東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
という方のみ第百二十八話をお楽しみください!!


新生活が始まりまして、しばらくの間は慣れるまで忙しい日が続くと思われます。

今までは週に一度、土曜日に投稿しておりましたが、土曜日に間に合わないことも多くなっていくことが想像できます。

これまで以上に遅れることが多くなるかもしれません!

何卒ご容赦ください!


東方繋華傷 第百二十八話 模倣

 光源のせいで青色や赤色に輝いているように見える得物同士が交わると、更に同色の光源が発生する。

 それはまるで、大量の蛍が私たちの周りを飛び舞っているようにも、空中で爆ぜた打ち上げ花火が残す、残り火のようにも見える。

 そうやって辺りを照らしている二色の光に晒されているのは私と、倒すべき目標の一人である異次元咲夜だ。

 私は少し気取ったように笑みを浮かべ、対するメイドは驚愕を示している。普通に銀ナイフで攻撃を受け止め、銀ナイフで攻撃していたつもりだが、相手はなぜかそこに驚きを隠せないようだ。

 正直な所、気取った態度はとっているが、驚愕というよりは訝しげるような表情をしたいところだ。なぜそんなに驚いているのか、全く見当がつかないのだ。

 彼女は何をしたと問いかけてきたが、私が聞きたいところだ。握りしめた銀ナイフをクルンと逆手に持ち替え、こちらを睨み付けているメイドを睨み返す。

「まあ、いいです。その力による物でしょうし…」

 異次元咲夜は自分の攻撃に、魔理沙の持っている得物が耐えられたことが、力によるものだと思っていた。間違いではないが、100点満点の答えでないことはすぐに知ることになる。

 

 

 日没し、辺りには静寂と暗闇が訪れた。太陽が山の陰へ移動すると、光が遮られた影響で気温の低下が始まる。

 昼間のうちに地面が温められ、日が落ちてからもしばらくの間は、寒さを気にすることは無いだろう。

 休めと言われていたが、それに甘えていられない。暗闇に紛れて敵が来ていないか周りを見回した。

 鬱蒼とした森、死体の転がる荒野、全体の五割が瓦解した廃墟、今のところどこにも動きはない。そろそろ目慣れてくるころだが、岩陰や草むらに隠れられた人物を見つけ出すのは難しいだろう。

 異次元早苗の襲撃からしばらく時間が経ったが、怪我人全員の治療は終わっていない。けが人の数が多いせいと、処置が難航していることもあって、その慌ただしさは始めの頃よりも更に激しくなっている。

 時間の経過で怪我人の容体が悪化し、何人か永遠亭に連れていかれた。その作業に人員を割かれたことが理由の一つだ。

もう一つは、敵に見つかる可能性を考え、火をたくことができないからだ。手元が見えずらく、処置のペースが遅い。

 手元が見える環境であれば、すでに終わっているはずだっただろう。紫に一度怪我人を連れ帰ることを提案したが、運ぶ手間や全員を移動させる時間を考えると、連れて帰ってしても、ここでやってもそこまで変わらないと言われてしまった。

 怪我人のみを連れ帰って治療し、私達で河童の集落に向かおうにも、治療を終えた彼女たちを連れ戻す手間もあるのだ。それに、戦力の分断は私たちにとっては痛手となる。そう言った理由から、却下されてしまった。

 数十人いる天狗、河童たちの治療に追われているウサギたちを眺める。もう少し時間はかかりそうだが、じきに終わるだろう。

『フランドール』

 周りの警戒に戻ろうとすると、私の近くに座っていた以前とは違う紅魔館の主である、フランドールの近くから彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。

「?」

 私も、呼ばれたフランドールも首をかしげている。彼女の横には片腕のない美鈴が立っているが、呼んだ様子はない。

 ボーッと地面に座って処置を受ける者。治療が終わって地面に横になり、時間まで休んでいる者。私と同様に軽傷で動いても問題ない者が周りを警戒している。そういった人物が周りにはいるが、誰もフランドールの名前を呼んだ様子のは無い。

 その声を思い出すと、方向的には上から聞こえて来た気がする。フランドールや他の天狗たちもそうだったようで、ほぼ同時に上を見上げると、上空から真っ赤な炎の様なコウモリが羽ばたいて落ちて来ている。

 攻撃か?

 脳裏にその考えがよぎり、すぐさま戦闘体勢へと移行する。服の袖から妖怪退治用の針を数本抜きだした。魔力強化を施し終えた頃に、天狗たちは刀を抜き出し、河童たちはそれぞれ持っている銃を向ける。

