東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
という方のみ第百六十七話をお楽しみください!!


東方繋華傷 第百六十七話 落魄する神

 風が吹き抜けていく。周囲で血みどろの戦闘が行われていることで、木や生物の焼ける焦げ臭い匂いが鼻につく。河童が使う道具でプラスチック製の物があるのか、それが燃える異臭も交じる。

「傷を負い、動きが悪いですね。攻撃も少し雑で、能力を使うまでもなく避けられますよ。それに、立ち回りからも戦闘に不慣れなのが見て分かります」

 息を切らして巫女と戦う私に、奴は冷静に状況を分析して語り出す。殺し合いをしている相手からそんなことを言われれば腹も立つが、概ね間違っていない事実に余計苛立ちを隠せない。

 目や表情、話し方は狂人のそれで、理性など残っていなさそうだが、能力のおかげで攻撃を受けることはほぼ無い。だからこそ敵をよく見ているのだろう。

「それでよくここに来ようと思いましたね?どう死ぬことがお望みですか?巫女のように死にたいですか?加奈子のように死にたいですか?」

 怒りをむき出しにする私に対し、滑稽だと異次元早苗は高笑いして怒りを更に誘ってくる。駄目だと分かっていても、体の奥底で滾る憤怒を押さえきれない。

 緊張と怒りで血圧が上がってきているのか、巻かれている包帯に薄っすらと血が滲んでいる。この仇が目の前にいる状況で、思い通りに体を動かすことができないのは、非常に鬱陶しい。

 できうる限り魔力で治癒したつもりではあるが、神の肩書があったとしても数日でこれが限界とは情けない。いや、むしろ神でなければこうして異次元早苗の前に立つことさえできなかっただろう。

「……。人の心配よりも、自分の心配したらどう?」

 奴が言う通り、戦闘にはロクに参加したこともない。殆ど早苗に任せていた為、まともに戦えるかどうかわからない。だとしても、相手に弱みは見せられない。

 薄っすら血がにじむ腹部を押さえたまま、膝をついてしゃがんでいた体を持ち上げた。腕や脚、首元など肌が露出している部分に青紫色の痣が見える。数度の攻防で一方的に私だけがダメージを負ってしまった。

 今更ながら、先ほど分かれた霊夢と魔女に戦いに参加してもらえばよかったと思うが、彼女たちにはもっと大きな役割がある。ここはやはり自分で戦いきらなければならないだろう。

「っ……」

 今は大したことは無いが、あまり大きく動きすぎれば傷口は広がり、今度こそ出血多量で死に至ることだろう。異次元早苗との決戦は、できれば短期戦が望ましいが、それはおそらく無理だ。

 私が重傷を負い、加奈子が殺された時に、異次元早苗の能力がおかしいことには気づいていた。それが何かは数度の攻防で確定したが、想定しているよりも面倒な能力で、攻めきれずにいた。

 以前に受けた傷を庇いながら異次元早苗を睨みつける。かすり傷一つも負っておらず、常に張り付いている余裕の笑みが腹立たしい。しかし、その笑みが加奈子を死亡に至らしめた時と、若干の差異があった。

 余裕であるのには変わりないが、自分の能力を持ってしても、数度の攻防で私を殺し切れなかったところに笑みの歪さがあるように感じる。

 魔力による術も弾幕も、物理的な拳も、彼女を中心に半径三十センチの中では、無に至る。それだけ完璧なガードがあれば、他の世界で戦闘を起こしたとしても、戦いにすらならなかっただろう。

 奴ほどとはいかなくとも、私も能力を防御に回せば鉄壁を誇ってもいいぐらいには攻撃を通さない。だからこそ、蹂躙して一方的に殺すことは得意でも、長引く戦闘に慣れていない異次元早苗は動揺しているのだ。

 動揺しているのは私にとって追い風となる良い情報だが、それと同時に短期で決着を付けなければならない証拠でもある。いくら他の連中と違って、戦闘に慣れていない異次元早苗でも、戦いに慣れて状況に応じることができるようになるだろう。

 奴が殺しではなく戦闘に慣れる前に、そして、私が出血多量で死ぬ前に、二つの理由で決着を早々に付けなければならない。どちらかを選ぶのではなく、前者も後者も満たさなければ、私の復讐は果たせない。

