東方繋華傷   作:albtraum

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変なことを言っていると思いますが、大目に見てやってください………



自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
という方のみだ百六十二話をお楽しみください!


東方繋華傷 第百六十二話 矛先を

 世界のために戦っている人物はほとんどいないだろう。綺麗事や建前として言う人物はいるだろうが心の底から本気で、美しく眩しくすら感じる理由で凱旋を掲げようとする人物は、私が知る限りでは1人しかない。

 その人物も自分の世界に入り込んで、どこかで戦っているのだろう。一向に姿を見せることはない。そこら中で聞こえてくる戦闘音は、多岐に渡る。獲物を使用する事による金属音から、打撃音。弾幕が放たれる飛翔音。火薬が雷管から弾けた火花によって爆ぜる発砲音。能力によって爆発等が引き起こされ、振動が空気を伝わり肌にビリビリと衝撃を感じる。

 幾つか例を挙げたが、それで全てではない。もっと様々な戦いが繰り広げられているはずだが、私の耳にはそれらしか聞き分けることができなかった。

 歌仙が異次元霊夢に突っ込んで行った方向から、戦っている場所を割り出そうと走っているが、中々目的地につくことができない。

 それはそうだ。場は混雑と混沌を極め、罵詈雑言から指示、意味のわからない絶叫や死に直面した事によるうわ言まで折り重なって、何がどちらの情報であるのかなど、選別することは不可能だ。

 余計な敵と接敵しない様に立ち回るのは、情報が入り乱れる今の状況では難しく、異次元霊夢を探し始めてから数度目、異次元の敵が作戦など無く無謀にも突っ込んでくる。

 人喰いの妖怪だったのか、未だに力の獲得方法がわかっていない嘘の情報に踊らされているだけだったのかは定かでは無いが、草の根をかき分けて私に噛みつこうと飛びかかっていた妖怪の間に霊夢が入り込む。

 一瞬だけ霊夢に邪魔をするな、退けろという表情を向けたが、名もなき妖怪は自分は誰に向かっているのかを理解していなかったらしい。下から振りあげられたお祓い棒が妖怪の顎に叩き込まれ、硬い物体が砕け散る粉砕音を響かせて天を仰いだ。

 コンマの時間しか見えていなかったが、顎先から発生した亀裂は顎関節まで到達していたのか、しっかりと人間の形をしていた輪郭が、それを忘れさせる曲線を描く。歯もお祓い棒の威力の前には、ガラスなど脆い物体と変わらない。28本ほぼ全ての歯が砕け、口内や頬や唇に破片が飛び散った。

 歯の破片が一部肉を切り裂き、皮膚にまで到達した。そこから出血が起こり、顔が血だらけになるまでにそう長い時間はかからない。

 打ち上げられた顔がこちらを向いたままであれば、グロテスクな様子に吐き気を催してたかもしれないが、上を見ている段階であれば問題はない。

 上を向いたままこちらに向き直ろうとしない妖怪は、今の一撃で意識を完全に断たれてしまったらしい。砕かれた顎が垂れ下がり、だらしなく開いた口が垂れ下がる。

 この妖怪が私たちの強敵になり得るとは思えないが、危険な芽は今のうちに積んでおかなければならない。レーザーで頭を撃ち抜き、完全に絶命させた。

 淡青色に光る熱線が皮膚や肉の水分を沸騰させ、焼け焦げる過程をすっ飛ばす勢いで肉体を蒸発させ、頭部を貫いた。

 私が化け物になった時、異次元の天狗たちは一様に焼き殺したと思っていたが、生き残りがいたようだ。頭上を複数のカラス天狗が追い、追われの形で上空を目にもとまらぬ速度で通り過ぎていく。

 草木が暴風に煽られ、激しく揺らされてガサガサと音を鳴らす。追跡側のカラス天狗が弾幕で攻撃をしていたのか、風が過ぎ去った後に遅れて弾幕が地面を掃射していく。

 地面や木々に弾幕が撃ち込まれると含まれる魔力が弾け、土や木片を弾けさせていく。天狗たちが通り過ぎた時点で木の陰に隠れていたおかげで、弾幕に打ち抜かれることなくやり過ごした。

