こんなこともできるんじゃないかなぁ、みたいな作品です。
それでもいいという方は第十五話をお楽しみください。
十メートルにもなる巨大な体を持つ花の化け物が首を垂れ、岩石でできている口を大きく開いた。私たちを食う気かと身構えるが私の予想は大きく外れ、
「オオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!」
人間や動物のような声帯という器官が存在しないのか、それを真似して作った花の化け物の喉から岩石と岩石が擦れる不快な音が空気を振動し、それが私たちに届くと考えられない音量に鼓膜が強くゆすぶられ、とっさに耳を押さえた。
しかし、耳を押さえても手の隙間や体の中にまで伝わってきた音の振動が音を聞き取る器官にまで到達し、聞こえてくる奴の雄叫びに頭がくらくらしてくる。
「魔理沙!」
さっきまでの奴や今まで戦ってきた妖怪たちとは比べ物にならないほどのスケールの違いに唖然としていた私を、霊夢は叱咤して我に返らせてくれた。
花の根が大小さまざまな大きさの岩石に纏わりついて絡めとっていることでできている巨大な手、それを花の化け物は私たちに向けて横から薙ぎ払ってくる。
自重を支えるのがやっとだった腕の岩石にいつもとは違う角度からの圧力がかかり、一部の岩石が砕ける音が少しだけ聞こえた。
砕けた岩石の破片や、くっ付いていることのできなかった土の小さな塊が、魔力で体を浮き上がらせて薙ぎ払う攻撃をかわした私に降り注ぐ。
腕を顔の前で交わらせ、顔などに飛んできた石や土が当たらないようにしたことで多少の目つぶし効果があって視界を遮るが、奴のデカい図体はどうやっても隠しきれるものではなく、今度は反対方向から巨大な手で私を殴ろうとしている動作が見受けられた。
私は魔力を使って体を強化し、奴の腕に当たる範囲内から出るために十メートルほど後方に即座に移動すると、紙一重で花の化け物の腕が目の前を掠っていき、扇子を目の前で振ったような風とは比べ物にならないほどの強風が肌を撫で、かぶっていた帽子を押さえる間もなく吹き飛ばされてしまう。
また砕けた石ころや土が大量に飛んでくるが、物理的にあらゆるものを防ぐ結界を目の前に作り出し、石ころや土の塊をガードし、それと同時進行で手先に魔力を集め視認でいるほどにまで凝集させる。
手先の目に見えるまでに凝集させて太陽のように光り輝いている魔力の玉をレーザーとして花の化け物にぶっ放すと、花の化け物はかわそうとする動作を見せるが、図体がデカいことで体を思うように動かせないらしく、胸に大きな穴が開いて一部の岩石などが剥がれ落ちていく。
「魔理沙…あいつ、たいしたことはなさそうね」
図体ばかりがでかくて初めは戦慄を覚えるほどだったが、ふたを開けてみればどうということはない。ただののろまな動く的というわけだ。
それにいち早く感づいていた霊夢はそう呟くと振った腕をもとの位置に戻し、こちらに向かってくる花の化け物から少しだけ視線を外して周りを見回した。
何か足りないと思っていたが、さっきまでいた幽香の姿がない。
「あのやろう、逃げやがったぜ」
私は呟き、怒ったように咆哮をあげている花の化け物の方向を向いた。
「別にいいわよ、後で倒せばいいからね……それよりも、これ以上邪魔をされないようにこいつをここで倒す必要があるわ」
「ああ、それに…こういうやつに増えて貰っても困るしなぁ」
花粉で増えていた花の化け物を思い出し、幽香が彼女と呼んだ巨大な化け物を見上げて背中に生えている大きな花を確認した。
花というよりも木ではないかと若干思うほどに茎は太くて頑丈そうであり、あの花は幽香の彼女という言葉を信用するのならば雌花だろう。
雄花が出す花粉が雌花に付着することによって実を着け、種子を生み出して子孫を残そうとするわけだが、もし、こいつも爆発植物ならかなりやばい。
人間台の大きさであった花の化け物は爆発することにより、大量の種を弾丸のような速度でまき散らしていた。あの飛んでいくには適さない形をしている種がだ。
人間型の爆発で飛んだ種は、三十メートルは離れていた人間の皮膚を貫いて肉にまで抉りこむほどの威力であったが、こいつが飛ばす種はどれだけの大きさでどれだけの速度と範囲、量なのか考えたくもない。
それに加え、約三十センチほどの実を着けていた花の化け物は種をまき散らしたときは約二十数体いた。存在を確認できていた奴らでだけでも平均で一つの実から種が五十個ほど飛ばされていたことになる。
