東方繋華傷   作:albtraum

113 / 203
鬼に肉弾戦をけしかける魔法使いなんて聞いたことありますか?
私は無いです。


自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
という方は第百十三話をお楽しみください!


東方繋華傷 第百十三話 怪力乱神

「くそ野郎が!」

 吹っ飛んだことで少し距離のある異次元遊戯の方向へ、拳を握って走り出した。私の怒号が合図となったのか、奴も臨戦態勢へと移る。

 腹部への正拳突きを奴は躱そうともせず、殴らせてやるといわんばかりに両手を広げて攻撃を向かい入れる。

 肉を柔らかくするために専用のハンマーで肉を叩くことがあるが、それに似た打撃音が耳に届く。

 霊夢や萃香など化け物じみた連中よりは効果は薄いだろうが、何もダメージがないわけではないだろう。

 初めに後方へ下がらせる。そう考えていたが、奴の体はまるで動かない。巨大な山を押してどかそうとしているかのように、異次元勇儀の体はビクともしない。

 それどころか、奴に叩き込んだ左手に鈍い痛みが走る。体の強度を強化をしていたはずなのに、まるで岩石を殴ったかのような感触がする。

 奴に体の防御力を上げる魔力の性質は感じない。なのにこの強度、さすがは鬼と言えるだろう。

「それだけかい?それで終わりかい?それなら今度は私の番だ!」

 口の端が楽しげに釣り上がると、左右に広げていた内の右手を握り、私へ向けて斜め上から振り下ろす。

 この一撃は、食らったらやばい。

 攻撃のモーションから抜け出せていないが、肩から正面方向に向けて魔力を噴射し、その推進する運動エネルギーによって体を後方へと逃げさせる。

 後方に動いた顔の目尻側の皮膚が異次元勇儀の拳に掠り、一部引き裂かれた。ナイフなどとは違った切れない物で肉体をこそぎ取られる感触は、痛いなんて物じゃない。

 そして、それだけでは終わらず、ただ掠っただけだというのに、パンチの威力に体が床へと叩きつけられた。

 とっさに後方へ体を移動させていて、踏ん張りがきくような体勢ではなかったが、おかげで頭を床に叩きつけずには済んだ。それでも床に面している足を中心に亀裂が入り、木の板が砕けた。

 体全体の重心が下がり、バランスを崩して下の階へと叩き落された。

 この建物自体が古く、耐久性能が低いというのもあるが、振り下ろした拳に掠っただけでこれとは予想外だ。これを後どれだけ繰り出されるのか、考えただけでも背筋が寒くなる。

「まだまだ!」

 私を落とした穴からではなく、床を新たに叩き壊した異次元勇儀がいまだ空中にいるというのに突っ込んでくる。

 魔力で体を浮き上がらせ、体勢を整えようとしていたのに、予定が狂ってしまった。

 このまま落ちようとするが、落ちてきている異次元勇儀の右手は私を打ち抜こうと握られている。

 奴は殴る以外のことなんて考えてはいない。このまま自重で落ちても浮き上がっても、異次元勇儀が落ちてくるまでに立ち上がるのは不可能だ。拳に打ち抜かれるだろう。

 浮遊に使うはずだった魔力を手先に集中させ、ジェットの炎として降りてきている異次元勇儀へと放った。

 地面がある場所では踏ん張られてしまうが、空中なら踏ん張ることはできない。足場を作ったとしても炎で剥がせるため、奴を吹き飛ばすことができる。

 ジェットの性質を含ませたオレンジ色の炎は、手元で膨れ上がると異次元遊戯の体を包み込んだ。

 少し炎を吹かしすぎたのか、彼女を炎の風圧で吹き飛ばしてしまう。天井に使われている木の板を破壊して外に吹っ飛んでいくのと反対に、その反動で床に叩きつけられてしまうが、その程度で済むなら安いものだ。

「うぐっ!」

 それでもちょっと痛いが、ジェットの炎を切って私は立ち上がる。

 炎と言っても、そこまで長い時間燃焼させたわけではない。天井や床の木の板は焦げは見えても燃えてはいない。これなら火事にはならないだろう。

 木の焦げる香ばしい匂いと炎による熱が、この室内に充満して立ち込めている。この数秒で5~6度は室内温度が上昇していて、この部屋に居たら茹で上がってしまいそうだ。

 魔力で体を浮き上がらせ、さっきまでいた階へ戻った。そのまま天井に開いている穴から外に出て異次元勇儀と戦おうとするが、その前に後ろを振り返った。

「……」

 異次元萃香はさっきの場所からは動いていない。この様子では、異次元勇儀が初めから自分のことを騙していた。ということがよっぽど効いたらしいな。この世の終わりみたいな顔をしている。

