東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!


それでもええで!
という方のみ第百三十七話をお楽しみください!










申し訳ございません!!!今回、少々場面の転換が多いです!


東方繋華傷 第百三十七話 死者から生者へ

 豪華。といえるほどではないが、それなりに綺麗な装飾が施され、見栄えのいい家具が部屋にいくつか置いてある。

 洋風程の派手さはないが、日本古来の趣がある一室。そこにとある人物たちを呼び寄せ、これから行う予定の計画を伝え終えた。

「というわけなので、これから奴らは力を付けるために大きく動く。それを奪うために、我々もそろそろ行動を開始しましょう」

「……あ…ああ」

 私の前には、二人の人物が立っている。そのうちの片方からは、任せるとしたら頼りがない、迷っているような返事が帰って来る。

「なんですか?何か言いたいことでも?」

「い、いや……そういうわけじゃ…」

 本当に大丈夫なのだろうか。並んで立つもう一人に目を向けても、彼女は目を逸らすだけだ。あまり目を合わせようとしないことに憤りを感じるが、二人は何か意見があるわけではない。

 私の言う事を聞きたくなくて目を背けているわけでも、自信が無くて便りのない返事をしているわけでない。単純に、私を恐れているだけだ。

 恐れている、それはいい傾向だ。人を恐怖で縛り付けるのには、少なからず限度がある。無理やり従わせられている事に対しての反発心、憂虞からの解放、自由への渇望。簡単に上げるとすればこんなところだ。

 しかし、数時間から数日。私が力を得るまでの短時間であれば、確実に縛り続けるだけの効力はある。

「なら、さっさと手はず通りに動いてください。それともなんですか、今まで散々助けてあげてきたというのに…今更命令には従えないとでも?」

 少し威圧をかけると二人は顔面を蒼白させ、しどろもどろになりながらも、私の命令を順守する意向のようだ。

「ち…違う…!……わかったから、そう急かさないで!」

「なら早く向かってください。従う気があるのであれば、言葉ではなく行動で示すことです。でないと、私ではなくあの方に殺されますよ?それでもいいんですか?」

 私がそう言うと、二人は顔を見合わせ、顔を青くしたまま予定の場所へといそいそと向かい始める。片方は走り、片方は空を飛ぶ。緊張しているのが後ろから見てもわかる程、肩に力が入りっぱなしだ。

 肩の力を抜いて気楽になるように言うのを忘れていたが、まあいいだろう。失敗しても死ぬだけだ。

 そう言えば、彼女たちに話しそびれていたが、撒き餌である彼女たちは、どっちみち死ぬか。それは仕方がない事である、餌とはそういう物だ。

 二人がいなくなり、屋敷の外に飛びだしたことが、飛んでいく背中からわかる。それを眺め、ククッと喉を鳴らして笑う。

「……。あの方……ね……。……もうすぐですね」

 

 

 重量が数トンはくだらない、巨大な電車という金属物は、目にも止まらぬスピードで突っ込んでいく。

 彼女が向いている方向と、その逆からも電車は向かっている。距離的に後方側から向かっていた乗り物に、魔女は背中を跳ねられた。

 スキマから射出されても、魔力による加速が続いていたらしい。前面部に衝突すると、彼女の体はすくい上げられた。止まっていたはずの体が、向かって来る電車へと自ら進んでいく。

 一秒もせずに飛んでくる車両の正面衝突に巻き込まれ、押しつぶされる。金属が歪み、衝突し、擦過する。その過程で摩擦による温度上昇で火花が発生し、衝突部のあらゆる場所でオレンジ色の花火が咲いた。

 金属が千切れる音なのか、魔理沙の肉が潰れる音なのか、骨が砕ける音なのか、折り重なり過ぎて何が何だかわからない。辺りに響き渡る割れるような爆音に、何もかもがかき消された。

