東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!!

それでもええで!
と言う方のみ第百七十六話をお楽しみください!!




ネーミングセンスがほすぃ。


東方繋華傷 第百七十六話 深淵へ

 遠くで何かしらの音は発生しているが、近くでは自分の呼吸音以外に音は殆どしていない。静寂に近しかったが、金属や物が壊れる無機質な音とはまた違う、幼さの残る物静かな声が静かな空間を切り開く。

「無様もいいところ…」

 前方からだ。それが私に向けられているのは言うまでもないが、それにそぐわない姿をさらしている事で、否定ができない。

 激痛が右肩から感じる。焼けるように熱く、生暖かい体液が留めなく溢れてくる。右腕を動かそうにも、動かすことはできない。神経をやられたわけではなく、腕その物が肩から先にないのだ。

 血液を垂れ流す肩口に触れると、ズタズタの傷口に触れた。刃で切り裂かれた傷ではなく、腕を力任せに引き千切られた傷だ。

「っ……くっ……!」

 激痛は留まることを知らない嵐だ。暴風で傷を逆なでされているのか、いつまでも痛みが主張を止めない。痛みが引き始めたのは、老いることも死ぬこともない程度の能力により、腕が再生を始めてからだ。

 心臓が高鳴っているのを感じる。早く、強く拍動し、全身に血液を送り出している。何もしていない時の私の心拍数は分間80回程度だが、今の時点では倍以上の速度で心臓は弛緩と収縮を繰り返しているようだ。

 心臓が速く働く理由はいくつか挙げられる。病気などの疾患。通常とは異なる心理状態、運動などだ。

 今回は二つ目と三つめが当てはまるが、魔力を扱える者として大した運動はまだ行っていない。例え心拍数が上昇していたとしても、すぐに元に戻る範囲でしか動いていなかったはずだ。

 通常の二倍以上と言う速度で心臓が動いているが、戦いの最中であれば、割とその辺りまでは心拍は上昇していく。戦いを繰り広げていれば、そちらに集中が向き、心拍数ごときに注意など向かない。

 ならばどうして今回は心拍数などに気を取られているのかは、戦いがあまりにも静かだからだ。息をつく間もないような戦いをしておらず、異質な少女を相手に動くことができなかった。心拍以上に大きな音が発せられず、耳元で鳴り響いているように感じる。

 そして、一番大きく心拍数の上昇に携わっているのは、二つ目の例として挙げた通常とは異なる心理状態だ。

 交感神経や副交感神経などと一度は聞いたことはあるだろう。興奮状態のときには交感神経が優位に働き、リラックス状態では副交感神経が優位に働いている。

 これらは心理状態にも左右される。人に対する好意、敵意。今回の事例に対しては後者が当てはまる。しかし、その敵意は誘発され、自衛として湧き出たものであるため本物ではない。

 自分の意思で生み出した敵意ではなく、敵意を身の危険を感じて誘発させた物と言うのは、緊張だ。この私が緊張しているのだ。本能が、嗤う大妖精は危険だと訴えかけているが、逃げることのできない状況で敵意を向けることで自分を振るいだたせている。

 不死身に近い状態の私が、ただの小娘に。それも力のヒエラルキーで底辺に近い妖精ごときに気圧され、後れを取っているなど巫女やメイドたちに口が裂けても言えない。

 しかし、そんなプライドを優先している暇はない。本当に命の危機に直面しており、何百人もの剣士を葬ってきた私でも、この少女は化け物だと断言せざるを得なかった。

 殆ど体験したことの無い心情に困惑が隠せないが、いつまでも動揺しているなど、殺してくれと言っているようなものだ。

「…」

 数年かけて数百人の自分や妖怪たちと戦ってきたが、誰も私にこの心情を思わせるに至る人物はいなかった。

 私の命を掴みかけている好敵手の存在は、私次のステップへ引き上げてくれる。むしろ、この状況を私は楽しむべきなのだ。

「この程度で、勝ち誇ってもらっては困ります…こんなのかすり傷にもなりはしません」

 十数秒かけ、右腕を再生させた。妹紅の能力から、紫の能力に切り替え、スキマから残り少ない観楼剣のストックを引き抜いた。妹紅の能力に戻すのを忘れず、前方にいる大妖精を睨みつける。

 戦っている最中に、いくつか建物を破壊した。バラバラに砕けた破片のうち比較的大きい瓦礫、人間程度なら簡単に潰せそうな大きさのある建物の残骸に、妖精の少女は座っていた。

 無表情からは感情を読み取れないが、その瞳は多くを語っている。戦い始めた頃にあった敵としてこちらを見る目が無くなっており、どちらかと言うと者ではなく物を見る目だ。

 そこには軽蔑も侮辱はなく、復讐に燃える炎も灯っていない。あるのは、この戦いを楽しもうとする享楽だ。戦いの、殺し合いの快楽や悦びを謳歌する大妖精の瞳には、こちら側の人間と大差ない狂気が宿っている。

