東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
という方は第百十九話をお楽しみください!

しばらくは比較的安定して投稿できると思います。


東方繋華傷 第百十九話 狙撃

 以前戦っていた時や、戦っていたのを見ていた時にも思ったが、やはり彼女の防御は完璧だ。

 あらゆる物理攻撃も、いかなる魔力的な攻撃も、その体の十数センチ以内に一切入り込ませることは無い。

弾幕や、近くで起こした魔力での爆発も、奴の手前十数センチで全て細かな結晶となって空気中に霧散していく。

 投げられた岩石や拳、刀などあらゆる攻撃がその手前で停止し、奴の攻撃は面白いぐらいにこちら側へ通る。

 既に数人、鴉天狗や河童が殺された。その手法は様々だが、一番初めの白狼天狗の様に頭部を踏み砕かれた者。お祓い棒で頭をかち割られた者。首をひねり上げられ、脊椎をへし折られた者もいる。不思議なのは、防御がまるで意味をなしていないように見える。

痺れた手や痛む手首を擦りながら奴の側面に回り込んだ。最初の攻撃を受けきることができたが、手の感覚が戻るまでにもう少しかかるだろう。

 なぜここまでダメージを負っているのだろうか。外から見ている感じでは攻撃力は私やこっち側の早苗と変わらないように見えたのだが。

 あの時、攻撃される瞬間。手の魔力に含ませていた身体の強化が薄れた気がする。いや、気のせいではないだろう。

 異次元霊夢とお祓い棒を打ち合わせたときでも、ここまでの衝撃は無かった。そう言ったことと、今までの不可解な出来事を組み合わせて考えると、奇跡を起こす程度の能力としての辻褄が合わないのだ。

 第一に、奴に奇跡を起こすための詠唱をしている素振りが無いということ。一度や二度程度であれば、こちらにわからないように詠唱し、攻撃を躱すのに使ったと考えられるが、奴はとても短い間隔でそれをやっていく。

 礼を上げるのであれば、河童たちの持ったショットガンの散弾を同時に数発、もしくは時間差をつけての射撃も全て直前で止めてしまう。

 同時に放ったのであれば、大量の散弾を止めるだけの詠唱を一度にしなければならない。時間差をつけたのであれば、放ったときそれぞれに判定が出るはずであり、撃たれる度に詠唱しなければならない。

 彼女は他の話をしながらそれをやってのける。暗号化されているのかと思ったが、その時々で話す内容やイントネーションに違和感はなく、会話でも前後で矛盾していたり噛み合わなかったりはしていない。

 第二に、詠唱をして毎回奇跡を起こしているとしても、戦いの観念から見れば非常に効率が悪いということ。

 奇跡と聞けば何でもできそうで、奴のやっていることに違和感がないかもしれない。

 しかし、放たれた拳や弾丸が奇跡的に体を避けて行ったのであれば、詠唱も短く済むし、それ自体があり得る話ではある。これなら詠唱の量や時間も短く済む。

 しかし、奴がやっているのは自分に当たる攻撃が途中でかき消され、自分に当たる直前でピタリとその動きを止める。物理の法則などを捻じ曲げたその奇跡は、ほんの数秒詠唱を唱えた程度でできるものではないだろう。

 簡略化していたとしても、言葉の端々で詠唱をしているならば尚更現実的ではないだろう。

 第三に、こちらの早苗とは奇跡の起こし方の毛色が違いすぎる。主に天候などに使われることが多かったが、こっちではそう言った使い方をされたことは無い。

 そう言う使い方もあるのかもしれないが、それにしてもだ。防御に徹するのみで、攻撃の際にそれが使われていない。もし短時間で詠唱を済ませることができるようになっていたのであれば、攻撃にも奇跡の能力は使われるはずだろう。

 第四としては、こちら側の魔力というありえないところまで干渉してきている。と言った部分があげられる。

 弾幕や爆発を起こした等の肉体から離れた物は例外だが、基本的に他人の魔力を操作することはできない。

 例えば放たれた魔力の攻撃を、滅茶苦茶な性質を含んだ魔力で上書きして崩壊させるなどはできるが、肉体に宿っている魔力は連続的に絶え間なく命令が上書きされており、例え書き換えることができたとしても、すぐに上書きされて意味がない。

