東方繋華傷   作:albtraum

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投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした!


自由気ままに好き勝手にやっております!
それでもええで!
という方は第百二十話をお楽しみください。

謝罪として、前回の内容で紅魔館組を書くことを忘れてしまっておりました。表記されていないからいないというわけではなく。きちんといました。


東方繋華傷 第百二十話 落とされる

 血しぶきが舞う。その血液は私の物ではなく、お祓い棒で私の頭を叩き潰そうとしていた異次元早苗の物だった。

 あまりにも威力が高かったからだろう。舞っている血しぶきの中に、引き裂かれて細かく潰された肉片が点在している。

 仁王立ちしていた奴の下半身は、司令塔の脳から送られてきていた電気信号が途絶えたことで、力が抜けて倒れ込んだ。

 ドサッと倒れ込んだ下半身自体や身につけられた洋服に空気が押し出され、煽られた砂が薄っすらと残った半身に纏わるように漂う。

 本当は私の頭や体がお祓い棒で引き裂かれたのかもしれないと恐怖するが、見下ろすと半身はしっかりとつながったままだ。

「…」

 ほんの少しの間、頭の中が空っぽになってしまっていたが、近くから何かが落下してくる音が耳に届いた。

「…っ!?」

 ぼうっとしていたのによく反応できたと言えるほど、反射的に痛む体を無視して起き上がる。音は倒れ込んでいた下半身の近くから発生しており、離れた上半身が落下していた。

 顔を傾けて、異次元早苗の下半身の方を見ていたから上の方を気にしていなかったが、どうやら上半身のすべてが消し飛んだわけではなかったようだ。

「がっ……ぁぁ……くそっ………!!」

 虫の息で、あと数十秒もすれば出血により脳に回る血液が滞り、急速に意識を保つこともできなくなっていくだろう。

 私が生きていて、奴が地面を転がっているということは、誰かが干渉領域を貫いてダメージを与えたわけだが、それは誰だろうか。

 奴の上半身が落ちたことに驚いて、お祓い棒を構えていたがその必要が無くなり、構えを解いて周りを見回した。

「…」

 河童たちや天狗たちは、治療や救助に専念して攻撃する準備などできているわけがない。レミリア達の紅魔館組も同様だ。

 鬼たちはほとんどが戦闘準備の整った状態で立っていたが、私が認識できないほどの速度で攻撃できる者は誰一人として存在しない。

 紫も強力な弾幕に弾き飛ばされ、攻撃に転じるまでには早すぎるし、彼女のいる方向でもなければスキマも開いていない。

 ここに居る者で、先の攻撃をできる者が一人もいないが、あのタイミングで攻撃したというのは、私たちを助けたと認識してもいいのだろうか。

 敵であれば、今のタイミングで助けるというのはあり得ないだろうからな。しかし、こちらの世界に私たちに手助けをする人間が残っているとも思えない。

 異次元早苗の血が地面に飛び散っているが、その飛び散り方や飛び散っている方向から射手のいるであろう方向を割り出した。

 街の方からでは、血しぶきの角度が合わない。少し横にずれると、その方向は異次元早苗と戦い出す直前、火山の火口から噴き出した噴煙の様に、砂煙を舞い上げていた山の方角だった。

