それでもええで!
という方のみ第百三十三話をお楽しみください!
序盤は私の妄想を垂れ流しているので、違うと思ってもスルーしてやってください。そういう考えもあると言うだけです。
人間が作り上げた武器は数多く存在する。原始的な物で言えば刀や槍。近代的で最近発展している物を上げるとしたら銃だろう。
歴史の中で、武器という物は新たに現れた物に置き換わっていく。木の棒から石の斧。石の斧からは金属の刀。金属の刀からは槍。槍から弓、弓から銃と言った形に変化していく。
当然、全てが即座に変わるわけではない。前の武器も残り、新たな武器と組み合わせた戦術などが生み出され、活用されていく。
しかし、最終的に古い物は新しい物に徐々に変わっていくのは、変わりないだろう。その過程で新たな物が選ばれる理由の一つには、威力などもそうなのだが、一番は射程の長さだろう。
例えば、戦国時代といえば、刀で切り合っているというイメージが強いが、刀ではなく槍で突き合ったり、殴り合っているというのが史実だと聞いたことがある。
槍の方が有効活用がしやすい、という面で使われていたという物あるだろう。刀では切れ味が悪くなれば切り合いには向かないし、打撲での攻撃を狙おうとしても折れれば有効範囲の狭さに、生存の可能性は絶望だ。
槍であれば、先の刃の切れ味が無くなったとしても、鈍器として使える。昔の兜なら遠心力を効かせ、威力を十分に発揮できる状態で殴れば、頭蓋を鎧越しに陥没させることも可能だったらしい。
その射程の長さと、刀よりも活用方法が多い槍だが。使用された理由の大半は、射程の長さによる使用者が感じる恐怖の緩和だと思われる。
槍である以上は接近戦には変わりない。しかし、刀のように敵の吐息がかかる程に近づき、切り合わなければならないわけではない。
血走った眼を見開き、唸る獣のような犬歯や歯茎を剥き出しにし、眉を吊り上げた鬼の様な形相を目の前で見れば、気の弱い人間などそれだけで気圧されてしまう。
士気にもかかわるそう言った精神的な部分で、勝利が左右されないよう戦場は常に新しい射程の長い武器に置き換わる。と、私は思っている。
いい例が銃と弓だ。銃の射程は数百メートルから、長ければ一キロ先まで届く。狙った的にある程度射撃を集中させることができ、威力も絶大だ。当たり所が悪ければ思考する暇もなくその命を刈り取る。
それに比べて弓は狙った場所へ飛ばすのに訓練がある程度必要で、飛ばせる距離は銃よりも短い。銃のように、狙った場所に命中させることが難しい中で、一撃で敵を葬ることなどできないだろう。
そんな銃の下位互換である弓だが、決して悪い部分だけではない。射撃音は出ず、隠密に非常に長けている。そして、弓を十分に使い続けた達人であれば、狙った的に正確に当てることは可能だ。
しかし、命中力や射程を技術でカバーしたとしても、銃よりも上に行くことができないのは、射程とその速度によるものだろう。
弾丸の半分も速度が出ず、離れた場所からならその軌道を目で追うこともできる。音が出ないという利点が、それによって死んでいる。
だが、その理論はただの人間にしか当てはまらない。魔力で速度と射程距離を補助してやれば、上回ることは十分に可能であろう。
弾丸は基本的に音速を超える速度で飛行する。そうなると肉体に当たったとしても、弾丸の持っているエネルギーを全て敵に伝えきる前に貫通してしまう。
それに銃で一撃で葬れるのも、当たり所が良ければの話だ。マガジン内に存在する全ての弾丸を敵に与えても、立っていられたというデータもあれば、頭や心臓など、重要な器官を撃ち抜かれなかった場合、適切な処置をすれば80%の割合で被弾者は生存するというデータもある。
こうなると、射程も速度も補正されている弓の方が銃を上回れる。矢は大きさゆえに被弾者に全てのエネルギーを与えることができ、弾丸よりも圧倒的に重量のある矢であれば、肉体の一部を吹き飛ばすことなど造作もない。
