それでもええで!
と言う方のみ第百九十五話をお楽しみください!
今回も、少しオリジナルの要素が強いかもしれません。
まるで世界が違う。
これまでの力とは桁違いの、化け物じみた無限とも思える力が体を駆け抜ける。先ほどまでの疲労感が殆ど薄れており、全身に力が満ち満ちていく。
これまでも他の人物よりも強い事は多少感じていたが、それですら一つ前の次元と言っていい。戦う異次元霊夢の動きが遅く見える。
だが、勘違いしてはいけないのは、これまでに負った怪我は治ったわけではない。先ほど抜こうとしたことで少しずれてしまったのだが、前のめりに倒れ込んだことで針を更に押し込み、動脈に空いた穴を得物で防いだようだ。
本来なら、この姿勢から動かずに治療を施すのが適切だろうが、戦いの現場に幻想郷どころか世界でも一番であろう医者はいない。だからといって戦えないと、泣き言を言っている場合ではない。
突き刺さった針が抜けないように筋肉で締め付け、お祓い棒を構えながら身を屈めた。殴られ過ぎて血を吐く魔理沙に、異次元霊夢が攻撃を加えようとしているのが見える。息を吐き、肺一杯に息を吸い込むと同時に走り出した。
奴が武器を振り下ろしてから走り出しており、今までの感覚では絶対に間に合うことはできなかったはずだった。奴の動きが遅く、思っている以上のスピードで十数メートルの距離を詰められた。
ゆっくりと魔理沙に振り下ろしていく異次元霊夢の得物を、後ろから伸ばした手で掴み止める。脇腹に刺した針でもう動けないと思っていたようで、いきなり止められたことで困惑しているのが見て取れる。
だが、人間としては早すぎる速度で反応し、扉を開ける前の私であれば成すすべなく地に伏せていたであろう連撃を繰り出してきた。先までは目の端で捉えるのがやっとだったというのに、今では蠅が止まってしまうぐらいには遅い。
あらゆる情報が頭の中を駆け抜けていくため、異次元霊夢の得物を振り抜くタイミングや角度、狙っている場所が手に取る様にわかる。攻撃の合間に得物を握る焼け焦げた手を素手ではたき落とし、蹴りを打ち込んだ。
これまでの感覚で放ったが、残像を残して異次元霊夢は小さく吹き飛んでいく。力を開放していないのと、しているのとではこれほどの差があるのかと、吹き飛ばした私がおどろしていしまう。
「…大丈夫?」
口元や鼻から流れる血を拭っていた魔理沙に手を差し出した。傷だらけではあるが、魔力による修復によりほとんど完治しているようだ。しかし、ダメージ自体は残っているらしく、苦しそうに私に引っ張り起こされた。
「いや……まったく…」
それは私も同じで、あまり激しい動きをすれば死ぬ可能性が常に付きまとっているのだ。とは言え彼女も私が居ない間にかなりボコボコにされていた為、ほぼ変わらないか私よりも悪いだろう。
「でも…勝てる可能性が見えて来たな」
私の様子や気配、戦闘が全く異なっている事で、巫女としての本当の力を発揮していると分かったらしい。苦し紛れに少し笑って見せた。
「…ええ」
私の蹴りが相当効いたのか、数十メートル先に転がる異次元霊夢はなかなか起きる気配はないが、何かしているのは何となく伺える。このまま戦闘を再開させたいが、魔理沙が息を整えるのに時間を使った。
軽く咳き込んでいるがようやく喀血は収まったようで、血を吐くことはない。魔理沙が奴に向けて歩き出し、次第に速度を上げていく。私もそれに合わせて並走し、戦闘の準備を整えた。
「このまま、押し切るぜ」
走りながら魔理沙が手のひらに集めた魔力をレーザーへ変換し、前方で膝をついていた異次元霊夢へ放つ。光の速度で放たれた熱線が、地面を焼き焦がしながら薙ぎ払われるが、標的は空へ向けて高々に跳躍し、そのまま飛行へと移る。
私たちの方向へ向かってくるかに思われたが、後方へと飛びのくと、村へ向けて一直線に飛行を始めた。逃げる際にこちらへ針や札の弾幕を数本投擲していたようで、魔理沙が衝撃波で撃ち落とそうとするが、避けた方が速い。
弾幕を撃ち返そうとする魔理沙を抱きかかえ、異次元霊夢を追う形で空中へ跳躍した。針が掠りかけるが、魔理沙に当たっていないのであれば問題ない。
