ここから3~4話ほど、毎日投稿するのでどうかお付き合いください。
予定通りに行けば、次の投稿は2/19です。
自由気ままに好き勝手にやっております!
それでもええで!
と言う方のみ、第百九十六話をお楽しみください!
「怖いですか?」
何もない空間。意識しかない空間で、私に話しかけてくるのはよく似た境遇、良く似た状況の人物からだ。
「当り前ですよ。死を、二度も経験しようとしているわけですから。それも、自分から」
隣にいるメイド服の女性にそう呟くと、そうですね。その一言で返されてしまった。彼女は私と違い、覚悟が決まっているのだろう。
「意外ですね。人間と違って死が身近ではないので、もっと淡泊に考えていると思っていましたよ。妖夢」
「咲夜さん。逆ですよ…長いからこそ、生にしがみ付きたくなる。いざそこに立つと怖気づいちゃうんですよ」
私がそう答えるとあまり興味なさそうに相槌を打ち、しばらくの間、沈黙が訪れる。魔力を消費してわざわざこちらに干渉してきたわけで、そんな他愛もない話をしに来たわけではないはず。
「咲夜さん。それで、何の用ですか?」
「……。彼女の言葉に、納得はしていますか?」
咲夜さんの指している彼女と言うのは、私たちを連れて歩く魔女の事だ。今は異次元霊夢と戦闘を繰り広げており、かなり押されている印象だ。
「そうですね…。理解はしています……ただ、しっかりと仇を討ちたかった意味では、納得できていません」
一度は異次元妖夢を討ち取った。なのに奴は異次元幽々子の能力によって、再度現世へと舞い戻ってしまった。それでは、決着を付けられていない。
「まあ、私もそうです。……ただ……魔理沙のいう事もわかります。敵を打ち倒したいのは、私達だけじゃないですよ」
そう言われるとそうだ。残された人達は自らの手で決着をつけることができなくなり、わだかまりだけが残り、進むためのきっかけを奪うことになってしまう。
だが、残された者がいればの話だ。私の場合は幽々子様の仇を取ってくれる人物、取れる人物などいるのだろうか。仲の良かった鈴仙も死んでしまっており、誰が好き好んで赤の他人のために戦うというのか。
「まあ…妖夢が渋っているのはわかります。仇を取ってくれる人がいないと思われるんですよね?…ですが、現時点で奴がこの場に現れていないのが、誰かが戦っている理由ではないですか?」
「……」
二度、いや、三度も戦ったからわかる。我慢を知らない奴が、この状況を指を咥えて見ているはずがない。絶対に前線へ踏み出してくるはずだ。
「そうですね…そうであることを願います」
私が思い描く形でなくとも、誰かが思い知らせてくれているのであれば、願いを届けてくれているのであれば、それもまた敵討ちの形か。
戦っているのが誰かもわからないが、しっかりと我々の怒りを絶望を思い知らせてくれている事を切に願う。覚悟を心に決め、彼女に続けて言った。
「わざわざすみませんでした」
「気にしなくていいですよ」
そう微笑んでくれる彼女に礼を伝え、外の状況に目を向ける。異次元霊夢が無想転生を起動しようとしているのがわかるが、戦う二人が私たちの知る技をこれからされようとしている焦り方ではない。
魔力で魔理沙の思考を拾い上げ、どういったことが起こるのかを読み取った。凄まじい爆発を引き起こそうとしており、敵を幻想郷ごと吹き飛ばすつもりらしい。
「咲夜さん」
「ええ、わかっています。一度は私たちの目的を果たしてくれました。その借りをここで返しましょう」
私の思っていた事を察し、否定することなく頷いてくれた。あれだけの魔力を使っての爆発となれば、異次元世界の河童と戦った時の比ではないはず。それを押さえ込むとなれば、私たちは全ての魔力を消費して存在ごと消え失せることになるだろう。
「はい、残された人が明日を生きる道を作るために!」