 掃射が終わったタイミングで、異次元霊夢の捜索に戻ろうとしたが近い位置、二十メートル先で淡青色の炎が膨れ上がり、家の一つや二つぐらいなら飲み込んでしまうのではないかと思う程の大きさに弾けた。赤色でないことで、魔力による爆発だと分かる。爆発によって空気が押し出され、爆風となってこちらに押し寄せる。そうわかっていても、弾幕の掃射で抉り返っている地面に躍り出るのに躊躇してしまった。

 距離が離れていたことと、木々がいくらか爆風を吸収していたことで、吹き飛ばされるほどではなかったが、舞い上がった砂煙に咳き込んでしまう。

「…大丈夫!?」

 何かの攻撃を受けたのかと思ったようで、霊夢がこちらに来ようとしているが、心配されるほどの事ではないため大丈夫だと目で伝え、異次元霊夢の捜索に再度移った。

 そこら中に刻まれている戦闘痕が誰の戦闘で作られた物なのか、後から来た私たちにはわからない。時間をかけて分析すればある程度は絞り込めるだろうが、そんな時間はない。

 周囲地形に残っている損傷部位の大きさから判断しようとするが、魔力の強化があるため大きさは比較にならないが、非常に荒れて激しい戦闘が行われていたであろう痕を追うことにした。

 木々に残る抉り取るような打撃痕は、木をへし折るほどだ。戦っている人物たちが、鬼のように強靭な力を持っている事を示唆している。

「霊夢、向こうに行ってみよう!」

 彼女を呼び、行きたい方向に視線を向けてみると、二つ返事でわかったと指定した方向に走り出す。人間離れした勘の良さを持つ霊夢が渋らなかったため、到着するのにはいい傾向だ。

 霊夢に続いて私も同じ方向に走り出し、打撃痕が数多く残される木々の間を走り抜ける。地面には攻撃を放つのに踏ん張った靴の踏み均した跡があり、その上には攻撃で破壊された大量の木くずが散乱している。

 木くずで足場が悪いのでコケてしまわぬように十分に注意して進んでいると、木の側面に何かが刺さっている。鋼色の棒状物はナイフというのには細すぎ、刀というのには短すぎる。

 走りながら二十センチほど木の幹から飛び出ている針を掴み、乱暴に引き抜くと見慣れた武器であった。妖怪退治用の針だ。無理やり引き抜いたせいで刺さっていた部分が不自然に曲がっているが間違いはなさそうだ。

 霊夢が持っている妖怪退治用の針と形状はほとんど同じであるが、形状に対して説明しがたい違和感がある。それに、この戦いが始まってから霊夢はこの方面で針を使っていない。異次元霊夢が華扇に投げたものだと推測できる。

「こっちであってそうだ」

 隣を走る霊夢に曲がった針を見せ、側に投げ捨てた。かなり激しく戦闘を行っているようだが、間に合うだろうか。息が切れていても走る脚に力が籠った。

「…段々と戦いの後が激しくなってる。華扇の居る場所は近いかもしれないわね」

「ああ」

 ここからは用心しなければならなさそうだ。すでに戦闘が終わり、隠れてこちらを奇襲しようとしている可能性も捨てきれない。

 彼女たちが通過した後で、経路上の木はほとんど打撃の餌食となっている。無事な樹木の方が珍しい。これだけ激しい戦いを繰り広げていれば、かなり負傷しているだろう。

 戦闘痕を目で追いながら走っていると、担いでいる刀や隠し持っている銀ナイフが僅かな魔力を放出した。魔力には静電気のような電流の性質が含まれており、パチンと放電の衝撃を肌に受けた。

 攻撃と勘違いしそうになるが、彼女たちが自分たちに気が付いてほしいと主張しているのだ。こんな時に何だろうか。

『なぜ、妹様たちと共に戦わなかったのですか?』

 この声は咲夜だ。魔力を介して私に話しかけてきている。刀からも静電気が発せられたため、妖夢も同じ案件で会話を持ち込もうとしているのだろう。戦いが始まる前はその予定であったが、予定は変わってしまっている。

「……」

 どう返答しようか迷っていると、私の返事を待っている咲夜の雰囲気が険しい物になっていくのを感じる。妖夢の時のように、無理やり体を支配されてしまったら、いつ返してもらえるのかわからない。早めに訳を話すとしよう。

