東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっております!

それでもええで!
と言う方のみ第百九十三話をお楽しみください!


東方繋華傷 第百九十三話 祖の抱擁を

 私の後頭部には、大きく深い古傷がある。傷の深さは表面だけでなく、脳を保護する役割のある頭蓋の内側にまで達している。

 医者が不在のため科学的根拠を持って調べたわけではないが、一部の脳組織がぐちゃぐちゃになっていると聞いた。

 潰れ、引き裂かれ、脳の機能は生命維持に必要な呼吸すらもできない程に低下している。そんな状態でなぜこうして生きていられるのは、紫の存在が大きい。

 固有の能力により彼女の脳と境界を薄れさせ、能の機能を肩代わりしてもらっている。そのお陰で特に問題なく意識もあり、動くこともできる。ただ、彼女の意識の一部が入り込んでいるのか、どうしても口調が紫に寄ってしまう。

 今の現状からすると生きているだけでも儲けもので、大した問題ではない。しかし、この思考も何割が紫から来る物なのだろうかと考えると、早く力を奪って自立していかなければならなかった。

 今では生存のためと変わってしまっていたが、最初は私も他の連中と同じ目的で戦っていた。力をつけると言う、一番シンプルで多い目的だ。

 どうしようもなく、力を欲していた。霧雨魔理沙が保有する、無限大の可能性がある力を求めてやまなかった。

 他の妖怪や人間に奪われることで博麗の巫女である自分の力が及ばず、幻想郷が壊されることを危惧したわけではない。それは、二の次だった。

 貪欲に力を求めている妖怪たちとは違い、巫女は力を求めなければならない理由があった。しかし、その理由も傍から見ればしょうもない物だろう。

 だが、この幻想郷においては非常に重要なことだ。博麗の巫女は初代から十数代続き、他の妖怪や神ですらも寄せ付けない頭一つ分以上抜けた圧倒的な力を持っていた。

 最強と言う言葉は、博麗の巫女のために作られたと言っても過言ではないという程に。歴代の巫女は最強と名高い力を持ち、それを振るって幻想郷を守って来た。あらゆる妖怪から、あらゆる災厄から、あらゆる神から。

 引き継いできたその力を受け継ぎ、これまで通り幻想郷を守っていく。かに思われたが、私は歴代の博麗の巫女の中でも、特に出来が悪かった。巨大なエネルギーを受け取るだけの器が無かったのだ。

 器から溢れた強力で膨大な博麗の力は、受け取り手を見つけられずに虚空へ霧散した。残ったのは、搾りカスとさほど変わらない力だけだった。それでも鬼やそこらの神よりは強くあることができたが、その程度でしか力を発揮することができない。

 それは、博麗の力は説明のつけられない異次元と言える戦闘能力が失われ、幻想郷のバランスが崩れる序章となったことを示していた。

 いくら境界を操る程度の能力を持つ八雲紫だったとしても、境界もなく消えていった力のエネルギーを集め直すことは不可能だった。

 博麗の巫女達は保有する力の使い方を知っていても、力の付け方は知らなかった。あらゆる知識を持つ紫だとしても、多少倫理を無視しても以前の博麗の巫女のような力を発揮できない事は想像がついた。

 いくつかの異変を解決したが、幻想入りしたばかりの妖怪や人間たちばかりであったため、本来の強さを失っているという事を知られることはなかった。

 しかし、これまでと違った形での異変解決であるのは、以前から居る妖怪たちからすれば明白であった。なぜ異変の解決の仕方を変えたのか、他の妖怪たちに知られるわけにはいかなかった。

 これまでは博麗の巫女の絶対的な戦力が抑止力となり、反旗を翻すような異変は起こってこなかった。もし、自分たちを押さえ込んでいた巫女の存在が薄れれば、増えていく可能性が日に日に高くなっていくのを感じていただろう。

 これまでの巫女が作り上げていた平和と言う物が、どれだけ脆く崩れやすい物だったのかを初めて知った。

 年単位で訓練をしても上昇する魔力の質など高が知れ、むしろ必死に訓練する姿を晒すと気取られる可能性もあり、訓練などできるわけもなかった。

 悩み、頭を抱えている時だった。定期的に神社に訪れる、霧雨魔理沙の魔力に変化が起きたことを感じた。最初は気のせいかと思ったが、明らかに前とは異なる波長へ変化していた。