寂れた丘の頂上に佇んだ。雲一つないいい天気で、遠くに見える崩壊した街や、更に離れた場所にある半壊している紅魔館まで一望できる。これが夜でなければ、気持ちのいい快晴に気分が晴れていたことだろう。
そこに上がり切り、一息ついた。肉体は老いることは無くても、使わない筋肉が衰えることはあるようだ。医者という職業についてからかなりの時間が経過したが、たったこれだけの動きで息が上がってしまった。
丘を登りながら液体状の飲み薬を服用していたという事もあるが、それにしても衰え過ぎである。そう思いながら手に持っていた小さな小瓶をその場に捨てた。
数度の深呼吸で肺から全身へと酸素を十分に巡らせ、息を整えた。髪の毛は問題ない、背中側で縛って攻撃の邪魔にはならないようにしてある。
後ろをついて来ていたウサギが左側から前に回り込み、その身長よりも大きい弓を私に手渡して来る。
自分が前に出ることなどそうそうないのに、この子たちはよく覚えているものだ。と感心していると、後ろの方からも誰かが歩み寄ってきているのが聞こえた。
そちらに視線を向けると、矢を入れて置く矢筒をもつウサギがいる。その筒の中から長さが二メートルを超える糸が結び付けられた矢を一本だけ取り出し、左側にいるウサギから弓を受け取った。
左手で湾曲した弓を握り、湾曲した弓の端から端から伸びる真っすぐに張られた弦に、矢をつがえる。一番後端にある溝に弦をひっかけ、右手の指で固定する。こうしないと構えた時に矢が落ちてしまう。
私が弓を構えたことで、後方にいた博麗の巫女が何かを言ってくるが、精神統一して集中を高めている私はあえて無視をした。
大きく息を吐いて精神を落ち着かせる。他の雑念はすべて意識の外へと押し出し、狙う場所を一点に見つめて定める。
怪我をした全員の治療が終了に差し掛かったところだった。これだけ月明かりがある夜でも、あれだけの雷鳴と光が発生すれば嫌でも目につく。
新聞屋の河童が使っていたカメラ。あれがフィルムに画像を焼き付ける際に、こちら側に向かって発生する光のような瞬き。音よりも圧倒的にスピードの速い光が私たちの元に届いた。
光の先にある雲の位置が異様に低く、能力で発生させられたのだと一目で理解した。その雲から伸びてきた雷は空中でスパークを起こし、そこに誰かかもしくは何かがあることを示す。
丘を登りながら服用した薬には、視力を一時的に上昇させる効果がある。飲んだばかりだったが目を凝らすと、一キロか二キロ先にいる人物たちの姿を捉える。雷であったことで永江衣玖であると推測していたが、その人物とはかけ離れた庭師の姿を確認する。
庭師はもう死んでいるという情報から、そいつはここの世界の住人だ。視界をずらし、剣士よりも早く落ちて行くもう一人の人物を視界内に納める。
今は亡き紅魔館のメイドが永遠亭に連れて来た、あの魔女だ。暗闇でも見間違える事無くその特徴を捉えた。金髪に白と黒の魔女の服を身に着け、ボロボロの鞄を肩から下げている。
永遠亭を襲撃された時、鈴仙を殺された。頬に残っていた打撲痕から、あの魔女ではなく、異次元霊夢がやったと判断できた。
異次元霊夢はこちら側に侵入すると、永遠亭に真っすぐ向かってきた。永遠亭内では、異次元霊夢の襲撃による死傷者は鈴仙だけだったが、永遠亭の外でウサギが何人かその後死体で見つかった。
詳しく調べると鈴仙の代わりに置き薬の補充と、代金の回収に向かっていたウサギ達だったことが分かった。その子たちを捕まえ、仲間であるあの魔女の居場所を聞いて助けに来たと、私は考えている。つまるところ、直接的に手を下していないのだろうが、同罪で仇を討たなければならない。
輝夜に危害を加えようとする人物なら、容赦はしないと考えていた。それは彼女のみに起こる感情だと思っていたが、どうやら違ったようだ。
長い間、鈴仙と過ごしていたことで、彼女にも情が移っていたらしい。死んだとわかった時の喪失感といったら、まるで自分の身が引き裂かれるような思いだった。
