東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています!

それでもええで!
という方は第百二話をお楽しみください!


東方繋華傷 第百二話 飛行物

 チェーンソーと強化されたこん棒がぶつかり合うと、私が持っている得物の重量によって、チェーンの通る場所を確保していたガイドバーが捩じれて砕けた。

 こん棒による打撃は機械の耐久能力を大幅に上回っていたらしく、ガイドバーだけでなくチェーンを回転させているエンジン部分まで外装が破壊されていく。

 チェーンソーがここまであっさりと壊れるとは思っていなかったのか、異次元にとりは目を見開くが、何かを思いついたのか破壊されたチェーンソーを投げ捨てた。

 ガイドバーが壊れたことで、千切れたチェーンが本体を離れて落ちて行く。地面に落ちる前にキャッチし、本体部分からもチェーンを引きずり出す。

 得物を大きく振りかぶっていたことから慣性が働き、こん棒を反対側から再度振るのに大きく時間を食い、異次元にとりの接近を許してしまった。

 あまりの近さに焦って彼女の上半身を吹き飛ばす軌道で振ったこん棒は、物体に当たることなく空気を押しのけて進む唸り声を上げるだけだ。

 巨大なこん棒の下を潜り抜けた異次元にとりが、手に持っているチェーンに鋭い性質を強化する魔力を感じる。

 チェーンを握っている異次元にとりの手から血が流れ出しているが、そんなことを気にすることもなく鞭のようにしならせて金属の刃で切り裂いて来た。

 チェーンが私の右肩を叩いたことで、刃が皮膚を豆腐のごとく切り裂く。大きな刃をつかっていることもあり、場所によっては骨にまで到達している。

「ぐっ!?」

 それを体から引き剥がそうと伸ばした私の手がチェーンを掴む前に、異次元にとりが持っているそれを手前に勢いよく引いた。

 長いチェーンついている刃の数だけ肩の肉を切り裂いていく。

「あぐっ…!」

 肩の肉を切り裂かれたことでこん棒を引き戻す力が足りない。予定では彼女の攻撃の直後には二度目の攻撃を仕掛けられていたはずだが、軽い分だけ異次元にとりが素早く鉄の鞭を横に振るう。

 横に薙いだ鉄のチェーンが、わき腹の肉を服ごと削いでいく。血と肉で真っ赤に染まった金属が通った後は服と体に穴が開き、真っ白で傷だらけの骨が顔をのぞかせた。

「っ…!!」

 切られた位置が高かったことで、内臓が傷口から零れ落ちることは無かった。だが、大きくバランスを崩し、振っていた鈍すぎるこん棒は異次元にとりに掠りもしない。

 わき腹をこん棒を持っていない方の手で抑え込み、出血することをできるだけ防ぐ。脳の処理がこん棒から傷へと使われたことで得物を振るおうとする速度が遅れ、飛び上がっていた異次元にとりに胸を蹴りつけられてしまう。

 身体を強化していても伝わってくる衝撃に、肺や心臓をぐるりと囲んでいる肋骨が歪むのを感じる。

 後ろに重心が傾いたことで、私の筋力では腹筋を使って立て直すことが難しくなり、倒れ込んでしまいそうだ。

 異次元にとりにこの近さでバカみたいに大きな隙を見せるわけにもいかない。バランスをとるため、後ろに一歩下がった右足から地面に魔力を流し込む。自分の足で体勢を立て直すためと、一種の保険をかけたのだ。

 自分以外の魔力が流し込んだ地点から一メートル以内に近づくと、爆発する性質を含ませた。

 私に蹴りを入れられるほどに近いということは、すでに彼女はそこから一メートル圏内にいるわけで、プログラムを終えると同時にいや応なしに魔力は爆発の属性を開放した。

 普通ならその近距離では爆発には私も巻き込まれるはずだが、エネルギー弾と同様に爆発する方向の制御は忘れてはいない。

 後ろに下げていた足を踏ん張らせ、後方の確認もせずに飛びだした。おかしな体勢で飛んだことで空中で立て直すこともできず、敵対している彼女からしたら格好の的だろう。

 やはり、チャンスと考えた異次元にとりが、そのうちに距離を詰めようとするが彼女は真正面から赤い光を放つ炎に包まれた。

 前方四十五度に三百六十度分の爆発力が集中しているため、どんな力で飛びだしていても彼女が後方に吹き飛んで行くのは変わりなかっただろう。

 だが、他の河童たちと違っていい装備を着こんでいる異次元にとりは、至近距離から受けた爆風でも肺が潰れることもなかったらしい。空中で壊れたチェーンソーに魔力で命令を下す。

