東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています!

それでもええで!
という方はだ第百三話をお楽しみください!


東方繋華傷 第百三話 頭部

 ミサイルが落下してから少し時間が経っているが、未だに舞い上がった砂煙は晴れる気配もなく私たちに纏わりついている。

 息を吸い込むと、砂の粒子が舌にこびり付いて砂の独特な味が広がる。一部の粒子は舌に付くことなく喉へと向かい、気管に入り込んでせき込んでしまった。

 上空ならば建物の障害もないため多少なりとも履けているだろうが、建物がたくさん建てられている町の中心ともなればそう簡単には無くなってはくれない。

 この辺りはほとんどの家が崩れてしまって風通しはよくなっているはずだが、その周りにはまだ建物があり、それらが遮ってほぼ無風と変わらない。

 そうなると重力に従って、軽い粒子が自然と地面に落ちて行くのを待つしかない。だが、今戦っている敵は悠長に待ってはくれないだろう。

 できるだけ肺に砂の粒子を入れないように、短い時間で異次元にとりを倒したいところだ。

 取り落としていたこん棒を運よく拾うことが出来たため、スーツを着たまま戦っている異次元にとりに一方的にやられることは無い。

 ゴオッと一気に接近してくる異次元にとりに対して、私はこん棒を横に大きく振り回す。二人とも頭に血が上っており、後先考えない攻撃がとても多い。

 鼓膜を揺るがす鋭い金属音と真っ赤な火花、消費した青い魔力の結晶が得物の接着面から弾けた。

 背中のスラスターから炎を噴射し、空中で立て直すということをすることなく異次元にとりは吹っ飛んでいくと、積み上がった瓦礫やかろうじて残っていた壁の残骸をなぎ倒していく。

 重たいこん棒を振り回していると武器に振り回されてしまうため、得物を振った後は体勢を大きく崩してしまう。

 こん棒を杖にして体を立ち上がらせようとした私に向け、異次元にとりが手に持った瓦礫を投擲してくる。

 私が体勢を立て直す前に投げつけようとしていたらしいが、狙いをつけずに力任せに投げつけたようで、かすりもしない遥か手前に着弾した。

 それでも強化された肉体と機械の力が合わされば、投げつけられた瓦礫や積み上がった瓦礫などが私に向かって飛び散った。

「ぐっ!?」

 体を強化していても飛んでくる瓦礫が鋭く砕けていて、その面が当たれば皮膚を容易く切り裂く。

 顔を守るために上げていた腕にいくつも破片が当たり、防御創を作っていく。すぐにこん棒の後ろにでも隠れれば無傷だったのだが、後手に回ってはいけないと飛礫を食らいながらも攻撃に転じようとしていた私に、異次元にとりが突っ込んできた。

 背中のスラスターを吹かし、肩でタックルして来た異次元にとりによってこん棒を離してしまった。武器を失ってしまったが離していなかったら、慣性が働いて肩が外れてしまっていたかもしれない。

「がっ…ああっ…!?」

 巨大なものに突き飛ばされた運動エネルギーは非常に強く、すぐ後ろに積み上がっていた瓦礫を破壊するほどに吹っ飛ばされた。

 一つ目の山を崩し、二つ目の山に突っ込んだ段階で体の動きは止まったが、中途半端に山を崩していた私の上に大きな瓦礫が雪崩れ込んで埋まってしまう。

 鉄筋コンクリートから飛び出しているねじれ曲がった鉄棒に皮膚を叩かれ、瓦礫片に擦り傷を大量に作らされた。

 異次元にとりは私にタックルした時点で、前方方向に対してスラスターの炎を噴射していた。

 二十メートルの距離をほんの一秒程度で詰めて来る速度だったというのに、通り過ぎることなくすぐ近くに異次元にとりは居る。いつまでも埋まっていると彼女に追撃を貰ってしまう。

