サーヴァント日常劇。   作:青眼

3 / 3
―――――――衝動的に書き殴った駄作です。暇つぶしにどうぞ。


ありし日の夢、払拭される無念

 皆に一つだけ聞こう。吸血鬼という存在になんという反応をする? 己の同胞を増やすために対象の血を啜り、闇夜に紛れて人を喰らう魔性の生き物。それらは全て悪だと断じられることが多いだろう。

人理焼却を防ぐ旅。魔術王との最終決戦の果てに逃走した魔神柱の討伐。そして、今回のクリプタ―と呼ばれる元カルデアのマスター達との全面対決。様々な過程があったが、少なからずこのカルデアにも―――正確には、彷徨海という組織内に作られた第二のカルデア―――少なからず吸血鬼の能力を得たサーヴァントは複数存在する。例を挙げるとすれば、血を啜ることで美を保とうとしたカーミラ。串刺し公と名高きルーマニアにおける護国の鬼将ヴラド三世などか。血を好んで浴びていたとされている彼らは『無辜の怪物』という、後世に伝わった者達の集団意識によってその能力を付与された。尤も、彼ら自体はその時代を生きた半英雄として英霊の座に登録されており。ヴラド公はドラキュラと呼ばれることを嫌悪するあまり、その力を使用することを強制したマスターを惨殺する覚悟もある。

 さて、今更改まって吸血鬼の話をしたのか。それは、この第二のカルデア。ノウム・カルデアにて新たなサーヴァントが複数召喚され、その中の一騎が吸血鬼。しかも、その中でも上位種である『真祖』というカテゴリーに属する者だからである。クラスはアサシン、名は虞美人。数千以上もの月日を生き、ある魔術師と交わした契約の果てにカルデアと敵対したクリプタ―の一人。その思いは今も、彼女の胸中の中にある一人の男性を恋い焦がれている。これは、そんな彼女が召喚されたばかりの話である。

 

 

 

「まあ、私が言えた義理じゃないけど。仮にもレイシフト適格者ならその義理でも果たしらどう?」

 

 惰眠を貪っていたマイルームの中で一人の女性の声が響く。どこか戸惑ったような声ではあるが、こちらの事を思ってくれているということは伝わってくる。きっと彼女の事だ、無視を決め込んでも何も言わずに部屋を出ていく。基本的に彼女は無関心なのだということは、彼女を召喚してから過ごした数日で身に染みている。こうして起こしに来たのも暇つぶしの一環だろう。

 だが、彼女がわざわざ起こしに来てくれたのは素直に嬉しい。重い瞼に力を込めて開かせ、ぼんやりとした頭で何とか体を起こす。蹴飛ばして床に散乱した布団をベッドに直しながら、律儀に部屋の入り口に立っていた彼女に声をかける。

 

「おはよう、虞美人。今日はありがとな」

「別に、お前がマスターだから仕方なくやっているだけよ。仕方なくね」

 

 忌々しそうに二回も言って強調する彼女の指摘に苦笑しながらも、そそくさと寝間着から普段着へと着替える。女性がいるのに着替えるとは何事かと言われるかもしれないが、彼女自身が服や衣装等にあまり頓着しない気質なのだ。着替え中のマイルームでばったりというのはもう何度もやっていることなので、そういった展開は起こらない。必需品が入っていることを確認したあと、端末に入っている今日の予定を確認する。

 

「とりあえず、虞美人の強化に必要な素材の回収だな。一緒に来てくれるか?」

「構わないわ。というか、ますます私をこき使うつもりね。ま、別にいいけど」

「先輩に頼る非力な後輩と思って勘弁してください……」

 

 隠しもせずに呆れを露わにする彼女の発言に苦笑しながらも、二人は並んで部屋を出る。とりあえず朝飯を食べることや、他愛のない世間話をしている彼らを傍から見ると、知り合い以上友達未満の関係に見える。だが、マスターである彼は自覚していた。自分と彼女との距離感は、未だに崖と崖の向こう側の様に広く深いということを。

 

 

 

「ふぅむ………うむ……ふむふむ」

「貴方がそこまで思い悩むのも珍しいわね。何をそんなに悩んでるのよ」

 