 細かい粒子状になった物質は、吹き飛ばされて壊れかけの民家に突っ込んだ異次元にとりの後を追う。

 壁の抵抗はあったが、壊れかけで装備を着こんで強化されている異次元にとりに耐えられるわけもなく砕けてしまう。そこの壁が家全体を支えていたのか、亀裂が大きく広がると一階が潰れ、続いて落ちて来た二階も瓦礫へと変わる。

 二十メートル以上も離れた私の位置にまで埃と砂煙、瓦礫片が飛んでくる。木造でできているわけではないからあれで死んでくれていると助かるが、どうやらそうもいかないようだ。

 異次元にとりの荒々しい魔力が潰れた家の中から感じる。飛んでいた粒子状の物質は、瓦礫の間から彼女の場所まで向かったようで、飛んでいたそれらは瓦礫の中へ吸い込まれていく。

「うっ…」

 こん棒は辛うじて離してはいないが、わき腹から流れて行く鮮血は汚れて服とひび割れたコンクリート、瓦礫を赤く染めていく。

 何とか倒れずには済んだが、良い状況とは言えないな。

 異次元にとりがあの中から出てくるのにはもう少しかかりそうだ。私は魔力をわき腹の傷に集中させるが、刃物で何度も切り裂かれたことで組織がぐちゃぐちゃになってしまっている。

 刀でただ切られるよりも傷の治りが遅い。だが、腕が物の数分で再生するのだから、それよりも長いことは無いだろう。

 大きなものが空中を切りさく低い音や岩と岩がぶつかる音に、異次元にとりが埋まっていた民家の方に注意が向いた。

 木片と岩が衝撃で打ち上げられ、地上から十数メートルの高さまで行くと、それらは上昇を止めて落ち始める。

 コンクリートに瓦礫が落ち散ると、簡単に砕けてバラバラに広がった。蹴り飛ばしたのか瓦礫の山に開いた穴には異次元にとりの足がのぞいていたが、次に起き上がった彼女の体が現れた。

 額や腕から血を流していることから、瓦礫に潰された影響は少なからずあるようだ。彼女は首を傾けて骨を慣らした。

 苛立った表情で持っていたチェーンソーの形状を変化させる。彼女の手に持っている柄の形的に、それを握って得物を振るうような形をしていない。

 人が握りやすいように少しだけ傾いて伸びていて、人差し指と親指が当たるであろう場所に何かボタンのようなものがある。

 軍事物の漫画などで空を飛ぶ兵器があるが、それについている操縦桿によく似ている気がする。ヘリコプターでも形成する気なのかと思ったが、操縦桿の先には円柱状の筒ができ始めた。

 様々な形状に変化させられた金属が、形成された円柱内部に取り付けられていく。私のいる位置からでも円柱の中身が見えていたが、すぐに装甲で覆われたことで見えなくなる。

 一つ目にできた大きな円柱の脇にくっ付いた状態で、小さな円柱が形成され始める。歯車によく似た部品が見えたから、小さい方は大きい方を動かすための物だとわかったのだが、彼女が一体何を作ろうとしているのかがわからない。

 そう思っていると、一番初めにできた本体の弧を描いていない平面部分に六本の棒が作り出された。

 こちらに伸びているそれによって、一目で彼女たちがよく使う銃だとわかった。その六本の長い一メートルはありそうな棒はパイプのように穴が開いており、弾丸を射撃する際に回転を与えるバレル内部の凹凸が見える。他の銃口と同じ形状だ。

 缶で言えば蓋か底に当たる部分に現れた棒は長さも太さも全く同じで、それらは円を描くように正確に配置されており、六本をまっすぐな直線で結べば綺麗な六角形を描けることだろう。

 私にはあれが銃にはどうしても見えない。本来の銃とは明らかに企画が違うからだ。しかし、異次元にとりが作り出したということは、あれは本当に銃だということだ。

 あれがどういう形で弾丸を飛ばしてくるか未知数であるため、持っていた巨大なこん棒を自分の前に置いて盾とした。

 強化の魔力を最大にまで防御に回し、いつでも攻撃が来てもいいように構えた。

 異次元にとりの持っている武器は表の世界で言う所の、ミニガンという武器に当たる。秒間六十発という驚異的な連射力を誇る銃であり、幻想郷に流れ込んでくるにはまだまだ早すぎるが、彼女にかかれば作ることは難しくはない様だ。