彼女と呼ばれていたこの花の化け物のサイズならそれ以上になるのは確実であり、花粉の受粉だけは絶対に阻止しなければならない。
幸いにも周りには花粉をまき散らす化け物はおらず、今のうちに倒せるものなら倒しておきたいところだ。
「魔理沙、相手がいくら鈍いからって油断だけはしちゃだめよ?遅くても一撃が即死するような威力なんだから」
心の中を見透かしたように霊夢が私にくぎを刺してきて、少しだけ緩んでいた気を引き締めてこちらに向かってきている化け物をにらみつける。
「ああ……わかってるぜ」
霊夢から離れて花の化け物に向けてレーザーを照射しようとするが、奴の体の八割は岩石でできていて、レーザーでは思うようにダメージを与えることはできない。
十数メートルもあるやつの図体をまるまる焼き払うことができるのであれば話は別であるが、それは現実的な作戦とは言えない。私や霊夢の魔力をすべてつぎ込んでも不可能だろう。
鞄の奥にあるミニ八卦炉を握りしめていた私はそう思っていた。
「魔理沙、あれはまだ使わない方がいいわ…少しだけ様子を見ましょう…どんなことをしてくるかわからない……それに、この異変はまだ始まってすらいない気がするわ」
霊夢はお祓い棒で体を支えていた花の化け物の腕を数度に渡って殴打するが、砕けた岩の代わりに地中から引きずり出した岩石を根っこで絡めとり、削られた場所につけて無くなった分を補充してしまうため効果はないに等しい。
「ちっ…」
霊夢は軽く舌打ちをすると、お祓い棒についている土を払いながら一度花の化け物から離れた。
化け物が体を作る際には地中から岩石を引っ張り出してくるわけだが、岩石の中には使われなかった物もあり、それによって花の化け物の周りには大量の岩石や土の塊が落ちている。
花の化け物はそれを一つだけつかみ取ると、私に向けて投擲してきた。
ゴォッ!!
奴がしてくる攻撃の倍以上は速い速度で飛んでくる五、六十センチはある岩石は思っていたよりも速く、私が予測していた着弾地点から十分に離れないうちに地面に直撃し、その衝撃で地面をめくり上げて爆発させる。
何メートルかは離れていたがそれでは足りず、服や体が衝撃にあおられて飛んできた石や土にひっかがり、弾き飛ばされてしまう。
爆発で飛んできた岩が触れた部分の皮膚が少しだけ裂けて、血が流れ出してきてしまう。そこは目の横の部分からの出血で、血が目に入ることはないと思われるため、戦いの邪魔になることはおそらくないはずだ。
私は空中で奇跡的に立て直すことができ、地面に足をついて綺麗に着地することができた。
ズザザッと地面に二つの線を数メートルに渡って描き、土と靴の摩擦力でようやく体の動きが止まる。
「魔理沙、大丈夫!?」
私の近くに岩石が投擲されたのが見えたのだろう。慌てて走り寄ってきたが私が思っていたよりも軽傷で、ピンピンしているのがわかり、少しだけ安心したように息をついたとき、対峙していた化け物の体が変化し始めた。
花の化け物が体として使っている岩石のうち、顔を形成している岩石を縛り付けて筋肉のような役割を果たしていた根っこが口を開かせると、大小さまざまな大きさの岩が口の中で使われていて、凹凸がたくさんある不格好な口の中が見えた。
口を開いたことで外れて地面に落ちそうになった下顎を、根っこが縛り上げて下顎を支えると、奴が何をしたいのか更にわからなくなってきた。
そうしていると奴の体、厳密には開いた口に向かって風が流れ始めた。初めは髪がなびく程度だったが、だんだんと風の強さが増していき、体を低くして何かに掴まっていないと吸い込まれてしまう程に吸い込む力が強くなっている。
化け物は背中側からジェットのように風を吹き出し、風船のように膨らんで破裂するのを防いでいるが、そもそも岩石などでできた体はスキマだらけで背中側よりは少ないとは言え、木をしならせるほどの突風を吹き出している。
「うおぁっ!?…なんだよこれ!?」
砂が舞い上がり、木がしなり、ヒマワリなどの花が化け物に吸い込まれて行ってしまっていて、私は近くに生えている木に掴まった。
「魔理沙!手を離しちゃだめよ!」
別の木の後ろに回っている霊夢が私に叫んでくるのがちらりと見える。
「わかってる…!わかってるけど……やばい…!」
台風なんかとは比べ物にならないほどの風で吹かれている私の体が、口を開いて待ち構えている花の化け物の方向に引っ張られ始めてしまう。
魔力で体を強化していて私に問題はないわけだが、私が掴んでいる木の方に問題があり、あまり大きくない木ということで木が風に耐えきれず、根元からへし折れた。
五日後から一週間後に投稿します。