リト デビルーク王への道   作:童貞中学生

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6話 デートな彼女と高貴な彼女

美柑との時間を多く取ってもらっている俺ではあるが、当然彼女達との時間も大切にしている。

 

「ごめん、待った?」

 

「いや全く。じゃあ、行こうか」

 

今日は春菜とのデートの日だ。春菜はいつもの髪留めをして落ち着いた色合いの彼女らしい服装で現れた。美柑は友達と遊びに行ったし、秋穂さんは卒業式の準備やらで忙しそうで、里紗と未央は2人で買い物に行くと言っていたので今日は春菜と2人だけのデートだった。

 

デートの日にちやらを色々決めた俺たちだがなんだかんだ言って2人きりのデートというのはなかなか珍しい。それというのも、それぞれが時間が空いたら色々口実を付けて一緒について来てしまうのだ。

 

「今日は買い物行こうか」

 

「何か買いたいものがあるの?」

 

「もうすぐ卒業式だろ? 皆んなの分のプレゼントとか買っておきたくてさ」

 

「そっか。じゃあショッピンモールに行こっか?」

 

手を握って歩き出す俺たちは寒い季節にもかかわらず暖かい雰囲気を醸し出していた。通りすがりの人たちがこっちを見て微笑ましげな表情をする。たまに舌打ちをする人もいるけど。

 

2人であれこれと意見を出し合いながら、ショッピングを楽しむ。女性は買い物が男性からは考えられないほど長いとよく聞くけれど、好きな人と一緒ならどんな事でも楽しく思えてしまう。

 

「これなんかマロンに買ってあげようかな」

 

「どれ?」

 

あの寒い冬の日に西蓮寺家に迎えられたマロンは暖かな家族に触れたおかげか、初対面の人が相手でも吠えたり威嚇したりしなくなった。俺のことはまだまだ許せない存在のようで結構吠えられているのだが。

 

「まだ寒いし。こういう犬用の服とか」

 

「あぁ、可愛い! マロンに似合うかも」

 

 

そう顔を綻ばせる春菜はマロンに服を着せたときのことを考えたのか、喜びに目を輝かせた。

 

マロンの服を買って他の店へと行く。春菜へのプレゼントはさっきちょっと離れた隙に買っておいた。本人の前でプレゼントを買うのはなんか違うと思ったからだ。

 

「おお、これとか秋穂さん好きそう。......これとこれは里紗と未央だな」

 

俺が3人に良さそうなプレゼントを選んでいたのだが春菜が静かになったのでそちらを見てみると、春菜は頰を少し膨らませてこっちを見ていた。どうにも3人のプレゼント選びに夢中になりすぎて、少し面白くなかったようだ。春菜が頰に空気を入れて睨んでいるのだがそれは怖いというより可愛いと思ってしまう。衝動のままに頰をつついて見た。

 

「もう! なにするの?」

 

ふしゅーと間抜けな音を立てて口から空気が抜けてしまった春菜は恥ずかしかったのか顔を赤らめぷいっと横を向いた。

 

「ごめんごめん。今は春菜といるんだもんな」

 

「そうだよ? 私のこと忘れてたでしょ?」

 

「一緒にいるのに忘れるわけないって。その証拠にほら」

 

さっき買ったプレゼントを取り出す。本当はもっと後であげたかったが、今渡さないと不安にさせてしまうかもしれない。

 

「卒業式のプレゼントの他に春菜にはもう一個買っておいたんだ。もうすぐ誕生日だからね」

 

「えっ!? 覚えててくれたの?」

 

驚きに近いほどの喜びを表していた彼女だったが、差し出されたプレゼントをおずおずと受け取ると、開け出した。

 

「わあ。ティーカップだ。可愛い」

 

プレゼントしたのはお洒落な花びらがあしらわれた紅茶用のティーカップだった。彼女は紅茶を飲むのが好きなのでこれにして見たが反応からして喜んでもらえたようだ。

 

「本当にありがとう」

 

「これからも嫉妬とかさせちゃうかもしれないけど、俺はみんなのことを真剣に幸せにしたいと思ってるから」

 