 彼女に近づいている間だけというのもひっかがる。奇跡でやっているのであれば、長距離からでもできるだろう。

 それに魔力の性質を書き換えたりなど、それははもはや奇跡とは関係がないのではないだろうか。

 そうまとめたが、自分がどう結論付けたいのかよくわからなくなっていた。ここまで異次元早苗の行っていることがあり得ないと否定していたが、それならばその正体はいったいなんだというのだろうか。

 これまでの戦いで、異次元咲夜や異次元霊夢の能力がこちらと変わらないのはわかっている。異次元早苗のみが別の能力を持っているというのは考えづらい。

 しかし、戦った経験から奴が使っている能力は、奇跡を起こす程度の能力ではないと言いたい。

「…」

 笑う異次元早苗は、三方向から同時に発射された散弾を、一発も食らうことも掠る事無くやり過ごした。

 複数の鉛玉は速度が落ち、空中に静止しているように見える。異次元早苗はそれを体で押しのけ、射撃したうちの一人へと襲い掛かる。

 十メートルほどの距離があったが、魔力で強化された身体はほんの数秒で駆け抜け、防御態勢に入っている河童をお祓い棒で殴りつけた。

 走る異次元早苗へ横から銃で援護射撃があるが、先ほどと同様に空中で速度が落ちると、地面に向かって落ちて行くか、奴の体にぶつかって跳ねていく。

「せえい!」

 防御で構えられた銃ごと、両手の骨を粉砕した。金属と樹脂でできたショットガンは真ん中から真っ二つに折れ、中からバネやまだ撃っていない大きなショットシェルなどが飛びだした。

「ぐあああっ!?」

 まるで人間の様に骨が砕けてしまった両手から、壊れたショットガンが滑り落ちる前に奴は河童の頭部をお祓い棒を持ったまま掴んだ。

 後方に回り込み、左手は後頭部よりの頭頂部を掴み、右手は所持しているお祓い棒でやりづらそうだが、口の開いている顎に添えられた。

 両手を失っている河童にはなすすべがなく、他の者も助けに入ろうと動き出していたが、徒労に終わった。

 それぞれの手が河童の頭を回転させようと動く。奴から見て右手は顎を右側へ引っ張り、左手は左側へ引っ張る。

 瞬発的にやられたその行動により掴まれた彼女の頭は骨格上、向くことのできない方向を向いている。

 ゴキッと聞き憚れる嫌な音が鳴り、少しでも抵抗しようとする素振りのあった両腕がだらりと肩から垂れ下がる。

「霊夢さーん。貴方が前に立って戦わないと、どんどん死ぬ人が増えますよー。まあ、あなたが死んでも増えますが」

 白目を剥き、活動している動物とはかけ離れた、完全に活動を停止している河童の頭を更に奴は捻っていく。

 雑巾絞りの様に首が捩じれ、耐えられなくなった皮膚から裂けていき、伸びた筋線維が音を立てて千切れていく。

 頭と胴体を繋げるものが無くなると、支えのなくなった胴体は前に傾き、乾いていた血で濡れている地面に横たわる。

「…」

 しかし、あり得るだろうか。人間が複数の固有能力を保有することなど。

 未だに否定したい感情が残っているが、それもそうだろう。今まで1+1=2でまかり通って来た世の中で、いきなり1+1=3が正しいと言われたようなものだ。

 固有の能力は一人一つづつのはずだが、こちらではそうではないようで、複数持てるのだろう。この状況からはそうとしか考えられない。

 異次元早苗が殺したのは妖怪だ。ランク的に言えば、妖怪の中ではかなり下の方ではあるが、強化していれば耐久力や腕力等は大きく人間を上回る。

 魔力の質で勝っていたとしても、元々の身体能力によりそこまで差は生まれないはずだが、奴は簡単にねじ切って見せた。

 これはもう別の能力が発動し、彼女自身の身体能力を格段に上昇させたか、周りに影響を与えるものであると推測できる。

 これが正しければ、ほぼ確実に後者だ。身体能力が上がっても飛んできた弾丸を全て、空中で止まっているようにさせることはできない。

 周りに影響を与えるという能力が本当に存在するのであれば、弾丸や拳などの物理的な攻撃を当たる直前で静止させ、魔力で作り出した弾幕を結晶化させる。という今までの現象全てに説明がつく。

