東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!!

それでもええで!
という方のみ第百二十六話をお楽しみください!!


中の人があんまり頭がよくないから、説明文が意味不明なことがあるかもしれませんが、その時は優しく指定してやってください。


東方繋華傷 第百二十六話 迫る

 生きている人間が人生の中で、危険なことに首を突っ込まなかったり、酷い病気を患ったりしなければ、まずその倒れ方をすることは無いだろう。

 意識を保てず、受け身を取ることすらできなかった魔女は、自分が吐き出した真っ赤な液体の中に崩れ落ちた。

「かっ………ぁ……」

「…」

 その様子を見ながら、冷静に状況を分析する。これまでと、あれだけの出血があったわけだから、彼女の体内に残っている血液の量は、だいぶ少なくなっているはずだ。

 今できることを整理し、順序を組み立てていくが、治療という治療はできない。例え十分な医療に対する知識があったとしても、ここでは本格的な処置はすることができない。

 ここにある物はほとんどが日用品で、その数は必要最低限だ。治療に使える針や糸など、道具の一つでもあったらよかったのだが、この家は永遠亭ではないから当然そんなものは無い。

 いや、治療することができる道具を持っていても、私には使いこなすことはできない。どの傷に対して、どういった治療法を施せばいいのかという知識はあるが、その道具をどう使って、どこまでやればその処置として十分なのか。

 また、どのようにすればその道具は操作できるのか。私の知識は、その部分が決定的に欠けている。

 そこまで重症の怪我をすることは無かったし、この十年でも料理やその他の狩猟以外で、怪我をする事態があるとすれば、その時が私の最後だと思っていたから、あえてそう言った書物を読まなかったという所はある。

 それでも、備えあれば患いなしという事で、ほとんどのウサギが殺された永遠亭から、包帯や消毒液などを少し拝借したことを思い出した。

 それを使うべきなのは、当然今だろう。この際出し惜しみは無しでいこう。ここまで苦労して、彼女に死なれれば元も子もない。

 だが、私が行えるのはあくまでも応急処置であって、治療ではない。延命させてあとは彼女の回復力に任せるしかないのだ。

「大妖精とミスティア、君たちは彼女の服を脱がせてくれるかい?応急処置をするのに、邪魔だし、衛生的に良くないから」

 あまり進んで応急処置に協力したくない様子であるが、私に無理やり促され、渋々立ち上がる。

 霧雨魔理沙を助けるのには、彼女たちの助けが必要不可欠だ。私一人では圧倒的に手が足りない。少しでも協力してくれるよう、声をかけた。

「今の会話でわからなかったかい?私はともかく、彼女は君たちに攻撃するつもりはないよ」

 そもそも彼女たちの世界の人間だったと推測できるから、こちらから攻撃をしかけない限りは、霧雨魔理沙は何もしないだろう。

 そう思っていると、霧雨魔理沙の方へ歩み寄り、体を起こしてあげている二人の内、一人が私に対して質問を投げかけて来る。

「その、嘘を付いているってことは……無いんですか?自分が…助けてもらうために」

 思ったよりも大妖精は賢い子だ。しっかりしていてもオドオドしていて頼りないが、ある程度知恵が回り、質問ついては否定しずらい部分を付いてくる。でも、そこで答えが出せないのが惜しいところだ。

「いや、無いよ。もし自分が助かりたいのであれば、医療に対する知識を持っていそうな私に次いで、君たちを信用すると言っただろうが、それは無かったからね」

 まあ、理由はほかにもあるが、彼女にはこれで十分だろう。言いくるめられた大妖精はミスティアと力を合わせ、一緒にベットの方へと抱えて運んでいく。

 寝かせると、すぐにボロボロで汚れたり破けて、魔女の服に到底見えない服を脱がせ始めた。

「チルノ。君は2人が服を脱がせたら傷口を冷やして、出血を抑えさせてくれないかい?私はそのうちに包帯を持ってくるよ」

 チルノにそう伝えると、大妖精が従っている様子を見て、渋る必要が無くなったと判断したのか、だいぶ素直に移動していく。

 もう何年も棚から出していない救急箱を取りに行こうとすると、さっきから黙ったままだった小傘が歩み寄って来る。

「わちきは、そのうちに何をしてればいい?」

 大きな赤い舌をべーっと突き出している閉じた傘を片手に、話しかけて来る。

 青い髪に、青と赤のオッドアイという変わった特徴の少女は、何かしていないと不安なのか、自分だけ何もしないのが悪いと思っているのだろうか。

 あまり作業する人数が多いと、かえって邪魔になってしまうことがあり、何かしてもらうのであれば慎重に決めよう。

「…」

 どうするか考えていると、赤青の瞳と目が合った。随分昔に死んでしまった友人とは別の個体であるが、友人の一人と話すことができて嬉しい。だが、今は私情を挟んでいる暇はない。