 手に余るほどの瓦礫が上に覆いかぶさっているが、辛うじて潰されていない右手に魔力を溜めた。

 それをエネルギー弾へと変換しようとした時、瓦礫の山から足の一部が出ていたらしく、太ももの肉を硬い金属が貫く感触がする。

「あぐっ!?」

 神経を伝ってきた痛みで早く出なければという思いだけが先走り、瓦礫の中でもがこうとするが、重たい岩石をどかすことが出来ない。

 足に打ち込まれていたのはアンカーだったらしく、肉と骨に食い込んでいる金属が引っ張られ始めた。

 いや、引っ張られたのではなく上に向かって持ち上げられたのだ。その力たるや人の足を胴体から引き剥がさんとばかりだ。

 上昇しようとする力は弱まることを知らず、そのまま私のことを瓦礫から引きずり出して上昇していく。

 足に刺さったワイヤーで逆さまに吊り下げられているため、顔を下げて足の先に見える異次元にとりを睨み付けると、青い炎を背中や足から噴射している。

 顔を上げて地面の方を見ると既に百メートル以上上昇しているようで、街の中央に見えるミサイルが空けたと思われる穴も、みるみるうちに小さくなっていく。

「いい加減……離しやがれ!」

 私は体を強化し上体を持ち上げた。思ったよりも速い速度で異次元にとりが移動しているせいで風の抵抗が強い。

 アンカーから伸びているワイヤーをレーザーで切断しようとする。だが私が上体を持ち上げたことで、アンカーを支えていた肉へかかる負荷が増え、アンカーにある返しが足の肉を裂いて引き抜けた。

「ぐっ…!?」

 過程は置いて結果的には、異次元にとりから逃げることが出来た。魔力を調節し、上昇しようとする体を地面に向かって落ちさせる。

 アンカーが抜けるのに時間がかかってしまったため、地上から大体300メートル程度の高さまで上昇してしまっていたようだ。

 そのまま地上まで逃げたいところだったが、腕にかかっていた人間一人の重量が無くなれば、気が付かないわけがない。

 私が離れた途端にスラスターから放たれる炎の方向を調節し、方向転換して彼女も下降を開始した。

 魔力もなくただ単純に落ちているだけならば、地球上では重さに関係なく同程度の大きさであれば同じ速度で落下していく。だが、そこに物体が受ける空気の抵抗やそれ自体の推進力が関われば結果は大きく変化する。

 私は異次元にとりと同じように、後方へ魔力を放出している推進力で地上へと向かっているが、彼女と違って私は生身であるためその速度には限度という物がある。

 それに対して異次元にとりは、金属のスーツで全身を覆っていて空気の影響を肉体的にはほとんど受けない。出力を関係なく上げている彼女に、私は地上まで後80メートル程度のところで掴みかけられた。

 血で真っ赤に染まっている足を異次元にとりに掴まれかけた。体を捻って横に避けることが出来たが、早く動き回れる分だけ空中では向こうの方が有利だ。次はわからない。

 異次元にとりの掴みかかって来る行動を横にかわしたため、今は少し距離が離れているが一気に距離を詰めてくる。

 地上まであと50メートル程度だが、速度を緩めることをしないところを見ると、ここで捕まえる気らしい。大きな手を広げ、異次元にとりが接近して来た。

 アンカーを撃ってこないのは、自分が動いていて私も動いているから、その偏差を付けるのが難しいからだろう。

 異次元にとりの大きな手で捕まえられる直前に、私は魔力を調節して向かっていた方向に魔力を放出した。逆噴射を行ったことで体に強い負荷がかかるが、骨が折れたり内臓が潰れるほどではない。

 減速したことで、斜め後ろで私に向かって加速し続けていた異次元にとりが私の前方に躍り出た。彼女の手は虚空を握っており、表情はヘルメットで見えないが何が起こったかわからないようだ。

 その彼女へ向け、手に溜めて置いたエネルギー弾をぶっ放した。いつも遠距離から援護しているため、そういった偏差を付けるのは得意だ。

 それでも異次元にとりに放ったエネルギー弾は胴体から外れそうになったが、彼女の伸ばしていた手に直撃して小さくはじけた。

 小さな弾幕の見た目以上に保有しているエネルギーは多い。腕に弾幕を浴びた異次元にとりは、体のバランスを大きく崩して地上まで一直線に落下した。

 腕の耐久能力をエネルギー弾の爆発が上回ったらしく、真っ赤な鮮血を断面から噴き出して彼女の右腕が胴体から引きちぎれる。

 エネルギーの大部分が腕に移ったことで、金属のスーツごと右腕が瓦礫やコンクリートを押しのけて地面に叩きつけられた。

 速度も相まってスーツはひしゃげ、中の腕はぐちゃぐちゃに潰れてしまったようで、装甲の間から血液が漏れ出しているのが遠目から見てもわかる。

 始めに地面に落ちたのは腕だったが、胴体の方も背中のスラスターで加速していたのがあり、腕と大差ない時間差で地表に大きな大穴をあけた。

 私は減速したまま異次元にとりの落ちた場所から、少し離れた瓦礫の上に着地した。足場が悪く、瓦礫の山が崩れて倒れ込みそうになったが、別の山に移って持ち直した。

 異次元にとりが落ちる直前に、スラスターで地面の方向へむけて炎を噴射していたらしい。腕のように潰れることは無かったようだが落ちたダメージは相当受けたようで、中々自分で開けた穴からはい出てこようとはしない。