 痛みなど、感じる暇もないだろう。

「あらあら、ここまでやっちゃっていいのかしら?」

「さぁ」

 衝突し合った電車は、どちらも一つの車両が丸々ひしゃげて原形を留めていない。普通の人間なら、潰れた車両以上に形状を維持することはないだろう。潰れる程度ならまだましだが、引き裂かれてひき肉になるのが大体のたどる道だ。

「だって、死んだらどうするのかしら?十年間も、あなたが好きなこの世界も、どぶに捨てるのと同じよ」

 元友人である幽々子がそう言うが否や、潰れて止まっていたはずの電車が、不快な金属音を不気味に響かせ、独りでに動き始めた。

「ほらね…こいつは大丈夫よぉ」

 電車と電車の衝突部が、どこにあるのかわからない。潰れたパンケーキのように一体化している車両を引き剥がし、その間にいるであろう魔女を、掘り出す作業に移ろうとしていたが、その必要はなさそうだ。

 突如、弾かれたように金属の塊が動き出す。潰れた車両が私たちの方向へと飛ばされ、それに連結している残りの車両も続いていく。まるで巨大化したパンジャンドラムのようだ。

 数十メートルの範囲を押し潰すロードローラとなった電車は、仮に私たちを引き裂いたとしても、即座に止まる勢いではない。数十メートルに渡って、進行の障害となる物体を破壊するだろう。

 足での移動では、到底逃げ切れない。私は能力を使用して自分の体をスキマで包み、幽々子は体を浮遊させた。境界の先は、転がる電車の通過後へとつなげていたため、特に大きな動きをせずに済んだ。

 転がる物体の大きさが大きさゆえに、木々を数本なぎ倒した程度では、重量のある電車は止まれない。数十本の木を根元からへし折り、木の幹をミキサーを思わせる威力で粉砕する。地形の関係で盛り上がった傾斜に差し掛かり、ようやく停車した。

 ここで鬼が暴れた痕のような惨状が、たった数秒で築かれる。まだ完全に覚醒していないというのに、これだけの力を発揮できる。手に入った後が楽しみだ。

「はぁ…!はぁ…!……この……くそ野郎…!」

 息も絶え絶えで体中の骨が砕けているのに、彼女は自分の足で大地を踏む。よろけてはいるが、こちらに歩を踏み出した。

 ズタズタに裂け、皮膚を突き破っていた骨が体内へと戻り、裂傷が塞がる腕をこちらへと向けた。拍手を送りたくなるほどの回復力だが、十年前はこんなものではなかった。

「まだ…足りないみたいねぇ」

 体を軽く傾け、飛来して来たレーザーを避けた。後方に横たわる電車を焼き、その高温に物を言わせて金属を融解させる。あっという間に反対側にまで届き、その奥に群生していた木々の一本を炎上させる。

「貴方の相手は私じゃあないわぁ……今なら霊夢でもなんとかなるわねぇ?」

 照準を付け直し、再度レーザーを放とうとした霧雨魔理沙の前に、遅れてやってきた博麗の巫女が着地する。

 放とうとするのと、着地のタイミングは随分と際どかった気がするが、その手前で既に腕を弾き飛ばしていたようだ。血まみれの赤い腕が、普段なら曲がらない方向に屈曲している。

「うぐっ!?」

 そして、着地した直後に首元、わき腹、胸に一度ずつお祓い棒を叩き込んだようだ。更なる攻防を繰り広げるつもりだった霧雨魔理沙は、拳を振り抜こうとしてそのまま地面に崩れ落ちていく。

 電車に挟まれても生き残っている防御力に加え、腕が十秒程度で治る再生能力。それを活かしたとしても、霊夢の勘が働いたらしい。肉体を打撃が貫いた。

「っ……かはっ…!」

 私の攻撃で大分ダメージが蓄積していたようだ。膝と手を付いて、倒れ込むのを防いだとしても、その先には行けない。現状を維持して回復に専念するので精一杯と言ったところか。

 血反吐を吐く魔女をその場に放置し、こちらに向かって巫女が歩いてくる。私は頭を使いすぎて少々疲れた、後は2人に任せるとしよう。

「霊夢…後は任せたわよぉ」

 そう伝え、頷いた彼女と幽々子をその場に残し、私はスキマを潜った。

 