「あー。そうだな。君は……」

 どうせなら何かしてもらいたいのだが。どうしてもらうかを考えていると、服を脱がせようとしている二人が、力を合わせて肩から下げるバックを脱がしている。

 思えば彼女が現在着ていた服はボロボロで、一度脱いだら多分もう着直すことはできないだろう。そうなると、着る服がないことになってしまう。

 私の家には当然だが、彼女が着れるサイズの服がない。代わりの服を鞄の中に入れて持ち歩いてくれたのならば、その辺りを心配しなくてもよくなる。

「彼女の持ち物に服がないか探してみてくれないかい?治療した後に着せたいんだ。ただ、びしょびしょに濡れているだろうから、魔力を使ってすぐに乾かしてくれないかい?」

「わかった!」

 カラカラと下駄で木の乾いた音を立て、ベットの方へと歩いて行く。傘を持ったまま、大妖精から水を吸って重たい鞄を受け取っている。蓋をしているボタンをはずし、やりずらそうに片手で中を探り始めた。

 傘を置いてからそれをやればいいのに、持ったままやっているのがまた彼女らしい。昔を思い出して感傷に浸りそうになるが、自分の目的を思い出し、救急箱の置かれている棚に向かった。

 一度外で分解し、部屋の中へ運び込んで組み立て直したのだが、あれからもう8年は立っている。湿気の多いこの部屋では、蝶番は錆びて立て付けが悪い。油をさしたり、交換などできるわけがないから、我慢しながら使っている。

 金属の取っ手を掴み、力いっぱい引くと、外まで聞こえてしまうのではないかと思う程、大きな軋む音を立てて棚が開く。

 定期的に掃除しているとは言え、永遠亭から拝借して来た白が主体で、赤色に十字の模様のある箱には、薄く埃が被っている。

 蓋は金属の金具で止められている。片手で外せる構造になっていて、指ではじくとパチンと軽い音を立てて外れた。簡単に外れたのは、錆びてはいるが棚の扉よりも金具自体が小さいから、摩擦力があまり働かなかったのだろう。

 ゲームなどでよく見る宝箱のように開く救急箱を開けると、永遠亭から持ち出してきた当時と配置は変わらない。

 トイレットペーパーのように巻かれた包帯が、かなりの数入っている。絆創膏や湿布もあり、奥にはガーゼもある。端の方には、消毒液の入ったガラスの容器が置いてあった。

 消毒液はだいぶ古い代物で、使えるだろうか。使用できる期間が決まっていて、それを過ぎると殺菌効果を失う可能性もあるな。

 いや、封を切っていない消毒液を選んできた。開けた奴よりも酸化は遅く、殺菌効果自体は新品よりは少し劣るだろうが、これでもおおむね問題はないだろう。無いよりはましだ。

 大妖精たちは、ボロボロの服を丁寧に脱がしていて、ようやく脱がし終えたところのようだ。血だらけの裸体が露わになる。その傍らに持ち出した救急箱を置いた。

「うあ………」

 ミスティアはこういう物を見るのに慣れていないのか、口元を押さえ、後ろに後ずさった。まあ、屋台で料理しているような子だから仕方がないか。

 見ると傷口から血が滲んて来ている。私情で悪いが、そのベットの布団は一枚しかない。汚されると非常に困る。開けっ放しのタンスへと戻り、バスタオルを何枚か取り出した。

 二人に霧雨魔理沙の体を抱えてもらい、ベットが汚れないように下にバスタオルを敷いた。彼女には皆に裸体を見られることになって申し訳ないが、治療のために我慢してもらおう。

