ぷちでれ!プチ・アイドルマスターシンデレラガールズ 作:飯屋の救世主
タイル模様のリノリウム床は靴音を心地よく弾く。
帰路をさっきのSOSに急かされながら歩く。
給湯室の前を通り過ぎる。その隣の部屋が自分のデスクがある事務室だ。
その事務室というのが六畳なんてちゃちな広さでは無いので、テレビもあれば冷蔵庫もあり、ぴにゃこら太までなんでもござれ。そんな部屋で何があったのか知らないが、空間自体がもう既にアレなので並では驚かない。
扉の前で一瞬立ち止まる。その一瞬の間に吸って、吐く。そして意を決してドアを開ける。
「はいよただいま。で、何があったんだ」
× × ×
「なるほどなぁ」
「さっきまでの狂乱が嘘みたいな落ち着きぶり」
「人間の表情ってあんなに豊かなんだね」
先程帰ってきたプロデューサーを、非日常は暖かく容赦なく歓待した。それに取り乱したプロデューサーの口に隣の給湯室で汲んできた飛びきり濃い茶をキメてやると、ううむとひとつ唸って再稼働した。
最初はドッキリか、もしくは自分に知らされていないプロジェクトかと疑った。が、次第に落ち着きを取り戻す中で、
「なんか聞いたことるんだよなぁ」
阿呆のようなことを言い出した。
「これにデジャヴ感じるってどういうこと!?」
「どこかで…聞いたような…うーん
… あッ」
不意に目を大きく見開くとスマホの電話帳を繰りながら廊下へ―――それを三人は追いかけるも「一応仕事上の関係でもあるから」と断られる。
そして暫く。五分ほどだろうか。
「あったよ、心当たり」
× × ×
「誰に電話したんですか?」
「765のP」
「え」
「この前一緒に飲みに行ったときそういう話してたからさ。普段酔っても大した変化ないひとがそんなこと言い出すから相当酒入ってるのかと」
「765のPと親交あったのも驚きだけどそうじゃないよ」
「765プロにも同種の生き物が出た方!え、なに、これだけじゃないの!?」
「どうやらそうらしい」
名称ぷちどる。見た目はとても可愛らしいがビーム出すだの動物を召喚するだの果ては水で増えるだのお前本当に実在していいのかみたいな特徴を兼ね備えている場合があるので十分注意されたしとのこと。
「怖ッ」
「もしかして危ないんじゃないですか…」
「ビームが注意程度で済む訳ないと思うんだけど」
「死なないしちょっと黒焦げになるくらいで大丈夫って言ってた」
「怖ッ」
「まぁビーム出すって決まった訳でもないし。取りあえずは名前でもつけたらどうだ。卯月を呼んだら二人とも反応する、なんてややこしいからな」
「名前…それもそうだね」
「よーし!それじゃあ命名タイム、張り切っていってみよー!」
「はいっ!がんばります!」
「ルールは簡単、それぞれのぷちどるに対して一人ずつ名前の案を出し合うこと!はいこれ、メモ紙。これに書いて伏せておいてね」
「変な名前つけちゃうとかわいそうだから、キチンと考えてくださいね!」
「じゃあ、始めていこうか」
× × ×
「……みんな書き終わったね?準備はOK?
…よし!じゃあ島村さんの命名から始めるよ!カードオープン!一枚目から順に、ちまむー、こまむらさん、ゴライアス…
ゴライアス?」
やべぇよ異物混入しちゃったよという逡巡も最早あとの祭りである。
「どれにしましょうか」
「本人に決めさせるのもいいかもね」
「あれェこの異常性に気づいてるの私だけ?どう考えてもごっついの混じってるよね?」
「一応考えてくれた名前だからダメって言うのも申し訳なくって…」
「ここはNOと言っても許される場面だと思う」
それでも一応の許容をみせるのは生来の気質かそれとも日本人ゆえか。
「この会話の流れからしてコレしぶりん作だよね?」
「うん」
「なんでこんなものを…」
「最初に思いついたのが頭から離れなくてつい」
「つい、でやっていいことにも限度があるって」
「つ、次!次行きましょう!次は未央ちゃんの名前決めましょう!」
強引に話を変え、この微妙な空気の仕切り直しを図る。これは敗走ではない、この場の空気を生かすための――
「えー、みちゅぼし、ちょんみお、ゴ……あっ………」
「…しまむー、まさか」
「…っ…はい、最後は…『ゴリアテ』です」
知らなかったのか?クソネーミングからは逃れられない。むくつけき『ゴ』始まりの語感の暴力が二人を襲う。
「…次、行きましょう…」
「…そだね」
「次は私だね」
ひとりノーダメージでいる凛を見て微妙に釈然としないがそれもまた彼女の味…かも。かもしれない。エグ味とか言うな。怪味でもない。
「最後、凛ちゃんのですね」
「どんな名前になるか…楽しみだね」
なかば痺れた頭で機械的に紙を捲り、
「ちぶりん、まめりん、アイオライトブルー」
、……、…なんです?
はは、わたしのくちがなにかいったみたいだ。それにしたってアイオライトブルー。頭をすりこぎで撹拌するような眩暈がする。いや、実際に回しているのか?風が顔に当たっている。次第に風は強くなって――
「……あ」
「あ、起きましたか」
目を開いた、と自覚することでいままで意識がなかったことも把握する。
卯月が上から覗き込んでいる…つまり膝枕だ。そうした上で顔を扇いでくれていたようだ。
「しまむー……、私、どれくらいこうしてた?」
「ほんの少しの間だけですよ」
「名前、どうなった?」
「もう決まりましたよ」
「…その、妙なことにはなってないよね」
「がんばりました」
何を、とは言わないものの、つまりはそういうコトだろう。
「…ただ」
「うん」
「未央ちゃんが寝てる間にですね、その、別のぷちどるも事務所のみんなが連れてきて」
「…ん」
「端的に言うと事態が収束するどころか母数が増えただけ後退したとも言えます」
「そっか」
太陽は既に随分傾いて、茜差す時間帯もそろそろ終わるだろう。
むく、と身を起こして伸びを一つ。
「大丈夫かな、この事務所」
「大丈夫じゃなかったら765プロが先に倒産してると思います」
「それもそうだね」
「それに、未央ちゃんだけが頑張らないといけない訳じゃないんですから!」
「…そうだね」
今回の件で最も心労をためこんだのは彼女だろう。だが、事件は収束どころか始まったばかりである。
パッション少女、本田未央の明日はどっちだ。
この小説を心待ちにしている方は中々いらっしゃらないかと思いますが、ほぼ2ヶ月投稿しなかったことは申し訳なく思っています。