 そんな中で、戦闘体勢に移っていない人物が二人いる。フランドールと美鈴だ。改めて蝙蝠に魔力に意識を向けてみると、その波長はパチュリーの物だ。

「…大丈夫、攻撃じゃない」

 異次元パチュリーの魔力を探ったことは無いからわからないが、二人が警戒していないのであれば、問題はないだろう。

「パチュリー様の使い魔です。皆さん武器を下ろしてください!」

 フランドールの横に立っていた美鈴が、小さな主の代わりに、周りの天狗や河童、鬼たちに大声で伝える。

 一瞬、この場に走った戦闘の緊張がほぐれ、戦闘の経験が殆どないウサギ、治療中か又は治療がまだされていない怪我人の肩が、安心したように落ちる。

『攻撃されなくてホッとしたわ。またここまでこれを飛ばすのは面倒だから』

 私たちの目線と同じ高さで羽ばたき、赤い炎の揺らめく蝙蝠から、紅魔館で待機している魔女の声が聞こえてくる。

 淡々と冷静に話す様子は、まさしく彼女の口調だ。しかし、いつもはもっと小さくボソボソと話すため聞き取りずらいのだが、今日はなんだかテンションが高めに聞こえる。

 それよりも、こんなところに使い魔をよこすなんて、何か伝えなければならない事があるのだろうか。炎で僅かに光っているので、できれば手短にしてもらいたい。

「…わざわざどうしたのかしら?」

『どうしたのって、あなたが寄越したあのナイフの解析が終わったのよ。少し時間がかかっちゃったわ』

 ああ、忘れていた。そう言えば紅魔館で白黒の魔女が作り出した銀ナイフを、パチュリーに調べて貰っていたんだ。

「…そうだったわね、それで…どうだったの?」

『その前に、一つ質問。……この銀ナイフは、本当に人が魔力で生成した物なの?』

 質問の意図がわからない。そんなことを聞いてどうするのだろうか。魔力でできているか、できていないかなど、魔力の流れに意識を向ければいいだけだ。

 しかし、そこをわざわざ聞いて来ているという事は、何か普通ではない所があるのだろう。改めて昼間の魔女の行動を思い出す。

 ベットの縁に座っていた彼女は、走りながら魔力で銀ナイフを作り、それで窓を叩き割った。隠し持っていたという事はない。確実に魔力で作り出していたのはこの目で見ていた。

「…ええ、例の魔女が作り出してたわ」

『そう、なら………霊夢、何かおかしいっていうあなたの勘は正しかったわ』

 そこで言葉が一度切れる。私たち的には聞き取りやすいのだが、少々興奮気味で、落ち着くために紅茶を一口飲んだのだろう。ふぅっと小さな吐息が、炎の蝙蝠から聞こえてくる。

 感情の起伏が平坦という事や、喘息であまり長く話すことができないので、彼女は無理して話したりすることは無い。

 そのはずなのだが、魔法や魔力について百十数年研究している彼女が、それらの要素を忘れて興奮気味に話すとなると、何か発見したことは確かだ。

『一言で言えばあり得ない………この銀ナイフには、咲夜の銀ナイフ。という性質の魔力が含まれているの』

 始めの登場の仕方で注目を集めていたため、こちらの会話に耳を傾けている者は少なくは無かった。

 その中で、魔力について少しでも研究したり、詳しい者がいれば眉をひそめ、よくわからずに使っている者は首をかしげている。ちなみに、私は半分半分だ。

「確かなの?」

 私の近くで聞いていた紫は炎の蝙蝠に詰め寄り、そう問いただした。彼女がそこまで食いつくという事は、相当凄いことをやっているという事だろうか。

「パチュリー、もう少し噛み砕いて説明できない?」

 コウモリを挟んで反対側に立っていたフランドールは、首をかしげている者たちの代わりに、パチュリーへ説明を求めた。

『そうね。…じゃあ、…それぞれ持っている武器を想像して。…ここでは刀で例えるけど、……私たちがオリジナルの刀を再現しようとしたら、材質、重量、得物の太さと長さ、柄の長さから刃の長さ、刃の伸びる曲線、切れ味、色、そう言ったものを細かく魔力に性質として組み込んで、ようやく一本の刀が出来上がる。ここまではわかるわね?』

 そう言えばそうだ。魔力で同様の物を再現しようとすると、かなりの手間がかかる。咲夜はオリジナルのナイフの情報を頭に叩き込み、かなりの訓練を重ね、あれだけの量のナイフを、一度に生成することができるようになったと聞く。

『でも、彼女がやっているのは、刀。その性質を組み込むことで、刀を作り出しているの。あらゆる性質を組み合わせてできた刀と、刀という性質を組み込んで生成された刀。似てるけど、まったくの別物よ』

 なるほど、そこまで説明されてようやく理解した。弾丸でも、螺旋状の回転と前方方向に高速で飛んでいく性質が含まれた弾丸と、弾丸の性質が含まれた物では見た目は似ているかもしれないが、性質的な観点から見れば全くの別物と言っていい。

『私たちは、魔力で物を作ろうとした時、特定の銃や刀、車といった性質を含ませることはできない。固有の能力を除いて、炎一つ再現するのだって温度や色、広がり方や燃え方まで性質として組み込んで、ようやく似た物になるだけ。固有の能力ならあり得なくはないけど……もし、魔力でやってのけているのであれば、こっちと次元が違うわ』