異次元霊夢が発動しようとしているスペルカードを押さえ込むために、私は全身全霊を持って二人を幇助しようとした時、咲夜さんが私に手のひらを差し出した。
「どうかしましたか?」
「いえ…ただ……よかったら手を握っていただけると助かります」
咲夜さんは表情が変わりにくい。だから誤解されることもある。彼女はとうの昔に覚悟を決め、死を恐れていないと勝手に思っていたが、そんなことはなかった。見た目以上に大人びているが、中身は年相応の少女だ。
「私も、そうしていただけると心強いです…咲夜さん」
不安の表れか、少しだけ震えている彼女の手を握り、最後の大仕事へと掛かる。私たちはこれで終わる。怖い、凄く怖いが、やり遂げなければここまで来た意味が無い。わかっていても緊張してしまっている私の手を、咲夜さんは強く握ってくれた。
「何か、心残りはありますか?」
爆発のタイミングまではまだ時間がある。私の緊張を解す為か、咲夜さんが不意に声をかけて来た。
「…彼女なら約束を守ってくれるとは思いますが、この異変の顛末を見ることができない事ですかね。……ああ、もう一つあります」
「何ですか?」
「魔理沙に…しっかりと謝罪をしてなかったと、思いまして」
私は死ぬ寸前の記憶をそのまま引き継いでいるため、まさか魔理沙が仲間だと思ってもおらず、彼女の体を乗っ取って負傷させてしまった。そのことをまだ謝っていなかったのを、ふと思い出したのだ。
「それならば、これで恩を返せばいいのではないですか?」
「はい…!」
世界を壊すほどの力と言うのがどれほどなのかはわからない。私たち二人の力を合わせても全く足りない可能性も零ではない。不安は残る。しかし、臆して進まずに死ぬよりも、進んで死ぬ方がマシだ。
「巫女が戦況を賭けて最後の切り札を使うというのであれば、私たちは生涯を懸けて応えましょう」
幻想郷全土にかつてない程の轟音が轟いた。地続きで繋がっている世界は勿論、冥界から地獄、天界から魔界まで。幻想郷から行くことのできる世界全土に、耳を覆っていなければ失神してしまいそうになる音が響き渡る。
衝撃は博麗大結界を突き抜けて外の世界で災害を起こし、僅かであるが地上から遥か彼方で回っている月にまでそれは及んだ。
爆風があらゆる物体を吹き飛ばし、発生した衝撃波が無差別に対象を打ち砕く。爆発に近ければ近い程に威力は高まり、大地に深い傷跡を形成した。
なだらかに続いていた丘は衝撃に削り取られ、池や川よりも高度が低くなっている。近くの山は爆風で木々は全て大地から引き抜かれ、岩肌が露出してしまった。遠くに位置していたとしても木々の大部分がなぎ倒され、誰が見ても甚大な被害を被っている。
爆発によって生態系にも大きなダメージが刻まれており、森を闊歩する野生動物、池や川を泳ぐ淡水魚など、地中を塒にする動物もまとめて吹き飛ばされたはずだ。
無想転生はその名の通り今いる全てを破壊して次へ転生する、犠牲を主軸とする死の世界へ変貌させる技だ。
あらゆる動植物を滅し、あらゆる人間を殺したが、何の罪悪感も沸き上がらない。あるのはただ、成功への歓喜だけだった。
力を完全に受け継げなかった私は祖母や母から蔑まれ、家系の汚点だと罵られた。しかし、私はその二人では至ることすらなかった頂にいる。そして、その奥義まで発動することに成功した。
私は、あれらとは違う。覚醒状態にすら至れなかったとなれば、どちらが家系としての面汚しか考えるまでもないだろう。
「あは……あははは!……あはははははははははははははっ!!」
音と言えば、爆発音の残響と衝撃の地鳴りだけだったが、そこに私の笑い声が重なった。風の音も、動物の活動する音も、水の流れる音も、地滑りを起こして崩れていく山々の音も、地鳴りと爆発音で聞こえていなかったが、笑い声だけが嫌に透き通る。