こちらからも弾幕をいくつも放ち、異次元霊夢を撃ち落とそうとするが、レーザーや魔力の弾丸を上手く避けてさらにスピードを上げていく。勝てないと分かったから逃げているというのとは違うように感じる。
「…あいつ…何を……」
逃げるにしても、この世界からでるのであれば太陽の畑へと向かうはず。その反対方向と言える村に向かうのには何か秘策があるのだろう。もしくは、村人を人質に取るつもりか。
人質を取られればこちらも動きずらくなる。どうにかして足止めするか、撃ち落とさなければならない。そう思っていたが、顔を青ざめさせていく魔理沙が呟いた。
「あの魔力は……!」
そう言われ、奴の魔力に目を向けて私も気が付いた。膨大な魔力な流れを感じると同時に、知ってはいるが使ったことの無い波長を感じる。
「あいつ…無想転生を使うつもりだ!」
無想転生は博麗の巫女の切り札だ。本来なら、奴が一切の攻撃を受け付けない状態へと移行していくのだが、魔力の性質がわかる魔理沙の様子からそちらではないのが伺える。
この技は二種類あるのだ。いつも私が戦っている状態は言わば通常状態といえる。今を覚醒状態とするのであれば、通常と覚醒で無想転生は異なってくる。
博麗の巫女の力が二段階になっているのは、フィルターの様な要素が強い。通常では無敵状態となって眼前の敵を打ち砕くのだが、これを使うという事は通常状態では手に負えない可能性を示唆しているからだ。
さらに、覚醒状態でそれを発動するという事は、最早、博麗の巫女でも敵を押さえることができないという事となる。幻想郷を明け渡すのであれば、脅威を幻想郷ごと全て吹き飛ばして滅する、本当の最後の切り札となるのだ。
これを作り出した博麗の巫女は人命ではなく、世界を取ったのだ。この世界が無ければそもそも人は生きられないが、人がいなくとも世界が残れば幻想郷は辛うじて存続して再建することができるからだ。
他の妖精妖怪、人間などをまとめて巻き込むこの技は、幻想郷に重大な損害を与える。ある意味では、覚醒状態で無想転生をする時点で敗色が濃厚となるため、幸運にもこれまでに使われることはなかった。
しかし、異次元霊夢は本来とはかけ離れた使い方をしようとしている。自分の世界を守るためではなく、他の世界を壊すために。
かなり離れてしまっているため、このまま邪魔をしなければ村でスペルカードが発動してしまう。我々と異次元霊夢の飛行速度は変わらないため、どうにかして足止めをしなければ追い付けない。
日差しがあるわけでも気温が高いわけでもないのに汗が流れるのは、生存本能を刺激されることによる冷汗だろう。
「霊夢!掴まれ!」
空に跳躍してからは離れていたが、魔理沙が接近してくると私の手を掴み加速する。彼女もそこまで速いはずではなかったと思っていたが、かなりの加速を見せる。
彼女が高速移動して引っ張られているのではなく、私自身も加速している。魔理沙特有のあらゆる性質を与える魔力により、二人の時間が加速しているのだ。
これまでやらなかったのは、接近戦ばかりで異次元霊夢を加速した時間に巻き込んでしまって意味がなかったからだろう。それに加え、かなり能力が及ぶ範囲も狭いようだ。
普通に飛行するよりも素早い速度で、スペルカードを握る異次元霊夢へと到達した。彼女が私を投げ、私も前に飛び出し、加速した一撃を異次元の巫女へ叩き込んだ。
「くっ…!?」
「…そう簡単にやらせるわけがないでしょう……!」
通常状態は普段のスペルカードと変わらないが、覚醒状態では世界諸共破壊するため、発動するのにある程度制約がある。発動までに時間がかかるのもその特色に一つだ。
それまでの間に異次元霊夢が持つスペルカードを破壊するか、取り上げれば無想転生の発動を阻止できる。
接近した私へお祓い棒を握る異次元霊夢の迎撃が放たれる。左右に体を捩じり、瞬きする間に複数回振り抜かれた得物を避け切った。
大振りで横なぎの打撃を、間合いの内側へ入り込んで素手で受け止めた。覚醒した私にかなわないと分かり、逃げたとしても戦意はまだまだ消失していないのが太刀筋からもわかる。
異次元霊夢の握るスペルカード目掛けて攻撃を打ち出すが、狙いがわかっているため、ひらりとかわされた。時を加速させ、なんとか私たちの戦いについて来ている魔理沙も弾幕を撃つが、覚醒に近い状態の異次元霊夢はお祓い棒で掻き消した。
