それでもええで!
という方のみ第百三十二話をお楽しみください!
視界全体が光りで埋め尽くされた。大口径のライトを顔に当てられたか、私がよく使う閃光瓶が目の前で破裂したような、そんな光量に目が眩んだ。
それらを本当に食らった時にあるはずがない激痛が、頭の頂点から足の先までを駆け抜けていく。文字通りに電流が走った。
「があああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」
上空から向かってきた雷が頭に当たったのかと思ったが、頭よりも高い位置に存在した観楼剣の切先に落ちたようだ。
雷が落ちた時、木のすぐ近くに立っていけないということはよく知られていると思う。その理由が私と観楼剣の間で起こったようだ。
刀から伸びて来た側撃雷が胸や頭に落下し、落雷に含まれている何万ボルトというエネルギーが、一瞬のうちに私の体にかかったことで、後方に吹き飛ばされた。
刀を手放さなかったのが奇跡的だ。電気が体の中を隅々まで駆け抜けたことで筋肉が収縮し、意図せず刀を握り続けたからだろう。
光で目が眩んでいたが、耳の奥に備え付けられている感覚器官は生きていた。自分の体が落ちて行くのを感覚的に感じ取る。
雷を食らう直前に見た高度は、地上まで二十メートルはあったはずだ。二十メートルという距離は、普段から弾幕ごっこをしている私達からしたら大した距離じゃない。
だが、こんな状態では着地もままならない。明るい青色の光がゆっくりと引いていっているが、現在の高さを見極められない恐怖がある。
咄嗟に魔力で視力の回復を図ると、自然回復よりも早く光の残像が消えていき、青々とした雑草がすぐ目の前にまで迫ってきている。
「っ!?」
即座に魔力で浮遊を発動するが、間に合わなかった。ただ顔面から大地に突き刺さることだけにはならなかったが、肩を強打する。
横にはじかれ、水平となる形で落下した。垂直に落ちた時ほど体に負担はかからなかったが、転げまわることとなった。
十メートルは転がっただろうか。雷に弾かれたスピードがようやく減弱し、仰向けにようやく止まった。痛む体に負担を掛けぬよう優しく起きたいところだったが、鋭い敵意に倒れていた体勢から、弾かれるように飛び起きた。
月明かりに照らされた異次元妖夢が、雷を放った後に私を追うようにし、急速に接近してくる。その体勢は当然観楼剣を振り下ろそうと、振りかぶった体勢だ。
また乗っ取られると、迷っている暇はない。引き抜いていた観楼剣の中にいる妖夢の魔力を、私の中へと受け入れた。
刀と接触している手から作っていたバイパスを通り、彼女の魔力が脳に到達する。私に妖夢に対する敵意がないことは、刀を治したことで分かったのだろう。操ろうとする悪意ではなく、刀の扱い方に関する情報が一気に脳中に拡散していく。
その情報をもとに構えを大きく変更し、今までの素人よりも酷かった陣取り方が少々マシになった。気がする。
「せぇぇぇい!!」
「はぁぁっ!!」
振り下ろしてくる異次元妖夢に対し、横薙ぎに観楼剣を振り上げた。この光景も散々見てきて、そろそろ見飽きて来た。
二色の火花が花が花弁を開く様に咲く、月明かりで照らし出されていることで、森の中よりは明るさを感じない。
空中で体を固定できていない奴の攻撃は、いつもの骨の髄まで衝撃が抜けていきそうなほどではない。それでも、体を支えきれず、片膝をついてしまう。
「ぐっ……ううぅっ!!」
最大まで身体を強化していても押し込まれ、妖夢の記憶から筋肉の使い方を理解していなければ、このまま地面に押し付けられて切り刻まれていたことだろう。
片膝をついたところで支えとなり、力任せに押し込まれていた観楼剣を握る腕が後退をやめた。地面に着いた足を踏ん張らせ、全身の筋肉を使って得物を振るってはじき返した。