 噛み砕いて説明され、私たちとは次元が違うレベルのことをしていることをよく理解できた。

「何か対策は無いの?」

 そう言葉を発した者は人ごみに隠れて見えなかったが、ここに居る者全員が思ったことだろう。皆何かを期待するように、炎の蝙蝠に視線を寄せている。

 魔力に特に秀でているパチュリーであれば、それを逆手に取った対策を、何かしら思いついていてくれるのではないかそんな目だ。

 願望で、現実逃避だが、そう思う気持ちもわからなくはない。これから、そんな連中を何人も相手にしなければならないのだ。一人ぐらい対策がほしいところだ。

 欲しいところではあるのだが、私は対策があった場合は聞くのは少し否定的だ。それがあることが油断につながったり、読まれて逆に逆手に取られる可能性だってある。

 パチュリーが言っていることはおそらく正しい。間違った解釈などはしていないだろうが、していた場合はそれに執着してしまう恐れもある。私は聞かないでおくか。

 炎の蝙蝠から距離を置こうとした時、パチュリーははっきりとした口調で、しっかりと包み隠さず言い放つ。

『無い。彼女がその気になれば、できないことの方が少ないと思うわ。その魔女について、私からできるアドバイスは、そう言う人物だから気を付けてっていう事だけ』

 そして、対策を事前に聞くことがあまり好きでない理由の一つに、それが存在しなかった時、聞いた者たちの士気というのは地に落ちるから。というものがある。

「…」

 私が予想した通り、この集団の中では強い方ではない河童や天狗たちが言葉を失っている。十数人が暗い顔で黙っている様子は、まるでお通やの様だ。初めの行動で注目を浴びた分だけ、この会話を聞いていた怪我人も多い。

 このままだとプレッシャーに耐えきれずに、逃げ出してしまう者も出てくる可能性もある。

 逃げ出してここの世界にいる妖怪などに遭遇した方が、そんな化け物を相手にするよりはだいぶマシだからだろう。

「大丈夫だ。心配するな。いくら私たちと魔力の扱い方が違うとしても、完璧なんて存在しない。生物である以上は、必ずヒントとなる隙を見せる。そこを見逃さなければいいだけだ…さっきの霊夢達みたいにな」

 その様子に見かねてか、押し黙ってしまっている河童たちに萃香はそう伝える。基本的に弱い者には興味がない彼女でも、不要な戦力の低下は避けたいのだろう。今までの連中と戦い方はそう変わらない。ただ、こちらがより注意をすればいいだけだと、至って冷静に言い放つ。

 そう簡単に行くものではないが、一理ある。いくら私たちとはかけ離れた魔力の使い方をしていたとしても、結局のところはそれを使うのは本人だ。

 あの魔女の使い方が上手ければ、私たちは手も足も出ない可能性があるし、下手であればこちらが優位になる。

 自分の能力が強く、それに驕って油断してくれるのであれば、やりやすいことこの上ないが、何度か接敵したことで、そんな油断してくれるような人物ではない覚えがある。

 これは私が勝手に抱いている人物像で、不正確な物だから実際に会って戦わなければ分からない。だが、油断するようなタイプでなければ、異次元早苗以上に苦戦を強いられることになるだろう。

「だろ、霊夢」

「…ええ、そうね。……ここの早苗は始めは何をしているかわからなかったから苦戦したけど、していることがわかるのであれば、負けないわ」

 私が堂々たる態度で言い放ったことで、河童や天狗たちの表情が少しだけ和らいだ。嘘の罪悪感に顔をしかめる前に、後ろを振り返ってその場を離れた。

 彼女たちを騙すことになって、申し訳ない気持ちで一杯だ。相手がやっていることはわかったが、パチュリーが言った通りただ魔力でやっていて能力が別なのか、能力でそうなっているのかはわからない。

 前者でも後者でも最悪だが、そんな、情報が不明瞭すぎて確定できる要素がないというのに、負けないなどと言い切ることは本来できない。

 なのに言い切ったのは、彼女たちをこの集団に縫い付けておかなければならなかったからだ。酷い話だ。

 戦力を低下させたくないという理由から嘘を付き、さらに利用しようとしている。ここまで気分の悪い話は無いだろう。

 彼女たちの表情を見るに、首の皮が一枚つながった程度だが、我先に逃げ出したり、隠れて逃げようとする者は居なさそうだ。それがまた、私の心を抉る。

「……すまん」

「…大丈夫」

 私と同じく集まりから身を引いていた萃香が、スッと横に立つとぼそりと隣で呟いた。あの雰囲気では萃香だけで助かりたい、逃げたい衝動を抑えきることはできなかっただろう。だから博麗の巫女である、私の言葉を引き出すのは当然のことだ。

「…」

 こちらの世界に来るか来ないかは本人たち次第だが、焚きつけたのは私だ。だから、生きていれば騙した罰は、後で受けるとしよう。

 

 

 鋭い金属音が響き、パッと火花が弾けた。目が眩みそうになるが、大した光ではない。それよりも得物を握っている手に、衝撃が伝わってくることの方が重大だ。左手に持っていた銀ナイフを、持ち続けることができずに放してしまう。

 後方に回転しながら飛んで行った銀ナイフは木に刺さったのか、地面に刺さったのかはわからないが、何かに刺さった音だけは聞こえた。

「くっ…!」

 両手に銀ナイフを握る異次元咲夜が、追撃を加えようとしている。それをわかっているのに見逃すわけがない。銀ナイフは弾かれてしあったが、反撃できない体勢ではない。

 逆手に銀ナイフを魔力で生成し、顔面をその奥にある脳髄ごと叩き切ろうとしたが、その程度は当然ながら読んでくる。

 火花と不快な金属音をまき散らし、お互いを切り刻もうとしている得物はピタリと停止した。

「っち…!」

 恨めしそうに異次元咲夜は目を細め、持っている銀ナイフに力を込める。腕力は奴の方が圧倒的に強く、地面を踏みしめて体を固定しているというのに、足が後退して地面に線を残す。