 多少の配慮として、体の下に敷かなかったバスタオルを、胸元と股間部分に軽くかけた。これだけのことをしていても、身じろぎの一つもしないというのは、本当に危険だろう。

「チルノ、お腹周りと肩から足までの切り傷周辺を冷やしてもらえるかい?」

「う、うん」

 二つ返事でないのは、妖精と違って彼女にはまだ迷いがあるのか、何か不安なことがあるのだろうか。いや、おそらく傷のグロテスクさに圧倒されているだけなのだろう。

 断ったり突っぱねることは無いが、不安が滲む表情のまま指先から冷気を出し、傷周辺を冷やしていく。これで出血をもう少し抑えられるはずだ。

 次は、どうするか。傷を塞いで止血しなければならないが、方法としては焼いたりする原始的な方法が上げられるが、乙女の体に焼き痕を付けるのは気が引ける。これは最終手段だ。

 輸血などの本格的な治療はここではできない。応急処置としては、やはり圧迫して行うのがセオリーだろう。

 しかし、傷が塞がるまで何十分、もしかしたら何時間も私達で押さえていることは不可能だ。ならば包帯を少しきつめにまけばいいのではと思うが、これだけ怪我の範囲が広ければ、手持ちの包帯では圧倒的に足りない。

 お腹周りにある複数の刺し傷を圧迫するので精一杯だ。仕方がないが肩の傷は、手持ちのバスタオルで、呼吸に支障がない程度に縛るしかないだろう。

 だが、清潔とは言い切れないタオルを、直接傷につけるわけにはいかない。救急箱にはガーゼが入っていた、それを腹部と肩の傷に一枚かませてから巻くことにしよう。

 救急箱から畳まれたがーぜーを複数枚取り出す前に、消毒液の封を開け、両手に振りかけて手指の雑菌を死滅させる。

 綺麗になった手でガーゼと包帯を取ろうとした時、霧雨魔理沙の傷が目に入った。怪我をしているのだから、傷があるのは当たり前なのだが、運んできた時よりも肩や腹部の傷が、一回り小さくなっているように見えた。

「ん…?」

 思わず声が漏れる。自分の見間違いだという事はわかる。チルノが冷気で冷やしたことで肉体の一部が収縮してそう見えるとか、薄暗いからそう見えるだとか理由はそんなところだ。でも、あまりにも大きさが違うように見えて、傷をマジマジと見てしまった。

 私が傷に向かって顔を寄せたことで、何かあったのかと両側にいた大妖精やチルノが、同じようにお腹を覗き込む。

 気のせいだったのであれば、そのまま応急処置に移ったのだが、五秒ほど眺めていると、ほんの少しずつではあるが、彼女の腹部の傷や肩の傷が段々と小さくなっていく。

「………」

 川の水で体が冷やされたから出血が抑えられたのでは、と最初は思っていたが、恒温動物の体温を維持し続けようとする性質があるのに、あそこまで体が冷え切っていた。となれば当然長時間あそこに浸かっていたか、長時間川に流されていたことになる。

 それだけ長い時間経過していれば、冷やされていたとしても傷口からは絶えず血液が流れ続ける。

 彼女の戦っていた状況はわからないが、川に落ちるまでの時間もあるし、魔力が使えるとはいえ、普通は死んでいる。

 そう言った要素で、大量出血をしていたくせに、死んでいなかった事や、やたらと服はボロボロなのに、今回のを除いて怪我をあまりしていない部分で不振には思っていたが、死ななかった理由はこれか。

 そして、理解することができた。彼女がこの世界の幻想郷全体から狙われているのは、おそらくこの力だと。

 そうと脳で理解していたとしても、今のを見たかと。両側の二人に顔を向けずにはいられなかった。青色と緑色の少女はどちらも言葉を失い、霧雨魔理沙のことを見下ろしている。