軽い身のこなしで体を回転させながら後方へと下がり、地面に降りる音を一切させずに着地する。
「……」
奴を睨みながら体の各所に意識を向ける。雷を受けた後に残る違和感があるが、それが戦闘に支障のない物なのか。
指先の痺れや動かしにくさを感じることは無い。ただ、高圧の電気が流れたことで、皮膚が一部火傷を負ったようだ。所々がヒリヒリと痛い。
だが、その程度だ。
大きな波の直撃を受けたような、そんな衝撃を食らっても意識を保っていられたのは、ただ単に私の運がよかったわけではない。
永江衣玖が使用していたもっと強力な雷でなかったのと、魔力で身体を強化していたからだ。そこから少しわかったことがある、何をやるにしても奴がやってくる攻撃は中途半端なのだ。
人間離れの怪力や雷を使うが、本人のと比べればほど遠い。なぜそのまま使わないのだろうか。怪力については私を殺してしまうからで説明はつくが、雷については気絶しない程弱く撃つのは説明にならない。
これはあくまで予想であるが、スキマも刀を通す大きさでしか発生させられないのだと私は思う。
もし発生させられるのであれば、なぜ移動の手段として用いないのだろうか。戦いの最中であるならばそれも楽しむためと解釈できるが、戦いが終わった後にもそれをしないのはできないからだろう。
勇儀の怪力乱心を持つ程度の能力の時も思ったが、なぜ微弱なのか。自分の経験的に能力の発動に微弱などない。発動した物をどの程度で使うかだ。
つまり、異次元妖夢は他人の能力を使うことができるにはできるが、完璧に発動することはできないという事になる。
どういう過程でなされているのかはわからないが、微弱であるという事は、本人が二つ目の能力を使いこなせていないか、能力の上限であることが想像つく。
しかし、解せぬ部分がある。怪力乱心を持つ程度の能力よりも、空気を読む程度の能力の性質が僅かに強く感じたのだ。能力で上限が決まっているのであれば、鬼と天人の能力は発動時に同じ強さで性質を感じるはず。
しかし、実際には後者が強く発動した。もし、異次元妖夢が空気を読む程度の能力の方が扱いに慣れていたとしても、能力で発動しているのであれば発動時の性質の強さは同じはずだ。
「…」
謎が多い。意識を改めて向けると剣術を扱う程度の性質は、同じ能力を持っているはずの妖夢よりも数倍は強い。なぜ奴が二つ目の能力で使用している固有の能力は、ここまで差が大きいのだろうか。疑問が消えない私に、答えがすぐにやって来る。
片膝をついていたが、奴が着地してこちらに向かう準備が整う前に、立ち上がった。膝に付いた土を払い、手に馴染んで来た観楼剣を構えていると、異次元妖夢が血で染まった赤い刀身を指で撫でる。
「貴方のせいで、満足に飲めなかったじゃない」
そう呟く奴は、微弱な蟲を操る程度の能力を発動させる。本人程ではないが、遊戯の能力と比べるとかなり強めに発動している。
自分のいる場所は、土がむき出しで回りに草木は無い。虫を使われたとしても、地面からのルートであればある程度は制限でき、空中から来られたとしてもそっちに集中することができるだろう。
油断なく構えていると、その能力を駆使することなく、指で絡めとった血脂を口の中へと運んでいく。
ぴちゃぴちゃと音を立て、数秒かけて指に付着していた血液を舌で綺麗に舐めとった。唾液に絡め、舌の上で転がし、十分に味わうと他人の体液を嚥下した。
ごくんと唾液が食道を通過する音が、こちらにまで聞こえてくる。時間的に胃に到達したかしないかぐらいだろうか。そこを境に異次元妖夢が発動させていた、蟲を操る程度の性質が僅かに強まった。
「っ!」
そこで気が付いた。ある意味で二つ目の能力によって上限が決まっていると考えていたのは、当たっていたようだ。
奴が他人の能力を使えるようになる条件は、そいつの血を飲むことだ。そして、その量に応じて能力が強化される。こんなところだろう。