 操縦桿の頭についているボタンを異次元にとりが親指で押すと、円柱に取り付けられた六本の銃身が回転を始める。

 根元のとりついている機械の内部機構によって回転させられているようだが、高速回転するそれらが通る場所が一定であるため、正確に配置されているとわかる。

 金属と金属をこすり合わせる不快な音を立てて回転している銃身を、異次元にとりはこっちに向けた。回転が最高速度になるまでには一秒もかかっていないが、すぐに撃ってこないのは狙いを定めているからだろう。

 ライフルやハンドガンのようにスコープが付いているわけではないから、射撃は勘に頼ることになる。

 異次元にとりが人差し指が置かれる部分にある、ボタンに似たトリガーを何の躊躇もなく引いた。

 金属の擦れる不快な音がかわいくなるほどの爆音が私の耳に届いた。あまりにも連射が速すぎて射撃音が継続的に鳴り響き、それに合わせて弾丸に形状を変えた物質が私の元に撃った分だけ送り付けられた。

 たんに連射力が高いだとかそういう次元ではない。破裂音が絶え間なく発せられているせいで他の音が全く聞こえない。

 それに連射の合間に壁の影などに逃げることが出来るかと思ったが、周りのコンクリートの床や壁に小さな穴が大量にできていくと、耐久力を自重が上回って建物が倒壊していく。

 すぐ横に立っていた電信柱が半ば程から大量の弾丸によって砕けていく。異次元にとり側に削られたことで、電柱がゆっくりと倒れさらに半ばから叩き折れた。

 ほんの数秒の射撃だったというのに、私の周りに立っていた建物はすべて倒壊してしまっている。私の持っているこん棒は半分ほど削り取られてしまっているようだ。

 更に数秒連射されていたら、こん棒ごと周りの壁と同じ結末を迎えていただろう。私はこん棒の磁力を魔力で強化させ、破壊された鉄筋コンクリートで修復した。

「殺す気かよ…」

 私がそう異次元にとりに言うと、赤く加熱されて白い蒸気と灰色の硝煙を銃口から吐き出している長いバレルを冷却している彼女は言った。

「死ななかったろ?とりあえず片足でも片腕でもいいからふっ飛ばさせてもらう」

 弾丸によって加熱されたバレルの上にモヤモヤと陽炎のようなものが立ち込めていて、どれだけ温度が上昇しているのかがわかる。

「さっきから腕が再生しているのが見えないのか?お前のやろうとしていることは無意味だぜ」

「なら、再生しなくなるまで吹っ飛ばすだけだ」

「とんだ脳筋野郎だぜ」

 私が悪態をつくと、異次元にとりは六本の銃身を回転させた。不快な金属をこすり合わせる音がする。

 弾丸もあの物質で作っているから、あれだけばらまくのであればそのうち尽きるはずだが、どこかに当たった途端に粒子状になって彼女の方へと戻って行っているようだ。

 あれならばいくら撃っても弾は減らないわけだ。弾丸も火薬で飛ばしているわけではなく。薬莢の中には自分の爆発の性質を持つ魔力を込め、それを爆発させているわけだから別途で火薬を用意する必要もないのだ。

「次はどれだけ耐えられるかな」

 異次元にとりがトリガーを引いたらしく、さっきと同じ破裂音が響き始めた。これはもう破裂音といってもいいのかわからない。ずっと雷鳴が轟いているようにしか聞こえない。

 鋭い金属音を響かせて弾丸がこん棒を容赦なく削り始める。身体強化の魔力を異次元にとりから感じ、それに加えてさっきの射撃でだいぶ慣れて来たらしく、精度が段々と安定して来て、ほとんどの弾丸がこん棒に集中し始めた。

「ぐっ!!」

 鉄の弾丸がこん棒を叩く力が強き、じりじりと後ろに得物と体が下がって行く。伝わって来る衝撃もだんだんと強くなってきており、こん棒が一度目の射撃時以上に削られてしまっているらしい。

「くそっ!」

 私は足に魔力を集中させ、片足を地面に叩きつけた。そこから魔力を地中に流し込み、他の河童たちに使ったあの棘を使用した。ただし、攻撃に使うのではなく防御に使うのだ。

 こん棒の裏に隠れてしまっている私は、正確に異次元にとりの姿を捉えることが出来ていない。初めで外せば彼女に当てるのは格段に難しくなってしまう。であれば、いつこのこん棒も壊れてしまうかわからない為、防御を優先した。

 棘状ではなく簡単には壊せないように分厚い壁を凝縮した土で形成し、耐久能力を最大まで上昇させる。

 こん棒からの衝撃が消え、すぐに磁力で削られ場分を修復させた。激しい攻撃に手が痺れてしまっている。武器を握り込むのにはそこまで支障はないが、これ以上あの弾丸を受け続ければ握ることすら怪しくなる。