 すぐ後ろでバックの中から服を見つけた。と元気に言う小傘の声がやたらと遠くに聞こえた。そのまま乾かしてくれと、声を掛けたかったが、混乱していて言葉が出ない。

 青ざめているのは変わりないが、傷の痛みから苦しそうにしていた呼吸は、傷が小さくなって痛みが引いていくごとに、安定した物へとなって行く。

 私が処置を施すまでもなく、小さくなっていった切り傷、刺し傷はうっすらと古傷の様な跡を残し、綺麗さっぱりと消えていった。時間にして十分も経っていないだろう。

「「「…………」」」

 私たちが言葉を失うのも無理はない。妖怪でも見ることのない、常識はずれの回復力に、目が飛び出てしまうほどに驚いた。つまるところ驚愕である。

 私や妖精の身分では当たり前で、鬼や仙人、神などレベルの高い妖怪でさえも拝むことのできないその治癒力は、人間の、それもただの魔法使いが発揮していいものでは……。

 ここまでできる彼女を、人間として定義していいのか疑問ではある。発揮できている時点で、人間を辞めていると言わざるを得ない。

 しかも、その力は治癒力だけでなく、十年前の様な攻撃にもおそらく転用できる。と思う。でなければ、奴らが十年も粘着するわけがない。

 こんな力、狙われないわけがない。力の奪い方など、私には見当もつかないが、もし、この力を博麗の巫女が手に入れてしまったとしたら、考えるだけでも恐ろしい。とても言葉にはできない。

 だが、ここまでできる魔女は、味方に居れば逆に心強くはある。青ざめているのも段々と引いてきているように見えるのは、もう見間違いではないだろう。

 いろいろやっていたから、運んでいた時から時間は、30分かそこらは経過している。回復する条件というのがよくわからないが、もしこういうペースでずっと回復できるのであれば、切られた時は相当な傷だっただろう。

 だが、この治りの速さであれば、欠損さえしなければ二十分から三十分ほどで完治できていただろう。すさまじい回復力を発揮するのには条件があるのだろうか。

「……」

 まあ、それはいいか。傷が無くなって失神する要因が無くなったら、目を覚ましてしまうかもしれない。そこで裸であったらまた彼女は混乱して、今度こそ撃ち抜かれるだろう。それはごめんだ。

「小傘、乾かした洋服をくれないかい?」

 寝ている魔女から目を離し、後ろを振り返ると、リグルやミスティアと一緒に、服が吸ってしまった水を魔力で蒸発させているところだ。

 絞って水を切ってからやらなかったのか、もう少し時間がかかりそうだ。そう思っていると、もう少し待ってと彼女達から待ってがかかる。

「わかった」

 その間に血まみれの体を拭いているとしよう。せっかく服を新しくしたのに、体が汚れたままではあまり意味が無くなってしまう。

 水の入った桶に、まだ残っていたバスタオルを鎮め、十分に水を含ませた。川から汲んで来たばかりという事で、長く手を突っ込んでいれば、悴んでしまうと思えるほど冷たい。

 バスタオルを引き上げ、捩じって水気を絞っていると、そう言えば自分も川に入ってびしょ濡れだったことを思い出した。これが終わったら着替えなければならない。ぼんやりと別のことを考えながら絞り終える。

 霧雨魔理沙が敵ではないとわかったことで、少し気持ちに余裕ができて他のことにも頭が回るようになってきた。

 そういえば、大妖精はこの薄暗い地下の中でも、霧雨魔理沙の顔をしっかり判別することができていた。

 それと言うのは、一度は顔をはっきりと見分けられる距離まで、近づいたという事になると解釈しても相違ないだろう。

 それだけ近づけば、元から敵対していない霧雨魔理沙は、近づいて来た大妖精にも当然何か話すはずだ。ルーミアの時と同様に。なのになぜ、大妖精は話したことがないと言ったのだろうか。

 霧雨魔理沙を運んできた時と同じく、疑問に思うことがあると直ぐに調べたくなってしまう性分が働き、彼女を信じられない眼付きで見ている大妖精に問いかける。

「大妖精。君に一つ質問してもいいかい」

「は、はい。何でしょうか?」

 まだ、こうやって面と向かって話すことには慣れていないのか、あからさまに驚いた様子だ。

「いや、大したことじゃあないんだが、君はこんなに薄暗い部屋の中でも、彼女の顔を判別できたのに、なんで性格がわからなかったり、話したことが無かったんだい?……さっきのやり取りからわかる通り、あそこまで瀕死なのに私と彼女は対話した。暗い中でも顔を判別できる程度に、はっきりと顔を見るほど接近したのなら、会話は必然的にすると思うのだけれど」

 そう聞きながら濡れたタオルを持ってベットの方へ戻り、まだ裸で寝ている彼女の体を、血まみれの部分を中心にふき取っていく。

「ええっと、この人と会ったのは……今回が、初めて………ですが……」

 言っている途中から、自分の言っている事が変なことに彼女も気が付いたようだ。段々と途切れ途切れになって行く。やはり、記憶が改ざんされているというのは当たっていそうだ。