 

「くっ……そっ…!」

 電車に挟まれたダメージが、抜けきっていない。例え完璧に再生させ、傷が治ったとしても感覚は残る。

 傷が治る性質を持つ魔力を体中に巡らせ、痛みはすぐに引いたが、それのせいでいつまでも立つことができなかった。だが、その感覚すらも治る性質の魔力を全身に巡らせ、手足の自由をようやく取り戻すことができた。

 少々混乱している。私が持っている世界の知識と、自分のできる事の差に頭が付いて行けていない。特に最近は酷い。自分の中の常識が覆されている。

 未知の領域に足を踏み入れているせいで、常に手探りの状態だ。以前の知識が邪魔をして、それにとらわれてしまっている。じっくりと考えて実験する暇もなく、どこまで応用できるのか測れない。

 考えることは後ででもできる。今は、目の前にいるこの戦争の首謀者を叩き潰す、これだけを考えなければならないな。

 足腰に力を込め、上体を起こす。標的となる二人を見据える。異次元幽々子には、まんまとこの場所へと誘い込まれてしまったが、そのおかげでこうして作戦の核となる巫女と対峙するのに成功した。

 意図していなかったが、ここで戦いを終結させる。太陽の畑で戦って以来、奴が前線に来ることは無かった。しかし、今こうして出張って来たという事は、力を手に入れられる段階に移っているのか。もしくは、打つ手なしで他の者に力を取られるぐらいなら、私を今ここで殺そうとしているのだろうか。

 後者はなさそうだ。殺す気なのであれば、徹底的に行うだろう。異次元紫が居なくなることは無いはずだ。

 となれば、奴らが私の力を奪おうとしている。と考えられる。何をされても対処ができるよう、魔力などに意識を向ける。

 異次元紫がスキマを閉じてしばらく経つというのに、その周囲からは未だに境界を操る程度の能力の性質を感じ取れた。帰ったふりをして、スキマを閉じきっていないだとか、見えない場所にスキマを開いているわけではない。なぜなら異次元紫本体の魔力はこの場にはない。

 奴はスキマで瞬間移動に近い形で急に現れる。常にどこからか狙われている、という事が前提で戦うとしよう。

 異次元霊夢は接近戦を得意とする。得物が何もないのは不安だ。バックの中に仕舞っておいたキューブに刀の性質を加え、妖夢が所持するのには短く、細くて心許ないが、私が扱うのにはちょうどいい刀を作り出した。

 粒子状の物体を手元で刀へと形作らせ、それを二人に向けて迎撃もしくは攻撃の体勢を整えた。

「魔理沙ぁ、咲夜たちは…ちゃんと殺したのかしらぁ?」

 三人が死んだという知らせは、とっくに回っていると思っていたが、緻密な情報網が構築されていないのだろうか。いや、始末をつけた再確認をしているだけか。

「ああ、後はお前だけだぜ。…お前を殺せば、この異変は終わりを迎える」

 お祓い棒を手元で弄びながら私の話を聞いていた彼女は、こちらにお祓い棒を向けた。何かの攻撃かと思ったが、そう言った魔力の流れは感じない。

「本当に…ここで私を殺せば戦争が終わると思っているのかしらぁ?」

「どういうことだ?」

「妙蓮寺とか他の連中も同様に力を狙っているのもあるけどぉ…今の段階で私だけを殺しても…終わりを迎えることは無いわぁ」

 他の連中も狙っていることは知っているが、奴だけを殺しても終わりを迎えない?幽々子や紫、幽香が残っている。そう言いたのだろうか。

「幽々子と幽香のことを言っているのか?なら、そいつらも叩き潰すまでだぜ。まあ、お前を殺して博麗の巫女よりも強いことがわかれば、下手に手を出してくることもないだろうぜ」