 海の底ともいえる冷え切った瞳であり、生半可ではない雰囲気を漂わせている。だが、私とて負けてはいない。死線を潜り、狂気の深淵ともいえる戦場を渡り歩いて来たのだから。

 腕を再生させる間、大妖精には私にさらにダメージを与えることができたのに、動かなかったのは瞳の通り、せっかくの戦いを台無しにしたくなかったのだろう。

「せっかくのチャンスを不意にするとは、随分と余裕ですね」

 観楼剣を構えると、刀を握ったままの引きちぎられた私の腕を放り捨て、大妖精は瓦礫から立ち上がった。スカートに付いた砂を払い落とし、ようやくかと待ちくたびれたと言いたげな顔をしている。

「ええ、これと言って特に」

 大妖精の言葉が途切れると、黒色の煙を残して消え去った。奴の瞳は私を捉えていたはずだが、距離があったことでその焦点距離まではわからなかった。

 しかし、大妖精が出現する場所を正確に捉えることができたのは、勘だ。奴が出現する前、声が聞こえてくる前に振り返り、感じる愉楽のままに錆の目立つ観楼剣を振り抜いた。

 私の勘は当たっており、くぐもった重い破裂音を発しながら大妖精の全身が現れた。確実にこちらの方が一枚上手だ。瞬間移動は移動する前の格好に依存する。直立でいた妖精に、かわすことは難しい。

「なっ…!?」

 瞬間移動の能力について、誤解をしていた。背中の羽を落とした時から大妖精の雰囲気が変わっていたが、これがきっかけであることを私は軽視してしまっていた。

 油断できない相手と言う意味では一切手を抜いていないが、能力の使用に関しての認識は以前と変わらないと踏んでいた。

 百戦錬磨の異次元妖夢だからこそ、そこに慣れてしまっていたのだ。数百の世界を滅ぼしてきた彼女の前に、強敵は必ず現れた。

 火事場の馬鹿力と言う奴で、命の危機感により普段よりも力を発揮する者は少なからず存在していた。これまでにない強敵に学習を重ねて強くなる者、怒りや復讐心で一時的に力を増す者。基本的な流れはその二つ。今回はいつものパターンに当てはまらない、こちら側の境地に参入することで、力を増させた。

 火事場の馬鹿力を発揮する経路が異なり、魔力の質がいくら変わろうとも、能力の使い方は変わらない。そう勝手に決めつけていた。

 不死の能力を選択すればほぼ死ぬことはなく、これまでの力を発揮した者たちと大妖精のきっかけを同列に考え、いつも通りにねじ伏せようとした。不意を突かれたとはいえ、これ以上遅れを取ることは無いと思っていた私の首元に、鋭い爪が食い込み、喉と下顎を丸ごと抉り取られた。

「問題は無いので」

 喉元の肉塊が近くの瓦礫に当たり、真っ赤な血液をへばり付かせた。向きを変えられるのはわかっていたが、姿勢までも変えられるとは思っていなかった。瞬間移動した時点で大妖精は私を引き裂く直前であり、刀を振ろうとしていた段階の私では到底追いつくことはできない。

「かっ……あがっ……!?」

 能力により、切り裂かれた首が再生を始める。その内に振りかぶっていた観楼剣を叩き込もうとするが、刀を握っていた手に感覚が無い。それどころか、首から下の身体に感覚が無い。

 動いていないはずなのに、見えている視界が僅かに前に進み、大きく手前に傾いた。私の意識とは関係なく頭が下を向こうとすると、髪の毛を手を延ばして来た大妖精に掴まれた。

 理解が及んでいなかった私に、蹴りが放たれた。型や動きの洗練が無い蹴りのはずだが、魔力の質が高まっているせいか、凄まじい勢いで後方に吹き飛んでいったのを空気を伝わって来た衝撃から感じるが、なぜか頭の位置だけ動いていない。

「……!?」

 最初の一撃で、首を落とされていた。遅れてようやく理解した私の頭を、大妖精は嗤ったまま見下ろしている。両側から挟み込んで抱えている手の力が次第に強まっていく。

「ほら、言ったでしょ?」

 指が食い込み、爪が皮膚を裂く。骨が軋み、眼球や脳などの臓器に圧力がかけられて潰れていく。潰れるような痛みではなく、頭を潰された痛みはこれまでに感じたことのある激痛の中で、トップに躍り出る激痛だった。