「はっきり言おう、私たちでは…あいつらにはもう勝てない」

 アイデアを出し切ったのもあるかもしれないが、こちらの手の内を知られているため、数的優勢であったしても足手まといになりかねない。

『……』

 今度は咲夜が黙った。いや、黙っているのかそれとも、その理由を待っているのだろうか。今度は妖夢の魔力が荒くなっていく、強行手段に出られる前に、再度口を開いた。

「お前らの復讐したい気持ちはわかる」

『何がわかるっていうのですか?』

 厳しく、鋭い指摘だ。冷たい言い方から、双方とも私を操ってでも異次元咲夜と異次元妖夢の元に私を連れていきそうな勢いだ。

「こうして一緒に行動してはいるが、ずっと忘れ続けられてる。お前らと同じ、死んだも同然の存在だからだ」

『………』

「お前たちの連中に対する怒りはわかる。でも、ここはあいつらに譲らないか?」

 私がフランドールや美鈴にあの場を任せた一番の理由は、あそこに首を突っ込まない方がいいと思ったからだ。

 咲夜の脳裏に、美鈴やパチュリーたちの顔が浮かんだことだろう。レミリアが殺された恨みは皆同じである。それに、彼女達からすれば咲夜も失っているため、復讐を果たしたい欲求は非常に高い物だろう。

 異次元妖夢は幽々子に始まり、妖夢、チルノ達を殺した。数多くの者を殺したことで異次元妖夢に用がある人間多いはず。紫は確実だろうが、あの地獄を目の前でみせられた大妖精には荷が重いかもしれないが。

「…」

 復讐か。果たしたい気持ちはわかるが、じっくりと考えるととんでもないことをしようとしていると実感する。

 復讐は何も生まないっていうのはよく聞く話だ。確かに、虚しさと悲しさしか生まないだろう。でもそれは、失ったことのない人物が蚊帳の外から言っている言葉か、もしくは復讐を後悔した人間だけの話が広まったんだと私は思う。

 復讐を成功させた人間は、後悔しようが後悔しまいが復讐劇を誰かに話すことはしないだろう。なぜなら、それが悪い事と知っているからだ。理性が働き、本能のままに、復讐心のままにやりきれなかった人間は少なからず葛藤を抱える。

 復讐をやり遂げて人間の道から踏み外すか、人間性を貫いて非道な人間を野放しにする罪悪感と戦っていくか。その考えなければならない苦悩を超え、果たした人間は、自分は復讐を果たしてやったと豪語することはないはずだ。

 復讐を果たした瞬間にはどういった感情が沸き上がり、自分はどう感じたか。苦難を乗り越えた人間なら、いいようには言わないだろう。

 もし、復讐を果たした人間がそこまで深く考えておらず、自分はやったんだと高らかに話していたとしてもそれには聞き手がおり、けっして良いようには伝わらない。だから復讐はよくない物だと伝わっているのだろう。

 本当かどうかもわからない持論が展開されているが、だからと言って復讐が正当化される理由にはならない。悪は悪だ。

「復讐は、何も生むことはない。だとしても大事な人を奪われたことを自覚し、踏み出すための要因かその一歩になると私は思う」

 復讐はいい事ではない、悪い事だ。そんなことはわかり切っているが、綺麗ごとだけでは世界は回らない。全体の世界という言い方は少々大げさすぎたかもしれないが、失った者が感じている世界は、少なくとも回っていない。

 自分を深く攻めることだろう。苛立ちが募るだろう。腸が煮えくり返る思いだろう。倫理観が自分を引き留めるだろう。化け物を殺すのに、自分が化け物になってしまわぬよう理性が働くだろう。復讐するか否かはここでの理性と復讐心の割合と、覚悟の度合いで決まってくる。

 やり切る自信がなければ、復讐劇の舞台を降りることになる。それもそれでいいだろう。しかし、大切な人間を失った者からすれば、恐らくは進んでも立ち止まってものちに控えるのは地獄の後悔だけだ。

 やり切れずに挫折した場合も、やり切った場合も、あの時こうすればよかったのでは、ああすればよかったのでは、と腐るほどある時間は自問自答を膨れ上がらせることだろう。

 分岐点から後悔の度合いを測ることはできない。どちらに進んでもどちらにも後悔がある。ただ、その後悔が選んだ選択肢とは逆の選択肢よりはマシだと考えられるか。そこだけだ。

