東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています!

それでもええで!
という方は第百一話をお楽しみください!







東方繋華傷 第百一話 薬

「…なるほどね。こっちの咲夜の目的がわかったわね」

 私は鴉天狗たちに導かれるまま廊下を進み、大きなホールに着いてすぐに呼ばれたわけに気が付いた。

 岩石から削りだされた玉座に向かって、血のように赤い絨毯が部屋の中央に真っすぐひかれている。そこの一部分に何かが液体が飛び散った染みが見えるが、少し時間が経っているのかそれはカサカサに乾いている。少し気になるが、呼ばれた理由はこれではない。

 誰も玉座周辺にいないのは警戒しているからだろうか、私はとりあえず罠が仕掛けられていないか警戒しつつ玉座に近づいた。

 そこには二人の少女が仲良く肩を貸しあって座り込んでいる。日の光にあまり触れてこなかったのか少し青白い肌をしているが、そこまで血色が悪いようには見えない。

 お互いの肩で支え合っている彼女らの瞳は固く閉ざされ、敵が目の前にまで来ているというのに反応することもない。

 それどころか、呼吸や周りの環境に対する反応などの生物的な活動が見られない。直接肌に触れて脈をとらなくてもわかる。彼女たちは死んでいるのだろう。

 外傷が特に見当たらないから最初は生きているかと勘違いしかけたが、少し近づいて距離が縮まったことですぐにその疑問は解決した。

 洋服は真新しく、肌や髪の毛も手入れがされたばかりのように綺麗だが、服の所々から顔をのぞかせている痛々しい手術痕が見える。それは何か病気をしていたとか、改造しようとしたとかそういうわけではなく、つなぎ合わせるために行われたような印象を受けた。

 一か所気が付けば足や指先、髪で隠れているが頭部にも多数見受けられた。そして、一か所一か所注目した後に全体を改めて眺めると、どことなく二人の体が歪だ。

 服に隠れているから自然に見えたが、わき腹やスカートの下など体のライン、履いている靴の向きに違和感がある。隠されている部分は体のパーツが足りないのだろう。

 一人では座らせられないから、お互いがお互いに寄り添う形で座らせられているのだ。視線を彼女たちの背中から伸びている物に向けた。

 骨に皮を引き伸ばして被せたような構造をしているコウモリの羽は、皮が引き裂かれて骨組み部分しか残っていない。

 何かがぶち当たったのか、破れた皮は刃物で切り裂かれた切り傷ではないようだ。綺麗に左右対称になるはずの羽は両側が不自然に折れ曲がっていて、不気味だ。

 もう片方の子には本当に飛べるかわからず、飛べたとしたら物理法則を無視ししすぎな構造をした骨組みだけの羽が生えている。

 そこからは正八面体で半透明な物質を縦に引き伸ばした、宝石によく似たひし形の物体がぶら下がっている。色とりどりで赤や黄色青なども存在するが、いくつかは千切れて無くなってしまっている。それどころか、体に隠れて見えずらかったがもう片方の羽は根元から千切れて無くなっているようだ。

 これだけの大怪我を負っているというのに、彼女たちの表情に痛みや苦痛が見られず安らかさがあるところも死んでいることを肯定させた。

 しかし、腑に落ちない部分がある。吸血鬼とは言え、死体にしては血色がよすぎるのだ。私たちがこの館に訪れてから、捜索によって軽く一時間近くは経過している。それだけの時間があれば、体中の血は流れ出してもっと血色が悪いはずだ。死んでいないとするば、この表情や包帯による治療ではなく針と糸を使った接合では矛盾する。

