東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
という方は第百十一話をお楽しみください!!


今回はあまり進みません。

次がいつになるかわかりませんが、投稿する際にはここの後書きに投稿する日にちを書きます。


東方繋華傷 第百十一話 夢の中

「………」

 身体の大部分を人形へ変えていたとしても、体内を流れている体液は真っ赤のようだ。先ほどまで脈打っていた生暖かい筋肉の塊は、潰れて組織を障害されたことで、自身の力で拍動する力を持っていはいない。

 心室内にあった血と、表面を走る血管内に滞っていた血が、潰した際にかかった圧力に耐えきれず、肉を引き裂いて外に弾け出した結果、手や服、頬に飛び散ってしまっている。

 汚れていない肩部の服で、頬に飛び散っている返り血を拭い取った。ひしゃげて未だに血の滴っている心臓を、横たわっている異次元アリスの方へと投げ捨てた。

 胸部の服が裂けており、露出している皮膚は金属が使われているため、肌に亀裂が走っているように見える。

 その金属には当然血が通っているわけではない。皮膚から血が溢れてはいないが、砕かれた部分から内部の臓器が損傷し、それらから血液が流れ出ている。

 歪んだ円形ではあるが、砕けて穴の開いた部分からは血液以外にも、投げ捨てた臓器を引きずり出す際について来た、動脈と静脈が二本並んで飛び出ている。

 作り物の瞳を開いたまま、絶命している異次元アリスの頬へ心臓が落ちると、べちゃりと水気の強い嫌な音を立てる。

 表面に残っていた血液は皮膚に当たると、スタンプのようにその痕をつけた。

 頬に当たった心臓はそこに留まることなく、ずるりと頬から滑り落ちると地面に転がり落ちる。

 乾いた砂が血で濡れている筋肉の表面にこびり付いている。最も大事と言える臓器を破壊したから、彼女が起き上がって来ることは絶対にない。だが、こっちの連中は頭のねじがいくつも外れているから何をしてくるかわからない。

 徹底的に処理しなければならない。手元に魔力を溜め、それに炎の性質を含ませた。横たわって四肢を弛緩させている異次元アリスへ放射した。

 魔力から変換されたオレンジ色の炎が、手のひらの上から膨れ上がって迸り、無防備の彼女を包み込んだ。

 着込んでいる服や手足の布、胴体部分では人体に元からある脂が薪の役割を果たし、良く燃える。女性は特に脂質が多く、燃え残ることは無いだろう。

 布などの無機物が焦げる匂いと、生物等の有機物が焼ける香ばしい匂いが辺りに満ち始めた。

 水分が多い物を焼いているからか、薪の延焼部分から炎の上の方へ視線を移すと、空気の流れによってゆらゆら揺れる炎と透明の空気中の境目から、白色の煙が立ち込める。

 これだけやれば彼女もこれで終わりだろう。黒く炭化していく彼女を見守ることなく、私は背を向けて歩き出した。

「……」

 人形の一撃が私に当たっていれば、燃やされることは無くても中身を引きずり出されて人形にされていたことだろう。

 彼女の敗因は、私に貫かれた右目を修復しなかったことだと推測できる。頭を貫いたとき、私は片眼に刀を抉り込ませていたが、それを途中で治すことなく戦っていて、最後の最後で目測を誤った。