最終的な目標は博麗の巫女だが、鈴仙が死ぬ理由となったあの魔女も、一緒にこの矢で射抜いてやる。
弓とつがえた矢を頭よりも高い位置へと掲げ、ゆっくりと焦らずに精神を統一しながら、矢を持つ右手で弦を引き絞りながら胸の位置まで弓矢を下ろしていく。
「………」
集中が頂点に達し、戦い合っている魔女と剣士しか見えなくなる。周りの音が一切しなくなり、自分の呼吸音と心拍の音だけが耳に届く。
耳元で鳴る矢で弦を引き絞る音ですら聞こえない。左手で標準を固定し、後は引き金を絞るのと同じ、右手で矢を手放すタイミングを見極めるだけとなった。
息をするごとに肩が上下に揺れ、標準がぶれる。肺の中に存在する空気を全て吐き切り、口を閉じて呼吸止める。
呼吸によっても心拍数は増減する。それが無くなったことで心拍数が落ちて行き、左手のブレが無くなっていく。
あとは経験と勘により、自分で見極めたタイミングで右手を矢から放した。矢に含ませた魔力はほとんどを加速につぎ込んだ。それにより、鈴仙が放つ弾幕と同じぐらいの速度に到達できるだろう。
結ばれた糸には、弓とは別に大量の爆発する性質の魔力を含ませておいた。着弾と同時に爆発するようにプログラムを組んだため、爆発範囲内にいる者を吹き飛ばせるだろう。
変形させられた弓が戻る力を利用して矢が放たれるが、通常の矢ではありえない速度で弓から射出される。月明かりや魔力によって青白く見えるのではなく、空気の摩擦熱か温度上昇により赤い弾丸となっている。
1キロ先への攻撃という事で、地球の自転によるコリオリ力が働いているようだ。実際にはまっすぐ進んでいるが、射撃点からでは段々と脇に逸れて行っているように見えた。
数百キロという長距離での攻撃というわけではなく、二人のうちどちらかに必ず命中させなければならないわけでもない。近くに落ちさえすれば何でもいい。多少のずれにはこの際目を瞑る。
ここから矢を放ったことで、あの二人に私たちの居場所がばれてしまうが、奴と戦うのは遅かれ早かれだし、怪我人の治療は大部分が終わっている。逃げられない状態ではない。
「…永琳、何をしているのよ!…怪我人の手当ては終わってるかもしれないけど、戦える状態じゃないのよ!?」
矢を放った直後の私に、博麗の巫女が言い放つ。回復が早まる薬を体調や怪我の具合から適度に飲ませたが、それの効果が出始めるのはしばらく時間かかる。今すぐに動かすのは難しいかもしれないのは確かだ。
しかし、
「このタイミングを逃したらいつ遭遇するかわからない。先に殺されでもしたら私が困るわ」
困惑が声の色調からわかる霊夢にそっちを見ずに返答し、飛行する矢が着弾する前に次の矢を弦につがえた。
木製の矢と弓が軽く当たると、乾いた小気味いい音が鳴る。それを聞きながら、弓矢を頭上で構える前に振り返った。
「それに、彼女たちに攻撃するのは私だけとは限らないわよ」
新聞屋から回ってきた情報では、あの魔女に紅魔館のメイドも殺されていると聞いた。紅魔館の現在の主を、私がやっていることを止めようとしている霊夢越しに見た。
身内が殺されているとなれば、彼女たちも動くことだろう。そうなれば、私としても博麗の巫女に邪魔をされず、戦いやすい。
仲間と言うよりも、一緒に住んでいる分だけ家族という存在に近いメイドを殺された現在の主は、私の予想する動きや解答とはかけ離れた返事を返して来る。
「そうね」
ただそれだけ。動こうとせず、戦う意志が全く見られない。昔の様子を見たことはあるが、気が触れているという周りの評価にそぐわない様子だった。しかし、今の冷静さを欠かない雰囲気から、その部分を刺激すれば私のように復讐に躍起になるかと思ったが、どうやら当てが外れた。ある意味いかれているのは変わらなかったのだろうか。
「家族同然の者を殺されたというのに、冷たいのね」
「私の目標は別にいる。意味のないことはしないわ」
