東方繋華傷   作:albtraum

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4/4に投稿するとしていたのですが、遅れてしまって本当に申し訳ございませんでした!!!!!!!

投稿ボタンを押したと思っていたのですが、誤って消してしまっていたようでした。

以後、気を付けます。




自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
という方は第百二十二話をお楽しみください!


東方繋華傷 第百二十二話 支配②

 光の加減で白く反射している刀身が横凪に振られる。細い腕や首どころか胴体すらも切断しそうな勢いのある大太刀は、私の頭の上を通過していく。

 頭の動きに比べて、ワンテンポ遅れて動く髪を掠ったようで、大太刀が振られ切ると真っ白な髪が数本はらりと落ちて行く。

 この体の本人は前に見た時には金髪だったと記憶しているが、今は私の髪と全く同じ色をしている。

 あれからどれだけ時間が経っているかわからないが、戦いが続いている環境で髪を染めている時間は無いと思われる。何があったのだろうか。

 まあ、どうでもいいことだ。今もだが私から主導権を奪おうとしている彼女は、咲夜さんや早苗さんを殺したとされている人物だ。

 友人を殺された怒りから許せなくはあるが、目的を達成するまでは最大限に利用させてもらうとしよう。

 ゆらゆらと空気の抵抗を受け、ゆっくりと落ちて行く髪からは目を反らして体を前進させる。

 しゃがみからのダッシュの瞬発力を使い、目と鼻の先にいる鴉天狗の胸に観楼剣の柄を叩き込んだ。

 柄の頭で殴られ、肋骨が数本折れたようだ。武器を取り落とし、苦しそうに胸を押さえて膝をつく。

 この鴉天狗の女性は脅威があまりなく逃がしてもいいのだが、また襲われても困る。

 私に切り殺されると察し、逃げ出そうとした頃にはもう遅い。微かな切断音を響かせ、胴体よりも遅れて落ちて行く頭部の髪を掴み取る。

 真っ黒な髪にぶら下がる鴉天狗の顔は、首を切断されたことも気が付いていないような表情だ。

 その頭を投げ捨てようとすると、後方でガサリと草をかき分ける小さな音がする。新たに出現した敵に、肩越しに振り返らず体全体で向き直る。

 血と臓物の匂いしか残っていない進んで来た道には、案の定、隠れていたか今しがた来たばかりの鴉天狗が太刀を握り、走り出していた。

 左手で掴み取った天狗の頭部を彼女へ投げつけ、私と同じぐらいの身長しかない鴉天狗よりも、体の重心を低くして駆け出した。

 元仲間の遺体ということで、倫理的な部分が働いたようで、手で叩き落としたり太刀で切り裂いたりする事無く、その胸で受け止めた。

 受け止めるか避けるかで判断に迷ってしまったのだろう。、それなりに重量のある頭部が胸部に当たり、肋骨に亀裂を生じさせたようだ。乾いた音が彼女の胸元から聞こえてくる。

 ぐっとその激痛に堪えようとしているのが顔から見てわかる。この隙を使わない手はない。

 正直、生きていた者の頭部を武器として使うというのには、気が引ける部分があるが、こんなことにいちいち時間を使っていられない。

 観楼剣の射程に入ると同時に得物を振るう。太刀を握っていた彼女の右腕を、二の腕から切りおとした。

「ああああああああああああああああっ!?」

 投げつけた頭部から溢れた血液で胸を汚していたが、切断面を押さえた左手や右足も本人の血によって濡れていく。

 激痛で痛いのはわかるが、こちらも時間があまりない。脅威度が低くなった彼女に、今までと同じ質問を投げかけることにした。

「魂魄妖夢の居場所を知っていますか?」

「っ…あぁぁぁっ………」

 私の質問に対して痛みでそれどころではない鴉天狗は、膝をついて呻くことしかできないが、問いかけられたことに少しでも脳が働いたのだろう。今までの天狗たちと近い表情をする。

