元同性の親友とその想い人がアプローチを仕掛けてくる件   作:作者B

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前回中途半端に切ったせいで、今回はちょっと短めです。


王の聚合 後編

「皆お待ちかね、歴史のお勉強のお時間よ! さあ、Hurry up(早く)! ASAP(可及的かつ速やかに)!」

 

 昼食を取り終え、導かれるまま書庫らしきところに連れてこられた子供組と俺。そして目の前には、テンションが上がりに上がって目を輝かせているルーテシアさんが居る。

 ……やっぱ俺、帰っちゃダメかな? なんか、今にも捕食されそうな勢いなんだけど。

 

 ちなみに、ルーテシアさんの不気味な気配を察知したのか、ジークはヴィクターを連れ、見学と称して大人組の訓練を見に行った。

 おのれジーク、勘のいい奴。体よく逃げやがったな……

 

「る、ルーちゃん、落ち着いて。レンさん達が反応に困ってるよ……」

「おっと、いけないいけない。この千載一遇を逃してなるものですか」

 

 唐突に正気に戻ったルーテシアさんが、と言ってもまだ興奮気味だが、本棚から何冊か本を見繕い始めた。

 

「というか、今更俺たちに聞きたいことってなんですか? ある程度はヴィヴィオが話したと思ってるんですけど」

「……ええ、しっかりと聞いたわ。惚気に次ぐ惚気話を、延々と」

「えっへん!」

 

 ルーテシアさんは光を失った瞳で窓の外へ視線を向ける。

 なんというか、ご愁傷様です。あと、ヴィヴィオ。お前はなんでそんなに誇らしげなんだよ。

 

「さて、気を取り直して。今日、二人に聞きたかったのはこれについてよ」

 

 そう言って、ルーテシアさんが取り出したのは1冊の本。タイトルは――

 

Claus G.S.Ingwalds Memoiren(クラウス・G・S・イングヴァルトの回顧録)? お前、いつの間にこんな大層なもの書いてたんだ?」

「はて? 私が書いていたといえば、手記ぐらいのはずですが……」

「ああ、その本は後世の作品だから。多分、クラウス(アインハルトさん)の日記も参考にされてるはずだけど」

 

 ヴィヴィオの言葉を聞き、俺はルーテシアさんから本を受け取って、パラパラとページを流し見する。

 なるほど、確かにヴィヴィオの言う通り、かねがね本当のことが書かれてるな。

 

「……いえ、この本は不良品です」

 

 すると突然、アインハルトが突拍子もないことを言い出した。

 

「なんだよ急に。何が不良品だって?」

「レン――ローレンツのことが書かれていません」

 

 いや、古代ベルカ史の専門書にすら登場しない俺が、自伝小説に出てくるわけねーだろ。

 こいつはどーも、俺を過大に評価する節があるな。

 

「そうなんだよねー。私とレンの間に繰り広げられた悲しき主従愛が全部省かれててさー」

「私の記録を語るのにレンが居ないなんて、画竜点睛を欠くとはこのことですね。あと、レンは私の従者です」

 

 ヴィヴィオの妄言とアインハルトの(あるじ)発言を無視しつつ、回顧録のページをめくる。すると、捲っていた途中で1枚の挿絵が目に入った。

 

「これは、オリヴィエにクラウス? 綺麗に描かれてるじゃないか」

 

 そこに描かれていたのは、椅子に座るオリヴィエと、その斜め後ろに立つクラウスの人物画だった。

 こうして揃って静かにしていると、やっぱり絵になるな、この二人は。しゃべったら割と台無しだが。

 

「やだっ、レンってば私が綺麗だなんて。これはもう、実質告白――」

「そういえば、これも聞いておきたかったんだけど」

 

 ヴィヴィオの言葉を遮るように、ルーテシアさんが挿絵のオリヴィエを指さした。

 ……随分と扱いがこなれてますね、ルーテシアさん。

 

「この本には『オリヴィエは幼少期、事故により両腕を失った』って書かれてるんだけど、挿絵には両腕ともあるのよね。義手にしては、あまりにも機械っぽくないし。まあ、写実画じゃなくて理想画と言われたらそれまでなんだけど」

 