 片目を閉じれば目測が正確につけられないのは、みんな知っているだろう。彼女はそれを甘く見たのだ。

 片目で何か作業をすれば手元でも狂うことがあるのに、それが数メートル先となれば更に大きくなるだろう。最後に巨大な上海人形が攻撃を外したのは、それが原因だ。

 私が今もこうして戦っていられるのは、永琳がくれた義眼のおかげだ。そうでなかったら、何度死んでいたかわからない。

 手に持ったままの刀に元のブロック状に戻るように魔力で命令を与えると、切先から粒子状化して手の上へ正六面体の金属が出来上がった。

 それをしまおうと肩から下げていたバックの口を開けた。予備の服や咲夜の銀ナイフにあまり干渉しない位置に詰め込もうとすると、ナイフ以外の金属の光が見えた。

「?」

 それを摘まんで拾い上げると、一センチまではいかないが七ミリ程度の大きさがある正円の球体だ。

 金属のそれは、私自身が入れた覚えはない。そうなるといつバックに入ったのか気になるり、頭を捻っていたがすぐに思い当たる。

 こうして正確な球状に加工された金属となれば、すぐに思い当たる。河童たちが使用していた銃の弾丸だ。

 ショットガンで使われていた散弾のうちの一発だ。魔力の壁でガードしていたりしたが、そうしているうちにバックに入ってしまっていたようだ。どこかで捨てるとしよう。

「……」

 近くで妖夢たちが闘っているのが見えたから参戦したのだが、これからどこに向かうか。異次元霊夢達は異次元咲夜達と手を組んでいるため、彼女たちが関係した場所に居るだろう。

 博麗神社と紅魔館にはいなかった。ならば異次元早苗が住んでいる守矢神社へ向かってみるとしよう。

 魔力を作用させて不足した血液を補充したことで、頭痛等の貧血から来る具合の悪さは無くなった。

 戦闘をしているわけでもないので、身体強化を歩きながら解くと、今まで誤魔化してきていた疲労感が一気に押し寄せて来る。

 海で大きな波に飲み込まれる様に全身を疲労感と、それから来る脱力感が頭から足の指先に至るまで覆いかぶさった。

「っ!?」

 石や木の根っこに足をぶつけたりひっかけたりしたわけではなかったが、もつれてしまって危うく顔を地面にぶつけるところだった。

「っ……くっ……」

 蓄積した疲労がついに限界を迎えたのか、足を持ち上げようとしても足が痙攣して言うことを聞いてくれない。

 腕の力で前進しようとするが、自分にはそもそもそれをできるだけの腕力がなく、強い倦怠感で握力もほとんどなくなっているようで、土を掴むことすらできなくなっている。

 こうして押し殺されていた疲労を受け入れてしまうと、感じていなかった分だけ爆発的に疲弊が体を支配する。

 身体強化でそれを打ち消そうとするが、その時には疲労感から生み出された睡眠欲が頭の中を埋め尽くしていた。

 脳が休息を欲し、私の意志に反して受け入れが進んでいく。腕で体を支えていたが、力が抜けて倒れ込んでしまった。

 こんな場所で気を失うわけにはいかないのに、瞼が重い。意識が薄れ、視界がぼやけて暗転していく。

 隙を晒す以上は隠れていたい思いもあるが、私には睡眠欲に対して抵抗することが出来なかった。

 何分か時間が経過すると、倒れ込んでいる女性から安定した呼吸がし始める。疲れた体を休める睡眠を行って、しばらく時間が経過したころ一人の足音が彼女に近づいていた。

 

 

 

 頭を冷やすことができ、私は河童たちが集まっている方へ向かって歩く。いつまでも舞い上がっていた砂煙も、ようやく風や重力によって飛んで行ったり地面に落ちて、息を吸い込んでも砂臭さはほとんどなくなって来た。

 コンクリートに覆われている地面を見ると、砂が雪のように表面に薄っすらと積もっている。

 地面を靴でなぞると、靴底が積もった砂を押しのけて砂に芸術性の欠片もない線が描かれる。

 視界もだいぶクリアになり、数十メートル先にあった、巨大な円状の瓦礫も目を凝らさなくても見える。

 私が離れた時以上の天狗や河童たちが集まっている。人数を増やして作業の効率を図っているようだ。

 しかし、あの人数が未だに忙しそうに走り回っているということは、中で潰れて死んでいた人物は掘り出せていないらしい。そこに歩み寄り、作業している天狗に話しかけた。

「…作業は進んでる?」

「霊夢さん。作業的にはまずまずですね……でも、にとりじゃないかって話になっています」

 ここまで徹底的に殺されているから、特に技術力に秀でているにとりではないかとある程度予想はしていたが、天狗にその根拠を聞いてみることにした。

「…それはどうして?」

「他の河童と違って、装備がいいんですよ」

「…どんな風に違うの?」

 彼女に連れられて瓦礫の山の近くに歩いて行くと、掘り出された歪んだ鉄筋が辺りに散乱してる。

 それらとは明らかに質感や材質の違う金属の塊がいくつか並べられている。大部分は手のひらに乗る程度のサイズだが、一つだけ抱えなければ持てなそうな大きさの破片がある。

 何かのステッキのようにも見えるが、短い辺は十センチ程で、長い辺は三十センチはある。長い辺の先には五股に分かれている。

「…」

 ステッキだと思っていたが、異様に太いそれは腕で、五股に分かれた先というのは指だったようだ。

 手のついている方とは反対側は刀で切断したらしく、断面には千切った様子はない。ピンク色の肉と白色の骨が覗いており、地面には漏れ出した血液が小さな池を作り出している。