 本人は特に変化がわかっていないようだったが、数百年の長い年月生きている妖怪でも、知らない現象が起こされていた。数々の異変を一緒に解決している内に、苦戦し、傷つくと彼女から感じる魔力が強力になっていくのを感じた。

 何が起きているのか、探っている巫女の腹の内など知らず、霧雨魔理沙は妖怪と人間の間にある軋轢を埋めようとしていた。様々な妖怪たちとかかわっている内に、彼女の異常性に気が付く者たちが増えた。

 彼女を手助けしよう、周りに妖怪や人間たちが集まってきたが、霧雨魔理沙が行っている活動など眼中にないのは、近くで見ている巫女の目から見れば明らかだった。なぜなら、自分と同じ目をしていたからだ。

 ストレスがかかればかかる程に魔力が強力に増幅していくとなれば、いつかは限界値に達するはず。それを超えてストレスを与えれば、ダムが決壊するように魔力が溢れ出るだろうと考え、先を越される前に巫女とスキマの妖怪が動いた。

 

 異変が起こされ、村が危ないと嘘の情報を流し、私は住人を村の広場に集めた。博麗の巫女の名を使えば、そう難しい事ではなかった。

 守る名目で内側から出れないようにする結界を作り出した後に、縛り上げた霧雨魔理沙を無理やり結界内に押し込み、村人たちの前に晒した。

 霧雨魔理沙の性格から、本人を拷問にかけても魔力を増幅させる手段としては効率が良くないと巫女達はわかっていた。だから、魔女には他人の命を握らせることにした。

 彼女の目の前に村人を一人連れ出し、一言問いかける。どう殺して欲しいか。あらゆる得物を用意し、霧雨魔理沙が否定や沈黙をした場合にはできるだけ長く苦しむように惨たらしく殺して見せた。

 お前のせいだと罵り、村人を殺す。時折二人連れ出し、どちらを生かしたいか。どちらを殺したいか尋ねることもあった。

 数人が殺されるうちに、村人たちも悟った。異変の中心に居るのが、原因となっているのが霧雨魔理沙であると。ある者は巫女と一緒に罵声を浴びせ、ある者は命乞いをする。ある者には悲哀をぶつけられる。年端も行かぬ少女には重すぎる言葉、重すぎる天秤を目の当たりにしたことで負荷がかかった。

 力が高まった魔理沙は結界を突き破って逃走を測るが、以前よりもさらに魔力が増強され、さらに私たちが血眼になって探しているとなれば、霧雨魔理沙を利用して力を得られる可能性に疑う余地がなくなる。

 幻想郷中の妖怪、妖精、魔力を扱える人間がこぞって魔女を探し出そうとした。既に力を押さえられなくなっていた彼女は十数分の逃走劇の末に、魔力による大爆発を引き起こして姿を消した。

 かなりの広範囲、それも数百メートルを吹き飛ばすほどの威力。魔力に特定の性質を持たせることのできる魔理沙であれば可能だ。だが、特定の性質を持たせられるため、時空や空間も歪んで別の世界に繋がってしまった。逃げたい思いが魔力に乗ってしまったと考えられた。

 この、爆発により、力の弱かった妖怪たちは軒並み消し飛び、脳に多大なダメージを受けた私も含めてメイドや守矢の巫女、庭師等が全身に瀕死の重傷を負った。その爆発で大切な人を失い、目的を変えた者もいれば、変わらない者もいた。

 皆、それぞれの思いを実現させるために戦っていたが、暴走した霧雨魔理沙自身に捻じ伏せられた。

 全員の夢は潰え戦う理由すらなくなったことになるが、それでも退かなかったのは、退けないところまで来ていたのもある。まだ動く体の最後の力を振り絞って、賭けに出たのもある。

 しかし、一番の理由は、各々自分でケジメをつけに行ったのだろう。散々暴れておいて、散々奪ってきておいて、目的が果たせないと分かった途端に辞めることは許されない。死ぬつもりはないため全力で戦うだろうが、始めたのであれば最後までやり抜かなければ、奪ってきた連中が報われない。