「私は…何のために、戦ってきたんだ…」

 戦う意欲もないのか、異次元萃香はその場に座り込んだ。密と疎を操る程度の能力で体を大きくしているというのに、座っている萃香はやけに小さく見えた。

「ショックか?」

「……聞くまでもないだろ、当たり前だ」

 異次元萃香は顔に手を当てて覆うと大きくため息を付く。自分の目的もあるが、仲間が殺されないために戦っていた身からすれば、落ち込まないわけがないだろう。

「その気持ち、わからなくはないぜ」

「……」

 異次元萃香にそう言うと、彼女は何も言わずに少しだけ顔を上げてこちらを見てくる。

「ここの霊夢に記憶操作をされて、私の世界にいる霊夢は私のことを忘れた。一緒に戦ってたのに、いきなりこっちに攻撃してきた。裏切られたと思ってかなりショックを受けたぜ。」

「……」

「…………なあ、伊吹萃香、お前は何のために戦ってたんだ?」

「………」

「前の平和な日常を取り戻したい。いいことじゃあないか。くそ野郎に裏切られたからってなんだぜ」

「……簡単に言うな」

「そうだな。で、ここでもう一度聞くがお前は何のために戦ってるんだ?…勇儀のためか?霊夢たちのためか?…違うだろ?………前の日常を取り戻したいっていう信念で戦っていたんだろ?目の前には、それを邪魔しようとしているくそ野郎がいるが……違うんだったらそこでいじけてな」

 裏切られたかもしれないということに心が折れかけ、忘れているということにもかなりショックを受けたが、霊夢の記憶を取り戻すという目標ができたから折れずに済んだ。

 そういう風に心が弱っているときには、歩き出すための何かが必要だ。私は異次元萃香のことは知らないため、こうやって焚きつけるしかないが、これが正解かはわからない。正解だったとしても、立ち直れるかは本人次第だ。

 私は魔力で体を再度浮き上がらせ、異次元勇儀が突き破った天井の穴から外へ出た。屋根裏部屋の焦げと埃臭い空気を通り過ぎると、薄っすらと血の匂いがする新鮮な空気へと変わる。

 手入れがあまりされていない、ひび割れが多く見える古い瓦の上に降りた。周りを見回すと建物の高さは三階程だろう。ここから五十メートルほど離れた庭に異次元勇儀が立っている。魔力で光を屈折させ、望遠鏡などと同じ原理で奴の顔を見ると楽しそうに笑っている。

「っち、この化け物が」

 私はそう呟きながら地面に降りようとすると、異次元勇儀の大きな声がここにまで聞こえてくる。

「霊夢たち以外で私と戦って、十秒以上持ったのはお前が初めてだよ!」

「へえ、雑魚ばっかり相手にしてたせいだろうな。腕が鈍ってんじゃないか?力自慢が聞いてあきれるぜ」

 異次元勇儀のことを挑発した。奴と真っ向から戦えば負けるのは確実に私だ。怒らせて正常な判断ができないようにし、大振りの攻撃を誘発させる。

 軌道が読みやすい大振りのパンチばかり打ってくれれば、当たらないわけではないが、当たる確率はうんと低くできる。

 相手がこんな安い挑発に乗ってくれるような、利口じゃないことを祈るばかりだが。そう考えていると、ズームして見ている異次元勇儀の表情に少し変化があった。

 楽し気な表情ではなく、私を不愉快なものを見る目だ。それに苛立ちもうかがえる。力自慢をバカにしたのが癪に障ったらしい。

「さて、どうなるかな」

 私はそう呟きながらこちらに走り出した異次元勇儀に向けて、滑空しながら突っ込んだ。

「らああっ!!」

 異次元勇儀の剛腕が鼻先をかすめる。車が高速で迫ってきているような迫力がある。

 当たれば骨が折れる程度では済まず、かすったとしても肉が裂けるレベルのパンチが当たり前のように繰り出される。必ず避けなければならず、緊張感でドっと汗が噴き出してきた。

「っ…!」

 奴がどれだけの力で殴ってきているのかにもよるが、ちょっとでも掠れば取り返しのつかない大事になりかねない。

 これまで戦ってきた中で力の強さはダントツだろう。大げさに躱すぐらいでなければ、こいつとは戦って行けない。

 異次元霊夢や異次元妖夢のように、小手先の技術を使って小回りを生かして戦われていた時には、大げさな動きをすればそれが隙となっていたが、今回はその逆だ。

 彼女の拳には触れず、その横を通って受け流し、後方へ通り過ぎた。

 奴の攻撃によって巻き起こった風は、自分が高速移動している時や、横を大きな物体が高速で通って行ったのと同程度の強さを持っている。

 拳一つでここまでの風圧が生み出されるとは、地形を破壊するほどの力というのは、伊達ではない。

 彼女の後方に逃げつつバックの中へ手を伸ばし、形を変える物質を取り出した。棒状になる性質を含ませると、四十センチか五十センチ程度の細い棒へと形を変えた。

「ほう、なんだいそりゃあ?」

 これは作るのが難しいと言っていたし、この物質を持った河童とはまだ彼女は戦ったことがないようだ。だとしても、それで有利になる程異次元遊戯との戦いが楽になるわけがない。