 生々しいその断面から視線を外し、手の方へと回り込んだ。確かに他の河童たちが着ていたような装備とは違う。

 他の河童たちの手を覆っていた部分は、もっと装甲が薄そうなイメージがあったのだが、それは間違っていないだろう。

 棘で貫かれていた河童たちの腕はここまで太くはなかった。この腕を覆っている装甲によって一回りか二回りは大きく見えているとしても、かなりいい装備を着ている。

 落ちている腕の指に手を伸ばして軽く触れた。正直なところ機械については全くど素人であるが、それでもこれは作り込まれているのがわかる。

 鎧等を作ると、どうしても金属で覆えない部分というのが出てくる。それがこの手にはないのだ。

「…それじゃあ、他にこれ以上の有力そうな情報はあった?」

「いえ、これからです。損傷が激しいのと…鉄筋の重さ等が関係して中々掘り進められないんです」

「…わかったわ」

 もう少し確定的な情報が欲しかったのだが、これ以上ここに留まるわけにはいかない。街の中央に大穴を開けた爆発が目印となり、他の連中が集まって来ると困る。

 おそらく先ほど現れた異次元映姫たちも、私と同様にそれに呼び寄せられたのだろう。そう言った奴らと鉢合わせし続けていたら、体が持たない。

「…でも、これ以上ここに留まると他の奴らが来る可能性があるから、五分以内に移動する準備をしておいて」

「そう、ですね……さっきは被害を押さえられましたけど、ここに来るのが情報源になるとは限りませんからね」

 彼女が周りを見回す。その先には異次元映姫との戦いで負った怪我を治療している者たちがいる。

「…ええ、当初の目的はここだったし…とりあえず皆をここに集めてくれないかしら」

「わかりました」

 彼女はそう言うと他の仲間数人に声をかけ、あちらこちらへと飛んでいく。これだけの時間が経過しているわけだから、姿が見えなくても萃香たちも到着していることだろう。

 前回ここに来た時には情報を得られずに紅魔館に向かったため、行く場所を考えなくてもよかったが、今回は慎重に選ばなければならない。

 河童たちがかなりの数あの魔女に殺されたことで、彼女たちは手薄であるのだろうが、どの方向から来たかわからないから向かうこともできなさそうだ。

「霊夢さん」

 もし異次元霊夢達がそこにいた時はどう対処するか考えていると、すぐ近くから声をかけられる。

「…へ?…何かしら?」

 下に傾いていた顔を上げると、洞窟のように穴が掘られた瓦礫の中から返り血でまみれてている天狗が這い出て来た。

「確証を取れるもの…ありましたよ」

 這い出て来た彼女はだいぶ荒っぽく作業していたようで、頬などに飛び散っていた血を服の裾で拭っている。

「…何を見つけたのかしら?」

「これです」

 彼女は私に血で汚れた硬い紙のようなものを手渡してくる。厚さは二ミリほどで、長方形のカードだ。

 質感的にそれは紙が使われているわけではなく、プラスチックが使われているようだ。短片は三センチ、長辺は4.5センチはありそうだ。

 強い圧力がかかってかなりグニャグニャに歪んでいる。何の用途に使われるのかは血が大量に付着していてわからないが、手に取って指で血を拭い取ってみると絵が現れる。

 よく見るとそれは絵ではなく、カメラで撮影したものを現像してできた写真のようだ。

 張り付けただけでは、剥がれてしまう。それを防ぐ対策なのか、写真は透明なカード内部に埋め込まれている。

 どうやったのかはわからないが、カードを二枚用意してそれで写真を挟み込んでいるわけではなさそうだ。そう言ったところから彼女たちの技術力の高さがわかる。

 まだ写真全体が見えているわけではない為、指でさらに血を拭い取ると女性の顔写真であることに気が付いた。

 その人物は、こちらのにとりと全く同じ顔つきをしている。青色の髪に緑色の帽子を被っていいる。

 表情のない顔ではあるがどこか自信ありげで、髪の毛と同じ青色の瞳がじっとこちらを見つめている。