 咄嗟に出てくる言葉や、考えに知らない部分がある。ここまで完璧に長時間記憶の改ざんができているから、精巧に作られた術か魔法なのだろうが、完ぺきではない。言動や一部の思考に矛盾が生じている。

「君は、周りから聞いた話だけで、見たこともないのに彼女が十六夜咲夜と、東風谷早苗を殺したとされる人物だと確定できたのかい?そんなに詳しく容姿を説明されたのかい?」

「い、いえ……ただ、魔女の恰好をしていると」

 ある程度頭が回るが故に、動揺している大妖精はなぜそう言えたのかわからないと、頭を抱えている。

 服装で判断したというのは今回は無理だ。彼女は度重なる戦闘でかなり服がボロボロだった。泥や血、破れたり切られたりで原型が殆どなかった。何かの戦闘装束のようにもみえ、初めて見たとしたら人物が魔女の服と認識するのは難しい。魔女のとんがり帽子を被っているわけでもないからな。

 記憶の改ざんが濃厚というよりは、もうほとんど確定できるだろう。でなければ、こんな意味不明な事を大妖精は言い出さないだろう。

「何でこんなこと言えたんでしょう。何だか、気持ち悪いです…」

「まあ、仕方がないさ。なぜそうなったのかは、そのうち分かると思うよ」

 疑問を解こうとしているが、もし私が説明したとし、噛み砕いてなるほどと記憶改ざんを理解させたとしても、認めることはできないだろう。

 なぜなら、改ざんされた側は何の記憶もなく、改ざんされた記憶が正しいとまかり通っているからだ。いくらそういうことをされたと説明しても、自分の記憶が正しいと思いたいのが生物の常だろう。それに自分が実際に見聞きしたこと、感じた事、体験したことは本人の中では絶対だからな。

 だって、考えてみてほしい。本人からしたらつい昨日会って、喧嘩した人物がいたとしよう。第三者が来て、君はずっと前から喧嘩した人と何度も会ってる。と言われても、は?としかならないだろう。

 たとえ知らないはずの情報を咄嗟に口に出しても、それまでの間の記憶がないため、ただ単にたまたま思いついただけと言い訳できる。

「そう、ですか」

 まあ、大妖精はそこまで頭は固くないだろうが、横からあれこれ言って混乱させるものでもないだろう。

 動揺している大妖精をしり目に、後ろを振り返ると、ようやく小傘たちは霧雨魔理沙の洋服を魔力で乾かし終えたようだ。

 服からは白い蒸気が上がり、濡れていた時と布の色が違う。それが全体に広がっているから、触っていなくてもキチンと乾ききっているのがわかる。

「ありがとう。乾いたようだし、貸してもらえるかい?」

「うん、いいよ」

 いつまでも裸にさせているわけにはいかない。魔力の作用で熱くなっている服を受け取ると、熱すぎて飛び上がりかけた。

「熱っ!?」

 温めていた本人たちは、熱くなっているのはわかっていて、魔力で熱を遮断しているが、ここまで熱くなっているとは思わなかった。すぐに手を離したから、火傷とまではいかなかったのは幸いだ。

 彼女たちと同様に指先を魔力で保護をして、洋服を受け取った。バサバサと大きく振って熱を空気中に逃がした。

 何度か振ると、魔力の保護なしでも触っていられる程度に温度が下がって来る。人肌よりも暖かく、夏に着るのには温かすぎるが、彼女は体温が下がっている。着てしばらくすれば、ちょうど良くなっていることだろう。他の者たちの手を借り、全員がかりで服を着させた。意識のない人間に服を着させることの難しさを、改めて実感した。

 

 悪戦苦闘しながらも、十分ほどの時間をかけて着替えを終えた。それでも起きない所を見ると、気絶しているのだろう。

 私用のベットの大きさが心配だったが、ギリギリ足が飛び出ないぐらいの身長で助かった。安定した呼吸を続け、あまり心配する必要のなくなった彼女に肩まで布団をかけてやり、ベットの縁に座り込んだ。

「はぁ…」

 この短時間でいろいろなことが起こりすぎて、少々疲れた。それは彼女たちも同じなのだろうが、私よりも元気そうに見えるのは、この状況に年レベルで長く晒されていないからだろう。

 椅子に座ったり、私と同じく霧雨魔理沙の邪魔にならないようにベットの縁に座ったり、立っていたり、歩いていたり、やっていることは様々だ。一人では少し広く感じたこの部屋も、これだけの人数がいると狭く感じる。

