それでもええで!
という方のみ第百三十一話をお楽しみください!
彼女たちが殺されてから、どれだけの時間が経過しているかはわからないが、私が外に飛びだしてから今までの間なら、まだそこまで時間は経過していないはずだ。
異次元ナズーリンの元家に空いた穴から外に歩み出た。血や糞尿の匂いが混ざり合った、いるだけで窒息してしまいそうな空気とは違い、外の新鮮な大気は呼吸を繰り返すごとに脳がハッキリしていくような気がした。
しゃがみ込み、地面に残った血と足跡を観察する。大きさの違う足跡が二つ残っている。一つは子供と想像できる小ささで、もう一つは私と変わらないぐらいの大きさだ。
小さい方が誰の物かわからないが、部屋の中に死体が残っていなかったことで、大妖精かミスティア、リグルの物だろう。
身長から、大妖精たちが私と同じサイズの靴を履いているとは思えない。大きい方の足跡は異次元妖夢で間違いないはずだ。
小さい方の足跡に、大きい方の足跡が重なっている。誰かが追われているのは確実だ。その出血量や足取りから、逃走はそう長くはもたないことが予想できるが、追跡しないわけにはいかない。
推測であるが、足跡の持ち主は大妖精ではない。冷静な状態でなければ分からないが、能力で逃げる彼女がわざわざ走って逃げることは無いはずだ。
誰かを抱えながら走っていたとしても、彼女が触れている限りは一緒に瞬間移動できる。追う追われるの関係で、瞬間移動ができない状況だからという事でもないだろうし、ミスティアかリグルの足跡だろう。
足跡が一つしかない所を考えると、どちらか片方は大妖精と逃げられた。と考えられる。仲間意識の強い彼女たちのことだ、囮にしたというよりは、自分から囮になったのだろう。
「…」
残った血痕と足跡に新たな痕を付け、走り出す。草むらに入って足跡が見分けられなくなっても、おびただしい血痕が残っており、戦闘痕から来た道を戻ることよりもずっと楽だ。
坂を上り、木の間を蛇行し、時折空を飛ぶなど、様々な手法を使って逃げているが、血がどちらに進んでいるのかを教えていて、素人の私でも追うことができる。
二つほど坂を上り、反対側の急斜面を見ると走ったりしている時よりも、血痕と血痕の間がかなり開いている。地面もきちんと自分の足で歩いたというよりも荒れた感じを見ると、足を滑らせて転げ落ちたようだ。
体の重心が傾かないようにバランスを取りながら、柔らかい土の斜面を滑り下りた。新しく着替えたばかりでできるだけ汚したくないと思ったが、異次元咲夜との戦いで十分汚れているのを思い出した。
坂を下りきると、走って逃げていた時よりも地面に残った血痕の量が多い。転げ落ちてから少しここに留まったというよりも、坂を下ったところで追いつかれたようだ。
「…」
妙だな。異次元妖夢は山の中だろうと、白狼天狗に劣らぬ速度で走れる。それに、同じ能力を持った妖夢でさえ簡単に殺してしまうほどの力量もある。
その奴が、二つの坂を上るまで追いつけず、戦いに不慣れな彼女たちを一撃で殺せないはずがない。となると、この狩りを、楽しんでいるのだ。
出血量の多くなったことが一目でわかる手負いの少女は、足取りが悪くなるが、それでも逃げようとしているのが伝わって来る。
十数歩進んだ後、ここで振り返って抵抗したのだろうか。靴の痕が反転している。能力でやったのか弾幕かはわからないが、迎撃しようとした様子だ。
数歩そのまま後ろに下がったようだが、当然この攻撃をくぐり抜けられる異次元妖夢に、二度目の斬撃を受けたようだ。
今回は今までのように浅い物ではなくかなり深い傷だ。水滴が落ちた程度ではなく、まとまった量の血液が地面に零れている。
視線を血痕の道筋通りに進めていくと、十メートルほど先に小さな少女の左腕が一本、足跡の上に残されている。
走り寄り、しゃがみ込んでその腕を簡単に観察する。早く追わなければならず、ここに時間を使っていられない。
注目すべきは切断された二の腕の辺りではなく、指先だ。何の傷もなく綺麗で細い指だとわかる。これの持ち主は、リグルだ。
屋台を開いていてから、だいぶ長いこと料理を作って来たミスティアだが、その仕込みで今でも時々怪我をすることがあると、昔飲みに行った時に聞いた。
