「はあーっ…………」
入学式も、そつなく終わり、今は新しいクラスでの、ホームルームが行われている。
僕の座席は、一番後ろの窓際という最高のポジションだった。名前順かと思いきや、最初から、席替えを行ったのだ。
わずかな隙間から入ってくる、潮風が机の上で、腕を組んで、その上に顎を乗せている僕の髪をやさしく撫でた。
高校は、大人の一歩手前で、ちょっとヤンチャしても許されるという時期だ。
友達を作って、恋に発展して、たまに喧嘩したりして、でも、仲直りして、キスをして、そして、それ以上の関係になって。
そうやって、大人たちは、最高の思い出を、何年たっても色褪せない、かけがえのないものを、高校という3年間の時期で築いた。
バラエティー番組でも、アニメでも、ドキュメントでも、学校が舞台になる場合は、あらかた高校だ。
そして、文化祭、体育祭をはじめとして、長いようで、短い時期を光のようにかけぬけていく。
そのような甘美な響きのする体験をこれから自分たちが、していくことに、ある種、わくわくしているし、緊張もしているのだろう。
そんな中、僕は、ただ今回何回目かわからない溜息をついていた。
「名人君、ホームルームも終わったし、帰ろう……って、うわっ、どうしたんだい? 名人君、入学一日目には、全く、ふさわしくない溜息をついちゃって」
そんな声がして、僕は、ふと顔をあげた。
そこには、僕の中学時代からの親友である、九品仏大二郎が立っていた。
鋭い双眸に、男とは思えない長い睫毛。よく湘南の日に焼けた肌と、目のあたりまで伸びた、茶色を程よく帯びた髪の毛が、マッチしている。
耳に、ピアスをつけているせいか、チャラいイケメンにしか見えないが、これでも、お寺の息子なのだ。
それも、鎌倉で、そこそこ名の通ったお寺だ。彼のお父さんが、山を開墾して作り上げたという豪奢なお寺。
僕も前に初もうでの時に一度行ってみたが、とてもすごいところだった。テレビでもたまに紹介される通称、山中の金閣寺。
本堂はびっしりと、壁から屋根まで金箔が張られていて、何年かに一回張り替えているらしく、地元の人からは、金運アップのお寺として、親しまれている。
身長もすらっと長いし、体躯も見た目こそ細いけれども、実際は、かなりの筋肉を服の下に秘めている。
というのも、彼は、中学時代、野球部の4番でエースで、地元の大会において、一人で点を入れて、一人で完封してしまうとかいう超人的な記録を出すほどのスポーツマンだったのだ。
それに勉強面だってかなりの優等生だ。テストは、毎回において、全部100点とまではいかないけど、ほぼそれに近いものを取っている。
しかもそれを、驕ろうとも、自慢しようともしない。どうして、そんなに頭がいいの?、と皆から聞かれて、もてはやされても、愚直に、毎日復習しているからね。僕は、そんなに地頭がよくないから、そうするしかないんだ、と謙虚にふるまう。
だから中学時代も、良く周りから頼られ、先輩からも後輩からも愛され、先生からも愛され、バレンタインの日には、たくさんのチョコを、もらっていた。
本当に完全無欠なのだ。それも、羨んだり、妬んだりするほうが、馬鹿に見えてくるほどに。
そんな奴がよく僕みたいなやつと友達になったと思う。気が合うとは到底思えないんだけどな。
「ねぇ、聞いているかい?名人君」
「……あっ、あぁ、聞いているよ。で、何だっけ?」
「何だっけ、って、聞いていなかったね。名人君……。だから、何で、そんな新しい高校生活には、ふさわしくない、どんよりとした溜息をついているのか、ってこと」
「あぁ、そうだね。うん……」
「本当にどうしたんだい? いつもの君らしくない」
彼は、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「たいしたことじゃないよ。君が気にするようなことじゃない」