エネルギー弾も弾幕の中に混じっているが、衝撃に吹き飛ばされることなく容易に対処している。彼女も徐々に覚醒状態に慣れ始めているようだ。
得物を交えながらチラリと眼下へ目を向けた。追っていく過程で既に村の領空内に入ってしまっており、村人たちが上空にいる私たちから逃げようとあわただしくしているのが見える。
一度起動してしまえばどこに逃げても変わらないが、この戦闘に巻き込まないようにするためにも、避難は迅速に行ってもらいたいものだ。
奴の攻撃をかわし、腹部へ向けて打撃を食らわせた。当たりはしたが、受け流しをされているのはお祓い棒越しに感じているため、見た目よりもダメージは少ないだろう。奴が反撃しようとする寸前で身を翻すと、私に当たらないギリギリをレーザーが薙ぎ払われた。
どちらも巫女の力を最大まで発揮しているのであれば、力関係は拮抗して決着は絶対に着かなかっただろう。だが、決着がつく要因としてこちら側には魔理沙がおり、それはどちらの意味にでも変わることを察している。
身を翻していた異次元霊夢は、弾幕を放っていた魔理沙に一直線に向かっていく。逃げても時の加速ですぐに追い付かれるため、最初に潰そうと考えているのだろう。
先ほど私が刺されたことで、彼女もある程度は力が戻っているのだろう。衰えはあるとしても攻撃が多少は強力になっている。
魔力の性質を弄れる彼女は、実に多彩な戦い方をする。天に掲げた左手に集められていた魔力に性質を与えられ、白色の放電を瞬かせた。その瞬間曇天の空から、人間一人なら易々と飲み込めるであろう巨大な雷が雷光と共に落ちて来た。
遠くに落ちる音はよく聞くが、数メートルの近距離に落ちたのは聞いた事もない。殆ど爆発音と変わらず、光も目を覆わなければならない程に眩い。
雷光も雷の道筋も一瞬で消えてなくなるが、網膜に焼き付いた残像はそう簡単に消えない。それでも耳に残る残響にかき消されそうになりつつも、異次元霊夢の戦う音は聞こえている。
お祓い棒が何かを殴る乾いた音と言うよりも、金属が打ち合わさる劈く金属音が響く。残像が薄れていく中で、異次元霊夢の周囲にいくつものナイフが出現しているのが見えた。
あの落雷はフェイクだったようだ。ダメージと言うよりも、目を眩ませるための囮であり、本番はここから。
周囲に配置された大量のナイフが魔理沙の命令に従い、一斉に異次元霊夢へと向かっていく。その程度では今更奴を殺すことはできないが、足を止めさせるのには十分だ。
全てのナイフを弾き落とした異次元霊夢は魔理沙へお祓い棒を振るうが、自分の時間を加速している彼女は意外にも攻撃を避けて見せる。
だが、連撃となるとそうもいかない。一度か二度避けることはできたが、三度四度となるとお祓い棒に捉えられた。掠る程度ではあるが、これ以上食らえば体勢が崩れることには違いない。五度目を食らう前に二人の間に体を滑り込ませ、お祓い棒を受け止めた。
攻撃事態は受け流せるがタックルに近い突撃で押し込まれ、後方で怯む魔理沙に背中がぶつかってしまう。私に当たらない角度でレーザーで反撃してくれるが、熱線を打ち消すと同時に強い魔力の流れを感じた。
無想転生が起動したのかと思ったが、それにしては魔力の流れが少ない。奴も時間を稼ぐつもりなのだろうが、敵が目の前にいる距離で使用させる程に体が動かないわけではない。
スペルカード起動を阻止しようとするが、奴がこちらに向けてスペルカードではない弾幕を放った。一人であれば容易く躱せるが、後方には魔理沙がいる。確実に迎え撃たなければならず、針や魔力の弾幕をお祓い棒で打ち落とした。
その内に私の懐に潜り込んだ異次元霊夢が、スペルカードを砕きながら腹部へと打撃を放ってきた。打撃を受けるのに間に合わせることはできたが、ギリギリであったため衝撃を逃し切れず、僅かな時間であるが反撃までに時間を要した。
攻撃に移るまでの短時間で異次元霊夢はスペルカードを起動し、魔理沙がナイフでやったように周囲に大量の弾幕を出現させる。
「霊符『夢想封印』」
現れたそれらが一斉に自分たちへと殺到する前に、お祓い棒で破壊しようとするが、生成されると同時に球体の発する光が強まると、閃光と共に爆発を起こした。