 地獄のような、呆れるぐらい絶望的な状況だ。絶望に打ちひしがれる気すら起きず、笑いが込み上げてきてしまう。だが、この程度の絶望は、彼女たちを失った時を思い出せば屁でもない。

 どの道、この命は長くはない。全力で戦い、私はただ奴よりも一秒でも長く生きていればいい。それだけだ。

 早苗、加奈子。あなたたちが残った私にどうしてほしいのかはわからない。が、最後に願うなら、復讐するしかできない馬鹿な私を見守っていて欲しい。

 生きた私は、死んだ彼女たちを感じることはできない。魂と言う概念が本当に存在するのであれば、それに届くように、確りと胸の内に思いを刻み込んだ。

「すぅ………。はぁ……」

 深呼吸で高鳴る心拍を押さえ、緊張感を緩和する。全身を脱力し、強張った筋肉を柔軟に動かせるように解し、準備を整えた。異次元早苗も、その行動から来ることを予想し、大きく重心を下げた。

 さっき言った通り、動ける時間はそう長くはない。この際だから、能力の出し惜しみは無しだ。大量の魔力を使用し、周囲の大地を隆起させた。

 操られた地面が割れて盛り上がり、外に露出していた乾いた土と内側の湿った土が、境界が無くなる程に混ざり込み、津波のように異次元早苗へ襲い掛かる。

 波の速さは異次元早苗らが見せる、普段の動きからしたら遅い。当たるまでもないはずだが、緩慢な動きで腰を落とし、こちらに向けて跳躍しようとする。動きの遅さで波に巻き込まれはしたが、例の如く干渉され、奴の能力範囲内に飛び込んだそばから、土を操っていた能力の魔力が掻き消された。

 操り人形の糸を切ったのと同じで、私の支配下に置かれていた塗り固められた土は、異次元早苗の干渉を受けると無力化された。流動的に動いていた土の流れが止まり、亀裂が生じると瓦解してただの土へと戻される。

 跳躍しようとする異次元早苗の足元に、塊で剥がれ落ちた土が転がり、踝ぐらいまで土が盛り重なる。土で服や靴が汚れるのには目もくれず、巫女はこちらに向けて跳躍した。

 大量に積まれていた土を後方に吹き飛ばし、異次元早苗は魔力の作用を利用して十数メートル先にいる私に向け、宙を滑空しながら詰め寄った。

 奇怪な形で止まるただの土を乗り越え、まだ魔力の支配下にあった大量の土が異次元早苗がいた位置を飲み込むが、一歩も二歩も遅すぎる。半分神とはいえ、これが当たれば異次元早苗もあっという間にあの世に送り込めるが、あの厄介な能力のせいで捉えることが難しい。

 何もない異次元早苗がいた空間をすり潰し、土のミキサーにかけているが、能力を解除し支配されていた土から魔力が消えた途端に、液体のように動いていた土が一瞬で固まり、ただの土へと戻った。

 周囲の土に再度能力を使用し、お祓い棒を叩き込もうとした異次元早苗の進行方向上に土壁を形成した。分厚く、四十センチはある壁は、奴の強力な攻撃で穴が開くことはない。

 ただ、打撃を受けた衝撃は私がいる側にまで到達し、魔力で上手くまとめきれなかった小石や砂がパラパラと壁から落ちていく。

「これまでに様々な世界のあなたと戦ってきましたが!」

 異次元早苗は楽しそうに、高らかな口調で言うとそこで言葉を切り、壁にお祓い棒による連撃を加えた。鬼や天狗などの強力な妖怪が、壁を殴りつけているのと変わらない速度で魔力で強化された壁が破壊され、瓦解していく。

 異次元早苗にその攻撃力は無いだろうが、干渉する能力がかけ合わさり、脆くなった防御壁が壊れていくスピードは妖怪たちの比ではない。

 砂場の山のように、魔力の結合が面白いぐらいに剥がれていき、四度目で壁に亀裂を生じさせ、五度目で完全に破壊された。石や土が周囲に飛び散り、その合間を縫って異次元早苗が急接近してきた。

