元同性の親友とその想い人がアプローチを仕掛けてくる件   作:作者B

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今更ながら、リリなの熱が再燃したので投稿。



親友の想い人

『ローレンツ! 遅いぞ!』

『ぜぇー…ッはぁー…ッ、う、うるせえ! お前らみたいな戦闘狂(バトルマニア)と一緒にすんな! 第一、こっちは徹夜明けだっつーのに……』

 

 透き通るような青みを帯びた空、大地は青い草原の絨毯が覆われ、軽快に鳴く鳥たちが春の訪れを伝えていた。

 

『あら、私みたいな女の子にその言いぐさは失礼ですよ?』

『お生憎様、俺は自分より強い女子に使う気は持ち合わせてなくてな』

 

 そんな野山を歩くのは4人の人影。快活そうな少年に穏やかな様子の少女、そして中性的な少女に遅れる様に一人の少年が歩いていた。

 

『ローレンツ。仮にもヴィヴィ様は王女なのだから、その口ぶりは如何なものかと思うのだけど』

『いいじゃん今更。俺らの仲なんだし。そんなこと言ったらクラウスとなんか、ずっとこんな感じだぜ?』

『そうだぞ、リッド。君もこれを機に僕と敬語抜きで話してみよう。さあ!』

『そ、それは流石に恐れ多いと言いますか……王の付き人と旅の学士じゃ立場が違いますし!』

 

 3人が戯れている様子を楽しそうに微笑む少女。

 彼女は思った。こんな楽しい日々がいつまでも続くように、と。

 だが、彼女は気づいていた。それはただの夢である、と。

 

 これは既に失われた日々。もう二度と戻ることのできないと思われた、少年たちの日常。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業終了のチャイムが校舎全体に鳴り響き、教師の挨拶が終わると共に教室が喧騒に包まれる。今日1日の授業が終わったことにほっと溜息をついた俺は、早々にノートと筆記用具を鞄にしまう。

 そして教室を去ろうとすると、クラスメートの一人が呼びとめてきた。

 

「あれ?レン、もう帰るのか?」

「ああ。学内でエンカウントしたくない奴が居るんでな」

「へー。それってもしかして例の後輩ちゃん? いやぁ、羨ましいねーこのこの!」

「だったら代わってやろうか?」

「はっ、冗談。オレの好みは御淑やか系の年上だ」

 

 冗談混じりに肩を竦める友人を無視し、俺は足早に教室を後にした。

 『St.ヒルデ魔法学院』中等部の校舎から出た俺は、まだ下校する生徒が少ない内に校外へ出ようと歩みを進めた、その時―――

 

「レンー!」

 

 今、一番聞きたくなかった声が聞こえてきた。……はぁ、今回も駄目だったか。

 観念して声の聞こえた方へ顔を向けると、初等部の校舎がある方角から手を振って走ってくる少女の姿が見えた。風になびく金色の髪、宝石のように美しく澄んだルビーとエメラルドの瞳。そして彼女の、少女として完成された美しさは誰もが1度は目を奪われるだろう。

 

「あっ、学院では先輩って呼ばなきゃ駄目だよね。でも、レンと私が公の場で先輩後輩プレイだなんて何処となく背徳感が―――むぐっ」

「よし! ちょーっと黙ろうか! 主に俺の世間体のために!」

 

 俺は慌てて彼女の口を手で塞ぐ。こういう時、大概悪い噂を流されるのは男の方なのだ。現時点でさえ、『小学生相手に光源氏計画している中坊が居る』って言われて肩身が狭いってのに。というか、光源氏計画ってなんだよ!

 

「ぷはぁっ……光源氏って言うのはママの世界にある古いお話の登場人物で、幼い女の子を自分の理想の女性に育てた人だよ?」

「ナチュラルに思考を読むな。なるほど、道理で俺が知らないわけ―――って、おい。なんで管理外世界の創作上の人物なんていうマイナーなネタが噂になってるんだ?」

「ぎくっ」

 

 噂を流したのはこいつか……

 

「ま、まあ、噂自体は本当ですし? 別にいいじゃない?」

「どこがだよ! どちらかっていうと絡め取られそうなのは俺の方なんですが!?」

 

 こいつ、全く反省してねぇ……。さて、どうしてくれようか。中途半端なお仕置きだと逆に喜ぶからな。

 どんなことをしてやろうかと考えていると、同じく初等部の校舎から二人の少女が走ってきた。

 