 先ほどのカルデアから一変。組織内に複数存在するシミュレーターの中で虞美人はマスターと別れ、ある高貴な装いをした不思議な存在と言葉を交わしていた。性別でそれを表現するのは出来ない。何故なら、彼女の隣に在る存在はそんなものを超越した正真正銘の仙人だからだ。それが身に纏うオーラというべきか、それともどこか引き付けられるその仕草か。どちらにしても並みいるサーヴァントの中でも抜きん出る能力を身に秘めたそれは、悩まし気に辺りを見ながら思案していたことを口にする。

 

「いやなに。このシミュレーターというものの精度を朕の目を以て測っていてな。やはり、朕が収めていたシンより発展した技術が多い。ここまでのノウハウを一つの組織、否。世界中の各国に溢れ返っておるとは。いやはや汎人類史の人間共は賢しいと再評価していたのだ」

「ああ、確かにそうね。少なくとも、一部の民を除いて技術を独占していたアンタの国よりは発展してるわよ。人間は愚かだから、他者より抜きん出ていないと安心できないのよ。それを競うために争いを起こして、その度に技術を向上させていく。ほんと、どうしようもないくらいに惨めよね」

「辛辣な評価だな仙女よ。まあ、朕もその点に関しては同意なのだが」

 

 笑いながら虞美人の発言を肯定する者の正体。それは、彼女と共に存在していた第三の異聞帯における王だ。異聞帯、即ち剪定事象から汎人類史のマスターと契約するサーヴァントとして現界する際、裁定者のクラスを以て現界せしめた中国における原初の皇帝。名は既に無く、『始皇帝』という銘を以てそれはここに現界している。ちなみに、始皇帝は性別を超越した仙人として霊基グラフに登録されており、性別・朕と表示されているために性別による呼称が出来ないのである。

 

「いやはや、このシミュレーションというのも実に興味深い。適当な数字を入力することで物体や敵だけでなく、世界をも再現することが可能とはな。限度はあるようだがそれはそれ、この通り朕のシンさえも再現出来る事さえ叶おう」

 

尤も、カルデアの技術力はあの天才で底上げされている点も加味されているのだろうがな。わざとらしく理に適った解を言う始皇帝を横目に、虞美人は淡々と作業的にエネミーを屠る。手に握った刀を投げ飛ばし、ある時は魔力を込めた血のように赤い剣の雨を降らせる。戦闘することに躊躇いを持っているわけではない。確かに彼女は真祖の能力を以て召喚されたが、あまり戦闘をこなさずに過ごしたので戦いに向いているサーヴァントではない。だが、こうして召喚された以上はカルデアが使役する使い魔としての務めを果たす程度の事はしなければという義務感で彼女は戦っている。

それは、隣に並び立つ始皇帝も同じこと。話を聞いてくれないことに少しだけつまらぬように眉を寄せながら、己が身に纏う水銀を様々な武具に変化させて戦う。この場には二人しかおらず、敵性エネミーの数は三十は超えていた。だが、その数の差を寄せ付けない強さを隠すことなく奮う二人の前に、再現された八極拳使いや模造戦車が駆逐されていく。だが、僅かばかり残った残党が一段となってこちらに特攻してくるのを見て、虞美人は溜め息を吐きながらも内に宿る魔力を開放する。

 

「面倒ね。纏めて蹴散らすから、下がっていてくれるかしら」

「うむ。仙女の全力、ここに知らしめるがよい。朕は傍らでそれを再評価することとする」

「気やすく言ってくれるわね」

 

 あくまでマイペースな始皇帝の発言にイラっとくるが、あの性格は死んでも直らないことは見ての通りだと諦め、今は眼前のエネミーの駆逐に専念する。二振りの刀を実体化させる魔力も次の行動の為に全て回す。燦然と輝く真紅の瞳、吸血鬼の証たる獰猛な犬歯を惜しげもなく晒しながら体内から血の様に赤い何かを吹き出す。それらすべてを手動で操り、こちらに向かってくる雑兵共に照準を定める。

 