 狂人の顔が目の前に晒される。早苗にびっくりするぐらい似ている、憎たらしい仇は、嗤いながら言葉を紡ぐ。

「これだけの時間生き延びたのは、初めての事ですよ!」

 大ぶりで、横から薙ぎ払われるお祓い棒に対し、地面を隆起させて再度壁を構築する。魔力強化が間に合い、二十センチしか厚さは無いが受け止め切った。

 たった一撃で原型を残さないぐらいにまで壊され、土壁はこれ以上耐えることができないため、異次元早苗が再度お祓い棒を振るう前に、私は後方に大きく後退する。

「あなたの実力など、取るに足らないですが、褒めてあげましょう。実力をわかって二回も挑んでくるその度胸を」

 お前なんかに褒められたくはない。異次元早苗に返答することなく、飛びのいての後退を済ませ、着地と同時に地面に大量の魔力を流し込む。固有の能力で操られた地面が動き出し、地震のような揺れを生じさせる。

 手品を見に来た観客のように、次は何をするつもりだと興味ありげにこちらを見ている。失望はさせないさ、今度こそ殺しきってやる。

 大量の土が私の元に集まったことで、一気にこちらへと向かってくるのかと奴は思ったらしい。腰を落として身構えているが、集めた土は奴の方向には向かわず、操る本体である私を包み込む。

 血迷い、自分を自分で殺そうとしているのではなく、包んで太陽光を遮る土は、私に触れることなくドーム状の防壁を作り出した。

 一見すれば自分を守るための壁を作り出し、逃げた様に見えるかもしれないが、時間の経過で囲ったドームが大きくなっていくのが異次元早苗目線からはわかるだろう。

 自分の身長を盛り上がった土が大きく超え、見上げる程となる。諏訪子がもう少し早くスキマを潜っていれば、白い化け物を見たかもしれないが、それを優に超える大きさとなっていく。

 十メートルはあるだろう。山のように佇む巨躯は、巨人と言うのには無理がある。人型で身体を形成するのは、私には不可能だった。関節一つ一つで複雑な機構を組み込まなければならなかったため、魔力的技術が足りていない。

 スライムのようにも、潰れた蛙のようにも見えるだろう。そういった形で魔力を使うことに慣れていない私は、こうしてデカい本体を作り出すことしかできない。

 それでも、生身を晒して異次元早苗と戦うよりはましだろう。これ以上お祓い棒でぶん殴られれば、一撃だって耐えられる自信がない。

 大地をかき集めて作り上げた体に魔力を行きわたらせ、強化すると同時に魔力で性質を与えた疑似的な神経を介し、私が体をどう動かすのかの情報を送り込んだ。

 体の一部がせり上がり、触手のように長く伸びていく。私の手足に合わせて動き出すが、さすがに再現できるのは腕までで、手の機構は難しい。物を掴んだりなどと言った精密な動作には向かない。

 だが、元からそのような事をするわけではないため、大した問題ではない。笑いながらこちらを見上げてくる異次元早苗に対し、岩石や土、コケや草、その他の植物で形成された腕を薙ぎ払った。

 さながら鞭だ。魔力で縫い付け続けることができなかった土や植物、岩を点々と振り落としてしまいながら周囲の木々を砕き、余波で地面を捲り返す。笑い、避ける様子がなさそうだったが、事前に腰を落としていたらしい。上空に跳躍し、薙ぎ払われる腕と余波から逃げ延びた。

 空中に停滞しながら手をこちらに向けると、大量の弾幕を連射し始める。こちらに向けて放ってくる弾の数が多く、複数人から攻撃を受けているのと変わらない密度で弾幕が襲い掛かる。

 生身のまま戦っていたら、あれだけで体中のあらゆる部分を撃ち抜かれ、死んでいただろう。今はその心配は無い程に強固な壁で守られているが、逆を言えば避けることはできない。

 ただの人間なら数発と持ちこたえることはできないだろう。内部の魔力作用で、着弾した拳台の弾幕より一回り以上大きな穴が穿たれる。縦にも横にも深さも三十センチはある。

 外装が剥がされていくが、ここまで弾幕が到達するのは私の魔力が無くならない限り、無いだろう。体を形成する材料はそこら中にあるのだ、これが使えない状況など、この巨体を空中に吹き飛ばされた時ぐらいだろう。