 運がよかったのは、痛みが持続することなく意識が途切れた所だ。失神したわけではなく、死亡したと判定されたのだ。

 不死の能力は身体が分断された場合、頭部が付いている方が優先的に再生されるが、頭部が何らかの理由で欠損している場合は、一番大きい肉体から再生が始まる。

 途切れていた意識が引き戻され、蹴り飛ばされて瓦礫にもたれかかる形で倒れている体から再生が始まった。目が見えなければ始まらず、右目を優先的に再生させた。

 目を開くと、私がいたであろう位置に手を血まみれにし、潰れた肉塊を持つ大妖精の姿が見える。数十メートル離れているが、肩を揺らして笑っているのが遠目に見てもわかる。

 目を治す過程で耳も治ったようで、彼女が大きく声を上げて笑っている声を鼓膜が拾う。それはそれは楽しそうに腹の底から大笑いし、何も映らない天を仰ぐ。

 体は再生途中で、頭からは血液か脳漿かわからない体液を垂れ流している。修復過程にも激痛は伴うが、それを上回る戦いの快楽に身を任せる。

 横たわっていた瓦礫を蹴り、上を見上げたまま嗤う大妖精へと観楼剣を構えたまま跳躍した。音を立てるなど初歩的なミスは侵さない。

 奴がこちらを見る様子はない。勝ったと勘違いし、笑みを浮かべるその顔を凍り付かせてやろう。無音の跳躍と移動、ほぼ完璧にやり切った。それに加え、遠くから寄せられる異様な殺気に自分の殺意を紛れ込ませ、嗤う大妖精へ接近した。

 精度の高い一撃。刀身から気流を発生させず、斬撃さえも気取られないように全身全霊の薙ぎ払いを少女へ繰り出した。頭部と、腹部を狙った二撃。一瞬のうちに二度振られた斬撃は空を切る。

 右、左と流れるような動作で行った斬撃は、大妖精が瞬間移動で消失したことを示す黒い霧を切り裂いただけで終わってしまった。

「っち…」

 当たることが望ましかったが、逃げ回る大妖精相手に易々と当てられると思っているのは楽観的過ぎる。だが、こうも空振りが続くと肉を切り裂く感触が恋しくなってくる。

 奴が逃げたであろう上空を見上げ、迎撃の姿勢に入ろうとするが、視界をどこに向けても大妖精の姿が入ってこない。

 どれだけ化け物的強さを持っていても形は人の体を成しているため、瞬間移動できる範囲は限られている。眼球だけを動かしてある程度は位置を変えることはできるだろうが、それも限られているはずだ。

 だというのに視界内をどれだけ探しても、少女の姿を見出すことができない。どこだどこだと視界を上下左右と動かし、妖精の姿を捉えようとするが、視線の先にあるのは建物に使われていたであろう瓦礫やガラス片が漂っているだけだ。

 予想した光景が目に映らず、その姿を探そうとした私の視界の端を緑色の繊維物が薄っすらと写り込む。フワフワと柔らかそうに揺れるそれは、大妖精の髪の毛だ。

 上に行ったと見せかけて、その場にタイミングを遅らせて瞬間移動したのか、上に行った後に折り返して来たのか。恐らく前者だ。

 上空に飛びながら攻撃をするつもりであったため、私は斬撃を繰り出す体勢になっている。首元へ目掛けて刀を押し出して横なぎの斬撃を放とうとした時、大妖精の瞳が横へずれていく。

 視線の方向は、私のすぐ後ろ。瞳の方向から移動場所がわかる能力を恨むんだな、これで息の根を止めてやる。自然と口元が嗤ってしまう。距離が近く、行く方向さえわかれば、こんな能力怖くもなんともない。

 一切の光を通さない真っ黒な煙を残し、大妖精の姿が見えなくなると同時に、彼女が居た方向ではなく自分の真後ろに向けて斬撃を放った。少し錆が目立つとはいえ、切れ味は人間の業物を超える。強化されていたとしても、妖精程度の肉体なら易々と切り裂ける。

 あっと驚いた大妖精の首が零れ落ちる光景が目に浮かぶ。私は大妖精が瞬間移動してから後方に振り返った。タイミングを計ることはできないはずだ。

 観楼剣を振り抜いた。止めることを一切考えないで刀を振り抜いたため、急に止めることができなかった。私の予想を大きく裏切り、大妖精が出現したと思わしき低い破裂音は、振り返った後の後方から聞こえて来た。

「なっ……!?」

「驚いた?私が移動できる方向は必ずしも瞳の方向とは限らない。そこに反射物があれば、反射先に移動することはできる」

 大妖精が言ったように、彼女が向いていた方向には瓦礫と、砕けたガラス片が漂っている。縦と横に五センチ程度の幅があるガラス片には、薄っすらとだが鏡のように私たちの姿を映していた。

 右腕と右足の付け根に炎でも当てられたのだろうか、火傷しそうになるほどの熱を感じる。目を向けるよりも先に、弾けだした血液が視界に飛び込んでくる。

 次の攻撃に受け身を取るか、こちらが今度は攻撃に転ずるか。選択肢があったが、そのどちらも実行に移すことができない。構えようとした腕、攻撃または防御で踏ん張らなければならない足、そのどちらも感覚が欠如している。

 大妖精の爪により、切断されたのだろう。地上であれば重力でバランスを崩していただろうが、無重力に近い状態であるため、痛み以外では気が付きにくかった。

「ぐっ……!」

 熱を感じたのち、遅れて激痛が波のように押し寄せる。アドレナリンが脳に作用しているらしく。激しい激痛ではあるが、何とか耐えられうる。

 無重力に近い空間では、切断した腕は放っておけば漂っていきそうだ。手持ちの武器が無くなってしまっているが、大妖精が後方にいるところで、不死の能力からスキマの能力に切り替えるわけにはいかない。