そうでなければ、鬼と天人の能力で強さの違いなどあるわけがない。能力がわかって来ると妖夢に勝てた理由も見えて来る。
他の能力を使えるという部分もあったが、刀から感じる剣術を扱う程度の能力と、異次元妖夢のは数倍も違うのだ、互角にならないのもうなづける。
「さてと、次はどう私を愉しませてくれる?」
笑う標的は、強力な剣術を扱う程度の能力を発動させると、刀を下段に構えて地面に倒れてしまいそうに見えるほど、低い姿勢で突っ込んでくる。
大きく後方に飛びのき、脳を妖夢とつなげたまま観楼剣を背中の鞘に納めた。彼女が私の行動に意味を見いだせず、驚いた声を脳内に響かせる。
『敵を前にしているのに、何を考えているんですか!?』
それについてはごもっともだが、前回のように戦っても、結果は同じだ。体は違かったとしても、全力だったことには変わりない。剣術を満足にできない私では、前回よりも酷い結果になるのは目に見えている。
奴から勝利をもぎ取るのであれば、新しいことを取り入れていなければ私は二度目、妖夢は三度目の敗北を味わうことになるだろう。
今回の異次元妖夢との戦闘で強く感じたが、異次元咲夜と異次元妖夢の能力は全くの別物であるが、よく似ている。
どちらも似た性質で再現するのではなく、本物を使っている。異次元咲夜であれば銀ナイフ、異次元妖夢であれば他人の能力。
少し勝手が違うが、異次元咲夜のことを倒せたのであれば、似た能力である異次元妖夢も、倒せないことは無いだろう。
あくまで理論上の話であり、確信はない。だが、それでやり切れる自信はある。背中の鞘と柄に回していた両手を放し、観楼剣の性質を含ませた魔力を手先から放出した。
煙状で全く形の定まっていなかった魔力はすぐさま形を変形し、見覚えのある短い観楼剣へと姿を変える。妖夢のというイメージで作ったことで、現在の姿が採用されたようだ。
魔力で作り出しているが本物でできた二本の観楼剣で、異次元妖夢の下段に放たれた薙ぎ払う斬撃を受けきった。刀よりも圧倒的に耐久能力で劣る草が切断され、空気抵抗の影響でひらひらと落ちて行く。
火花が散り、金属と金属が撫で合った不快な音が前方から後方へ移動し、切りかかって来た異次元妖夢は、私の右側を通り過ぎて行く。
それを追って振り返りながら刀を振るうが、右手に握っている観楼剣には手ごたえは全く感じない。空しい空気を切り裂く音だけが聞こえ、その方向を見なくても空振りに終わったのはわかる。
体を捻り、後方へ向かって行った奴の方向へと右回りに向き直る。その勢いを利用し、左手に持っていた観楼剣を投擲した。
銀ナイフのように投げる形に特化していない大きな得物は、矢やダーツの飛び方から大きく外れ、フリスビーと似た回転運動をして飛んでいく。
咲夜のとは大きさも重量も違うが、投擲する部分の知識を使わせてもらった。飛ばした刀が、うまい具合に異次元妖夢の背中に吸い込まれていく。
そのまま振り向かず、背中を貫かれてくれればよかったが、異次元妖夢は肩越しに軽く振り返っている。
タイミングを見計らって上半身を地面に着くほどに屈ませると、重心を前に傾かせて前転をする。その過程で足が上がり、靴の裏で刀を蹴り上げたようだ。
切れない部分を狙って当てたようで、鈍い音はするが、異次元妖夢にダメージが入ったようには見えない。軽快に立ち上がると振り返り、口の端を吊り上げて笑っている。
上に弾き飛ばされていた刀が、回転しながら落下してくる。それが奴の目の前に落ち、重たい刀身が下になって地面に突き刺さる。
角度の問題で上手く地面に刺さらなかったようだ。切先が少し刺さっただけの観楼剣が倒れそうになるが、異次元妖夢が拾い上げた。
奴は怪力乱心を持つ程度の能力を発動させ、ある程度の化け物なら一撃で葬れるぐらいにまで攻撃力が一気に上昇する。