 だが、いくら異次元早苗でも、体の一番奥底にいる私を、数百トン数千トンにも上るこの土でできた体ごと宙に浮き上がらせることは、現実的に考えてできない。それに加え、体の奥底であるためそこまで入り込むのも、奴にとっては一苦労どころの話ではないだろう。

 最後の戦いなのだ。そう簡単にやられるわけにはいかない。大量の弾幕を放っている異次元早苗は、外装を剥がしたそばから地面から土が回収され、修復されていくのを目の当たりにしただろう。

 埒が明かないことを察し、無駄に魔力を消費するのを止めたようだ。もう少し撃ってくれていれば、こちらの攻撃に対して反応が遅れ、当てられていただろうに。

 体の表面に棘状の起伏を大量に形成し、それを剝落させた。魔力の強化を先端の尖った部分に集中させたことで、根元が重量に耐えきれず折れたのだ。

 棘が落ちきる前に、折れた棘の根元に集中させておいた魔力を爆発させ、弾丸と同じ原理で大量の棘を周囲へまき散らした。

 淡青色の砲煙と共に、音速を超える速度で棘が射出され、耳を劈く発砲音と言うのには重々しい爆発音は、幻想郷中に轟くことだろう。

 大砲と言った方が近い。強力な爆発によりバスケットボール位はある弾丸は、一瞬にして周囲を更地に変える。木には大穴を開け、岩石を粉砕した。殺した死体を貪り、歓喜を上げていた妖怪は、原型を失って地面の染みとなる。

 だが、一瞬たりとも驕ることなどできはしない。そこらの雑魚妖怪を殺したところで、異次元早苗には届くことはない。

 空中に浮かぶ異次元早苗に当たった感じがしなかった。数発の棘は確かに捉えたと思ったが、直前で塞がれてしまう。魔力で強化された棘が、それよりも強固な壁に衝突したように砕け散ってしまった。

 奴の持っている能力が羨ましく感じるぐらい、便利な能力だ。攻撃は自分の戦闘能力に依存するが、防御に関しては完璧だ。胸元に残る古傷以外に、傷と言う傷が見られないのはこれのおかげか。

 これまでの戦闘で、干渉する程度の能力に物理的な干渉と魔力的な干渉があることはわかっている。魔力で操られた土の動きが違う。

 魔力的干渉が行われている時には、奴に向かった土は干渉領域に入った途端に私の制御から離れ、ただの土へと戻る。固められた土がバラバラになって異次元早苗の足元に転がる。

 物理的干渉の場合には、弾幕や魔力単体での攻撃をしておらず違いが判りずらいが、奴の干渉領域内に操った土が入り込むことはない。

 これだけ見て分かる通り、異次元早苗と私の能力は、非常に相性が悪い。周囲の物に魔力を通わせて殴り、叩き潰す私の戦闘スタイルではどちらの攻撃をしようが、奴にダメージを与えることはできない。

 物理干渉の時は弾幕を組み合わせれば、干渉領域を超えて攻撃できるのだが、問題は異次元早苗が自分の弱点を把握している事だろう。立ち回りから、物理干渉時に魔力弾幕を受けないように、魔力干渉時に物理攻撃を受けないようにしている。

 気を付けている分だけ厄介だ。このまま避けられ続け、戦闘が長期化するのは私が不利となる。高さが十数メートルにもなる巨体を維持するのには、膨大な量の魔力を常に巡らせていなければならない。長引けば、魔力が枯渇して戦闘が行えなくなる。

 魔力と物理の攻撃を両立するとなると、私が想定しているよりもこれを維持できる時間は残されていなさそうだ。

 殺されかけてからの数日は、傷の治癒に魔力を回していたが、修復は魔力を注ぎ込めば注ぎ込むほどに早くなるわけではなく、ある一定の水準まで行くと修復速度は横ばいとなる。

 一番効率が良いところを維持していた為に魔力が一部余り、それを貯蔵しておいて魔力を引き出しながら戦っているが、貯蔵分の三分の一をもう使ってしまっている。初期費用が大きくかかるのは仕方が無いが、これでは十分も戦えないだろう。