魔力による爆発は瞬く間に私たちを包み込むが、爆発の派手さの割に殆どダメージを受けていない事に気が付いた。やられた、爆発の炎で異次元霊夢の姿が見えなくなった。奴の目的は私たちの目を塞ぐこと。
「あぐっ!?」
奴の位置を探ろうとした矢先、後方にいたはずの魔理沙が攻撃を受けた悲鳴が耳に届く。声の流れから、横へ吹き飛ばされてしまったようだ。振り返りながら異次元霊夢へ反撃しようとするが、その途中で背中へ打撃が振り下ろされた。
「ぐっ!?」
重力に逆らって体を浮かせていたが、重力方向へと叩き落されるのは自由落下も相まって立て直しが難しい。斜めに撃ち下ろされ、地面へと落下してしまった。
村の外では草木などで地面が剥き出しになっている所は少なかったが、綺麗に舗装された道では地面が露出しており、綺麗に均された道を墜落の衝撃で破壊した。
石やコンクリートで舗装されていれば、今ので大けがを負っていただろう。地面であったため、落ちたエネルギーの殆どが柔らかい土に拡散し、ダメージは無いに等しい。
だが、地面に打ち付けられた反作用で体が浮き上がり、自分で作った大穴から飛び出すが、まだ止まれない。何度かバウンドし、転がりながら民家の壁へ背中を打ち付けてようやく止まった。
「くっ…!」
周りに人がいないのが幸いで、巻き込むことはなかった。道の遠くにはまだ避難中の人影が見えるが、戦闘次第でそちらにも影響が出てしまうため、すぐに空に戻らなければならない。
脇腹に刺さっている針を庇って受け身があまりとれていなかったが、不思議と痛みを感じない。ダメージをあまり受けなかったのかとも思ったが、刺さっている針の痛みが強いせいだ。
その予想通り、ダメージで重たく感じる体を持ち上げ、亀裂の入っている木の外壁へ寄りかかった。かなり無理をして動いていたが、動脈の一部をまだ塞いでくれているおかげで大量出血は起こしていない。
一息ついて疲労を回復させたいが、魔理沙にばかり戦わせるわけにはいかないため戦闘に戻ろうとした。逃げていく村人にばかり注目が行っていたが、視線を戻す過程で近くの家の陰に見慣れた妖怪の姿を見つけた。
昔は、能力で惑わせて盲目にさせた人を、自分の提供する料理にて治すという悪徳業者もびっくりな手法で儲けていた夜雀が、開きっぱなしとなった扉の陰で縮こまっていた。
人間に対してあまり良い印象を持っていなかったはずだが、なんだかんだであらゆる人間と関わるため、無意識にここに来てしまったのだろうか。
「…ミスティア……ここは危ないから、早く逃げた方がいいわよ」
私がそう言うと頭を抱えて蹲っていた彼女は、普段の明るさからは考えられない程暗い顔をこちらに向ける。
大妖精たちと一緒だったはずだが、周りには見当たらない。上げた顔は疲れ切り、瞼は腫れている。ずっと泣いていたのだろうか。
彼女、彼女達の身に何かがあったのは、状況が説明してくれている。そして、ミスティア自身の言葉で。
「霊夢さん……。私は……なんで生き残っちゃったんでしょうか…」
虚ろな目だ。やはり、彼女の身内に不幸があったらしい。少し似た目の色を私は見たことがある。主を失った咲夜や妖夢から、復讐心が抜けたとしたら、そんな目になるだろう。
「…さあね。でも、あんたを生き残らせてくれた子たちが、そう願ったからじゃないかしら」
立ち上がり、魔力で体を浮き上がらせながら答えるが、ミスティアを突き動かすだけの言葉には成り得ない。
「…もう行くわ。あんたも逃げなさい…助けてくれた子たちが無駄死ににならないように」
そう呟くと、座り込んでいたミスティアの瞳にじんわりと涙が溢れてくる。言葉が悪かった。泣かせてしまって申し訳が無くなるが、謝るのは戦った後にしよう。
ミスティアを残して上昇するが、ここから上空へ戻るのに時間がかかるのはどう計算しても変わらない。奴もそれがわかっているから、時を少し操れる魔理沙と私を引き離した。
体勢を立て直し、時間がかかってでも異次元霊夢の元に戻ろうとした時だ。奴から感じていたあの魔力が増幅し、起動の準備が整ったのを魔力の流れから感じた。
「…間に合わなかった……!」