 かなりの耐久性能がある壁を破壊するのは、さすがのミニガンでも一筋縄ではいかないらしく、長い射撃音が聞こえ続けている。

 磁力によって修復したこん棒を掲げた。肩でこん棒を支え、魔法を発動させた。こん棒だけでガードしていた時は切羽詰まっている状況だったからしている暇はなかったが、今は盾のおかげでゆっくりと光を屈折させる魔法を発動させられる。

 目の前にある壁を越えて、異次元にとりのいる場所を正確に把握した。他の河童たちと同じように、彼女のことを圧縮した土で貫いてやろうと魔力のプログラムを組もうとした。

 だが、これだけの時間を体勢を整えることに使っていたことで、形成していた壁に穴が開き、顔の横を弾丸が超高速で通り過ぎて行った。

「っ!?」

 ど真ん中を集中的に弾丸を浴びせかけていたらしく、小さな弾丸によって削られて大きな穴へとなって行く。

 始めに小さな穴が開いた時点で横に体を移動させていたことで、穴の開いたたんぱく質の塊になることは避けられた。彼女もセンサーを使っているらしく、私が逃げた方の壁へ弾丸を浴びせかけてくる。

 壁を作成してから大穴を開けられるまでは大体十秒程度だ。同程度の時間があれば、私が隠れている壁も破壊されてしまう。

 それまでにできることはいくらでもあるが、それらを全てやる時間はない。私は持っているこん棒を構え、一部分をエネルギーの放射に変換させた。

 身体強化も体に施し、横に薙ぐために腰の位置にこん棒を添えた。こん棒を自分が隠れている壁に当てて壊さないように注意しつつ、両足で踏ん張った。変換して置いたエネルギーを消費し、全力でこん棒を振るった。

 私が狙ったのは異次元にとりだが、ここで振るったとしても当然当たらない。だが、こん棒にずっと加えていた磁力を壁に当たる直前になくしたとしたら話は変わって来る。

 内側の鉄の棒に引き付けられて、ただくっ付いていたこん棒の先にある鉄筋コンクリートは、千切れて異次元にとりの開けた穴をくぐってその先にいる彼女へと向かって行く。

 武器の一番端で遠心力がかかっていることで、飛んでいくこと自体は別に心配はしていなかった。だが、あまりこうやって物を飛ばしたことが無かったため、きちんと飛んで行ってくれるかが心配だった。

 どうやら私の心配は特に必要ではなかったらしく、千切れた鉄筋コンクリートの瓦礫はまっすぐに異次元にとりへと飛んでいく。弾丸に数発当たることはあったが、それでもここまで重たい物を止めるには至らない。

 私がそうやって攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったのか、異次元にとりは驚愕の表情を浮かべてしゃがみ込んだ。

 いきなりのことで横に飛びのく暇はなかったのだ。それに私の飛ばした岩石の軌道も高く、しゃがんでかわすのにはちょうどいい。

 射撃を止めて異次元にとりの頭上を瓦礫が通過すると、彼女はすぐに頭を上げて射撃をしようとミニガンを再度構える。

 だが、私はこん棒の内部にある鉄の棒にコイルの性質を加え、強力な電流を流し込む。魔力で調節し、異次元にとりのいる方向に対して、非常に強い磁力が発生させた。

 空中を飛んでいた瓦礫に含まれている鉄が磁力によって引かれ、飛んでいくスピードを緩めると空中で静止した。そして、ゆっくりと私のいる逆方向へ移動を開始する。

 こちら側に近づけば近づくほど辺りにある磁力は強くなっていき、飛んでくるスピードもその分だけ早くなる。

 異次元にとりは瓦礫を横ではなくしゃがんでかわした。まっすぐ進んでいた瓦礫は同じ軌道を通ってこん棒へ向かってくる。その中間にいる異次元にとりに当たるのは必然的だ。

 いきなり後頭部に重い一撃を食らった異次元にとりは目を見開き、こちら側へ大きく体勢を崩した。

 彼女の後頭部に当たったことで瓦礫の軌道が上側に少し変わってしまうが、壁を飛び越えてやってきたそれは、問題なくこん棒の先に引き寄せられてくっ付いた。

 一番初めにやったようにこん棒を地面に押し付けて体を持ち上げ、こん棒自体を魔力の放出によって空中へ打ち上げる。

 壁を飛び越え、前のめりに倒れている異次元にとりに向けて私は降下を開始する。重力を味方につけ、異次元にとりに向けて全力でこん棒を打ち下ろした。

「せぇぇいっ!!」

 ドンッ!と硬いコンクリートをこん棒が砕き、地面へ二十センチほど抉り込み、周りの土を盛り上がらせて飛び散らせた。

 感触的に異次元にとりには当たらなかったようだ。肉体に当たる感覚ではない。飛び散った土に顔をしかめている異次元にとりは装備についているジェットによって後方に逃げていたようだ。