包丁を持つ手なら怪我がないことはあり得るが、彼女は右利きで、右手で包丁を握る。怪我をしているとすれば、この落ちている左手に付くことになる。
それが全くないという事は、ミスティアである可能性はぐっと低くなる。リグルはミスティアと比べ、多少は戦闘向きだ。今ならまだ間に合うかもしれない。
指先で軽く触れると、まだ少し暖かい。ここを通り過ぎてからあまり時間は経過していない。二人はすぐ近くにいる。
リグルのと思われる足跡と血は、腕の落ちた場所から今度は違う方向へと逃げている。いや、逃げていると形容していいのだろうか。
出血がピークに達しているのか、地面にできている痕跡は、酔っ払いの千鳥足のようにおぼつかない。いつ倒れてもおかしくなさそうなのが、足跡からもわかる。
くそ。自分の不甲斐なさに苛立ちを感じる。迷っている時間が無ければ、もっと早くここに来れたかもしれないのに。
リグルが向かっているであろう方向に顔を上げると、目標としていた二人の人物が二十メートル先にいる。
一人は地面に伏せている。もう一人は大地を踏みしめ、喜々として地面に倒れて動くことのない少女に、錆びついた刀を何度も突き立てている。
空を仰ぎ、瞬き一つすることのないリグルの胸に、観楼剣が突き立てられるごとに体がビクッと痙攣するが、それは彼女の意志ではないだろう。
どれだけの回数、観楼剣を抉り込ませたのだろうか。倒れた血まみれのリグルの胸元はズタズタで、原形を留めていない。
ぐちゃぐちゃになったリグルの胸から、血と臓器片にまみれた刀を引き抜いた。血脂がべっとりと染みついていそうな刀の腹を、ピンク色に近い舌でべろりと舐めとる。
二十センチか三十センチ程、刀に舌を這わせる。肉と血を絡めとると口に含む。体液はそのまま飲み込み、肉や骨、軟骨などを赤色に染まる歯でゆっくりと咀嚼し、噛み砕いて味わっている。
普通の人間の神経ではできないことだが、こいつはそう言った事を散々やってきている。今更驚かない。
上気し、恍惚な表情を浮かべたまま人肉を食んでいた異次元妖夢を見て、怒りが湧く。友人や刀を治してくれた小傘たちが無残に殺されたのだ、憤怒しないわけがない。
しかし、それ以上に隙だらけの異次元妖夢に切りかかるチャンスだと、人情を捨てた部分が私の闘争本能を掻き立てた。
後方からではなく横側からの攻撃に、察知される不安があるが、下手に動けば見つかることになる。気づかれていれば奴は私に興味が移るはずだが、その素振りは無い。こちらに注意が向いていないとして、魔力で浮遊を調節し、二十メートル先の異次元妖夢に切りかかった。
空気の流れや、声、音が奴に備わっている物理的な感覚器のレーダーにひっかがったわけではない。五感では拾いきれなかった殺気を、勘や本能に近い部分が感知してしまったのだろう。
切り刻まれた死体を見てうっとりしていた異次元妖夢の瞳だけが、ぎょろりとこちらを向き、視界に私の姿を捉えた。
今までしていた全ての行動をキャンセルし、消えたと錯覚する速度でしゃがみ込む。短くなった観楼剣の軌道には、髪の毛一本も残っていない。
空気を切り裂く唸り声を残し、刃は無情にも何かを切りつけた抵抗感を得ることなく振り切られてしまう。
しゃがむ異次元妖夢は真っ赤な観楼剣を携え、移動を制限するつもりか、下段に得物を薙ぎ払う。錆びついて切れ味が落ちているとは言え、私の足を切断するのには十分すぎる切れ味を持っている。
例え切断されたとしても、足は再生するが、その過程には痛みが存在する。失神してしまいそうになる激痛など、何度も体験したいものではない。
私は大振りの攻撃をして、隙を見せているが、特に焦っているわけではない。奴がこちらに瞳を向けた時点で、魔力で浮遊に手を加えておいた。
体の浮遊感が強まり、落下していた体がほんのわずかな時間だけその高度を維持した。落下することが前提で振られていた奴の観楼剣は、足にも掠らずに通り過ぎる。
浮遊の魔力を消すと数十センチの高さから落ち、何の怪我もなく短くなった得物でも届く距離に着地できた。
着地した衝撃を逃がすため、膝が数センチ下がる。本当なら着地と同時に切りかかりたかったが、ここを無視して足を痛めるとその分だけ時間も魔力も無駄になる。急がば回れだ。