爆発の影響は地表だけではなく、曇天で太陽の光を遮っていた雲は爆風に押しのけられ、今では目が醒める程の快晴へと気候が変化している。大地を抉り取る強さもそうだが、天候に影響を与えるところからも、威力の高さが伺える。
爆風は地面から砂煙を広範囲で舞い上げ、上空からは地表が見えなくなった。村があった地点が一番砂塵が多く舞い上がっており、砂嵐が突如として発生したような状況になった。
村だった場所が砂煙で覆われていたとしても、苦しむ人物はいないだろう。爆風で軒並み吹き飛んだのだから。
砂煙が立ち込める爆心地を見下ろし、静かに一人ほくそ笑む。完璧に発動させ、この世界の人間を丸ごと吹き飛ばすことに成功した。先ほどまで曇ってどんよりとしていたが、快晴への変化は私の勝利を祝福しているかのようだ。
気分がいい。十年間続いた戦いを自らの手で終わらせたのだ。自らの死も確定したも同然だが、今更どうでもよかった。
「あは…っ…」
ここまで豪快に他の世界を叩き潰したのは初めてだ。博麗大結界の影響か、結界内で反響する爆発音が僅かに鼓膜を刺激し、より一層自分が世界をまとめて破壊したことを実感させる。
魔力で鼓膜を保護していなければ、爆発を引き起こした私でさえも耳が聞こえなくなってしまっていただろう。
非常に高い威力に満足であり、瓦解していく風景を見ているだけで口角が上がる。爆発による上昇気流により、キノコ雲状に舞い上がった砂煙が私の居る位置にまで達し、若干土臭さを感じ始めた。
「さてぇ」
あれだけのしぶとさを見せた連中だ、直接死体を確認しなければ死んだと納得できない。原型を留めないほどで、見分けが付かなくなっているのであれば、それはそれでいい。
濃い砂煙の中に自分から入り込み、徐々に高度を下げていく。せいぜい数メートルから十メートル程度しか見渡せない。探すのに苦労するだろう。だが、探す時間はあるだろう。
覚醒状態の無想転生を発動させることができたことで浮かれていたが、解せぬところがある。紫の話では、幻想郷を滅ぼす力だと言っていたはずだが、そこまでの威力があるとは思えなかったのだ。
しかし、私が自分で扉を開いたわけではなく、先代たちの力を借りたからできたことだ。本当の威力よりは下がっているのかもしれないが、発動したことの無いスペルカードであるため、理論上の話で実際にはこの程度の威力なのかもしれない。
まあ、これだけの被害を受ければ壊滅的打撃と言えるだろう。ただ一点だけ上手くいかなかった部分を上げるとするならば、村の端で発動してしまったことだ。
爆発した時には高度が低かったため、地形の影響で爆風から逃れてしまった地域が若干だが存在してしまっている。それでも崩れ、家としての体を成してはいないが、どうせなら原型が残らないように吹き飛ばしたかった。
砂煙の中に入ってから少しすると、快晴で降り注ぐ陽光を舞い上がった砂が遮り、徐々に薄暗くなっていく。真夜中のように暗闇と言うわけではないが、大量の粒子のせいも相まってかなり視界が悪い。
爆発で剥き出しとなった地面に降りると、打ち上げられた砂が既に落ちてきているらしく、雪のように薄っすらと積もっている。
空気が混じり込んで体積の増えた柔らかい土を踏み、私は歩き出した。確実に殺した証拠を見つける為に、爆発の直前に居た位置関係からおおよその方向を予想し、周りを注意深く観察する。
爆発の炎で焼かれた砂塵は煙と一緒に交じることで、呼吸をしようとすると煙たく、咳き込みそうになる。
焼けていない側の袖で口元を押さえ、口や肺に入る砂を減らし、周囲の探索を続けた。爆発による爆煙の範囲は数キロメートルは下らないため、視界の悪さを考えるとかなり骨が折れそうだ。
そうして歩いていると、家を形作っていたであろう半ばから千切れている木材などが散らばり始めた。無造作に転がっていたり、吹き飛ばされ、落下してきたのが地面に刺さっているのもある。