 そうでない奴もいるとは思う。目の前で行われる戦いの流れに身を任せているだけなどだ。しかし、他の世界との長い戦火で正気を失っているとはいえ、奴らは戦いどころをわかっている。

 力を手に入れることに無関係な戦いは極力避けるが、それでも戦い続けたのは、欠片ほど残された人間性からだろうか。

 

 

 殴られた衝撃で髪を束ねていたリボンが破れてしまった。立ち上がろうとしているところで長い髪が解け、広い視界を塞ぐ。風になびき、邪魔くさいことこの上ないが、そんなもので殺意は隠れない。

 立ち、振り返りながら放ってきた拳をいなした。殺気を纏った攻撃は、直撃すれば死ぬことを連想させる。死に対する恐怖を抱いてしまえば、判断力を鈍らせることになる。

 これまでの戦闘で、私にとって死とは身近な存在であり、今更その地盤が崩れることはない。掠っただけで顔の半分を吹き飛ばされるような威力のある拳を、あと一ミリでもズレれば当たってしまう距離を滑走し、小さな体には不釣り合いの巨大な白腕を掲げる魔女の脇腹にお祓い棒を叩き込んだ。

 甲高く生じる異音に、魔女の顔が一瞬で苦悶を表す。胸部が歪み、肋骨がへし折れたのが視覚からもわかる。そのまま心臓まで叩き潰そうとするが、お祓い棒が押し返された。

 魔理沙が前に進んだり、手で跳ね除けたわけではなく、肋骨が魔力によって修復されたのだ。それでもやるべきことに変わりはない。更に数度の攻撃を叩き込もうとするが、身を翻す魔女の鼻先を掠った。

 受け流すのではなく、破壊すればよかった。いなした腕が後ろから私を掴むと大きく掲げ、地面へ叩きつけて来た。弱体化しているとはいえ、博麗の巫女の加護が無ければ押し潰されて死んでいた。

 私を通り抜けた衝撃の殆どが地面に伝わり、文字通り地割れを起こした。私の背中を中心に地面に亀裂が生じ、急速に広がった。長さは数百メートルにも達し、衝撃で地層にずれが生じる。

 巨大な地震が地上で起こったのと変わらず、乾いた大地がそのままひっくり返り、平地の原型を失っていく。

 私の目が見ている情報は、最終的には脳に行く。それが境界を通して紫にも伝わっているのだろう、いくら博麗の巫女でもこの攻撃を食らって生きている訳もないため、能力で辛うじて軽減したのだろう。

 それでもダメージは身体に残り、我慢できるわけもなく咳と共に喀血した。純白に近い白腕に真っ赤な血糊がこびり付く。私を掴む腕ごと魔理沙が吹き飛ばそうと手のひらをこちらに向けた。

 撃ち抜かれる直前、握り潰される直前に、全身の筋肉の躍動と魔力を放出する爆発力を利用し、巨腕の腕を振りほどいた。

 お祓い棒と爆発で鋭い爪や指が千切れ、獲物を絞め殺そうとする蛇のように握っていた手から逃れた。この反撃を起点に魔女の懐に入り込もうとするが、半歩も進まない内に足を止めることになる。

 腕が崩壊していくが、私の攻撃が耐久能力を上回ったのではなく、魔理沙が巨腕の形状を解除したのだ。塵になっていく腕と対照的に、魔女の腰辺りからしなやかに動く白い尾が形成された。

 とがった先端が私の方へとせり出し、薙ぎ払ったお祓い棒を完璧に受け止めて見せた。やはり、あの煙草に秘密があるので間違いないようだ。使用の前後でではまるで別物だ。

 腕とは違って非常にしなりやすい尾だから砕けなかったとも考えられるが、それを差し引いたとしても強度が高い。小さな亀裂は見られてもヒビが広がり、陶器質の皮膚が剥がれ落ちることはない。

 尾を砕き、そのまま殴りに行こうとしていたが、完全に勢いを削がれてしまった。しなる尾から生み出される相当な力で薙ぎ払われる前に、自分から離れた。袖から引き抜いた複数の針を投擲するが、火花を散らして皮膚にはじき返された。