 だが、彼女のタイミングもきわどかったようで、右肩から胸にかけての装備がこん棒によって破壊されてしまっているようだ。

 彼女の装備で初めに降りて来た時のスーツ以外は普通の金属らしく、壊れた部分を治すそぶりを見せない。

 彼女がまたミニガンを撃ち始める前にこん棒で叩き潰そうとするが、地面にめり込んだこん棒を引き抜くことが出来ない。

「くっ!」

 いつまでもこん棒を地面から抜くことからできず焦りが募るが、異次元にとりも射撃をしようとはしてこない。

 そのうちにさっさとこん棒を引き抜こうとすると、異次元にとりの持っているミニガンが粒子状化してバラバラになると、彼女の体の周りに浮遊する。

 体に何か装着する気だろうかと構えるが、腕や足に何か出来上がるわけではない。背中側に何かを背負う形で物体が形成されていく。全身を覆わないところから、始めに降りて来た時のスーツを着るわけではないことだけは分かった。

 右肩の後ろに太さが五センチ程度の柱が形成され、頭よりも三十センチほどの高さにまで伸びる。それに添える形で、正円で柱状の先が鋭くとがっている弾丸によく似た物が作り出された。

 異次元にとりの体が障害になってそれの下側は見えないが、丸みを帯びた先から底面までの中間には四方向に鉄板が伸びている。弓矢に付けられている羽のようにも見える。

 なんとなく飛び道具だということはわかるが、弓矢や銃などよりも凶悪なものだと私は見た目からなんとなく察せた。

 それは、外の世界では言わずと知れたミサイルと呼ばれる兵器だ。何百キロも離れた場所にいる人物を、その建物ごと破壊することのできる飛行性と威力、精度を兼ね備えている。

 粒子状の物質が更に異次元にとりとそのミサイルをつなぐように、チューブを形成していく。

 ミサイルに対する知識が圧倒的に不足している私は、どういう攻撃をしてくるのかがわからずに後手に回ってしまう。

 ミサイルによってつながれたチューブを伝って、異次元にとりの魔力が大量につぎ込まれていく。無理やり魔力を押し込んでいるのか、その大きさには見合わないほど大量の魔力が濃縮されて行くのを感じる。

 その魔力の性質は爆発のようだ。マスタースパークを数発ぶっ放せるほどの爆発となれば、どれだけの範囲が吹き飛ばされるかわかったものではない。

 これではどこで爆発しても、私が巻き込まれるのは変わらないだろう。遅れを取ってしまったが、こん棒を持ったまま走り出した。

 20~30メートルほど離れている異次元にとりのいる位置まで走り抜くのには、五秒か六秒はかかりそうだ。走り始めてすぐ、彼女の背中に設置されているミサイルの噴射口から青い炎が噴き出した。

 足にはいつの間にか装甲がまとわりついており、ミサイルの炎で皮膚が焼けるのを防いでいる。

 炎が勢いよく吹き出されたことでミサイルに推進力がかかり、猛スピードで上空へ飛翔していく。

 物体が空気を切り裂く音と炎が噴出される音が重なり、空気震わせるほどの轟音となる。それらは辺りに落ちている瓦礫を揺るがすほどに強い。

 あっという間に豆粒程度に小さくなっていくミサイルに向け、撃墜するために手の中に溜めた魔力を変換したレーザーを放った。

 高速のレーザーは、上昇していくミサイルに簡単に追いつくことが出来た。しかし、早い速度で動く小さな物体を撃ち落とすことは難しく、当たることなく通り過ぎてしまう。

「くそっ…!」

 長距離用の兵器ではあるが、いったいどこに向かって飛んでいくのかがわからない。だが、現在戦っているのは私であるから、ここに落ちてくるのだろう。

 事前にどこに飛んでいくか設定していれば話は別だが、こいつと戦い始めてから少し時間が経っている。他の人物を倒したいのであれば、その間に移動されていることを考慮すると他の人物とは考えられない。

 他の目標物を破壊するのであれば、それも違うだろう。建物のみを破壊するだけなど、意味のないことはしないだろう。

 目的は中にいる人物であり、建物の破壊はその副産物だ。もし建物自体に何か効力があって、それを破壊したいというのも可能性としては上げられない。というのはこの幻想郷ではそう言った建物は非常に少ないからだ。