 今日大きく動きすぎたのは、もうわかり切っている。本当は上流方向に仕掛けて置いた魚を取るための罠を回収する予定だったが、今回ばかりは控えた方がいいかもしれない。だいぶ時間が経過したし、この魔女を追って誰かこの辺りに来ているかもしれない。

 それと水を汲みに行った時間はまだ明るかったが、夏とは言え外はもう真っ暗なはずだ。それでは罠の確認にも行けないし、どっちにしろ今日の夕ご飯は食べれなかったな。今日は魔力でごまかすとしよう。

 そうして、疲れた体を休めていると、私の前を不意に小傘が横切り、霧雨魔理沙の持っていた物が置かれている床にしゃがみ込む。

「どうかしたのかい?」

 何か気になることでもあったのか、それとも何か、おかしなことに気が付いたのかと聞くと、しゃがみ込んだ彼女は何かを手に持って振り返る。

 その手には、霧雨魔理沙が背負っていた、鞘に収まっていた日本刀が握られている。一メートル以上の刀身が隠されている鞘、綺麗な模様が描かれている鍔に、二十五センチほどの柄。その頭には柔らかく、フワフワそうな毛玉が取り付けられている刀には、おぼろげではあるが見覚えがある。

 冥界に位置する白玉楼、そこの剣術に非常に長けていた庭師が帯刀した刀だったはずだ。

 魂魄妖夢。奴は刀を二本持っていたはずで、名前は忘れたがもう片方はもっと短い刀だったはずだ。長さから言えば、霧雨魔理沙が持っているのは観楼剣になるだろう。

 なぜ、魔法使いである彼女が持っているのかは、分からない。が、今でも大事そうに持っていることから、こちら側の庭師は殺していないだろう。

 味方であった所を考えると、彼女たちの世界の魂魄妖夢が殺されて、かたき討ちに持っているという事が考えられる。

 でなければ四六時中刀を装備している武士から、魔法使いが武器を奪えるわけがない。手放すわけもないから、元の所有者は死んでいるだろう。

「それがどうかしたのかい?」

「うん、鞄の中に多分この刀の切先が入ってた」

 切先と言うと、刀の先端部分だ。この刀は折れているのか。あらゆる物を切断できるその武器は、それ相応の金属で、それ相応の技術で打たなければ実現しない。誰が作ったのかはわからないが、その業物を折るとなれば、同じレベルの物でなければならない。人間が作った鈍らでは到底不可能だろう。

 同じレベルの物を持っているのは、こっちの魂魄妖夢しかいないから、奴に折られたのか。

 少なくとも、彼女たちの世界にいた魂魄妖夢が戦いで折ったわけではなく、霧雨魔理沙が仇に遭遇し、折ってしまったのだろう。

 剣士で剣術に優れている以上は、折るなんてことにはならないだろう。刀を振るう筋肉ができていなかったり、どの程度の耐久性能があるかわかっていない素人である霧雨魔理沙が、やらかしたと考えるのが妥当だ。

 小傘が刀を試しに鞘から引き抜くと、確かに切先が無くなっている。非常によく手入れのされている綺麗な刀身は、所有していた人物がどれだけ大切に使っていたのかを現している。

「小傘、その刀を修復できるかい?あまり知られてないが、君は鍛冶屋だろう?」

 話を聞いていると、こっちとそっち側で一部の例外を除いて、技術などについてはあまり違いがない。こっちと同様に小傘の腕はいいはずだ。

「うーん。道具とかは一応持ってるけど……折れた刀をつなげるっていうのは、いくら私でも無理だよ」

「あまりこの手の話には詳しくないのだが、君でも無理というのはあまり想像がつかないな。何とかならないかい?彼女は多分その刀を必要としてる」

 霧雨魔理沙がやりたいことはわからなくはないが、非常に悪手といえる。何か大きな自信が無ければ、私だったらおそらく同じ戦法を使うことは無いだろう。

 非常に強い能力を持っている者を、どうにかしなければならない。そう言った時、倒すのには同じ能力を持っている者を、ぶつけるのが一番効率がいい。

 なぜなら能力や思想、頭の回転の速さ。能力同士の相性などが重要となって来るが、自分とは違う能力を持った人間を倒すのには、博麗の巫女のように圧倒的に強くなければならない。

