サーヴァント日常劇。 作:青眼
「………暑い。くそ、エアコン切れてやがる」
その日は、なんとなくで目が覚めた。この間発見された第二の亜種特異点。『伝承地底世界 アガルタ』でも激動の日々を送り、つい先日それを解決させた俺はゆっくりと休暇を堪能、していなかった。
たとえ、俺たちの行動―――『レムナントオーダー』と呼称された―――が人理を保つための行動だとしても、レイシフトは本来、簡単に行っていいものではない。行ったのであれば必ずお偉いさま宛にレポートを作成しなければならないのだ。この間の『新宿』でもそうだったが、今回は今回で壮大なスケールで行われた大事件だったから、それを纏めるために日夜レポート作成に時間をつぎ込んでいる。けれど、それで体を壊しそうになってしまい、それでは本末転倒だとエミヤに怒られてしまった。おかげで、今日は絶対休暇だと端末を取り上げられた。
なので、今日はぐっすり眠って英気を養おうと画策したのだが。どうやら、いつもの癖で早くに起きてしまったようだ。目覚めも良いし、このまま二度寝をしようとも思わない。
「仕方ない、食堂に行って飯でも食うか」
クローゼットからいつもの制服を取り出し、手早く着替えてマイルームを出る。今の時間は朝の六時二十分。早い人ならとっくに起きて鍛錬や作業に取り掛かっている時間帯だ。だが、寝ている人の方が多い時間帯ではある。そんな中でも、ここの食堂は今日も平常運転で開店している。
「おはようエミヤ。いつもの定食を頼む」
「了解だ。今日はよく眠れたか?」
「それなりに、な。けど、いつもの癖でこんな時間に起きちまったよ」
食堂にて、いつもは立てている髪を下してエプロンを身にまとっている男、この間ようやく再召喚ができたエミヤに注文して、互いに言葉を交わす。俺の言ったことに彼は苦笑しながら、茶碗にご飯を、また別の器には汁物を注いでいく。
「ほら、朝の定食だ。昨日も言ったが今日は」
「分かってるっての。今日は何にもしねぇよ。……あ、でも宝物庫集会ぐらいは」
「ドレイクとキャットにいつも通りに任せておけ。毎日周回しているんだ、一日くらいは問題ないだろう」
俺の朝飯を乗せた盆を渡して忠告してくるエミヤにしかめっ面と言葉を返す。最初の方はこっちが頼っている側ということで遠慮していたが、これでも一年くらい一緒の間戦い続けた。お互いにタメ口を言うくらいの仲にはなっている。ちなみに、朝飯は白飯と豚汁、おかずに鮭の炭火焼き大根おろし添えだ。米に汁物。肉とあっさりしたおかずがとても美味しい。毎日食べても飽きない味だ。
「いつ食べてもエミヤの飯は美味しいな。よく厨房で手伝いして俺も練習してるけど、追いつける気がしない……」
「ふっ、まぁ私の数少ない誇れる趣味だからな。そう簡単に追いつけるなどと思い上るなよ?」
「このドンファン面うぜぇ………」
あまり意味は理解できなかったが、以前メルトリリスが言っていた文句を俺も言ってみる。といっても、エミヤはそれは意に介さずそのまま厨房へと戻っていった。俺としてもゆっくりと飯を食べたかったので何も言わずに箸を手に取った、その時だった。俺の盆から焼きたての鮭が消えていた。
「………………………………………令呪を持って命ずる。自害せよ、ジャガーマ」
「うにゃぁぁぁぁぁぁぁ!? ちょ、いきなり自害命令は酷くない!?」
「黙れ、さっさと自害せよ。令呪を持って」
「だから~! 悪かったって! ごめんなさい反省してま~す!!」
俺の鮭を奪った者。この時間帯でこんなことをする奴は一人しかいないと判断した俺は、無心で自害命令を下そうとしたが、その前に犯人が涙目で寄り縋ってきた。虎を意識した着ぐるみっぽい何かを着て、近くにあった肉球棒を携えた女性。第七特異点『絶対魔獣戦線 バビロニア』から仲間になったランサー。南米で祀られている女神(笑)『ジャガーマン』だ。といっても、彼女は一応女神なので波長の合う人物の体を借りて降臨した、憑代召喚とやらで現界しているらしい。一部の人からは頭の頭の痛い話らしい。
「というか人の飯勝手に取ってんじゃねぇよ。一応女神様だろあんた」
「ふふん、食事どころでは常に戦場なのだ! 隙を見せた時点でマスターの負けなのだよ!」