 奴をどう出し抜けるか。プランはあってもそれを実行に移すのが難しい。奴に反撃させる暇を与えず、撃ち出した分の土を回収しながら、周囲の土に魔力を分布させる。

 人間一人ぐらいならば握り込めるであろう大きさの拳をいくつも作りだし、空中を滑空してこちらに向かって来ようとする異次元早苗へとパンチを伸ばす。

 拳の周りから土を盛り込み、腕と言える部分を作り拳を放っているように持ち上げた。拳は最低限強化しているが、奴に当たることは期待していない。

 干渉領域に到達と同時に複数の拳が打ち負けて砕け散る。形状が崩れるのではなく、砕けた所から現在は物理干渉が働いているようだ。私の魔力はまだ健在で、砕かれた土に含まれている魔力は生きている。拳の強化以外に爆発の性質を含ませていた為、それをプログラム通りに爆発させた。

 淡青色の眩い光が放たれると、一歩遅れて炎が四方に広がり、異次元早苗が巻き込まれる。熱の性質を与え、数百度には温度が達すると思われた。肺を焼くでも、皮膚を焦がすでも何でもいい。何かしらのダメージを期待したいところだ。

 魔力で形成されて揺れめく青い炎が引くよりも早く、炎上に干渉して掻き分け、直径が十メートルにもなる火球の中から異次元早苗が無傷で出現する。肌どころか服にすら焦げ跡が付いていない。人間味のない可愛くない奴だ。

 河童が使う爆弾とは違い、魔力での爆発など所詮はまがい物だ。光と爆発の衝撃、炎が同時に拡散するわけではない。爆発の前に発せられた光で気が付かれてしまったのだろう。

 順番に攻撃するのではだめだ。同時でなければ。舌打ちを零しながら、次の一手を開始する。魔力で無理やり形を維持し続け、蛙の舌のように伸びる触手を異次元早苗へと引き延ばす。

 絡めとり、物理干渉を解けない状況で爆発を食らわせてやろうとするが、異次元早苗の素早い動きをとらえきることは出来ない。すり抜けられ、魔力干渉とお祓い棒の一撃により、半ばからへし折られた。

 折れた部分から先は魔力の制御下にあらず、地面に向かって落ちていき、数トンはくだらない土が地面にまき散らされた。精密な動きができない分、実際の手足ではないため、切られた場所から再度異次元早苗を追い回せばいい。そこは利点と言える。

 常に動き回らなければならず、止まったそばから巨大な列車程の太さがある土の塊が襲い掛かる。魔力と物理干渉を同時に展開できない異次元早苗は、物理干渉がしにくいようだ。

 さっきみたいに土に爆発性の魔力を含んだ状態を見せられれば、そうだろう。物理干渉では土は彼女の領域に踏み込むことはできないが、逃げ場がないぐらいに土に囲まれれば、魔力の炎で焼き殺されかねない。

 おそらくだが、異次元早苗の干渉領域には同時に二種類の干渉ができないのと、もう一つ弱点があり、切り替える際のインターバルだ。拳を放ち、爆発を起こした時は、光が放たれてから奴が炎に飲み込まれるまでには一秒程度の間があった。

 展開自体はもっと素早くできるだろうが、目で見て判断してからと考えると、やはり一秒ぐらいの時間はかかるのだろう。その間が大切であり、どれだけ奴の目を騙せるかも勝敗を分けるというわけだ。

 長く伸ばした触手状の土を異次元早苗に薙ぎ払おうとした直前、巨躯から伸びている根元を弾幕で撃ち抜かれ、根元からへし折れて制御を失ってしまった。

 再度伸ばし、異次元早苗に攻撃を仕掛けるのには時間が少々かかってしまう。その間に弾幕を張ろうとするが、奴が速い。

 懐から一枚のカードを取り出した。地上に降りる様子が無い事から、空中で発動できるスペルカードのようだ。

 大量の魔力をカードに流し込み、回路の起動と同時に余分な紙の部分を結晶化させ、砕くことで回路のみを抽出する。これだけ強大な魔力が集中すれば、どんな攻撃が来るのかは予想ができない。

