東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています!

それでもええで!
という方は第百話をお楽しみください!



前回はいつも違う時間帯に投稿してしまい申し訳ございませんでした。

それと本編内で同じ説明をしている場合があったら、申し訳ございません。
すぐに修正いたしますので連絡をいただければ幸いです。


東方繋華傷 第百話 大きな武器

 肩に突き刺さったアンカーによって、異次元にとりの方へと私は引き寄せられてしまう。その短い時間ではエネルギー弾を作り出すことが出来ず、とっさに体の耐久力を最大まで引き上げた。

「うぐ…あがっ!?」

 巨大で鉄製の拳が、身体強化が終了すると同時に私の腹部へとめり込む。体が少しでも衝撃を逃がすためなのか、自然と体がくの字に曲がる。

 拳が皮膚を突き破り、体内に抉り込んでしまうのでないのかと思うほどの衝撃が突き抜けていく。骨が軋む音か、内臓が歪む音か、組織が潰れる音かわからないが、体の中から嫌な音が鳴り響く。

 内臓がひしゃげて背中から飛び出なかったのが奇跡的だが、体の中から出ようとそれらがフラダンスを踊っている。

 衝撃から逃げるために移動した内臓に肺や横隔膜が押しやられ、肺の中一杯に入っていた空気が行き場を無くして私の意識とは無関係に口を通り抜けていく。

 異次元にとりが鉄の拳を振り抜いたことで慣性の力が働き、私の体だけが拳が付きだされた方向へと移動を開始する。

 肩に突き刺さっていたアンカーはそれでもお構いなしに巻きとられていたらしく、肩の筋肉と一部の骨を抉り取って身体から引き抜けた。

 脳の処理が追いつかない。息が詰まっての息苦しさと痛みによって、どうすればいいかなどの考えがまとまってくれない。

 自分でも飛んだことがないほどのスピードで、道の端に置いてある電柱に突っ込んだ。

 身体強化を施していないか、風化が進んでいなければ、ぶつかった電柱と同じように私の体は真っ二つになっていただろう。

 幸いにも身体強化を施して風化が進んでいたことで、予想よりもダメージは少ない。だがコンクリートでできた円筒を砕くとなると、こっちにもダメージは少なからず発生する。

 拳のダメージの方が大きくて背中の痛みがそこまででもないのは、交通事故で車が当たったところの方が痛くて、他の部分の痛みを感じないのと同じだろう。体にはしっかりダメージは通っているから、その所を勘違いしてはならない。

 電柱を半ばから達磨落としのように砕いた私の周りに、コンクリートの残骸が浮遊している。

 ぶつかったことでパンチの運動エネルギーが分散してくれたようで、残骸と一緒に体の高度がゆっくりと下がり始める。

 空中で体勢を立て直すのは無理だったが、受け身を取って地面に着地するのには成功した。

 地面に顔から落ちて、血まみれにならずには済んだ。靴でコンクリートを踏みしめ、なんとか体を停止させた。

 だが、吹っ飛ばされてからすぐに立ち上がれるほど、ダメージを回復させることなどできるはずもない。

 倒れ込むことは無い、だが膝から床に崩れ落ちた。内臓の移動のせいでしばらく呼吸をすることが出来なかったが、膝をついてからようやく肺を膨らませることが出来た。

「っは……っは…!」

 今の一撃で肋骨などの骨が折れなかったのが奇跡的だ。魔力で回復次第立ち上がろうとしたが、白色であるコンクリートの床に、赤い物が落ちていることに気が付いた。

「…?」

 なぜか口元から顎に向けて、何かが肌の上を這う感触がする。手の甲でぬぐい取ってみると真っ赤な血がこびりついた。

 他のことに集中していて、口の中に広がる血の味に気が付かなかった。その頃になってから、遅れてむせ返る程の鉄臭い匂いが鼻に漂ってくる。

 口内の血をペッと吐き出すが、それでも血が無くなることはない。

 そして、始めの滴る程度だった落ちて行く血の量が、時間の経過で少しずつ増えて行っている感じがした。

 ダメージで神経がマヒしていたのだろう。内臓が収縮する感覚を感じることもなく、いきなり喉の奥から上がって来た血が口の中を埋め尽くした。

「ごぽっ…」

 吐き出された真っ赤な鮮血は、落ちてコンクリートにぶつかると紅い花を咲かせた。拭っていた時とは比較できないほどの量が広がり、地面に付いていた左手に跳ねて汚れてしまった。