「そうか、なら令呪を持って」
「はいごめんなさい調子乗ってましただから自害だけは許して――――!」
とりあえずで自害させようとした全力で妨害しに来るジャガーマン。正直、朝からこんなハプニングに巻き込まれたから凄いイライラしてきた。本当に自害させてやろうかと思った直後、ジャガーマンの体が壁に叩きつけられた。悲鳴すら上げることができずそのまま吹っ飛ばされたジャガーマンだが、何故か途中にいたクー・フーリン(槍)も巻き込まれていた。
「ごめんなさいねマスター。ジャガーがいたからつい手を出してしまったわ」
「い、いや。こっちこそありがとうケツァルさん。ところでランサーが……」
「死んじゃったわね~。この人でなし~」
「な、なんで俺はいっつもこんな役回りにぃ………」
目の前で消えていくクー・フーリンに同情しつつ、俺はようやく戻ってきた平穏な食事を堪能する。当然のように隣にケツァルさんが座ったから少し焦ってしまったが、本人は気にせずそのまま朝食を取り始めた。
「うん? 食べないのですかマスター?」
「いや、俺は向こうで食べるから、ケツァルさんはここで」
「え~。一緒に食べましょうよマスター。私、まだ貴方とは一緒に食べたことないんデスよ?」
「はい?」
偶然、というよりも成り行きでケツァルさんと一緒に朝飯を食べることになった俺は、ここに来てからケツァルさんがしたことに耳を傾けた。何でも、一日に一人ずつ朝飯を一緒に食べて、対話を心がけていたらしい。同じ太陽系女神の玉藻さんから、反英霊であるジャックやエリザベート。時にはバーサーカーのヘラクレスともだ。
最後あたりは大変だったろうなと声に漏らしてしまったが、満面の笑みで楽しかったと言われてしまえば何も言えない。
「それにしても、マスターは少し不思議な人ですねー。カルデアにいる彼と比べれば消極的に思ってたけど、意外と積極的な人間ですし」
「そうか? たんにあいつは周回作業をサボってるだけだろ。俺ぁ単に、あれだ。そういうことをするのが嫌いじゃないってだけだ。付き合ってくれる皆には悪いけどな」
食後のサービスに、エミヤが配りに来た紅茶とチョコスコーンを受け取り、ゆっくりと食後の時間を満喫する。さっきはジャガーマンの邪魔が入ったが、今はゆっくりと休日を過ごしている感じがする。これも二人のおかげだ。とてもありがたい。
「あ、そう言えばマスターは今日お休みでしたネ。何をするんデスか?」
「特に予定は無いな〜。朝飯も食べたし部屋に戻ってこれまでのの戦いの再確認でも………?」
ここでは娯楽になるものが殆どない。それこそ、レイシフトで現代社会に飛んで買いに行かないといけないレベルでだ。なので、『アガルタ』までの出来事を記録したDVDでも鑑賞しようと思ったその時。ふと、エミヤが緑色の何かを運ぼうとしているのが目に止まった。
「なぁエミヤ。その緑色のやつなんだ?」
「これか? 見ての通り笹だよ。今日は七月七日……七夕の日だからな。少々、レイシフトを使って回収して来た」
「過去に飛んで森林伐採とかひでぇ……」
何でも無いように言うエミヤに呆れつつも、彼が小さな箱も持っていたので中を覗いてみる。中には小さい紙に一言二言文字が書かれていて、この笹に飾るための物だということが分かる。
「何々? 『おかあさんに会えますように』……これはジャックか。で、こっちは『休みを寄越せ』。アンデルセンかギルのどっちだ……?」
「こら、人の願い事を勝手に見るんじゃない。罰が当たるぞ。罰が」
笹を置いたエミヤがデコピンで俺を諌める。筋力Dだが地味に痛いデコピン顔を顰めながらも、謝って箱を返す。
「なぁ、それって俺も書いていいか?」
「ああ。問題ないぞ。短冊はまだ残っているからな」
エミヤが厨房近くの戸口から別の箱を取り出し、俺は手元にあるボールペンで願い事を書く。なんの変哲も無い、ありきたりな願い事だけれど。この旅や戦いを通じて大切だと思ったことだ。少々気恥ずかしいが、気にせずに笹に飾る。
「どれどれ……。おい研砥、何だこの恥ずかしい願いは」
「なっ、お前人に見るのは失礼だとか言ってた割に俺のは見るのかよ!?」