 包帯が足りなかったなどであれば考えられなくもないが、普通なら延命させたいのであれば包帯を使うだろう。それも、紅魔館の主ともなれば傷を残す治療はしないはずだ。

 となると、別の要因が絡んでいるということだ。意識を魔力に向けてみると、二人の吸血鬼周辺には濃密な魔力が存在する。

 詳しく調べて見ないことにはわからないが、大方それの正体は予想がつく。袖の中に隠していた札を適当に一枚取り出し、彼女たちの方向へと投げた。

 魔力を使わずに放ったものだから空気抵抗でまっすずには飛ばず、そのままひらひらと床に向かって左右に大きく揺れて置いていく。

 それでも投げたことが少しは絡んでいるのか、二人の方へと飛んで行った札は何の前触れもなく空中でピタリとその動きを止めた。

 見えない誰かが札を掴んだとかそういうわけではなく、セメントで固められてしまったのかと思うほどに微動だにしないのは時が止まっているからだろう。

 座り込んでいる二人周辺は時が止まっているようだ。侵入者が入って来た時の対策にしてはズボラすぎる。これはおそらく彼女たちが腐らないようにするための処置だろう。

 いつ死んだのかはわからないが、その直後から時を停止させて現在まで綺麗なまま残しているのだろう。

 異次元霊夢たちが求めている力というのは、死んだものでさえ生き返らせることが出来るということか。そんな力があるとはにわかには信じられない。

 しかし、こうやって死体を保存しているのは、それが理由だからだろう。彼女らに執着して、ずっと綺麗なまま残しておくというのが目的の可能性は非常に低い。

 魔力を消費してまでただ残しておくというのは考えられないが、これは私が誰かに仕えているわけではないから言えるか。

 他にここのホールには何があるか見回してみるが、特に気になるところはない。ただ一つ上げるとすれば、玉座から伸びている絨毯の一部に何か飛び散った跡があることだ。

 この場所に置いてこの染みはそこまで重要なものではないが、近づいてみるとそれが血であることに気が付いた。

 完全に乾ききってはいるが、ウサギ達の血と比べるとだいぶ新しい部類に入るだろう。血の量があまりないから微妙にしか鉄臭さは感じない。

 問題は誰の血かということになるが、この出血では大した怪我は負っていないだろう。他に生きている者か新しい死体が無ければ、この血の持ち主は部屋にいて怪我を負っていた魔女ということになる。

「……」

 なぜ彼女だけ生かされたのだろうか。純粋にその疑問が浮上してきた。

 ウサギたちを皆殺しにしている状況から、あそこまで血も涙もない異次元霊夢たちが情で生かすことなどしないだろう。

 敵対していた者をいたぶって楽しんでいたとしても、最終的には殺すことになる。自分たちが拠点にしていた場所から長期間離れるとなれば、尚更だろう。

 逃げ出したあの魔女が恨みを膨らませ、絶対に復讐に来ることは確実だ。だからどれだけ力の持っている者でも、殺せる敵は殺せるときに始末するはずだ。

 そうなると、彼女は何か特別な存在なのだろうか。殺さなかったのではなく、殺せない理由があるのだろうか。

 ただの敵ならば、生かす理由以上に殺さない理由がない。

 連中が何をしようとしているのかは、どうにかして彼女を捕まえるか、もう少し情報を集めるしかなさそうだ。

 

 

 靴の底がかたい岩石を踏むごとに、接触面からはコツコツとくぐもった音が発せられる。埃とかび臭さの他に血の鉄臭さまで漂った薄暗い廊下は、驚くほど人の気配がしない。

 掃除を怠っていたのか、靴を通して岩石の床の上にはだいぶ分厚い埃が積もっている。この辺りの廊下は、数か月から数年という期間立ち入られていないのだろう。ということしかわからない。

 私たちの世界の紅魔館は咲夜さんの指導で、妖精メイド達が隅から隅までピカピカに磨いていたから、埃の厚さでどの程度の年月ずっと放置されているか図ることはできなさそうだ。