「滅びの定めにすら見放された、我が永遠の慟哭。空よ…! 雲よ…! 憐みの涙で、命を呪えェ!!」

 

 遥か空へと放ったそれらが、鮮血の槍と成りて降り注ぐ。頭上から降り注ぐ無数の雨に打たれ、闘士や戦車はその全てを貫かれ、見るも無残な姿となって霧散する。その最期を看取った張本人はというと、この程度で死ねるなど命の在り方が弱すぎると言わんばかりにそれらを睨み付ける。その隣では、さっき放った虞美人の宝具を見届けた始皇帝が朗らかに評価を下していた。

 

「うむ。其方の用いるその技は向こうでも何度か見たが、やはり強力な物よな。自らの体内に蓄積した魔力等を辺り一面にぶちまける自爆技。其方以外の者が扱えばたちまち肉塊になり果てるのであろう?」

「この身は死することが出来ない身だったからね。捕まって人体実験されるくらいなら自爆してやろうってだけよ。尤も、これでも死ぬことが出来なかったのだけど」

 

 残念そうに眼を閉じながら、辺りに散らばった自分の体の破片を見る。エーテル体であるサーヴァントの体から離れたものは徐々にその身に宿した魔力を失って霧散する。そうある自身の一部だったモノに少しだけ目を見張ったのは消えることが出来るそれへの羨望か。はたまた、また死ねなかったという自分への失望か。どちらとも取れる憂いた表情を浮かべながら、彼女は完全に再生した体で素材を回収する。

 

「行きましょう。ここにはもう何も無いわ」

「うむ。朕の検証も九割方終わった。後は捜査室で機器を見せてもらうとしよう。して仙女よ、貴様も共に来るか?」

「冗談でしょう? 気づいてるとは思うけど私ね、アンタの事嫌いなのよ」

 

 自分が英霊という存在になったきっかけを作ったのは、他でもないこの男のせいなのだから。その事を思い返しながら彼女は疎ましげに始皇帝を睨み、隠すことなく殺気を放つ虞美人に皇帝は笑う。裁定者のクラスで現界した者は、その世界で為した事の記憶を保持して召喚される。つまり、目の前にいる皇帝は虞美人というサーヴァントが生まれるきっかけとなった自分の発言を一字一句記憶している。それを知ったうえで、目の前の皇帝は愉快そうに笑いながら話しかける。

 

「そうさな。確かに、朕の言った甘言に其方は乗り英霊となった。何の因果か、自らと敵対していたカルデアのサーヴァントとして召喚されるというオマケ付きでな。されど、貴様の想い人は未だ現れず。はっはっは。これは貴様の間が悪いのか、それとも―――」

「黙りなさい、今度は躊躇うことなく殺すわよ」

「やれやれ。もう少し素直に生きることが叶えば、今より一層その美しさにも磨きが掛かるであろうに。まこと、仙女めは面倒な思考回路よな」

「大きなお世話よ! とっととどっかに引きこもってなさい!」

 

 怒鳴り散らす虞美人をからかいながら、始皇帝はくわばらくわばらと心にもないことを言いながら部屋を出る。あれの相手は大型エネミーを相手するより疲れると溜め息を零しながら、用済みとなったシミュレーションルームを出る。始皇帝があれなので、仕方なく自分が回収した素材を渡さなければならないことが億劫だと思えたが。少なくとここに留まっている間は少なからず役に立たなければならない。いつの日か、彼女が思い描く未来を手にするためにも少しでも長い間ここにいなければと活を入れ、召喚された際に渡された端末でマスターを呼び出す。

 ところが、端末を取り出したと同時に自分の体が何かに引っ張られるような感覚に陥る。突然の事に目を丸くするが、こういった現象はサーヴァントとしてここに呼ばれた時。つまり、召喚された際の感覚と酷似している。ということは、ここに居る自分は誰かによって強制的に移動させられようとしているということに合点が行く彼女は、十中八九マスターの令呪による強制移動だということにも行き着く。

―――とりあえず、移動し終わったら一発ぶん殴ってやろう。心の中でそう決意した虞美人が飛ぶのは、ほんの数秒後のことだった。

 