後ろに控えている門番や、連れられているメイド達が少なからず動揺しているのが肩越しに見える。今の回答は部下たちでさえ意外な物だったらしい。
そうこうしている間に、最初の矢が剣士と魔女のいる場所に到達したようだ。山なりに放った矢が落下していく。向き合い、あと数秒も経過すれば刀で切り合っていただろう二人の間に突き刺さった。
動きが止まると同時に糸に含ませておいた魔力が、プログラム通りに起動する。爆発の性質を含ませていたことで青い炎が膨れ上がり、二人を飲み込んだ。
複雑な表情をして佇む博麗の巫女、その奥の吸血鬼から目を離し、私は射撃の体勢へと入る。また止めようとしても無駄だ。矢があの二人を撃ち抜いて殺すまで、これをやめるつもりはない。
爆発の衝撃で舞い上げられた砂塵が着弾地点の周囲に滞留し、吹き飛ばした二人の姿を霞ませる。動いているのが魔女か剣士なのか、それともただの草なのか判別できない。
まあいい。それが草なのか人間なのかは、撃ち抜けばわかることだ。
爆発地点にいる本人たちは、未だに何が起こったのか理解できていないだろう。それでも矢の方向から、射手がどの方向にいるかは特定したはずだ。このまま畳みかける。
粉塵が舞い上がったままの戦地に向け、第二射となる矢をつがえた弓を掲げ、力いっぱい引き絞った。
「かはっ…ごほっ…!」
胸に激痛が走り続けていて、自分では気が付いていなかったが潰れているのではないかと思うほどだ。実際にはそこまでいかなくても、ろっ骨が数本折れた程度で済んだ。
普通の人間なら肋骨の骨折は、その程度で済ませられる怪我ではないが、今の私にはその程度で済ませられる。魔力で回復を図ると、息をするごとに刺すような痛みの種であった骨折が治っていく。
亀裂または骨折により、皮膚を突き破っていた骨が体の中に納まっていき、皮膚がその上から露出した筋肉と骨を包み込む。
「……ふぅ…」
折れた骨によって、肺の中と体の外がつながっていたようだ。どおりで息を吸い込んでも肺が一杯にならないわけだ。
少し咳き込むと唾液に鉄の味が混じる。いくら傷を回復させられるとしても、組織からしみ出した血液まで体内に戻すことは不可能だ。今のうちに肺の中にある血液を、ある程度は吐き出しておこう。
数度咳き込んでいるうちに、口の中に広がる血の味が前段階で出された血なのか、今咳き込んで出された物なのかわからなくなってくる。このままでは際限なくやってしまうため、切り上げることにする。
砂塵が舞い上げられ、視界は一寸先すら靄がかかっている。目で異次元妖夢をこの煙の中から探し出すのは困難どころではない。音で探ろうと耳に集中しても、爆音によって耳鳴りがしていて、周りの音が一切聞こえてこない。
これでは奴に切ってくださいと、体を差し出しているようなものだ。耳に集中して魔力を送り、聴力の回復を促す。
異次元妖夢は立ち止まっていたことで、爆発物までの距離が遠かった。誤差程度かもしれないが、私よりも軽傷で済んでいるはずだ。体勢を立て直し、爆発を受けた時の方向から私の居場所を探っていることが容易に想像できる。
「……」
見通しが悪く、耳が聞こえない中で焦りが募り、動き出さなければならない衝動に駆られるが、こういう時こそ落ち着いてギリギリまで療養するに限る。
周りの警戒は当然怠らないが、私と異次元妖夢をまとめて攻撃してきた人物を頭の片隅で思い浮かべた。
いったい誰が私たちの邪魔をしたなど、魔力の性質で探りを入れなくてもわかる。あの古臭い矢、刀や盾を主軸として戦う鴉天狗たちでさえ使わない。
矢を放ってきたのは、永琳だ。異次元鈴仙の話では、ここの世界にいた彼女はすでに殺されているらしい。それを信用するのであれば、攻撃してきたのは私たちの世界にいた者で間違いないだろう。
間違いないはずなのだが、弓矢と言うのは飛距離は数百メートルにもなるが、致命傷を与えられるのは数十メートルという短い距離だ。私たちを確実に殺したいのであれば、最低でも八十メートルぐらいまでは接近していたと思う。