「げほっ……ごほっ…!」

 数度に分けて吐き出した血液は留まることを知らず、減る気配がない。それどころか増えて行っているような気さえした。

 体内の内臓系に魔力を送り込み、治癒を促進させた。体の奥底が熱を帯びはじめ、これで血の量も少なくなっていくことだろう。

「仲間を可愛がってくれた礼はきちんとしてあげないと、だめだよなあ」

 大きな機械の巨体が、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。顔と思われるヘルメット部分から、くぐもった異次元にとりの声が聞こえて来た。

 こっちの異次元にとりは普通の肉体を捨てて、全身機械にでも入れ替えているのだろうか。

 しかし、それの割には声は電子的というよりは、普通に肉体的な声だ。ということは異次元にとりは他の河童と同じように、装甲を身にまとっているということか。

 そう思っていると、異次元にとりの着ているその装甲が粒子状に変化した。一粒一粒が数ミリ程度の金属はバラバラに飛んで行くわけではなく、いくつかの集塊を作り出して浮遊する。

 装甲の中から出て来た異次元にとりは、私よりも背が高くて霊夢と同じぐらいはありそうだ。緑の服や青い髪であることはこっちと変わらない。

 装甲が大きかった分だけ、やたらと異次元にとりは小柄に見えてしまうが、それでも私よりも身長は20センチは高い。

 彼女の周りを浮遊していた粒子は、さらにいくつかに分かれて小さくなっていたり、集まって大きなものになったりしていたが、異次元にとりの魔力によってそれぞれの部品に形を変えた。

 右手を横に出して何かを掴もうとする仕草をすると、粒子状の物質がそこに飛んでいき、握り手に形を変えた。銃のグリップというよりは刀などの柄に似た形状から、近接用の武器を作ろうとしているようだ。

 浮かんでいる粒子は、魔力で体を浮き上がらせる私たちと同じ原理で飛んでいるというのは感じ取れる性質でわかった。

 魔力の含まれている性質に沿って、部品が作られていく。これが例の魔力によって形を変える物質というやつか。トランスフォーマーかよ。

 鋭い性質やばねなどを作るためか捩じれる性質など、多数ある複雑な性質を複数に分かれて飛んでいる粒子から感じる。

 手に持っている柄に次々と粒子が飛んでいき、複数の部品から巨大なチェーンソーが形成された。

 普通のチェーンソーと違うところは、大きなガイドバーと呼ばれるチェーンが回るためにある部分に、大きさが成人男性の伸ばした腕の長さを優に超える楕円状の鉄板が二枚付いているところだ。

 さらには戦うために特化させているのか、柄からチェーン部分は一直線にできていて、剣と同じ形状であるところから武器として使いやすい施しがされている。

 木を切るためだけでなく人体を切ったり、岩を切ったりもできるように改造もされているらしく、歯の形状も少し違う。

 より固い物などを切り裂く形状となっている。あれに切られれば腕は簡単に千切れるし、肉はズタズタになるだろうな。

「生きてさえいればいいし、両腕を落とてやるよ。そうすれば抵抗することもできなくなるだろ」

 チェーンソーの脇から出ているスロットルレバーを異次元にとりが掴み、勢いよく引いた。

 人が握れる程度の太さがある十センチ程の円柱には、鉄のワイヤーが括り付けてある。それが引かれたことでエンジンが起動し、豪快なエンジン音とともにチェーンソーの刃が回転を始めた。