 棒にはコイルの性質を持たせ、強力な磁力を発生させた。庭の中央には異次元勇儀の身長するらも超える、巨大な岩石があるが一部埋まっているらしい。磁力を発生させてもこっちに転がってくる様子はない。

 庭のあちこちに大小様々な石が転がっている。それらに含まれている鉄が反応し、私の持った棒へと引き寄せられ始めた。

 エネルギー弾と拳の攻撃から、中々絶望的な状況なのが見えているが、こいつでひっくり返すことはできないだろうか。

 魔力で強化された顔の皮膚を持っていったエネルギー弾よりも、威力を高くしていたはずだが、彼女の顔には傷一つついていない。

 それに、全身の筋肉を使ってできるだけ強く拳を繰り出しても、ビクともしない。肉体の防御力が反則レベルだ。

「面白そうなものを使うね。いいね、かかってきな!」

 嬉しそうに口の端を吊り上げ、白い歯をむき出しにしている彼女は、巨大なこん棒を見てもその表情を変えようともしない。

 磁力の方向を魔力で設定し、転がっている小石や埋まっていた土だらけの岩石が持っていた棒に引き寄せられ、細くて頼りない得物は巨大なこん棒へと変わった。

 こん棒の先を地面へ押し付け、魔力で強化した身体能力を使って体を持ち上げ、異次元遊戯に向かって得物を持ったまま飛びだした。

 ただ飛んだだけでは、こん棒の重量を引っ張り上げることができず、体は止まってしまう。

 そこで足が地面を離れたところで、地面に着いている得物の先から魔力を放出した。

 その推進力によって、数百キロはくだらない武器は私と一緒に空中に投げ出された。私の行動を見て、なにをする気かわかっている彼女はかわすつもりはないようで、真正面から迎え撃とうとしている。

 得物を握り、魔力で細かな位置調節を済ませ、上段に構えた。物を投げた時と同様の放物線を描き、最高高度に達した体は後は落ちて行くだけだ。

 自分一人の力では上段に構えた得物を振り下ろすことはできない。異次元遊戯に当たる面とは逆の面から、タイミングを合わせて魔力を爆発的に放出させた。

「せええいっ!」

 武器を持っている私の動いている速度、得物の重量が武器となっていたが、それに魔力を噴出した推進力が重なった。

 大抵の妖怪どころかアーマーを着込んでいた異次元にとりでさえ、一撃で倒せるであろう威力を含んでいたが、避けるつもりのない彼女の頭部に得物が触れた途端、あっけなく瓦解した。

 磁力で引き留められている岩石は砕け、バラバラになるが、中央にあるコイルによってまた引き寄せられようとする。

 しかし、中央にあるコイルの性質を持つ棒でさえ砕けてしまったことで、その性質を失った。

 引き寄せる力を失ったことで、周りに張り付いていた岩石が剥がれ落ち、私と異次元遊戯の周りに散乱する。

「効かないねえ」

 彼女は笑みを浮かべたまま、呆気にとられている私に手を伸ばした。殴るというよりは、腕で振り払われた。

 バチンと平手打ちが顔に直撃し、踏ん張る間もなく足が地面から引き剥がされ、空中に投げ出される。

「があっ…!?」

 魔力で後方へ向かって行く体を減速させようとするが、それでもその運動エネルギーを打ち消すことができず、大きな庭を横切った。

 いつ何かに衝突するかわからず、受け身を取ろうとした直後に背中に衝撃を感じた。岩石に衝突したという程ぶつかった物体は硬くはなく、土と言うほど柔らかくもない。

 衝突によってぶつかったものを破壊したようで、その乾いた音や感触によってそれが木材だということは何となくわかった。

 そこらへんに生えている木ではなく、さっきまで私がいた建物に突っ込んだようで、整備された平面状の床に転がり込んだ。

「ぐっ……く…っ…!」

 どれだけ寝ていたかわからないが、体の疲労感はほとんど取れている。だが一撃与え、一撃与えられた。それだけでこの疲労感は何なんだ。

 頭に振り回された打撃が直撃したというのもあるが、強化した身体でも手足が痺れるほどに身体へ影響が出ている。

 しかし、まともに踏ん張ろうとしていなかったおかげで、首や頭部にそこまでダメージがないのは幸いだ。自分の上に降りかかってきていた木材を払い落とし、倒れた上体を起こした。