「……」

 魔力の使えない普通の人間、特に外の人間であればこの説得では絶対にうなづくことは絶対に無いだろう。誰かが食い殺されることが日常的なこの世界では、外よりも倫理観が薄い。だから、こんな穴だらけの酷い暴論でも丸め込める。

 やってしまった後悔を、我々三人は等に通り過ぎてしまっているというのも、彼女たちを説得できる理由の一つでもある。

 奴らを殺した時、後悔自体があったかわからない。先ほど述べた様に、倫理観が少し薄い世界だが、戦争によってその価値がさらに低下している。それはここだけの話ではない。

 異次元サイドだけでなく、こちらサイドにまでそれは蔓延しているが、だから問題がないかと言うと、そうでもない。これは一過性の物だからだ。戦争が終われば、また倫理の価値は元に戻っていくだろう。

 以前とは異なるとしても日常が戻った時、そこで何を思うのか私にはわからない。終わった後の事を全て当人たちにぶん投げてしまっているが、その後で潰れてしまう程に弱い人物達だとも思っていない。

 私が一番恐れているのは、こちらサイドの人間が異次元霊夢らのようになってしまうことだ。復讐できなかった後腐れで、どこにもいやしない襲撃者を探す盲目の流離人になりかねない。彼女たちも、それを恐れている。

 自分の復讐心を優先してしまい、今を生きる者たちの将来を復讐で染め上げるのは忍びないのだろう。二人はそれ以上反論してくることはなかった。

「明日を生きるために、死んでるのと変わらない私たちは、そのための道を作ろうじゃないか」

 無言は、了解を示しているのだろう。それでも無理に向かおうとするのであれば、どうしようかと思ったが、ほっとした。

 だが、彼女たちには申し訳ない。適当なことを話で無理やり丸め込み、自分たちの復讐を諦めて私の復讐に付き合えと言っているのだから。

「……」

 だとしても、二人に言った私たちでは勝てない事実だけは変わりない。私も、妖夢も、咲夜も、一度は異次元の彼女らに勝利したが、それは私を暴走させるための過程で仕方なくであり、私たちの実力で死んだわけではなかった。異次元妖夢と異次元咲夜に、何度も敗北している私たちでは、勝利をもぎ取ることは不可能だ。

 これについてはどれだけ頑張ろうが、どれだけ知恵を絞ろうが、覆ることは無いだろう。なぜなら、フランドール達以上に過去に囚われているからだ。彼女たちは生きているようで生きていない。そんな曖昧な存在だ。

 彼女らには未来はなく、過去のためにしか戦えない。ほかの皆は過去があっての未来のために戦っている。そこが大きな違いだろう。

 自分が復讐したい相手と戦うのは過去のためにしかならない。であるため自分のためではなく他の者のために、異次元霊夢と戦うことで未来を切り開くと思考を切り替えなえれば、勝利することはできないだろう。

『わかりました』

 咲夜のうなづく声がする。うなづきたくなさそうであるが、残された者と自分の欲求を天秤にかけた結果、美鈴やパチュリーを選んだようだ。

 妖夢も何も言ってこないのは、咲夜が復讐を捨てたから自分もといった風に、流れに合わせて渋々そうしたわけではないのだろう。彼女の考えた末にだ。

 妖夢は、咲夜と違って守るべき残された人はいない。その剣士が復讐を諦められたのは、ある意味で咲夜と違う物を持っていたからだ。

 レミリアの身の回りを担っている昨夜とは違い、妖夢は白玉桜から出る頻度は非常に高い。庭師であったり、剣術関係で知り合いは多いだろう。その分だけ交友関係が厚く、幅広く、今回の異変に関係している者が多いはずだ。その人間達と、切れない縁があった。

「2人とも、すまないな」

『……大丈夫です。それよりも、元凶を早く倒してしまいましょう。でないと異変は終わりませんから』

 こんなズルいやり方しかできなくて申し訳ない。2人は意思を曲げてまで異次元霊夢と戦いに行くことを決めてくれた。だから私も、確実に奴を倒さなければならない。

 

 