 ただしこれを信じたくはない。これから戦うであろう異次元霊夢達も、奴の様に複数の能力を持っている可能性が高くなる。

 だが、これが奇跡を起こす程度の能力で手に入れた物であれば、その可能性は非常に低くなるだろう。そうではなくこっちの世界ではそういう物であるならば、もう一つの能力を所有している可能性は高くなる。

 どちらかはわからないが、頭の隅にでも置いておこう。

 しかし、こうなると問題が一つ浮上してくる。この、完璧とも言える守りをどう突破して奴を倒せばいいのだろうか。

「無視とは酷いですね」

 自信満々に笑う彼女は、しっかりとした足取りでこちらに向かって歩き始めた。ここまで推測したため、対処が思い浮かばない私としては投げ出して逃げてしまいたいが、そうもいかない。

「…あんたと話すつもりはない。」

 世には完璧という物は存在しない。どこかに必ず突破口はあり、問題はそれが見つけられるか見つけられないかだ。

 単純に気が付いていなかったり、見落としている場合が多い。改めて注意深く奴の戦う姿を観察することにしよう。

 魔力で弾幕を放ち、その中にお札を紛れ込ませた。魔力での命令によって、こっちに向かって歩いてきている異次元早苗を、ほとんどの弾幕が捉える。

 その十数センチ手前になると、やはり弾幕は結晶となって消え去ってしまう。お札も魔力の命令が打ち消されてしまったようで、ひらひらと地面に向かって落ちて行く。

 結晶が霧散してできた霧の中を奴は駆け抜け、大振りでお祓い棒を横に薙いだ。空気を切る奴の攻撃は、傾向的には私の頭蓋を中の脳味噌ごと粉々にできるであろう。

 予備動作からこの攻撃が来ることは予想で来ていた。頭上を通り過ぎる奴の攻撃を躱しながら、魔力に意識を向けようとする。

 のだが、向けるまでもなく奴に急接近している私の身体には、影響が出始める。魔力の活動が停止し、身体能力が強化する前へ急激に戻っていくのだ。

「…っ…」

 今までは得物など、体の末梢でしかこれを体験しておらず、あまり魔力にも意識を向けていなかったことも重なって分からなかったが。

 今回これだけはっきりとこちら側へ影響している様子がわかれば、疑う余地はないだろう。

 半径数十センチ以内であれば、奴はあらゆるものに干渉できるようだ。

 その範囲内から逃げ出すため、後方に思いっきり飛びのくと干渉領域から逃れたようで、通常の重たい体が強化されて軽く感じる。

 再度こちらに突進しようとしてくる異次元早苗から逃げる為、空中に跳躍した。身体強化により、身長の数倍の高さにまで上昇し、そこからは魔力で体を浮遊させる。

 種がわかってしまえば、そこまで恐れる必要はないはずだ。こういったタイプの能力には弱点がある。

 それは視界外や意識外からの攻撃だ。例えばさとりを上げるとしたら、彼女は先ほどあげた例の前者であるが、目に届く範囲にいる者の思考を読み、こちらの作戦や行動を阻害したりする。

 彼女に近づけばどういう攻撃方法を取り、どの方向から攻撃し、どれがダミーでどれが本命の攻撃か筒抜けになってしまう。しかし、守りに使えば無敵に近いその能力も、どんなに近くても壁一枚隔てるだけでその者の思考を読むことができなくなる。

 さとりと異次元早苗が同じ対処法で対応できるわけではないが、大事なのは視界もしくは意識を向けさせないことだ。

 さとりであれば壁を作る。だが、異次元早苗の場合は本命の攻撃を悟られないようにすることだ。

 おそらくだが、さとりよりも範囲が非常に狭いということで、サードアイを開いている時のみ心を読むことができる。みたいなデメリットが無い状態で常時発動している物だろう。