 奴を貫いた縦の角度がわからないため、向こう側の高さがわからない。まだこちらを狙っているかもしれないから一応警戒はしておくが、殺意などは感じない。

 もし敵意があり、異次元早苗同様に私を殺すつもりであるのであれば、奴が打ち抜かれた後に私もやられていただろう。

 異次元早苗が私に釘づけにされたことで、遠距離からの狙撃が可能となり、打ち抜くことに成功したのだろうか。

 いや、私の攻撃で頭をぶち抜くことができなかった。もしかしたら立てていた仮説が間違っていたのだろうか。

 納得がいかないが、事実私の攻撃は通らなかった。おそらく何か私が考えた仮説に間違いがあるのだろうが、それはもうどうでもいいことだ。

 奴は、もうすぐに死ぬ。

「かっ……ぁっ……ぐっ…!」

 口の周りを血反吐で汚し、腹部の断面から零れる臓物と血で凄惨的な池を作る。立ち上がろうともがいているが、そこで自分の下半身が無くなっていることに気が付いたようだ。

「足…が……」

 致命傷の攻撃を受けたとしても、命が尽きる最後まで何をしてくるかわからない。先ほどとは逆の立場となり、奴を見下ろしていると口角を上げ、笑みを浮かべた。

「良いでしょう……癪ですが、それを受けるしかなさそうですね。……さあ、やってください」

 自分の身体の半分が消えても笑っているられる奴にそう言われ、気味の悪さに引いてしまっていたが、我に返った。

 この状態でも、こちら側に危害を加えようと思えばできないことは無い。狩りなどでは狩猟の最後程気を付けなければならないと言われているため、あと十数秒の命であるが、それが尽きる前に私が止めを刺さなければならないだろう。

 これまで何人殺してきたかわからない残忍さや、首の骨を平気で折れる容赦のなさを持っている彼女だが、人間には変わりない。

 どんな極悪な人間だって、人間だ。その人間を殺すとなるとやはり抵抗感はある。しかし、私がそれをしなければならないだろう。

 鬼や紫でもこの状況なら奴を殺すことはできるだろう。妖怪で私よりも人間を殺すことの抵抗感は薄いから。

 いつもとは全く違うこの異変をやり遂げるという覚悟が、今の私には足りない。彼女たちにそれを任せていては、いつか近いうちに負けを見る。そうなってからでは遅すぎるのだ。

 人間を殺すという罪悪感や罪の意識を心の奥底へ追いやり、笑ってこちらを見ていた異次元早苗の方へ歩み寄る。

「…?」

 先とは逆で、奴の頭をお祓い棒で叩き潰そうとしていたが、こっちを見ていると思われていた異次元早苗の瞳が、私を見ていないことに接近したことで気が付いた。

 ならば奴は誰を見て、誰にさっきの台詞を言ったのだろうか。

 異次元早苗の見開かれた瞳の方向を追って、後方を振り返ろうとすると、視界一杯に蝶々の形を模した大量の弾幕が広がっていた。

「…!?」

 春先や夏に見られる生きている蝶々に非常によく似た羽の動きや、体全体の動作でランダムに羽ばたいている。

 赤や青、緑や黄など様々な色が入り混じり、綺麗な色彩を彩るが、楽しめるわけがない。この特徴的な弾幕は、幽々子が使う物だ。

 こちらの幽々子は既に死んでいるのは、この目で見た。ここに居るのは、異次元幽々子で確定している。

 羽の羽ばたき方や体全体の動作はかなり精工に再現されているが、羽ばたいていく方向や高さが通常ではあり得ない個体がいる。

 それの影響か、数百から数千にもなりそうな数の蝶々が地面から空まで幅広く生息し、視界を塞いでいる。その中で、私たちが向かおうとしていた森の方向に、想像したとおりの人物が浮いていた。

 自分に当たりそうな弾幕だけお祓い棒で叩き壊し、広げいていた扇子を閉じた人物を注意深く観察した。

 数十メートルほど離れているが、その服装はこちらの幽々子とそう変わりのない物だった。変な模様の書かれている三角巾が縫い込まれている帽子、肩よりも高い位置で切りそろえられている桃色の髪、青色で白い花柄の模様のある着物、濃い青色の帯、その手にはグラデーションで赤から青へ色が変わっている大きな扇子が握られている。

 蝶々の弾幕が出現したことで、周りの妖怪たちも異次元幽々子のことを発見し、戦闘体勢に移行していくが、攻撃を加えられる前に奴は所持している扇子を大きく広げてみせ、彼女たちの方向へ小さく薙ぎ払った。