 彼女も知らないようだ。やはり階級の低い天狗は、大事なことは聞かされていないのだろう。

 ある程度階級の高い異次元文に話を聞いてみるしかない。生きているかどうか、生きているのであればどこにいるのか、聞いてみるとしよう。

「文は、生きていますか?生きているならどこにいるかわかりますか?」

「あ、文…?……文なら…屋敷に……」

 額に脂汗を浮かべている彼女は、息絶え絶えにそう呟く。しかし、呼吸がままならなかったことや、痛みで思考能力が低下していたのだろう。

 言い終わるとしまったと顔を歪ませる。眉を吊り上げ、人間よりも強い腕力とスピードを生かして肉弾戦を挑んでくる。

 私の質問内容に異次元文なら答えられる。それをさせないように、片腕が無くても襲いかかってきたわけだが、情報源が自分たちだとバレれば異次元妖夢に消されるからだろう。

 スピードが速いと言えば天狗の代名詞だというのに、片腕が無くて重心も上手くとることができず、まったく加速ができていない。

 私の全力疾走に毛が生えた程度の速度しか出ていない鴉天狗は、前に足を突き出す形で蹴りを放ってくる。

 単調な攻撃は避けることなど他愛もなく、蹴りの軌道上から体を横にどけつつ、観楼剣で下から太ももを切り裂いた。

 骨すらも抵抗感なく断ち切り、肉体を通過する。体に含まれている水気の粘着性により、ほんのわずかな間だけ、体の正常な形を保った。

 それもつかの間だ。一拍の間を置いて、切られて支えの無くなった身体がずるりと落ちて行く。

 それが地面に落下する前に、振り上げていた観楼剣を私の頭の上に構え直し、鴉天狗の頭に叩き込んだ。

 大腿骨の頑丈で太い骨すらも豆腐の様に切り裂いた刀は、止まる事無く頭部から胴体までを真っ二つにしてしまう。

 走っていた慣性に従い、左右に分かれた肉体は両側を通り抜けると直ぐに倒れ込んで真っ赤な血だまりを作る。

 腹部からは長いチューブ状の臓器が零れ、茶色に近い排泄物を切り口から覗かせている。切りあいの後に必ず漂う血と臓物、排泄物の混ざり合った独特な匂いが辺りに充満している。

 前方に広がる通って来た道には鴉天狗の死体が無数に横たわっている。ほとんどの死体は、頭部を含めて体の各器官が欠損している。

 腕や足だけでなく、下半身が無くなって居る者や、背中の羽が半ばからへし折られたり切られて無くなっている者もいた。

 自分で築いたものが広がっているが、そんな中でこちらが関与できない部分に、共通点があることに気が付いた。

 死体はほぼ全て鴉天狗なのだ。白狼天狗を殺したのは最初の一人だけで、あとは姿を見てもいないし、逃げている所も目にしていない。

 大太刀と盾を装備していて、鴉天狗よりも戦闘体勢が出来上がっているが、それは戦闘で勝利を収めやすくする物ではないということだろうか。

 こちらの世界の話だが、白狼天狗の多くは哨戒と呼ばれる役職についていたはずだ。敵を見つけたら警告や上司へ報告する仕事だった気がする。

 それがこの世界でも行われていることなら、鴉天狗のみが強襲している理由になる。白狼天狗は鴉天狗よりも耳がいいことも、哨戒の役割に適している理由の一つのはずだ。

 そうなれば、これまで何人も鴉天狗を切り殺し、魂魄妖夢はどこにいると質問していた。私の目的は連中に筒抜けということか。

 まあいいだろう。異次元霊夢達と異次元妖夢はつながりがある。紅魔館で異次元妖夢と接敵した時、彼女は戦いをするという体勢ではなかった。

 私は遅れて来たから確定ではないが、誰がいるかもわからない敵地に赴くのに納刀したままなわけがない。それに、幽々子様を殺した後にわざわざ首を持ち帰るというのも不自然だ。

 首を持ち帰ることが奴の悪趣味だと言われればそれまでだが、異次元妖夢の行動は幽々子様を殺し、その証拠を提示するための様に見えた。

 天狗たちが異次元霊夢達とつながりがあれば、異次元妖夢と会える可能性が高くなる。天狗が異次元霊夢とつながりが無くても、異次元文に話を聞き出せばいいだけの話だろう。

 しかし、天狗らが異次元霊夢らとつながりがないというのはあり得ない。今切り殺した鴉天狗がここまで必死になるというのは、異次元妖夢の居場所を吐いて、彼女とつながっている異次元霊夢に裏切ったと思われるのが嫌なのだろう。