 それに比べ、同じ能力を持つ者同士をぶつければ、自分の能力は自分が一番よく理解している。たとえ技量差があったとしても、相手の手の内がわかればある程度はカバーできるはずだ。

 それと似た状況を作りたいのだろうが、それは技量差が天と地ほど離れている者同士でなければの話だ。それに、彼女は剣術を扱う能力を持っていないじゃないか。相手の得意分野に自らが足を突っ込むのは、血迷った戦い方とさえ評価できる。

 しかし、あえてそれをやるのは、彼女は何かそうやって戦える奥の手を持っているのだろう。私には想像もつかないがね。

「多分、今までもこれからも、刀の切れ味とか耐久能力とかその他もろもろを、一切精度を落とさずに打ち直せる職人は出てこないと思う。それぐらい無理な話だよ」

「そうか……。どうにかできないかい?」

「一応、形を整えて焼き直すことはできるけど……。少し短くなるよ?」

 大丈夫だからやってくれ、とは私が勝手にできることではない。せっかくそう言った話が持ち上がったが、霧雨魔理沙が起きるまでは保留にしておこう。

「うーん、彼女が判断するからひとまず待っ……」

 私がまだ言い終わっていないというのに、小傘は刀を鞘に納めると、焼き直しができる簡易的な道具を、大きな唐傘お化けの傘から取り出して、勝手に用意を始めている。

「任せて!」

 グッと親指を立てた拳をこちらに突き出し、さらに奥の部屋であるお風呂場の扉を開けて入っていってしまう。

「いや、だから待ってってば!」

 鍛冶職人の血が騒ぐのか、こちらの考えを一切考慮していない小傘は、バタンと扉を閉めると、内側から鍵をかけて作業に移っていく。

 この扉も外から持ち運んだものだが、なぜ鍵付きの扉など選んでしまったのだろうか。そうでなければ今すぐに入って、作業を中断させるのに。

 扉の前でそう大きな声で叫ぶが、完全にそのモードに入っている小傘の耳には届いていない。扉を叩いてもおそらく無駄だろう。形を整えるとか焼き直しと言っていたから、そこまで大きな音は出ないだろうとは思うのが唯一の救いだ。

「はぁ……」

 今度は別の意味で疲れた。チルノや大妖精たちからの視線が集まっているが、関係なく大きなため息を付いてしまった。

 まあいいか。何と言われるかわからないが、霧雨魔理沙が起きたら私が謝っておくとしよう。

 悩みの種が一つ増え、額を抑えて佇んでいたが、諦めた。お風呂場の扉から離れ、再度ベットの縁に座ろうと、未だ眠り続けている魔女の方へと歩いた。

 

 

 せせらぎとは程遠い。荒れ狂う水の流れる音。水は荒々しく波打ち、流れる速さの激しさが窺える。それに加えて濁流のように水の流れが複雑で、半身を浸そうものなら一秒も断たずに波に飲み込まれ、水中で体をもみくちゃにされるだろう。

 水が激しく流れて行く様子から、そこが川の上流だという事は見て取れる。川の両側にある地面は長い年月を掛けて、水によって削られてきたのか、十メートルほどの高さがあるV字になっている。

 そこの上には、二つの人影が佇んで、それぞれが思った通りに動いている。一人は地面を眺め、もう一人は川の方向を見下ろしている。

 その二人はところどころから血を流しているが、致命傷となる程の傷は全くない。軽傷ばかりだ。

 川を覗き込んでいる人物は、その両手には刃渡りが20センチの鋼色に鈍く輝く銀ナイフを握りしめている。

 服装も山の中にいるのに、メイド服という場違い感が強い。額からタラりと流れて来た血液を、左手の甲で拭う。

 表情が芳しくないのは、目に血が垂れてきたからではなく。今置かれている状況から自然とそうなったのだろう。

「こんなことになるとは思ってもいませんでした。何かあったらどうしてくれるんでしょうね?妖夢」

 時間の経過で苛立ちが増していく十六夜咲夜と呼ばれるメイドが、傍らで地面を眺めて居る庭師に苛立ちをぶちまけた。

 メイドと同様に、片手にはすらりと長い日本刀を握っている彼女は、返事もせずに逃げた標的を追うために、西日で照らされる地面を眺めている。すると、何も答えないことに苛立ちを増したのか、口調が強くなっているメイドは更に口を開く。