 直径はミサイルによる物の十分の一程度だが、爆発物ではない物が空けたと考えれば大きな穴だ。

 倒れ込んでいる異次元にとりは私が瓦礫の山を飛び移ってからしばらくして、ゆっくりとその体を起こして這い出てきた。

「ぐっ……」

 新品で太陽の光を反射する程度に綺麗だったスーツは、擦り傷や歪みや砂汚れなどによって今では酷い有様だ。

 ヘルメットや胸の装甲部分が大きく凹んでいたり、砕けて内部の異次元にとりの体がのぞいている部分がある。着地も上手く行かなかったようで、先に落ちた右足の装甲が膝のあたりまでぐちゃぐちゃに歪んで潰れている。

 スーツの隙間や亀裂の間から異次元にとりの血液が垂れ、掘り返されて茶色い土を赤く染めていく。

「くそが…!やって…くれたなぁ…!」

 ヘルメットのせいで異次元にとりのくぐもった声が聞こえてくる。片足と片腕を失っているため、きちんと立つことが出来ないでいる彼女は叫んでいるが、強がっているようにしか見えない。

 この状況ではどちらが有利など第三者が見れば、明らかであろう。

 異次元にとりが握った左手を私の方に向け、装甲に隠されていたアンカーを発射した。しかし、彼女は右利きのようで慣れていない手で放ったアンカーは、私の体二つ分ほど右側を通り過ぎて行った。

 これ以上抵抗されて攻勢が逆転すると困る。私は立とうとしている異次元にとりの足元に転がっている石ころに魔力を含ませた。

 強力なコイルの性質を持った魔力に、非常に強い電流を流した。磁力が発生したことで、異次元にとりがその石ころめがけて体を倒れ込ませた。

「ぐあっ!?」

 いきなり磁力で地面に縫い付けられたことで、彼女は驚いた声を上げる。体の一部を欠損していてろくに抵抗できないようだ。

 これをしたのは彼女をこの場に縫い付けておくためではなく、殺すためだから安心してほしい。このまま逃げたりはしない。

 倒れ込んだ彼女に向かって、そこら中に転がっている鉄筋コンクリートが殺到していく。

「やめろ!やめろぉぉぉぉぉっ!」

 私がしようとしていることを察したようで、異次元にとりのくぐもった絶叫が聞こえてくる。私がしようとしているのは、基地で他の河童たちにやったことと同じだ。

 総重量が数百キロにも、数トンにもなる大量の瓦礫が異次元にとりの上へのしかかり、彼女の下にある磁力を発生させている石に向かって、できるだけ近づこうとしている。

 ギギギと金属が歪み、擦れる不快な音が二十メートルほど離れている私の耳に届く。そして、それらをかき消して異次元にとりの絶叫が響き渡った。

 ぐしゃりと金属よりも柔らかい物体が潰れる音が鳴ると、それを境に怒号が入り混じった金切り声が短く上がり、それ以降彼女が声を出すことは無かった。

 瓦礫の山に埋もれて潰れていく様子を直視することにならなくてよかった。気分が悪くなって今後の戦闘に支障をきたしそうだ。

 さて、これからどうするか。取り落としていたこん棒が近くに落ちていたため、発生している磁力を無くし、内部にある棒の形状となっている物質を元の正方形の形へと戻した。

 こいつらに異次元霊夢の居場所を聞く予定だったのだが、抵抗が思ったよりも激しかったから全員殺してしまった。

 また河童たちのいる基地に戻るのも面倒だし、他の場所に向かうとしよう。しかし、どこに行くか。

 どこに行くか悩んでいると、ポーチの中から聞きなれた女性の声が聞こえて来た。

 

 