刀を振れるだけの体勢が整うのと、異次元妖夢が観楼剣を振り切った体勢から攻撃に転じるのはほぼ同時だった。
背筋から繰り出される腕力で加速された観楼剣が、振り切るまでの道のりを半分超えた程度で急停止した。
お互いが握る得物の中間部同士が合わさり、空中に飛翔した花火が爆ぜる様に、赤と青の火花が四方八方に弾けた。
そこから鍔迫り合いに持ち込まれぬよう、下半身に力を込めていたが、それを体勢から読んでいたようだ。金属と金属が交わる不快な音を奏でさせ、異次元妖夢が観楼剣をクイッと捻ると別方向からの力が加わり、簡単に弾かれてしまう。
正面からの力に対応しようとするあまり、横からの対策をあまりしていなかった。だが、まったく構えていなかったわけではない。復帰は何も対策していなかった時に比べれば、早いだろう。
後方に下がりつつ、突っ込んで来ようとする奴の攻撃までの時間を稼ぐ。追いつかれぬ為にも、でたらめで太刀筋もあったものではないが、観楼剣を振るった。
迫ってこようとしている奴の速度が嫌に遅く見えたが、焦りからあまり深くは考えていなかった。急激に異次元妖夢の走る速度が高まるり、柄を握る刃の内側に入り込まれてしまった。
右手に持った観楼剣で左側に行くように切りつけていたが、手首に左手を添えられ、それ以上進ませることができなくなる。
左手首を掴まれて間もなく、血なまぐさい体臭を漂わせる異次元妖夢の右手が、私の首元に伸ばされる。攻撃をキャンセルさせられた私は、それを抵抗する段階にない。
どうにかして避けようとしても、奴の手の方が一足も二足も早く首元に到達する。その時、剣術を扱う程度の能力という性質の他に、複数の性質を感じ取る。
微弱ではあるが、星熊勇儀が使っていた固有の能力の性質を感じ取った。意識を向けていても剣術を扱う能力の性質に埋もれ、検知は困難だったが、至近距離からダイレクトに発動されたことで気がつけた。
異次元早苗や異次元咲夜のように、異次元妖夢の持っている二つ目の能力がそれと言うわけではない。剣術を扱う、怪力乱心を持つ程度の能力の他に、初めて感じ取れる性質の魔力がある。
それをどう形容したらいいのかよくわからないが、感じ取れる部分を言葉にするとしたら、他の人が使っている固有の能力を使うことのできる、そういった性質がある。
異様に高い攻撃力に、どこからともなく観楼剣を取り出すスキマの能力。それらにようやく合点がいく。
こいつは一人でどれだけの能力を発動できるのだろうか。あらゆる状況で使い分けることができたり、さらに複数の能力を併用できるのであれば、恐ろしい奴だ。
奴のもう一つの能力がわかったから、この首を掴まれそうになっている状況をどうにかできるかと言えば、無理だ。
万力で締め付けられているような、人間では一生かかっても発揮できることは無い握力に、首に力を入れて耐えなければ筋肉ごと頸椎を握りつぶされそうだ。
「…っ……!!」
呼吸など当然できるわけもない。体の奥を走行する動脈と静脈、それらの中を通過する血液すらも停滞し、一分もこの状態が続けば意識を失って失神してしまうことだろう。
六十秒も時間があれば、どんな形でさえも抵抗はできる。魔力を使用して奴を吹き飛ばそうとするが、踏ん張りを付けられない上側へと奴に持ち上げられた。
微弱だったが勇儀の能力が発動しているだけはある。まるで赤子のように体が地面を離れ、奴の頭上を背負い投げの形で振り回されると、容赦なく地面に背中を叩きつけられた。
「っ!!!」
背中側からの衝撃に、肺が周囲を囲む肋骨に圧迫され、肺内部に存在していた空気が口へと続く気管支へ殺到するが、喉が塞がれていると事で空気は行き場を無くす。
あまり強い器官と言えない最外層にある肺組織を、圧の高まった空気が突き破り、体外に流出しそうになった時、異次元妖夢が首から手を放した。
「げほっ!!ごほっ!?」
突き破ろうとしていた所で他に逃げ場ができ、肺に存在していた空気が咳と共に外へ吐き出された。
危うく体が膨らんだ風船に針を刺した状態になるところだったが、ならなかったことを喜んでもいられない。普段見ることのない靴の裏側が私の顔面向け、猛スピードで迫って来る。