 ドッドッドッド!と安定して稼働を続けるエンジンは魔力がガソリンとなっているらしく、異次元にとりの魔力がつぎ込まれていく。

 刃自体にも切れ味と耐久性能の強化が施されており、大抵の物ならやすやすと切り裂くことは可能だろう。

「さて、行くぞ」

 あの大きなスーツを着ている時よりはましなのだが、小さく小回りが利くようになった分だけこっちが不利だ。

 まずは足を切り落とすつもりなのだろうか、走り寄って来た異次元にとりは高速回転しているチェーンソーを足に向けて横に薙ぎ払った。

 当たったらどうなるのかが簡単に予想できるから、絶対に避けなければならないという緊張感で血の気が失せる。

 大きくジャンプした私の足の下を火花を散らして高速回転、高速移動するチェーンソーが通り過ぎていく。

「っ!」

 チェーンソーが軽い武器でなくてよかった。大きくて重い武器であったため、振った武器が戻ってくるまでに時間がかかる。

 その間に魔力で体を浮き上がらせ、彼女から距離を取った。異次元にとりは逃がさんと上から腕にめがけてチェーンソーを振り下ろすが、重い分だけ移動に時間がかかり、かすりもしなかった。

 彼女は全力で振り切っていたらしく、回転する刃が地面に当たるのを止められなかったようだ。金属が何かを削る音によく似た金属音をまき散らして、地面ごとコンクリートを両断する。

 切れ味が高すぎるし、土などがチェーンから内部に入り込んで稼働に支障をきたすことも期待したが、魔力で出力を上げていることでちょっとやそっとでは止まらなさそうだ。

 このまま得物を持たないのは危険すぎる。奴の基地からパク…もとい死ぬまで借りて来た物質を使わせてもらおう。

 バックの中に仕舞っておいた物質に魔力を流し込み、妖夢が使っていた刀になる性質を含ませた。

 異次元にとりが使っていた時と同様に、縦横高さが全て正確な金属が粒子状化して形状を変化させた。

 粒子状化した物質は一つにまとまったまま柄と鍔をまずは形成し、残りは刀身部分につぎ込まれる。物質の量が少なかったせいで細いし、短くはあるが強化すれば何の心配もないだろう。

 鞄の中から妖夢が使っていた刀と同じ形をした得物を取り出し、チェーンソーを担いでいるにとりに対峙する。

「驚いた。盗まれたのは知っていたが、もう使いこなしてくるとはな」

 異次元にとりは余裕の表情でそう呟く。ただ刀を作り出しただけだし、こいつが使えるかどうかは使ってみなければわからない。

 魔力で刀を強化し、異次元にとりがどう来るか様子をうかがう。私から飛び込んでこないとわかると、彼女はエンジンを吹かして突っ込んできた。

「っ!」

 本当に生かす気があるのかと思えるほど容赦なく、彼女の持っているチェーンソーが上から振り下ろされる。

 予想よりも異次元にとりの動きが速く、左右避けることができずに40~50センチ程度の長さがある細い刀で受け止めた。床にあるコンクリートなどと同じくあっさりと切断されそうであるが、火花を散らして私がチェーンソーの軌道上から逃げるだけの時間を稼いでくれた。

 異次元にとりが驚いた顔をするが、別に驚くことではない。彼女は武器に鋭さと耐久能力の強化を施していて、私は武器に耐久能力の強化を全振りしている。

 異次元にとりと同じように半分を切れ味の強化に魔力を回していれば、数秒も耐えられずに片腕と足をぶった切られていたことだろう。

 同じ材質で防御と攻撃力を半々に上げたものと、防御力だけを最大まで上昇させたもの。前者は防御も攻撃もできていいのかもしれないが、後者の物を貫くのには火力不足が否めない。なぜなら防御力が攻撃力を大きく上回っているからだ。

 今回もそれが言え、チェーンソーの攻撃力を一時的に私の刀が上回っていたことで、細くてもすぐには切断されなかったのだ。

 この理論で行けば、私の刀を壊すことはできないように聞こえるが、そうではない。奴が持っている部武器が普通の刀であれば、私の刀が折られることは無かった。今、異次元にとりが持っている物はチェーンソーだ。

 何がまずいのかというと、物を強化している時の魔力は衝撃などによってどんどん削られていく。霊夢が近接戦闘で戦っている時に、彼女の周りを使われた魔力が雪みたいに浮遊するのはそのためだ。

 打ち合わせたことで耐久能力の強化する魔力が削られたとしても、次に得物同士がぶつかるまでに魔力が供給されるため、得物の防御力が著しく減少することはまずない。

 だが私の得物にぶつかった時点で、当たった部分の魔力は消費される。いつもと違うのはチェーン部分が回転しており、攻撃力の下がった部分は移動し、攻撃力が高い状態を維持したままの刃が休まず武器を襲い、こっちの防御力を削り続けるところだ。