 観楼剣を握ったままの右手に左手を伸ばして刀を回収しようとするが、大妖精は切断された右手から刀をもぎ取ると、背中側から腹部に観楼剣を突き立てた。

 無機物の刀に切れ味の矛先を、特定の物体にのみ限定することはできない。銃のように撃つか撃たないかの選択は、刀にすることは難しい。たとえ得物の持ち主であろうが、刀は最大限にその効果を発揮する。

 根元まで突き刺さるのに、大妖精は大した力を込めることはなかっただろう。切られている側でもわかる程に、すんなりと刃が肉体を切り進む。

「がっ…!?」

 痛みを無視し、右腕と右足の再生を急ごうとするが、骨格の基礎である骨をちんたらと再生し始めた頃には、大妖精は次の行動に移っている。刺した観楼剣を横に薙ぎ、切れ味に物を言わせて身体を切断した。

 筋肉等で皮一枚つながった状態であるが、背骨を切断されたらしく足の感覚がどちらも消えてしまう。これでは再生に時間がかかる。

 魔力で少しでも離れて時間を稼ごうとするが、首元へ観楼剣を突き刺されると、ズタズタに切り裂かれた車両のある電車へ蹴り飛ばされた。

 蹴られた衝撃で筋肉が引き千切れ、下半身はどこかへ飛んで行ってしまった。重心が偏り、回転しながら飛んでいく私の腹部からは、遠心力で内臓が引きずり出されていく。

 四肢の殆どを失ってしまえば、体勢を立て直すことなどできるわけがない。顔から車両に突っ込み、金属のフレームを大きく歪ませた。

 半分飛び出していた内臓は衝撃に耐えられず、千切れるまではいかなくとも車両の壁に当たるとひしゃげて潰れ、真っ赤な血液の模様を生み出している。

「うっ…ぐっ……!」

 いくら不死でも、瞬間的に大量の出血を起こせば貧血を起こし、殴られれば頭が働かなくなる。ぼんやりとし、ハッキリとしなかった視界が回復を始めてクリアになっていく。すると、いつの間にか瞬間移動でこちらまで移動していたのか、眼前に大妖精の顔が映る。

「この程度で終わりではないわね?私をもっと、もっと楽しませてよ」

 並みの妖怪や人間ならこれで終わっていただろうが、今の私には不死の能力がある。当然この程度ではまだまだ終わらない。小娘が、調子に乗りやがって、後悔させてやる。

 奴を殺すと自分に言い聞かせ、回復の魔力を注ぎこみ、すぐさま失った半身を回復させる。首から血塗られた観楼剣を引き抜き、大妖精へ投げつけた。鮮血をまき散らし、回転する刀を大妖精は瞬間移動を使って回避する。

 そこまではいいが、次の瞬間移動先はどこになる。戦い始めたばかりの頃に、紫により撃ち出された車両は、攻防でフレームが歪み、ガラスは全て割れてしまっている。

 だが、周囲にガラス片は漂っていない。私が吹っ飛ばされた時に魔力の衝撃を放ち、吹き飛ばした。大妖精が向けた瞳の方向には反射物は無く、方向は特定できる。

 今度こそ反射もなく瞬間移動をしてくるはずだ。顔を近づけていたことで、瞬間移動先も制限されているため、チャンスだ。

 スキマから大妖精が向かうであろう後方に向け、観楼剣を残った左手で薙ぎ払った。こういう時、奴は後方に陣取る癖がある。今度こそ頭をかち割ってやる。

 車両ごと、大妖精を切り殺そうとするが、鈍い痛みは側方からやってきた。肋骨の間から指を肉体に差し込まれ、心臓を切り裂かれる。

「あはっ!!ハズレ!」

「あっ…くっ…!?」

 後方を見て、横に視線は向けていなかったはずなのに、なぜ大妖精の姿が横に現れる。もう、訳が分からなくなってきた。

「反射物は無機物に限らない。反射するなら液体でも何でもいい。例えば、瞳とかでも」

 私の眼球に映った側方の景色に向けて瞬間移動したらしい。シンプルで応用が利きやすいであるが故にかなり面倒な能力だ。

 意識が途切れるよりも先に、スキマの能力から不死の能力へ切り替え、失った四肢を再生させていく。

 胸を刺されたことで、気道内に侵入してきた血液が自然と口から洩れる。とどめようにも次から次へと溢れ、不死の能力が無ければ溺れていることろだ。

「げほっ…ごほっ…!!」

 息苦しさに加えて痛みでも目が眩みそうだが、私に触れている今なら瞬間移動では逃げられない。

 刀を逆手に持ち変え、心臓を貫いている手を左手で掴み、目の前の大妖精の顔を串刺しにする。攻撃も防御も瞬間移動に依存する彼女の事だ、攻撃ができなければ逃げに徹すると思われたが、逆に接近してきた。