そして、何か手がかりがないかと探している内に、土以外の物体が目に付くようになってきた。積み重なった木材や、折れた大木、爆風で掘り出されて砕けた岩石、殆ど形を留めていなかったり土まみれで定かではないが、食物なども見られた。
探していると、視界の悪さのせいで積み重なった木材や岩などが人が蹲っているように見え、その度に近づいて確認しなければならなかった。
砂が薄っすらと積もる木材を軽く蹴飛ばすと、ガラガラと簡単に崩れて積もった砂をまた舞い上げる。目に入っても面倒であるため顔を傾け、また探し出す。
そんなことを数度繰り返していた時、木材とも砕けた岩石とも違う、これまでと異なる形をした物が転がっている事に気が付いた。それと同時に、土臭い匂いの中に段々と血の匂いが混じるようになってきた。目を凝らし、近づくとそれは人間の腕と思われる形状をしていた。
持ち上げようとすると、爆風で高い高度まで吹き飛ばされていたらしく、人体であったであろう肉片や体の一部が地面にへばり付いている。
明らかに男の骨格であったため、持ち上げようとしていた手を放し、似たようなものが周囲に無いか探し始めた。
血の匂いは砂に紛れてしまうため、嗅覚は宛にはならない。完全に自分の目で探し出さなければならないのだ。
蝙蝠のようにエコロケーションで周囲の地形を確認できれば非常に楽だが、そんな芸は身に着けていない。一つ一つ虱潰しに探していくしかない。
砂煙が収まってから探せばいいとも思ったが、魔女については至近距離でスペルカードを受けたため、原型が残っているのかも怪しい。積もった砂に隠れてしまうと困るのだ。
爆心地に近い位置にいて、逃げ損なった人間だろう。腕の一部や脚、潰れた頭部などが時折転がっている。殆どの死体は爆風か落下に耐えられずにひしゃげ、地面にへばり付いている。
二十分ほど時間をかけ、探し続けていたが見つけるのはどれも村人と思わしき死体だけだ。明らかに男であるのであればすぐに捨て、女性であれば残痕する魔力の波長が魔理沙の物かで見わけを付ける。
魔力の波長を探って探せれば楽だが、爆発の影響で未だに魔力の残滓が周囲を漂い、探知を阻害している。それらの魔力結晶の粒子が無くなるまで数日を要するはずであり、そこまでは待てない。
爆心地から離れたことで、破壊された木材などの破片が増えて来たのを感じる。絨毯のように地面を瓦礫が覆い隠し、足元が覚束無くなる。探すのも大変になって来た。
人を潰せそうな岩石を見つけるたびにひっくり返さなければならず、木材の山も崩さなければならない。探すのも面倒になり、数日待った後に腐りかけの死体を探すのでもいいかと考え始めた頃、遂にその時が来た。
これまでに見たどの死体よりも、体の原型が残っている。地図を書き換えなければならない程の爆発を食らって半身が残っているのは驚いたが、こちらに向かって攻撃してきていた。その影響で威力をある程度相殺できたのだろう。
しかし、それでも完全に打ち消すことは無理だったか。こちらに伸ばしていた左腕は半身ごと丸ごと消し飛び、左足も千切れて消えている。顔も半分が消し飛んでしまっており、一瞬誰かわからなかった。
上に覆いかぶさっている木材や積もった砂で判別がつかず村人かと思ったが、右手の上に落ちていた木の板が屋根となり、本人かどうかの確認は容易だった。
十年前の暴走時にできた古傷が、右手にはしっかりと刻まれていた。明らかに死んでいるが、天変地異すらも可能にする魔理沙の力は底が知れない。今更、死人が蘇っても驚きはしない。
こうなることを見越して、魔力に何か細工をしている可能性もある。それができる力を持っており、首を刎ねるか思考する頭を潰さなければ安心することはできない。
倒れている魔理沙を遠目からしっかりと観察する。これだけの粒子が舞っている中で、彼女の口元に気流の乱れは無い。呼吸はしていないように見えるが、止めればいいだけで参考にはならない。