 以前と全く様子の違うフランドール・スカーレットは、集団の一番先頭を堂々と歩いて行く。

 途中途中にあるドアは妖精メイド達に開けて中を調べる様に言いつけ、彼女は奥へと進んでいく。

 傘は紅魔館にはいる時点でおいて来たから、残っている右腕を使うことはできるが、それでも不安が残る。

 片腕がないことで思うように体を動かせない。体の重心が右腕側に大きく寄ってしまっていて、以前のようにスムーズに技を使えないのだ。これには慣れていくしかないが、現段階で妹様を守れる自信がない。

「美鈴」

 私がそう考えていると、前を歩いている妹様が私に声をかけてくる。探索に集中していないのに気が付かれてしまったのだろうか。

「なんでしょうか、妹様」

「今は探索に集中して、いざって時に動けなくなるから」

 流石はお嬢様の妹様だ。気が付かれてしまっていたようだ。

「すみません」

 妹様の言う通りだ。この注意力が散漫している状況で、いきなり曲がり角から誰かが出てきてもすぐに反応することはできないだろう。

「……それより…美鈴、今まで正直私は近接戦闘には慣れてない。いざそう言った戦いになったら、頼ることになると思うから頼む」

「わかりました。お任せください」

 とは言ったものの、片腕一本ではできることに範囲がある。どこまでできるか不安なところが多い。

 しかし、頼って来るというところに少し驚いた。パチュリー様に信用できるかは自分で決めろと言っていたから、信用を得るために真っ先に突っ込んで行くかと思った。それでは信用を勝ち取ることはできないと、彼女はわかっているのだ。

 妖精たちの能力を把握し、それぞれに合った内容とレベルの仕事を的確に与えていく。いつ知ったのかと聞き出したくなるほどスムーズに事が進んでいく。

 紅魔館の指揮を執るのは今回で初めてのはずであり、今までも妹様と深くかかわってきていたのはお嬢様や私、咲夜さん達だけだ。

 今までは精神を病んでいたから発揮できていなかった能力も、それが治ったことで発揮できているのだろうか。

 私には考えてもわからない為、そんなことは放っておくとしよう。探索に頭を切り変え、柱の陰や曲がり角のクリアリングを済ませる。

「この場所美鈴はどう思う?」

 長い廊下を歩いていると、妹様が私に声をかけて来た。彼女の方を見ると、左側の壁には大きくて真っ黒な道が口を開いて続いている。

 廊下が奥に伸びているのかと思ったが、どうやら降りるための階段のようだ。暗すぎて見えなかったが、覗き込むと弱い光に照らされた比較的高い位置にある階段が見えた。

「わかりませんが、暗闇は危険ですし…探索するのにも、何か光源を確保できてからの方がよいのではないでしょうか?」

「そうかもしれないが、こういう誰も近寄りたくないような場所には、何かを隠したがるものだ。美鈴ここを探索するぞ」

 少しだけ妹様は私の意見に考え込むが、すぐにこの階段を下りることに決めたようだ。

「ですが、他の妖精たちにここの捜索は無理がありませんか?」

「わかってる。だから妖精たちはこの廊下の奥まで探索をお願いするわ。それでいいかしら?」

 さっきまで向かっていた方向には、四十メートル程度先まで廊下は続いている。妖精たちだけに任せるのもいささか不安が残る。しかし、妹様にも考えがあるのだろう。

「わかりました。妹様の言った通り、ここから先の部屋の探索は任せました」

 私が後ろに控えている妖精メイド達にそう言うと、彼女たちは不安そうな顔をしているが、力強く頷いた。

 すぐに三人一組のペアになるよう行動し、効率よく部屋の探索を開始した。普段から紅魔館の掃除などを行っているため、どう動けば早く部屋を回れるかきちんとわかっているようだ。