魔力で飛距離を伸ばすこともできるだろうが、五メートル離れていた異次元妖夢まで爆発の炎に巻き込まれていた。あれだけの威力なら、矢に含ませた魔力全てを爆発に回しているだろう。
そう結論を付けるが、空に蹴り上げられた時、付近に人影は見えなかったのが謎だ。少し離れた位置から来たとしても、異次元妖夢の雷を見てからであるのならもう少し時間がかかってもいいはずだ。
永琳のいる方向はわかるが、距離がわからない。煙で私たちの姿が見えないから、次の矢を射ることは無いと思うが、射ってきた場合はそう何度も爆発に巻き込まれてなど居られない。
上から見た感じでは、矢が飛んできた方向は長いなだらかな丘が続いていたはずだ。かなりの距離で、私たちがいる場所よりも位置が高い。
大げさに言えば見下ろされる形になっているため、射撃でも飛距離が伸びたのだろう。そのどこかにいるとして、ここらは見渡す限り荒れ地が続いている。
弓による攻撃をこれ以上受けたくないのであれば、反対側の森側へと煙に紛れながら逃げるのが吉だ。
「…」
だが、異次元妖夢が私と同じ考えかはわからないのが、問題と言える。今ので邪魔だと判断され、森に私が進んでいるのに、永琳がいるであろう方向に向かわれては困る。
その場に留まり、爆発によって機能しなくなっている感覚器官の回復に勤しんでいると、ほんのわずかに煙が晴れてきたように見えた。
「…」
視界が広がれば異次元妖夢を見つけ出すこともできるだろうが、こちらから見えているという事は、向こうからも見えているという事になる。聴覚的に不利であるため、もう少しこの場に待機しよう。
そう思って腰を下げようとした時、徐々に回復に向かっていた聴覚が働き、後方で草をかき分ける小さな音を情報として脳に提供する。
「っ!!」
手に握ったままだった観楼剣を振り向きざまに振り切ろうとするが、予想よりも至近距離に迫っていた異次元妖夢の観楼剣が、私の胸を貫こうと急接近してくる。
体を屈ませて避ける時間は無い。伸びてきている得物の側面を自分の武器で叩き、軌道を大きく逸らせようとするが、一歩遅かった。
心臓は狙っていないが、腕を切り落とされても再生することから、重要な器官や血管にさえ当たらなければいいという考えが見え見えである。
下から撃ち上げることになり、肋骨の一部と左肩の鎖骨を砕いて刀が背中側まで貫通する。戦闘のさなかという事でアドレナリンが分泌され、感覚が麻痺してしまっているのだろう。じんわりとした鈍い痛みが広がる。
「ぐっ…!!」
柄を両手で握っていたが動く右手を離し、至近距離にいる異次元妖夢に殴りかかる。勇儀のような力を発揮してはいるが、刺した刀を残したまま身を翻して去った奴に当たることは無い。
強力な正拳突きによって発生した強風が吹き荒れ、舞っていた砂塵を吹き飛ばし、異次元妖夢は風の流れに乗って後方に大きく下がった。
私が下から殴りつけた事で刀の向きが大きく変わり、刃が上を向いている状態で肩を刺されたようだ。血液が壁面を伝って鍔から滴っているその刀の柄を握り、引き抜くのではなく上に切り進ませた。
今の段階で地面に着地してしまっている異次元妖夢が、再度攻撃をしかけてこようとするまでの短時間で、自分の腕よりも長い刀を体から引き抜くのは難しい。
傷は大きくなってしまって、多くの出血をしてしまうが、私には問題ない。すぐさま左肩に魔力を集中させ、むき出しになった肋骨と鎖骨の修復にかかる。
血まみれの錆びついた刀を、体勢を立て直しかけている異次元妖夢へ投擲する。二度目という事もあり、奴は余裕の笑みを浮かべたまま大きく体を動かすことなくすり抜けた。
勇儀の力という規格の攻撃に、目が慣れてきたから出来た。というわけではない。私が意図的に力を余り込めずに投げたのだ。
手元にスキマを作り出し、錆びついた観楼剣を取り出しながら走り出した。その奴に向け射撃するように手のひらを向け、手先に魔力を集中させる。