血流の良さも積もった砂のせいで読み取ることはできない。魔力の探知も阻害されているため、探りを入れることもできない。
探知ができないレベルで魔力結晶が漂っているせいで、魔力で形成される弾幕も減衰に減衰が重なり、効率が非常に悪くなってしまう。
巫女と魔女を引き離すために針もほとんど使ってしまっており、もしもの時を考えると自分の手で確認するほかない。
そこらの石を試しに残った右足に当てると、力なく投げ出された足の角度が大きく変わる威力があったが、撃ち抜かれた際の表情に変化はない。
見開かれた目には生気が感じられず、体もそれ以降はピクリとも動くことは無い。心配のし過ぎという事は無いが、奴が魔力で組んだプログラムが何を引き金にしているかわからないのは行動を抑制される。
乾いた砂を踏みしめながら魔女の元へと歩み寄る。意識など等の昔にないが、魔力に性質を与える脳を潰さなければならない。
横たわって動くことの無い魔理沙の頭に、焼けて爛れている足を構え、一切の手加減なく踏みしめた。
私が踏んだ瞬間、強化など一切なされていない肉体はぐしゃりと抵抗なく潰れた。普通の人間よりも柔らかいと感じる程、造形が大きく崩れた。
十年間の長い戦いも、彼女の死によって終止符が打たれた。私の手に入らないのであれば、誰にも渡さない。あらゆる感情を押し付け、踏みにじろうとした時だ。
足に伝わってくる潰した感触が、これまでに感じたものと異なるのを感じた。焼けた足である事が原因かとも思ったが、それも違う。あまりにも触感が無さすぎるのだ。
見下ろしていた霧雨魔理沙の頭部は割れた風船のように萎むと、頭蓋骨や脳、脳を保護する脳漿を吐き出すこともない。それが偽物の魔理沙だと気が付くのに数秒を要した。
あまりにも似すぎており、私の目には見分けが付かなかった。しかし、よく観察すれば血が出ていないところで気が付けたのかもしれないが、砂が少し積もっていた為、それで隠れているのだろうと考えてしまっていた。
形が崩れた魔女の性質を与えられていたのだろうが、私が踏み潰したことで形状維持することができなくなったのだろう。
魔理沙の形を成していた物体は、周囲の砂と同じく粒子状に崩れて交じり合っていく。それには見覚えがあり、河童が使っていた魔力によって形状変化する物質だ。
魔女が河童の基地に行ったという話は聞いていたが、まさかこれを持っているなどとは思ってもいなかった。私がその粒子や砂から足を引き抜こうとした時、後方から気配がする。
遠くから凄まじい勢いで跳躍してきたというよりも、近くの瓦礫に潜り込んで息をひそめていたのだろう。小さな瓦礫の山が大きく盛り上がると、その下から本物の魔女が姿を現した。
その手には見慣れた刀剣が握られている。妖夢が持っていた観楼剣と比べて短いように見えたが、性能はさほど変わらず、切っ先が振り返った私の脇腹を貫いた。
魔力で強化されている肉体を易々と斬り進む。皮や筋肉は勿論、骨すらも豆腐のように切断され、刃が背中まで貫通する。
「くっ…!?」
体を捻ることで、切っ先が動脈や血管の集中する臓器を切り裂くのを防いだ。巫女の力を発動したままだというのに、それを食らうというのがどれだけ気を緩めていたのかが伺えた。
「やって…くれたわねぇ…!」
こいつが生きているとなると、どこに居るかわからないが巫女の方も生きているだろう。魔理沙のほかに、姿の見えない巫女にまで気を使わなければならないのに焦りが生じる。
言い伝えでは天変地異を揺るがす爆発が思ったよりも威力が無いと思っていたが、それは間違いだった。最後の切り札と言える無想転生を、魔女に押さえ込まれたのだ。
切れ味が良すぎることで、刀を突き出した分だけ刃が抉り込んでいく。こちらからも前進し、お祓い棒の射程範囲へと魔女を誘う。刀を薙ぎ払われる直前に、お祓い棒が叩き込む方が速い。