「それでは行きましょう」

 廊下には彼女達だけを残し、妹様と暗闇の中へと歩みを進めた。すぐに光は届かなくなって、伸ばしたてすら肉眼で視認することが出来なくなるほどに闇が深さを増す。

「妹様、妖精達だけで大丈夫でしょうか?」

 階段を下りている最中に、前を油断なく進んでいる妹様に問うと、彼女は少し歩むスピードを緩め、答えた。

「大丈夫。向こうには死体もないし、おそらく敵もいない」

「どうしてわかるのですか?」

「匂いよ。途中まで微かな死体の匂いが漂ってきてて、こっちと向こうで分からなかったけど、この階段の奥から匂っているから向こうに死体はないと思う。

 敵については、守るんだったら何か重要なものがある場所を守るだろう?この辺りには足跡が一つもなかったからな、重要なものを置いているわけではないから向こうは手薄なはずだ……警戒するべきなのは、ここからだ埃の匂いが少し強まった」

 妹様は暗闇でも目がきき、気が使える私は敵がいればある程度は察知できるから、ここの探索に向いている。それでも二人だけという不安が募る。

 十メートル程度の階段を下りきり、少し足を踏み出しただけで妹様が警戒するべきだと言った理由がわかった。

 さっきまでは深く積もった埃のおかげで足音が軽減され、籠った音を出していたが、少し進むと埃の層が薄くなってコツコツと響く音に変わった。

 ここには定期的に誰かが通っているということだ。それによって埃が舞い上げられてこの廊下が異様に埃臭いのだろう。

 体を浮かび上がらせてきたのかは知らないが、妹様が言っていた通り何かを隠すためにそうした工作をしていたのであれば、ますます怪しい。

 気に意識を向けて建物の構造や生命体の有無を調べるが、特に何かがいるとかは感じず、数メートル先で行き止まりとなっている。

「先には誰もいないようです。でも…」

 もう少し意識を集中してみると、突き当たりの壁の奥には何か大きな部屋が存在しているようだ。

 何か生き物がいる気の気配はないが、ドア越しであるため少し精度が下がっているから警戒するに越したことは無い。

「お嬢様、奥に扉があるようです」

 小さな声で妹様にそう囁くと、彼女は手を掲げてレーヴァーテインを作り出した。お嬢様の槍とは違い、常に形状を変える刀を握り込む。

「見えてる」

 お嬢様と得物の形は違うが、使う物は同じようだ。どうやっているのかはわからないが、発火してゆらゆらと左右に揺れる炎を彼女は握り込み、構えた。

 レーヴァーテインのおかげで、廊下が怪しくオレンジ色の光で照らしだされた。揺らめく炎で光源の強さが変わり、周りが見えずらい。

 しかし、それでも廊下全体を映し出す程度の光量はあり、奥に見える錆びついた鉄のドアが顔を表した。

 さらに数歩近づくと、その重々しさから威圧感を感じる。それと一緒にドアの隙間からだろうか、流石にこの近さでは死臭の匂いが漂ってきている。

 しかし、この密室に近い状況にしては匂いが弱い。扉が閉じられているからか、それとも殺されてから大分時間が経過しているのだろうか。

「行くぞ。蹴り破ってくれ」

 妹様がそう呟き、私は錆びついた重々しい鉄の扉を蹴り飛ばした。どれだけの重量があるかわからないし、鍵のかけられている可能性を考慮して、身体を強化して蹴り破ったがどうやらいらなかったようだ。