投げつけた観楼剣を奴は握ったまま振りかぶると、お返しと言わんばかりにこちらに向けて投擲し返される。速度は私が投げた時の比ではない。飛んでくる軌道を体勢から読んで、そこから逃れようとしたが、右肘から先が投げつけられた刀と一緒にどこかへと飛んで行った。
「あっ…!?」
食らった衝撃に、脳が驚いて自然と声を漏らしてしまう。感覚が痛みを伝達する前に投げつけて得物を持っていない左手に観楼剣を生成した。
「ぐっ…ああああっ…!!」
魔力を右腕の切断面に集中させて再生を図ると、凹凸の無いまっすぐな切り傷の中央にある骨から修復が始まる。
よく漫画などで見る骨が形成されると関節を形作り、それを筋肉が覆って行く。この戦いが始まったころと比べ、驚異的な速度と言える。
指の先まで骨と筋組織の再生が終わると、それらを被膜する形で筋肉がむき出しの腕に、皮膚が広がっていく。
走り出していた異次元妖夢が、こちらに到達する前に見慣れた腕に戻り、観楼剣の柄をしっかりと握り込ませた。
私たちが脅威になりうると警戒している事にはしているが、前回の戦いで私たちに勝っていることで油断が生じているようだ。
妖夢の知識を使わなくても、奴の刀身が斜め横から振り下ろされる軌道を描くのが体勢から予想できる。それでどうにかなると思っているのは、奴が弱い怪力乱心を持つ程度の能力を発動しているからだろう。
慢心している今がチャンスだ。小回りの利く攻撃に見せながらも全力で刀を振るう。いくら身体を魔力で強化していたとしても、怪力乱心を持つ程度の能力を発動している奴を押し返せるはずがない。
そう思っている異次元妖夢の錆びついた観楼剣を、後方へと吹き飛ばした。勇儀が顕現していた力という性質の魔力を全身に巡らせ、異次元咲夜にやったように不意を突いた。
微弱と言っても相手がどれだけの火力なのか想像がつかず、五十パーセント程度の力を込めた事が裏目に出てしまった。
弾き飛ばした腕に引かれ、異次元妖夢の体が後方に流れて行く。それを追おうと足を後方に突き出すと、あまりの強さに跳躍してしまった。
やろうとしていることができないのは、力が強すぎることでの弊害であるが、方向を定めたおかげで吹っ飛ばされていた異次元妖夢に、一秒もかからずに追いつくことができた。
飛びながら空中で構え、頭を貫く様に突き出した観楼剣の側面に得物を当てられ、耳にすら掠らない程に軌道を大幅に逸らせられた。
逸らせられたとういうよりも、奴自身が逸れたのだ。私の観楼剣を土台として、側面に添えた得物に力を入れた反動で自分が動いたのだ。
突きが外れたことにより、奴に大きな隙を晒すこととなった。魔力で方向転換しようとした時、異次元妖夢が異様な加速を見せた。
先ほどまでと比べ、倍とまでは言わないが、それに近い速度で刀を上段に構えると、私の左肩に振り下ろす。
性質に意識を向けると、先ほどまであった怪力乱心を持つ程度の性質は感じられず、代わりに時を操る程度の性質を感じる。
こいつ、咲夜の能力まで使えたのか。立て直す暇もなく、左側の鎖骨が切断され、そのまま肩ごと左腕を持って行かれそうだ。
片手で突きを放っていたことが功を奏し、右手はフリーだった。あともう少し力を入れれば左腕が切断されるという所で、奴の刀を右手で掴んだ。
慌てていたせいで刃の方向に気を付けている暇がなかった。親指の付け根に刃先が抉り込み、だらりと赤黒い血が垂れて来る。
横から強い圧をかけていることで、切り進んでいた観楼剣の動きを封じることには成功した。右手の親指は皮一枚つながっている程度で、だらりと下に垂れ下がっているが、その程度で済んだのであればましな方だろう。
奴の刀を掴んだまま、瞬間的に最大の攻撃力を発揮すると、手のひらの肉が潰れて裂け、骨に亀裂が入って砕けた。