「っ……!」

 立ち上がろうとした時、入ってきた方の壁を新たに破壊した異次元遊戯が、まだ体勢を立て直しきれていない私へ襲いかかって来る。

 私の身長を大きく超える彼女はその歩幅も大きい。七メートルは離れていたはずだが、二歩か三歩程度でそれを埋められ、バスケットボールを余裕で握り込めるほどに大きな手が首へ向かって伸びてくる。

 打ち払うことも躱すこともできなかったことで、首をがっしりと掴み込まれた。流石は鬼の腕力という所だろうか、身体強化をしているわけではないのに体が簡単に浮き上がる。

 彼女に首を掴まれたまま持ち上げられた。全体重を首が支えていることとなり、その握力と重なって締め付けられ、息が詰まる。

「うっ……ぐっ……」

「おいおい、力を持っているんだろう?この程度で終わりというわけじゃあないだろうね?」

 珍しく私よりも頭の位置が低い彼女は、鋭い目つきをこちらへ向ける。首を握っている腕に拳を叩きつけたりするが、まったくビクともしない。

 彼女は笑ったまま掴んでいる腕に力を加え、私のことを床へと叩きつけた。まるで赤子と大人だ。抵抗などする間もない。

 叩きつけられた背中が、木材とぶつかった時以上の激痛を神経伝いに脳へ送り付ける。骨が折れていないのが不思議なほどの痛みが脳を襲う。

 床の木材が捲り返って破壊され、その下の地面までむき出しになった。今の打撃は床だけでなく壁にまで及んでいるようで、亀裂が床から壁にまで生じている。

「がっ!?」

「おっと…力を入れすぎたと思っていたけど、そうでもないみたいだね」

 私と対照的な表情を浮かべたままの異次元遊戯は、握ったままの手を離すことなく再度持ち上げた。

「そぉら!」

 人間として扱われていないのか、ボールでも投げらるようにして、投球される。通常なら数メートル程度しか飛ばないのだが、鬼のでたらめな腕力によって壁を更に破壊して外に体が飛びだした。

 それでも止まることを知らず、上空へ向かって体が上昇を続ける。再度魔力で減速させようとした時、進行方向に木が生えていたようだ。

 木の枝や葉っぱに体がひっかがり、一気に体が失速した。変に力が分散してしまったことで、体勢が大きく変わる。

 それにより、体がどの方向を向いているのか認識することができず、頭から地面へ落下した。

 どしゃあっと頭頂部と細い首で全体重を支えるのは二度目になるが、体重と落下したエネルギーに骨が砕けるか外れるかしなかっただけマシと言える。

 神経をおかしくすることもなく落ちれたのはよかったのだが、それでも首をおかしくしてしまいそうになるほどの痛みが発生する。

「がっ!?」

 落ちた頭から時間を置いて、足がグラリと傾いてつま先から地面へ落ちた。顔を左右に振って髪や肌にこびり付いていた土を払い落とした。

 それでも落ちない物を手を使って落とし、自分が開けさせられた木材の穴の方を見ると、丁度異次元遊戯がゆっくりと歩み出て来たところだ。

 私が死んでいないことを確認すると、口角を上げて笑っているのが遠目にも見えた。苛立ちから考えなしに戦いを挑んでしまったが、愚策もいいところだ。

 子の防御力をどうにかしなければならないが、まったくいいアイデアが思い浮かばない。

 それに加えて一方的に数度攻撃されたことで、かなりこちらにダメージが入ってしまっている。焦りで思いつく物も思いつかない。

「ぐっ……!」

 力が抜けそうになる四肢に力を込め、異次元遊戯が突っ込んでくる前に立ち上がろうとするが、そのタイミングを見測っていたように彼女が歩みを速めて走り出す。

 進行方向上に存在している物を、全て破壊して進まんとする勢いだ。その疾走してくる様は破壊神を連想する。細い木などは走るために振っている腕に当たっただけで、砕けてへし折れて飛んでいく。

 手先に魔力を集中させ、それをエネルギー弾へと変換する。それを異次元遊戯の方向へ放った。

 淡黄色のエネルギー弾は狙いをつけた通り、彼女の元へ寸分たがわず吸い込まれていく。爆発よりも小さな破裂音が耳に届き、奴に着弾したことは視覚だけでなく聴覚でも確認できる。