 木々が密集するこの山の中。人間であれば、これほどまでに素早く走り回ることは難しいだろう。運動能力が高いとしても、全く迷いのない行動はまるで流水だ。

 いくら素早く動けたところで、その速度は魔力強化されていたとしても人間に毛が生えた域を出ない。天狗が空を疾走する速さから比べればどうってこともなく追えている。

 身体強化を施したまま、前方を走る目標に向けて跳躍した。地面の耐久度が低く、踏みしめただけで亀裂が入り、湿った地中の土が後方にばらまかれた。

 十数メートル離れていたが、空気を切るスピードでは一瞬で間合いを詰められる。通過の余波で草花が強風に煽られていくところからも早さがわかる。

 移動する目標に向けて偏差的な跳躍だったため、走る女性が木の陰に隠れてしまうがそれごと攻撃を叩き込んでやる。本来は人を殴ることを目的に作られていない日用品だが、魔力強化することで、樹木を叩き壊すほどに耐久性能が高まった。

 雨や日差しだけでなく、高出力の弾幕すらも遮断する傘であるが、魔力強化で樹木の粉砕すらも容易となる。私の追っている巫女が木の陰に隠れるが、それごとまとめて薙ぎ払った。

 木の繊維をまとめて引き千切り、木片として前方にぶちまけた。攻撃の衝撃は幹の一部を吹き飛ばした程度ではとどまらず、地面に埋まっていない上部が木片と一緒に薙ぎ倒れた。

 木が吹き飛ばされていく最中に、異次元霊夢の姿が見当たらない。位置関係的に、傘が当たってもおかしくはない軌道だったが、木以外の手ごたえがない。

 飛び散る木片に紛れて後方に逃げられているかと思ったが、一緒に戦っている仙人以外の気配が感じられない。見回そうとした時、上空から気配が迫り出す。

 傘を空に向けて展開する時間はなく、体をできるだけ隠せる形で防御の姿勢を取った。防御にはぎりぎりで間に合い、構えるとほぼ同時に年季の入ったお祓い棒を薙ぎ払われると、腕から足の指先まで衝撃が駆け抜け、痺れに襲われる。

 博麗の巫女とはいえ、人間の、それも女性の攻撃とは思えない程に重たい打撃だ。こんなに狂った世界なのに、巫女が巫女としての力を誇示している事に歯噛みする。

 攻撃と同時に下方にすり抜けられた。目では追えているため追撃に移りたいが、打撃で手が痺れて数舜だけ異次元霊夢に後れを取ってしまう。二度目の防御で下げようとした得物の合間を縫って、奴のお祓い棒が蛇のように私の頭部を捉えた。

 側頭部を薙ぎ払う異次元霊夢の攻撃に、強化して防御力を底上げしているはずの肉体に電流の如く衝撃が駆け抜ける。

 その威力たるや、鬼の拳に匹敵する。いや、それ以上なのは間違いない。肉体的な耐久性や筋力は人間以上妖怪未満であるはずだが、博麗の巫女という肩書の存在は大きいらしい。天性の勘の鋭さはどこを攻撃すれば、効率よくダメージを与えられるかわかっている。

 斜め上からの攻撃で、反応が遅れていれば頭部が地面と衝突していただろう。ダメージでバランスを崩したのを利用し、異次元霊夢から私は距離を離した。

 地面を前転するように転がり、立ち上がりながら体勢を整える。一回だけ転がる程度で巫女から受けた攻撃を受け流し切れなかったようで、手や傘で摩擦を働かせてようやく体を停止させた。

 顎先の脳を揺らされやすい部分を殴られたわけではないのに、衝撃で頭がくらくらする。攻撃が体内の奥にまで到達している事で、脳に多少なりのダメージが入っているらしい。異次元霊夢に向きなおったのはいいが、少しの間だが自分から動き出すことができない。

 その私に向けて巫女が突っ込んでくるが、補助に回っていた仙人が走り出したばかりの巫女の前に立ちふさがり、前かがみに走っていた異次元霊夢へ拳を繰り出した。

 握り締められた包帯の拳は攻撃力に乏しそうな見た目をしているが、鬼に匹敵する破壊力を備えており、博麗の巫女だとしても大きなダメージを与えられるだろう。しかし、世の中そんなに甘くはない。どれだけ威力の高い大砲を持っていたとしても、それが当たらなければ何の意味もないということだ。

 私が考えている事の答え合わせだろうか。人間を一撃で肉塊にできる拳を、異次元霊夢は下に潜り込むことですり抜けた。腕が伸び切っていはいないが、素早い動きだったことで腕を伸ばしたとしても、巫女の髪の毛一本すらも捉えることはできないだろう。