 蝶番が錆びつき、岩にねじ込まれていたネジも取れかけていたようで、蹴り飛ばしただけで扉が歪み、取り付けられていた場所から吹っ飛んで行った。

 ほんの数メートル飛んで行っただけで扉は闇に紛れてしまうが、音で反対側の壁に突き当たったようだ。そこまで広い部屋ではないらしい。

 妹様と同時にその古びた部屋に入り込んで一番最初に感じたのは、古びた埃臭さに廊下よりは濃い腐臭だ。

「うっ…」

 妹様ではない。呻いた声を出したのは私だ。その部屋に転がっているのは、白骨化した死体が三つだ。

 白骨化していて、匂いがほとんどしないということは、かなりの時間が経過しているということになりそうだ。

 何があったのか、壁や床にはべっとりとペンキをぶちまけた跡がある。いや、この状況でペンキは無いだろう。

 光を反射することなく吸収しているその染みは、飛び散った直後では血と呼ばれていた物に他ならないだろう。

 この部屋には生きている者はいないようだ。それがわかると妹様も構えていたレーヴァーテインを岩石のタイルに突き刺した。

 剣先は拒まれることなく床のタイルを切断すると、妹様が押し込んだ分だけ地面に抉り込んだ。

 魔力をそこに送り込んだままレーヴァーテインを妹様は離すと、部屋の中へと歩いて行った。

 刀をたいまつ代わりにしたらしく、さっきよりも輝きの強い。それによって部屋の全体像が映し出される。

 床を見ると最近誰かが出入りしたらしく、足跡が一つ部屋の中を歩き回った形跡がある。足跡の形は下駄や草履というよりは、洋風の靴に近い。

 そんな靴を履いているのは、この幻想郷にはいくらでもいるから誰かということは特定するのは難しそうだ。紅魔館で活動していた者の誰かだろう。

「…」

 揺らめく炎によって光の角度が変わり、絶えず影の形が変化する。自分の影に驚きそうになるが、慣れればどうってことは無い。

 床から視線を部屋全体に向けると、様子はだいぶ質素なものだとわかる。部屋の中央には大きな机に、一人用のベットが端に設置されている。

 ベットのある位置から机を挟んで反対側の壁側には机が壁に面して置かれている。他には棚などもあるが、それらには大量の薬品が納められた瓶が仕舞われているようだ。

 大きな机の上にも、目盛りのついたフラスコなどがたくさん置かれている。注がれていた液体は蒸発したのか何かの結晶が底にこびりつている物もあるが、大部分は埃が溜まっている。