「…その下にいる人物からこれが取れたのよね?」

「そうです」

 彼女は血の匂いが嫌なのか、できるだけ血をふき取ろうとしながら私に返事を返す。鼻がいい分だけちょっと血を拭った程度では意味があまりなさそうだが、ちょっとでもマシにはなるのだろう。

 これで確証は取れた。異次元にとりは死亡し、街に何人来ていたかわからないが、河童たちも死んでいる。

 着込んでいた装備がどれだけあるかわからないが、かなり手薄な可能性がある。次に行く場所は河童達のいる場所でよさそうだ。

「…ありがとう、移動するからあなたも準備して」

「ええ」

 彼女はそう言うと、私から離れてほかの鴉天狗たちと合流していった。

「…」

 異次元霊夢のいる可能性がある博麗神社などに向かうわけでもないし、紫も反対することは無いだろう。

 そうして彼女たちが来るのを待っていると、五分は経たないがそれなりに時間が経過すると大部分が集まった。

 井戸のところで会ってからどこに行ったのかはわからないが、紫はまだ来られそうにないようで、姿は見られない。

 フランたちも手掛かりが無くなったことで、情報集めするついでに異次元咲夜を探そうとしているようだ。

 集まった人物たちを眺めていたが、ふと誰かが足りないことに気が付いた。これだけ人が集まっているというのに、静かすぎるのだ。小さな子供たちの姿が見えない。

 他のメンバーも欠けてはいないようだが、チルノたちの姿が見られない。あの子たちの身長は低いから天狗たちに遮られて見えなくなっているのかと思ったが、見る位置を変えてもやはり姿は無い。

「…チルノたちは?」

 私が彼女たちにそう問いかけると、それぞれが周りを見回して小さな妖精たちの姿を探す。

「こちらに来ているものだと思っていましたが…」

 紅魔館内にいる妖怪たちを街へ向かわせるために、走り回っていたであろう天狗たちがそう語る。

「…見落としてるってことはない?」

「多分ないと思います。結構な大人数で探してたので…」

「…それじゃあ、こっちの街で見落としてるってことは?」

「それもないと思います…」

 そうなるとこちらに来る過程か、もしくは私たちが紅魔館を探索している間に居なくなったということになる。

 紅魔館に乗り込む際には居たはずだから、やはり探索中かこちらの街に来る間ということになる。

「…なら、どこに行ったか知ってる人はいる?」

 私がそう聞くが、手を上げる者はいない。街に向かうまでに深い森等の障害物は無い。そこで誰にも見つからずに姿を消すのは難しいだろう。

 となれば、私たちが探索中に居なくなったということだ。しかし、わざわざ離れる行為をするのはなぜだろうか。

 この状態でチルノたちが誰かに連れ去られた可能性は低い。敵が現れたとして、交戦的に前に出るのはおそらくチルノだ。移動する能力に特化している大妖精が近くにいるはずだから、誰かしらには知らせるはずだ。

 それができない状態となれば、チルノが何かを見つけたか単純に単独行動をしようと無理に進んだのを止めようとして、そのうちに戻れなくなってしまったのだろう。

 チルノとまとまって行動している妖精、妖怪たちが全員いないということは、皆それについて行ってしまったのだろう。ああ見えても、チルノは妖精の中ではトップを争うレベルで強い。彼女を引き留められないのもうなづけるな。

 それとももっと別の理由があるのかはわからないが、それがわかったとしても、どうするか悩む。彼女たちが向かった方向は、白狼天狗たちにかかればすぐに見つかるだろう。チルノが勝手に一人で歩き出したのであれば危険性は高くはないが、低くはない。

 問題なのは何かを見つけてそれに向かって行った場合だ。彼女たちが戻ってくれなくなるほどに距離が離れているということは、それが動く物体だということだ。チルノたちをおびき寄せるための罠だとすると、彼女たちがいないことに気が付いた私たちが探しに来るのを、どこかで待ち伏せする可能性も捨てきれないのだ。