「もー! ヴィヴィオってば、一人で先に行って!」

「え? あ、あははー…ごめんごめん」

「あっ、レンさん。こんにちは。すみません、ヴィヴィオがいつもご迷惑を」

「いやいや。コロナが謝る必要はこれっぽっちもないから、気にしなくていいって」

 

 やってきたのはヴィヴィオ(こいつ)の友人であるリオとコロナ。初めて二人のことを聞いたときは、ヴィヴィオの脳内フレンズかと疑ったが、きちんと実在していたことを確認した時は心の底から安心したものだ。

 まあ、そのときヴィヴィオに思いっきり脇腹をド突かれたが。

 

「ヴィヴィオ、お前みたいな脳内御花畑にも付き合ってくれる貴重な友人なんだから蔑ろにしたら駄目だろ?」

「むっ、失礼な! 二人とは休日もよく遊びに行くぐらい仲がいいんだから! それに、これでも学園ではアウトドア派活発系インテリ幼女として通ってるし!」

 

 ドヤ顔で自身の胸をポンと叩くヴィヴィオから視線を逸らし、リオとコロナに実際どうなんだと視線で問いかける。

 

「……えっと、レンさんの前以外では変なことも言わないので」

「まあ、ここまでハッチャケてはないよね」

「マジか」

 

 出来れば、その良識をほんの少しでいいから俺の前でも持ってくれればいいのに。

 

「ふっふっふー。今どき3歩後ろを歩くような奥ゆかしさなど時代遅れ。恋とは、それすなわち戦! 敵を知り、策を立て、相手のハートを打ち取ったものにこそ勝利が訪れる! そして私はこう宣言してあげるの。『初めての相手は貴様ではない。このヴィヴィオだーッ!』ってね」

「おー! 何だかよく分からないけど、すごーい!」

 

 おい、リオに変なこと吹き込むな。大体お前、昔はいくらか大人しかっただろ。

 第一、貴様って誰だよ。誰か競争相手でもいるの? 嫌だからな俺、これ以上お前みたいなのが増えるの。

 

「で? 今日はどうしてこんなに早いんだよ。いつもならこの時間は図書館に居るだろ? ……まさか、遂に俺の行動を監視し始めたとか言うんじゃ」

「そんなことしなくたって、レンの行動パターンは全部分かってるもん。単に今日は、ママから早く帰ってきてって言われてるだけ」

「なんだ偶然か。疑って悪かっ―――おい待て。今とんでもないことが聞こえた気が」

「それじゃあ、センパイ! 名残惜しいけど、私はこれで失礼します。私と会えないからって浮気しないでねー!」

 

 ヴィヴィオは大きく手を振ると、そのまま校門の方へと駆けて行った。

 ……なんというか、嵐が去っていったような感覚だ。

 

「……えっと、リオとコロナはどうするんだ?」

「私たちはいつも通り図書館に行きます」

「勉強も鍛錬も、日々の積み重ねが大事だからね」

「そっか、頑張れよ」

 

 それではまた、じゃあねー、と手を振る二人を見送る。そして俺は、そのまま久しぶりに一人で帰路に就くことにした。

 

 しかし、こうも静かなのは久しぶりだ。この頃はずっとヴィヴィオ達と一緒に帰ってたし、特にヴィヴィオは話のネタが尽きないのかってぐらいよく話してたもんな。ただまあ初めて、いや、久しぶりに(・・・・・)あった時に比べたらその喧騒も微笑ましく感じてしまう。

 

 

 

 

 

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 突然だが、俺は前世の記憶がある。これだけを聞くとただの痛いヤツに思われるだろうが、それでも事実なのだからしょうがない。

 だが、王だの英雄だの凄い力を秘めていただの別段俺はそういった凄い奴らの生まれ変わりという訳では無く、前世では魔道師ですらない至って普通の小市民だった。まあ、王も英雄も凄い力を持ってるやつも友人には居たけど。

 そんな俺が生まれ変わったところでどうなる訳でもなく、それまで第二の人生を悠々と過ごしていた。

 

 切っ掛けは1年ほど前。夕焼け空が赤く染まり、もうすぐ日も暮れようかとしている時間にヴィヴィオを公園で見かけたことだ。

 ブランコに座りながら夕日をじっと眺めている、その後ろ姿があいつ(・・・)に重なって見えた。争いの知らせを聞く度に城壁の上から夕日を眺め、何もできない己の無力さに悲しみ震える、あの小さな少女に。

 

『どうかしたのか?』

 