 下に潜り込んだ異次元霊夢は、お祓い棒を下から振り上げて華扇の腕を打ち上げた。バランスを崩させ、追撃するつもりなのだろう。お祓い棒が仙人に叩き込まれる前に、こちらも動き出そうとするが、眼前と十数歩先では明らかに巫女の攻撃が放たれる方が速い。

 淡青色の魔力が包帯の腕から弾け、魔力として役目を終えた結晶が輝いた。包帯が解けていき、あれでは防御することはできないはずだ。左手で防御すればいいだけだが、お祓い棒を振り上げる際に針を華扇に投擲していたようで、それも防御を遅らせる要因となっている。

 巫女が一歩前に踏み出し、お祓い棒を振りかぶる。華扇から見て右側から薙ぎ払おうとしているのは、仙人を確実に仕留めようとしている表れだろう。

 能力で花を操って壁を作ったり、異次元霊夢を縛り上げるのには時間が足りなさすぎる。かと言って跳躍したとしても間に合わない。最速の弾幕を放ったとしても、到達するころには華扇が地面に伏せている。

 無駄な足搔きだと分かっているが、傘に送った魔力をレーザーに変換し、華扇の頭部を横からすり抜ける形で弾幕を放った。走るよりはずっと早い弾幕だが、それが数メートルも進む前に巫女の攻撃が仙人の頭部に叩き込まれた。

 私の時と同様に横から薙ぎ払われたお祓い棒は、華扇の側頭部に鋭く打ち付けられた。人間であれば痛みを感じる前に、意識を絶たれている事だろう。殴られたインパクトの瞬間に、波として肌を伝わっていく様子がこちらからでも見て取れる。

 頭部が異常なほど歪み、粘土のように体の内側へ皮膚が潜り込んでいくのは、出来立ての形を変えやすい餅が曲げたり捩じったりされていくのを連想する。仙人の体が何か柔らかい物に置き換わったように見える。例えば、布だとか。

 華扇の仙術発動し、異次元霊夢が殴って歪んでいる部分から華扇の体が包帯に変化し、それが全身へと広がっていく。肉体であった部分までもが包帯に変わっていく様は違和感がなく、表現できる言葉は圧巻としか言えない。

 手ごたえがなく、当たることが前提で振られていたお祓い棒が華扇だった包帯を薙ぎ払うと、発生した乱流に巻き込まれて集めるのが大変そうなぐらいに大きく広がった。

「またぁ…面倒ねぇ」

 異次元霊夢はそう呟きながら、私の放ったレーザーを十数センチ横にずれるだけでかわしてしまう。

 奴でなくてもそう言うだろう。素人の目で見たとしても大量の何重にも重なって浮かぶ包帯は、異様な軌道を取って巫女を取り囲んで浮いている。刀を使わない相手であれば、有効な方法だろう。魔力強化されているはずで、打撃で千切れることはなく、針で貫かれたとしても小さな穴が開くだけで大したダメージには成り得ない。

 仙術で包帯としているが、布と言えど華扇の一部だ。異次元霊夢を囲んでしまったため、走りながら弾幕を奴に放つわけにはいかない。走るためではなく飛ぶために地面を踏みしめ、異次元霊夢に向かった勢いのままに跳躍した。

 異次元霊夢を中心に、縦に半円を描いて飛んでいく。位置が高くなったことで、華扇に当たらず、異次元霊夢だけを撃ち抜ける高さに到達すると同時に傘に込めていた魔力を、弾幕として撃ち出した。

 いつもの広範囲を薙ぎ払うレーザーでは、華扇ごと吹き飛ばしてしまうためレーザーの魔力を分割して、小刻みに弾丸の弾幕としてぶっ放した。

 誰かと共闘するなど、今までにやったことが無い。何かを気にしながらの戦闘ではいつもの実力は出せないだろう。それで敗北するなど、言語道断だ。仙人には悪いが、当たったら運が悪かったと思え。

 地上から放つよりは華扇に当たる確率はグッと低くなる。そこを考慮しただけでもほめて欲しいぐらいだ。大量の魔力を込め、破壊力抜群の弾幕を数回に分けて異次元霊夢へと放った。