 薙ぎ払ったそばから弾幕が発生していく。風の流れに色が付けられ、視覚で認識できる。

 巻き起こった風が渦巻きを作ったり、細長い線が作られて行き、空中には線状の弾幕が大量に出来上がっていく。

 空中にまるで絵が描かれたような光景は、それを眺めている物を圧巻する。虹色の長い線は複雑に絡み合い、様々な模様を形成する。

 呑みの席であれば、酒のつまみにできそうなほど綺麗な景色だ。しかし、ここで楽しめる者は一人もいない。

 死を操る程度の能力はここにいる全員が適用されるため、緊張したおもむきでその攻撃を観察している。すると、線状に伸びきっていた弾幕が所々で千切れだした。

 千切れていく弾幕は細かな点で線を形成していたが、点は形状が変化すると先と同様に様々な色の蝶々へと変化する。

 遅すぎる動作でゆっくりと羽ばたくそれらは、一つ一つが意識を持ったようにこちらへ向かってランダムに進み始めた。

「くるぞ!」

 怪我を負っていない妖怪たちが率先して弾幕を叩き落し、怪我を負って動けない者を助ける。非常に良いチームワークだが、そのうちに異次元幽々子は次の手に移る。

 少し遠くて細かな表情や雰囲気はわからないのだが、その瞳がこちら側を捉えていることだけはわかった。

 ゾクリと背中の肌を冷たい物が撫でていく。死と呼ぶのにふさわしいそれは、首筋を撫でると後方へ私を引き寄せようとするようなイメージを植え付ける。

 少しでも気を緩めれば、死が、死を誘う死神のようなものに、魂を持っていかれる。そんな恐怖が全身を駆け巡る。

 振り返れば死神がそこに立っていそうなプレッシャーを全身で感じていたが、それが狙っているのは私ではない。

 すぐ後ろに倒れていた異次元早苗の方を振り返ったころには、もう既に呼吸が止まり、意識を感じられない瞳は虚空を見つめていた。

 奴の状態や経過していた時間から、もう十数秒だけ意識を失わずにいたはずだが、ぷっつりとこと切れたようだ。

 臓物の浮かぶ血だまりに沈んでいる異次元早苗は、口封じで殺されたようだ。奴からは情報を聞き出すつもりは元から無かった、聞けるものなら聞きだしたかったが、それも叶わなくなってしまった。

 そう考えていたが、異次元早苗の後は私が狙われる可能性があり、再度振り返ると奴は背を向けて飛び去ろうとしているところだ。

 前線が総崩れになっている状態で、奴と対峙することにならなくて安堵している部分はあるが、それと同時に疑問が残る。

 これだけ徹底的に情報漏洩に対策しているから、私たちが情報を知れないということもあるが、本当に口封じだけだったのだろうか。

 あの時点で異次元早苗が死ぬことは確定していた。たった数十秒程度では伝えられることにも限度がある。

 そのまま放置すれば死んでいた者を、わざわざ異次元幽々子を使って殺した理由はなんだ。死ぬまで待てないことが、あったのだろうか。

 わざわざ弾幕を使って私の注意を引いて、自分の能力でわざわざ殺した。確実性を上げる為なのか、他の目的があったのかもしれない。

 今の情報量では推測にも限界がある。とりあえず考えるのは後だ。これだけのけが人が出たのだ、医者を呼ぶとしよう。

 全ての弾幕が消え、また大なり小なりの被害が出てしまっている。その一人である紫の元に走り寄った。

 戦闘によって服が薄汚れてしまっている彼女は起き上がろうとしているところで、起きるのに手を貸してやる。服や体の様子を窺うと私以上にダメージを負っていそうだ。

「…紫、永琳を連れてきて。向こうに戻るには時間がかかりすぎる」

「ええ、そうするとしましょう」

 自身の前に、高さが二メートルにもなる大きなスキマを作り出す。別の世界から向こうの世界の永遠亭まで、直でつなぐことができるのかはわからないが、スキマの奥には自然が広がっている。