言いながら抱きしめる。周囲からの視線が強くなった気がするが、気にしない。

 

あの後流石に周囲の視線に気づいたのか、春菜は俺の手を取って店を飛び出した。

 

「もう見られてたなら言ってよ」

 

そう言ってプリプリ怒る春菜だが顔は緩んでいる。恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しかったと言ってくれた。彼女たちの笑顔のためならなんだってできる気がした。

 

 

夕飯の支度をしなければならないという春菜を送って帰路についているといつもの公園から誰かの言い争う声が聞こえてきた。よくよくトラブルに見舞われる公園だと思いながら、そちらへと足を向けた。荒事になりそうな時、美柑や春菜たちがいる時は万が一の為彼女たちには待っていて貰うのだが、今日は1人なのでそんな心配もない。

 

公園の中央に向かっていると争う声が大きくなり始めた。慌ててスピードを上げると言い争っていたのは3人の女の子と複数の男子高校生らしき人影だったことが確認できた。年下の女の子相手に複数で何をやってるんだと脱力しそうになったが、そうも言ってられない事態になった。頭に血が上った男子高校生の1人が拳を作って腕を振り上げたのだ。それを見た瞬間短い縦ロールを巻いている女の子と殴りかかろうとしていた男子高校生の間に割って入った。

 

避けることは後ろに彼女たちがいるので出来ないし、拳を止めたら逆上して余計に興奮するかもしれないと思ったので、刹那の間に拳を受ける方向に切り替えた。拳を頰で受け止めた。振りかぶっていた仕草から武道は学んでいない素人であることもわかっていたので受けたが、流石に体格差があると受け流していても衝撃は大きかった。口の中で血の味がする。

 

「落ち着いてくだい」

 

明らかに小学生だと思われる男子を思いっきり殴ってしまったことを認識した男子高校生が顔を青白くさせて狼狽え始めた。

 

「たっちゃん、やべーよ。そいつワシツんとこのちょーつえぇ結城ってやつだよ!」

 

「なっ! あの回避の魔術師と噂のやつか!?」

 

ちょ!?何その恥ずかしい二つ名!?いつからだ!!内心悶えていると高校生たちが慌てて逃げ出していった。あれ以上の騒ぎにならなくてよかったのだが、心に要らない傷を負ってしまった。しかし、今はそれよりも優先することがある。

 

「大丈夫でしたか?」

 

「ああ、ありがとう。君はどうやらすごい人のようだな」

 

ああ忘れたいのにそこをいじってきますか?

話しかけてきたのは意志の強そうなツリ目がちの目をしているポニーテール女子だった。彼女は明らかに武道を嗜んでいる身のこなしだ。俺が入るまでもなかったかなと思いながら、他の2人を見てみる。1人は丸眼鏡をかけた小動物のような女子だった。彼女は俺が視線を向けた瞬間にびっくっと震えるとポニーテール女子の後ろに隠れてしまった。さっき怖い思いをしたばかりなのだから、知らない人は怖いのだろう。別に傷ついてなんかない。

 

そしてさっき殴りかかられていた縦ロール女子はいかにもお嬢様といった風貌だった。気品のある顔立ちはしかし今はポカンとだらしなく口を半開きにしていて惚けている。

もしや何かあったのかと思い、声を掛けてみると顔を引き締め口を開いた。

 

「助けていただいて感謝していますわ。お名前を......お名前を伺ってもよろしいですの?」

 

「結城リトですけど」

 

「ああ、リト様と仰るのですわね! あなた様にぴったりの勇敢なお名前ですわ!!」

 

「流石に歳上の女性に様付けをされてしまうと落ち着かないのですが......」

 

「助けていただいた殿方に敬意を示すことに何かおかしいことがございましょうか? いいえ! ありませんとも!!」

 

凄い人だ。イメージ通りのお嬢様に苦笑いが浮かぶが、悪い人ではなさそうだ。

 

それから3人は自己紹介をしてくれた。ポニーテール女子が「九条凛」、小動物系女子が「藤崎綾」、縦ロールお嬢様が「天条院沙姫」というそうだ。俺よりも一歳歳上だったらしい。