 博麗神社は数少ない建物自体に効力があるものだが、博麗大結界を維持するための物であるから、異次元にとりは自分の首を絞めるようなことはしないはずだ。

 そう考えると、やはり目標は私ということになる。そこで問題になるのがあとどの程度の時間が経ってから落下してくるのかだ。

 もう雲に隠れて見えなくなったミサイルを見上げていると、異次元にとりが背中の発射台にある柱に添えられて二発目が用意する。

 二発目を撃たれるわけにはいかない。魔力がミサイルに注入される前に、私は彼女へ向けてエネルギー弾を射撃した。

 放った痰青色の球体は、高速で異次元にとりのもとまで突き進むと、彼女の腹部に命中して爆ぜた。

 背中に背負っている発射台も含めればかなりの重量になるはずだが、地面に踏ん張ることが出来ず後方へと吹き飛んで行った。

 後方にある建物に突っ込むと、青い光をまき散らして爆発を起こす。家の壁でミサイルが押し潰されたことが、爆発の引き金となったのだろう。

 入れられていた魔力は打ち上げたミサイルの十分に一にも満たない量だったが、叩きつけられた家を包み込む程度の大きさにまで炎は膨れ上がった。

 そこを中心にして放射状に砂や小さな瓦礫を空気が押し出し、立っている私も爆風に押し倒されてしまう。飛んでくる小石が顔に当たらないように手でガードし、彼女が動いていないか見ようとするが、炎と舞い上がる砂煙に視界を塞がれた。

 大きな瓦礫が飛んでくることもなかったから普通に起き上がることが出来た。爆発の起こった方を見ると家は倒壊し、その周りの家まで半壊もしくは全壊している。先の爆発で異次元にとりも死んでいてくれるとうれしいが、彼女の魔力が消えていない。

 ゆっくりと立ち上がり、砂煙が舞い上がっている爆心地を見ると瓦礫の山がいくつも出来上がっている。

 あれの中から異次元にとりを探し出して止めを刺すのは骨が折れそうだが、その心配はない様だ。意識を向けると彼女の魔力が移動しているのだ。

 瓦礫の中に埋もれているわけではない。埋もれていたが脱出したのかは知らないが彼女の姿が見えず、周りを警戒していると自分と同じ高さではなくずっと高い位置にあるのを感じた。

 顔を上げるとすぐに彼女のいる場所が分かった。爆発の影響で瓦礫が上空に撃ちあがっていたが、今は異次元にとり一人しか宙に浮かんでいるものは無い。

 爆風で視界が狭まったすきに上空に移動していたのだろう。

 彼女は既に降下段階に入っており、これから魔力を溜めて撃つのには時間が足りなそうだ。こん棒で殴りつけようと構えるが、彼女の持っている物で攻撃から防御へと行動が切り替わった。

 材質は金属で全長は40~50センチはありそうな大きなミサイルを、異次元にとりは握り込んでいる。

 魔力量は爆発したものと変わらない程度だが、異次元にとりの後頭部が一部分抉れていたり、肩の肉がむき出しになっているところからその威力が窺える。

 体の耐久性能を最大にまで強化し、私は異次元にとりの攻撃を迎え撃つ。落下してきた彼女は持っていたミサイルを大きく振りかぶり、私が盾にしているこん棒に叩きつけた。

 鼓膜を破らんとするほどの爆音に何も聞こえなくなり、目を閉じているというのに青一色に染まりあがった。

 温度の高い炎に皮膚や服が晒されてしまい、このまま燃えてしまうのではないかと思えてくるが、そうはならないことがすぐにわかる。

 体の感覚器官が働き、私の体が高速で移動していることが目を閉じていても感じた。体がどういう体勢なのかわからないが、次に来るのは壁か地面に当たった衝撃だ。

 背中で壁を破壊したのか、体の移動が止まることは無い。次の衝撃は頭に感じ、また壁に当たったようだ。脆い壁は簡単に瓦礫へと変わり、大通りに転がり出た。

「っ……っち…」

 額から流れ出て来た血液が右目に流れ込んでくると、目の中で広がると視界が赤く染まる。

 炎で焼かれるよりはいいが、戦いで視界が狭まるのは少し考え物だ。

 手の甲で目に入る血液を拭っていると、何かを破壊する音が耳に届く。異次元にとりが来ていることは考えなくてもわかるが、それよりも握っていたはずのこん棒がどこにもない。