 確かにこの絵のオリヴィエは、普通の人間と瓜二つ(・・・・・・・・・)の手を、自身の膝の上に置いている。エレミア特製の義手とは似ても似つかない。

 

「あれ? ルールーには言ってなかったっけ? その義腕(・・)はレンが作ってくれたんだよ」

「えぇっ!? これ、義手なの!?」

「うん。見た目も動きも普通の腕そっくりなんだー」

 

 ルーテシアさんと、ついでにリオ、コロナも目を見開いて俺の方を見つめる。

 そこまで素直に驚かれると、流石に少し照れるな。

 ヴィヴィオの言った通り、オリヴィエの日常生活用の義腕を作ったのは俺だ。ただ、人間の腕の再現性を追求しすぎたばかりに、オリヴィエ級の魔力操作技術がないと碌に動かせない、完全なワンオフ品になっちまったがな。

 

「はぇ~、さすが古代ベルカ。さも一般人ですって態度だったのに、やっぱり只者じゃなかったのね」

「当然です。レンは私の従者であり、トレーナーであり、デバイスマスターなのですから」

「ちょっと、それは属性盛り過ぎじゃない? なんで、執事がデバイス技術に精通してるの」

「いや、これは昔取った杵柄というか……」

 

 そう言って俺は、昔世話になっていた機械フェチの変態を思い浮かべる。

 そういえば、義腕造りの知恵を貸してもらう代わりに、あいつのデバイス製作を手伝わされたっけ。

『本型ストレージデバイスを制御する管制人格を作りたいんだが、あいにくワタシは人間の感情というものに疎くてね』

 なんて言うもんだから、やったこともないAIを作る羽目になったりと、随分無茶ぶりされたなぁ。今となってはいい思い出だけど。

 

「むっ! レンから女の気配がした気がする」

「突然なんだよ、怖えーな」

 

 確かにあいつは、一応女だけど。

 ていうか、何なんだそのセンサー。ナチュラルに俺の思考を呼んでくるなよ。

 

「まったく、レンは少し目を離すと、すぐに誰か引っ掛けるんだから」

「人をナンパ男みたいに言うな。第一、親しい間柄なんて両手で数えられるくらいしか居ないぞ」

「どーだか。レンってば、侍女からの人気も高かったしねー」

「おや、それは初耳です」

 

 まあ、人の機敏に疎いお前じゃ、気が付かんだろうな。

 ただ、鈍いアインハルトはともかく、その件は俺も知らんかったぞ。

 え、マジで? 確かに仕事の話はよくしたけど、こいつらの世話が忙しすぎて、全然気にも留めてなかった。

 

「そーなんだ。なんかそういうのって、王子様の方が人気ありそうなイメージだけど」

 

 確かに、リオの言う通りだ。

 事実、クラウスも侍女から黄色い歓声を貰ってるのは何度も見かけたし、俺もそういうもんだと思ってたんだが……

 

「どんなに王子様に恋い焦がれても、伴侶になんてなれないからね。その点、レンはあくまで同僚だし、王子直属っていう好待遇で国王からの信頼も厚い。職場結婚を狙うなら一番の優良株でしょ」

 

 あー、何かそう言われると、妙に納得してしまう。

 

「そういう生々しいところは、いつの時代も変わらないのね」

「なんだか、イメージがどんどん崩されてく気がする……」

 

 ルーテシアさんは、こんな話でも興味深そうに頷いた。

 それと、コロナ。現実なんてそんなもんだぞ。脳内お花畑(ヴィヴィオ)天然脳筋(アインハルト)がいい例だ。

 

「まあ、レンは私たちに付きっきりだったし、私とリッドでそれとなく牽制してたから、誰一人レンには近づけなかったけどね!」

 

 そこ、胸を張って威張るようなことじゃないだろ。まったく……

 

 すると、ルーテシアさんが訝しむような眼でこちらを見ていた。

 

「どうかしました? ルーテシアさん」

「え? ああ、今日のやり取りを見てちょっと不思議に思って。なんだか、貴女達3人の関係性がよくわからないのよね。 今日1日見てた限り、二人がレンを取り合っているように見えるけど、(モノ)によっては『オリヴィエとクラウスは恋人』なんて書かれてることもあるし」

 