 手元が狂ったわけではなく、思った行動を大妖精が取らず、振られた刀が空振りに終わる。耳を掠るが、致命傷には程遠い斬撃。

 大妖精の行動は極めて冷静で、大胆に私の攻撃を避けてくる。刀をすり抜けた彼女は私の耳元に顔を寄せると、音をできうる限り拾う役割を持つ外耳に噛みつき、無理やり引き裂いて食い千切った。

「っ…ぎぁ…!!」

「あはっ!…あははっ…!!あははははははははははっ!!」

 笑いながらも口にほおばっていた耳を吐き出し、掴んでいた左手の骨を砕きながら胸から右手を引き抜いていく。胸元にぽっかりと穴が開き、どす黒い血液が零れだすが、すぐに傷は塞がっていく。

 存外イかれていると思っていたが、予想以上だ。もしかしたら、自分以上かもと敗北的思考を巡らせそうになったが、すぐさま打ち消した。意気で負けて入れたら、それこそ勝てない。

「くっ……そっ……!!」

 だが、大妖精の能力はこれで終わりでないことをまだ感じる。私の本能が、魂が、名状しがたく胸をざわつかせる。奴が瞬間移動で消費する魔力量はわからないが、質が大きく変化している事から大した量は必要なくなっているだろう。

 それに加えて私はどうだろうか。不死の能力があるとはいえ、体全体を修復したりとなると大量の魔力を消費することになる。魔理沙が暴走した時にかなり魔力を消費し、大妖精を倒したとしても残った魔力で霊夢達を殺せるかと言ったら不安が残る量だ。

 すぐさま奴を斬り刻めることができる状況であれば話は別だが、その段取りはできていない。それに加えて、未だに何かを隠している事から、舐めてかかればこちらがじり貧で殺される可能性すら出て来た。むしろ、殺される可能性が現実味を帯びている。

 深追いはしないらしく、大妖精の姿が黒煙を残して消えると、少し離れた位置に出現した。私をジワジワと嬲り殺している事を感じているのか、口元に残る血液を舌で舐めとり、嗤っている。

 自分の置かれている状況がどれだけ芳しくないのかを、私はようやく悟った。具体的な血路も見いだせていない。絶望が後方からにじり寄ろうとしているのを、感じる。

「くっ…!……後悔させてあげましょう…自分の能力をそこまで開示したことを」

 胸の激痛に耐えつつ、大妖精が残した黒い煙を振り払いながら呟く。だが、ただの強がりであることを見抜かれているのか、彼女はクスクスと笑って見せた。

 不安の表れで強い言葉を使ってしまったが、逆効果だっただろうか。大妖精は薄ら笑いを止めることは無い。

「別に、全ての能力を開示したわけではないし、もし教えたとしてもあなたは思ったよりも弱くて問題はなさそうなので、大丈夫」

「弱い……私がですか…?」

 自分でもわかる程に、一瞬で怒りが頂点に達する。何を見出して、なぜいきなり魔力の質がガラリと変わったのかわからないが、こんな妖精ごときに雑魚と言われるとは私も墜ちたものだ。

 この付け上がる小娘を、今すぐに殺してやりたくなるが、この殺意は抑え込まなければならない。奴の言葉を信じるのであれば、まだ大妖精は瞬間移動には隠された部分があると言っている。未知数であるために、私が対応できない事象が起こった時に困る。

 それに、これまでには無い狡猾さが、今の彼女にはある。この煽りも作戦の範疇だろう。怒りに身を任せ、大ぶりの攻撃を誘っているのだろう。

「良い。あなたの内側をもっと曝け出してください……それでこそ、余興はもっと盛り上がる」

 先ほどの卑下に加え、更に怒りを煽情する。煽りにわざわざ乗る必要は無いが、表面上は乗ることにしよう。正面から奴を叩き潰し、余裕の表情を浮かべられないようにしてやる。冷静であることを気取られぬよう、歯を剥き出して歪め、大妖精を睨みつけた。

 私が怒りの頂点に達していると勘違いしている大妖精は、怖い怖いと肩をすくめて見せる。罠にかけたつもりだろうが、撒き餌に食いついたのはお前の方だ。

 この攻撃が最後のチャンスになるだろう。油断しきり、私を舐め切っている今なら、打開策の見えていないこの状況をひっくり返して殺すことができるはずだ。

 これまでのピンチ、魔女が化け物化した時に殺されかけたが、不死の能力があったためにここまで追い込まれることはなかった。

 魔力をほとんど使ってしまっている今は以前のようにはいかない。自分がどれだけ追い込まれているのかを再認識し、焦りからか汗が額から流れる。

 本当は能力を隠していないというブラフも考えたが、それはあまりにも楽観的過ぎる。あれだけの余裕、勘ではあるが見栄ではない。

 ブラフではないとなれば、奴は何を隠しているだろうか。不明な能力は、使われなければ存在を認知できない。焦りが妄想を呼び、妄想が不安を駆り立て、不安は恐れを招く。その連想ゲームをしてはならないと分かっているのに、思考の歯車を止められない。