 だが、メイドのターンはそこで終わりを迎える。カチャカチャと鍔迫り合いとなっていた銀ナイフが、私たちの力に耐えきれず、亀裂が生じると粉々に砕けてしまう。

 何度も刃を交えていたことで、こうなることはもう予想がついている。破片が落ち切る前に、飛び散った火花が酸素が足りずに燃え尽きる前に、私たちは動き出している。

 腕やナイフで破片を押しのけ、もう片方の手に持っている得物で首元を掻き切るため、肉を削ぎ落すために振り抜く。

 お互いに狙っていることは同じで、鋭い斬撃が二度交わされる。しびれを切らしたメイドが、大振りの攻撃を左から右へ振り回した。

 逆手に持たれた銀ナイフが狙うのは、私の両目。奴の視線と赤青色に軌跡を残す武器から、算出された予想に血の気が引く。

 あと一歩気が付くのが早ければ問題なかったが、既に攻撃のモーション移りかけている。このまま敵の攻撃を無視すれば、確実に両目を切り裂かれることになるだろう。

 目を切られた激痛もそうだが、視界を失えば奴を殺す絶好の機会を失うことになるのだ。攻撃しようとしていた行動を全力でキャンセルし、身を後ろ側に屈めた。

 空気を切り裂く音だけを残し、視界を奪われる事無く大振りに振られた銀ナイフは通過していく。

 奴が体勢を立て直す時間を、私も後ろに傾いた体を起こすのに使用する。私を戦闘不能にさせるために、かなりの力を込めたようで、奴の上半身は脇を向いて体の軸がずれている。

 まるで捨て身の様な攻撃だ。ここから立て直すのにはかなりの時間を要する。このまま首に得物を突き立てようと、前に進んだところで意識や視界外から腹部に強い衝撃がもたらされる。