 気が付けば俺はヴィヴィオに話しかけていた。あいつとは別人と分かっていても、あの寂しそうな後姿を見てしまった俺には最早見捨てるなんて選択肢はなかった。

 だが、振り向いたヴィヴィオが俺の顔を見て呟いた一言を聞いて、俺は耳を疑った。

 

『……ローレンツ?』

 

 そう、俺の名前だ。ヴィヴィオはこの時、初対面である俺の名前を呼んだのだ。しかも、それはただの名前じゃない。この時代の誰もが知らない筈の、俺の前世の名前(・・・・・・・)だ。

 そしてそれを聞いた俺は、動揺しながらもある種の確信を持って答えた。

 

『……オリヴィエ?』

 

 

 

 

 

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聖王 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト

今より数百年前の古代ベルカの戦乱の時代に生きた聖王連合・中枢王家ゼーゲブレヒト家の王女であり、その命と引き換えに戦争を終結させたゆりかごの聖王。

 

 

 

 まあ端的に言うと、ヴィヴィオも俺と同じように前世の記憶を持ってたって訳だ。

 この出来事を切っ掛けに、ヴィヴィオは今みたいにアプローチしてくるようになった。なったのだが……正直、奴が何処まで本気なのか分からん。

 同郷の、それも同じ境遇の奴に逢えたから嬉しくて舞い上がってるだけなんだと思うが。第一、お前クラウスのことはどうしたんだよ。奴の親友と自負している俺からすると気まずいったらないので、そのあたりどうにかして欲しいんだけど。

 

「クラウス、か……」

 

 クラウスといえば、あいつ大丈夫だったのかなぁ。

 結局あの戦争が終わってから、あいつとは離ればなれになったっきりで再会出来なかったもんな。歴史書を見る限り壮絶な最期を遂げたみたいだし。

 ……さっき親友とか自称しておきながら大変なときに一緒に居られなかったって言うんだから、笑える話だ。

 

 そんなことを考えていたせいか、はたまた運命のいたずらか。この日を境に俺の、俺たちの日常が再び交差することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は変わって今は夜8時。母さんが牛乳を買い忘れたとかで、代わりに俺が買い出しに行くことになった。

 

「いや、確かにこんな夜遅くに女一人で出歩くのは危ないけどさ、俺だってまだ中二ですよ?」

 

 それも近頃は通り魔、というかストリートファイターが出没してるって話を聞くし。

 ぶつくさ文句を言いながらも無事牛乳を買い終えて帰宅していると、裏街道の方からおよそ日常生活では聞くことのないであろう打撃音の応酬が聞こえてきた。

 

「うわっ、マジかよ……」

 

 本当に出くわしやがった……ッ! しかも、よりにもよって俺の帰り道の方角からだ。純度100%のインドア派である俺からすれば、そんな物騒な事件になんぞ関わってたまるか!

 かといって、ここは1本道。別の道に行くには一旦戻らなければならない。だが、不審者のために俺が労力を惜しまねばならんというのも納得いかん!

 俺は何とかして見つからずに通り抜けようと、道路脇の茂みの奥へ隠れ、身を低くしながらゆっくり進むことにした。

 

「くそっ……何故こんなことに……」

 

 段々と音が近くなってくる。俺は、せめて後で管理局にチクってやろう、とこの騒動の原因となった奴の顔を拝むべく茂みから視線だけを覗かせた。

 

「おい、お前! なんでこんな辻斬りまがいのことをするんだ!」

「弱者は理想を語ることも許されない。だから私は、私は――」

「ぐッ! 一々要領の得ねえ奴だな!」

 

 片方は短髪の勝気なねーちゃんに、もう片方はロングツインテールの……こっちもねーちゃんだな。

 おいおい、大丈夫かよ。あっちのツインテの方、全然拳に身が入ってねえじゃねえか。それにあの動き、明らかに無理してるっぽいし。こりゃあ今でこそツインテの方が押してるが、長期戦になれば負けるな。

 

 え? なんでもやしっ子の俺がこんな実況解説みたいな真似ができるかって? そんなの、かつての友人が全員武闘派なら嫌でもこうもなるだろ。けどあのツインテの動き、どこかで見たことがある様な……

 そんな疑問が頭を過ぎった次の瞬間、俺は目の前の光景に目を奪われた。

 

「はぁッ! ――――なッ!?」

 

 短髪のねーちゃんの強烈な跳び廻し蹴りをノーガードで受け止めたツインテは、カウンターバインドで相手を拘束する。そして、ツインテの放った一撃。足先から練り上げた力を拳足に乗せた打ち下ろし。そう、それは奴が最も得意とした――

 

 ツインテの攻撃を食らった短髪のねーちゃんが地面に倒れる。流石に、さっきの直撃には耐えられなかったか。

 

「――ってやべッ!」

 

 勝負がついたからか、ツインテがこっちの方へ来やがった! どうする!? この位置じゃ逃げるに逃げられねえ!