 私がそう言うが、霊夢は口元を緩ませ、クスクスと笑った。そして、違う違うと私の考えを否定する。

「幽々子も幽香も…魔理沙の力には興味ないわぁ…」

「なら、誰のことを言っているんだぜ……残りの連中は、私が……」

 殺したと続けようとしたのを、異次元霊夢に遮られた。そんなことはあり得ない。と、否定したいが、ザワザワと胸の内が嫌な予感を予見する。

「いるじゃない…力を求めてる咲夜たちが…ねぇ?」

 私は、異次元幽々子がした不可解な行動の意味、異次元咲夜と異次元妖夢が死の直前に笑うだけの余裕があった理由を、分からせられる時が来たようだった。できればその時は来ないことが望ましく、奴らの邪魔をしたかった。

 異次元霊夢のペースに飲まれており、攻撃するという考えに至らず、ただ奴らを傍観することしかできない。

 ようやく思考するに脳の回転が及んだが、

 

 そんなのありかよ。

 この一言を絞り出すのが限界だった。

 

 

 同時刻。

 

 異次元妖夢に荒らされ、また仲間を数人やられた。異次元幽々子の出現などで混乱していたこの場は何とか収めたが、再度治療に専念して動けなくなりそうだ。

「博麗の巫女、あの魔女はどうした?」

 異次元妖夢にスペルカードで吹き飛ばされた勇儀は、いつの間にか戻ってきていたようで、そう私に聞いてくる。

 それよりも、切断された腕や足を治した方がいいのではないかと思うが、鬼は再生能力も高いのだろうか。どちらも傷跡もなく治っている。

「…さあ、敵の幽々子が現れて…そいつを追って行ったわ…どうかしたの?」

「いや、いないならいい……萃香は?」

 勇儀は四肢の切断された部分に、こびり付いたままの乾いた血痕を、鋭い爪でこそげ落としつつ彼女の容体について聞いてくる。

「…さあ、でも…あまり良くないみたいよ。表面だけじゃなくて、体の内側まできっちり焼かれたようなものだから」

「そうだよなー…まあ、大丈夫だろ。萃香のことだし」

 信頼しているようで、あまり心配していなさそうな勇儀は、その場にどっかりと座り込むと、地面の上に寝そべった。

「移動するときに呼んでくれ」

「…ええ、わかった」

 勇儀が目を閉じ、眠ってしまったため、この場にいる意味も無くなった。見回りのために離れようとすると、近くに天狗が翼を羽ばたかせてゆっくりと降りて来る。

「霊夢さん。見てきましたよ」

 翼と腕を切り落とされた文は、永琳に治療をされている。その代わりに、他の天狗にとあることを頼んでおいた。

「…どうだった?」

「霊夢さんが言った通り、向こうで死んでる早苗にも、妖夢と同じ噛み傷がつけられていました……いったい何でこんなことを?」

「…わからない。今の段階では何も言えない」

 奴が大食いで、食べ物がないからではない。おそらく、第二の能力が絡んでいる。異次元早苗の時もそうだが、今回も異次元幽々子が能力で手を下した。

 わざわざ出て来たところを考えると、私たちに殺されると不都合なことでもあるのだろうか。いや、殺されて不都合など、争っている人物の間でそんなことはないだろう。

 まさか、自分で殺した人物たちを、ネクロマンサーのように操るわけじゃないだろうな。死体も残っていて死んだ本人の魔力も通っていない。魔力を使って、アリスの人形のように操れるだろう。

 しかし、その程度なら、わざわざ死体に食いつく理由にならない。もっと別の狙いがあるのだろうか。

 

 

 異次元幽々子が上に顔を傾け、そのすらりと長い指をまっすぐに伸ばし、唇に添えた。閉じていた口をゆっくりと開くと、指を口内へと滑り込ませた。

 第一関節、第二関節が消えていき、指から手のひらに移行しようとしたところで、指先が喉の奥に到達したようだ。

 異物が喉の奥に入ったことによる、嘔吐反射が誘発された。異次元幽々子がえずき、喉に突っ込まれた異物を押し出そうと、胃の内部に存在する物体が吐き出された。

 喉が膨らみ、胃から移動して来た吐瀉物が口からまき散らされる。ほとんどは胃液で、溶解した食物などを見ることにはならなかったが、吐き出された物から吐き気をも要しそうになる。