 防御を固めることを優先し、表面の凝縮された土を魔力で耐久性能を向上させた。どのような動きをするのか、じっと見はっていると異次元早苗がゆっくりと動き出す。

 手に持ったお祓い棒を緩慢な動きで上から下に、右から左へお祓い棒を交互に振る。このスペルカードは早苗が使っているのを見たことがある。広範囲を薙ぎ払う技だったはずだ。

「秘法『九字刺し』」

 レーザーのように見える無数の弾幕が、上から横一列に降り注ぎ、横からは縦一列で異次元早苗の前に現れる。私の巨体を包み込める幅で、賽の目状と言えばわかりやすいだろう。

 すり抜けられそうな弾幕と弾幕の間は三十センチも無い。遠目から見ると、弾幕のカーテンが広がっているみたいだ。

 一枚の薄い弾幕で終わるわけがない。網目状の弾幕がこちらに向かって何重にも形成されていく。このままでレーザーに刻まれてしまう。身を守ろうとすると、一足遅れてもう一方向に対するレーザーが出現した。

 縦と横のレーザーが接する部分をつなぐ様に、奥行きに対してもレーザーが出現し、その先にいる私も撃ち抜かれた。

 大量のレーザーが強化された土の魔力を削り、十数メートルの土壁を貫いた。大量の魔力を注ぎ込まれただけはあり、レーザーは一部私の身体を抉った。

 腹部に拳台の大穴が開き、倒れそうになった私に、追撃で賽の目状に展開してた弾幕がこちらに達したようで、上と横から貫こうとする。

 横からくるレーザーに足を焼かれ、縦に来るレーザーに肩を撃ち抜かれた。魔女が使用する熱線とは違い、貫通能力に長けているらしく、弾幕が消えた後に身体の穴から血が滲みだす。

 頭や心臓を撃ち抜かれなかったのは幸いだが、複数個所を撃ち抜かれたことで、出血がさらに激しくなっていく。

「ぐっ……あっ…!?」

 肩からも出血し、押さえながら異次元早苗を見下ろすと、スペルカードの硬直から解放され、地面に降り立ったところだ。

 私が能力で地形を大きく変形させているため、戦闘の前後で地形に面影が無い。足場も悪いため、着地の際に足を付きずらそうにしている。ただ移動しているだけならば問題ないが、その手にはまたカードが握られている。

 この短時間で二度もスペルカードを食らってはいられない。十数センチの大穴が大量に空き、私を包んでいる土はスポンジ状態だ。耐久性能が低下し、生き埋めになる前に魔力を行きわたらせ、周囲から土を回収と同時に空いた穴を埋めていく。

 防御と並行し、土の触手を一本だけ作り出した。落下していく異次元早苗を上から叩きつぶす形となるが、私がスペルカードを持っている事を認識した時点で、スペルカードは既に起動していたようだ。

 結晶化したカードがお祓い棒によって砕かれ、激しく周囲にまき散らされる。抽出された回路を起動し、スペルカードが発動した。膨大な魔力の流れを感じる。それは、異次元早苗の頭上から広範囲にわたって広がっている。

 その中心に居る奴は、スペルカードを砕いたばかりのお祓い棒を天に高々と掲げ、右手は人差し指と中指を立てて印を結んだ。この技にも見覚えがあり、先のスペルカードよりは避けようのある。

 足元の地面に含まれていた魔力に水の性質を含ませ、小刻みではあるが強い振動を与える。少し水気がある程度だった地面が魔力の作用が重なり、液状化した。

 そこに体を沈めこませ、奴のスペルカード効果範囲内から逃れようと地表と同じ高度まで下がろうとした。

 それなりに高い位置にいたせいで、無傷でスペルカードから逃れるのは難しそうだ。まだ降り切っていないというのに、奴がスペルカードを発動させてしまった。

「奇跡『客星の明るすぎる夜』」

 太陽光に紛れる程度の淡い光が発生する。外であれば、スペルカードを放たれる前後で光度が大きく変化することは無いだろうが、薄暗い土の中であれば変化は顕著で、暗闇に目が慣れていた分だけ光が強烈に見えた。