「がっ…!?」

 皮膚を突き破り、刃とは違う触感の物体が体内へと抉り込んできた。切れ味の悪いそれは、異次元咲夜の銀ナイフでないことが直感で分かる。

 ナイフを振るう、投げるのには無理のある体勢だが、蹴りを入れるのには可能である。強化した身体能力により、ハイヒールの踵が肉を抉る。

 蹴りの威力が高かったことで、弾き飛ばされた。受け身を取るのに失敗し、背中を地面へと打ち付け、転がり続ける。

 地面との摩擦が大きく働き、抵抗しなければあと二回か三回は転がっていたのを、手足を使って食い止めた。

 止まる体勢に入った事で速度が落ちてはいたが、それでも土の上を靴がや手が滑り、完全に体が停止するまで数秒を有した。

「っ……」

 腹部に鈍い痛みが走る。奴からは視線を外すことができず、ブレーキするのには使わなかった手でその傷を押さえこんだ。

「うっ………ぐっ……!」

 出血を抑えようと傷口を締めるだけで、頭の頂点から足先までを電流が流れるほどの痛みが走る。生暖かい液体が指の間を通り抜け、地面にチタチタと零れた。

 新しく着替えたばかりの服に、新しい赤い染みがジワリと広がる。武器として使われるはずのない物で、こういった傷を刻まれると、逆にそれが激痛の種となる。

『今、よろしいですか?』

 銀ナイフをちらつかせ、次はどう私に攻撃しようかと考えているのが容易に読み取れる。異次元咲夜を睨んでいると、咲夜から魔力を介して声を掛けられた。

「駄目だ、後にしろ」

 前かがみに地面を踏みしめていた体勢から、上体を起こし、腹部の傷に魔力を送り込みながら、答えるが彼女も退かない。

『大事な話です』

 咲夜がそれを言い終わるか終らないか、その位のタイミングで、まったくないと言っても過言ではない月明かりに、照らされた白銀の軌道がコンマの時間だけ顔を覗かせる。

「っ…!!」

 異次元咲夜のことも意識内から放り出し、わき目も振らずに横に飛びのいた。鋭い金属音と、土を掘り返す音が先ほどいた位置から耳に届く。

 同時に刺さっている得物も当然あるだろうが、刺さった音の量からしてその場に留まっていたら、サボテンのようになっていたに違いない。

「何を独り言を言っているのか知りませんが、そんなことをしている余裕があるんですか?」

 飛びのき、着地した直後の私に向け、異次元咲夜は追撃で次々と銀ナイフを投擲してきているのを、向けてきている敵意から感じ取る。

 どの部分を狙ってきているかなど、霊夢でないから私にはわからない。暗闇で見えずらい銀ナイフを切り落とすことなど、私にできるかなど聞くな。

 休む間もなく、再度奴の予想を裏切ることのできる方向へ飛びのいた。今度の着地は気を付けなければならない。足元に先ほど地面に食い込んだ銀ナイフが並んでいる。

「なんだぜ、大事な話って……こっちは取り込み中だぜ」

 得物に足をぶつけてけがをしたり、転ばないように細心の注意を払い、身を低くして銀ナイフを数本地面から引き抜いた。

『あいつが驚いていた理由が何となく分かりました。正直私も驚いています。』

 驚いているという割には、いつも通りの冷静な口調で彼女は話す。これは聞いておいた方がいいのだろうか。どちらかといえば戦いに集中したい。

 その私の考えとは裏腹に、咲夜はその説明を始めてしまう。

『あなたは、どうやって銀ナイフを作っているのですか?』

「どうって、……普通にだよ…!」

 奴の方向から手に生成された得物に、こちら側へ飛んでいく性質の魔力を感じる。その数は約10。私が両手で拾い上げた得物では、その半分にも到達していない。

 だが、投げれば奴は嫌でも反応し、私の得物を撃ち落とす。数が少なくなればその分だけ、自分が避けなければならない攻撃の数が減る。

 異次元咲夜や咲夜が、敵にうまいこと当てていたのを真似、得物に奴に向かって飛んでいく性質の魔力を与え、武器を適当に放り投げた。

 その性質の魔力を与えていなければ、異次元咲夜に届いた得物は、一本も存在しなかったことだろう。

 私が放り投げた武器に僅かに反応したものの、明後日の方向に向かって行くのを見て、自分の攻撃に移ろうとする。

 突如として意識を持ったように動き出した得物に、奴は目を向いて驚き、射出しようとしていたプログラムを全てキャンセルした。

 奴の目の前に浮かんでいた銀ナイフが、魔力の性質を失って落下する前に、二本の得物を掴み取った。

 湾曲しながらも確実に自分の喉笛や、心臓を貫かんと飛んでくる銀ナイフを安定した挙動ではじき返した。

『私が最高の精度で作り出した銀ナイフでさえ、あいつの得物に打ち合わせた途端に砕かれ、曲げられました……なのに、あなたは砕かれるどころか、奴の得物を砕きました。どうやって作り上げたんですか?』

 私は、ただただ返答に困った。普通に作っているつもりだったのだが、はたから見ればそれは違うようだ。

 咲夜へと返答することを後回しにし、攻撃の手が止まった敵との距離を詰めようと走り出した。だが、すでに立て直し、数で言えば倍以上の銀ナイフを両手に保持しているのに気が付いた。

「っ…!」

 一本一本全てに、高速で前方に飛行する性質が含まされている。見た目は銀ナイフを投げようとしているようにしか見えなかったから油断した。接近している以上は予想を超える速度に、私は対応できずに全身をハチの巣にされていたに違いない。

 踵を返して方向転換し、一番近くにある遮蔽物の木へと一目散に向かう。自分のたくらみに気が付いた私を逃がすまいと、進行方向へと銀ナイフを時間差を置いて射出する。

 速度は奴の放った得物の方が断然早い。当然私から狙いが逸れていくものもあるが、十数本の銀ナイフを、両手に持つ二本の銀ナイフでいなすのは無理だ。

 奴に飛ばすのに得物はすべて使ってしまった。走りながら作り出し、適当に銀ナイフを振るうと、いくつかに当たり、鋭い金属音を響かせるが、左肩に鈍い痛みが走る。

「あぐっ!!?」

 それは持ち前の切れ味で筋肉を断裂させ、肩と腕をつなげる関節の境目に入り込んでくる。柄の根元まで突き刺さる程の勢いに、体のバランスを大きく崩した。

 重たい金属のナイフが高速で射出され、それが人体に当たればそれなりの衝撃を受ける。バランスを崩したのも相まって、体が半回転し、背中にさらに数度の痛みを感知。

「がっ……ああっ…!!」

 時差を付けて銀ナイフを射出していたため、残りは私が向かうはずだった方向を通り過ぎて行く。

 痛みに耐え、頃合いを見て追撃を受ける前に、攻撃の終わった安全地帯をよろけながら走り抜け、隠れる予定だった木の陰へと逃げ込んだ。

「っ…はぁっ………くぅっ……!」

 どこが痛みの発生源なのかわからないほどに、全身が痛い。背中の銀ナイフを引き抜こうとするが、左手が動かない。

 肩周りを負傷したことで、手先に向かうはずだった神経が障害されたのだろう。治すためにはここから引き抜くしかないのだろうが、握った際の少しの揺れにも痛覚や神経が反応し、肩に電流が走る。

『大丈夫ですか?』

「そう……見えるのか?」

 痛みに歯を食いしばって意識をしっかりと保ち、銀ナイフを引き抜いた。ズルッと肉の表面を滑る嫌な感触を指先に感じる。十数センチの長さが一メートルにも感じる。

 十数秒かけ、ようやく引き抜いた血液と脂まみれの銀ナイフを、そこらに捨てた。背中のは後回しだ。一度、奴の姿を確認するために、木の陰から顔を傾けると、耳の感覚が消えうせた。