「っ!?」
全身の筋肉を使用し、一瞬だけ瞬発力を発揮した。胸が締め付けられ、ズキズキと痛む疼痛に苦しみながらも逃げることには成功した。
頭のすぐ横を靴が通り過ぎて行き、地面にめり込んだ。奴の足周辺の地面が陥没し、そのさらに周囲の土が盛り上がって爆発する。
範囲は勇儀に比べればかなり狭いが、倒れていた状態からの逃走となり、飛礫が飛散する範囲から逃げきることができずに、弾き飛ばされた。
「うぐっ…!!」
肩や足を地面に打ちつけた後、地面と接触した摩擦によって減速され、地面を転がってようやく停止する。
やはりだめだ。複数の能力を使う云々の話ではない。剣を使用した戦いでは、まるで歯が立たない。剣術を扱うこと自体が能力で、異次元咲夜のようにただ使えていた者とはわけが違う。
陥没した穴から足を引っこ抜いている異次元妖夢を警戒しつつ、握っている観楼剣に意識を向ける。奴と少しでも対等に近づくためには、妖夢が持っている刀の知識が必要だ。
必要なのだが、また、私のことを操ろうとするのではないかという不安に、魔力で精神をつなげようとする行為を躊躇してしまう。
それで動きが止まってしまっているうちに、異次元妖夢がこちらに突っ込んでくるだけの時間を与えてしまった。
攻撃を受ける前に飛びのいて逃げようとするが、同じ二足歩行の生物とは思えない速度で疾走する奴に、その方向へと回り込まれてしまう。刀を構えていなければ、首を掻っ捌かれていた。
切先が首の表面を撫で、刀と刀の摩擦で発生した火花を纏って通り過ぎて行く。逃げることに年頭を置きすぎていたようだ。その攻撃を受けることで精一杯だったことで、体の体勢が大きく崩れる。
異次元妖夢は刀を振ったばかりだというのに、刃の向きを反転させ燕返しのごとく切り返した。
今度は狙いを外さない。動脈と静脈を避ける形で首を切り裂かれる。空気の通り道である軌道に切れ目が出来上がり、発生した血が気管の奥へと流れ込む。
「ごぼっ…!!」
空気で十分に満たされた空間にいるはずなのに、溺れてしまいそうになる感覚に、脳と実際の現状が乖離する。
真っ赤な生暖かい血液が、内と外に留めなく溢れ出して来る。息を吸おうにも喉に付けられた切れ目から出て行ってしまう。激しい運動も加勢し、息苦しさが加速する。
喉元に魔力を注ぐと、ボンドやノリで物を接着するように、ぱっくりと開けていた切り傷がその口をゆっくりと閉じていく。
このままやられっぱなしで居れない。そう思って反撃に移ろうとするが、刀の燕返しの三度目が来なかった代わりに、やってきたのは下から来る蹴りだ。
攻撃している最中に、腹部に下から撃ち上げられた攻撃を避けきるだけの技量はない。体のど真ん中に薙ぎ払う蹴りが叩き込まれると、身体がいや応なしに折れ曲がり、吹き飛ばされた。
下側から上に向かう形で飛ばされたことで、木々の枝や葉っぱの中をかき分け、錐揉みした状態で空中に投げ出された。
「ごっ…ぁぁっ…!」
微弱で勇儀が発揮してた攻撃力と比べれば程遠いが、こんなものを何発も食らっていたら身が持たない。空気の抵抗で体勢が安定してきた頃、消化器官に溜まりに溜まっていた物を吐血した。
異次元妖夢を追っているうちに、森の外れまで来てしまっていたようだ。眼下には森の切れ目が映り、数キロ先では半壊して墓標の様な街が見える。
すぐに引き返し、異次元妖夢と戦わなければならない。魔力で姿勢制御を行おうとするが、すぐにそんなことをしなくていい事を察した。爆発物が爆ぜたかに思える跳躍音が、耳に届く。
私と同じように草をかき分け、異次元妖夢は空を翔ける。狙いをつけていたことで、移動する私の座標にぴったりと到達する。
私が反撃できる状態にないことを良いことに、上から叩きつける大振りの大根切りを放ってくる。悔しいが事実であり、観楼剣を構えて受けとめた。
重い。細い刀なのに、斧やハンマーなどの鈍器で殴られているようだ。全力で押し返そうとしても、腕は後退を続ける。
「いいのかしら?前みたいに彼女に力を借りなくて、このままだと勝負にならないわよ?」
刀にいる妖夢の存在に気が付いている奴は、血の付いた唇をゆがめて笑うと、続けて囁いた。
「まあ、居てもいなくても、変わらないけど」