 効果はそもそも期待していなかったが、防御のために時間を割いてくれればそれだけで、次の攻撃を避けられる。体の筋肉を活用し、地面に這うように伏せた。

 空気の唸る音と周囲に生える切断された草木を残し、遅れて払われた尾がギリギリ頭上を掠め去る。目の端でようやく尾を捉えるが、湾曲して薙ぎ払われた尾は折り返して再度振るわれる。

 拳をいなした時のように、いや、それ以上に集中力を用いるだろう。薙いだ白色の尾を全力で受け流し、三度の攻撃が放たれる前に反撃に打ってでなければならない。

 お祓い棒で受け流そうとしていたはずだったが、気が付くと身体は宙を舞っていた。正面衝突するつもりでなかったのに、強烈なインパクトに踏ん張る間もない。

 地面から引き剥がされ方向感覚を失いそうになったが、宙を舞う身体を魔力で立て直した。数十メートルの最高高度に達していくようで、体に掛かる重力を感じなくなっていくのがわかる。

 打ち上げられたのが功を奏した。直撃を免れたというのに、全身の関節と言う関節を外されたように体を動かせなくなっていた。仮にこの状態で下手に地面に落下していたとしたら、自らの足で自重を支えることなど難しい。

 重く感じる体を魔力で無理やり稼動させて持ち直したが、跳躍ですぐ目の前にまで魔女が迫っている。しなやかに曲がりくねる尾が再度振るわれた。そのしなやかさから生み出される強力な薙ぎは、木すらも米粒程度に見える高さから地面に落下した。

 地面までの距離は相当あったはずだが、それまでに立て直す間がなかった。噴火の噴煙のように土煙を舞い上げ、地面に墜落する。屈辱的に地を味合わせられるのはこれで何度目か、鼻腔と口腔を通して湿った土の匂いや味をダイレクトに感じる。

 落下のダメージはあるが、下手に地面で攻撃を受けるよりは衝撃を受け流せたことで、最初の一撃よりはダメージは少なく済んだ。体の節々が痛むが、寝ていられずに飛び起きた。

 遥か上空に位置する霧雨魔理沙を見上げようとするが、視線を向けようとする直前に、長年頼りにしてきた勘がサイレンを鳴らした。

 体全体でかわすのは間に合わないと直感的に理解し、掲げたお祓い棒で振り下ろされた尾をいなし流す。得物が湾曲し、折れないかと冷や冷やしたが、掠った皮膚を抉りながらも直撃を免れた。鋭い尾棘が地面を抉り、亀裂と大穴を穿つ。

 はじき出された土塊の礫を浴びるが、痺れる手足に従って逼塞していられない。尾よりも遅れて着地してきた魔女を視界の端に捉え、尾の射程から逃れようと飛びのいた。

 針を投擲しようとするが、広範囲をひび割れさせた尾棘を地面から引き抜き、その先端を私へと向けた。強力な魔力の流れを感じた瞬間に、再度勘が働いた。

 全身に分布する筋骨格を弛緩と収縮させ、瞬発力を生み出させる。大きく身を傾かせ、撃ちだされたレーザーの弾幕を避けた。

 あと刹那の時間でも判断が遅れていれば、頭部があった位置を熱線が突き抜けた。遅れて頭部を追ってきた髪の一部を弾幕が蒸発させ、消し飛ばす。

 はるか後方にレーザーが着弾したはずだが、服越しに背を焦がす熱を感じる。射撃の角度から数百メートルは離れた場所を熱線で炙っているはずだが、それなのにこの熱量は当たった時の事を想像したくない。

 二射目を更に放とうとしているが、向きから射線を割り出すことは難しくはない。大きく前進する私に今度は胸の位置を狙ってきたが、身を翻してすり抜けた。

 十数メートルほど離れていたが、三射目を打たせる前に駆け抜けられる。懐に入ると同時にお祓い棒で霧雨魔理沙の脇腹を打ち抜いた。

「かっ…ぁぁっ…!?」

 いくら再生させることができたとしても、ダメージは感じる。明らかな苦悶の表情を浮かべ、ダメージが通ったことを示す。強化されているのは攻撃力だけで、防御能力は前とほとんど変わらない。