 となれば、あとは状況を作るだけだ。簡単そうだが、慎重にやらなければならない。同じ手は二度と通用しないからだ。

 弾幕に爆発する性質を含ませ、数発発射する。奴に近かった弾幕は結晶化し、その範囲外の地面に落ちた物は淡い青色の光を放ち、同色の炎を膨らませる。

 範囲外に広がった青い炎は役目を終えると結晶化して消えるが、異次元早苗の干渉する領域に入った炎は直ちに結晶化していく。

 奴はこちらに跳躍するつもりの様で、グッと腰を落とすと後方に土をまき散らして跳躍する。

 手の痛みはだいぶマシになった。しかしお祓い棒の攻撃を受ければ今度こそ、手首の骨が折れるかもしれない。

 必要最小限の動きで、奴の下から上へ薙ぎ払われるお祓い棒を避ける。干渉領域により、体を浮遊させる魔力の効果が消え、毎秒9,8メートルという速度で体は落下を始める。

 範囲外から出ると同時に体を魔力で再浮遊させ、奴の下を潜り抜けて後方へ移動を開始した。

「ちょろまかと、ウザったいですね!」

 そう毒づく奴を肩越しに睨みながら、袖に隠しておいた妖怪退治用の針を取り出した。今は単なる時間稼ぎだが、どうしたものか。

 奴の目が見えないような状況、例えば光や砂などを使った目つぶしはやらない方がいいだろう。余計に奴を警戒させてしまい、意識外からの攻撃が難しくなる。

 前方に進みながら振り返り、左手に持っていた三十センチはありそうな針を投擲した。三本すべてが顔や肩に傷もつけず、皮膚で跳ね返って落ちて行く。

 異次元早苗は今度はこっちの番だと手のひらを向けて来る。球の形状をした大量の弾幕が放たれた。

 距離を置いている分だけ通常の打撃よりも危険度は少ないが、誘導されて近づかれるのが恐ろしい。

 多少逃げにくくても弾幕の濃い部分を通り、攻撃の手が弱い部分を避ける。普段は追う側だが、状況によっては追われることも少なくはない。いつもの要領で逃げれば問題ない。

 動きを予想されぬように、上下左右のあらゆる方向を使って攻撃を避け続ける。弾幕の張り方が甘く、これに関してはあまり脅威を感じないが、奴は次の行動に移り始めた。

 袖の中に隠し持っていたのであろうカードを取り出すと、その中に魔力を注ぎ込んで回路を起動させた。

 どのようなスペルカードかは、発動してから出ないとわからない。身構えようとした私をよそに、異次元早苗は一気に急降下していく。

 通常の人間であれば骨折では済まない速度で着地した。カードをお祓い棒で粉々に砕くと回路を抽出し、スペルカードを発動させた。

「奇跡『客星の明るすぎる夜』」

 奴のお祓い棒の先にはお札の様な白い紙がつけられており、血で若干赤らんでいるそれを天に向けて掲げた。

「…っ…まずい…!」

 確かこれは非常に広範囲を攻撃するスペルカードだったはずだ。このまま横に移動して逃げ出すのにも、降下して範囲内から逃げ出すのにも遅すぎる。

 袖の中から数枚のお札を取り出し、魔力を込めて自分の周りに配置させた。魔力の命令通り、周囲を取り囲むように配置された札は重力に従って落下せず、その高さを維持し続ける。