顔へお祓い棒を打ちこみ、後方へ吹き飛ばす。天を仰ぐダメージを与えたが、意識はしっかり残っているだろう。刀を握ったまま下がって引き抜こうとしているが、刀の側面へ更に打撃を加えた。
あらゆるものを切断し、人間が作った最高品質の業物を遥かに凌ぐ得物だとしても、弱点を正確に捉えられれば、叩き折ることはできる。火花を散らし、刀の大部分を残して観楼剣はあっけなくへし折れた。
剣士ならば剣術に長けているため、お祓い棒の衝撃を受け流されてしまうが、魔理沙であれば容易だ。金属片をまき散らし、彼女は得物を失った。
倒れさせることはできなかったが、後方に下がった魔理沙へ近づきながらお祓い棒を振るう。スペルカードを放っていた左手に外傷は見当たらないが、魔力で回復させているだけでダメージは残っているらしく、防御しようとした手が遅い。
得物が魔理沙の胸を捉え、肋骨を幾本へし折った。魔力ですぐさま治ってしまうが、魔力が尽きればそこまでだ。巫女から魔力を受け取っていたが、スペルカードを使用したことでかなり消費したはずだ。
この距離ならば私が勝つ。左右に体を振り、その度に打撃を食らわせる。体重を乗せた攻撃に、鈍痛と粉砕される骨の痛みが駆け抜けるのだろう。歯を食いしばる魔女の口の端から血が滲む。
腕や肩、胸などを重点的に狙い、五度目のお祓い棒を食らわせると武器を介して伝わってくる感触から、魔女を殴った際の抵抗感が消えたのを感じた。
これまではどうにか食らいつこうとする素振りがあったが、それが無くなったのは意識を失ったのだろうか。
この戦闘とも言えない一方的な蹂躙が続く中でも砂煙は未だに舞っており、魔女の表情が読み取れなかったのもそう思った原因だった。奴は衝撃に身を任せただけであり、数メートル程離れたほんのわずかな隙に魔理沙は体勢を立て直し、進むこちらへわざわざ肉弾戦を挑んで来た。
左側から魔理沙が仕掛けてくるが、攻撃の軌道上にお祓い棒を重ねると、金属音と共に刀とは違う刃が打ちこまれた。剣士とメイドから刀とナイフを持ってはいると聞いてはいたが、観楼剣で刺されるまで忘れていた。
だが、魔女が得物を持っていると分かっている今なら対処は容易だ。両手には予想通り銀ナイフが握られており、お粗末な太刀筋で続けて右からナイフが振られるが、私の打撃の方が速い。
右手の銀ナイフをお祓い棒で打ちあげ、左手の銀ナイフを破壊した。打撃の衝撃で指を数本へし折り、わずかな時間でも拳を握ることすらできなくさせる。警戒さえしていれば、どんな武器を持ってこられようが対処は簡単だ。
胸を殴り、顔を殴る。足や腕も狙う。一方的に蹂躙し、反撃させる暇など与えない。血で徐々に汚れていく魔理沙の顔を掴み、自然と積み重なった瓦礫に後頭部を叩きつけた。
「うぐっ!」
無想転生を成功させ、いい気分になっている所に水を差されたのだ。こいつを殺せない程となれば、完璧には程遠い。いら立ちが募り、それを魔女へぶつけていく。
一度で終わらせはずもない。何度も何度も瓦礫へ頭を叩きつけ、頭蓋へ亀裂を生じさせるほどのダメージを与える。後頭部に裂傷が現れ、木材や岩に血がへばり付く。
「死にぞこないはぁ…!さっさと逝ねぇ!」
瓦礫に埋もれそうになっている魔理沙へ、更にお祓い棒で追撃を重ねる。立った一撃しか与えられなかったが、魔女を叩きつけた瓦礫が瓦解してしまい、拘束が解かれた。
それでも負ったダメージに上手く動けず、数歩程度のところで膝をついた。口や鼻などの粘膜が出血しているようで、手の甲で拭っているが口元は赤いままだ。
「死ぬわけには……いかないさ……助けて貰ったんだ……」
ダメージ回復の時間稼ぎか。余計なおしゃべりをするつもりもなく、得物を携えたまま膝をつく魔理沙へと歩み寄る。たった数秒程度で、回復しきれるわけもなく射程に入ると同時にお祓い棒を振りかぶる。
「それに…二人と…約束した!!」