 刀を見ると防御力が攻撃力を下回った結果、刀身が半ばから切り落とされてしまっている。

 形を変える物質でなければ捨てているところだ。折れた刀身が粒子状に変化して私の持っている刀に殺到して、さっきと全く同じ刀を再形成した。

 武器が壊れても元に戻るというのは非常に便利なものだが、再形成する間に追撃されれば私には防御する術が無くなってしまう。

 それの対策として刀を持っていない左手には常にエネルギー弾をキープすることはできる。しかしこれは問題を先送りにしているだけで、決定的な打開策にはなりえない。

 一番問題なのは、異次元にとりをどうやって倒すのかという所だ。現在彼女は飛んできた時みたいな装甲を身に着けてはいないが、それでも他の河童よりもいい防具を装着してはいる。

 試しに一度攻撃を加えてみたいところだが、まったく強化していないこの刃物ではまったくお話にならないだろう。装甲の間を付くことは可能であるが、その後にあの長いチェーンソーの射程から逃げられる自信がない。

 これまでは距離を置いているから、攻撃範囲内から出ることが出来ている。自分で殴るのと大差ない距離まで接近し、そこから逃げるのは私の足では無理だ。

 通り抜けざまに切りかかることはできるだろうが、そう言った対策に装甲を着こんでいて、とても切り抜けにくい。たとえできたとしても大したダメージを与えられないだろう。それでは苦労し損というやつだ。

 あまり刃物を使ったことのない私に、通り抜けつつ致命傷を与える高度な技術などあるわけがない。

 ならば、別の方法でこいつと戦うことにしよう。この刀では近づくこともままならず、防御し続けられるかも怪しいところだからな。

 物質に刀ではなく、棒の形状になるように命令を与えた。私が想像していたとおりのただの四十センチ強の棒が出来上がる。

 私の行動が理解できないのか、異次元にとりは眉をひそめて次にとる行動を観察している。

 ここは町中で金属は周りの鉄筋コンクリートなどで大量に存在するはずだから、できないことはないだろう。

 魔力で物質を棒のまま固定させ、通っている魔力の性質をコイルへと変えた。そこに強力な電流の性質を持った魔力を流し込んだ。

 河童たちを車ごと潰した時よりも強い磁力が、持っている鉄の棒から発せられた。風化と度重なる戦闘により、耐久能力が低下していた建物に使われていた鉄や、地中に埋まっていた鉄分を多く含んでいる岩石がコンクリートを突き破って現れる。

 磁力の発生する方向も魔力調節できるから、こうして鉄の棒に金属を含んだものがくっ付いていく光景を見ていられる。もし全方向に考えもなく磁力を発生させていれば、横から飛んできた岩石などに挟まれて死んでいただろう。

 基地にいた河童たちと同じ運命になるのはごめんだからな、その辺りはきちっと調節はする。

 異次元にとりの使っている装甲も磁力によって引き寄せられやすいようだが、ジェットの噴出孔は前方にもついているらしく、多少引き寄せられはしているが問題なく私と対峙している。

 私の持っていた棒は、今では様々な鋼材がへばりついて、自分の身長よりも大きくなってしまっている。鉄分を多く含んだ岩石と鉄筋コンクリートは、磁力によってガチガチに固められてちょっとやそっとでは壊れなさそうなほどだ。

 私が武器としてこん棒を選んだのには二つの理由がある。刀のように切れ味やそれ自身の耐久能など複数の強化にり、他の部分の強化不足を補うのが目的だ。

 どういうことかというと物に魔力を含ませ、強化するのにはどの方向に強化したとしても、これ以上上げられないという総合的な限界値という物がある。

 例えば、攻撃力だけに魔力をつぎ込んでいる物と、攻撃力と耐久能力に魔力をつぎ込んでいる物があったとしよう。攻撃力だけつぎ込んでいる物よりも、二つにつぎ込んでいる方が二つ強化で来ているのだから有利ではないかと思われるが、そのどちらも物に含まれている魔力の総量は同じである。

 つまりどれだけ魔力で強化しようとしても強化には限界があり、攻撃力を最大まで上げながら防御力も最大まで上げることは不可能なのだ。どちらかに特化させたいのであれば、どちらかを捨てなければならないということだ。これはどの人間が使ったとしてもそれは変わらない。