「…護」

 これは敵の攻撃を札に肩代わりさせ、ダメージを軽減する術だが、強力なスペルカードの前には焼け石に水だろう。

 周囲に太陽よりも明るい光が差し、身体に小さくないダメージが入り始めると、周りを浮遊していた札の内、半分がすぐさま真っ黒に焼け焦げて使い物にならなくなる。

 私を援護しようとしていた文や他の鴉天狗たちもそのダメージにやられ、地面に向かって真っ逆さまに落下していく。

 最後まで空中に残ってはいるが、次は私の番だ。最後の札が真っ黒に焼け焦げ、効力を無くそうとした時、服の襟を誰かに掴まれて後方に引っ張られた。

 あの状況でこの手助けを入れられるのは紫しかいない。スキマへ引っ張り込んでくれた彼女は、地上で開いたスキマにを後方につなげてくれたようだ。

 周囲にはスペルカードの被害にあわなかった萃香たちがおり、少し離れた位置にいる異次元早苗を睨み付けている。

「…ありがと」

「どういたしまして、次から少し気をつけなさい。こうならないようにね」

 私を隙間に引っ張り込んだ右腕をこちらに見せてくるが、火傷をしたように真っ赤に赤らんでいる。

「…ええ」

「霊夢、奴をぶっ飛ばすいい方法はなんか思いつかないか?」

 ほとんど一方的に殴られている状況で、ストレスが溜まっている様子の萃香や勇儀がギラついた目を向ける。

「…えーと。あることにはあるけど……ちょっと馬鹿げたことで確定ではないから、一度私一人で試してみる。皆は援護をお願い」

「霊夢、馬鹿げた事って…」

 紫からいろいろと聞き出される前に、彼女らから離れた。妖怪退治用の針を取り出し、スペルカードの硬直から解放されたばかりの異次元早苗へ投擲する。

 そのまま進んでくれれば頭部を串刺しにできるのだが、急停止した針を奴は掴み取り、逆にこちら側へ投げ返してくる。

 早苗もそうだったが、こういった武器を所持も扱ったこともない彼女は投げ方を知らないようだ。

 プロペラの様に回転している針は空気の抵抗を受け、投擲直後よりも速度が落ちているため避けること自体は簡単だ。

 頭を横に傾けてかわし、適切な距離を保ったまま針や札の攻撃を続けていると、私が援護してほしいと言っていたのが伝わったらしく、広く展開した河童や鬼たちが遠距離から攻撃を開始する。

 そのどちらもあまり魔力の扱いに長けていない為、石を投げると言った原始的な攻撃や銃での攻撃で、非常に目立つ。

 その方向を見ていなくても来ていることは意識しているようで、どれも彼女に到達する攻撃は無い。

 目の前に転がっている巨大な岩などを避けて走るのが面倒そうな異次元早苗は、私ではなくこちらを援護している紫たちの方向へと走り始めた。

「…ちょっと、待ちなさいよ!」

 弾幕で彼女の注意を引こうとするが、ひらりとかわして魔力で加速して接近を許してしまった。

 いつの間にかスペルカードを取り出していたようで、邪魔をする間もなく叩き割られてしまった。

 スペルカードを使用している時ならば、例外で攻撃が通るかもしれないと萃香と勇儀が左右から異次元早苗へ拳を叩き込む。

 のだが、すでに奴の姿は消えている。何もいない空を切った腕を引き戻し、周囲を見回そうとした二人にどこからか声が上がる。

「上だ!」

 あまりの速度で上空に跳躍したことで、二人には異次元早苗の姿を捉えることができなかったのだろう。

 高速で落下して来た異次元早苗が再度地面を踏んだ瞬間、攻撃を与えようとする二人を余裕で包み込むことができるほどの爆発が巻き起こる。

 地面から爆発の炎が噴き出し、放射状に広がるその攻撃は斬撃の性質が含まれているようで、巻き込まれたそばから体に切り傷を作っていく。

 比較的丈夫な鬼たちの被害はそこまでではないが、河童や鴉天狗たちの被害はかなり大きい。

 空中に逃げられた者も少なくはないが、大部分は先のスペルカードで飛べなくなっていたことも被害の大きさの原因だろう。致命傷になりにくいスペルカードではあるが、範囲が広いせいで被害が甚大だ。

