元同性の親友とその想い人がアプローチを仕掛けてくる件 作:作者B
因みに過去編です。
『相も変わらず、君の腕には驚かされるね』
城の中庭で、いつもの様にドンパチやっているヴィヴィ様とクラウス王子を横目で見ながら、僕はローレンツに話しかける。
『ん? なんだよ急に』
『ヴィヴィ様の義腕さ。エレミアの技術では、あそこまで繊細なものは作れない』
僕の視界に映るのは、僕の作った
その様子を見るだけで、ヴィヴィ様がその義腕をどれだけ大事にしているかが伝わってくるようだ。
『できないも何も、そもそも用途が違うだろ? 俺だって、リッドの作る様なガチの戦闘用なんて作れないんだから』
『そうは言うけどね……エレミアの技術がたった一人の人間に追いつかれたとあっては、ご先祖様は複雑だろうね』
200年も続くエレミアの技術のレベルに、方向性が違うとはいえ僅か1代で辿り着く人間が居るというのだから、初めて知った時は動揺を隠しきれなかった。それほどまでに、ローレンツの持つ技術は計り知れないものがある。流石は一国の王子の専属執事といったところか。
すると、僕の言葉を聞いたローレンツが、急に溜め息をついた。
『な、何さ? 何か変なこと言ったかな?』
『さっきから聞いてればなんだよ、エレミアの技術とかご先祖様とか他人事みたいに。代々積み重ねられてきたものであろうと、受け継いだ以上、今はお前の
刹那、僕の思考が止まった。
『それに前から思ってたけど、お前はどうも実力を過小評価してるというか、そもそも自分に無関心だよな。まるで、自分は"エレミア"の為の舞台装置だとでも言わんばかりに』
そんな僕の様子など知ったことではないと、ローレンツは次々と言葉を紡ぐ。
『お前は
その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中が何か温かいもので満たされた。
ああ、ローレンツ。やはり君は――――
只今、新暦0075年。
俺の名前はレン・ラドフォード。ごく普通にSt.ヒルデ魔法学院へ通う、ごく普通初等科3年。でもただひとつ違っていたのは、俺は前世の記憶を持っていたのです!
……まあ、だからどうしたという話なんだが。
普段よりも早く下校のチャイムが鳴り、クラスメイトたちは談笑をしながら帰り支度を始める。何やら近頃、ミッドチルダ周辺で事件が多発しているらしく、学院は授業を早めに切り上げることにしているらしい。
聞いたところによると、輸送車襲撃事件や市街地での小規模な戦闘があったとか。おお、くわばらくわばら。
そんなわけで、俺も例に漏れずさっさと家へと帰ろうとしてたんだが――
「…………お腹、減った」
河原の橋の下で行き倒れを発見してしまった。
腰まで伸びる黒のツインテールに、これまた髪と同じ色の、浮浪者らしからぬ黒いドレスを着た少女。一般市民の俺でもわかるぐらい高価そうな服が泥や埃で汚れており、明らかに厄介ごとの匂いがプンプンする。
だけど、このまま何もせず見捨てるのは流石に後味が悪いな。何か食べ物は――
「ポップコーンでいいならあるけど、食べる?」
「…………お、お願い、します」
「――ぷはぁっ、ごちそうさん。いやぁ、こないな美味しいもん初めて食べたわ」
「そいつはよかった」
俺の座っている横で、目の前の少女は満足そうに呟く。
余程お腹がすいていたのか、Lサイズ相当の量のポップコーンをあっという間に平らげてしまった。水も無しによく食べられたな。
「……はっ!?」
すると、少女は急にあたふたし始め、近くに立てられていたドラム缶を視界に捉えると、素早くその陰に隠れる。そして、ドラム缶の向こうから顔を半分だけ出して、此方を警戒するように覗いてきた。
いや、確かに初対面の相手に対してその反応は分かるんだが……
「お前、目の前であんなに無防備に食べておいて、その反応は今更すぎるだろ」
「あうっ……それは、そうやけど」
指摘されて顔を赤くするも、一向に出てくる気配はない。
……まあ、もう十分か。俺はその場で立ち上がり、そのまま土手を後にすべく歩き出した。
「え? ……何も聞かないん?」
その様子を見た少女が、ドラム缶の後ろに隠れながら、少し驚いた表情でこちらを見る。
「その姿を見れば、訳ありだってことぐらい分かる。生憎俺は、今日会ったばかりの奴に事情を聴きだすほど野暮でもないし、話を聞いてやるほど親切でもないんでな」
じゃあな、と言って俺はそのまま土手を後にする。
本来であれば、このまま二度と彼女と関わることなんてなかっただろう。だが、少し気になるし明日一回だけ様子を見に来ておくか、なんて少しばかり気まぐれを起こしたことが、これから再び紡がれる俺たちの絆の契機になるだなんて、この時は予想だにしなかった。
そして翌日。
「…………」
「また倒れてるーッ!?」