 紅魔館を飛びだしてからすぐ、私はその足を止めることになった。さっきまでは館を囲んでいた壁だが、爆風で崩れたようだ。

 その積もった瓦礫で彼女のことが見えていなかったが、位置が変わったことでその陰から近づいていた人物の姿を発見することが出来た。

 切りそろえられて全く色のない白色の髪、緑色の洋服に身を包み、腰には二本の刀が下げられている。髪と全く同じ色の人魂が彼女の周りを浮遊している。

 何も考えずに見ただけなら魂魄妖夢と間違えていたが、何かが洋服に飛び散り、乾いて黒い染みになっているのはおそらく血だろう。

 彼女の方向から太陽の光で温められた生暖かい風が吹いてくるが、それに血の匂いが含まれている。

 十数メートル離れているが、それでもこれだけ漂っているということは、かなり返り血を浴びているということだろうか。

 黙っていれば美人のその顔にも血がこびりついていた痕が薄っすらと残っており、彼女の瞳には頭のいかれた狂人の色が宿っている。

 よく見ると喉元から顎、右目の下にかけて古傷のようなものがあり、それが妖夢ではないと決定づけた。

「…私たちを殺しにでも来たのかしら?」

 私が黙ったまま、少し驚いた表情をしている異次元妖夢にそう問いただした。夏だというのに長袖を着ている彼女の袖や手には、茶色くなりかけている血がべっとりと付着していて、さっき何かを殺してきたのだろうということを推測させた。

「いや、それよりも何でここにいる?」

 頭をかいて小さくため息を付いた彼女は、しゃがれた声で私に向かってそうたずねて来る。

 首の傷の影響なのか、その容姿には似合わない声だ。八十代のお爺さんやお婆さんでもここまでの声は出ないだろう。

 彼女の問いからどうやらこっちの霊夢たちが紅魔館を移動することは、聞かされていなかったようだ。

 いつから移動していたのかは知らないが、おそらく私たちが紅魔館に向かっていたことが原因だったのだろう。彼女たちの予定では紅魔館から移動することは無かったようだ。

「…それよりも、あんたは自分のことを心配したらどうかしら?」

 異次元妖夢にそう言うと、彼女はそれもそうかと腰に提げている刀を鞘から抜き取って、太陽光の反射で輝くその刀を彼女は片手で構えた。

 武術の錬度的にはおそらく向こうの方が上だろう。特殊な能力がない分だけ、剣術に長けている。油断することも、気を抜くこともできない。お祓い棒を握っていると、後方から誰かがこちらに走って来る。

「霊夢さん!私も戦います!」

 声からして妖夢だ。刀を鞘から引き抜き、勢いよく地面を蹴って走ってくる音が聞こえてくるが、その音はなぜか次第に弱まって遅くなっていく。

 ついには私の元に来る前に妖夢は立ち止まってしまったようで、足音が聞こえてこなくなった。

「…妖夢…?」

 異次元妖夢に警戒しつつ後ろに立っている彼女を肩越しに見ると、刀を抜いているのはそうだが、表情や瞳に闘志がない。呆然と私の先にいる異次元妖夢を見つめている。

「それ…は………」

 ようやく絞り出した彼女の声は酷く弱々しく、かすれている。握っている観楼剣を落としてしまいそうなほど、手には力が籠っていない。

「ああ、これ?」

 異次元妖夢は反応を見るや嬉しそうな表情をし、刀を持っていない方の手に握っていたそれをこちらに見えるように掲げた。

 血まみれ姿の容姿ばかりに目がいって気が付かなかったが、彼女の手に握られていたのはピンク色の布に見えた。

 そう見えたのは、私が現実逃避をしていたからだろうか。布ではなく大量の繊維が伸びていて、風によってそれぞれが独立して動いているのは髪の毛だ。その間から見えているのはやや白っぽい肌の色で、それが頭部であることを指していた。

 風で揺れる髪の間からは光の失った瞳が見え隠れし、だらしなく開いた口からは真っ赤な血が零れている。本来は胴体に繋がっているはずの首は半ばから綺麗に切断されており、血は垂れてはいないが相当な出血があったであろう血痕が首元にこびり付いている。