 景色には戦闘の痕跡と思わしき痕が見て取れる。木々が折れていたり、地面には捲り返って乾いてしまっているが内部の土が露出している。

「少し待ってて」

 そのスキマの中へ彼女は歩んでいき、向こう側へ渡ると瞼を閉じる様に閉まり切ってしまった。

「…はぁ」

 異次元早苗は死に、異次元幽々子は飛び去った。遠くから敵を打ち抜いた謎の狙撃手も今はこちらを狙っていないのだが。

 こっちに来てからの状況がよくわからない。こちら側に仲間はいないはずで、誰かに狙撃を頼んだ覚えもない。

 それに長距離からの攻撃で、胴体に風穴を開けて身体を上と下に分けるような攻撃など、見たことがない。

 魔力的な物であれば、それだけの威力を出すならばサイズがデカくなったり速度が遅くなるからこれは違うだろう。

 物理的な、銃などであれば可能であるだろうが、発砲音が一切聞こえず、数キロ先から正確に異次元早苗へ当てることができるだろうか。私が知らない兵器でも使われたのだろう。

 しかし、そうなるとこの世界側の人間が打ち抜いた説が濃厚になる。私のいたこっち側では、河童たちでさえそんな武器は持っていなかったからだ。

 私を助けてくれたか、もしくはたまたまタイミングが被っただけなのかわからないが、おそらく後者だと思う。

 物理的な攻撃であるため近代兵器を持っている河童達が上げられるが、そうなると私たちを狙わなかった理由がわからない。

 他の誰かがやったということだろうか。となると誰がやったというのだろうか。こっち側ではそれをやってのけられる人物は思い浮かばない。

「…」

 一瞬だけ、頭の中にあの魔女のことが思い浮かぶが、すぐに否定した。あいつは魔女で、魔法が得意なのだ。数キロ先から体を物理的にぶち抜くことなどできやしないだろう。

 それに、私たちの敵だ。

「…」

 今は体の治療に専念するとしよう。魔力で強化していない状態で蹴りを受けたり、攻撃を手で受け止めたのだ。これを治してからでないと次の戦いに支障をきたしてしまう。

 

 

「はぁっ……はぁっ…!」

 獣道すらない森の中を、適当に突っ走る。ビリビリと痺れて使い物にならない右腕を左手で庇いつつ、すぐに攻撃できる体勢で木々から伸びた枝を押しのけて進む。

 伸びている木の枝は水が行き届いて瑞々しく、簡単には折れずに曲がって、押しのけようとしている私の行動に対して最大限抵抗する。

 木の戻ろうとする力が押すごとに強まり、密着している肌を圧迫して擦り傷を作る。枝だけではなくそこに生えている葉っぱも鋭利な部分があり、露出している肌に小さな切り傷を残す。

 夏で半袖を着ているのが仇になってしまっているが、どうせすぐ再生する為放っておいても構わないだろう。

 薄皮一枚切れる程度であったとしても、皮膚上に点在している痛点を刺激することもあり、無理に通ろうとすればするほど受ける痛みは増加する。

 無くしてしまった帽子が恋しい。あれを深くかぶれば小さい枝や葉っぱなどは無視して通ることができただろう。

 今は頼りなく肩から垂れ下がる右手と、草をかき分ける役目と敵を攻撃する役目を持つ頼りない左手だけだ。

 片腕一本ではロクに枝や葉っぱをかき分けることができず、先ほどから枝のパンチを食らいっぱなしだ。

 木々が密生していて、いつこの雑木林を抜けられるのかがわからず、片腕で顔の前をガードしたまま、歩を速めた。

 この辺りには僅かにだが獣の匂いが漂っている。これだけ広い幻想郷だから生きていても不思議ではないが、野生の猪か熊がいるのだろう。右腕が使えない時に会いたくはない。さっさとこのエリアを突っ切ってしまおう。