昨日とほぼ同じような体勢で河原に倒れている黒髪ツインテの少女。強いて違う所をあげるとすれば、先端に糸が結び付けられている長い木の棒が彼女の近くに落ちていることぐらいか。
取り敢えず鞄から、後で食べようと思って買ってあったハンバーガーを少女の口元へ運ぶ。
「むぐむぐ――はふぅ。ごめんな、一度ならず二度までも」
「本当だよ。もし俺が様子を見ておこうなんて思わなかったらどうなってたことか」
「あはは、申し訳ない……でも、心配してくれたんやな。昨日はあんな皮肉屋っぽいこと言ってたのに」
「なっ!? う、うっせ!」
くそっ、こいつと話してると調子が狂うな。
「それで? そこに落ちてるのはなんだよ」
話を逸らそうと、俺は近くに落ちている糸のついた棒切れを指さした。
「ああ、それな? それは釣竿や。流石に食料ぐらいは自己調達せなあかんから。でも全然つれなくて困ってたんよ」
「困ってたって……まさかお前、ちゃんと糸の先に餌付けてたか?」
「まさか! そんなんここにある訳ないやろ?」
それでよく釣ろうと思ったな、お前。
「餌もないのに魚が喰いつくかっての。釣り針を直接魚に引っ掛けるとかならともかく」
「針を直接?」
そういえば、前にクラウスたちと4人で出かけたとき、リッドの奴が器用に釣り針を魚の口に引っ掛けて釣り上げていたっけ。まあ、あんなものを釣りだと俺は認めないけどな。
因みにそのとき、オリヴィエは熊の如く素手で魚を掬い上げ、クラウスは断空拳で川の水ごと魚をぶっ飛ばしていた。
「まあ、そんな超人技なんてできるわけないし、そこら辺の地面でも掘り返せば餌になる虫ぐらい居るだろ。じゃあ、頑張れよ」
「……針を、直接」
何やら考え込んでいる様子の少女を放置し、その場を立ち去る。
この様子だと、明日も様子を見に来た方がよさそうだな……
そして、再び翌日。
「あっ、来た来た! ほら、見て! 魚釣れたんよ!」
俺の姿を確認した少女が、嬉しそうに魚を持ち上げて手を振ってきた。
ええい! 遠くからやかましい! お前は犬か!
「……で、結局どうやって釣ったんだ? 餌でも見つけたのか?」
「ううん。君が昨日言ってた『魚に直接釣り針を引っ掛ける』っていうあれ、やってみたら思いのほか上手くいってな」
マジかよ。本当に実践しようとする奴がいるとは……その上、成功してるし。
こいつあれか? 俗にいう天然ってやつなのか? それも、なまじスペックはやたら高いっていう面倒くさいタイプの。
「でも、今度は中々火が起こせなくて。何かいい方法知らん?」
「火か……石同士を弾いて火花を起こすとか?」
ここで思い出すのは昨日と同じ、4人で出かけた時の出来事。確か野営の際に、リッドが鉄腕を弾いて器用に火花を起こしてたはずだ。あいつの先祖も、まさか火を起こすために『黒のエレミア』が使われるとは思ってもなかっただろう。
「石、なぁ。この辺りのは丸っこくて難しそうやし」
「生憎、子供の俺はライターなんて買ってこれないし。まあ、なんとかするんだな。ほら」
俺は鞄から、来る途中に買ってきたお菓子を少女に渡す。
「え? これは……」
「また生き倒れられてても面倒だったからな。今日は起きてたみたいだけど」
「……そっか。気にかけてくれたんやな。ありがとう」
少女は優しい笑みでお礼を言ってきた。
それを見てふと我に返った俺は、気恥ずかしさを隠すようにさっさと立ち上がる。
「じ、じゃあな! ボヤ騒ぎだけは起こすんじゃねえぞ!」
俺は捨て台詞を吐いてその場から去って行く。
こうして、俺と彼女の奇妙な関係が始まった。
「鉄わ――両腕でなんかこうバチンってやったら火つけられたわ」
「……そんな馬鹿な」
よくわからない理論で火を起こせるようになってたり、
「その野草は食べると口の中がピリピリしたから、気を付けてな」
「実際に食べたのかよ」
その辺に生えている雑草についてやたら詳しくなってたり、
「あむあむ。やっぱり川魚は骨ばっていかんなぁ。亀も、皮をはがないと匂いがきついし」
「お、おう」
やたらとサバイバル術が上達していたり、
「スクロース……グルコース……フルクトース……糖分が体内で分解され吸収されていく……」
「……」
コンビニで買ったプリンをあげたら、妙なことを呟きながら身体を痙攣させていたり――――
「なあ、どうして君は
初めてこいつと会ってから何だかんだ一週間が経った頃、ふと彼女の口から疑問が零れた。
「君もわかってるんやろ?こんな着飾った服着てる人間が川辺で野宿生活。後ろめたいことが無いはずがない。なのに……どうして?」
端々がボロボロになってしまった服をギュッと掴み、少女は物悲しそうな表情でこちらから視線を逸らす。それは喩えるなら、大切にしていた人形を一身上の理由で泣く泣く手放す子供のような、そんな悲壮感を感じさせた。
気が付いているのか? 今のお前の問いかけは――いや、今はそれよりも、言わなければいけないことがある。