 自分で自分の尻を叩き、不安を無理やりに頭から捻りだし、追いやった。呼吸を深く吐き、精神を統一。再生しきった身体で、自分ができる最大の技術を持ってして構えた。

 頭のてっぺんから、脚の先まで技術の髄を入れ込み、最後の攻撃へ身を委ねた。魔力で形成した足場を跳躍し、前進する。

 大妖精に構えは無く、瞬間移動で逃げるつもりなのは明白だ。だが、逃がさない。刀が奴に当たる遥か手前で、観楼剣を薙ぎ払った。空間を切り裂き、ピンクを主とする弾幕が放たれた。

 桜の花弁に似た弾幕が咲き、大妖精を捉えた。左右に避けながら舞い散る花弁をかわしている。更にもう一度、弾幕の密度を上げるために刀を薙ぎ払い、花弁を咲かせる。

 花吹雪と言える弾幕の雨、それに紛れながら私は前進した。更に弾幕で切りかかると見せかけ、離れさせて回り込ませていた火の玉状の形態をしている半霊を、大妖精へ突っ込ませた。

「ぐっ!?」

 大妖精の注意が、こちらから半霊へわずかながらに向けられる。最高のシュチュエーションだ。これ以上になく、ここを逃せば次に来る保証はない。

 いくら瞬間移動で逃げられるとしても、視覚外から来た攻撃には対応できないし、殺気に紛れさせた敵意は感じ取りずらい。これなら奴に、最大の一撃を叩き込める。

 反射だろう。視覚外からの奇襲により、大妖精は目を瞑ってしまっている。瞬間移動を行ったとしても、場所は今いるところに限定されるため、無謀に能力を使うことは無いだろう。

 これが経験の差と言う奴だ。大妖精、闇が渦巻くどす黒い汚泥の中を歩いたことがあるだろうか。暗黒のような深潭は、生きとし生きる者を狂わせる。この世は、この戦は、そこで生き残ってきたような連中が勝つようにできているのだ。

「あなたは、深淵の先を見たことがありますか?」

 奈落の底どころか、奈落すら見たことが無いような小娘が、形だけいっちょ前に狂って見せているが、その化けの皮を剥がしてやる。

 弾幕を放つ体勢は見せていたが観楼剣を薙ぎ払うことなく、刃を背中に背負う形で構えたまま、肩に担ぐ柄の頭で抜き出したスペルカードを叩き割る。

 殺意の花びらに紛れ、敵意であるここまでの行動は大妖精に察知されない。これから気が付いたとしても、もう遅い。抽出したスペルカードを最大出力で起動する。

「空観剣『六根清浄斬』」

 大妖精の周りを私と、私と同じ姿へ変えた半霊、魔力で形成した同じ姿の人形が高速で走りながら円を描いて囲む。走る速度は残像が残る程で、人数を五人に設定しているはずだがそれ以上の人数で走っているように見える。

 本来ならば、目くらましでの意味合いが強いが、顔に攻撃を加えたことで大妖精は目を瞑ってしまっている。どちらにせよ、姿を捉えられていないから変わらない。

 五人はスペルカードの手筈通り、示し合わせた様に同時に走っていた動きを止めると、その中心に居る大妖精へ向けて跳躍する。

 このスペルカードを受けた人間は、分身して撹乱する技に実体のある本物を探し出そうとするだろうが、当たる確率は五分の一である。また、本体自体を狙われたとしても、独立して動く残りの四体が技を受けた人物を斬り刻む。二重の保険を掛けたスペルカードだ。

 また、持っている観楼剣は全て本物であり、大抵の妖怪はこれを受けて絶命する。殺気と魔力の込められた斬撃は弾幕と組み合わさっており、先ほど私が見せた花弁の弾幕とは比べ物にならない範囲で花を咲かせる。

 人間を複数人取り込むことはできるであろう。それ程の大きさがある花弁の弾幕が爆発的に広がり、大妖精の姿を包み込む。斬撃と弾幕で既に彼女の体はズタズタに切り裂かれているであろうが、仕上げはこれからだ。

 スペルカードを放ったタイミングも、シュチュエーションも完璧だった。技はこれから山場を迎え、薄ら笑いを浮かべる大妖精に引導を渡す。

「きひっ…死ね、驕った罰を噛み締めて!」

 上空へ向けて跳躍しようとした瞬間に、自分の刀身が軽すぎることに気が付いた。視線だけを落とすと、握られている刀身が根元から千切れているのが見えた。

「は…………?」

 無重力状態により重さを感じにくく、気が付くのが遅れてしまっていた。それに、弾幕が放たれた音にかき消され、金属の砕ける音がしていたのを聞き逃してしまっていたのだ。弾幕の間から、五本の刀身が砕かれて粉々に散っていくのが見えた。

 思い返せば、切った際の感触も全く違う、肉体に当たっているはずなのに不明瞭な衝撃が混じっていた。

「くっ………そ……!!」

 見た方向に一瞬で移動する大妖精に対し、このスペルカードは最後の切り札に近い存在だった。他の単純なスペルカードでは避けられてしまうと考え、攪乱と目潰しの効果が期待できたからだ。