 残ったのは、鋭い痛みだけ。魔力に意識を向けている余裕がなく、奴の接近に気が付けなかった。

 人間は痛覚よりも触覚の方が優先されると、何かの本で書いてあったのをおぼろげに思い出す。だから、何かにぶつけた時に反射的にその部分を触ってしまうらしい。

 それが正しかったと、実感する。反射的に右耳を抑えようとしている私は、目の前のメイドにどうにでもしてくださいと言っているようなものだ。

 今更ながらに奴へ銀ナイフで攻撃を加えようとするが、それは意外な形で遮られた。攻撃対象であるメイドが懐へと飛び込んでくると、背中側へ手を伸ばし、抱き着いて来た。

「なっ!?」

 意図も理由もわからず、困惑する。だが、やることは変わらない。逃げる途中で銀ナイフを落としてしまっていたため、銀ナイフの性質を加えた魔力で得物を作り出そうとした時に、意図に気が付いた。

 わき腹や背中に得物を突き立ててやろうと振りかぶった所で、私に抱き着いているメイドが、背中に刺さったままの二本の銀ナイフを握り込んだ。

「やめっ……!」

 武器を振り下ろすのではなく、静止を口に出したのは、出遅れた私が奴を殺す前に攻撃を阻止できないと、本能が悟ったからだろうか。

 刃が肉と布を引き裂く音。それに遅れて、地面へとあふれ出した血液が滴っていく小さな水音。

 奴は、銀ナイフで私の体を引き裂きながら、引き抜いたのだ。傷口が二倍にも三倍にも広がり、出血量も多くなる。

「………がっ……ぁぁ…」

 遅れてか細い吐息と共に、私が濡れていく地面に膝をついた。倒れ込みそうになった私の髪を毟る勢いで掴むと、地面から足が離れるほどの高さに私は持ち上げられた。

「辻斬り女から聞きましたよ?相当な重傷を与えられたそうですね?その割にはピンピンしているようですし、もう少し痛めつけても問題はありませんよね?」

 ニコリとほほ笑む異次元咲夜に、寒気を感じた。先ほど働いた本能が、一秒でも早くこの女から逃げ出したいと叫び散らしている。

 普段ならそれに従っていたところだが、それには応じることができない。一つに咲夜がいるというのもあるが、少しでも長く異次元ナズーリン達の逃げる時間を稼がなければならない。

 彼女たちにとっては妖精も異次元ナズーリンも取るに足らない存在だ。しかし、奴は目的のせいで私を殺せない。その腹いせに確実に彼女たちをわざわざ追うはずだ。

 私がここに来たことで、彼女たちが見つかることとなってしまった。せめて逃げるだけの時間は稼がなければならない。小傘が妖夢の観楼剣を持っているからなおさらだ。

「やれる……もん、なら……な……!!」

 痛む体に魔力を巡らせて痛覚を鈍化させ、髪を掴んでいる手を振り払った。思ったよりも簡単に振り払えたのは、奴がこの行動をわかっていたからだろう。

 着地しすぐに反撃しようとしたが、膝が曲がってしまい片膝をついてしまった。牽制にレーザーを放とうとするが、奴の方が一手早い。魔力にレーザーの性質を組み込む前に、胸に蹴りが叩き込まれていた。

「ええ、そうさせていただきます」

 浮遊感を感じながら、空と地面を一度ずつ視界に入れる。空中で立て直す暇もなく、衝撃を受け流す動作もできず、背中から直径が私の頭よりも二回りも大きい樹木に激突した。

「あがっ…!?」

 骨が折れる音はしなかったが、肺に一時的とはいえ強い圧力がかかった。内臓が痛めつけられ、呼吸をするごとに胸が炎のように熱い。

「かっ………ぁ…っ……!!」

 胸を抑え、前に傾いて倒れ込みかけている体を起こそうとしているが、異次元咲夜は次の攻撃準備が整ってしまっている。

 銀ナイフの性質を感じれる得物を、どう持っているのか両手に二十を下らない数握っているのを見なくてもわかった。

 右手と違ってだらりと地面に垂れ下がっている左手から、魔力を土の中へと流し込み、周囲の地形を作り替える。

 異次元にとりと戦った時と同じく、前面の土を大きく盛り上げ、魔力で圧縮して大きな壁を形成する。

 それだけの数、得物を持っていれば当然投げて来る。壁に使われている石や土に当たり、耳をつんざく金属音を何度も響かせる。

『あなたは、奴がやろうとしていることがなぜわかるのですか?』

 そう言われても、魔力の性質からそう思ったとしか言いようがない。なぜそんなことをわざわざ聞くのだろうか。

「わかるからだぜ…何となく」

 同じ場所に長くとどまり続けるのは危険だ。何度も得物を形成し直し、投げ続けている奴から見えないように地面を這いずり、後方へと移動する。

『わかるというのは、私達や奴らが攻撃に使う魔力の性質がですか?』

「そうだ…」

 異次元咲夜に聞こえぬよう小さな声で話し、後方に群生している木々の一つに隠れた。身体強化を解いて、奴に私の居場所を見つけずらくさせる。

『あなたは、初めからその状態だったから、それが普通だったのでしょうが……時間をかければできないことは無いですが…世間一般では感じ取れる魔力の流れから、どんな性質が含まれているかを瞬時に探ることはできません』

 初めて知った。

『蓄えている魔力の量、飛んでくる弾幕の速度や大きさから、どんなものが性質として含まれているのかを推測することはできますが、知ることができるのは着弾した時です。……それを、あなたは飛んでくる弾幕を見る前に、放つ段階で知れる。ですよね?』