「なんだか、さびしい言い方だなぁ」
はは、と彼は、目を細めて笑う。
それは、本当に、壊れてしまいそうなほどの柔らかいものだった。しかも、そうした小さな抵抗を見せるだけで、某ジャイ○ンのような、暴力的な手段に出てこない。
それを見ていると、いつもそうなのだがせっかく心配してくれているのにむげに扱うのも、悪く思えてくるのである。
「……はぁ、わかった。わかった。ちゃんと言うから、そんな寂しげな顔をしないでくれ」
彼は、パッと表情が切り替わり、笑顔になった。感じのいい笑い方。誰からも好かれそうな笑顔。
友達とはいえ、僕は彼のこの表情がどうにも好きじゃなかった。
「……この学校に生徒会長いるだろ?」
「うん。そうだね。さっき、入学式で、校長先生のあと、在校生からの挨拶代表を任されていたよ。とても美しい人だったね」
「そう、その人。僕は、今日入学式に行く前、その人に助けられてしまったんだ」
「助けられた? 何をしたの?」
「いやぁさ、今日の朝、校門をくぐったら、部活勧誘、先輩がしてたろ? あれで、僕だけ、この体ばかりが目立ちゃって、結局1枚も、もらえなかったんだけど」
「それだったら、僕の分半分あげようか? かなり、もらっちゃったし」
「いや、いらないよ。それ、すごく僕が、惨めになるだけじゃないか」
「もらってくれると嬉しいんだけどなぁ……」
また、悲しそうな顔をする。これで、急患で運ばれていった自分の父親の手術の経過を、夜中、病院の備え付けの席で、心細く待ち続ける娘の演技とかだったら、すぐにでも、俳優を志すべきだと思う。
本当にわが友人ながら面倒な奴だと思う。中学時代、こいつの取り巻きだった奴らも苦労したんだろうなぁ。さっきもそうだけど、別に僕は善人でもなんでもないけど、それでも彼に、こんな顔されると、多少苦しい頼みでも、手を差し伸べずにはいられなくなってしまう。不思議な力だ。
「わかった、わかった。そのプリント、半分は、僕が引き受けるから!」
「ありがとう!」
それで、また笑う。屈託のない笑顔。本当に得な奴だ。スペックは高いし、憎めないキャラだし。何も言うことはない。
彼がいそいそと自分の鞄から、プリントを取り出している間、僕は、溜息をつきつつ、話を戻した。
「でね、僕は、何だか、むかついたわけさ。せっかく入った高校の一日目でどの部活からもお払い箱宣言されるし、それどころか奇異な目で見られるし。だから、ポケットに手を突っ込んで、プリントなんかいらないぞ、っていう意思を見せつけてやろうと思ったわけ」
「ほうほう。それで?」
彼は、おびたただしい量のプリントを、僕のバックの口を開けて突っ込んだ。でも、何も言わない。また悲しそうな顔をするだろうと思ったからだ。
「それで、僕は、馬鹿みたいに石に躓いたわけ。地面は、アスファルト。僕の手はポケットの中。到底、地面に僕の体が衝突するまでに、手をポケットから出して体を守るのは無理だった。それで、怪我をして笑いものになって学校初日から、高校生活のスタート失敗か、と走馬灯のように、頭を駆け抜けていった、そんな時だよ。生徒会長が颯爽と現れてさ。僕を助けてくれたんだ。重いとも言わず、支えてくれた」
「へぇ、それは……さすがだね」
「うん、本当に、さすがだよね……って、うん?」
……今、さすがって言ったような気がするんだが、気のせいだろうか? 本当に小さい声だったのでよくわからなかったが。
「どうしたの? 続きは」
まぁ、この二人が、知り合いなはずもないだろう。僕の聞き間違いだ。
僕はすぐに、話を再開した。
「いやー、もう、本当に格好良くてさ。こつんって、僕の頭を小突いて注意してくれて。他の人は、僕のことを嘲っていたのに、彼女はまっすぐ僕に接してくれた。本当に天使だよ、もう……」
そこまで、言ってから、また今日何度目かのほうっ、というため息をつく。
もう彼女のこと以外考えられなさそうだ。