淡青色の淡い光が発生し始めたことで、レーザーでも放つのかと走りながらも観楼剣を構えた奴は、予想外の方向から痛みを感じたことだろう。
手先の魔力には強力な磁力の性質を含ませており、後方に投げていた観楼剣をこちら側へと引き寄せた。
引き寄せられて刺さった観楼剣は、目標の人物よりも後方に位置しているため、その過程に存在している敵の持つ観楼剣も引き寄せられる。が、しっかりと握り込まれていたことで、私の方に飛ばされてくることは無かった。
その代わりに離れた地面か木に刺さるはずだった、空中で固定もされていない刀が猛スピードで異次元妖夢の背中に突き刺さる。
「なぁ!?」
完全に意識の及んでいない方向からの攻撃に、得物を握る手が緩んだのだろう。磁力に引き寄せられ、錆びついた観楼剣が遅れてこちらに向かって飛んでくる。
異次元妖夢が咄嗟に離さないよう、すっぽ抜ける刀に力を加えたのだろう。おかしな回転をしながら飛んでくる観楼剣を掴み取った。
綺麗に切られたことで再生が速く、痛みの制限が余りない左手で柄を握り込んだ。タイミングが悪かったようで、逆手に掴んでしまった。残念ながらそれを持ち替えている暇はない。
磁場を発生させている物体に近づけば近づくほど、引き寄せる力は強くなる。背中に刺さった刀も例外なく、強くなっていく磁力に引かれ続け、異次元妖夢ごとこちらに突っ込んでくる。
新たな刀をスキマの能力で引き出している暇もなかったようだ。空中で隙を大きくされしている異次元妖夢の腹部を、逆手に握った観楼剣で切り裂いた。
鮮血がパッと弾け、ようやく手に持った得物から肉体を切り裂いた手ごたえを感じた。磁力の性質を止め、奴の下をくぐり抜ける。
切られ、磁力の力が中途半端になくなったことで、空中でバランスを崩したままの異次元妖夢が地面に転げ落ちた。背中に刺さった観楼剣がそれ以上体に深く刺さらないよう、受け身とをったようだ。
最小限に切られ、刺された異次元妖夢は軽やかな動作で起き上がると、こちらに振り返る。背中側に手を伸ばし、器用に刃で指を切る事無く刀を引き抜いた。
「クスッ………前とは、少し違うってわけね」
刀を引き抜く際に指にこびり付いた私と異次元妖夢の混じった血を、親指の部分だけべろりと舐める。自分の元に帰って来た観楼剣を片手で握り込むと、グッと重心を下げる。
飛びかかろうとしているのは見て取れるが、怪力乱心を持つ程度の能力が発動していることで、速度が異常にでるはずだ。十メートルまでとはいかないが、ある程度の距離はおいている。それでも一瞬でここまで到達する距離感だ。
呼吸から、体の動き、足の筋肉の収縮と弛緩などを読み取り、飛びだすタイミングを計らなければならない。
血に染まる真っ赤な刀身を握りしめる異次元妖夢の呼吸が、平常時よりもごくわずかに深くなる。これは来る。私も無意識のうちに柄を握る手に力が籠る。
砂煙が薄まってきて、若干視界がきくようになってきた異次元妖夢の後方に、空から落下して来た二メートルを優に超える大きな矢が、大気を焦がす真っ赤な色で地面に深々と突き刺さる。
「「っ……!!」」
異次元妖夢だけでなく、私も攻撃と防御のタイミングをずらされ、体が硬直する。脳裏にあの爆発が横切り、自分の前に爆風と衝撃を防ぐ結界を作り出そうとするが、初撃とは違って爆発の性質は含まれていない。
代わりに、地面に突き刺さっている本物の矢を魔力で再現した矢でできた雨が、異次元妖夢だけでなく、離れている私の位置にまで遅れて降り注ぐ。
総合的な数で言えば数百はくだらない。パッと見たところ天文学的数の、大量の矢が私たちの元に高速で降下してきた。
本物と違って形の形成に魔力を使っている分だけスピードは遅いが、その数の多さは私にとっては致命的だ。
上空からの攻撃など考えてもおらず、爆発を防ぐために体の前に結界を形成しようとしていたことで、作り出したものが使い物にならなくなる。