 

 

「虞美人! 急に令呪で呼んでごめんね! でも、どうしてもそうしないといけなかったんだ!」

「そう。遺言はそれで良いのかしら?」

 

 令呪による強制移動を終えた虞美人の前に立つ男。現状唯一のカルデアにおけるマスターである藤丸に、彼女は容赦なく拳を振りかざす。魔力の消費を考えずに身に纏い、炎となって拳を覆う。それを見た藤丸が信じられない様に目が点になるが、そんなものは関係ない。とりあえず一発は殴ると決めた以上は絶対に殴り飛ばす。容赦なくそれを振るおうとしたが、その前に眼鏡を掛けた少女が庇うように前に出る。

 

「お、落ち着いてください芥さん! 先輩もわざとしたわけじゃないんです!」

「マシュ……言ったわよね。今の私は虞美人。貴方の知る芥ヒナコという女は存在しないのよ」

 

 藤丸の前に出た少女、マシュに呆れながらも一応諭すように出来るだけ声のトーン抑える。元はと言えばマリスビリーというカルデア創始者の言い分に甘んじてしまった己が悪いのだが、マシュに対しては彼女の人間嫌いはあまり働かない。後から知ったことだが、マシュはデミ・サーヴァントの計画の依り代として作られたデザイナーベビーだったらしい。錬金術師達が鋳造するホムンクルスの様な存在であったからかと、と内心で理解したのは割と記憶に新しいことだ。

 

「まあいいわ。それで? くだらないことで呼んだなら問答無用で八つ裂きにするわよ」

「いやいやいや! 別にそういう訳じゃないんだ! あ、霊体化を解いて大丈夫ですよ!」

 

 霊体化とは、サーヴァントがそれぞれ保有している機能の一つだ。己の存在を文字通り幽霊の様に透明で見えなくし、障害物等をすり抜けることが出来る。尤も、この状態ではマスターを護ることが出来ないのであまり使われない技能の一つである。言われてから気付いてみれば、この男に呼ばれたここが召喚場であることに気付く。ということは、自分と所縁のあるサーヴァントでも呼んだからここに強制召喚したのだろうか。

 ―――死することが出来なかった虞美人は、自身が化け物と謗られることが多く。彼女と会う者は殆どが敵対者だった。だが、そんな彼女にも話し相手という人物がいないわけではなかった。想い人亡きその後の時代を超えて人と話してきたことはあるのだ。第三異聞帯における彼女に仕えたセイバー、蘭陵王もその一人。そして、願うのであればもう一度あのお方に会いたいと願い。彼女は英霊となった。夢の様な奇跡と巡り合う、手の届かぬ星を掴むような夢物語を信じて。そして、その夢はようやく叶う。

 

「―――虞よ。久しいな」

「え? あ、あぁ…………!!」

 

 霊体化を解いたサーヴァントの姿が露わになる。出現したのは人の姿をしているとは到底思えなかった。ケンタウロスのような四本脚に、とても人の物とは思えない足と同じ四本の腕。極めつけに顔はぎりぎり人としての原型を留めているかのような物。だが、彼女には。虞美人にはあり日の彼の顔を思い出す。己と共に生き、そして。目の前で亡くなった愛しい人の顔とその姿を。

 生き続ける苦悩に疲れ、数多の人間に化け物と石を投げられ続けても、数千の時を生きて摩耗してゆく記憶の中でも自分の中に残った狂おしいほどに想っていた彼が。あのお方が眼前に立っていると認識して、彼女の視界が涙で滲む。

 

「わたしは……わたしは……この時を、この時を。お待ちしておりました……!」

「ああ。私もだ。虞よ、息災であったか? 我らは既に英霊という影法師であれど、人の身であるということに変わりはせぬ。風邪は引いておらぬな?」

「はい、はい! 大丈夫です! 虞は、虞は傷一つ負ってはいません!」

 

 歓喜の涙で声を震わせながら虞美人は目の前の男に飛びつく。彼もそれに全ての腕で応え、体を抱えて優しく抱擁する。心なしか表情、というより雰囲気はとても柔らかいそれになっている。嗚咽交じりになりながらも、彼女はただ一人の愛しき男の名を呼ぶ。