これが、人を好きになるってことか。不思議な感じだ。
……でも、やっぱりなんだか恥ずかしいな。友達に、自分が、恋をしてしまったことを言うのは。
「それで、何、名人君は、その生徒会長に、一目ぼれというわけかい?」
「…………よくわかったね? 君はエスパーか何かかい?」
僕はしれっと、僕の気持ちを言い当てて見せた彼に対し、何だか気が抜けてしまった
「いやいや、そんな真っ赤な顔して、夢見心地に、女の子の話をしていたら、ふつう、あっ、こいつ、その子のこと好きなんだろうな、ってわかるよ」
「そんなもんかね?」
「そんなもんだよ」
閑散とした教室に、僕と大二郎の2人。彼は、僕の前の人の椅子の背もたれの部分に腕を乗せて、背中を黒板のほうに向けている。
新しい教室。これまでに生きてきて、嗅いだことのない新鮮な優しい木のにおいがする。机といすは、理路整然と並び、そのどれもがきれいだ。
床には、ゴミが、一つとして落ちていない。塵ひとつ舞っていない。それは、木目が、うっすらと見えるほどだ。
すでに校庭からは、部活をする学生たちの声が聞こえた。どうもこの学校は全体的にせわしがない。いきなり学校入学初日から、部活の体験入部ないしは入部が許されているというのだから。
日は高く上り、窓を通して教室の中を照らす。明かりのともっていない、うす暗い教室に光を与えていた。
僕は、高校生なんだ。15歳。もう中学生じゃない。一つ年を重ね、大人になったんだ。
「どうすればいいのかな、僕は?」
「どうすれば、っていうのは、つまり、どういうこと?」
「そりゃ、あの生徒会長に対して、この僕の内に秘めているおそらく好きだ、という感情をどう取り扱っていけばいいのか、ってことさ」
「随分と、回りくどい言い方をするねぇ。君は、彼女のことが好きなんでしょ? それだったら、選択肢は、2つしかないじゃないか」
彼は、ピッと、人差し指と中指を、突き上げて、
このままでいること、つまりは、告白せずに、あこがれの生徒会長を、好きになってしまったモブキャラを、3年間演じること。
もしくは、
彼女に告白すること。そのために、彼女の理想になれるように、自分を磨くこと。
「まぁ、考えすぎることはないと思うよ? まだ、高校入学一日目だし。もうちょっと、彼女について知ってから、どうするべきか考えたほうがいいと思うけど、ただ」
彼は、そこまで言って言葉を濁した。
「ただ?」
そう気になった僕が、尋ねると
「うん。君に、こんなことを言うのは中学時代からの付き合いとしては、悪いんだけどね? 一つ言わせてもらうのなら、少し君は太りすぎた、と思う。痩せたほうがいいんじゃないかってこと」
…………おいおい。マジかよ。こいつにまで、婉曲的とはいえ、デブと言われてしまうなんて。しかも、わざわざ、忠告するレベルだろ。
そういう自分の体に関することっていうのは、なかなか自分の主観では、気づけないことだからな。やっぱり人から言われるっていうのは、かなり正確なわけで。
自分のズボンからこぼれた肉を、さする。そして叩く。ポンポンという小気味の良い、太鼓のような音がする。
奥さんから、最近、あなた太りすぎよ、ちょっと運動したら、って言われて、自分の体を鏡で見て、溜息をつく中年の気持ちがよくわかった気がする。
「……中学時代に…れば、いいのに。……かったんだから」
ふと、大二郎を見ると、彼は何か小さな声でぼそぼそと言っていた。少し表情が不服そうだった。
「どうしたんだよ、大二郎?」
「あっ、いや、何でもない。とにかく、君は痩せたほうがいいよ。そうしたら、絶対に告白は成功すると思うね」
「何で、そんなことが言えるのさ?」
「逆にわからないのかい? だって、君は、中学時代……」
そこまで言って、彼は、しまったという顔をした。
一気に気分が悪くなった。現実にひき戻された感じがした。