 吹っ飛んでいる最中にこん棒を落としてしまったようだ。近くに落ちていないか見回そうとするが、どこにも落ちていない。使えそうなもので、周囲に唯一あるのは一メートル程度の錆びた鉄パイプだけだ。

 それを拾い上げようと腰を落としたとき、私が壊して出て来た穴を更に大きく壊して異次元にとりが現れる。

 始めに降りて来たときに使用していたスーツを着込んでおり、背中のスラスターから炎を吹かして猛スピードで突っ込んできた。

 首を鉄の手で掴み上げられ、道路を挟んで反対側の家へ背中を叩きつけられた。せっかく拾い上げかけていた鉄パイプを落としてしまい、コンクリートに当たって甲高い金属音を立てる。

 容赦なしの攻撃にまっすぐに立っていた石の壁が瓦解し、小さな物から大きな物まで私の頭や肩に降り注いでくる。

 いくら体を強化していても防げるものには限度があり、皮膚が裂けて服や黄色い髪を赤くにじませた。

「あと三十秒もすれば、さっきのミサイルが落ちてくる。私はこれがあるからいいが、お前はどうする?」

 そう聞いてくるが、どうやら返答を求めているわけではないようだ。首が絞めつけられて返答を返すことができない。

「…っ…」

 彼女の片手で腕を掴むが、一回りも二回りも太くなっている腕を振り払うことは難しい。強い力で握り込まれているから無理にエネルギー弾などで吹っ飛ばすと、頭だけ持っていかれかねない。

「死にたくなかったらさっさと教えてもらおうか、力の手に入れ方をな!」

 私は彼女の手を掴んでいない方の手のひらの近くに、方向を調節した磁力を発生させた。おしゃべりに夢中になっているうちに、さっき取り落とした鉄パイプに磁力を向けた。

 金属の種類にもよるが錆びついて、酸化鉄となってしまっている金属は磁力の影響を受けない。こっちに向かってくるか心配だったが、内部はまだ酸化していない鉄が存在したらしく、音もなく手の方へ飛んできた。

 鉄パイプは磁力の発生している手のひらの前まで来ると、ピタリとコイルの性質を持った魔力くっ付いてその場に静止する。

 流していた電流の性質を持った魔力の供給を止め、自由落下しようとする鉄パイプを握り込んで今度は落とさない。

 視界が狭いらしく、私が鉄パイプを握ったことに気が付かない異次元にとりがまた何かを言おうとした時、魔力で強化した得物を彼女の顔に向けて振り抜いた。

 コンクリートに落とした時以上に、甲高い金属音が耳に届く。金属で覆ったヘルメットをしている異次元にとりは、音が反響してもっと高い音を聞いていることだろう。

 視界外からの一撃に異次元にとりは、握り込んでいた私の首を離した。そこまで長いこと締め付けられていたわけではないから苦しくはなかったが、それでも息を大きく吸い込んで乱れた呼吸を整えた。

 衝撃と音で混乱した異次元にとりの後ろに回り込み、錆びついた鉄パイプでもう一度頭部を殴りつけようと飛び上がった。

 強化した得物を彼女の頭へ上から振り下ろし、さらに混乱させようとするがいつまでたっても金属を殴りつけた衝撃が手に伝わってこない。

 目測を誤ったのかと思ったが、着地してすぐに鉄パイプの先が無くなっていることに気が付いた。流石に錆びた金属では強化していても、真新しい装甲に耐えることはできずに初めの一撃で砕けてしまったようだ。

 元の七割ほどしか残ってないがそれでも使えるため、もう一度異次元にとりを殴りつけようとするが、すでに彼女の体勢は整ってしまっている。

「……くそっ…」

 持ち上げてこっちに向けて伸ばされた金属の靴底が、防御しようとした私の腹部にめり込んだ。体の内側から嫌な音が聞こえて来た時には、すでに異次元にとりの姿は小さくなっていた。

「がはっ……!?」

 木が半分腐った馬車に頭から突っ込み、半壊していたのを全壊させた。それがブレーキとなりさらに硬い壁などにぶつからずに済んだが、ダメージは大きい。

 三十メートル程度離れた場所に居る異次元にとりが、ゆっくりと私に向かって歩いてきている。早く体勢を整えないといけないのに、馬車の木片の中で立ち上がろうとした私は込み上がってきた吐き気を押さえられない。