 しかし、僅かに怯むさまを見せたが、何もなかったかようにすぐに体勢を立て直してこちらへと走り出す。

 その際に踏ん張ったのだろう、エネルギー弾のエネルギーが地面で消費されたようだ。接着している下駄から、後方の地面に大きな亀裂が生じた。

 だが、止まらない。それだけでは異次元遊戯を止めることは不可能だ。異次元遊戯との距離が十メートルを切り、私は彼女の体表面へ魔力を散布した。

 コイルの性質を持たせ、異次元にとりを殺したときと同じように、周りから彼女へ向けて大量の金属を含む岩石が向かって行く。

 得物として使っていた砕けた岩石も、異次元遊戯に纏わりついて動きを阻害しようとしているが、彼女はこんなものが障害になるとでも?と言いたげな顔を浮かべている。

 その通りで、飛んでくる全ての岩石を砕き、ほとんどスピードを落とすことなく私の元へ到着する。

 立ち上がり、彼女に対峙しようとしていたが、足をもつれさせてしまい、隙を晒してしまう。

「どうしたよ。魔理沙!」

 あらゆるものを粉砕する握られた右手を、彼女は顔面へ向けて振り抜いて来た。それを食らってはいけないと本能が私に呼びかけ、あらゆる物事の最上位に拳を交わすことがインプットされた。

 無理やり体を捻って向かってくる異次元遊戯の拳を受け流した。受け流したと簡単に言っても、こちらへのダメージはそれでも大きい。

 頬の肉が抉られ、受け流しに使用した左手が、かすっただけで指先から手首までの骨が砕けてしまった。

「っが……ああああああああああっ!!」

 振り抜かれた拳から発生した余波の風圧に襲われ、体が吹き飛ばされてしまうが、何とか踏ん張りを聞かせて地面に留まった。

「くっ………っ…!」

 残った右腕へ大量の魔力を向かわせ、目の前に張り付いている異次元遊戯へ向けていくつにも分割したエネルギー弾を連射する。

 淡青色の魔力が弾け、使用された物が結晶となって辺りにまき散らされる。同様の攻撃を彼女よりも重たい人物へ攻撃したとしても、吹き飛んでいたというのに、異次元遊戯はピクリとも動かない。

