかえるばかりだが、彼女が嬉しく感じているのであれば、それはそれだ。小さく笑ってみせるその表情は、彼女の容姿も相まって『ブルースター』を連想させた。

 何を言う訳でもなくジールと見詰め合ってから、しばらく経っての事だ。登校中である事をすっかり忘れていたオレたちの耳朶を打ったのは、剣呑さ溢れるドスの利いた声だった。

 モードレッドである。

 

 「――――何やってんだ、こんな道のど真ん中で」

 

 彼女はどこか不機嫌そうに見えた。意思の強い瞳は厳しく細められ、眉頭が怒りに釣られるように競りあがっている。

 

 

→【おはようモードレッド】

 

 

 「ああ、お早うさん。どうでもいいけどよ、こんな所で立ち止まってちゃ遅刻すんぞ」

 

 モードレッドに促されて、再び足が動き出す。

 不思議な事に、今日のモードレッドは酷く機嫌が悪かった。こちらの話題に対してもぶっきら棒に頷くばかりで、まるでいつもの切れ味がない。

 ジールも同じような有様だ。彼女は彼女で先ほどから沈黙を貫き、何時にも増して寡黙ぶりが募る。

 

 

→【どうかした?】

 

 

 「あ……いえ、申し訳ありません。ずっと握られたままの手が愛おしくて、つい……」

 

 言われてみれば、先ほどから手を握りっぱなしだった。女の子特有のスベスベの手触りは、男のそれとは全く異なる感触である。つい興味本位で、ずっと握っていたくなる代物だ。

 

 「んっ……そんな、強く握られると……」

 

 「止めねーか馬鹿」

 

 

→【いたっ!?】

 

 

 脳天を急襲するモードレッドチョップに、思わず蹲る。やはり今日は相当ご機嫌斜めらしく、加減を知らない一撃は延々と痛みのサイレンを鳴らす。

 恨みがましい視線をぶつけるも、モードレッドはどこ吹く風といった様子で全く意に介さない。

 

 「へっ。お手手繋いでご登校ってか。バカリツカ」

 

 それどころか、先とは打って変わって饒舌ぶりが露わとなる。何か良いことでもあったのだろうか、どこか晴れやかな表情さえ浮かんで見える事から、脳天に突き刺さった痛みは益々オレを混迷に導いた。『モーさんマニュアル』は時として全く使い物にならない。

 

 しかし、最も困惑していたのは他ならぬモードレッド自身であった。動物じみた『直感』を鈍らせた彼女は、十字路に差し掛かった所で、左からやってくる自動車に全く気付けず――

 

 

→【危ない!!】

 

 

 寸での所で彼女の体を引き寄せる。黒い色合いのプジョーは後の面倒を嫌っての事だろう、今しがた人を轢きかけたという事実をあざ笑うが如く、彼方へと消え去っていく。

 

 

→【ちゃんと確認しないと】

 

 

 「あ、ああ……悪かった。助かったぜ、リツカ……だから……あの、よ。その手、もう、はなしてくれて、いいぜ」

 

 手をはなして彼女を天辺から見渡すと、どこも怪我を負っているようではなかった。

 安堵の息とともに笑みをつくると、モードレッドは突如感情を爆発させて、

 

 「~~~~ッ! ほら、怪我なんてねえって分かっただろ! さっさと行こうぜ! それと、あれだ…………さっきは、ありがとな」

 

 言いたい事をあるだけ言って見せると、モードレッドはまるで猪侍のように前へ前へ先に進んでしまう。

 最近とみに感じる事だが、幼馴染の意図がさっぱり読めなくなってしまった。昔、それこそ男友達のように遊んでいた頃はそんな事はなかったように思うが。

 モードレッドの機嫌を損なう前に足を進めようとしたオレであったが、それを食い止めるかのように裾をちょいと引っ張られる。

 何事かとそちらのほうを見やると、ジールが裾を掴んでその場を動かないのが確認出来た。

 その表情は多分に沈んで見える。

 

 

 →【ジール?】

 

 

 「……いえ、申し訳ありません。私達も急ぎましょう」

 

 どこか名残惜しげに、ジールは指をはなす。彼女はいつだって消極的かつ積極的だ。自分の意思を示す事が出来るのに、どこかで臆病になってしまう。

 モードレッドの忠告もお構いなしに再度彼女の手を握ったオレは、そのまま学校へ歩き出す。瞳を驚きで覆ったジールは、当初目を白黒とさせていたが、やがて小さく笑みを浮かべてみせる。

 

 「貴方は、本当に、お優しい」

 

二度目のモードレッドチョップを覚悟した行為は、寛大さをもって迎えられたと言っていい。突き刺すような不機嫌な視線を除けば。





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