 あぁ、確かに、それは俺も気になっていた。今までは、なあなあで流してきたけど、その辺の関係って結局どうなんだ? 俺も最初は、オリヴィエとクラウスがいい感じになるもんだとばかり思ってたけど。

 

 すると、ルーテシアさんの言葉を聞いたヴィヴィオは、少し困ったような表情をしながら、口を開いた。

 

「……当時の私は、恋というものを理解してはいなかった。けれど、それでもクラウスは替えなど利かない、大切な人であったのは確かだよ。

 多くは望まない。ただ、ずっと一緒に居られれば、それでよかった」

 

 そう話すヴィヴィオの瞳は、慈愛に満ち溢れていた。

 窓からさすほのかな日差しが重なり、いつもはお転婆な彼女も、今この瞬間は、話に伝え聞く救国の聖女を彷彿とさせた。

 

「ヴィヴィオ……」

 

 彼女の言葉を聞いて、俺は思わず言葉を失う。

 正直、驚いた。『ゆりかごの聖王』なんて大層な肩書を持つ彼女の願いが、ありふれたものであったことに。

 そして、改めて思い知らされる。そんな、ささやかな願いすらも叶わないほど、俺たちの生きた世界が残酷であったことに。

 ヴィヴィオ、お前は――

 

 

 

 

 

「でも、レンは私が貰うけどいいよね(それはそれ、これはこれ)

 

 ――前言撤回。さっきまでの、しんみりとした空気を返せ。

 

「私も、オリヴィエのためなら命を懸けることも厭わない。ですが、私からレンを奪うのは許しません(それはそれ、これはこれ)

 

 アインハルト、お前もか。

 

「……なんとなくだけど、貴方達の関係が分かったような気がするわ」

 

 理解しきれないのは価値観の違いかしら、と一人で納得するルーテシアさん。

 俺としては、話題の緩急で余計に混乱しただけだったが、まあ俺がどうこう考えたところでこいつらの行動が変わるわけでもないし、互いを大事に思ってることだけわかれば問題ないだろう。

 

 

 

 この後は、なのはさん達の訓練を見学しに行ったり、ルーテシアさんお手製の温泉に浸かったりと、特に問題が起きることなく、合宿初日を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜の1コマ~

 温泉から上がり、談笑もひと段落して、皆が眠りについた夜深。

 外へ出ると、ロッジの明かりが消えているせいか、都会よりも多くの星が瞬く夜空と天上に浮かぶ満月が、あたり一帯を薄暗く照らす。髪を撫でる夜風は心地よく、温泉で火照った僕の身体から体温を奪っていく。

 

 すると、僕と同じくロッジを抜け出してきたであろう一つの小さな影が、此方へ歩いてくる。

 その足取りは華奢ながらも力強く、髪が風に晒されようとも一切ぶれることのないその重心は、さながら巨木を連想させる。

 

「……お久しぶりですね、殿下」

 

 僕の言葉に答える様に、月明かりに照らされ、小さな影に光が差す。

 僕の目の前に現れたのは、ローレンツと心地良さそうに話していた齢12の少女(アインハルト)、などではない。負の感情(憤怒・憎悪・後悔)を瞳の奥に凝縮させた『シュトゥラの覇王(クラウス・G・S・イングヴァルト)』そのものだった。

 

「やはり、貴方だったのですね、リッド」

 

 彼女()は確信めいた口調で話す。

 いや、これは会話ではない。ただ、言葉を発しただけだ。彼女()は最早、此方と対話する意思を持っていない。

 

 僕と彼女()の間に言葉はなく、ただ風音だけが鳴り渡る。

 僕が何を語っても、彼女()には届かないだろう。

 当然だ。僕は彼女()に恨まれるようなことをしたのだから。なら、命を差し出せば収まるのか? だが、生憎僕は殺されてあげるわけにはいかない。

 

 風が止み、唾を呑む音さえ聞こえそうなほど静まり返る。

 このまま戦いが始まれば、ロッジに居る誰かが止めに入る? いや、彼女()なら、その前に殺そうとするだろう。生憎、簡単に殺されてあげるつもりはないが。

 確かに悔恨(かいこん)はある。だけど彼の、ローレンツ傍に居ることを邪魔するのなら、そう、それが例え殿下であっても許さない。

 