 先ほど飲み込んだ異次元妖夢の一部以外に、二つの肉塊が嘔吐物の中にあるのが見える。私の考えが間違っていなければ、残りの二つは異次元咲夜と異次元早苗だろう。

 私の、当たってほしくなかった予感は、的中してしまった。初めて感じる性質だったが、それがどんな効果がある物なのかは、感覚的に理解した。

 彼女が吐き出した肉体を媒体に、死んだ彼女たちをここへと召喚する。止めようにももう遅い、異次元幽々子の第二の能力が発動する。

 自然と乾いた瞳を潤すために、瞼を閉じた。1/10秒にも満たない瞬きの前に、その方向には異次元霊夢と幽々子の二人しかいなかったはずだった。だが、瞼に覆われた一瞬の暗闇の後には、人影が三つも増えていた。

 いるはずのない人物。本来なら、居て良いはずのない、居るべきではない人物らが、何の前触れもなく出現した。

 どういう能力かを使われる直前に知れたとしても、実際に見るのとではインパクトがあまりにも違いすぎる。

 何かをされたわけではない。銀ナイフが飛んで来たり、弾幕に撃ち抜かれたわけではない。下に傾けていた顔を上げ、奴らは歪んだ笑みを向けた。ただそれだけで、私は刀を取り落としそうになり、前に進もうとしていた足が縫い付けられたように動かなくなった。

 奴らが醸し出す、背筋が凍り付きそうになるほどの敵意や殺気。狂気の炎が鈍く揺らめき、覗き込まれるだけで萎縮し、許しを請いてしまいそうになる瞳。理性のタカが外れ、狂いに狂った異常者。その言葉が似合う笑みは、常識的な道徳観や理性、倫理を擁するどんな人間も狂わせるだろう。

 それらを感じ取る感覚器官は、正直に結論を出す。見間違いや勘違いではなく、あそこにいるのは紛うことなき、奴らだと。

「そ…んな……」

 気のせいだと思いたかった。何かの間違いでそう見えただけだとか。それとも、私が疲れているだけで、嫌な物が幻覚のように見えてしまったと。

 やりたくはなかった。彼女たちに意識を向けることを、躊躇した。そこにこの手で首を飛ばし、殺した奴らが居ると思うと、怖くて視認し続けることなどできなかった。

 しかし、そう見えたのであれば、気のせいで済ませてそのまま無視することもできなかった。

 どうか、気のせいであってくれ。私の早とちりであってくれ。異次元幽々子の能力の性質から、理解していたとはいえ、そう願わずにはいられなかった。

 異次元霊夢と異次元幽々子の他に、先ほどまでなかった魔力の性質が、見えた人影の数だけ間違いなく確実に存在している。

「っ……嘘…だろ…………」

 決死の思いだった。全身全霊を込めて全力で戦った。アイデアを捻りだし、やっとの思いで殺した敵と、敵達と、また戦わなければならない、そうなったらどうだろうか。

「嘘じゃないですよ。また…殺り合いに来ましたよ?」

 異次元咲夜は、魔力で作り出した本物の武器を、ゆっくりと私に向ける。頭上を覆っている木々の間から漏れて来た月明かりに照らされ、銀ナイフがきらりと光る。

 そんなの、絶望的だ。奴らは、同じ手は食わない。何よりも、一度目にあったこちらに対する油断は無くなるだろう。私達だって異次元幽々子が、そういうことをできる人物だと流石に理解する。次に生き返らせるために何かをしようとしても、こちらも邪魔をする。