 魔力で身体を更に強化し、細い木の枝をへし折りながら一気に駆け抜ける。スピードをつけたことで、葉っぱに包まれている身の丈ほどの木に突っ込んでしまった。

 枝が顔にガンガン当たる。目にだけは当たらないように注意しつつ木の中を走り抜けると、ようやく獣道に出ることができた。

「っ…はぁ……!」

 後方を確認し、注意深く目を皿のようにして見回さなければ気が付かないほどの獣道を、左右どちらも確認する。

 左手が特にひどいが、顔や右腕にも木の枝に叩かれた打撲の様な跡や、葉っぱで薄く切り傷ができてしまっている。

 ぼさぼさの髪や、血と土で汚れてしまっている魔女の洋服に、雑木林を無理やり通る過程で千切れた草や、細い木の枝が服についてしまっていたようだ。

 まだ動かすことができない右腕の代わりに、左手で頭や肩などの草をはたき落とした。足の前に落とした葉っぱがひらひらと舞って行く。

 他にはついていないことを確かめ、左右のどちらに進むとどこに着くかわからないが、とにかく歩き出した。

 異次元勇儀から、異次元早苗を狙撃するまで連続で戦った。後者については狙撃しただけだったが、初めてのことに少しダメージを負ってしまった。

 体は異次元勇儀と戦い終えた時以上に疲労しているから、少しの間でもいいから休息を取りたい。

 足が持ち上がらず、重たい足取りで地面に足を擦って歩く。身体を強化していてもこの疲労感だ。強化を解けば、そのまま眠りについてしまう可能性が大きい。

「…」

 身体強化を解かなくても、休むためにどこか隠れられそうな場所がないか探しながら歩いていると、ようやく右腕の自由が戻って来た。

 稲妻状の真っ赤な痣が、右腕全体に広がっている。今はその右手の指先をピクピクと少し動かせる程度だが、時期に回復するだろう。

 異次元勇儀を倒した直後、紫の連絡を受けて異次元早苗のことを狙撃したが、撃ち抜けて良かった。

 異次元河童たちが撃ってきていた一センチ程も直径があるスラグ弾の一つが、カバンの中に紛れ込んでしまっていて、それを狙撃の際に使った。

 私には狙撃の知識と経験などは無い。撃ち上げ、撃ち下ろし、水平での射撃全て弾丸の飛んでいく軌道は違い、更に風の流れ、湿度、重力、空気中の塵、地球の自転によるコリオリの力も考慮して弾丸を放たなければならないらしい。

 そんなのやってられん。

 それに、球状の弾丸は空気の抵抗を受けやすくてまっすぐ飛ばず、飛距離が数十から数百メートル程度しかない。

 飛距離を伸ばすのには、撃つ角度を大きくして山なりに飛ばしてやればいいが、先ほど言ったように数キロ先にいる米粒よりも小さな人物に、弾丸を当てることは私には不可能だ。

 更に時間の問題も出て来る。たとえ向こうまで飛ばせることができたとしても、射撃から着弾までが十数秒もあり、その偏差をつけられる自信がない。魔法で光の屈折を利用して、奴のいる場所をズームしてみることは可能だが、

 仮にマッハで弾丸を飛ばしたとしても、四キロ先までの着弾に約十二秒ほど時間がかかる。一度外せば奴が感づいてしまって、もう一度やろうとしても難易度が急激に上昇してしまう。

 だから、時間の差があまりなくなり、直線で飛んでくれるように弾丸に細工を施すことにした。

 外の世界にはレールガンと呼ばれる兵器があると以前聞いたことがある。それは電磁誘導という小難しい現象を利用して、弾丸を最高速度マッハ7で撃ち出すことができるそうだ。

 距離を約4キロとし、弾丸をマッハ七で飛ばせたとしよう。マッハ1は秒間340メートル程度であるため、マッハ七では秒間2000メートルを軽く超える。その速度であれば、二秒以内に異次元早苗を打ち抜くことができる。

 二秒間の偏差をつければいいということだが、エネルギー弾など遅い弾丸をいつも使っている私からすれば、いつもやっていることと変わらないということだ。

 原理等はよく知らない為、手のひらや腕全体にレールガンのレールの性質を加えた。これだけでは飛ばすことはできても方向が定まらない。

 それを定めるために弾丸の乗っている手のひらから、異次元早苗の方向へ向けて魔力を直線で伸ばし、真空の性質を加えた。

 これで空気抵抗による減速と、空気を押しつぶしたときに発生する熱を防ぐことができる。

 空気は圧力を加えられると温度が上昇する。例えば、隕石がなぜ燃えながら落下してくるのかは、地球の大気圏に突入してきた際、あまりの速さであるため空気に圧力がかかり、急激に温度が上昇して発火してしまうためだ。