「これで魔理沙が死にでもしたら、十年の苦労が水の泡ですよ。そうなったら、原型がわからなくなるまで切り刻んであげましょう」

「主要な血管、大きな血管は避けて刺しましたし、あの回復力があれば死にはしないと思いますよ」

「もしものことがあるでしょう?」

 最終的には殺すというのに、殺すために安否を確認しに行かなければならないとは、皮肉だな。錆びた刀を片手に、魂魄妖夢はそう思いながら体の向きを川の方へと向ける。

 自分たちが来た方向から点々と続いていた血液が、急にここで途切れて無くなっているようだが、彼女たちはそこで悩むほど馬鹿でもない。

 川方面の斜面には、滑り落ちるというのには無理がある、転がり落ちたような跡が残っているのも見逃さない。踏み外したのか、ここで意識を失って落ちたのだろう。

「上流と下流。どっちに行ったと思いますか?」

「さあ、逃がしたのは妖夢なのですから、自分で考えてください。その程度の脳味噌も持ち合わせていないのですか?」

 出血死してしまう可能性を示唆する割には、非協力的だ。探し出すのに時間がかかり、もし死んでた場合はそれを理由に切り殺してやる。口には出さずに下流の方向へ進みだした。

 魔力で体を浮き上がらせ、高度を下げる。川に入らないように配慮し、川に沿って下っていく。

「霧雨魔理沙はそっちにいったので間違いないのですか?」

「……」

 答えるのも面倒で、とりあえずついて来いと、頬や片目に大きな古傷のあるメイドを睨んだ。着いて来るか着いて来ないかは彼女次第だが、おそらくついてくるだろう。

 また、私があの魔女を切り殺すのではないかと危惧しているからな。さっきは興奮しすぎていたが、このメイドと戦って少し頭を冷やすことができた。そこだけは感謝しておくとしよう。

 十年という月日が無駄になってしまうのは、私としても望んでいない。癪ではあるが、歯止めがきかなかったから助かった。

「…」

 それよりも霧雨魔理沙だ。あの傷に、あれだけの出血。崖を転げ落ちるのも止められない程、体力が低下していたわけだから、上流方向へ上る体力は残っていないと思われる。

 その状態で川に落ちてしまったのであるのならば、そのまま流れに身を任せるだろう。もしくは、遡ったり、川からよじ登ろうとしても意識が持たないはずだ。その結果はどちらも同じで下流で見つけられるだろう。

 腕を切り落としても元通りに生えて来る再生能力。あれがあれば、死ぬことは無いとは思う。肩の方は少しやりすぎたが、腹部の傷も、命にかかわるようにはしなかった。

 川の水温はかなり低いのが、時々飛び散る水しぶきからわかる。ある程度は出血は抑えられているはずで、生存している可能性が高い。

 大分時間が経っているし、もし、霧雨魔理沙が彼女の力を狙う者に連れていかれていたら、そいつらを皆殺しにしないといけないな。

 自分のもう一つの能力を発動し、荒々しく水しぶきが弾ける川の水と進む方向は同じだ。川の下流へ向け、加速した。

 

 太陽が山々の影に隠れると直ぐに、暗闇はすぐに訪れる。後ろにいるメイドや、自分の手元も見ることが困難になる程度には暗い。

 川を下り始めてから大分時間が経過しているが、能力を発動したおかげで、私は霧雨魔理沙が残した小さな手がかりを見つけた。

 飛んできたであろう瓦礫が木に衝突し、耐え切れずに折れたようだ。その木が地面に横たわり、半分を下って来た川に浸らせている。

 手掛かりは、新鮮な木材の匂いを辺りに漂わせているそっちではなく。そのすぐそばにある、浅瀬と隣接した土が堆積した場所にある。

 川がわずかに湾曲していて、曲がっている外側は水流で砂が削られ、私が立っている内側は流れが緩やかで土や砂が溜まる。

 普通だったら見逃していたが、異常に発達した嗅覚により、千切れて砂の中に埋もれていた服の片々を見つけた。

 血液が浸み込んでいて、それが記憶にある霧雨魔理沙の血の匂いと一致する。水に浸かっていたせいで、周辺からは彼女自身の匂いはしないが、この血の匂いを追って行けば、たどり着けるだろう。

 




次の投稿は5/30日の予定です。変更があればここに書き込むと思います。
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