 胸部を保護する肋骨に、お祓い棒がさらに押し込まれる感触がする。しかし、再生能力はかなり高まっているようで、へし折って進んだ分が押し返されてしまう。

 さらに二度、瞬きする間にお祓い棒を肩と頭部に叩き込んだ。どちらも骨を粉砕する威力で、乾いた破砕音を響かせる。目が見開かれ、歯が食いしばられる様子にダメージ自体は入っているが、肉体の方はほぼ無傷と変わらない。

 うねる尾が私の頭を串刺しにしようと振り下ろされるが、後方に見える予備動作から予想していた為、後ろに飛びのいた。

 鼻先を掠める尾が地面に突き刺さるが、お祓い棒も針も効かないため反撃せずに素直に退避した。三十センチほど抉り込んでいた尾棘が、引き抜かれると先端には土塊がこびり付いている。細く尖った尾尖に魔力の流れを感じると同時に、土が溶解を経てさらには蒸発していく。

 下を向いていた尾からレーザーが放たれ、蒸気となる程の熱量を持つ熱線が地面をなぞり、後方に移動していた私の場所にまで薙ぎ払われた。

 右に移動した事で直撃は免れたが、赤を通り越して白色に発熱するレーザーの痕跡は、大地に境界線を現したように地平線の向こうにまで続いている。

 地面に残る痕跡から発する熱だけでも全身が爛れるような熱気が漏れているが、これまでの熱線の攻撃から、まだ何かあると身構えた。

 私の予感は当たり、ドロドロに溶解した地面の一部が押し上げられるように膨れ上がり始めた。札を持ちだし、身体の保護と結界による二重の防御を展開すると同時に膨れ上がった溶岩が、奥から立ち昇る炎の爆発に吹き飛んだ。

 炎を扱う妹紅を相手にした時、核融合炉を操る程度の能力を持つ路空と対峙した時でもここまでの熱気を感じたことはない。防御壁で身を守っているとは思えない熱と炎に身を包まれた。

 皮膚を焦がす炎の熱は骨にまで到達しているだろうが、左腕や左足など広範囲で焼かれているせいで、火傷の到達深度や広さまでは把握できない。

 それに加えて炎の爆発と言っても、火薬や爆発性の魔力で引き起こされたのとは違い、炎が噴き出しただけであるため、私を吹き飛ばすだけの威力が無かったのも焼かれる要因となった。

 放出された炎が過ぎ去った後には炎の残滓と、空気の温度差で発生する陽炎が揺らめいている。その状態で呼吸を行えば内部でも火傷を負ってしまうため、必死に息を止め続けた。

 持続的に熱を放っている、オレンジ色の溶解した地面から離れようとするが、足に力を込められずに地面に膝をついた。

「ぐっ…!?」

 焼かれた痛みばかり感じていたが、重度の火傷痕からくる持続的な痛みが浮き彫りとなってくる。

 腕に薄っすらと生えていたはずの産毛は残っておらず、炎に晒されて炭化した皮膚がズルリと剥がれ、焦土と化した地面に落ちた。その下からは焼けた筋肉と血管が露出し、焦げた骨から炭がポロポロと粒子が風に吹かれて消えていく。

 靴は残っているが、激しい動きをすれば焼けた素材が千切れてしまうだろう。巫女服も左側に炎の影響が出ており、腕の部分はほぼ残っていない。髪も一部が焼け落ちてしまっている。

 肌が露出している脛や手は特に火傷が酷く、左手の小指は焼け落ちて根元から千切れ、薬指は小指側の側面が炭化し、骨が見える程に剝がれてしまっている。

 指の機能はかなり低下してしまうが、薬指については魔力で無理やり稼動させてやれば使えるだろう。

 力が入らない程に、足の筋肉も火傷が奥底にまで浸潤している。魔力で無理やり動かさなければ、体を支えられない。震える足で焦げた地面を踏みしめて立ち上がると、魔女が尾をくねらせ、こちらへ向けて薙ぎ払った。

 不思議と殆ど延焼痕の無いお祓い棒で受け止めるが、焼けた足と脆くなった地面では踏ん張りがきかず、後方へ吹き飛ばされる。

 指だけでなく、腕の筋肉も炎で変質し、いつも通り柔軟性を活かして受け流すことができない。黒く変色した地面に着地して追撃に備えようとするが、片足に思ったよりも力が入らず、片膝をついてしまう。