身体を最大まで強化していたとしても、鬼の中でも特に秀でた勇儀や萃香の様な防御力には程遠い。それなのに攻撃力だけ同等にすれば、腕が滅茶苦茶には当然なるだろう。
コンマ一秒だけ凄まじい力を使ったわけだが、その甲斐あって異次元妖夢の錆びついて耐久能力が低下していた観楼剣がへし折れた。
ひしゃげ、粘土細工のように折れ曲がって砕けた観楼剣を奴はすぐさま捨てると、境界を操る程度の能力を発動する。小さなスキマを目の前に作り出し、そこからまた錆びついた得物を引き抜く。
微弱で能力が弱く、小さい隙間を作るので精一杯のようだが、そこから引き抜かれる観楼剣は錆びついているとは言え本物だ。
十年という歳月の中で、いくつ世界を壊してきたか知らないが、おそらく膨大な量だという事が窺える。
異次元萃香が能力の疎の性質で自分の体を塵にし、幻想郷中に散らばっていたことで、他の世界に渡るとどうしても彼女がついて来てしまう。
紫曰く、自分たちの世界からならどこからでも別の世界に渡れるが、侵入した先の侵入点や別の世界から元の世界に戻ろうとする場合は、場所が固定される。次に向かう時に異次元萃香に帰って来られると困るため、チリに含まれている魔力が尽きて死滅するまで数日待ってから侵入していた。
調査の時間も含め、一週間で一つの世界を滅ぼしていたとしたら、一年で五十を超える。十年となればそのまた十倍となる。
最初からしていたのか、途中から始めたのかは知らないが、奴が使っている錆びついた観楼剣は、おそらく戦いの過程で手に入れた戦利品だ。
別世界の魂魄妖夢を殺すごとに集めていたとしたら、計算上奴は五百本所持していることになる。使用するたびに気になっていたが、観楼剣が錆びているのは、そんな本数の刀の手入れができないからだろう。
観楼剣は魔力で生成しているわけではない。本物の刀の数には上限があるという事になる。今までの戦闘では湯水のように使っていた、残った刀をすべて破壊することができれば、射出という一つの攻撃方法を潰すことができる。
突きを放ち、切られ、得物を砕いてから数秒。重力に引かれて落下を始めた私は、奴に刀でいつでも断ち切れる距離を観を維持したまま着地する。
肩と手の傷を魔力で修復し、突きから引き戻しておいた左手に握られている観楼剣を、こちらに放たれた斬撃に叩きつけた。
先ほどの攻撃力であれば、錆びついた細い刀程度なら簡単にへし折れるはずなのだが、ヒビすら入らない。
強力な剣術を扱う程度の能力からくる異次元妖夢の技術は、圧倒的に高いこちら側の攻撃力を、攻撃と同時に受け流すことを可能にしている。
数度刃を交わらせ、高い攻撃力に物を言わせて押し切ろうとするが、適応能力が非常に高い異次元妖夢はすぐに慣れてしまったようだ。
奴は攻撃を上手く観楼剣で受けると、力を受け流しながら別の方向へと弾く。小さな隙を有効に活用し、深くはない浅い傷を何度も私に付けていく。
「ぐっ…!」
「最初は驚いたけど、その体たらくで私を殺せるとでも?」
再び余裕が生まれてきた異次元妖夢は、いつもの気味が悪い笑みを顔に浮かべ、私たちを挑発してくる。
「本当に剣士がその中にいるのかしら?だとしたら、三流どころの話ではないわね」
妖夢はすぐに熱くなってしまうタイプで、頭の中に腸が煮えくり返るような怒りが伝わって来る。彼女は前回私を乗っ取るのと、刀を破壊されるのでかなりの魔力を消費した。それにより、無駄なことに魔力を使っている余裕がないため、再度私を乗っ取るようなことは無いと思うが、冷静でいる様にと宥めた。
「もう一つの能力を併用してないと戦えないヘタレに言われたくないぜ」
数度の剣戟を繰り返すうちに気が付いた。強力な剣術を扱う程度の能力が発動している時には、勇儀の能力が発動していないことに。
逆に、勇儀の能力を使っている間は、剣術を扱う程度の能力は、妖夢と変わらない程に弱まる。