「……なあ」
「うん?」
「お前さ。その台詞……もうちょっと早く言うべきじゃねえの?」
「はうっ!」
少なくとも、この一週間あれだけ一緒に過ごしてて今更『何で』とか聞かれても知ったこっちゃねーよ。
しいて言えば、流れだよ流れ。流れに身を任せてたらこうなっただけだよ。
「そんなことよりもほら、今日の分の飯捕まえねーとじゃねえの?」
「あ、うん――――ってそうじゃなくて!」
なんだよ、今日はやけに喰いつくな。
何か言ってくるのを適当に聞き流しつつ川の方へ目を向ける。すると、そこには昨日までなかった、廃品らしき大きな機械が半分ほど川に沈んでいた。
「なんだありゃ?」
「え? ああ、あれは今朝気が付いたらあったんよ。多分、夜の内に流れてきたと思うんやけど」
まったく、あんなデカい機械を不法投棄とか何考えてるんだか。
是非とも俺の手で再利用してやりたいところだが、生憎今の俺は9歳だからなぁ。工具も持ってなければ、そもそもあんな大きなものを川から運び出せない。うーむ、残念だ。
俺はせめてどういうモノなのか確認しようと川へ近づく。
そんなことを考えていたせいだろうか。俺は、その機械が沈んでいるであろう水底に灯る、赤い光に気が付かなかった。
「ッ!? 危ないッ!」
後ろから聞こえた声と共に俺は少女に抱き着かれ、そのまま左へ押し出される。そして、それに一瞬遅れる様に、俺がさっきまでいた場所の地面が弾け飛んだ。
「うわッ!?」
「――ッ!」
爆発と共に爆風が巻き起こり、俺は少女と一緒に吹き飛ばされた。
少女を守るように咄嗟に抱きしめ、飛ばされた衝撃をそのまま受け止める形で地面を転がる。
「な、なんだ!?」
転がるのが止まると同時に、俺は地面が弾けとんだ方向を見る。砂埃が舞い上げられ土煙が舞う中、その奥には何やら巨大な黒い影が見えた。
「……なんかやばそうだな。おい、今の内に――」
腕の中に居る少女へ目を向ける。しかし、先程の衝撃で当たり所が悪かったのか、少女は気を失ってしまっていた。
「なッ!? おい! しっかりしろ!」
少女の肩を揺さぶるが、反応はない。取り敢えず息はあるようだが、この状況はまずい!
すると、そんな俺に追い打ちをかける様に土煙が晴れてゆく。
その先に居たのは、青紫色をした人間ほどの大きさの、カプセルに似た円柱型の機械だった。中央には黄色いレンズがあり、背面から赤いコードを複数伸ばしている。しかし、ボディの装甲が所々剥がれており、そこから内部の機械が剥き出しになっている。その様子はまるで、どこかで戦闘でもしてきたかのようだ。
「……これは本格的にヤバイな」
その形状からして、恐らくさっきまで川に沈んでいた奴だろう。俺が近づいたせいなのか、それとも別の要因か。いずれにせよ、そのせいで起動したってところか。
何がやばいって、あの機械、明らかに俺たちを照準に入れてるってことだ。このまま、すんなりと逃がしてくれそうにない。
ただでさえ非力な俺に加え、ここには気を失ったのが一人。俺一人で逃げればワンチャンあるかもしれないが、助けてくれた相手を見捨てるほど俺は薄情じゃない。
……できることと言えば、俺が囮になることぐらいか。
少女を地面にそっと寝かし、気を引くために手ごろな石を手に持つ。そして、少女から離れようとゆっくりと動き出す。
だが――――
「――ッ!?」
俺の行く手を遮るように、カプセル型の機械が俺の動こうとした先に赤いレーザーを照射した。
さっき撃ったのはそれか! いや、それよりもこいつ、もしかして……
俺が動くのを止めると、カプセル型の機械はコードを伸ばしながらこちらに近づいてきた。どういう訳か知らないが、どうやら奴さんは俺たちを捕まえたいらしい。
どうするどうするどうする! 不用意に攻撃されることはなさそうだが、このままだと二人とも一網打尽だぞ! さっきの音で誰か駆けつけてくれるとしても、その前に俺たちがどうにかなっちまう!
これといった打開策も思いつかないまま、ジリジリとカプセル型の機械は距離を詰めてくる。そして、俺たちを捕らえようと赤いコードを伸ばしてくる。
「くっ……もう、駄目なのか……?」
せめて俺は、少女を庇うように前へ立つ。そして、コードが俺を捕まえようとした、次の瞬間――――
コードの先端がすべて
「……」
「な――ッ!?」
そして俺の目の前には、先程まで気を失っていたはずの少女が、よく見覚えのある黒いガントレットを身に着け、同じく黒い髪を風に靡かせながら立っていた。
という訳で前編でした。
いやー、この黒髪の少女は、一体誰なんだろうなー。
書いても書いても一向に完成する気配はなく、文章量だけがどんどん増えてしまったので、急遽二つに分けさせていただきました。
申し訳ございません。
後編は、少なくとも今月中にはupしますので、それまでお待ちください。