 変わる点があるとすれば、使用者の魔力力(いわゆる質)に影響するという点だけだ。同じ物質を強化したとして、強い魔力を使っている者の方が若干強化が強力となる。

 今回は、私は攻撃力を捨てることにしたが、この武器についてはそれは必要ない。なぜなら重量や振り回した際の遠心力がそのまま攻撃力となるからだ。

 これは打撃系の武器の利点と言えるだろう。これが一つ目。

 二つ目は重量の確保だ。

 近接戦闘において、重量というのは非常に重要な要素の一つだ。ボクシングで体重によって階級が分けられるのはこのためだ。

 体重が多いということはそれだけ筋肉量も多くなり、必然的に腕力が強くなる。筋肉量には個人差はあるだろうが、それでもガタイがいい人と悪い人ではその差は歴然としてくるだろう。

 私に当てはめてみれば身長が二十センチも高く、体重も装甲を着こんでいる分だけ異次元にとりは重くなっていることだろう。何の武器も持っていない状態でタックルなどされれば、何メートル吹っ飛ばされるかわからない。

 この説明ではただ体重が重いだけでは物を装備しているだけで、筋肉量が全くかわっていないから、今回に関しては当てはまらないだろうと思われるかもしれないがそれは違う。

 普通のサッカーボールと鉄のボールがあったとして、それぞれの大きさは同じで相応の重量があったとしよう。

 サッカーボールを投げて人に当たったとしても、大したダメージは無いだろう。だが、同じ速度で鉄球をぶつけたとなればどうだろうか。相手は怪我をする程度ではすまないだろう。

 軽いサッカーボールで鉄球と同じダメージを相手に追わせようとしたら、それなりの速度が必要となって来る。だが、重い物であればその速度は少なくて良い。

 その分遅くはなるが、相手に重量で押し負けることは無くなるはずだ。この二つの理由から観点から、今回はこん棒を作り出したのだ。

 この行動を見た彼女の表情は、面白いと言いたげに口角が上がっている。異次元にとりがこっちに向かってはしりだす前に、私は動いた。

 魔力調節で体を浮かせるのと同じ原理でこん棒を浮かせていが、そうでなければ数百キロはありそうな得物を、あたかも軽そうに持つことなどできるわけがないだろう。

 不格好ではあるが、私よりも背の高いこん棒の先を地面に押し付けて垂直に立てた。そのまま身体を強化し、腕の力で棒高跳びのように体を持ち上げた。

 魔力調節をして、最大出力でこん棒の先から魔力を放出させた。爆発的な魔力の推進力でこん棒ごと体を空中に持ち上げせ、異次元にとりのいる方向に向かって飛びだした。

 魔力をこん棒の耐久能力強化にのみつぎ込んだ。魔力で浮遊もさせないため重量と重力がそのまま武器となる。

「せぇえい!!」

 異次元にとりに当たる直前まで方向修正を行って、命中力をギリギリまで上昇させた。

 振り下ろした強化されたこん棒が、異次元にとりの着ている装甲をひしゃげさせるかと思われた。

 やはり見え据えた攻撃が当たるわけもなく、後方に高速移動した異次元にとりの鼻先をこん棒が掠って地面のコンクリートを粉々に砕いた。

 それだけでは終わらず、当たった部分から亀裂が大きく広がり、衝撃に煽られた土やコンクリート片が私の身長と同じぐらいの高さまで浮き上がる。

 これを振るうにあたっての欠点は速度を出すことが出来ず、こうやってあっさりと交わされてしまう所だろう。

 爆発というよりは低く、連続的に発せられるエンジン音が鳴り響く。これは異次元にとりが突っ込んでくる合図だ。

 耐久能力の強化から少しだけ物体の浮遊に魔力を消費し、すぐさま得物をめり込んでいる地面から引き抜いて構えた。十数メートル離れていた彼女が高速で突っ込んでくるのに、わずかな差でガードを完了させた。