 最初に神経をいきわたらせた時に、眼球の役割をする性質を一部含ませていた為、それで視界を確保していたが、スペルカードに破壊されたようで移っていた明るい視界が遮断された。

 光に体を包まれると同時に、体を覆っていた魔力を全て剥がされ、全身のあらゆる場所に激痛が走る。殴られているとも、切られているとも違う。強いて言うなれば、焼かれている感覚に近いかもしれない。

「ぐっ…あああああああああああああああああああああっ!!」

 堪らず叫び声が出てしまう。殺すスペルカードの強すぎる威力に、声帯を震わせて絶叫を漏らした。貯蔵していた魔力をふんだんに使い、ダメージを軽減しても失神してしまいそうな痛みに意識を失いかけた。

 白目を剥き、無意識へと意識を解き放とうとしたが、闘争がそれを許さない。鎖で意識を雁字搦めにすると、元の場所へと縫い付けて戦闘の続行を示唆した。

 そうだ。逃走ではなく、闘争に身を埋めなければならないのだ。楽な方に逃げてはならない。

 上を向きかけていた瞳を戻し、スペルカード範囲外へと逃れ、液状化した土の中から飛び出した。巨躯の下の方に位置する、先に作り出しておいた土で守られた空間に着地し、こちらも負けじとスペルカードを発動する。

 今の攻撃で事前に薙ぎ払っていた攻撃は届いていないだろう。高濃度の魔力を袖から引き抜いていたスペルカードに送り込み、奴と同じ手順で発動させた。異次元早苗が現在おこなっているスペルカードは非常に長い、ギリギリ間に合うだろう。

「源符『厭い川の翡翠』」

 私を原点とし、前方方向に向かって水を模した弾幕が放たれた。私を取り囲む土には強化を施していない。長い年月をかけて岩に穴を開ける雨水とは違い、強力な圧力がかけられた水流は、土程度は砕いて押し進み、飲み込んで黒色の濁流となる。

 奴との距離は約二十メートル。このスペルカードなら十分に異次元早苗を巻き込める。奴が発動しているスペルカードの時間的にも、間に合うはずだ。

 水の弾幕が数メートルの厚さがある土を掘り進む分を考えても、効果時間の長い奴の技が終わる前には到達するだろう。私が固有の能力で土をどかさずにスペルカードを放ったのには、到達までの時間がかかるデメリットがあるがメリットもある。

 ただの水だけであれば本来の威力だが、土が混ざることで重量が加算され、数倍に威力が増すのだ。倒すスペルカードではなく、殺すスペルカードへと変えていたため、川などの波ではなく津波に近い。進めば進むほど威力が増加し、一秒にも満たない時間で土壁を削り切った。

 土で遮られていた光が、濁流で光量を落としながらもこちらに届く。水に遮られ、奴に直撃したかどうかわからないが、手ごたえは感じた。

 手応えはあったが直撃したかどうかわからず、掠っただけかもしれないが、全力で薙ぎ払う。試し打ちはしていないのだが、鬼とまではいかなくともある程度の妖怪程度なら殺せるはずだ。

 濁流を生み出し、範囲内にある物を全て薙ぎ払う。木だろうが、岩だろうが、人だろうが、砕いて巻き込むと自らの一部として吹き飛ばした。

 少しでもダメージを与えられれば、目的を達成する一助になる。スペルカードに込めていた魔力が枯渇し、水の勢いが弱くなってきた。異次元早苗の反撃が来る前に、周囲の土に魔力を流———————。

 魔力で作られた水をかき分け、異次元早苗が正面から出現する。あれだけ魔力を込め、タイミングを合わせたというのに、奴の身体には水圧で切り裂かれた切り傷や、流れて来た岩や木々に押しつぶされた打撲痕もない。

 私が戦う前から負っていた怪我以外に、目新しい傷は見当たらない。スペルカード直後特有の硬直に襲われていた。能力も間に合わず、回避も間に合わない。

 異次元早苗の瞳に宿る狂気の光が、硬直に囚われて動けないでいる私を捉えた。避けられない。能力で受け止められないことがわかているため大きく振りかぶり、頭部を叩き潰そうとお祓い棒を薙ぎ払った。

 




リアルが多忙故に遅れます!申し訳ございません!!!!!!!!!!!!!



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