「ああ、そうだ」

 スペルカードの構造がわかったから、パチュリーのスペルカードをいくつか拝借させてもらったし、幽香の放つレーザーを基盤にマスタースパークを作った。

『………あなたが私が作り出す以上に、高精度のナイフを作ったときに思いましたが…。私は自分の所有している銀ナイフでさえ、完璧な形で再現するのに数週間から、数か月はかかりました。それをあなたは、そういう性質を加えればできますし、意識を向けるだけで相手がどんな技をやって来るのか、その構造がわかります……』

「さっきから…話し方が回りくどいぜ。………私に何をさせたいんだ?」

『………そうですね…スペルカードを含めて、魔力の誘導を受けた攻撃をされたとしても、それをタイミングを合わせて相手に返せば、あなたが苦手としている銀ナイフの射出は、脅威ではなくなると思いませんか?』

 彼女の柔軟な発想に、ハッとした。咲夜が言うように、私は技の構造が全てわかっている。もしわかっていなくても、相手のやって来る攻撃と全く同じ性質の魔力を用意し、返してやれば脅威でなくなるだろう。

 例えるならAからBへと向かう線を描くとしよう。グニャグニャに曲げて伸ばしたとしても、それをその形のまま反転してBからAに行くようにすれば、必ずどこかで線は交わる。理論上は、タイミングさえ逃さなければ、魔力で制御された銀ナイフは空中で必ず全て打ち落とせることになる。

「…」

 咲夜の知識があっても、私には技術もなければはたき落とせるだけの腕もない。彼女の言った事をできるのであれば、奴に刃を突き立てられるチャンスが生まれる。

 私が咲夜の提案したことを飲み、実行に移そうとした時、はるか後方から異次元咲夜の強力な魔力が発生する。スペルカードだ。

 バネやゴムボールの様な、跳ねる性質を強く感じる。それに加え、速度にも魔力が費やされているようだ。

「速符『ルミネスリコシェ』」

 異次元咲夜の呟きが聞こえ、銀ナイフが投擲される。木の後ろに隠れていても、含まれている性質により、安全地帯にはなりえない。

 全く準備の整っていない私が、それの性質を持った魔力で反撃することなど、当然できるわけがない。

 視界内に入って来たと思ったら、木や地面でバウンドし、視界外へと飛んでいく。木が円形であることで、ぶつかった銀ナイフが飛んでいく方向が予想つかない。

 目で追えるスピードを、軽く超える銀ナイフの速度に翻弄され、明後日の方を見ていると、真横から飛来した得物がわき腹に牙を立てる。

「ああっ!?」

 物ではなく人にぶつかることで、跳ねる性質を失うようで、皮膚上で跳ね返ってまたどこかへと飛んでいく事無く抉り込む。

 骨に当たらなかったとはいえ、柄まで食い込んでしまっている。複数の内臓を傷つけているのは確実だ。しかし、斜め上から飛んできて、低い位置に刺さったのが幸いし、呼吸器官や心臓などには当たっていない。

 意識を向けていなかった方向から来られたことで、踏ん張ることができずに木の裏側からあぶり出された。

「っ………くぅっ…!」

 破壊された左肩関節がようやく修復できて来たようで、刃の根元まで刺さった銀ナイフの方へ伸ばすが、傷周辺の皮膚に触れただけで、焼けつくように痛い。

 よろけた先で、視線が丁度よく異次元咲夜の方向を向いた。奴は、うまいこと私のことをあぶり出せたのが面白かったようで、嘲笑している。

 さらに追撃するようで、その手には銀ナイフが握られている。早く逃げないと、そう思っていたが、違うだろ。と自分を叱咤する。

 こんなにやられっぱなしでいいのだろうか。この先、異次元霊夢に、異次元妖夢との戦いも待っているのだ。こんなところで、時間をつぶしている暇はない。私が時間をかければかけるほど、霊夢が殺される確率が高まる。奴らが、彼女に異次元早苗を差し向けたように。

「っ…あああ……!!!」

 私の体は頑丈なんだ。多少無理をしても、どうとでもなる。目先の痛みよりも、大切な人が殺された悲しみの方が重要だろうが。

 腹部から力を抜き、左手で刺さったつかを握り込む。ゆっくりではなく、一息に過剰なほどの力で引き抜いた。

 本物の銀ナイフに、異次元咲夜がやったスペルカードの性質を含ませた。よろけていて狙いは付けずらいが、この技は初撃が当たらなくてもバウンドしてあたる可能性がある。

 狙いはあまり付けず、奴の方向へと投擲した。私の手元を離れた途端に、目にもとまらぬあの速度で飛翔し、何度も地面や木の表面を跳ねる。

 放った私でさえその軌道は把握できていないが、得物にはぶつかったら跳ね返る性質しか含まれていなかった。異次元咲夜も同じような物だろう。

 違う部分を上げるとすれば、奴の方が反射神経が圧倒的に優れているという所だ。銀ナイフが跳ねている領域から離れていることで、その軌道を追えた。奴の視界外から襲いかかったが、後頭部を貫く前に標的がゆらりと体を半回転させ、手に持っていた武器で弾き落としてしまった。