誰と、何を約束したのかなど私の知る所ではない。心底どうでもいい。魔理沙がそう叫ぶと同時に、血を流す彼女の頭を叩き潰そうとした時、後方から何かが迫る気配がした。
このタイミングで巫女が姿を現したか。魔女に割く時間を最小限に留め、殴り倒した。威力が多少弱くなってしまうが、覚醒しているあの女に初撃を譲るわけにはいかない。
振り向いた瞬間に視界に入ってくるのは、負傷した紅白姿の巫女でない。私が右腕から打ち上げた銀ナイフだ。磁力で引き寄せたのだろう。銀は磁力では引き寄せられることは無いが、その性質を与えたわけだ。
振り向き、銀ナイフを叩き割ろうとするが、後方にいる魔理沙が磁力を操ったのだろう。銀ナイフの軌道が大きく変わり、お祓い棒をすり抜けた。私に刺さるかと思われたが、私自身すらもかすらずに後方へ通り抜ける。
最初からこれが狙いか。
「っ…!」
銀ナイフとほぼとんど同時に振り返ったが、そこにはナイフを握る魔女が飛びかかって来ていた。
「私は…」
それに反応できない私ではなく、ナイフを上段に構える魔女の腹部にお祓い棒を叩き込んだ。苦悶に表情が歪むが、逆手に得物を握る魔理沙は捨て身で攻撃を止めない。
「誓ったんだ!」
私の右肩へ体重をかけて銀ナイフを抉り込ませ、関節をぐちゃぐちゃにかき回された。肩をやられたことで武器が振れなくなるが、握力自体はあるため辛うじて落とさずには済んだ。突き刺した銀ナイフで肩を更に掻き切った魔理沙へ、拳を叩き込んだ。
肉弾戦で、さらに捨て身で来るというのであれば、受けて立つ。こちらも全体重を火傷の酷い右手の拳に預け、顔面へ繰り出した。これまでにない打撃の触感に、魔女を吹き飛ばしたと確信しようとするが、魔女は魔力で自分の体をその場に縫い付けた。
先の連撃に今回のダメージが追加され、魔女は喀血して血を吐いた。それでも抵抗を続け、殴りつけた私の右腕を掴んだ。これ以上、こいつのおままごとに付き合ってはいられない。
「放せぇ…!」
私の腕を掴む魔女の頭を全力で頭突き、膝で蹴り上げた。額からは血が流れ、蹴りで身体が持ち上がる威力だったが、爪が立てられて血の滲む右腕を放す気配はない。
「霊夢…!今だ…!!」
ダメージや喀血でスムーズに叫ぶことができなかったが、魔女ははっきりと巫女の存在を口にした。すぐさま迎撃態勢に入らなければならなかったが、唯一得物を使える右腕は魔理沙が掴んで邪魔をする。
右側から何かが接近する気配がした。砂塵を押しのけ、血塗れの博麗の巫女が姿を現した。飛んで逃げようにも魔女の錘が付いているせいで逃げる事ができない。体を捻って避けようとするが、お祓い棒が私の頭部を捉えた。
全身全霊の一撃は、私を吹き飛ばすのには十分すぎ、打たれたピンボールのようにきりもみしながら砂塵の中をぶっ飛んだ。
数メートル先の物すらロクに見えず、高速で吹き飛ばされた私は瓦礫の山へ衝突し、周囲へ木材や岩石をまき散らした。瓦礫の上に積もっていた砂や土が舞い上げられ、頭にばさりと被った。
「っ……死にぞこないどもがぁ…」
口の中に血の味が広がり、口の端から漏れ出していく。手の甲で拭い落すが、砂が混じって嫌な感触がする。
殴られた頭に鈍痛が響く。できるだけダメージを受け流そうとしたが、思ったよりも早い巫女の動きに追いつかれ、数十メートルも吹き飛ばされてしまった。
私のようにスペルカードで力を発揮しているわけではないため、巫女としての力の質は奴の方が上なのだろう。だが、腹部に刺した針がかなり効いている。力の差は傷を庇いながらであれば五分五分まで抑えられる。
あとは、魔理沙の存在か。口の中に溜まった血を吐き捨て、お祓い棒を構えると同時に視線の先で滞留する砂塵が揺らめいたと思うと、私を殴り飛ばした巫女が煙をかき分けて現れる。
全体重を乗せた打撃に再度吹き飛ばされそうになるが、衝撃を受け流して踏みとどまる。得物同士の鍔迫り合いとなれば、技術の影響は少なくなるが、筋力が物を言う。火傷の影響が如実に出ている私が不利となるだろう。