 もし裏切ったと判断されれば、天狗たちは皆殺しにされるはずだ。

「はぁ…」

 幽々子様が異次元妖夢に殺されたことを思い出し、はらわたが煮えくり返るが、奴の剣術については学ぶべき部分は多い。

 それもそれで自分の技量の低さに苛立ちを感じるが、奴から戦いながら技術を吸収し、絶対に討って見せる。

「……」

 更に進もうとしていると私の奥深くで、体の本人がこちらに何かを語りかけてこようとしているが、それを押し殺した。

 彼女には耳を貸さず、後方を振り返って獣道を歩こうとした時、上空から視線を感じた。

 先は戦闘をしていて気が付かなかったが、敵が居なくなったことでその気配を感じ取れた。

 顔を上げると木々の葉が生い茂っているせいでよく見えなかったが、背中から真っ黒な羽を羽ばたかせていることから、奴も鴉天狗だとわかった。

 私が立ち止まって上を見上げ、自分を見ていることに気が付いたのだろう。翼を浮遊していた時とは違う形で羽ばたかせると、今までの天狗とは比較にならないほどの速度でどこかへと飛び去った。

 その姿を目の端で捉えるので精一杯だったが、山の頂上付近へと消えていくのは見えた。あの速度、あいつが異次元文だろうか。

 追いつけるかどうかがわからないが、異次元妖夢の居場所を聞き出すためには、異次元文から情報を聞き出さなければならない。追うことにしよう。

 上を向いていて、隙ができていると思っていたのだろう。私の後ろに回っていた鴉天狗は翼を羽ばたかせ、突進してくる。

 その荒々しい気配に気が付かないわけがなく、振り返りざまに横に一閃太刀を振るうと鮮血が飛び散り、上半身と下半身が分かれた鴉天狗が落下してくる。

「ぐっ!?…あああっ!?」

 丈夫すぎるというのも考え物だ。人間なら十数秒で意識を失うような怪我でも、妖怪なら数分は苦しむことになる。私は長いこと誰かを苦しめるのは性に合わない。

 異次元の連中、こいつらがいるから幽々子様が死んだ。そう思うと許せないが、目的はこいつではない。武士の情けというやつで、苦しまないように解釈してあげよう。

 太刀の刃にはべっとりと人体の脂と血液が付着している。それを拭い取るため、一度強めに得物を振り払い、大体の血液を落とす。黒いスカートの一部を使って、刀にこびり付いた汚れを綺麗に拭い取った。

 刀を布で両脇から挟み、切先の方へとゆっくりとスライドさせる。人体の脂が付いたままだと刀の切れ味が低下してしまうため、強化した手の握力で強めに挟み込む。

 二つの汚れを綺麗に拭い終わると、刃の白い部分と鎬と呼ばれる黒い部分に輝きが戻る。模様の描かれている鍔にも血液が一部ついてしまっているが、そこは拭き取らなくてもいいだろう。

 錆びの原因になるが、刃より足が速いわけではない。この戦闘が終わってからでも問題はない。

 下半身が離れた状態だというのに、それでも逃げようと地面を這っている鴉天狗の背中を、靴で地面に押さえ込んだ。

「や、やめろ…!死にたくない!!」

 そう叫ぶ彼女には悪いが、問答無用で刀を薙ぎ払った。血の一滴もつかなかった刀が振り切られたころには、喧しかった鴉天狗の声は木々の間を反響し、消えていった。

 胴体から切り離された頭部は、ボンッと勢いよく地面に落ちると二回か三回ほど転がり、向こうを向いたまま静止する。

 頭部から心臓に向かうはずだった濃い色の血液が、断ち切られた首の静脈や破壊された組織からドロリと溢れた。

 薄っすらと血液の付着している観楼剣を軽く振り、血を払い飛ばす。洗ったり布で拭わなければとれないほどの血以外は飛ばすことができた。今はこれでいいだろう。

 周りから鴉天狗たちが接近している音は聞こえてこない。刀を抜いたままだと何かと不便だ。館に着くまでは一度納刀しよう。

 服装的に腰から下げることは難しく、左肩で担いでいる鞘の口辺りを左手で握り、左側へ持ってくる。

 納刀しやすいように持ち替えて鞘を左手で固定し、刀の峰を刺し口に当て、そのまま切先の方へ刀を移動させる。金属の擦れる小さな擦過音は、苦手な人からすれば耳を覆いたくなるだろう。