 それでも追撃に対応できる姿勢だったため、間髪入れず腹部を貫こうとした尾を辛うじて受け流した。それでも腹部の一部を抉られてしまうが、広範囲の火傷のせいで、痛みを感じにくい。

 尾が引き戻されるまでの時間を稼ぐために、丁度半ばをお祓い棒で殴りつけた。大きく揺らいで吹き飛んでくれれば接近までの時間を稼げたが、軟体動物の触手のようにたわんで衝撃を殆ど受け流された。

 ほとんど位置が変わらず、ただの意味のない打撃となった。それでも魔女へ向かって走り出そうとした私へ、打撃でたわませた尾が帰って来た。

 逆に私が打ち払われ、赤子同然に吹き飛ばされる。きりもみして宙に投げ出されるが、方向感覚はまったく狂っていないためすぐさま立て直そうとするが、体がついて行かない。

 無様にも地面に転がり落ちた体をどうにか持ち上げようとするが、筋肉や骨が剥き出しとなった足が痛み、倒れた体を持ち上げられない。

 仰向けに倒れたまま天を仰ぎ、曇天の空を見上げた。痛みと疲労を感じ続けている身体に、回復のために魔力を浸透させる。悠長にこんなことをしている場合でないのは重々承知しているが、ここに少しでも時間を割かなければ動けなかった。

 ゆっくり、ゆっくりと傷の修復を促進させるが、魔力を使って無理やり動かさなくてもいいようになるまでには、少しかかるだろう。

 それを待ってくれるわけが無いだろう。見上げている視界の中に、白い尾が移り込むと、続いて霧雨魔理沙が顔を見せた。尻尾の先が高質化し、金属の刃へと変化する。

 私の胸を貫こうと刃の切先が向けられた。動けない事はないが、魔女が見下ろしている今、下手に動けば即座に串刺しにされるだろう。

 奥の手を使おうにも、魔力の流れで感づかれるだろう。ギリギリまで力を溜め、弾いてやる。自然とお祓い棒を握る手に力がこもり、私を屈辱的な視線で見下ろす魔女を睨み返した。

 私にまだ戦う意思があると取ったのだろう、即座に魔女が尾を振り降ろす。それに合わせ、全身の残った筋肉を使ってお祓い棒を振り抜いた。金属の刃と木製のお祓い棒が交差し、甲高い金属音を鳴らしながらお祓い棒を握る手に衝撃が走る。

 曇天を通り抜けてくる太陽の光に反射し、小さく金属片が光る。腕や尻尾の段階で、あれだけの強度があったはずの刃が砕けたのは、何かしらの意図があるのだろうか。それとも金属の性質で再現するため、そちらの方が強度が低くなっていると考えられる。

 筋肉を使った攻撃の反動で起き上がり、反撃しようとするが、切先の砕けた刀が角度を変え、私の体を両断する方が速いだろう。

「くっ…!」

 殴りに行くのを変更し、防御の姿勢を取った。強化されたお祓い棒に刃が叩きつけられた瞬間、刀の形状になっていた尾が派手に砕け散る。刃だけではなく陶器質の皮膚に亀裂が生じていくと尾の根元にまで及び、白色の身体が消え去った。

 何が起こっているのか。この状況でこんな訳の分からない事をする理由がわからない。それとも、時間を稼ぐためだったのか、強力な攻撃が来ないか魔力に意識を向けてみてもスペルカードの使用が示唆される流れは感じない。

 魔力の結晶となって消えていく陶器質の砕けた皮膚から目を離し、魔女の方を見上げると、明らかな異変が見られた。

 胸を掻き毟る様に押さえ、口を押えた。元々白かった肌の色が、さらに青白く見えるのは、明らかな体調の変化だ。

「ごぼっ…!?」

 咳と同時に口元を押さえていた手に、血がこびり付く。奴自身も体調の変化についていけないのだろう。身を屈め、苦しそうに何度も咳を繰り返す。

 喀血による血が、皮膚を伝って肘から落ちていく。一度の咳では収まる気配はなく、喘鳴を交えながら咳はどんどん酷くなっていく。

 水気のある咳を繰り返すと、それだけ手が真っ赤に染まっていく。苦しそうに身を屈めていたが遂には膝をつき、手ではなく地面に喀血をこびりつかせていく。

「惜しかったですねぇ」

 煙草を一本吸っただけで、あれだけ力の変化があったのだ。体に負担がかからない方がおかしい。咳き込み、肺の中にある血を吐き続ける魔女を見下ろした。あれだけ優勢で立ちまわっていたというのに、形勢逆転だ。