 下駄で地面を踏みしめており、そこから後方の地面に大きな亀裂が生じるが、彼女は涼しい顔をして仁王立ちしている。

「っ…!」

 鬼とここまでまともに戦ったことは無かったが、ここまで馬鹿げた防御力を持っているとは思わなかった。

 私よりも1.5倍ほど大きい彼女は、さっきと比べて表情は無い。見下ろしてきているその瞳に圧倒されて後ろへ下がろうとした時、口を開いた。

「はぁ。…楽しみにしてたのに、この程度なのかい?」

「へ…?」

 そう吐き捨てた異次元遊戯は足を持ち上げると、私の腹部へ蹴り出した。

 呆気に取られていたのもあるが、胸に来ると思っていた防御をすり抜け、蹴りが抉り込んだ。

「………かぁ……っ……!?」

 彼女の攻撃を食らったというのに、身体がバラバラにはじけなかったことだけでも奇跡と言えた。

 だが、腹部から沸き上がった激しく焼けるような鈍い苦痛は、脳内を埋め尽くしてそれ以外を考えることができなくなってしまう。

「あああああああああああああああああっ!!?」

 後方へ吹き飛ばされた私は、木を何本もへし折り、地面へ衝突痕を残し、転がった岩石を砕く。

 岩石や木に衝突したことにより、皮膚が裂けた裂傷が全身のあらゆる場所に出来上がる。それ以上に擦り傷や切り傷が無数に浮かび、多数のダメージを与えてくる。

 自分で止まることができず、全身をあらゆるものと場所に打ち付け、ようやく止まったのは鬼の屋敷に背中を強打した時だ。

 人体と木材がぶつかって際に、出ていい音には思えない鈍い破壊音がする。それがどちらからしたのか、あらゆることを処理することのできない脳は算出することができない。

「がっ……っ…はぁっ……!!」

 激しい激痛に腹部の筋肉が痙攣し、呼吸がままならなかったが、一度の呼吸に十数秒かけてゆっくりと息を吸い込んだ。

 痙攣して筋肉を動かすのがままならないが、魔力で無理やり呼吸に必要な筋肉と横隔膜を収縮させた。

「はぁっ…はぁっ…!」

 壁一面に、私が衝突した際の亀裂が走り、天井部に積もっていた埃が衝撃で浮きあげられてらしく、パラパラと周りに舞い落ちた。

 立ち上がろうにも、投げ出された四肢が仕事を放棄している。体の中身が全て金属に置き換えられているのだろうか。そう思えるほどに重たい。

 それでも起き上がろうと震える手を地面に押し付け、体を持ち上げようとした時、体の奥で何かが湧き上がってくる感覚がする。

 胃などの消化器官の収縮に伴って、血液が食堂を逆流して上がって来ると、喉の奥から口内へ鉄の匂いと味が流れ込んできた。

 口一杯に溢れた血液をわきに吐き出すと、地面に赤く瑞々しい染みを生み出した。一度の吐血では収まらず、数度に分けて体内にある血液を吐き出した。

「っ……はぁ……はぁ……」

 ようやく吐き気が収まったことで口元を拭い、異次元遊戯の方に視線を移すと、私を蹴り出したところから動いていないようだ。

 これだけの時間があったわけだから、こちらに向かっていそうだが、そうしなかった訳は彼女の視線が私の方向を向いていないからだ。

 異次元萃香と話している時に周りを囲んでいた鬼の一人が来たようで、そいつに話しかけられている。

「遊戯さん。いったいどうしたんですか?まさかあいつがこちら側に攻撃をしてきたんですか!?」

 そう言って私と敵対しようとしている鬼に対し、異次元遊戯は冷ややかな目つきを向ける。それは、仲間に向ける目つきではない。

「っち。喧しいね。郷がさらに冷めちまうだろうが」

 彼女はそう言うと、話しかけていた鬼の首に手を伸ばすと、何の躊躇もなくねじ切った。ゴリゴリと骨を砕き、肉を裂く音は身の毛をよだたせる。

 力は異次元遊戯の足元に及ばないとしても、鬼は鬼だ。あんなに簡単に殺してしまうとは、彼女が怪力乱神と呼ばれる所以だろう。

 それよりも、あいつは何と言った。郷が覚めると確かにそう言っていた。私からすれば真剣勝負だったというのに、彼女からすれば遊びに近かったということか。

「化け……物め……」

「あ?あたしからすれば、あんたの方が化け物だけどね。人間でこんなに生き残っているのは、あんたが初めてだよ」

 魔力で体を強化してないのに、鬼の首をねじ切れるお前以上に化け物はいないだろう。

 首にある動脈から血を吹き出して倒れ込む鬼には、もう興味がないようで手に持っていた驚愕を示している頭部を握り潰すと、そう呟いた私にそう答えた。

 自分の吐き出した物か、異次元勇儀に殺された鬼の血の匂いかわからないが、辺りに鉄臭い独特な匂いが立ち込める。

 意図したわけではないが、異次元勇儀を少しの間だけそこに縫い付けてくれていた内に、魔力で体を少しだけ治癒させておいた。

 それのおかげでどうにか持ち直すことはできたのだが、すぐに立ち上がって走り出すのは難しそうだ。亀裂が走っていつ崩れてもおかしくなさそうな壁に手を付き、体重を幾分か預けて立ち上がった。

 私の預けた体重分だけ、ズレの大きくなっていく亀裂の隙間からパラパラと砕けた木片などが落ちて行く。

「っ……」

 そうしているうちに、異次元勇儀がまた私の方向へ向かって走り出した。どんなことをしても止まることのない追跡者へ向け、エネルギー弾ではなく大量の魔力を消費して右手から強力なレーザーを照射した。

 黄色に近い、十数センチ程度の幅を持っている熱と光の性質を与えた熱線は、走って来る異次元勇儀の胸部を包み込む。

 それでも彼女の動きを止めるだけの要因にはなりえないようで、異次元勇儀が腕を振るうとその強力な攻撃力に、レーザーが打ち消されてしまう。

「くっ…!」

 骨が砕けた左手もある程度治癒が進んでいる。両手を使ってさらに大量の魔力をつぎ込み、倍以上に膨れ上がった熱線で彼女を包み込んだ。

 バシュッと打ち消される空しい音がそれでも響く。光と熱を放っていた貫通性能の高い熱線が途切れた。顔をしかめるほど強い光を出していた光源がかき消されたことが、理解できなかった。

 一度目とは違い、かなりの魔力を含ませたはずだったのだが、それと同様にあっさりとレーザーが破壊されたことに驚いた。

 多少なりとも動きを阻害できることを予想していたが、止まる気配のない彼女は長い右腕でこちらの肩をがっしりと掴む。

 万力で締め付けられたような圧迫感と骨の軋みが伝わって来る。彼女にとって人間が魔力で身体を強化しているのは、強化しているうちに入らないのだろうか。

 指先から伸びている爪は、吸血鬼や白狼天狗らのように鋭く切りそろえられているわけではないというのに、その硬度と握力の強さが合わさって強化された皮膚をいともたやすく切り裂いた。