ミスティアに気が付かなかったとしても、私が舞い戻る前にスペルカードは起動してしまっていただろう。魔理沙も異次元霊夢から離れた位置にいるため、スペルカードを壊すことも奪うこともこの段階ではできない。
自分の死期を感じ、本能がざわつくのを感じた。無想転生の流れを知っているからこそ、ここからでは何もできないと脳が察してしまっている。
奴が発動した無想転生を、こちらも無想転生を発動することで相殺するなどと言った簡単な話ではない。そもそもが全てを犠牲にするスペルカードであるため、そういった使用はできない。
同じ世界で同時に無想転生が起こることを想定して作られていないため、仮に無想転生を発動していたとしても、被害がただ大きくなるだけとなる。
「っ…!」
今から進んでも間に合うはずもなく、どれだけ速度に特化させた弾幕でも発動の方が速い。私は飛んで上昇していたのを引き返し、幽鬼のような足取りで村から離れようとしているミスティアの元に急いで戻った。
「…ミスティア!」
私が戻ってきたことに驚いているが、焦っている様子からいきなり掴んだ手に抵抗の様子はない。ミスティアを自分の後ろへ誘導し、自分と一緒に結界で囲った。スペルカードをこれで防げるわけもなく、本当の気休めだ。
上空を見上げると、殴られたところから立て直した魔理沙は、私と異次元霊夢の間に陣取り、取り出したスペルカードを握り潰している。これからスペルカードを起動しても奴の発動には間に合わなさそうだったが、自分の時を速めたのだろう。
通常よりも倍は早い速度でスペルカードを起動し、どれだけ大きな化け物でも飲み込めるであろう極太のレーザーを照射した。
人間どころかただの妖怪なら一瞬で消し飛ぶ威力があるのが伺える。奴のスペルカードの発動前に滑り込んだ形となり、レーザーが異次元霊夢を包み込んだ瞬間だ。魔理沙が発動してくれたスペルカードを物ともせず、膨大な量の魔力が周囲へ膨れ上がると巨大な爆発を引き起こした。
空中で起こった爆発は、丁度真下の位置に生えていた木や家をぺしゃんこに潰し、周囲のすべてを薙ぎ払う。地面は巨大な隕石が落下したかのように広範囲でめくり返ると、衝撃波に空に打ち上げられていく。
異次元世界の河童が起こした爆発など比較にならない程だ。向こうの紅魔館では、窓ガラスと少し壊れていた壁が崩れる程度だった。だが、今回は近くを流れる川や池も原型が無くなり、村が直接見える範囲にある建物は軒並み破壊され尽くすことだろう。
いや、それで済んだらいい方かもしれない。山を挟んだり、永遠亭のように大量の木々による防風林が無ければ、何も残らなくなるはずだ。
吹き飛ばされていく家々や人々、大地の中には私達も例外なく含まれている。結界は衝撃に耐えきれずに完膚なきまでに破壊され、中にいた私たちはバランスを崩された。間髪入れずに到達した爆風に、足元を掬われてしまう。
すぐにミスティアの位置どころか、自分がどこまで吹き飛ばされていくのかがわからなくなった。回る視界の中で一瞬だけ見えたのは、放たれていたレーザーが掻き消され、今度は魔理沙の方が異次元霊夢のスペルカードに飲み込まれた。
私の魔理沙を呼ぶ叫び声は、鼓膜が裂けそうになるほどの爆音にかき消され、衝撃波で強かと全身を打ちのめされて叫びに使った息を吸うこともできなくなっていた。
幻想郷を破壊する力はこの程度ではないだろう。衝撃波だけで意識が飛ばされそうだったが、異次元霊夢を中心にして膨れ上がった魔力の炎は更に広がりを続け、二度目の爆発を起こした。
一度目の爆発で発生した大量の炎が、二度目の爆発によって周囲へ拡散を始める。全てを飲み込み、無機物や有機物関係なく飲み込み、燃やし尽くすだろう。
拡散する炎に燃やし尽くされる前に、二回目発生した爆発の衝撃がこちらに到達する。あらゆる痛みを感じているせいで麻痺していると思っていたが、それ以上のダメージだったのだろう。
先ほどの比ではない。これまでのどの攻撃よりも強烈な衝撃が体の中を突き抜け、辛うじて繋ぎ止められた意識だったが儚く奪われる。何の抵抗もできなくなった私は、二度目の爆発で四方八方に広がる炎に飲み込まれた。
次の投稿は2/11の予定です。
なんだか、いろいろと設定や流れを忘れてしまっている気がします。