挑発的に嘲笑う。奴の瞳から、またへし折ってやるという意志を感じる。妖夢の剣士としてのプライドを、ぐちゃぐちゃにしたいという欲望が丸見えだ。
だが、欲望に隠れて存在する一番の理由は、自分の保身だ。強力な力で叩き潰すのであれば簡単だが、それができない場合は、同じ能力を持ったもの同士で戦わせるのが倒すためには一番だ。それに近しいことをしている私が奴にとっては脅威なのだ。
しかし、私の息の根を止めるわけにはいかず、手助けとなっている刀にいる妖夢を、二度目殺そうとしているのだ。
「今準備中だぜ…黙ってろ…!」
確かにまた乗っ取られる可能性を考えると躊躇してしまうが、今はそんなことを言っていられない。彼女の魔力を受け入れる体勢を整えようとする。
「そう、でも…やるなら早くした方がいいわよ?」
そう呟く異次元妖夢から、微弱な空気を読む程度の能力を感知する。付近の空気中に漂っていた塵が魔力操作によって上空に集められ、その摩擦によって電気を帯び始めた。
それ自体は、冬の時期によくある何かに触った際のピリッとなる静電気だが、魔力によって増幅と強化を繰り返し、自然に起こる落雷と変わらない威力になって行くのが見ているだけで分かる。
魔力調節で異次元妖夢から距離を置こうとした矢先、自然災害の一つが解放され、その攻撃は目で追うことができる速度を超えている。気が付くと雷が私の体を捉え、スパークを起こした。
暗い。寒い。お腹が空いた。いつになったらこんな場所から出られるのだろうか。
「………………」
私は横たわったまま、何千回、何万回も思ったであろう疑問を、再度頭に浮かべる。こうでもして何かを考えていないと、自分を保てない。
淀み、外界よりも酸素濃度の薄いこの部屋の中では、疑問が浮かんだとしても酸欠で、それを処理できるだけ脳が働いてくれない。ただ思うだけだ。
何年たっただろうか。光が完璧に遮断され、今が朝なのか、夜なのか、昼なのかすらもわからない。
壁のすき間や扉の隙間、そう言ったところから流れ込んでくる外界の空気を、肺に取り入れて生きながらえている毎日。
それを日常として受け入れている私は、生きた生物としての尊厳など、とうの昔に捨ててしまっている。
何百年と生きてきたがこの数年は妖怪として、このように生を与えられたことを、ここまで後悔したことは無い。
なぜこんなに体が頑丈に生まれてしまったのだろうか。ただの人間であれば、とっくに死んで、あの世にいるであろう仲間たちに会えるのに。
体が頑丈と言っても限度はある。睡眠である程度は魔力が回復すとは言え、何年も飲まず食わずであれば、限りなく遅くはあるが死に少しずつ近づくことができる。
何十日か前に、自分の体を持ち上げようとしたら、やせ細った腕では上体を持ちあげることすらできなかった。
あと少しで死ねる。こんなところには、もう居たくない。死んだらどうなるとか、死に対する恐怖など、まったくない。
それを考えなければならない状況が、これ以上続くことのほうが私にとっては恐怖だ。
「………」
あいつらは何をしているだろうか。生きているのか、死んでいるのか。こんなところに監禁されているのだから、確かめる術はない。
戦争が起こる前のことを唐突に思い出した。楽しかったあの頃を。一度思い出すと、次々に思い出がどこからから蘇って来る。
そんな思い出に浸ることすらも奴らは許してくれないようだ。古い木製の扉越しに、誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。
この物置小屋を何年も何年も放置していたくせに、こういう時にはなんで放っていてくれないんだ。
開かれた扉から漏れて来た光が、何年かぶりに肌を焼き、網膜を刺激する。眩しすぎる閃光の奥からは、私をここに閉じ込めたと思われる人物の影が見えた。
逆光による眩しさで、どういった表情をしているのかを読み取ることはできなかった。しかし、何かよからぬことをしようとしていることは、雰囲気から読み取ることはできた。
次の投稿は7/11の予定です!
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