 いつもの自分の体とは、腕の長さや手首の可動域が違うため、誤って指を切ることになりかねない。

 納刀などいつもしている動作で見なくてもできるが、今回は誤操作を防ぐために見ながら行った。

 刀の先までスライドさせたら今度は先を軸にして柄を持ち上げ、鞘との角度の差を小さくし、切先から鞘へ納めていく。

 始まりが入ってしまえば、後は無理に押し込むことなく自重で落ちさせ、刀を完全に納刀させる。

 入り口付近と鍔周辺の金属がぶつかり合い、納刀した際に鳴る小気味いい音がする。

 私よりもこの女性の方が腕が少し長いようで、若干勝手が違うが、劇的にやり方を変える必要はなさそうだ。

 それを左肩に担ぎ直し、異次元文と思われる人物が向かった方に歩を進める。その方向は今歩いている獣道の先だ。

 初めの鴉天狗たちを殺した場所よりも、獣道が見分けやすくなっている。奴らの屋敷が近い証拠でもあるだろう。

 しかし、心配なことが一つある。作戦とは言えないこの計画は、私が異次元文と会うことが大前提なのだ。

 私のいた世界の文といえば実力はあるが、戦いになれば手を抜くような奴だった気がする。私なんかよりも頭が切れ、頭脳は非常に高い。

 そんな彼女が私と戦うだろうか。屋敷に向かって飛んで行った速度から、異次元文がその気になれば、私は指一本も振れることもできないだろう。戦わずして勝つ方法などいくらでもある。時間に追われている今は特にだ。

 そう思って山道を歩いていると、山頂の方向から高速で飛翔する物体が飛びだした。目の前で巨大な鐘でもならされているような轟音は、森全体をこだまし、非常に強い風を巻き起こして木々を大きく左右に揺らした。

 巻き起こされた風と、木々の揺れに耐えきることのできなかった、ラグビーボールに似た形の葉っぱがハラハラと舞い落ちて来る。

「あれは…」

 すぐに米粒よりも小さくなって、その人物が誰なのかを視認することができなかったが、あの速度で飛行できるのは文ぐらいだろう。

「くそ、逃げられましたか…!」

 今から追ったとしても当然追いつけないし、土地勘がないからどこに向かったかもわからない。

 ここは無鉄砲に異次元文を追うのではなく、一度天狗の館に向かうとしよう。奴がどこに向かったのかわかる者がいるかもしれない。

 小走りで山を登っていたが、奴を追跡するまでの時間をできるだけ短縮する為、全力で走り出す。

 館に近くなってきたことで、彼女らも私を撃墜しなければならなくなってきたのだろう。周辺から、鴉天狗が羽を羽ばたかせる音が聞こえてくる。

 耳をすませば翼の音だけではなく草をかき分け、地面を駆ける小さな走行音まで聞こえる。

 哨戒の白狼天狗まで前線に来たということは、役割がどうのと言っている場合ではない程に、拠点に接近しているということだろう。

 左手で鞘を握り、観楼剣を抜きやすいように手前に傾けさせる。ただ鞘に納められているだけの刀は、柄側が下に傾けられただけで滑り出て来る。

 刃の部分を掴まないように柄を握り、観楼剣を引き抜いた。鞘を背中に担ぎ直し、前方からやって来た白狼天狗を胸から上下に切り分けた。

 切り裂かれた死体が倒れ込む頃にはその横を通り過ぎており、さらに足を速める。

 下級の天狗たちではだめだ。異次元文がどこに行くかも知らされていない可能性が高い。敵がここまで接近しているのに、館から出てこない上級の天狗から聞き出さなければならないだろう。