 

「項羽様………項羽様………!! 虞は、虞は、貴方と再び会い見えた事を夢の様に思います………!!」

「ああ……私もだ。―――我が主導者。我ら二人をサーヴァントとして再開させたただ一人の主よ。御身に感謝を」

「え、あ、いや! 俺はただ、二人が再会出来たらいいなと召喚を続けてただけだから! それに、項羽さんが召喚に応じてくれたからで」

「それでもだ。我が生涯、唯一の無念が今、払拭された。それがどれだけ私にとって素晴らしく、嬉しい事か。天下泰平の世を築き上げんと万里を疾走し、その果てに死した時よりも満たされている」

 

 立っていた足を曲げ、項羽と呼ばれた武将の一人たる彼は藤丸に首を垂れる。現界するにあたり容姿は人間のそれではないが、この場に呼ばれた一人の英霊として。何より、妻たる彼女と巡り合えたこの奇跡を起こした恩人に対し、彼は万感の敬意を込めて契りを交わす。

 

「姓は項、名を籍、あざなを羽。我が身、我が身命を賭して、この奇跡を齎した御身に報いよう」

 

 中国史における大英雄の誓い。その言葉の重みに藤丸はかつてない迫力を受ける。これまでも、そういった誓いを立てられたことは多い。彼の隣に立つ盾の少女、ブリテンを護らんとした騎士王を筆頭とした円卓の騎士。同盟者として共に世界を救わんと立ち上がった古代のファラオ。似てはいないが、人類最古の英雄王とその神話における神々。世界有数の復讐者から、フランスの聖女まで。数えたらきりがない程までの数の英雄豪傑たちに立てられた盟約。それらの中でも抜きんでる程に、項羽が放った言葉は重かった。それに真摯に応えようとしたが、一つだけ訂正しなければと思い。彼は口を開いた。

 

「ありがとう。項羽さん。でも、身命を賭しちゃだめだと思う。貴方は、もう二度と虞美人さんと離れちゃいけないんだから」

「―――そうであったな。だが、この身に課せられたのは汎人類史を救うこと。なれば、御身の力となる事が我が躯体を動かす第一目標である」

「そうだね。だから、さ。出来れば二人一緒で戦って欲しんだけど……あ、いや。別に無理にとは言わないし、二人だってせっかく会えたんだからゆっくりした時間を過ごしても欲しいと思ってるし……」

「先輩、少し落ち着いてください。しどろもどろになってますよ。それに、先輩に言っていることはちゃんと伝わっていると思います。ですよね、芥さん」

 

 言葉の重みと迫力に押されたのか、思うように言葉を出せずにいる彼をマシュはにこやかに笑いながら指摘し、そのまま項羽に抱き着いたままである虞美人へと話しかける。等の本人は未だに彼に抱き着いたままだったが、ゆっくりとこちらへと顔を見せる。目元は感動の再会のあまり泣き腫らしてしまったが、表情は気丈な笑みを浮かべていた。

 

「ええ。ここまでされたのだもの。せめて、その恩義に報いるくらいの事はしてあげないとね。覚悟しなさいよ後輩?」

「―――そうか。我が妻がそう言うのであれば、私もその通りにしよう。我ら二人、持てる力の限り主導者の力となる事を誓おう」

「はい! それじゃ、これからはよろしくお願いします!!」

「ふふっ。良かったですね、先輩!」

 

 この場に集った四人が皆、朗らかに笑みを浮かべる。これはきっと始まりに過ぎない。人間嫌いの真祖が少しだけ心を許し、彼女と共にあった想い人もこの場に集った。そして、その二人よりも前に出る一人のマスターと盾の少女。彼らの旅は未だ果てが見えず、どれほどの苦難が待ち受けているかは想像出来ない。

 だが、たとえどのような艱難辛苦に陥ろうと。この日の記憶はきっと、とても素晴らしい日常の一つとして燦然と煌めくだろう。とても温かく、誰もが涙するような奇跡の日を。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。