 人間の頭と同じサイズの弾幕が傘の石突きから放たれた。天狗でも撃ち落とせそうな速度で降下する弾幕は五つだが、そのうち一発は巫女に当たらない軌道を突き進んでいる。

 一発目は異次元霊夢の顔面に直撃コースだったが、体を軽く横に傾けられただけで避けられてしまった。異次元霊夢の後方では弾幕含まれた魔力が炸裂し、地面に大穴を穿った。

 土や石が飛び散り、掘削機で掘り起こされたような大穴が形成される。小型の爆弾が地中で爆発したと言っても過言ではない威力だ。

 二発目は傾けた体にギリギリ重なる位置を進んでいたが、お祓い棒に弾き飛ばされ、あらぬ方向へと飛んでいく。一発目であれだけの威力のある弾幕だということを知っても尚、精密さを要求される受け流しを行うとは、腐っても博麗の巫女だ。

 弾幕には何かに接触したら含まれている魔力が解放されるようになっているが、お祓い棒に弾幕がヒットする瞬間に、その周囲の魔力を私の波長に近づけて魔力を配置することで、弾幕を何にも接触していないと誤認させるのだ。

 配置した魔力が脆過ぎるとお祓い棒に接触してしまえば弾幕は爆ぜてしまうし、逆にお祓い棒を取り囲む魔力が硬すぎても弾幕が崩壊して爆ぜてしまう。角度等にも気を使った簡単そうでできない事をあっさりとやってのけた。奴を倒すという目的が、曇りがかってきた気がするが、そんなものはどうでもいい。倒すことだけを考える。

 三発目は元から当たる軌道ではなく、地面に大穴を開けるだけで終わってしまう。次いで四発目と五発目がほぼ同時に到達するが、面倒だと判断したらしい。お祓い棒で受け止めることなく横に大きく飛びのいた。

 取り囲む華扇の包帯を超えていく勢いだったが、異次元霊夢の動きに合わせて包帯が一定の距離を離したままついていく。

 異次元霊夢が動いたことで、五発目の弾幕が巫女についていく包帯に当たりそうになるが、華扇の仙術がかかっている包帯はヒラリと弾幕を避けた。

 私が更なる弾幕の攻撃をしてくることを見越してか、巫女は百八十度振り返ると妖怪退治用の針を投擲してくる。

 この程度の攻撃なら傘を展開し、弾くのが楽だ。傘を開いて受け止める体勢になっていく視線の奥では、異次元霊夢の更に後方で包帯が集まっていく。

 気取られぬように、異次元霊夢の視界内に包帯を一部残したまま、集まった包帯から華扇が形成されていく。どういう原理で仙術が働いているのかはわからないが、包帯が束ねられていくごとに肉体が形成され、片腕のない華扇が形成される。

 現在広げられている包帯は戦術で見せられている物では無く、華扇の右腕の付け根から延びる包帯らしい。左手を握り込むと、今だに背を向けている異次元霊夢に向けて振りかぶった。

 あのままでは彼女の気配を感じ取った異次元霊夢に、打ち払われてしまうことだろう。博麗の巫女に同じ戦術は通用しないことは既にわかっている。巫女に決定打を与えられていない現状では、確実にこれを成功させなければジリ貧になっていくのは必須。通意をこちらに向けなければ。

 針を受け止めると同時に払い除け、地面から能力で伸ばしていた花の蔓を踏みしめた。花を足場にし、異次元霊夢の方向へ跳躍した。地面から飛んだ時とは別方向へ飛ぶとしても、無理な範囲ではない。

 即座に傘を薙ぎ払える体勢へと移行し、私の方向を向いている異次元霊夢の注意を強制的に集中させ、それに加えて華扇の殺気が紛れる様に、私も最大限に異次元霊夢へと殺気を向けた。

 これだけお膳立てが揃えば、モロに食らうことはなくても、多少のダメージが入ることが期待できた。視線で悟られぬよう、異次元霊夢だけを睨んだまま傘を構えて突っ込んだ。

 華扇の打撃による衝撃が伝わったように見えたが、巫女は体を大きくかがませると、後方から殴り掛かっていた仙人の懐に潜り込んだ。当てた後のことなど全く考えていない攻撃、それの内側に入り込まれた華扇の表情が苦悶に変わったと思うと、こちらに吹き飛ばされてきた。