 魔力の青と本物の赤い火花が飛び散り、跳ねる効力を失った銀ナイフは回転しながら弧を描いて落下し、地面に切先が刺さってようやく停止する。

「……。面白いことしてくれましたね」

「ああ……趣味の悪い装飾が施されてるからな、返してやったんだ。感謝してもらいたいもんだぜ」

「猿まねした程度で、よくもそこまでいい気になることができますね」

 腹部を怪我しているせいで話すと胸腹部に激痛が走るが、やせ我慢をして吐き捨てた。刺突された傷からは、ゴボッと血液が漏れ出して来る。片手でそれを押さえ、肩から腹部周辺へ魔力を送っていく。

「…」

 異次元咲夜は安い挑発だと、わかりやすく鼻を鳴らす。怒らせてスペルカードを使わせようとしていると、彼女はもうわかっている。

 まあ、そうだろう。あからさまに神経を逆撫でして、怒らせようとしているのだから、感づかないはずがない。だから、もうひと押しが必要だ。

「ああ、そうそう。……十年前、レミリアを吹き飛ばすことができて、胸がすっきりしたぜ」

 私がそう言い放った途端。異次元咲夜の雰囲気が、一瞬でガラリと切り替わる。その殺意に、森に残っていた草食動物はねぐらを捨て、肉食動物は自身の縄張りも忘れ、我先に私たちの周りから逃げ去っていく。

 理解する。私はどれだけ彼女たちに手加減をされていたのかを。頭に血が上った異次元咲夜の憎悪は、噴火した火山から漏れ出る溶岩のように燃え盛っている。

 見開かれた瞳からは、殺意しか感じられない。私に対するあらゆる負の感情が、べっとりと塗り込まれている眼を見ているだけで、重圧に押しつぶされて地の底まで押し込まれてしまいそうだ。

 他のことではあまり取り乱すことは無いが、やはり自分が忠誠を誓った人物について言われれば、頭にも来るだろう。

 彼女の頭の中には、冷静という文字はもう残っていない。この目の前にいる仇をどうやって苦しめて殺すか。それによって支配されている。

「私は、力の手に入れ方がわからりません。だから、博麗の巫女が動き出すまで待つつもりでしたが………。考え直しました。……独学で探っていくことにします」

 声は至って冷静なのに、殺意の籠った瞳、憤怒の表情、溢れ出して留まることを知らない憎悪は、私に恐怖を植え付けるのには十分だった。

 今までに体験したことのない程に、邪悪な憎悪は逃げることが許されない私の精神を蝕んでいく。殺意に当てられ、発狂した方がどれだけマシだっただろうか。

「っ……うぁ…」

 息を飲む私に、頭の中で咲夜は何かを言ってくるが、それに耳を傾けている余裕はない。歯が合わず、ガチガチと音を鳴らす。手が震え、自然と足が後方に傾きかける。

「動けなくなった貴方の目の前で、そちら側の博麗の巫女を、拷問して、拷問して、苦しめて、苦しめて……お嬢様の味わった苦痛を…貴方と一緒に骨の髄まで味あわせてあげましょう」

「………っ!!」

 それを言われるや否や、心臓が締め付けられるように苦しくなった。物理的な物ではなく、感情や精神的な観点から来るものだ。異次元咲夜に植え付けられたものが、別の恐怖に変わっていく。

 置き換わったそれは私にとって、逃げ出したくなったり、強張って体を動けなくさせる逃走的な部分ではなく、闘争的な部分を刺激する。

 後ろに下がりかけた足が逆に前へと進み、震えてどうしようもなかった手は、ピタリと止まる。そして、怒りを具現化したかのように自然と握り込まれ、先とは違う形で震え始めた。

「死にかけても治療しましょう、気絶すれば起こします。貴方と、博麗の巫女は…」

「黙れよ…」

 瞬間的に手のひらを向け、レーザーを奴の顔面に正確に打ち込んだ。私がいきなり弾幕を撃ちこんでくるとは思っていなかったようだ。

 狙った場所に着弾はしなかったようだが、きわどいタイミングだったのが、銀色の髪が一部焼けていることからわかる。

「弱い奴が口達者っていうのは、本当なのか?なんだか試さなくてもいい気がして来たぜ」

 私は最大の嘲笑と侮辱を込め、こちらを睨んでいる異次元咲夜に嘲笑うように言い放った。

「…っいいでしょう…!!あなたの望み通りにしてあげましょう!!!」

 どこからか取り出したカードを目の前に掲げ、濃密な魔力を流してスペルカードの回路を起動する。

 淡青色に淡く光るカードを握りつぶし、回路を抽出。異次元咲夜は何も迷うことなく、その強力なスペルカードを私に対して発動した。

 私も含まれている魔力の性質から、奴のスペルカードを瞬時に再現する。

 異様な光景だ。全く同じスペルカードが、思考も、性格も、弾幕の傾向も、戦略も違う人物から放たれた。

 こんな戦い方は、後にも先にもここだけだろう。そう他人事のように考えていた私は、そのスペルカードの名を、奴と同じタイミングで口にした。

 

「「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」」




次の投稿は、仕事が忙しくない限りは6/20の予定です。

今年から社畜になったので、この生活に慣れるまでは、更新が遅れ気味になると思います。

遅くなる場合はその都度書き込みます。
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