 早々に作戦を実行しなければならない。

「…くらえ!」

 間近にいた萃香たちも爆発の衝撃で吹き飛ばされてしまい、周囲に誰もいなくなったことを確認した奴に向けて大量の弾幕を放った。

 わずかに速度の遅いそれらには、爆発する性質を含ませており、余裕の笑みを浮かべたままの奴の周りに、着弾すると青い炎を舞い上げて爆発を起こす。

 青い炎に包み込まれるが、歩調を緩めずに異次元早苗はこちらに歩み続ける。大量の弾幕を放ったが、放たれた角度の問題で着弾が遅い物もあり、奴の後方で遅れて爆発を起こしている。

 その爆風に煽られ、吹き飛ばされた小石や土が奴の足をかすめて転がっていく。やはり攻撃と認識されていない物は、干渉領域で止まることは無いのだろう。

 それならば奴を倒すことは可能だ。奴に認識されないように、こちらに注意を向かせ続けるとしよう。

 大量の札と弾幕を奴へと送り込む。ほとんどが結晶となって消えていき、何がしたいとこちらを馬鹿にした様に笑う異次元早苗は、ゆっくりと歩み寄って来る。

 そうだ、そのまま油断していろ。数十秒もしたら、泣きを見るのはお前の方だ。スペルカードを使おうと隠し持っていたカードを取り出した。

「カードを使うんですか?どうぞ使ってください」

 ニヤニヤと笑う彼女は弾幕の嵐の中も涼しい顔で通り抜けて来たが、空気を切り裂く音を聞き取ったのだろう。

 余裕の表情を少し崩しはしたが、高速で飛来した鉄パイプが直撃することなく寸前でピタリと止まる。

「あら、やっぱりだめね」

 皆を吹き飛ばしたスペルカードをスキマの中へ入り込むことで避けた紫が、奴から見て左斜め後方に立っていた。

「まったく、邪魔ですね!」

 私の行動を見てなにをする気なのか察して、時間を稼ぐのには効果的だったが、彼女は近接戦闘が得意ではない。

 既に異次元早苗は紫の方向に走り始めてしまっている。このままスペルカードを使用しても紫を巻き込んでしまうため、起動を一時見送った。

 異次元早苗は鉄パイプを飛ばしていたスキマを閉じた紫に向け、大量の弾幕を放つ。かなり集団性が高く、ほとんどの弾幕がそのまま直立している彼女に当たりそうだ。

 紫がそのまま弾幕を食らうわけもなく、目の前に大きなスキマを開くとその中にほとんどの弾幕を飲み込んでしまった。

 大部分の弾幕をスキマで取り込んだのち、それを閉じて飲み込み切れなかった弾を傘や自分の弾幕で撃ち落とす。

 傘の先端である石突きを走り寄ってこようとしている異次元早苗へ向け、いくつものレーザーを放つ。

 それぞれは小さく、細いがまるで意志を持っているかのように様々な方向から奴へ襲いかかるが全く意味をなしていない。

「死ね、隙間の妖怪!」

 どんな場所にでも現れ、どんな状態からでも逃げることのできる紫は、奴らからすればかなり厄介な存在だ。

 それを早々に処理できると、笑みを浮かべてお祓い棒を振るう異次元早苗は、突如として横へ弾き飛ばされた。

「やっぱり自分自身の攻撃は干渉できないようね」

 左右上下、後方前方、あらゆる方向から紫はスキマを利用して、異次元早苗の弾幕を返している。背中に目が付いているわけでもない奴は、何とか打ち払いながらも数発の弾幕を後方や左右から何度も食らって行く。