 道がちょっとした坂になり、上るのがきつくなり息が上がって来る。街などの道よりもまだ湿度が高いせいで、地面がぬかるむまではいかないが湿っている。

 その土が靴に着いて滑りがよくなると、地面からむき出しになっている木の根などに足を取られそうだ。

 転ばないように足元に気を付けながら走っていると、左右から白狼天狗が大太刀を振るい、同時に襲いかかって来る。

 この二体は大した脅威ではないが、問題は後方から来た鴉天狗だ。上空を飛んでいたが木々をかき分けて急降下し、白狼天狗たちに合わせて攻撃をしに来たようだ。

 倒す順番を瞬時に脳内で叩きだし、予想した通りの動きをする右側の白狼天狗の大太刀をしゃがんでかわした。

 右側の白狼天狗は大柄で下に抜けやすそうだと思ったが、それであっていたようだ。そのまま隙を見せたガタイのいい天狗を切るのではない。

 まだこちら側に攻撃をしていない、左から攻撃しようとしていた白狼天狗の首を跳ねた。

 私よりも少し身長の高い白狼天狗を下から斜めに切ったため、こちら側に向かって頭部は滑り落ち、完全に殺したことを確認しつつ次の行動に移る。

 後方から大太刀を横に薙いできている鴉天狗の処理だ。前の二人の相手に専念してしまったことで、後方にいる敵をこれから振り返って殺すことは不可能だ。

 右側にいる敵は大振りの攻撃をしたばかりで、次の行動に移るのにはまだ少し時間がありそうだ。私は、地面に足を固定し、振り返らずに踏ん張る体勢を作る。

「せぇぇい!!」

 後方から飛んできていた鴉天狗は私の背中を完全にとらえたと思ったのか、自信満々な声が聞こえてくるが、それは驚きに変わっていく。

 背負っていた鞘ごと叩き切る予定だったのだろうが、刀同様に鞘も特別製だ。観楼剣と鍔迫り合いもできない刀では傷をつけることもできないだろう。

「なっ…!?」

 表面を撫でただけで大太刀の動きが止まってしまったことに、彼女は驚きを隠せなかったようで、驚愕している。

 そのまま大太刀を弾いて鴉天狗を叩き切る予定だったが、誤算が一つあり、この体は思っているよりも筋力がなく、前方に弾き飛ばされてしまった。

「ぐっ!?」

 倒れ込んでいる暇はない。地面に片手を付いて前転をするように地面を転がって受け流し、その勢いを使って立ち上がる。

 後方を振り返ると既に連中が迫ってきている。柄を両手で握り込み、振るってきている大太刀ごと彼女らの首を同時に跳ねた。

 少し時間を食ってしまった。観楼剣を振り払い、急いで館に向かって進もうとした時、上空から何かが木々をかき分け、私に向かって落下して来た。

 

 

 土臭く、光などもろくにも入ってこず、じめじめしているこの部屋は、住むとしたら最も最悪といえる物件だろう。

 空気の入れ替えをあまりしていないのか淀んでいて、深く呼吸をしようとしても息苦しさは消えてくれない。

 しかし、そんな要因がどうでもよくなるほどに緊張し、硬直している私は部屋の一角をずっと凝視していた。

「無理な話だろけど…いい加減に警戒を解いてくれないかな?」

 数メートル先で背を向けて立っていた少女は、見られていることに気づき、顔だけこちらに向けてそう呟く。薄暗い部屋の中では、そこから考えていることを読み取ることができない。

 いや、表情を読むことができないのではなく。彼女には読む表情がないのだ。

 何を考えているかわからない無表情が、なにをされるかわからない恐怖に結びつき、体の震えが止まらない。

「そう緊張されたままだと、私もいろいろとやりずらい」

 そう言って振り返った彼女の手に握られている包丁が、頼りなく揺れる小さな蝋燭の光に照らされ、鈍く光る。

「ひっ…!」

 自分でも怯え切っているとわかる程、震えた声の悲鳴が喉から漏れる。

 怖い。怖すぎる。死にたくない。殺されたくない。

 命乞いの様な思考がグルグルと頭の中に滞在し、巡り巡る。そのネガティブな考えは生産的な結果を生まないというのに、恐怖に助長され、ここを切り抜けるいい案も浮かばない。

 恐怖で感情の制御もままならなくなってきた。気づくと視界全体がぼやけ、頬を熱い液体が伝って行く。

 身を守るために頭を抱えたまま、部屋の隅で縮こまって震えていると、それを見かねた少女は優しい口調で話しを始める。

「急いでいたとはいえ、ここに無理やり押し込んだことは謝ろう。……苦しい思いをさせてやろうだとか、そういうつもりはないんだ」

 揺れる蝋燭の光が揺れるごとに少女の顔に影ができ、浮かび上がる彼女の表情が笑っているように見えた。

 それはこちらを安心させるようなはにかんだものではなく、嘲笑うような狡猾な笑い顔だ。

 苦しい思いをさせるわけではないというのは、苦しまずに殺してあげるということだろうか。

 彼女は握ったその包丁を使って、ここで始末するつもりだ。

 




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