ぷちでれ!プチ・アイドルマスターシンデレラガールズ 作:飯屋の救世主
励みになります。
呼吸を整え、余分な力を抜いて、耳を澄ませて、ついでに喉を潤して。
そしてフラットな感性で世界を見てみよう。
もちろんアイドルという、人に非日常のエンターテイメントを届けるモノをやっているわけだが、常識的感性が損なわれたとは思わない。
不思議で信じられぬものというのは、分からないように日常の中に埋もれているのだ。滅多にお目にかかれるものでもなし、こんなところで発掘できる訳もない。
それ故に、ひとはわずかな差異を見つけては少々のおもしろさを感じるのだろう。
だから、事務所に謎の動く物体、あるいは生体――三人(匹?)いて、しかも自分の所属するユニットの面々に似ている――が突如現れたことも見る人によってはちょっぴりだけしか奇想天外なことには思えないかもしれないし、
コンタクトを果たしたと思えばそれの三人のうち一人が電話の真似をするのだって、最近見かける類のことかもしれないし、
そんでもって別人みたいなしっかりした口調で『もしもし?』とかしゃべりだしても案外人によっては―――
いや、やっぱり大分おかしい。何者だ。
誰に言っても精神状態を疑われる。
というか自分で自分の頭がおかしくなったと思う。
「しぶりん大丈夫…じゃないねこりゃ。こんな思考がオーバーフローしたみたいな顔してるのみたことないもん」
「大丈夫大丈夫、やっとおもしろくなってきたところだから」
「HP半分削られたラスボスみたいなセリフ吐きながらいったい何が大丈夫なんだろうね…」
渋谷凛、15歳。人生で最も数奇なことはアイドルになったことだと思っていたが。
一筋縄ではいかない現実を前にして平衡覚を失わんばかりの眩暈を起こした。
× × ×
お上に企画のお伺いを立てに行った。なに、大したことではない。いつものことだ。プロデューサーなんてやっていればいくらでもやる。
まあ、いくらでもやる、というだけで後はお察しなのだが。しかし幾らかの成功もブチ当てている――と思っている――ので、上司からの覚えも目出度い――と信じたい。
ピロリロリ、と飾りっ気のない電子音が鳴る。社用携帯の着信音だ。
ぱ、と取り出してディスプレイを見てみると、何も表示されていない。
これはおかしいな、と思った。これに登録されている連絡先なら名前が、非通知なら非通知と表示されるだろう。社用携帯に非通知で電話をかける者がいるのかは微妙だが。
そのどれでもなく全くの無表示。いたずら電話か。こんな手の込んだいたずら電話があってたまるか。
まあ俺のじゃねーし、と軽く応答する。社会人にあるまじき軽さは自覚している。
「もしもし?」
一秒、五秒。――十五秒。
一向に応答はない。
電話のスピーカーが、電話の送り主側、その遠くから話し声を運んでくる。三人はいるようだが、そのどれもが俺の「もしもし」に答える様子はない。
なんだ、本当にいたずら電話だったのか。俺の勘繰りとそれに使った時間を返せ。
何も言わずに切るのもなんだ、最後通牒くらいくれてやらなくもない。
「何も言うことないなら切りますよ?」
さあどうだ。
…いや、どうだも何もあるもんか。相手はイタズラ犯だってのに。
しょーもな、の言葉をため息に封入して吐き出し、通話終了ボタンに指をあてがう、その直前に。
『あの、ごめんなさい!』
と馬鹿でかい声で詫びを入れてくる電話主。耳を離していて本当に良かった。
『どちら様かわかりませんがこれはいたずら電話とかじゃなくてその』
しどろもどろに、要領をえない弁解をする声を聞いて電話主の正体に思い当たる。
「その声、もしかして卯月か?」
× × ×
全く見当がつかないが、どうやら相手は島村卯月を知る人物らしい。
まあ、アイドルとして方々のメディアに露出しているのでまるでヒントにならないが。
「どちらさまですか…?」
『まさか自分のプロデューサーの声を忘れたのか、悲しいなぁ』
そうは言ってもいかんせん通話に使っているモノがモノなので、すべて卯月(小)の声に変換されてしまって誰なんだかわかったものではない。
「一言じゃとても説明できないけど、声が識別できない状況なんだ」
『凛もいるのか』
「私もいるよ!」
『…! その声は我が友、李徴子ではないか』
「いかにも自分は隴西の…いや、なんでさ」
『虎のフレンズの』
「ちーがーいーまーすー!」
『へい』
「このノリは確かにプロデューサーさんですね」
「いーや、まだわかんないね。本物のプロデューサーなら!この前作ったあのネタ、できるはずだよね?」
『アレやるのか?微妙だし短いだろ』
「短いけど微妙かどうかはやってみないとわかんないでしょ!」
『なんだその謎のバイタリティ。いいけどさ』
「じゃお披露目といこうよ!しまむーとしぶりんもちょうどいることだしさ!」
× × ×
『はーいどうもー』
「どもども~」
『実は僕ですね、アイドルをプロデュースしてるんですが』
「実はも何もないね、今更だよ」
『その中に二―ジェネティックスってグループで活動してる子達がいるんですが』
「ニュージェネレーションズだよ!」
『メンバーは三人居てですね、まず島村…島村…えっと』
「まさか忘れちゃったの?」
『えー睦月、如月、弥生…あ、長月ちゃん』
「卯月だよ!」
『原宿凛ちゃん』
「一駅違いだ」
『間違えました代々木凛ちゃんです』
「外回りの山ノ手だった!」
『そして最後にちゃんみおこと…えっと…何未央ちゃんだっけ』
「ちょっとまた忘れたのー?」
『あー、鈴木未央ちゃん』
「違うよ!」
『松田』
「ちょっと近づいた」
『いすゞ』
「…ん?」
『あ、本田未央ちゃんですね』
「ちょっと待って、もしかして車のメーカーみたいな名前って思われてた?」
『そんなことないそんなことない』
「怪しいなぁ」
『そんなことありませんよ、休憩時間に持ち歌聴くぐらいですからそんな失礼な覚え方しませんよ』
「ホント?嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
『本当にいい歌ですよね、ミツビシ☆☆★』
「やっぱり車のメーカーじゃん!プロデューサーとはもうやってらんない!私アイドル辞める!」
『お前それ本気でいってんのか』
「本気だったらこんな漫才するわけないじゃん」
『「ふへへへへへ」』
『「どうもありがとうございましたー」』
× × ×
「…確認と称してネタ見せられただけだよね、これ」
『せやな』
「で、感想は?」
「普通でした」
「意外にも辛口採点しまむー」
『つーかもう直ぐ戻るから漫才する必要なんてなかったよな。そっちからだと漫才やってるように見えるだろうけど俺の主観だと一人でしゃべってるおかしい奴だから。さっき常務が顔しかめてたから』
「ちょっと見たかったかも」
「早く戻ってきてね、部屋が大変なことになってるから」
『さいで。楽しみにしてるよ』
プロローグはよ終わらせたい。