 しかし、結果はどうだ。あらゆる技術や思惑など、強力な能力の前にはひとえに風の前の塵だ。

「気が付いてなかったのね。私の瞬間移動は移動先に物体があるとき、移動される側じゃなくて移動する側が優先される」

 柱に埋め込まれた時の事を思い出す。内側にいる私には外の様子がわからず、大妖精が壊したのかと思っていたが、私の分の体積が周りに押し出され、自然と瓦解していたのだ。

 今回もそれと同じく、同時に薙ぎ払われた観楼剣と弾幕の上にその場の瞬間移動で現れたため、スペルカードではなく大妖精が優先され、弾幕と刀ごと全てを破壊したのだ。これが、大妖精の能力。使い方によっては、まさに無敵だ。

 刀が破壊されたとしても、プログラムは私の体を突き動かす。上空へ跳躍し、落下しながら攻撃を最後に放つが、これほどまでに振り下ろしたくない状況もそうない。

 飛び上がる前にダメージを与えられていれば、弾幕のカモフラージュで上空から落ちてくるのを悟られはしない。だが、第一弾の攻撃を完璧にかわされた事で、最後の攻撃は大妖精にとって恐ろしい物ではない。

 攻撃をかわして次に備える余裕がある分だけ、これほどまでに避けやすい攻撃もないだろう。プログラム通り、身を翻して体全体を下にいる大妖精へと向ける。

 視界の先には、こちらを見上げる大妖精が見えた。ピンク色の花に似た弾幕が咲き誇る中心におり、逃げることもなく私が落下するのをまだかまだかと手招きし、首を長くして待っている。

 足場を魔力で形成し、それを蹴り壊す勢いで跳躍した。馬よりも、弓より放たれた矢よりも早く落下する。この速度なら、奴の攻撃をすり抜けられるのではないかと思いたいが、奴に限ってもしもが無いのはこれまでの戦いからわかり切っている。

 刀身の無い刀を大妖精の頭へ目掛け、渾身の力で振り下ろす。十センチ程度しか刀身が残っておらずとも、当てられれば全体重を乗せた攻撃は致命傷になりうる。当たろうが当たらまいが関係ない、砕けかけている刀身を振り下ろした。

「はあぁぁぁっ!!」

 不安を掻き消す様に、私はあらん限りの力で咆哮する。まだ終わりじゃない、終わってない。

 当然ながら、見かけの覇気など彼女には通じるわけもなく、切った感触など手に伝わって来ない。だというのに血潮が弾け、肌や服を濡らす。

 大妖精の頭をかち割ったことによる出血ではない。頸動脈など動脈が通っている部分を切る以外で、弾ける程の血が出ること自体おかしい。

 瞬間移動で奴は自分の体を、私の上に重ねた。スペルカードの特性上、避けることも中断することもできないため、攻撃を合わせるとしたらここが一番ベストなタイミングだったのだろう。

「ぐっ……あああああっ…!!」

 私の伸ばしていた手は、刀ごと粉々に粉砕され、手首から先を失った。来ると分かっていたとしても肉体が弾けた激痛に、即座に対応することができない。

 激痛に呻き、肘から先を失った腕を抱える。大妖精に隙を晒してしまうが、その間に返り血まみれの大妖精も動くことは無い。

 痛みには慣れているつもりだったが、肉体が弾け飛ぶほどの攻撃を受けたことなどほとんどない。立て直すのに僅かながら時間を要した。

「この程度で終わりなら、余興にもならない」

 小さなスキマから、大妖精へ観楼剣を射出するが、光を通さない黒い煙を残して消えてしまった。破裂音からして、非常に近くに現れたようだが、姿を探し出せない。

 どこだと体を音のする方へ傾けようとすると、私を中心にして血や肉片が飛び散り始める。脳の理解を状況は追い越し、理解しきる前にそのまま上半身は下半身を離れて前のめりに進み始めた。

「っ……ああああああああああああああああああっ!!!」

「おもちゃとしての価値が無いなら、せめて私の耳を癒す歌でも歌ってくれるかしら?」

 彼女のいう所の歌は唱歌ではなく、苦痛に誘われて発せられる呻きや絶叫だ。笑う大妖精は眉一つ動かさず、爪で顔の肉を削ぎ落していく。ゆっくりと、私が苦しむように、パーツごとに分けて裂いた。

 眼球を抉り出され、舌は根元から千切られる。顔に削ぎ落せる部位が無くなると残っていた腕をへし折り、爪で斬り刻まれる。

 視界が見えず、次に大妖精が何をするのかわからなかったが、瞬間移動をした気配だけが伝わって来た。体の上に何か物体を重ねられたのか、体が弾け飛ぶような感覚がしたと思うと意識が途絶えていた。

「っ……はっ…!?」

 短くはあるが意識が途絶えた。意識を取り戻すと、体を再生させている途中なのか、胸部の辺りまでしか感覚が無い。体が弾け飛ぶような感覚がすると思っていたが、それが起こっていたのだろう。どこかにこびり付いた肉片から再生したのか、私の胸の下には血と臓物まみれの床が存在している。