 手だけではなく、目の前の焼けた地面を血で染め上げても咳は止まらないようで、身を縮めて咳を繰り返していく。

 お祓い棒で顔面をぶん殴り、かち上げた。顔が跳ねあがり、後ろに倒れ込む。それでも血反吐を吐き続け、咳を続ける魔女には反撃の兆しはない。起き上がろうとする霧雨魔理沙の胸を焼けた靴で押さえつけた。

 攻撃をしたいのだろうが、込み上がる咳と血液を押さえられないのだろう。口元を乾いた音と共に赤く染める。酸欠も起こしているのか、朦朧とした視線で見上げて来た。

 せめてもの情けだ。最後は苦しまないように、一瞬で殺してあげよう。右手の袖から針を取り出した。魔力で強化された頭蓋を貫くのは難しいが、眼球を通せば楽に脳天を貫ける。

「さぁ、これで終わりねぇ」

 強化された針を逆手に持ち、半分は焼けて骨が露出している左手で、咳き込むごとに動く頭を地面に押し付けた。口元が血で汚れ、私が手を下さずともそのまま死んでしまいそうな魔女の右目に針を添えた。

 瞳に当たるか当たらないかの距離感を保っているが、魔女が咳きこんで動くせいで当たってしまいそうだ。どちらにせよ刺すつもりであるから、別に構わないか。

 左足で胸を押さえ、右足で腕を押さえているが、逆側の腕は拘束していない。魔女が針を握る手を掴み、押し返そうとしてくる。先ほどまでの強化された力が無いのに加え、私は体重をかけていることで数ミリずつ彼女の瞳へと針の先端が近づいていく。

 顔を捻ろうとしても、しっかりと押さえている事で向きを変えられない様子だ。咳で頭部が動き、それによって刺さってしまうと言った距離まで近づいた。もう一押ししようとしたところで、自分と魔女に影がかかる。

「…随分と可愛がってくれたみたいね…!」

 骨を通して聴いている声と、鼓膜を通して聞くのではだいぶ違うが、自分のだと認識できる声がすぐ近くで聞こえて来た。

 邪魔される前に魔女を殺そうと、更に全体重をかけて針を頭部に抉り込ませようとするが、針の先端がお祓い棒の強打でへし折れ、振り下ろそうとしていた腕を跳ね上げられる。

「ぐっ…!?」

 何重もの結界で閉じ込めて来たというのにもう脱出して来るとは、予想以上に力を持っている。いや、私が魔女一人を始末するのに時間をかけ過ぎたのだ。

 怒髪天と言える程に怒りを見せる博麗の巫女が、私へお祓い棒を振るう。一撃目は肩に食らい、鈍い痛みが腕や胸にまで到達するが、二撃目は後方に飛びのいてかわした。

 魔女を殺せなかったのは痛手だが、あの様子では戦闘に参加するのはだいぶ時間がかかるだろう。その内に、私はゆっくり博麗の巫女を料理してあげればいい。

 こちらも負傷はしているが、一人ずつ相手にするのであれば問題はほぼ無い。優しく魔女を抱き起す博麗の巫女を見ながら、握っていた部分だけが残された針を捨てた。

「次はあなたかしらぁ?…結果は見えてると思うけどやるのかしらぁ?」

 二人が合わさればかなりの脅威となるが、その片割れは地面に寝かせられている。未だに咳も続き、例え復帰できたとしても戦力になるかどうかも怪しい所。

「…ええ」

 相当頭に来ているのか、額に青筋を浮かべた博麗の巫女が立ち上がる。こちらを見据え、霧雨魔理沙から離れると、お互いの間合いのギリギリ外に陣取った。

 先の一撃、衝撃は殆ど逃したはずだが、右肩が外れてしまっている。こいつも魔女と同じく、互いのために力を発揮するタイプか。あそこで殺していれば、絶望して戦意を喪失していただろうが、中途半端にしてしまったせいで逆に火がついてしまった。