指が焦げ落ちている事もあり、お祓い棒がこちらへと傾いた。このまま押し込まれそうになるが、体勢が大きく崩れながらも腹部に蹴りを放った。
「うっ…!?」
無理な姿勢であったせいで大した威力ではなかったはずだが、苦悶を浮かべる巫女は体を大きく仰け反らせる。弾幕で更なる追撃に出るが、巫女の後方から飛来したレーザーにかき消された。
私もまとめてぶち抜く軌道だが、到達と同時に得物で掻き消した。そのまま魔女は私に肉弾戦を挑んで来るが、異様にそのスピードが速いのは、自分の時間を操作して加速しているからだろう。
私に叶わない事は承知の上だが、時の加速で力の差をなくそうとしている。二十センチほどしか残っていない折れた刀剣を私に叩きつけてくるが、扱いが素人であるためその半分以下にまで刀をへし折った。
お祓い棒を薙いで腹部を打ち払う。折れた刀の柄を握ったまま反応が遅れている魔女は体をくの字に曲げ、刀を保持したままで居れずに落とした。
「かはっ…!?」
金属音を鳴らして落ちる刀を踏み壊しながら私は突き進む。腹部を手で押さえ、顔を痛みで引き攣らせている魔理沙の脇腹に続いて打撃を食らわせた。体勢を崩した魔女の胸ぐらを掴み、巫女の援護を避けながら後方へ跳躍した。
弾幕の追撃は魔理沙を盾にすることで抑えさせ、こちらから弾幕を放つ。全て撃ち落とされるため、こちらの接近までの時間を稼ぐことが目的だ。
跳躍した私は身を翻し、掴んだままだった魔理沙を背負い投げの要領で地面に叩きつけた。お祓い棒の攻撃と空中からの着地も重なり、かなりのダメージを身体に与えたようで、どこかはわからないが骨が折れた音がする。
頭を叩き潰そうと構えるが、巫女がこちらへ跳躍する音が煙の奥から聞こえた気がする。暗くて視界が悪いが、他の音は周囲の砂煙が吸収してしまうため、ある程度の近さがある巫女の発した音で間違いないだろう。
コンビネーションの非常にいい彼女たちの弱点は、どちらか片方が追いつめられた時、もう片方が必ず助けに割り込むことだ。仲間であれば当然とも言えるが、故に行動が読みやすい。
地面に叩きつけていた魔理沙を巫女へぶん投げた。背負い投げのダメージから抜けきっていない魔女は空中で手足をばたつかせ、体勢を立て直そうとしているが無駄な努力だ。
立て直す暇もなく地面に落下していく魔理沙を、私の予想通りに巫女が受け止めた。そこは仲間を踏み越えてでも、そちらに走り出している私に向かわなければならない場面だろう。
抱えられた魔女の背中に得物を打ち込んだ。魔理沙越しにダメージを巫女へと浸透させた。魔理沙が悲鳴を上げ、霊夢が苦悶で表情をひきつらせる。
血を吐いている魔理沙を蹴りで巫女から引き剥がし、お祓い棒を霊夢の脇腹へと叩きつけた。攻撃を食らっていたとしても衝撃を多少とも逃していたが、それでも感触からほとんどのダメージは食らっている事だろう。
今の巫女に腹部への攻撃は、計り知れないほどのダメージが期待できる。前かがみに崩れ落ちた巫女の首を掴み、腹部に刺していた針に手を伸ばした。
なぜこの針を抜かないのかと思っていたが、血が絶えず滲んでいる刺突部に刺さる針に触れると、彼女の速い脈拍に合わせて振動しているのがわかる。
刺した瞬間に何かを貫いた感触はしていたが、まさか動脈に当たっているとは思っていなかった。これを引き抜くだけで巫女は出血多量で死ぬ。
引き抜かせまいと霊夢が私の腕を掴んで邪魔をしてくるが、首を捻り上げて黙らせる。周囲が薄暗くて見えないが、蹴りで吹き飛ばしていた魔理沙も体勢を立て直せていない。弾幕の気配もしないため、邪魔される心配もない。
やめろと絶叫が聞こえてくるが、絶好の殺す機会を見逃すわけがない。脈拍が伝わってくる針を掴み、捩じりながら引き抜いた。
次の投稿は2/19です。