 固い物を切り裂こうとする耳障りな金属音が耳に届き、二枚のチェーンによって強化に使われていた魔力が削り取られ、青い火花が接着面からはじけ飛んでいく。

 金属と石の塊であるこん棒に、刃のついたチェーンが容赦なく抉り込んだ。金属によって金属が切られていくため、次第に青のほかに赤の火花が混じり始める。

 強化に使っている魔力を一部だけエネルギーの放射へと置き換えた。こん棒の上方部分、現在チェーンソーが当たっていない部分からその魔力を放出させ、重たい得物を振るだけの推進力を生みだした。

 それと同時に浮き上がらせる力を耐久能力に回したことで、少しだけこん棒を切断されるまでの時間を稼ぎ、異次元にとりを押し返した。

 さすがの彼女でも数百キロもあるこん棒を押し返すのは難しいのか、じりじりと押されていく。私が支えることなどできない為、実質的には振るっているというよりは落ちているというのがふさわしい。

 しかし、チェーンソーは三分の一ほどまでこん棒に抉り込んでしまってて、引き抜くこともままならないのであろう。

 そうしているうちにこん棒の重量に物を言わせ、私は異次元にとりの持っているチェーンソーのガイドバー部分を歪ませた。

 今まで一定の力をかけられて、安定した速度で特定のルートを通っていたチェーンが、ガイドバーが歪んだことで力の伝わりが分散し、その動きを止めた。

「っち…!」

 異次元にとりは顔を苛立ちに歪ませた。いくらチェーンソーの耐久能力を強化していたとしても、数百キロもあるこん棒には耐えることはできない。

 一度武器を再形成させるためか、異次元にとりの持っているチェーンソーが粒子状へと姿を変えさせた。

 支えを失ったことで、私の腕でこん棒を一定の高さに持ち上げることが出来なくなり、棒先が地面に向かって落ちはじめた。

 その自由落下の力を利用して異次元にとりを叩き潰そうと力を込めるが、その姿には似合わないほどの俊敏さで横にこん棒を躱されてしまう。

 地面に落ちてから持ち上げ、それから武器を振るうでは隙が大きすぎる。それでは近くにいる異次元にとりの反撃を受けてしまう。

 捲り返っている地面にこん棒が落ちてしまう前に魔力で浮遊させ、私から見て左側に避けていた異次元にとりに向けて再度こん棒を振るった。

 横に薙ぎ払う攻撃に、異次元にとりは大きく跳躍してそれを躱した。こん棒自体かなりの幅があるが、妖怪からしたらこの程度は何の支障もなかったようだ。

 私から十メートルほど離れ、こん棒による攻撃の被害が比較的少ないコンクリートの上に着地した。

 着込んでいる装甲のせいか、着地によって小さな亀裂を生じる。プログラムされた魔力によって、粒子状化した物質はいくつかに分かれて異次元にとりへと向かって行く。

 それぞれは様々な部品に形を変え、まとまって一つの大きな武器に再度姿を変えた。

 今の攻防でチェーンソーでは短時間でこん棒を切断できないと理解できなかったのか、二枚歯の機械を再度掲げる。

 こちらも彼女が再度切りかかってくる前に、武器の修復を行っておくとしよう。内部の棒には常に一定の磁力を出させているが、鉄を集めていた時と同じように磁力を強める。

 すると棒についている既存の鉄筋や鉄を含んだ岩石が形を歪ませたり砕け、こん棒の形が少しだけ変わり、切り目が修復された。

 私の修復と異次元にとりの再形成はほぼ同時に終わり、地面を踏みしめていつでも飛びだせる体勢へと移行する。

 少し重いが魔力調節をしてこん棒を持ち上げ、異次元にとりに向けて背中から魔力を放出して一気に近づいた。彼女も背中のスラスターを吹かしてこっちよりも速いスピードで接近してくる。

 大量の魔力をチェーンソーにつぎ込んでいるのがわかり、これまでにないぐらいチェーンが速く、力強く回転していく。

 それに負けじと射程に入ると同時に私は左から、異次元にとりはその反対から各々の武器を全力で振るう。

 ブオンと棒状の物体が空気を切り裂く音と、エンジン音に紛れる金属の擦れる不快な音が勢いよく打ち合わさった。

 




申し訳ございません。次の投稿は遅れます。7/6~7/7までに投稿します。


少し説明部分が長すぎた気がします。なので、次はもう少しコンパクトにまとめてみる努力をします。
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