 金属であるためある程度の熱には耐えるだろうが、マッハ七という早すぎる速度により、空気中で燃え尽きてしまったら困るから、一応の対策だ。

 次に弾丸に電気の性質を加える。電気は絶縁破壊電圧という物があり、空気中は高い。これが高いと電気は放電しにくくなる。

 絶縁破壊電圧は空気中よりも真空中の方が低く、こちらを通りやすいため、まっすぐ伸ばした魔力の中を通ってくれるだろう。

 ここで、電気の性質を持っているならば、電気の速度で弾丸を飛ばした方がわざわざレールガンの性質を加えたりしなくてもいいのではないか。と疑問に思うかもしれないが、状況が状況だからそうもいかない。

 確かに電気の速度はレールガンよりも速いが、その速すぎる速度により弾丸が空気中で燃え尽きてしまう可能性が高い。

 奴が気付かないように、真空は100メートル程手前で途切れており、雷の速度だとその距離でも空気抵抗や摩擦熱で燃え尽きてしまうだろう。

 そして、真空中を通るという移動以外に雷の性質を使ってしまうと霊夢にも当たってしまう可能性が出て来る。

 雷は基本的に近くの物体へ落ちる。雷が鳴っている時には木の近くに立つなと言われるのはこのためだ。

 であるため、もし霊夢が異次元早苗よりもこちら側に立ってしまえば、弾丸は真っ先に霊夢へと向かってしまう。

 であるため、真空中の時のみ雷の真空中を通りやすいという性質を使うのだ。そうなると後はタイミングが問題となる。

 いくら二秒で着弾するようになったとしても、タイミングをミスれば異次元早苗を捉えることができない。地面に当たったり飛んでいくだけならばいい物の、霊夢へ弾丸が当たってしまうのは最悪の出来事だと言える。

 紫は意識外からの攻撃ならば通るかもしれないと言っていたが、本当だろうか。不安は残り、チャンスも一度しかないが、それ以外にいい案も浮かばないからやるしかなかった。

 そうやって撃ち抜くことに成功したが、普段からあまり使わない電気系統の魔力をうまいこと扱いきることができず、電気の一部が体に流れてしまった。そのおかげで、一時的に右腕を使用することができなくなってしまっていたのだ。

「……」

 腕を試しに持ち上げて見ると、あまり抵抗なく肩の高さまで上がってくれる。しかし、それ以上上げようとするとかなりの力を込めなくてはならず、しばらくは安静にした方がよさそうだ。

 切り傷などの外傷はすぐに治すことができるが、組織の一部が死んでいたり、抉られている場合は切り傷よりも治癒が遅い。

 強い電流の通った組織が壊死し、それを代謝で取り除いてから新しい組織へ置き換えていくので、通常よりも治りが遅い様だ。しばらくはこのままでいるしかないだろう。

 皮膚の焼けるような痛みが絶え間なく続いている。鬱陶しいこの痛みとどれだけ付き合うことになるのかはわからないが、嫌になるな。

「…」

 鬼たちの屋敷でしばらく休んでかなり体調は良くなったと思っていたが、異次元勇儀にかなり削られたようだ。身体を強化していても体のだるさを拭いきることができない。

 森の中を歩いているだけであれば平和な日常風景が瞳に映る。局所的に言えばそうなのだろうが、幻想郷全体で見れば平和な場所などはどこにもないだろう。

 歩き出してしばらく経ち、森の木々が先ほどよりも密生して生えだしてきたところで、元々わかりづらかった獣道を見失ってしまった。

 ここからは自分で移動していくしかないが、どの方向に向かうとするか。獣道が進行方向で途切れているということは、ここを使っている人物がこちらに向かっていたと考えていいだろう。。

 反対に獣道がしっかりわかるようになって行けば、ここを使っている人物の拠点に近づくはずだ。

 地面を確認しても、ここ数十分から数時間の間で誰かが通った後は地面に無い。石が裏返った痕はあっても、表面に付着している土がからっからに乾いて湿ってもいない。

 森の中で木々が濃いため、光もあまり入ってこず湿気も高い。この道をしばらく通っていないことを証明しているが、獣道ができていることから頻繁には使っていないが利用はしていることが窺える。