「うぐっ…!?」

「博麗の巫女や…紅魔館のメイド、守矢神社の巫女たちが欲しがってるっていう力はこんなものなのかい?正直がっかりだ。あたしにまともに傷をつけることができないなんて」

 レーザーが照射された部分の服は融解し、攻撃に晒されなかった部分は黒く炭化しているが、その下にある白っぽい皮膚は少しもダメージを受けていないように見える。

 顔や腕などと見比べれば、ほんの少し赤ばんでいるようにも見えなくないが、夏の日焼け程も攻撃が通っていない。もはや攻撃と言えるかどうかもわからない。

 じゃらりと鎖を鳴らし、格闘術を少しでも齧っている者ならば絶対に構えないフォームで拳を構えた。

 エネルギー弾も、レーザーも彼女には致命打にならない。異次元にとりには一応効果のあった、岩石での押し潰しやこん棒での攻撃もまるで効果がない。こいつは、正真正銘の化け物だ。

「っ…!」

 肩を掴まれ、逃げ出すことができなくなっていた私の腹部へ、異次元勇儀の拳がめり込んだ。十数メートル離れていても聞こえるであろう打撃音が、同時に二方向から鼓膜を襲う。

 それに紛れてしまっているが、組織が潰れてはじけるような音が聞こえた気がしたが、それは聞き間違いではないだろう。

「あがっ………かはっ……っ…!!」

 衝撃が腹部から背中へと突き抜ければ、衝撃を少しでも逃がさなければならないと、身体が自然にくの字に曲がる。

 腹部に拳が抉り込んだことで、それよりも上に位置している臓器が衝撃で押し上げられ、横隔膜を引き伸ばさせて肺を圧迫する。

 肺内部に圧がかかり、強く陽圧に傾けば肺胞は自身が壊れないために、その内側に留めていた空気を気管支へ向けて押し出した。

 何かを叫ぶ前に肺胞が縮み切り、肺の内部に位置していた空気が鉄の匂いを漂わせて口の中から放出されたことで、何かを言うこともままならず目を見開いて嗤う彼女を見ることしかできない。

「っ……っ…!」

 皮膚を貫いていた爪が初めに引き抜かれ、次に肩が外れそうなほどの力で握りしめられていた手が離された。

「………ごぼっ…!」

 その頃には、掴んでいた異次元勇儀の腕によって体が支えられていたようで、離されると吐血で地面と彼女の下駄を汚しながら膝をついた。

 一度の吐血では消化管内にある血液を吐き出しきれなかったようだ。胃の奥から上がって来た体液を、押し戻すことなくそのまま吐き出した。

 口の中が血の味と匂いに犯され、目の前に広がる赤い花も相まって、呼吸をするごとにその鉄臭さが際立った。

「っ…はぁっ…はぁっ…!」

 殴られたショックにより、心拍数が非常に上昇しているのだろう。肩を大きく揺らして呼吸を行っているはずなのに、息の詰まる感覚が消えない。

「お前さんがいるとこの世界が長く続かない。お前さんが死ねば、来るところまで来て引き返すことのできなくなっている博麗の巫女たちは、どうしていいのかわからなくなることだろうね」

 目の前で膝と手を地面に着き、激痛と酸欠から体を守ろうと魔力で治療を進めている私に彼女は語り始める。

「……大義名分。名声。自分らのメンツ。立場からの優越感。単純な欲望。それらを得るために動いていた彼女たちは、どうすると思う?そのまま霧雨魔理沙と言う目標を失い、幻影を追い続けて戦うのか。殺した私を殺しに来るのか。あたしからすればどちらに転んでもいい結果になる。」

 彼女はそこで一呼吸間をあけると、さっき首をもいだ鬼の血が手にこびり付いたままだったのだろう。それを振り落とし、再度話を始めた。

「……あいつらはお前さんしか眼中にないからね、おそらく後者になるんじゃないかと睨んでいるから、その二通り以外になるとは思っていない。……これから祭りが始まると思うとワクワクが止まらないね。でも、祭りの前の余興も楽しんでおきたいが、これじゃあ、余興になりもしないね」

 血反吐を吐いている私を、冷たい眼差しで見下ろしてくる異次元勇儀を見上げると、小さなため息を付いた。

「ぐっ……うぐっ…」

 これだけの戦いをしているというのに、あちら側からすれば余興程度とは泣けてくる。攻撃は一切通らず、ダメージを負った様子もない。

 こちらばかりが傷を負っているのが際立ち、対照的とはこのことだろう。鬼という存在がここまで厄介で、手も足も出ないとは予想していなかった。

 それに、現在進行形で彼女は魔力を防御に回していない。素の防御力がこれだけあるのだから、鬼の頂点に上り詰められるのもうなづける。

「さて、どうしたものかね。このままじゃあ、つまらんし…」

 彼女はそう呟いて何か考え出す。その間に傷の修復を済ませておきたいが、体の損傷が酷い。

 血もだいぶ流れ出してしまい、いつ貧血を起こすかもわからない。早く内臓系の組織を治癒させなければならないだろう。

 そうして彼女に視線を向けたまま治療に専念しようとした時、向けられるこちらとしては嫌な笑みを浮かべた。

「ここまで一生懸命に戦うってことは、向こう側には大切な人間の一人や二人いるんだろう?殺して、ここまで連れてきてあげようかね」

 悪魔や狂人と言っても過言ではない程の嘲笑を含んだ笑みに、ぞっとした。耳まで三日月状に裂けた口からは白い犬歯が覗き、細めた目からはそれが嘘ではない本気さと、止められる物なら止めてみなと言いたげな挑戦的な色が窺える。