 そう言った観点から、奴らにとっても死んで見せるだけの余裕はなくなる。一度目以上に、戦闘が苛烈になることが予想できた。

 しかし、苛烈になるだろうか。私に殺され、戦い方を知っている奴らは、それの裏をかいてくる。戦いではなく、蹂躙が繰り広げられるだろう。

 頭の中が整理できない。思考がぐちゃぐちゃに飛び交う。咄嗟に逃げるか戦うか、その判断も下すことができない程に混乱している。

「…」

 逃げられるだろうか、この連中から。一人は時を操り、一人は白狼天狗の走力を上回る。戦い、勝利を掴めるだろうか。幻想郷を統べる博麗の巫女と、あらゆる攻撃に干渉できる者に。

 どちらも無理だ。一度目よりも可能性はぐっと低くなるが、単騎撃破していくのであれば殺せるだろう。単騎であれば逃げ切れるだろう。

 実験段階の域を出ない私の力では、一度に彼女たちを全員撃破することは、到底不可能だ。

 防御本能から、一歩後方に足を後退させようとした。性質に意識を向けていたことが功を奏し、時を操る魔力の性質を奴らの方向から感じ取った。

「貴方に言われましたので、能力をふんだんに使うとしました」

 異次元霊夢達がいる方向から異次元咲夜の姿が消え、奴の声が後方から聞こえてくる。振り返りたくても振り返れない。目の前には大量の銀ナイフが、空中にずらりと並べられている。

 容赦のない投擲攻撃。肩や胸、腹部や足、体中のあらゆる場所に銀ナイフを叩き込まれた。それだけではなく、いつの間にか銀ナイフでは付けられないような、大きな斬創が刻まれている。

「かぁっ…!?」

 異次元咲夜の銀ナイフごと、異次元妖夢が切り裂いたようだ。体に刺さっている銀ナイフの柄などが刃から切り離され、いくつか地面に落ちて行く。

 腕を、手を、指を、奴らに抵抗を示すために、動かすことすらもできなかった。切断された銀ナイフの柄が、地面と接触して刺さったり転がる様子を、ただ眺める。

 切り裂かれ、中身の内臓が零れ落ちそうになった腹部を、ダラッと垂れ流す直前に手で上から塞ぎ込んだ。

 傷口を圧迫しても、その間を縫って溢れて来た鮮血が、腹筋の下にまで至っている斬創からゴボッと溢れ出す。

 その怪我を再生させることに、意識を向けることもできない。間髪入れず、切断された銀ナイフの柄が落ちている地面に、一発の正円型弾幕が着弾する。

 地面に接触と同時に、弾幕に含まれている爆発の性質が起動するようになっているらしく、淡青色の魔力が放出され、煌めいて爆発を起こした。

 膨れ上がった炎が押し出す空気に、全身をしこたま殴られ、高温の炎に肌を焼かれる。爆風に足元をすくわれてしまい、されるがままに後方に吹き飛んだ。

 先ほどまで確かにあった、風船のように膨らんだ戦闘本能は萎み、どこかへと飛んで行ってしまったようだ。代わりに、ここから逃げなければならないという逃走本能に触発された。

 私が奴らを倒すことができたのは、各個撃破を徹底していたからだ。たまたま戦闘になった時、そこに居たのが一人だっただけともいうが、それのおかげで異次元早苗に始まり、異次元咲夜と異次元妖夢も殺すことができた。

 その三人と異次元霊夢を同時に相手にするなど、自殺に等しい。退くことも戦いだ。奴らを分散させ、また個別に殺していくしかない。

 逃げ切れるかはわからないなど、言っていられない。逃げ切り、霊夢達に奴らの注意が向かないようにしなければならない。

 この四人が霊夢の元に殺到したらと考えると、ぞっとする。スキマで移動させられたせいで彼女達との距離がわからないが、近いのであれば霊夢達をすぐに撤退させるべきだ。

 そう言う意味もあり、紫へ連絡と撤退までの時間を稼がなければならない。爆風で地面に転げ落ちた、鉛のように重たい体に鞭を打つ。

 ある程度奴らを引きつけつつ、逃げ回る算段を立てる。奴らがどの程度の距離離れているかわからないが、よろけながらも転がった方向に向かって走り出した。

 

 

 