3人に争っていた理由を聞いてみると彼らは昔藤崎さんを虐めていた子達の兄で天条院さんたちが弟を懲らしめたことから絡んできたらしい。

 

どこにでもやんちゃな子はいるなと思いながら、話を聞いていた。未だに藤崎さんは俺とは九条さん越しにしか話してくれない。仲良くなるには時間がかかりそうだ。

 

世界は自分を中心に回っていると言わんばかり天条院さんの態度だが、すごく優しい子なのだろう。そう思うと微笑ましくなった。

 

「? なぜ笑ってらっしゃるのですか?」

 

「いえ、天条院さんは優しいんだなと思いまして」

 

「そうなんです! 沙姫様は本当にお優しいんです!!」

 

先ほどまで九条さんの背中に隠れていた藤崎さんだが、天条院さんの話になった途端、身を乗り出してきた。直ぐにまた顔を赤くして引っ込んでしまったが、本当に天条院さんを慕っているのだろう。

 

「私が優しいのは当たり前ですわ!! 優しさクイーンですもの!! それよりリト様天条院はおやめになって下さいな。リト様に天条院と呼ばれるとなぜか胸が痛いんですの。沙姫とお呼びになって」

 

「胸が痛い? よく分からないけど分かりました。沙希さん、これでいいですか?」

 

「ええ! ええ! 宜しいですとも!!」

 

太陽のような笑顔を見せる沙姫さんに癒されていると、沙姫様がお許しになるならと九条さんと藤崎さんも名前呼びを許してくれた。綾さんは名前を呼ぶと湯沸かし器のように一瞬で沸騰してしまうので慣れるまで大変だ。それからは一応さっきの高校生たちが戻ってくる可能性を考えて一緒にいることにした。

 

一緒に遊ぶことになった俺たちだが、沙姫さんは何にでも全力だ。カラオケに行けば100点が出るまで挑戦し続け、ボーリングに行けばパーフェクトが出るまで投げるのをやめない。今いるゲームセンターでも全てのゲームでトップのスコアを出そうと頑張っている。流石に無理そうだったら九条さんが止めるのだが、なんでも一番でないと気が済まないらしい。段々普通に話せるようになった綾さんが言うには天条院家は世界的な財閥で幼少の頃から天条院家の令嬢に相応しい英才教育を受けていてなんでも一番を目指すようになったそうだ。

 

令嬢にはお淑やかさも必要だとは思うが、この何事にも全力投球なところも沙姫さんのいいところだろう。沙姫さんがねだったので連絡先の交換をしているとふと気になったようで俺の手に持っているものについて聞いてきた。

 

「そう言えばリト様は何を持っていらっしゃいますの?」

 

「ああ。これは彼女への卒業プレゼントで......」

 

その時したから甲高い音が響いた。音のした方をみると沙姫さんの携帯が落ちていた。どうやら落としてしまったらしい。携帯を拾い上げ沙姫さんに渡そうと彼女の方を見るとギョッとした。沙姫さんが両目から涙を流していたのだ。彼女は呆然としていて自分が涙していることにすら気づいていない。

 

「沙姫さん!」

 

慌ててハンカチを差し出すと受け取ってくれず、まだ心ここに在らずといった状況だ。九条さんたちも堪らず声をかける。

 

「私泣いているんですの? なぜでしょう。胸が......痛いんですの」

 

ほろほろと零れ落ちる涙を気にもせず、沙姫さんは呟いた。騒がしいゲームセンターで俺たちのいる空間だけが切り取られたように静かだった。

 

「沙姫様、病院に行きましょう!」

 

尋常でない沙姫さんの様子に凛さんが取り乱しながら、どこかへ連絡をし出した。数分も経たないうちにゲームセンターの前に黒塗りの車がやって来た。付いて行きたかったが、ドライバーに断られてしまったので乗ることはできなかった。凛さんが何か進展があれば連絡するといってくれたのが唯一の救いだった。

 




小説を書くにはプロットっていうの準備しないといけないらしいですね。試しに書こうとしてみるといつの間にか本文になってるんですが、難しいです。

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