 こいつは霊夢を殺すと言った。彼女なら、私よりも上手くやってくれるだろうが、そう簡単に事が運ばないことは、今までの戦いで分かり切っている。

 彼女がこいつに殺されるかもしれない。そう思っただけで、煙を出して燻っているだけだった火山が、赤く溶けた岩石を吹き出して爆発した。

 奴の挑発だったことなどわかり切っているはずなのに、体が反射的に動いてしまった。感情を露わにして握った拳を振り抜いた。

「ふざ…けるなぁぁっ!!」

 喉を震わせて咆哮し、憤怒を見せた私に対して彼女は笑みでそれを迎えた。防御することもなく腹部に攻撃が抉り込む。

 運動エネルギーが衝撃として彼女の体に伝わっていったはずだが、一ミリも怯む様子を見せない。

 立ち上がりながらの攻撃で、全体重を乗せて下から殴り込んだが、むしろ痛がる様子を見せたのは私だった。

 強化している身体でも岩を殴ったような腹部の硬さに、突き出た関節部がぐじゃりと拳の内側に曲がり込み、へし折れた。

「あっ…!?がっ…!?」

 右手を押さえて後ろによろけた私に接近するため、その一歩を進んで埋め、鬼の血液で濡れている手に胸倉を掴まれた。

「そう、そうこなくっちゃあ面白くない!」

 捕まれた胸倉を引き寄せられると体が三十センチも上に浮き上がる。首元が締め付けられる息苦しさに抵抗する間もなく、ある程度の近さが確保できた異次元勇儀は一気にこちら側へ顔を寄せた。

 それは霊夢がしてくれた口づけなどではなく、額に額を打ち付ける頭突きだ。

 この重さや衝撃力は、自分で自分の顔を撃ち抜いたときなんかとは比べ物にならない。殴る蹴るなどをされていないはずなのに、体が後方の地面へ叩きつけられた。

 乾いた土に亀裂が走り、地中内で爆発が起きたかのように衝突したエネルギーで捲り上げられた。

「ああああああああああああああああああああああああっ!!?」

 頭突きを受けた頭部を押さえたことで額が潰れていないことはわかるが、その衝撃や威力から、頭蓋が砕けて内側に位置している脳味噌を切り刻んだ様な痛みに襲われた。

 絶叫し、頭を押さえてのたうち回っていると額の皮膚が損傷したようで、生暖かい液体がドロリと沁み出して両手を汚していく。

 生きているのが不思議なぐらいだ。頭だけが後方に吹き飛んでいた可能性だってあるが、生きているのは彼女が頭をしっかりと掴んでいたのではなく、胸倉を握っていたからだろう。

 両手で頭を固定された状態で頭突きを食らっていれば、それこそイチコロだったはずだ。

 衝撃がまだ頭蓋内を反響しているのだろうか。ガンガンと頭の中で鐘が鳴り響いてどうしようもなく痛い。

「これで殺すつもりだったんだがね。今度こそ終わりにしてやろう」

 頭を抱えたまま痛みを引かせようとしていた私に、近づいていたようで真上に巨体が見えた。太陽の光を妨げ、影になっている彼女の表情は見えない。

 再度胸倉を掴まれ、無理やり立ち上がらせられた。彼女は私のことを立たせたいようだが一人で立っていることもままならず、手を離されるとすぐに倒れ込んでしまう。

「全く、これだから人間ていうのは嫌になるね。最後の最後ぐらいきちんと立ってくれないかね。まあ、ここまで耐えたことは褒めてやるがね」

 抵抗しないといけないことはわかっているが、体が言うことを聞かない。魔力で身体を強化し、治癒をしているがそれが全く間に合っていない。

 胸倉を掴んでくる腕を掴んでやりたいのに、肩から垂れ下がっている腕はただピクピクと震えるだけだ。

「それじゃあ、さようなら。一人じゃ寂しいだろうし、お前さんの大切な人間もすぐにそっちに送ってやるからね」

「く……そ……っ……!!」

 怒りに身を任せようとしても、回復しきっていない体は動ていくれない。がっちりと固定した私の体に穴を穿たんと、彼女は拳を握った。

 




次の投稿は12/14日の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。