 そして、最後に三体の死体に目を向けた。一体は床の上に転がっていて、二体目はベットの横でうずくまった死体だ。三つめは壁際に寄せられた机の椅子にもたれかかっている。

 全員白骨化していて、ベットの横で丸まっている死体の頭蓋骨にある二つの眼孔と目が合った。覗き込まれているような気がして、私は目を背けた。

 骨の大きさからベットの横で丸まっている死体の人物は、どうやら子供のようだ。身の丈は私の半分ほどだろう。

 妹様たちと同じほどといったところだ。この幻想郷では身長の高さで年齢を図ることはできないから、何歳ぐらいということはわからない。

 だが、着ている服装には覚えがあった。炎の色で色はわからないが、かわいらしいワンピースの洋服の首元にはネックレスがかけている。

 鉄製で錆

びついたチェーンが首の周りを一周していて、胸と思われる場所の前には人参型の装飾品が括り付けられている。

 その服は見たことがある。あまり話したことは無いが、永遠亭にいるてゐさんと同じ服だった気がする。

 それがわかるとこの部屋の内部にいる人物が誰なのかが、見分けがついて来た。服装から見て、椅子にもたれかかっているのはこっちの世界の永琳さんだろうか。

 頭だけがないのはなぜだろうか。紫色だったはずの服には、真っ黒な染みが胸から腹部の辺りまでこびりついている。

 となると、ベットに横たわっているのは誰だろうか。異次元てゐや異次元永琳以外となると異次元鈴仙ということになるだろうか。

 いや違う。もとの世界で会った時、彼女は紺のブラウスに太ももぐらいのスカートを履いていたはずだ。あの遺体が着ているのは洋服というよりも和服だろう。

 基本的に会ったことのある人物の服装などは覚えているつもりだが、見たこともない。私の知らない人物か、こっち特有の人だろうか。

「妹様、この方ご存知ですか?」

 隣で机の上に散らばている薬品を調べているフランドール・スカーレットに聞くと、彼女が私の指をさしている方向に目を向ける。

「…あー…あんまり見たことは無いけど…確か、不死の月人じゃなかったかしら…服装的に」

 不死の月人と言われると、その方の名前なら聞いたことがある。たしか蓬莱山輝夜という名前だったはずだ。

「でもその方は、不死…なんですよね…?……様子を見るに、死んでいませんか…?」

「確かに…どんなことをしても死なないと言われていたはずなんだが……私にはわからないな」

 妹様はそう呟くと異次元輝夜だった物から目を離し、部屋へと目を向けた。

「美鈴…お前はどう思う?この薬を見て」

「薬ですか?…」

 そう言われて私は机の上に置いていある瓶や、フラスコなどを注意深く観察した。棚に仕舞われている蓋のされた小瓶などがあるが特に変なところはない。

「何か変なところがあったんですか?…私には何が変なのかはよくわかりません」

「棚をよく見て見ろ」

 彼女に言われて棚をよく観察してみると、机の上の薬はフラスコや瓶などの一時的に保存するための入れ物が多い。それと比べて、棚の瓶は小さくて蓋もきちんとしたもので、長期保存に向きそうだ。

 棚の上には完成した物が置いてあるのだろうか。蓋が付いた小さな小瓶が多い。そして、それらは綺麗に並べられているのだが、中間のとある部分だけ空白がある。

 誰かに持ち出されたようだ。こっちの紅魔館組かもしくは、彼女たちと手を組んでいる異次元霊夢達の誰かだろう。

 正確に四つずつの並びからして、持ち出された薬の数は4つと言ったところか。どんな効果のある物かは知らないが、一応頭に入れておくとしよう。

 他の小瓶には様々な効果のある薬が収納されている。胃薬から風邪薬など日用品から、胃が頑丈になる薬や髪の毛が速く生えるようになる薬など使いどころに困るものまである。

 その中の一つには痺れを起こす薬とかかれている。これに至っては病人を治療する気があるのかと思えてくる。

「それより、ここで何をされていたと思う?」

 レーヴァーテインに追加の魔力を注ぐために突き刺さっている剣に近づいた妹様は、私にそう聞いてくる。

「こんなところに閉じ込められて、これだけ実験をして居そうな雰囲気があるのならば、やっぱり薬を作らされていたんじゃないですかね?」

「何の薬だろうな」

「さあ、見当もつきません……とりあえず、こっちにいる永遠亭の面々がやられたということを、霊夢さんたちに伝えに行きませんか」

 私はそう呟きながら手に取っていた薬に目を落とす。随分と時間が経っているが、効果はあるのだろうか。

「そうだな。私たちに気が付けなくても、他の視点からならわかることもあるだろうし、そうしようか」

 妹様はレーヴァーテインの魔力を霧散させ、床に刺さっていた炎を消した。炎が消えたことで辺りは真っ暗闇に支配されるが、敵がいないとわかっているため警戒するとなくもと来た道を引き返した。

「妹様…」

「なんだ?」

「いませんでしたね……」

「そうだな…」

 いくら時間が経っても戦闘をする音も聞こえてこないし、こういった場所のどこかに隠れていると思っていたが、あてが外れてしまった。

「焦るな。確実に殺せる時に殺すとしよう」

 

 

「霊夢さん!」

 玉座の周りをしれべていると、白狼天狗が急いだ様子で私の方向に走り寄って来る。敵襲でも来たのだろうか。

「…どうかしたの?敵襲?」

「いえ、街の方向で大規模な戦闘が起こっているみたいなんです。もし情報収集をするなら、向かいますか?」

 現在戦闘が行われているのか。ここから急いで移動したとして、到着には約十分程度の時間が必要だろう。それまでには戦っている連中も疲弊するだろうし、卑怯ではあるが紫の胃に穴が開く前に向こうに帰りたいのも事実だ。ここは向かっておくとしよう。