「当然だ。この企画を出したのは私だからな。ここに飾る価値のないものは即刻処分している。主に、黒髭やメフィストフェレスの書いたものだけだがね」
「あ〜。分からなくはないですネ〜。あの人たち、少しイラっと来たのでマカナでぶっ飛ばしちゃいましたヨ〜」
「それはそれで物騒だなッ!?」
色々とあったが、俺はエミヤの審査に受かり、無事に笹に短冊を飾ることができたのだった。幸い、この短冊は匿名制なので、ここにいる二人がバラさなければ誰にもバレないだろう。そのことだけに安心しながらも、俺は食堂を出るのだった。
「お〜いアーチャー! 余の願い事を飾りに来たぞ!!」
「待ちなさいネロ! 私の方が先よ!」
「やれやれ………。相変わらず仲がいいなぁ二人とも」
研砥がここを出て行った後、新たに三名が私の食堂にやって来た。といっても、ここに来るのは共に戦った戦友や、日頃から研砥を支えてくれているスタッフだけだが。
「はぁ。機嫌が変わっていないようで何よりだよ。ブーディカ、君もすまないな。今日は休日だっただろう?」
「別に構わないさね。せっかくの休日だから休もうと思ったら、ネロ公に纏わり付かれているせいで全然休めないしね」
「なにぉ? 余と一緒にいたら楽しいであろう!!」
「い〜や全然? むしろ気疲れで大変だよ」
いつものように口喧嘩、というより意見を突っぱねている彼女たちを見て呆れながら、エリザベートが持って来た短冊を飾る。それを見た彼女は嬉しそうに笑った。
「よし! これで準備は完了ね! 次は、今年のハロウィンの準備をしに行かなくちゃ!」
「やれやれ、秋はまだ先だぞ? それに、前回のように執政を怠らないようにな」
「分かってるわよ! あぁ、早く来ないかしら! 私による、私のための、私だけのイベント!!」
半ば自分の夢にトリップして、意気揚々にスキップしながら食堂を去るエリザベート。彼女が関わったハロウィンに良いことがあった試しがないことを知っている私は、ため息を漏らしてしまった。
『今年のハロウィンが、前回より派手に。前回より素晴らしく。前回より美しく。何より私が楽しいハロウィンになりますようにッ!!』
「…………理想を抱いて溺死しろ」(小声)
「うん? 何か言ったエミヤ?」
「いや、別に何でも。それより、君たちの願いは何かね? 一応、企画者としては飾る願い事を確認しないといけないのでね」
嫌な役割だと理解はしているが、仕事なので仕方がないことだ。ネロが飾ろうとしていた短冊を見せてもらうと、彼女は彼女で頭を抱えたくなる願い事だった。
ーーー『今年こそは、余の水着かライダークラスを実装するのだッ!!』
「何だこれは。願い事というより願望丸出しの命令ではないか!」
「別に構わぬであろう? 元より、余はライダーのクラス適性を持っておる。加えて、余は既にフィギュア、ならびにEXTRACCCでは水着姿を披露しておるのだ。今年は、余の水着が出ても問題はなかろう?」
「突然メタメタしいことを言うんじゃない! 消されでもしたらどうしてくれる!!」
ネロの発言に危険を感じながらも、研砥も願っていたことだと諦め、不承不承ながらも短冊を飾る。次にブーディカの短冊を確認したが、文句一つでない素晴らしい願い事だった。
ーーー『ブリタニアが、私の故郷にいる人たちが幸せでありますように』
「素晴らしい。一番高いところに飾らなければな」
「なぬっ!? なぜ余の願い事はダメでブーディカのは良いのだ!?」
「いや、あんな願望丸出しの願い事だとダメでしょうに…」
ブーディカに呆れられて憤慨するネロを見てため息を漏らしながらも、私は黙々と短冊を飾る作業を続ける。あと少しでこれも終わると思ったが、ふと、ある短冊に目が止まった。
「………まぁ、私も同意しなくはないがね」
ここにいない彼が飾った短冊を見て、一人つぶやきながら私は厨房に戻る。今日はとても暑い日だ。こんな日には、冷たい素麺でもつくってみるとしようーーーーー
『誰もが平和な世界。とまで行かなくても、笑顔が絶えない世界でありますように』
というわけで、急遽作成した季節イベント七夕編でした〜。
ここまでの既読ありがとうございました。
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