なぜ、二つを併用しないのだろうか。強力な剣術を扱う程度の能力と勇儀の能力が合わされば、私などイチコロだろう。もしくは、さらに多くの能力を組み合わせれば、よりこちら側は苦戦したはずだ。そうしなかったのは、ただそれができなかっただと思われる。
意識を集中して奴を探ると、感じる固有の能力は常時三つ発動している。一つは彼女自身の能力、もう一つは他の能力を使える能力。最後に勇儀の能力だ。
雷を受けた時のことを思い出す。勇儀の能力が感じられず、空気を読む程度の能力の性質しか感知できなかった。そこから考えるに、奴が持つ二つ目の能力は、一つ分の能力しか発動することができないと推測できる。
剣術を扱う程度の能力が強力に感じるのは、もう一つの能力で同様の物を選択しているからだろう。
私の言い返した言葉に腹を立てたのか、なにも返答することなく体の重心を数ミリほど下げると、ほぼノーモーションに近い動作で走り出す。
回り込むように開いていた距離を走り抜ける。風のような速度に十メートルはあった距離が、数秒も経たぬうちに刀どころか手が届くところまで接近してくる。
力関係で言えば私は戦うどの相手にも、基本的には劣っている。だから力が強い者の戦い方と言うのを知らない。
力の強い状態でどれだけ力を込めればいいかわからない私の刃は、異次元妖夢の斬撃を受けても、固定されたボルトのようにピクリとも後退しない。
しかし、それを逆手に取られ私が跳ねのけて反撃する前に、斬撃している腕に力を込め、体を浮かせて攻撃しながら脇に高速で移動していく。
魔力で移動方向を制御しているようで、異様な軌道を通って私の後ろへと回り込まれてしまう。その過程で足に一撃、わき腹に一撃。太刀の切れ目を肉体に刻まれ、背中側から肩に観楼剣を突き立てられる。
「あぐっ!?」
勇儀の様な攻撃力を発揮しているのに、有利に立ち回れないのは剣術に特化しているからだ。妖夢の記憶から剣術のある程度の技術が頭には入っているが、当然ながら能力として剣術が出来ている人物相手には足りない。
私に突き刺した刀を異次元妖夢は手放すと、背中に蹴りを入れて来る。怪力乱心を持つ程度の能力は発動していなかったが、足を切られていたことで踏ん張りがきかず、前方に転がって倒れ込んだ。
勇儀が使っていた力の性質を体に含ませたとしても、異次元妖夢のように動くことはできない。ただ力を振り回すだけの能力とはわけが違う。刀の一振りにも技術と経験、知識が詰め込まれている。それがない私は奴を上回ることはできないだろう。
だが、剣士である奴は剣術に固執する。様々な能力が使えるのに剣を未だに使うのが、それの表れだ。
もっと柔軟に対応できなければだめだ。奴の知らない私なりの知識を動員し、剣術に組み合わせ、挑まれたことのないようなアクロバティックな方法でなければ、奴を討つことはできない。
肩から貫通している観楼剣を掴み、力任せに砕き抜く。奴の方向に向き直ると、新たな錆びついた観楼剣を携え、こちらの準備が整うを待っている。
後手に回ってはやられる。こちらから切りかかってやる。増加した筋力に物を言わせて跳躍し、異次元妖夢に光の魔法を発動しながら切りかかろうとするが、私と異次元妖夢の間に何かが飛来する。
一メートルを余裕で越える棒状の物体は、視界外からほぼ一瞬で水平に近い角度で地面に突き刺さる。
その矢には見覚えがある。記憶に探りを入れようとするが、それは遮られた。青い魔力の結晶が霧散した。それには、爆発する性質が含まれている。
逃げる間もなく青色に煌めいた瞬間。数メートル離れていた私や異次元妖夢のいる位置まで爆発の炎が膨れ上がり、あっという間に飲み込まれた。
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