そして、今まで、骨抜きにされていた自分が馬鹿らしく思えてきた。
それだけ僕の中学時代は暗黒なのだ。思い出したくもない、誰にも、それがたとえ親友にでも触れられたくない最低の時期なんだ。
しかも彼は、どうして暗黒だったか、同じクラスだったので知っている。僕が、どうして、中学時代をタブーとしているのかも。
だから、こうして申し訳なさそうな顔をしている。お互い黙り込んでしまった。教室にはコチコチという時計の針が進む音だけが響いた。
これ以上いても無為に時間をつぶすだけなので、僕は、もう話すことはない、として、席を立ち上がって
「すぐに忘れるんだよ、この気持ちだって……」
「そんな……」
「別に、元々、高校に入ったって、恋なんかする気はなかったんだ。僕に女の子を好きになる権利はない。だからお寺の息子である君に、何か、この心の中を満たす切ない気持ちを、否定してくれる言葉を期待していただけなんだよ」
嫌な言い方だと思った。やっぱりまだ僕は大人になれていない。中学生のころとは、全く変われていない。
見れば、彼の笑顔も少し曇っていた。表情にこそ出さないけれど、内心、怒っているに違いない。
それで、すぐに頭は冷静になった。全く、お互い様ってやつだ。
「……ごめん。言い過ぎた」
そう言って頭を下げる。本当に今日の僕は、どうにかしているみたいだ。
「……そんな、名人君。頭を下げないでくれ。元々、切り出してしまった僕が悪いんだ」
それを聞いて、頭を上げると、彼はいつもの柔和な笑顔に戻っていた。
「思うに、君は、中学時代に、とらわれすぎなんだよ。ここの高校の人は、僕を除いてだれも君の過去なんか知らない、そのことをわかっていて、この学校を選んだはずだろ。 それなのに、どうして、過去にそこまでこだわるんだよ?」
全く持って、おっしゃる通りだ。そうだ。ぼくだって、それくらいのことは重々承知しているつもりだ。ただ……。
「人間の過去が、今を作り、未来を創るんだ。つまり、過去に過ちを犯した僕みたいな人間にとって、今、未来に希望の光は訪れない。だから、今の日本の社会システムは一度悪いことをした人には、二度と手を差し伸べてくれないんだろう?」
「悪人だなんて。言い過ぎさ。それは自分自身についている嘘に過ぎないよ」
彼は、僕の心を見透かしているのかもしれない、と思った。自分のことは自分ではわからない、他の人しかわからない、ってやつだ。
もしかしたら、彼の言う通りなのかもしれないし、違うかもしれない。どっちにしても僕は言い返せない。
「とどのつまり、君は女の子という生き物が怖いんだよ」
「それは、僕が女性恐怖症ってことかい?」
別にそういうことはないと思うんだけどなぁ。今だって生徒会長に、ときめいているんだし。
「それは、肉体的な接触の面さ。そういうことじゃないくて、僕が言いたいのは、君は、女子という生き物特有が持つ、心に潜む、得体のしれない鋭くて、触ってしまうだけで何もかもがズタズタにされてしまうナイフを、怖がっているんだ。」
女の子特有のナイフ、か……。
鋭利で、どこまでも、えげつなくて、そして、脆過ぎて、すぐに刃こぼれしてしまう刃物、ナイフ。
「よく、わからないかな。だって僕には難しすぎるもの。それに、それじゃ、まるで、女の子が嫌な奴みたいな言い方じゃないか。それは違うよ。ただ僕が、女の子を好きになってしまってはいけない。僕みたいな、太ったら太ったでまわりから馬鹿にされ、痩せたら痩せたで周りを傷つける、そんなどうしようもない人間が、女の子を好きになるなんて、その子の平凡な日常を打ち壊してしまうにすぎない。ただそれだけのことだよ」
僕がそう言うと、彼は肩をすくめて見せ、
「君は、自分を戒めすぎなんだよ。確かに中学時代は、色々とあった。君は、たくさんの女の子を泣かせた。それに気づき、悔い改めることはいいと思うよ。たださ、自分を悪く考えすぎだよ。ベクトルが間違っているね。次からはちゃんとしようって考え方でいいじゃない」