「ごぼっ…!」

 真っ赤な血液が胃から押し出さて喉を満たす。息の詰まった私の口の中に、溢れて来た生暖かいそれを我慢することなく吐き出した。

 気持ち悪くなるほどに鉄の味や匂いがする。立たないといけないのに、膝がガクガクと笑って立ち上がれない。

 上から振って来るミサイルからも逃げなければならないというのに、私は地面に膝をついている。

 もうすぐ三十秒が立ってしまう。チラリと上を見上げると雲の一部分が弱くはあるが青く光っている。もうすぐそこまで来ている証拠だ。

 地上から雲の高さが約二キロ、どの程度で進んでいるかわからないが、打ち上げた際には十秒程度で雲に隠れた。それよりも早くなっているとして、あと七秒程度でここに落下してくるだろう。

「上が気になるか?私に力をよこすのなら助けてやってもいいぞ?」

 そうくぐもった声で異次元にとりが私に言ってくる。魔力で傷を治癒させ、よたつきながらも立ち上がった。

「そんなの…お断りだぜ…!」

 彼女から逃げるために後方を向いて走り出した。傷はまだ完全には治っておらず、思うように前に進むことが出来ない。

「はっはっはっ…その傷で逃げられると思ってんのか?私から、ミサイルから」

 彼女もスーツを着たまま走り出した。地面のコンクリートを砕き、じりじりと距離を詰めてくる。

「ああ、思ってるぜ…!」

 彼女のいる場所周辺にコイルの性質を持った魔力を散布し、それに強力な電流の性質を持った魔力を通電させた。

 比較的低い場所に磁力を発生させたことで、異次元にとりの着こんでいる金属がその方向へと引き寄せられた。

「うおっ!?」

 膝を付き、磁力の発生している場所に縫い止められた。ミサイルが落ちて来ているため、今すぐにスーツを脱ぐことは無いだろう。そのうちに逃げようとするが、肩にかけているバックが磁力に反応してそっちに引き寄せられる。

 今までは磁力の方向を制限していたから、バックの中にある金属が反応することは無かった。今は方向を調節していない為、異次元にとりの方向に引き寄せられそうになった。

 だいぶ離れているおかげで引き寄せられることは無かったが、それでも逃げるスピードは格段に遅くなる。

 異次元にとりの着ているスーツが磁力に影響されるということは、それと同じ材質であるミサイルも引き寄せられるということだ。

 異次元にとりが縛り付けられている方へ少なからずミサイルは誘導され、そこから逃げられれば爆発をもろに食らうことは無いだろう。

 私はできるだけ離れるため、もつれる足を必死に動かそうとしていると、足に衝撃が走る。何かがぶつかったことは確かであるが、鋭い痛みに足から力が抜けて倒れ込んでしまう。

「くっ…!?」

 足を見てみると、ふくらはぎを見たことのある小さな槍が貫通している。一番初めに異次元にとりが私の肩に縫い付けたアンカーだ。

 磁力で引き寄せられるが、爆発を利用した瞬間的な威力が磁力を上回ったらしく、あと少しで磁界の外に出れるという所で捕まってしまった。

 アンカーには細いワイヤーが繋がっているため、磁力の働いている方へと引っ張られ始める。アンカーが縫いついている私も例外ではなく、その方向に引きずられる。

「くそっ…!」

 丁度すぐ近くに電柱が設置されており、私は引き寄せられないようにそれを掴んだ。金属製の物が全てそれに向かって飛んでいく中で、その力に抗おうとしているが足に刺さったアンカーの返しが肉を抉る痛みに、我慢できずに手を離してしまいそうだ。

 ミサイルが落ちてくる前に、早くこれを―――。

 音は無かった。代わりにあったのは見えない速度で地面にミサイルが衝突した衝撃だった。

 音が無かった理由は至極簡単で、音の速度を超えるスピードが出ているからだ。磁力に影響されたのか私に直撃することなく、三十メートルほど離れている異次元にとりと私を繋ぐワイヤーの真上に降ってきた。

 それはコンクリートをやすやすと砕いて突き進み、ジェットの炎で砕いたコンクリート片を空高く舞い上げる。衝撃は私や異次元にとりにまで地面をつたって伝わり、体が飛び上がった。

 防御の姿勢を取ろうとしたが、次の瞬間には何もわからなくなっていた。

 一つ分かるのはミサイルが爆発した音か、ミサイルが高速で移動していたであろう衝撃波の音。それらが入り混じった轟音が鼓膜を揺るがしたことだけだ。

 




7/27日に投稿したいですが、できない場合は来週のどこかで投稿します。

今回は文字数が多くなってしまい申し訳ございませんでした。次回からはもう少し文字数を減らしていきます。

文字数の割に全く話が進んでいないので、もっとテンポ良くしていきたいです。


誤字等がございましたら言ってやってください。すぐに修正します。
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