 そこまで長い間ではないが、眠っていた様に意識の全くなかった状態にあった。それは蘇生されてから思い出したことだが、初めて体験する死という現象に、驚きは隠せなかった。

 しかし、そんなことはどうでもよくなる。呼び出された先には、私たちが求める力を持つ、霧雨魔理沙が立っていた。

 黄泉の国から蘇って来た私たちを見て、表情が土砂降りの如く曇った。瞳の色からわかる、彼女は絶望している。私を殺すとき、魔女は決死の戦いであったことは言うまでもない。手の内を知られてしまっている相手を、もう一度相手にしなければならないとは、軽く悪夢だろう。

 譫言を呟く魔女に、私は優しく返答を返してあげた。

「嘘じゃないですよ。また…殺り合いに来ましたよ?」

 能力で時を停止させ、霧雨魔理沙にゆっくりと近づき、銀ナイフを構えた。彼女の周りにそれらを配置しようとすると、自分と戦った時と様子が違うことに気が付いた。

 真っ暗な森の中で、彼女の姿だけなぜかくっきりと見えている。そこまではっきりしているわけではなく、雲に隠れている月光のように朧げだが、よく見なければ分からない程に体の周りが淡く発光している。

 これが、博麗の巫女が言っていた、準備とやらが整ってきている証拠だろうか。私はそう思考を巡らせ、魔女の前に銀ナイフを配置する。

 もし、準備が整っており、力を手に入れることができる段階に入って来ているのであれば、手に入れる方法を知らない私は博麗の巫女の出方を見た方がいいだろう。

 魔女の後ろへと周り、停止した時を正常に刻ませた。配置した銀ナイフは、私がいる位置に飛んでこないようにしておいた。魔理沙に当たらなかったナイフが、五センチ程横を通り過ぎて行く。

 胸などに複数の銀ナイフを受けたことで、魔女の体がガクンとその重心を下げ、倒れ込みそうになっている。そこへ庭師の剣術が炸裂し、刺さった得物ごと標的をぶった切る。

 この十年で分かっているが、この剣士はあまり頭が良くない。本能で戦っている部分があるから大丈夫だとは思うが、勢い余って殺さないかが心配である。

 心配は杞憂だったようで、体の芯部にまで届くような斬撃ではなく、刃先に血液が付着する撫でる程度の攻撃だ。

 魔女を切った妖夢が後方へ抜けていく。その過程で私に危害を加えるつもりだったのか、顔を横に傾けなければ頸動脈をなで斬りにされていた。

 時を止め、体をズタズタに切り裂いてやりたい衝動に駆れるが、ナズーリンの家を襲撃した際に、後頭部を殴ったことを思い出す。それをまだ根に持っているのだろう。

 まあいい。今回は見逃してやろう。十年間も待ちに待った、その時がもうすぐそこまで来ていることに免じて。

 魔女の後ろに陣取ったことで、博麗の巫女の動きが手に取るようにわかる。力を奪うために動くのであれば、私が先手を取ってやる。

 そう思って油断なく構えていたが、奴は動きを見せない。それどころか、魔女に興味を持っていない。今の段階の魔理沙には、興味を持つだけの価値もないという事か。ならば、これ以上の戦闘も無駄だ。

 弾幕を放つ早苗に巻き込まれぬよう。時を静止させ、腹部を押さえて血液を垂れ流す魔女から距離を置く。

 妖夢と早苗が、霧雨魔理沙の発光に気が付いているわけではないのは、むき出しの敵意からわかる。もうしばらくは、追撃を行うだろう。

「……ふふっ…」

 それよりも、楽しみだ。口角が上がり、笑いが止められない。真っ白な歯を剥き出しにし、くっくっくと喉を鳴らして喜びを形容する。

 

 嗚呼、ようやく、ようやくです。この十年間で、ここまで心が躍るのは初めてです。貴方に、主に会えることを心からお待ちしております。




次の投稿は9/5に変更します。遅れてしまい申し訳ございません!


今回は、場面の転換が多すぎた気がします。反省。
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