 何をしたかわからない早業で、華扇も接近していた私も反応が遅れてしまった。空中で衝突し、お互いにもみくちゃになりながら地面に落下する。私は異次元霊夢の方へ仙人はその反対側に入れ替わりで転がり込んだ。

 すぐ後方には異次元霊夢がいる。早く立ち上がらなければ。多少のラグはあったが、すぐさま上体を持ち上げようとした矢先、肩にじんわりと熱が広がった。

 熱湯や火で炙られているようなのとは違い、カイロや湯たんぽなどで温めるのに似ているが、熱の広がり方が尋常ではないぐらいに早い。

 自分が針で刺されている事に気が付くまでに、一秒もかかってしまった。刺された左肩に目を向けると、針が紙を巻き込んで私に縫い付けられている。白い紙が血で赤く染まっていくが、それは紛れもない博麗の札だ。

 引き抜こうと伸ばした右手を異次元霊夢に踏みつけられた。左手で引き抜こうとするが、骨格上不可能だ。奴は私と同様に、立ち上がってこちらに向かって来ようとしている華扇に攻撃を開始する。

 左手を形成するのに包帯を巻き取ろうとしているが、この攻防で形成されるのにはその速度は遅すぎる。

 走り出そうとした膝に針が半分以上も突き刺さり、強制的に華扇は動きを制止させられる。足から力が抜け、がくんと倒れ込みそうになりながらも、右手の平に球体状の弾幕を作りだすが、鋼の針に貫かれて形状が崩壊していってしまう。

 右手から大量の結晶がキラキラと零れ落ち、風に乗って霧散する。それでも突き進もうとする気迫があったのか、異次元霊夢は左手に二本の針を取り出すと、投擲を二度行った。一本は華扇の胸に、もう一本は左腕の包帯とつながる根元に突き刺した。

 胸の方には札は施されていないが、左腕には私の肩と同じく、数枚の札が括り付けられている。重なる針の攻撃により、華扇の前進する動きが完全に停止した。

 華扇が自分に突き刺さった針に、札が付けられている事を認識するよりも前に、異次元霊夢が飛びのいた。爆発が来る、早く針を引き抜かなければならないのだが、針に返しの構造が付いているのか、つっかえて引き抜けない。

 札だけでも引き裂いて爆発の効果をなくしてやろうとするが、行動するよりも声を発するだけの異次元霊夢の方が速い。

「爆」

 針を握っていた手を札に移すよりも前に札から魔力の炎が噴き出し、人間を一人包み込むとしたら過剰なほどに膨れ上がった。

 衝撃と熱に体を撃ち抜かれた。針を刺された方の肩から腕が千切れたとしてもおかしくなく、剥き出しになった肉を魔力の炎に焼かれた。

 それだけの威力があるのに、私や華扇が爆発の衝撃で吹き飛ばされなかったのは、札の付いていた角度や放出された魔力の向きによってだろう。

 強烈な爆発で、全身をズタボロにさせられた私と華扇は地面に伏せるのを余儀なくされる。通常であればこの程度の攻撃で倒れるなどはあり得ないのだが、私も華扇もダメージを重ね過ぎている。

 こんなに腕や脚が重く感じるのは、生まれて初めてかもしれない。負傷からくるダメージと疲労が溜まり、根っこが足から生えて地面に体を固定されているようだ。

「くっ……っ………!!」

 諦められたら楽だろうが、奴らへの復讐心がそれを許さない。思い出せ、弱音なんて吐いている暇はない。奴を、異次元霊夢を潰さなきゃならない。怒りが疲労やダメージを凌駕し、地面の湿った土を巻き込んで手を握って立ち上がる。

 華扇も同じだ。負けられない、倒れていられない。得物を携え、口角を上げて笑っている異次元霊夢に向きなおった。爆発で肉が一部持っていかれたのか、肩口から垂れて来た血が指先から滴っていく。

 動かすごとに肩から激痛が走るが、お構いなしに得物の柄を握りしめた。敗色が濃厚だとしても、我々は戦うことはやめられない。

 我々が奴を倒すための踏み台でもいい。最後に凱旋を掲げるのは、私たちだ。

 能力を最大限に駆使してあらゆる方向から花の蔓を延ばし、異次元霊夢にけしかけた。それに合わせ、異次元霊夢へ向けて走り出した。

 




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