「へえ…あそこから再生できるなんて…不死の能力は伊達ではないのね。でも、持ち手が使いこなせなければ腐るだけ」

 大妖精は腕にこびり付いていた血肉を払い落としている。笑みは零しているが、視線にこれまでのおもちゃを見る目は無くなっている。ただ静かに、冷徹に見下ろしていた。

「化け…物……め……!」

「そう言われるのも何百年ぶりかしら…」

 大妖精はそう呟きながら、歩み寄ってくる。再生しかけていた腕をもぎ取り、内臓がはみ出る腹部を足で潰した。

「あああああっ…!!があああああああああああああああああっ!!!」

 ここまで来ると生き地獄だ。激痛から逃げようと、身をよじる私を大妖精は逃がさない。踏み潰す腹部から足を上げ、肋骨を踏み抜いた。

 乾いた木が折れ、砕かれる音に似た破砕音がし、肋骨をつなぎ合わせる胸骨と左右合わせて24本の肋骨を全て砕かれた。

「あああっ………か…ぁっ……!!」

 叫びたくても叫べない。踏まれているからでもあるが、粉砕されて飛び散った骨片が肺に突き刺さっているのだ。出血により体液で肺胞が満たされ、呼吸しても酸素のやり取りが行えず、息苦しさは一層増していく。

 逃げようとする私を、大妖精は蹴り飛ばした。肋骨や肺の一部を踏んでいた足元に残し、後方へ逃れた。床を転がる内に魔力を注ぎこんで腕や胸を治し、這いずってでも逃げようとするが、脚の再生が追い付いていない事で、瞬間移動を使う妖精からは絶対に逃れられない。

「ぐ…るな…っ…!!…寄る…な……!…ばげ…もの……!!」

 生きることに逃げることに、無様にのた打ち回ることに必死だった。自分がスキマの能力を使えることを忘れ、近くに転がっている瓦礫や金属片を少女へ向かって投げつける。

「……」

 大妖精の目つきがまた変わる。玩具を見る目から、ゴミでも見下ろしているかのように冷めた物へと変わっていく。その冷たさに、瓦礫を投げつけようとしていた手が止まってしまう。

「本当…余興にもならない……。もっと面白い物が見られると思ったけど、こんなのとは思ってもいなかった」

 大妖精から放たれる殺気に、私は最早指一本すら動かすことはできなかった。蛇に睨まれた蛙とはこれの事を言うのだろう。あまりにも、実力差があり過ぎる。奴の雰囲気が切り替わってからは、戦いではなく一方的な処刑だ。

「人がその内側を、原始の感情をさらけ出すのは、自分に死が迫った時。受け入れられず笑う者、抵抗し激昂する者、自分の死を受け入れる者。それは百人百様だけれど、あなたほどつまらないのは本当に久々」

 大妖精は流暢に話しているが、口調には苛立ちからか荒々しさが垣間見える。それに対して返答することも、あらゆるアクションを取ることもできない。私に許されているのは、ただただ無意味に酸素を消費することだけだ。

「あれだけ楽しそうに私の友達を殺してた。どんな最後を視れるのか楽しみだったのに、面の皮を剥がせば、驕りに驕った異常に生に執着する只の獣……本当に退屈」

 千切られた腕や半身が回復していくが、逃げるために使うことができない。死の恐怖に打ち勝てない。

 本当の狂気、本当の絶望が小さな少女から感じる。幻想郷では容姿はあてにならないが、そうだとしても彼女は異質。頭一つ飛び抜けている。

「安い命…安い買い物だけど、私が何の妖精か、教えてあげる。メイドの土産にね」

 ここにいてはいけない。殺される。ぞっと鳥肌が立ち、死の危険を感じているが動き出すことができなかった。私にできることは———。

「あなたはエサ。……私が手を下す価値もない…」

 早く誰かに助けを求めないとこの少女に殺される。生きたい欲求ばかりが膨れ上がり、完全に戦意を損失している事に気が付かなかった。戦う意思など無く、助けを求めた。

「誰か……」

 私の言葉を遮るように、嗤う大妖精から大量の魔力が膨れ上がり、スペルカードを使用している事を示唆している。

「今の幻想郷に、当時の戦い方は無いから…昔の戦い方を教えてあげる。今のスペルカード風にしてね」

 彼女は小さく息を吸い込むと、周囲の魔力にスペルカードのトリガーとなる言葉を発していく。

「スペルカード」

 宣言した瞬間に、大妖精の魔力がざわつき、嵐が迫ってきているのを感じた。精神をコントロールされ、完全に掌握されている事で、私は茫然と座り込んでいた。

「幽々子様……」

 縋る様に、私は主の名前を呼ぶが、彼女の姿が現れることは無い。あらん限りの恐怖と絶望を感じながら、不明なスペルカードを発動した大妖精を見上げた。

 私にできることは、祈ることだけだ。

「神域『深淵喰殄絶』」

 




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