できるだけ矢に当たらないよう、体を丸めて地面に伏せるが、左足と背中に衝撃が走る。背中から突き刺さった矢は貫通するには至らなかったが、脹脛を貫いた矢の先が地面に食い込んだ。
激しい攻撃に耐えられなかった結界は、亀裂が全体に広がり、隣で崩壊していく。その奥には、一発の矢も当たる事無く全て断ち切った異次元妖夢が、霧散していく魔力の塵の中に立っている。
今、ここで攻め込まれたら、何の対抗もできない。足に突き刺さっている魔力の矢を、私の魔力で不安定にさせ、塵として消滅させる。
飛び起きて異次元妖夢の方向を向き直ると、こちらではなく矢が飛んできた方向に目を向けている。
「邪魔ね…」
そう呟くと、永琳がいるであろう方向へと走り出した。どれだけ離れた場所に居るかは掴んでいないが、後方で支援しているであろう彼女が前線で戦うという事はほぼない。
それをしているという事は、異次元妖夢が彼女に何かしたのか。私が何かをしたという事になっていると考えられる。
後方支援に徹している彼女は、最初から私たちが目的ではなかったはずだ。それがタイミングが悪く目標が姿を晒してしまった。だから攻撃を仕掛けてきたのだろう。
彼女が攻撃をしてくるという事自体は、なんとなく身に覚えがあるから仕方のない事だが、問題はその周囲に霊夢がいることだ。
おそらく私が撃ち殺した異次元早苗によって、霊夢が率いている者の中でけが人が出たから医者が来ている。
そこから永琳を霊夢は一人で行動させることはしないはずだ。だから、絶対にその方向には霊夢がいる。そっちの方に異次元妖夢を行かせてはならない。
手先に魔力を溜め、レーザーへと変換する。奴の進行方向を薙ぎ払うが、器用に下をくぐり抜けられ、突破される。
「くそっ…!」
私も地面に大量に刺さった矢を除けながら走り出すが、まるで水のようにそれらをすり抜ける異次元妖夢に追いつけるわけもなく、どんどんその距離を放されていく。
手に持った観楼剣に、奴を追尾する性質を与え、勇儀の力を使ったまま投げつけた。そのまま飛んで行けば、異次元妖夢の頭上を通り過ぎて行く軌道を描いていただろうが、性質によりおかしな力が働いた軌道を取る。
鬼の力という事もあり、砂煙を吹き飛ばし、煙を地面から舞い上げる速度で異次元妖夢へと向かう。
物が高速で移動すると出る唸り声が響き、奴がそれに気が付かないわけがない。走りながら後方を振り返ると、手に握る観楼剣で弾きあげる。
火花を散らす刀は力に耐えられずどちらも粉々に砕け散り、奴に攻撃が届くことは無かったが、一瞬でも足止めできればそれでいい。
十数メートル先にいる異次元妖夢の足元に魔力を配置。結界の性質を与え、一辺が二メートルずつある正方形の結界で奴を捕縛する。
当然ながらこんな紙同然の弱々しい結界程度、異次元妖夢は突破できる。スキマの中から観楼剣を抜刀し、同時に四度の斬撃。
結界が原形を留められない程に切り刻まれ、バラバラになって崩れ落ちていく。その過程で普通なら、形を保てず結界の破片は塵となって崩壊していくはずだが、切られることが前提となっている結界の切れ端はそれを起こさない。
プログラムが起動し、薄っぺらな結界の破片が赤く輝くと、真っ赤な炎を膨れ上がらせ爆発を引き起こした。
爆発の炎で加熱された熱風と衝撃波が押し寄せてくるが、離れていたことで体が倒れるほどの衝撃は無い。結界に魔力を持って行かれた分だけ、爆発の威力は抑えめであるが、動きを止めるのには十分だったようだ。
再度舞い上がった砂煙の中で、うっすらと異次元妖夢が観楼剣を杖にして起き上がっているシュルエットがみえる。それに向け、今度は私が奴に接近し、刀での突きを放つ。
結界に使われていた魔力全てが爆発に使われたわけではなく、一部はその形状を保つようにしておいた。それにより、爆発の衝撃で切り裂かれる以上に細かくなった結界の一部が飛び散り、異次元妖夢に怪我を負わせられたようだ。