 俺があたふたしていると、まるで俺のことなど気付いていないかのようにすぐ横を通り過ぎて行った。いや、あれは気づかなかったというよりも、まるでここではなく別の何処かを見ているかのような……

 すると、ここにきて限界が来たのかツインテが力尽きる様にその場に倒れてしまった。

 

「ッ!? お、おい! 大丈夫か!?」

 

 俺は急いでツインテに駆け寄る。本当なら被害者っぽいあっちの短髪のねーちゃんの方へ行った方がいいのかもしれない。けど俺は、どうしてもこいつを無視することができなかった。このツインテが見せた拳が、あいつ(・・・)に重なって見えてしまったから。

 俺は上半身を抱きかかえ、声を掛けながら体を揺すった。すると、さっき通り過ぎた時に見たものとは違う、生気の籠った瞳が確かに俺の姿を捉えた。

 

「…………ロー、レンツ?」

 

 その言葉だけ呟くとツインテの身体が光に包まれ、俺と同い年ぐらいの少女の姿になった。

 あの姿は変身魔法だったのか。いや、それよりも――

 

「また、その名前か……」

 

どうやら、俺たちの腐れ縁は今世でも続くらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ヴィヴィオの独白~

 高町ヴィヴィオ。St.ヒルデ魔法学院に通う4年生。それが、他人から見た私。

 

 私はとある科学者の手によって作られた、オリヴィエ(わたし)のクローン。なのはママたちに保護された当時は覚えていることも殆どなかった。その時の私は、ある意味一番幸せだったのかもしれない。

 それが変わったのは、私が科学者の仲間に連れ去られ、聖王のゆりかごの中で聖王の器として覚醒した時。

 

 

 

 私はすべてを思い出した。クラウスのことも、リッドのことも、そして、ローレンツのことも。

 

 

 

 その事件はママたちの手で解決し、聖王の鎧も失った。けれど私の、オリヴィエの記憶は私の頭に残り続けている。

 最後まで私の本心を伝えられなかったリッド。ゆりかごに乗ろうとする私を止めるべく、身体中ボロボロになりながら立ち向かってくるクラウス。そして、きっと決心が鈍ってしまうからと、別れの言葉を告げずに去ってしまったローレンツ。

 

 それは、決して癒えることのない傷として私の心に残り続ける。

 誰に話すこともできない。記憶があることを知っているママや元六課の人たちでさえも――いや、そもそも誰に相談したところで、私の傷が癒えることはありえない。かつての友は、もういないのだから。

 

 後悔だけが私の心を支配する。

 リオやコロナの前では気丈に振る舞っていても、きっといつか綻びが生まれるだろう。私はそんな重圧に耐えながら、公園で夕日を眺めていた。

 そういえば、いつも悲しいことがあると私はよく城壁の上から夕日を見ていたっけ。そうしたら、いつも決まって彼が声をかけ――

 

「どうかしたのか?」

 

 刹那、心が掻き乱された。

 そうだ、いつも私が人知れず涙を流している時に、誰かにこの泣き顔を見られたくない時に、そんなときに限って謀ったかのように彼は現れた。

 私は振り返る。そんなわけないのに。もう彼は居ないのに。期待させないで。もうこれ以上、私の心を苦しめないで。

 

 視線の先に居たのは一人の少年。よく見れば顔の細部は違う。髪の色も違う。年齢も中学生くらいだ。

 でも分かる。私にはわかる。上手く言葉にできないけど、彼は間違いなく―――

 

「……ローレンツ?」

「……オリヴィエ?」

 

 やっぱり、そうだ……! ローレンツ! ああ、ローレンツ! 貴方は、自分勝手に死んでいった私に会いに来てくれたというの? 民のためと言い訳をして、自分の気持ちから逃げた愚かな私に!

 ああ、ローレンツ! 私の最愛の友! 愛するクラウスは終ぞ貴方を手放してはくれなかったけれど、今度こそ私は貴方を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この作品はコメディです。
シリアスっぽい描写があるけど、それは気のせいです。

オリヴィエとクラウスと主人公との関係は次話で展開します。別に主人公はクラウスからオリヴィエをNTRったわけではないのであしからず。

あと、タグにも書いてある通りヴィヴィオは原作と違って、オリヴィエの頃の記憶を持っています。
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