次からはちゃんとしよう、か……。僕にできるのだろうか。そんな器用なことが。
そんな落ち込む僕を見てか、彼はニコリと笑って
「今度は、大丈夫だよ。だって良くも考えてみてよ。中学時代、君が痩せた理由って、ある種、自分を馬鹿にしてきたやつらに対して見返してやることでしょ? でも、今回はちゃんと恋をした。それは君が思っている以上に、とても素晴らしいことだよ。決して煩悩なんかじゃない」
場の空気は、和やかなものになっていた。僕も、自分を落ち着かせることができた。やっぱり彼の笑顔は本当にすごい力があると思う。
「そんなもんかな?」
「そんなもんだよ。……あっ、そういえば、さっき部活紹介で、すごくかわいい女の子二人組がやっている部活で、今の君にぴったりの奴があったから、この後すぐにでも見に行ってほしいんだけど……」
「それって、もしかして、花王のバ部とかいう、うさんくささ満載の部活のことを言っているのかい?」
「いや、どう考えたって、今の会話の流れからしたら違うでしょ。まぁ、確かにあそこも、二人組の女の子で、部活やっていたことはやっていたけどさぁ、可愛さが尋常じゃないんだよね、その部活……ってよし、あった、これこれ」
彼は、バッグの中から、一枚の、長方形の紙を取出して、僕によこしてきた。
それにしても、大二郎のお眼鏡にかなうほどの女子がいる部活だなんて、どんな部活なんだろうな、そう思ってその紙にに目を通すと、そこには、以下のようなことが書かれていた。
恋愛アドバイス部
高校生という人生で最も楽しい時期の一つとして挙げられる三年間。好きな女の子の一人や二人も当然できるだろうと思われます。
あの子のタイプってなんだろう。どうすれば、振り向いてもらえるんだろう。そもそも女の子にどうやって声をかければいいのかわからない、恋をしたものが通る当たり前の道です。
でも、一人で抱え込んではいけません。一人で抱え込んでは、一向に解決に向かわず、ただ高校生活を棒に、振るだけです。
だから、皆で、恋を成就させて、幸せな学園生活を過ごすべきであることをここに宣言します。
そのために、私たち、恋愛アドバイス部はこの学園に在籍する女子生徒が、男女関係なく、本気で皆さんの恋のお悩み、どんどん解決しちゃいます。
ですので、気になった方は是非、5階心理室まで、足をお運びください。
ちなみに、部員希望の方は、その旨を部員にお伝えください。後日、部員として入れるにふさわしいか、の試験を行い、合格した者のみ、部員として認めます。
そして、紙の余白には、心理室までの生き方を描いた地図と、得体のしれない羽の生えた、おそらくキューピッドであろうが、パッと見、もの○け姫に出てきそうな、異形の怪物にしか見えない、絵が、でかでかと描かれており、こいつらやる気あんのかと本気で疑ってしまった。
「というか、何だか宣伝文句が結婚詐欺の会社みたいなんだけど……」
「まぁ、確かに、そういわれれば、そうとしか見えないんだけど、まぁ、女の子が相談に乗ってくれるんだから、おそらく、僕よりも、ちゃんと話を聞いてくれるだろうし、とりあえず、一度足を運んでみたらどうかな?」
もう一度紙を見る。5階心理室までは地図を見るにかなり近そうだ。まぁ、別に何か約束でもあるわけじゃないし、よし、行ってみるか。
「じゃあ、ちょっと行ってみるよ」
「うん、そうしたほうがいい。じゃあ、僕は僕でちょっと見てみたい部活があるから、そちらに行かせてもらうけど、後で話聞かせてね」
彼は、バッグの口を閉めて、肩にかけるや否や、僕の横を通り抜けて、そそくさと教室を出て行ってしまった。
どこの部活なのか、聞く暇すらなかった。まぁ、今度聞けばいい話なんだが。
「よし、じゃあ、僕もちょっくら、行ってみますか」
そうして、僕も、後に続くように教室を出たのであった。