 次にいつ通るかわからず、そいつが好戦的だと困る。疲労もあるからここは無理に戦わずに大人しく退くとしよう。

 がさがさと草むらをかき分け、横道に逸れた。先の射撃で発射元を特定されて、そこから連戦しないようにがむしゃらに逃げていたが、森の中ということもあり方向感覚が狂ってしまった。

 大体の方角はわからないことは無いが、誰かに見られているリスクを考えると、できれば空を飛ばないようにしたい。狙撃をした場所は鬼がいる山だったからよかったが、そこからかなり離れてしまった。天狗たちの住む山に入ってしまえば地上を白狼天狗に、空を鴉天狗に追われることになるだろう。

 ここが天狗たちのテリトリーでないことを願いつつ、歩を進めた。ちょっとした傾斜を上り、急な斜面を注意深く降りる。

 例え転げ落ちて足の骨が折れても魔力で治すことができるが、痛いのはさすがに嫌だ。あの激痛は耐え難い。

 湿った地面で滑り落ちないように、木の根や木の幹を利用して斜面を下りた。上るよりも時間がかかったが、怪我をすることなく降りることができた。

 湿った地面や落ちている葉っぱが土にまみれていないから、ここらには誰かが立ち入っているということは無いようだ。

 辺りを確認すると、少し木々が濃いように見えたが、獣道に着く前に走っていた場所よりは薄い。顔が傷だらけになる程ではないだろう。

 更に注意深く周りを見回してみると、木々で隠れていて降りている間は気が付かなかったが、少し歩いた所で大きな岩が降りて来た斜面の途中から突出しているのが見えた。

 その岩は斜面から生えており、そこで支えられている。埋まっていた岩が露出したわけでも、どこからか転がってきたわけでもないから、下には人が入れる空間がある。

 ここなら空から見つかることもないし、周りに生えている木々によって私の姿もカモフラージュされることだろう。

 少し地面が湿っていてそれが我慢ならんが、汚れについてはもともと血や泥で汚れているからそこはいいや。

 近くの木の枝を数本折り、その葉を座る場所に敷くことにした。少し湿っている地面に直接座るよりはずっといい。

 地面の色が茶色から緑へと変わり、これで座ってもお尻が濡れることは無いだろう。広めに葉を敷いておいたから、寝ることもできるが寝ない方がいいだろう。

 三十分でもいいから、できるだけ休むとしよう。即席でできた絨毯の上に座り込み、一息ついた。

 脱力感に全身が包まれ、このまま身体強化を解いて泥に沈み込むように寝ることができれば、どれだけ楽だろうか。

 眠りにつきたい気持ちは大きいが、今は少し我慢だ。一度は疲労感から寝てしまって異次元萃香達にお世話になったが、これからはそうもいかない。だから、この異変が終わるまでは寝ることはできるだけ控えなければならない。

 霊夢達がこちらに来ているため、それを良く思わない異次元霊夢達が何時潰しにかかろうとするかわからない。それを防ぐために注意をこちらに向けさせて狙われる先を分散させ、少しでも戦場をかき回さなければならないのだ。

 携帯食料がまだ鞄の中に残っていたのを思い出した。鉛のように重たい四肢を投げ出して寝転がっていたが、痺れがまだ強く残っている右手を肩から下げている鞄に伸ばし、雑に銀紙で包んでおいた食料を手に取った。

 大雑把な腕全体の動きであればそこまで困難というほどではないが、手や指先など末梢に行けばいく程に自由がきかなくなる。

 今の右手で梱包を解くのは難しい。左手で梱包を剥がして、ビスケットに似た乾燥された食べ物を剥きだした。

 それを周りの風景を観察しつつしばらくの間齧っていると、背中に背負っていた妖夢の刀のことを思い出した。

 そう言えば、彼女が全ての魔力をこの剣に移してから、いろいろあって一度も話していない。そろそろ話しかけてもいいかもしれない。

 紐で背中に背負っていた納刀された刀を膝の上へ下ろし、鍔付近の鞘を握り込んだ。ずっと背負っていてあまり感じなかったが、手に持つとずっしりと重い。

 彼女は片手で軽々と振るっていたりしていたが、私にはそういったことをする筋力は鍛えられてこなかった。綺麗な太刀筋でなければ刀は簡単に折れたり曲がってしまうから、そこが心配だ。