爆発自体で殺すわけではなく、それによってまき散らされる破片により、殺傷力を上げる手榴弾と同じ原理だ。
体の所々から出血しているが、太刀筋は変わらずに私の突きはやすやすと弾かれてしまう。しかし、放つ斬撃にキレがない。
奴が他にどんな力を保有しているかわからない。傷を治されて攻撃がいつものキレに戻る前に、畳みかける。
弾かれた刀を腕力で制御し、横に薙ぎ払おうとした。それに対応しようとしている異次元妖夢のはるか後方で、真っ赤に光る矢が放たれたことを示す、赤い流星が丘の上から空に飛翔する。
「っ…!」
魔力に意識を向けると爆発ではなく、魔力で大量の複製を周りに発生させる性質があるようで、矢が放たれた直後から複製を開始。ものの数秒で一本が数百本へと数を変える。
雨、もしくは壁とも言える。表現はどうでもいいが、向かっている矢の量はそれらと言っても過大にはならないだろう。
数で言えば一度目の倍はありそうだ。自分に向かって来るものだけをカウントしたとしても、数十本はくだらない。それをすべて叩き落せるだけの技量は私にはない。
あと数秒であの雨が到達するというのに、切り合っている状況を長く続けるわけにはいかない。二度刀を交えた後、奴の攻撃を勇儀の力を使って大きく弾き返した。
奴がどう攻撃を受け流して体勢を立て直すことには目もくれず。大きく後方へ下がり、矢では貫けない強固な結界を周りに形成した。
その段階でようやく異次元妖夢は、自分たちに向けて大量の矢が迫ってきていることに気が付いたようだ。
そうだというのに落ち着いた様子を崩さないのは、奴ならばあれだけの量があったとしても、余裕で潜り抜けるだろう。
結界の中で息を整えようとしていると、本物の矢が私たちの元へと先に到達する。異次元妖夢は後方から来ている飛来物を、見ずに気配だけで切り落とす。
急激に失速した矢はガクンと地面の方に軌道を変え、木の特徴的な乾いた音を立てて地面に落ちた。本物よりもスピードの遅い魔力の矢は、あと数秒でここら一帯を針地獄にする。雨が終わったタイミングを間違えぬよう、状況把握を怠らない。
異次元妖夢がまた私を無視して霊夢達の方向へ向かわれると、次は止められる自信がない。これだけの腕を持っている奴に、そう何度も同じ手は食わないし、アイデアも無限に湧いて出るわけではない。
奴がどういう行動に出てもいいように、奴を観察していると、スカートにあるポケットの中に手を忍ばせ、中身を取り出した。
その手に握られているのはスペルカード。濃密な魔力を回路へと流し込み、眠っていたシステムを起動させている。
錆びついた観楼剣で左右対称の真っ二つにカードを切り裂くと、今までとは比べ物にならない高濃度で、様々な性質を持っている魔力が異次元妖夢の全身へと広がる。
「っ!!」
これから何をしようにも、私は異次元妖夢のスペルカードを阻止することはできない。矢から逃れようとするあまり、この小さな檻の中に自分自身を閉じ込めてしまった事が仇となった。
切った格好から、組まれたプログラム通りの動きで、放つ技の体勢へと移っていく。座る程に低くく構えた異次元妖夢が一気に地面を蹴り、跳躍する。滑るような跳躍の速度に、視界から異次元妖夢の姿を見失った。
そして、気が付いた。
奴の姿を確認できないのも当たり前だ。既に視界内には存在しておらず、結界ごと私を断ち切って後方に着地している。
守ることしか役目を持っていない結界は、それを遂行することができず塵となって崩壊していく。腹部に受けた横に一閃の斬撃は、深々と肉体を切り裂いていた。どれほどかは、腹部を押さえなければ内臓が零れ落ちてしまうほどには深い。
腹部を抑えることはできたが体から力が抜け、膝を地面に付いた。その私に異次元妖夢の攻撃は、まだまだこれからだと知る呟きが聞こえてくる。
「人鬼『未来永劫斬』」
次の投稿は7/25の予定です。遅れる場合は8/1になると思います。