「…っ!」

 生唾を飲み込んだ私は、異次元妖夢を囲む異様な雰囲気に飲み込まれつつあった。今この状況で走り出されたらすぐには反応できず、戦闘体勢に戻ることも難しいだろう。

「欲しいなら上げるわよ?」

 彼女はそう笑って、手に持っていた妖夢の主である西行寺幽々子だった頭を放り投げた。弧を描いて回転して飛んでいく頭部は、私を超えて後ろにいる妖夢の胸に当たった。

 彼女は呆然としていながらも主の頭を抱えることには頭が働いたらしく、差し出した両手で幽々子の頭部を抱えた。

「……」

 刀を手から落とすと、地面に転がっていた瓦礫片に当たって軽い金属音を鳴らした。体から力が抜けた妖夢は膝をがっくりと落として座り込んでしまう。

 この状況では妖夢の援護は受けられそうにない。動揺はしているが、頭を切り替えて異次元妖夢に対峙する。

 私がここで引けば彼女に妖夢を殺されてしまう。絶対に引くわけにはいかない。頭の中の雑念を振り払って、先に走り出した。

 異次元妖夢も待っていましたと言わんばかりに刀を両手で構え、走り出す。圧倒的な速度で私の倍以上も走り、観楼剣を振るう。

 やはり剣術を使う程度の能力は伊達ではなく、彼女の振るう剣先が全く見えない。腕の方向などから刀のおおよその角度を算出し、そこにお祓い棒を配置して受け流した。

 魔力を削られた青い火の粉がお祓い棒からパッと咲いた。今度は私が強化したお祓い棒を異次元妖夢に叩き込む。

 だが、お互いに隙を見せないように大振りの攻撃を避けているため、簡単にお祓い棒を刀で受け止められた。

 異次元妖夢がお祓い棒を弾き、そのまま攻撃に転じようとしてくる。私は弾かれた反動を使って後ろに下がりつつ、お祓い棒を振るう準備を整えた。

 お祓い棒と観楼剣が打ち合わさり、鍔迫り合いとなる。接近して分かったが彼女からは、普通の人間が生涯で漂わせることは無いほど強い血の匂いを放っている。

 おそらくこの匂いは、幽々子を殺したときの返り血だ。何をしたのかは知らないが、どれだけ酷いやり方をすればこんなことになるのだろうか。

 腕に力を込め、観楼剣を弾き飛ばした。異次元妖夢が大きくバランスを後ろに崩していくが、身体強化されている彼女の足が薙ぎ払われ、私の脇腹にめり込んだ。

 嫌に大げさな体勢で後ろに倒れるかと思ったが、こういうことか。皮膚に点在する痛点が刺激を神経を通して、脳へと痛みを送り付けたらしく危うく痛みで膝をつくところだった。

 体内で内臓が揺れているのがわかり、バランスを崩したのは私の方だった。蹴られたわき腹を押さえながらも、異次元妖夢に攻撃されないようにお祓い棒を構えようとするが、彼女はすでに立て直して私の目の前に立っていた。

 私の顔を覗き込んでいる彼女の笑っている表情に、全身に鳥肌が立つ。それでも攻撃しようと、お祓い棒を振るう私の横を異次元妖夢は通り過ぎた。

 狙いは始めから妖夢だったようで、未だに呆然と座っている彼女へ向けて異次元妖夢は一直線に走っていく。

「妖夢!!」

 お祓い棒を振るってしまった分だけ次の行動に移るラグがあり、妖夢に接近を許してしまった。

 彼女は大きく観楼剣を振り上げ、私の声にも反応を示さない妖夢を殺すためにその得物を薙いだ。

 

 

 

 急いでいるのか私に情報を話した後、すぐに妖精メイドが部屋を出て行ったのを見計らってから私は魔理沙に声をかけた。

「魔理沙、今の爆発は貴方の仕業かしら?」

 さっきの爆発が起こってからしばらく返信が無かったが、もう一度声をかけてみると疲れが混じった魔理沙の声が帰って来る。

『ああ、正確には私ではないが…それはさせたな』

「連絡で来ているということは、無事だと判断するけど…何があったのかしら?」

『こっちのにとりと戦っただけだぜ。にとりは殺したから…ああいった爆発が起こることは、多分もうないから安心してくれ』

 淡々と彼女はそう言うが、今殺したと言ったのだろうか。自分が殺されかけているというのに、相手を殺せなかった彼女が?

 それは本当かどうか聞きたかったが、今はそんなことを問う時間ではない。妖精メイドが街に霊夢が向かうということを聞いてから大分時間が経った。距離的にまだ到着はしていないだろうが、時間の問題だろう。

「霊夢がそっちに向かったと聞いたから、まだ会ってないなら逃げなさい」

「そうか、そうさせてもらうぜ」

 そこまで時間が経っていないはずだが、彼女の声は最後に話したときと比べてだいぶ口調が変わっているように感じる。

 魔理沙はそう言うと早々と通信を終了してしまう。今はこんな状況だから悠長に聞いている暇はないのだが、その調子で本当に大丈夫なのだろうか。

 私は魔理沙が心配になるが、今は目の前のことに集中しよう。霊夢が街に向かったそうだし、向かうとしよう。

 直ぐに移動しようとするが、この館の敷地内から戦闘音が聞こえて来た。誰かが攻め込んできたようだが、様々なことが重なって目が回りそうだ。

 私はため息を付きながら霊夢を追うために、割れた窓から身を乗り出した。

 




次は8/3に投稿する予定です。

出来なさそうな場合はここに書き込みます。


前回が長かったので、今回は短めです。
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