「…」

 だからといって、彼女たちを見捨てるわけにもいかない。となると誰を探索に向かわせようか。

「あいつらを探しに行こうとしているなら、それは必要ないんじゃないか?」

 私が頭を悩ませていると、腕を組んでどうするか悩んでいた私に萃香がばっさりと言い放つ。

「…見捨てろってことかしら?」

「違う。神社では…あいつは自分の明確な意思があって集まっていた。だから、それができなくなるような行動は、下手には取らないんじゃないか?」

 別行動したのはあくまでも彼女の意志である、と言いたいらしい。しかし、そうでなかった場合は本当に見捨てることになってしまう。うんとうなづくことができずにいると、彼女が続けて口を開く。

「あいつは確かにバカだが、間抜けじゃない。目的があるのにそれを損なうように、こっちの世界で誰彼構わず喧嘩を売ることはしないはずだ。今回に限ってはな」

「…そうね……それでもちょっと心配なのよね」

 確かに神社を出る際のチルノはいつもよりも違う目つきをしていたが、萃香の言う通り彼女自身の目的のために動いたのか、情報がないから憶測の域を出ずわからない。

「大丈夫だよ。あいつらの中には大妖精がいるし、恐怖で自分の能力を忘れてなきゃ、逃げ切れる」

 恐怖で忘れてしまっていれば、それは逃げることができないということにもなるのだが、その辺りはどうなのだろうか。

「霊夢よ、あいつらは自分の意思でここに来た。別行動をとるのは自己責任だ。そこで何かあっても自分の尻は自分で拭うしかない」

 冷たい言い方だがそれが合っている。神社の時点で行かない提案をしたが、彼女はそれを除けてついて来た。

 みんなの命を任せられている立場からすれば、最後まで面倒を見なければならないが、萃香の言った通りならば探しに行く必要はない。

「…せめて一言欲しかったわね。…まあ、わかったわ…とりあえず私たちは河童たちのいる場所に向かうとしましょう」

 妖怪たちにじっと見守られている中、私はそう提案する。彼女たちを見捨ててしまったかもしれないという不安感もあるが、ここは戦場だ。自分の身は自分で守ってもらうことにしよう。

「…河童のいる集落に向かうと言ったけど、彼女らが来た方向がわかる人はいる?」

 街の中は爆発の影響で、ほとんどの戦闘痕が吹っ飛んでしまった。かろうじて残っていたとしても、街の中では縦横武人に動きまわっていたことが推測できるから、探し出すのは非常に難しい。

 私の思っていた通り、先の戦闘痕を調べている時は何があったのかということにしか目を向けておらず、どこから来たという部分については調べていない。わかる者はいないだろう。

 またそこから調べ直しになりそうだと、小さくため息を付いていると聞いたことのある声が聞こえて来た。

「霊夢さん!それなら来る途中、街の外で河童と思わしき人物が倒れているのを見た気がします」

 そう言って天狗たちの合間から下駄をカラカラと鳴らして出て来たのは、いつもカメラと小さめの手帖を所持している文だ。彼女はかなり目がいいから、おそらく見間違いは無いだろう。

「…その方向は?」

「向こうだったと思います!」

 彼女が指を指した方向は、確か河童たちが串刺しになっていた方面だったはずだ。街の中央方向に河童たちが向いていたが、そう言うことか。

「…それじゃあ、向かいましょうか」

 私たちは文が示した方向に歩みを進めることとした。

 異次元映姫たちと戦闘にはなったが、異次元にとりが殺されていたという事実が分かっただけでも収穫はあった。

 彼女たちがまっすぐに街を目指していたことが前提となるが、それは調べてからにしよう。

 体を魔力で浮き上がらせ、未だに辛うじて建っている民家の屋根を超えると、地上に立っていた時よりも暑さと、砂臭さが薄れる。

 瓦礫が乗っていたり穴が開いている屋根を見下ろすと、緩やかに弧を描いている大通りが目に入る。そこを視線だけで辿っていくと、オブジェといえば不謹慎ではあるが、歪な巨大な剣山が道を遮っている。