 握り拳に力が入る。

 数瞬の(のち)戦争(コロシアイ)が始まる、そんなとき――

 

 

 

「そこまでです」

 

 

 

 少女の一声によって遮られた。

 

 さっきまで沸々と湧き上がっていた殺気は消え、声の聞こえた方へ振り向く。

 そこに立っていたのは、こちらを制するような視線を向けるヴィヴィ様だった。

 

「ヴィヴィ様……」

「二人とも、ローレンツを悲しませるような真似は、私が許しません」

 

 そう話すヴィヴィ様の瞳は、慈愛とは程遠いものだった。

 顔を薄暗く照らす月光が重なり、いつもはお転婆な彼女も、今この瞬間は、戦場においてただの一度も膝を突くことのなかった、嘗ての『無敗の聖王(オリヴィエ・ゼーゲブレヒト)』そのものだった。

 

「…………」

 

 殿下は言葉も発することなく、瞳に宿した悪感情そのままに、ヴィヴィ様へ視線を向ける。昼間の和気藹々としたお二人の姿からは想像もできないほど、冷たい視線が交差する。

 それも当然だ。記憶は苦痛なものほど心に深く刻まれる。であるならば、前世ように振舞える今の我々に、嘗ての遺恨など消えているはずがない(・・・・・・・・・・)

 

 今までは、ただローレンツの優しさに甘え、黒い感情を彼から隠し、そして自分自身も見て見ぬ振りをしていたに過ぎない。

 彼が居なければ崩壊する、そんな危うい関係でしかないのだ。

 

 ヴィヴィ様の仲裁により、この場が再び寂静に包まれる。

 しかし、その静寂は慮外早く、不気味な笑声と金属の擦れる音によって破られた。

 

「ふ、ふふふ、ふふ……」

「――ッ!?」

 

 ヴィヴィ様の背後から現れたミス・ダールグリュンは、まるで、彼女の心情を表すかのように乱れた金髪を風に靡かせながら、引きずっていた戦斧をヴィヴィ様に向かって振り上げる。

 

「生きてる、生きてた! 切り捨て(ゼーゲブレヒト)犬死に(イングヴァルト)姿を眩ました(エレミア)、3人! 三人! さんにん! あは、はははははははッ!」

「ッ! ヴィヴィ様ッ!」

 

 僕は瞬時に強化魔法を展開し、地面を蹴る。

 それと同時に、殿下が不意を突かれたヴィヴィ様のもとへ駆け出した。

 

「疾ッ!」

 

 ヴィヴィ様の手を引き、守るように懐へ抱き寄せる殿下。

 そして、そんな二人に戦斧が振り下ろされようとするその瞬間、ミス・ダールグリュンの背後に回り込めた僕が、彼女の首に手刀を放つ。

 

「が――ッ」

 

 上手く意識を刈り取れたのか、戦斧を手から落とし、力が抜けていく彼女の身体を急いで支える。

 昼間は大人しいと思っていたが、まさか僕たちが集まるタイミングで発作が起こるとは。僕らに触発されたとみるべきなのか……。

 

「……ミス・ダールグリュンは僕が送っていきます。では、失礼します」

 

 お二人に視線を合わせることなく、僕は彼女を横抱きで抱え、ロッジの方へ歩き出した。

 おそらく、あのお二人もこれ以上騒ぎになるようなことはしないだろう。僕もそろそろ、時間が切れる(・・・・・・)

 

 僕たちはこれからも、ローレンツの見せる優しさに縋り、すでに失われた輝かしい想い出に浸りながら、目を逸らしていくのだろう。

 だけど、ヴィヴィ様を守ろうとした殿下が見せた咄嗟の行動。皆、理性ではわかっているのだ。ただ、感情を抑えるには、僕らはあまりにも多くのものを失い過ぎた。

 だから、いつか破綻するその時には、またあの時のように皆が笑い合える、そんな関係に戻れますように――

 

 

 

 

 

 




これで長々と続いた合宿編も終了です。
模擬戦? 知らんな。

ぶっちゃけ、ジークとヴィクターを合宿に呼んだのは、最後の話がしたいが為だったり。

次回は、閑話を1回挟んでDSAA編に、入れればいいな……







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