 かなり鍛えられている業物であるのと、魔力で強化して使用や彼女の知識である程度はカバーできるだろう。

 咲夜は銀ナイフの複製を作ってオリジナルの銀ナイフでは戦わないので、いくら複製品が壊れてもよいが、妖夢の場合はこれ一本で戦っていて複製なども作り出したことがない。このオリジナルの刀一本でやっていくしかないわけだ。

 もしこの楼観剣が壊れてしまったら、妖夢がどうなるかがわからない。戦う際にはそれに気を使っている暇はないだろうが、折れたりしないように気を付けながら戦うとしよう。

 刀に含まれている魔力に意識を向けて見ても、ごちゃごちゃと様々な性質が折り重なって詳しく探ることができない。とりあえず、彼女と話して今後の方針を決めていくとしよう。

 刀身を引き抜くため、紐で綺麗に飾られている柄に手を伸ばした。

 ひし形の模様が柄の頭から縁までずらりと並んでいる柄を、妖夢よりも華奢な手で握り込むと、私の魔力の波長に変換された魔力が流れ込んでくる。

 彼女も話したいことがあったのだろうか。早速話を始めようとした時、咲夜の時とは比べ物にならないほどの復讐の憎悪が流れ込んできた。

「なっ!?」

 咲夜は利己的に話をしてくれたから、今回もそうだろうと完全に油断をしていた。彼女は私に影響を与えすぎないように最小限に憎悪を抑えてくれていたが、妖夢はそのつもりはない様だ。

 怒りや憎しみなど、炎の様に膨れ上がっている様々な憎悪が織り交ざっている負の感情が、私の中を広がり蝕む。

 彼女の感じた恨みや、怒り、憎しみが頭の中に抑えられることなく流れ込むと、あまりにも強い感情に押し込むことができない。

 脳内が自分ではない何かに犯される感覚に耐えきれず、私は自然と頭を抱えて叫び声を上げていた。

「っ…ああああああああああああああああああああああっ!!?」

 そう言った配慮ができないわけではない。咲夜と同様で誰かに仕えている彼女は、私よりも配慮ができる子だ。

 なのになぜここで、私に流れ込んできた憎悪が抑えられたものではないのか。それは、私に対しての敵意を抱いているからだろう。

 妖夢たちの目的を果たすのには私は不可欠であり、それを壊してしまっては本末転倒なのはわかっているようで、私の波長に調節された彼女の魔力が私の体の中へと流れ込んでくる。

 油断して受け入れ態勢へなっていた私は、脳への直接的なバイパスを作ってしまっており、そこを通って来た魔力は難なく脳へ侵入する。

「こんにちは、あなたの体を少し借りますね」

 ドスが効き、有無を言わさぬ物言いの声が脳内に響き渡る。妖夢に首の後ろから腕を回され、耳元でささやかれているようなイメージを感じた。

 体を少しの間借りる。この流れでそれを許してしまえば、確実に友好的な使われ方はしないだろう。

 こちらが同意する前に、彼女の支配が進行しているのか、体の自由がきかなくなり始めている。

 抵抗しようと魔力で脳内にいる彼女のことを追い出そうとするが、時すでに遅しだったようだ。

 首の後ろから彼女に腕を回されたと思うと、手のひらで顔を掴まれ、後ろ髪を引っ張られた。体重をかけられ、落下していくのとは違う体が浮いていくのに似た感覚に襲われる。

 意識が遠ざかるのを感じる。粘着質の高い泥のような物の中に身体を沈まされ、身動きの取れなくなった私の額に彼女は靴を乗せた。

「さようなら」

 その靴を掴もうとする間もなく、妖夢は力をかけて泥の中へ私をねじ込んだ。ドプンと意識の沼の中へ沈むと意識の遠ざかりは加速化していく。

 意識的な部分を彼女に乗っ取られ、無意識の中へ私は蹴り落とされてしまった。

 




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