 ああはなりたくないものだ。あんな目に合うと想像しただけで寒気がする。

 今度はそれがある方面の街の外に目を向けると、草木が全く生えていない荒野にポツンと黒い物体が転がっている。

 私の目からは点にしか見えないが、目を凝らすと辛うじて人間のようなシュルエットが確認できる。

 串刺しにされていた河童と装備が良く似通っている。あれが文の言っていた河童だろう。街の位置とその死体の位置関係から、顔を森の方へと上げていくと、その奥に黒い黒色の煙を上げている場所が見えた。

 そこがどういう状態なのかは木々に視界を遮られて見ることはできないが、位置関係的にあの煙の下に河童たちがいると見て間違いないだろう。

 後ろや横に飛んでいた文と萃香に目を配らせると、彼女たちも私と同じ考えに至ったようで、小さく頷いた。

 地面に転がっている死体をわざわざ調べなくてもいいだろう。私たちはその目標に向けて進む速度を速めた。

 

 

 

 私のいる場所が薄暗いのは森の中にいるわけではなく、辺りが暗くなってきているからだろう。

 その薄暗い状況でも、私に顔を近づけている少女の顔が笑っているのはわかった。

 私は、また昔の夢を見ているようだ。前回夢を見たのがだいぶ前の気もするが、その続きのようだ。

「私のせいって……なんでだよ…!何もしてないよ!」

 夢の中の私はその舌っ足らずの幼い声で、歪んだ笑みを浮かべる幼女に叫んだ。今の半分程度の大きさしかない小さな手で、濡れて泥だらけの服の裾を握りしめた。

「そうね、あなたは何もしていない。でも、その力を持ってしまったのが原因だから、あなたのせいであることには変わりないと思う」

 見た目はまだ年端もいかない少女なのに、落ち着き払った口調と年齢がかさんだ様な言い回しで話してくる。

「そんなの、分からないよ!…力なんて……持った覚えないよ…!!……なんで私なの……!」

 夢の中の私は耐えきれなかったのか、そこでボロボロと涙を流し始めた。目の前に立っている異次元霊夢の姿が涙で歪む。水分によって瞳に入って来る光に屈折が起っている。

「なぜあなたかなんて知らないわよ。ただ運がなかっただけじゃない?いや、ある意味運が良かったかもしれないけどね」

 異次元霊夢はそう呟くとしゃがんで私に視線を合わせてくる。泣きじゃくる私は怯えて後ろに下がろうとするが、樹木が邪魔をして下がることができない。

「その力、私に頂戴?」

 彼女は怯えている私の頬に、優しく手を伸ばして触れてくる。その時に抱いた感情も思い出してきているのか、異次元霊夢がこちらを見る目がいつもとは違うような感覚を抱く。

 目が濁り、今の私でも恐怖を覚えるほどに狂気が笑顔に宿っている。服を握っていた手がガタガタと震えてしまう。いや、手だけではなく顔などの体全体が恐怖で震えを押さえることができない。

「嫌…嫌だああああああっ!」

 その恐怖から逃げたい一心だったのだろう。そう叫ぶと震える手で、私の頬に触れている彼女の胸を突き飛ばした。

 もつれる足でわき目も振らず、この場所から逃げるために走り出そうとするが、魔力を使ってすぐに立て直したのか、異次元霊夢に後頭部を軽くお祓い棒で殴られた。

「あうっ!?」

 後頭部から、強化された木材で小突かれた衝撃が突き抜ける。体を強化していれば大したダメージにはなりえないが、幼い私はそこまで気が回らなかったようで、それだけで地面に倒れ込んでしまった。