「…行くわ。誰が闘っているかわかる?」

「距離が離れていますので、確定とは言えませんが……銃声がするので河童達ではないでしょうか」

 銃声か。確かに異次元霊夢達はそんな武器は使わない。ならばそれらの扱いに慣れたこっちの河童達が闘っているということか。

 相手は誰だろうか。もしかしたら彼女がカギになっているかもしれないため、案外あの魔女が闘っている可能性もあるだろう。

「…この屋敷に敵はいないし、手分けしてフランや萃香たちを集めて」

 私はそう言いながら外に出るために廊下に戻ろうとした直後、これまでに体験したことがないほどの爆音が鼓膜を揺るがし、全身を震わせる。

 どれだけの距離でその爆発が起こったのかはわからないが、それだけの爆発力があればそれが来た方向にある窓が爆風で割れるのは至極普通である。

 玉座のある壁側からは反対側で爆発が起こったようだ。玉座から続いている絨毯の先は外に繋がっているらしく、爆発の衝撃で木製のドアとガラスの窓に一斉に亀裂が走り、粉々に砕け散った。

 砕けるだけではまだ飽き足らず、爆風に破片が乗ってこちらに一斉に吹っ飛んできた。私はできるだけ他の鴉天狗たちを守れるように、大きく結界を展開した。

 爆音が聞こえてからすぐに結界の用意を始めていたが、それでも飛んできた破片の方が足が速く、結界を張り切ることはかなわなかった。

 ホールにいた何人かの鴉天狗や河童たちにガラス片が降り注く。彼女たちに飛び散ったそれらは突き刺さり、皮膚をやすやすと切り裂いた。

 私が向かうと言ってからほんの数秒の間にホールに地獄絵図が描き出された。けが人の周りには血の水たまりができていく。

 私は結界を解除し、どの程度こちらに被害が及んだのか確認をすると、部屋全体の約三分の一ほどの妖怪たちが倒れ込んでいるのがわかった。

「…くっ…!怪我のない人はけが人の手当てをして!それ以外は紫たちを連れてきて!」

 結界を張ったことや鴉天狗たちは自分たちの装備で盾を持っていることが重なり、意外と軽傷の者も多い。死人が出るほどではないだろう。

 手当は彼女らに任せ、私は木っ端みじんに吹き飛んだドアから外に飛びだした。爆発が近くで起こったのなら、混乱している今を狙うはずだ。手当てしている天狗たちのところに行かないよう、私が気を引くことにする。

 外に飛びだすと、私は自分の目を疑った。爆発は紅魔館の近所ではなく、さっきまで私たちがいた街の方向で起こっているようだ。

 舞い上がった砂煙や爆発の煙で街の全体を視認することはできないが、煙は全体を覆っている。これだけ離れている紅魔館にまで被害を及ぼすとは、いったいどんな武器を使ったのだろうか。

 

 

 霊夢が紅魔館から街を見下ろしている頃、爆発の怒っていた爆心地には、無機物以外で動く影は二つあった。

 爆発の衝撃で辺りの建物はすべて倒壊し、危うく生き埋めにされるところだった。自分の上に乗っていた瓦礫を蹴り飛ばし、砕けた鉄筋コンクリートの中から這いずり出た。

 さっき敵がいた方向に顔を向けると、奴もしぶとく生き残っていたようで、血走った眼を瓦礫をどかしながらこちらに向ける。

 身の丈や身に着けている装備、種族は全く違うのに、その二人には共通している物が一つだけある。

 戦う意志だ。

 片方は壊れかけた巨大なこん棒を掲げ、もう一人は巨大な銃を構えた。

 二人の張り上げた雄叫びは、未だに山に反響して聞こえてくる爆音をかき消し、周辺に響き渡った。

 




次の投稿は予定では一週間後です。変更がある場合にはここの後書きに記載します。

7/19の夜十時に投稿します。
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