 普段から周りからの攻撃に干渉して、打ち落とす技術を磨いてこなかった弊害が出ているようで、すでに体中は傷だらけになっている。

「ぐっ…!!」

 奴は最後の弾幕を背中で受け、他の攻撃がその方向から来ていないか振り返った。弾幕が迫っているか認識する前に、その更に後方から紫は傘を頭部に食らわせた。

 意識を自分の飛んでくる弾幕のみに集中させ、後方からの攻撃に意識を向けさせなかったことで、止まるかに思えた攻撃を異次元早苗へ食らわせた。

「がっ!?」

 強化された身体から放たれた傘での一撃に、異次元早苗は面白いぐらいに吹き飛び、地面を転がった。

「霊夢!」

「…ええ!」

 あとは放つだけという段階で維持していたスペルカードを発動させた。数十個にもなる大量の弾幕が周りに形成される。

「霊符『夢想封印』」

 周りに形成された弾幕を一斉に異次元早苗へ放った。作っておいた回路通りに配置された弾幕はそれぞれ別の軌道を通って異次元早苗へ殺到する。

 消えるものが大多数だったが、それ以外は地面へ着弾し、大量の砂煙や爆発の炎を舞い上げた。

「本当、あなたは何がしたいんですか?それが効かないこともわからない程、バカなんですね!」

 紫に殴られた頭部から若干血をにじませている奴は、私に向けてそう言い放つがこうなることは予想できている。

 本命は別だ。

「せっかく作った隙を無駄な行為で捨てるとは、考えられない程阿呆ですね」

 睨み付けている私に歩み寄りながら、異次元早苗は後方をチラリと確認する。紫が他の行動を起こしていないことで、今のが決死の作戦と思い込ませるのには成功しているようだ。

「あなたたちには、死を授けてあげましょう!」

 余裕の笑みを浮かべ走り出そうとした奴へ、本命の弾幕が落下してくる。最初に放った弾幕の内の一つは、他とは違う行動をするようになっていた。

 爆発する性質で、砂煙や爆発の炎によって視界がふさがれ、奴から見えないようにしたのだ。

 本命の弾幕はある程度の高さ位まで行くと上昇を止め、落下してくるようになっていた。爆発などの性質を含ませるとやたら大きくなってしまうため、そう言ったものに魔力は使っていない。

 大部分は落下の際に加速させるもので、残りは当てるための誘導と当たった後に無くならないように弾幕を硬質化させるのに使った。

 これならば、あまり殺傷能力の高くない弾幕でも、奴を打ち抜くことができるだろう。情報はこの際どうでもいい、こっちが殺されいないようにするだけで精いっぱいだ。

 重力や自身の加速により音速を超え、落下音の聞こえてこない弾幕は異次元早苗の頭部を貫いた。

 

 はずだった。

 

 驚いた顔をしたものの、その顔や頭部には一切の傷もつけず、十数センチ手前で結晶となって消えさった。

「…なっ………!?」

 声が出なかった。完全にこちら側へ意識を向けさせ、上空から落下してきている弾幕を悟らせなかった。

 その証拠に、落下して来た弾幕を受けた時、異次元早苗は驚いた顔をしていた。理解が追い付いていない私や紫を置いて、奴が動いた。

 紫に弾幕を放ち、こちらには走り寄って来る。普段なら反応できなければおかしい距離だったが、反応が遅れた。

 それは紫も同じだったようで、胸に弾幕を受けて後方に吹き飛び、私は腹部に蹴りを食らわせられた。

「うぐっ…!?」

 激痛が体の中を突き抜ける。魔力が強化の性質を失っていることで、余計にそれを感じる。辛うじて衝撃を後方に受け流すことに成功はしたが、意味をなしていないように感じる。

「残念でしたね!もう少しでしたけど、これで終わりですよ!」

 奴は地面の上でうずくまっている私に向け、ゆっくりと歩を進める。

 理解が未だ追いついていない私は少しでも遠ざかろうと、いうことを聞いてくれない体を引きずるが、歩く者が追い付けないわけもない。

 私の頭を砕こうと、異次元早苗はお祓い棒を振り上げた。人を殺す瞬間でも笑っていられるこいつらに負けてしまうなんて。

「…っ……」

 腹部を押さえたまま、横たわる私が目を閉じようとした時、頭上を何かが通った。

 厳密には通った気がしただけだったが、周りの状況からそれが気のせいだったわけではないことが分かった。

 何かが飛んできたことが分かった理由は、何かが高速で通って行った音が聞こえてきたことと、下半身だけが残った異次元早苗の体が、すぐ近くで膝をついたからだった。

 理解できないことが起こり、脳の処理が追いついていないが分かったことが二つだけある。

 私たちの作戦が失敗したことと、異次元早苗は意識外からの狙撃によって撃ち抜かれた。ということだけだ。




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