 当然ぐらついて体のバランスが崩れている私に、受け身を取ることのできる余裕などあるわけがない。勢いよく顔から土に突っ込んだ。

 頭の痛みと転んで膝や手のひらを打った痛みが重なって、涙がさらに溢れそうになって来る。

「うっ…くっ…!」

 それでも今は逃げないといけないと思ったのか、涙が溢れてくるのをぐっとこらえ、血が滲んでいる手のひらを使って上体を持ち上げた。

 皮膚が裂けた痛みがぶつけた痛みの後に襲ってくるが、歯を食いしばって立とうと顔を上げると、その方向はすでに異次元霊夢が迎えてくれていた。

「っ!」

「酷いわね。友達を突き飛ばすなんて……貴方のことは大好きよ?でも、私はどうしても力がほしいの……どうしても力をくれないのなら、勝手に貰うわ」

 彼女はそう言うと私が進もうとする方向から外れて後ろへと歩いて行く。今のうちに這いずってでも逃げようとしたが、夢の中の私は何かをされたようで足を見下ろした。

 異次元霊夢に掴まれたようで、泥だらけで茶色く変色している白い靴下を履いている足首が痛いほどの握力で握られている。

「痛い…!離して!離してよ!」

 パニックを起こし、そう叫ぶ私は何か掴めるものがないかどうか周りを探すが、掴めそうなものは何も落ちていない。

 せめての抵抗なのか、土でも何でもいいからしがみつこうとしているが、子供の力ではそんなことができるわけもない。乾いた地面には両手で掻き毟った跡のみが空しく残っていく。

「嫌だ…!!離して!!」

 足をばたつかせて抵抗すると、それが効いたのか動いていた周りの景色がピタリと止まる。足を握っていた拘束感も消え、異次元霊夢が足を離したようだ。

「魔理沙」

 起き上がろうとした私に、目の前まで歩み寄って来た異次元霊夢が声をかけてくる。おそるおそる顔を上げると、さっきまで浮かべていた笑みは無く、苛立った表情で見下ろしてきている。

 濁った眼が私の恐怖をさらに煽り、蛇に睨まれた蛙よろしく指の一本すらも動かせなくなってしまった。

「ちょっと、静かにしてて」

 私が何かを言う前に、彼女は足を持ち上げると靴底をこちらへ向けた。

「霊――」

 防御の体勢に移ることも許されず、突き出された足が額を叩く。容赦のない攻撃に脳が揺らされ、意識が朦朧とする。

「いい子ね」

 本当にそう言ったのかは定かではないが、抵抗することができなくなった私のことを異次元霊夢は再び運び始めた。

 

 

 体が揺れる。なぜだろうか。

 ……。

 となると自分以外の誰かということになるが、どういう目的があるのか、ほぼ一定の間隔で小さく上下に体が動いている。

 運ばれているようだ。いったいどこに?

 ……。

 だめだ。眠い。どれだけ経ったのかはわからないが、瞼は異常なほど重く、閉じられたままノリか接着剤で止められているか、溶接でもされたかのようだ。

 睡眠と言うべきか、無意識と言うべきかわからないが、そこから伸びて来た手に頭を掴まれ、またその方向へと意識が引きずり込まれていく。

 抵抗しようにも初めに眠りに落ちてしまった時と同じく、既に半身を睡眠へ浸からせている私にそれを抵抗することができない。

「……っ…」

 それでも力を振り絞り、目を薄っすらと開けることには成功した。

 聴力を司っていた部分の脳が睡眠に飲み込まれてしまったらしく、音は聞こえないがぼやけた視界に景色が飛び込んできた。

 小脇に抱えられているわけではないようだ。腹部を圧迫される感じから肩で担がれているのだろう。

 重力に逆らうことを忘れている手が、ダランと視界のほとんどを左右から塞いでいる。地面との距離はそう遠くないようで、自分が歩くよりもかなり低い。

 頑張って手を伸ばせば届きそうなぐらいだ。洋服はスカートが紫色で、上着は白色とシンプルな色を着ているようだ。

 そこまで見ただけでもう限界が来てしまったようだ。開いていたいのに、目を閉じる力が別に加わっていると思いたくなるほど瞼が段々と下がって来る。

 瞼が閉じて視界が狭まるのに比例し、私が沼に引きずり込まれる速度が加速していく。まるで流砂だ。

 私が抵抗しようとすればするほど、精神はそこに沈む。胸、肩、首と飲まれていくと、その頃にはもう瞳など開けていられなかった。

 最後に残った頭を新たに現れた手が、黄色い私の髪を掴み、そこへと引き込んだ。

 

 瞳を閉じる前に見えた茶色いがオレンジ色に近い、鮮やかな長髪が強い印象を残した。

 




次の投稿は11/2夜10時の予定です。
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