 左手で右肩の骨を入れ、関節の稼働に問題が無いか軽く回して確認する。こちらもお祓い棒を握り、冷徹に睨んで来る巫女を見据える。

 面倒なタイプであるが、そうと分かっているのであれば、私は油断はしない。全力で叩き潰すのみ。

 腹が立っているのはこちらも同じだ。邪魔ばかりしてくれて、そのお礼をこれからの戦闘で返してあげるとしよう。

 開始のゴングはならなかったが、飛び出すタイミングはほぼ一緒だった。進みながら攻撃を仕掛け、今しがたやられた右肩を狙ってこちらはお祓い棒を薙ぎ払う。

 巫女の攻撃は、私が半歩も進む前にこちらに到達し、胸を打ち抜いてきた。防御の事など考えていなかったため、強烈な一撃に上体が後ろに傾いた。

「あがっ…!?」

 骨が折れなかったのは奇跡だ。肋骨の歪みで呼吸ができず、息が詰まる。体内を衝撃が闊歩しているらしく、胃がフラフープでもしているようで、思わず嘔吐しそうになった。

 奥歯を噛み締めて嘔吐感を押し沈め、追撃を避けるために視線を巫女へ向けようとするが、伸ばされた手が視界を塞いだ。

 足を払われ、後頭部を地面に叩きつけられた。石でも転がっていたのか、鈍い痛みが何度も前頭部と後頭部を往復し、目の前に星がチラついた。

「はや……!?」

 記憶の中にある巫女の速度とかけ離れていたため、反応が大きく遅れた。強化されているはずの頭蓋骨から、異音が響く。怒りに身を任せているのか、そのまま骨まで潰されてしまう。

「放せぇ!!」

 目の前にいる巫女を蹴り飛ばし、引き離そうとするが、伸び切った足に何かが接触する感触はなく、この至近距離でもかわされた。伸びた足と腹部にお祓い棒が叩き込まれ、怯んでいる隙に投げ飛ばされた。

 投げられる直前に体を捻り、握る手からすり抜けた。空中で体勢を立て直し、着地と同時に針と札を取り出そうとするが、掴む直前でその手を打ち払われる。

 取り落とした道具が地面に刺さるよりも早く、今度は私から動き出した。落下していく得物になど目もくれず、お祓い棒を振るう。瞬きする間に二度も得物を叩き込む。負傷している事を差し引いても、これまでの巫女であれば攻撃を食らわせられたはずだった。

 攻撃を与えるどころか全て受け流され、逆にお祓い棒を何度も食らうことになる。腹部に、顔に、胸部に、私が与えた回数の倍以上もの攻撃が叩き込まれた。

「がっ…!?」

 強力な打撃で後ろへ吹き飛びそうになった私の腕を掴み、引き寄せながら更なる打撃を繰り出してきた。吹き飛ぶことなど許さず、打撃に撃ち抜かれ続ける。

 防御をしてもすり抜けられてしまうため、攻撃も防御も考えず、受けた攻撃を受け流すことに専念した。それでも体に入るダメージは大きく、顔に叩き込まれたお祓い棒により吹き飛ばされた。空中で体勢を立て直そうとしたが、体が言うことを聞かずに地面に倒れ込んだ。

 攻撃されるうちにかなりのダメージを負ったのか、込み上げて来た血を地面に吐き出した。

 十年かけ、無数の世界を滅ぼしてきた。その中で、ここまで私を追い詰めたのは、こいつらが初めてだ。今までは三下だと見くびっていたが、この二人を自分と同じかそれ以上の存在と認識する。

 息があるためか、巫女が変わらず歩み寄ってくる。私に止めを刺そうとしているが、これで終わると思って貰っては困る。起き上がりながら、奥の手であるスペルカードを取りだした。

 強力な魔力の流れから、気取られてはいる。スペルカードを起動する前に叩くつもりだろうが、後方に飛びのいた後に接近しようとしても遅い。

 淡青色に輝きだしたカードを握り潰し、回路を抽出。スペルカードを起動し、回路の性質を発現させた。

「奕世『祖の返り』」

 




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