東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままで好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第二話をお楽しみください。


東方繋華傷 第二話 ドッペルゲンガー

 今回の異変は、いつものように何の前兆もなしに空が赤色の雲で覆われただとか、夜が終わらなくなったとかで、いきなり異変が始まっていて、急がなければならないという感じではなかった。

 しかし、いつもと変わらないのは、目には見えないがこの幻想郷で異変が始まろうとしているということだけだ。

 

 

「………」

 私は夏の生暖かい風を肌に感じながら、青空で雲一つない空を見上げる。

「……」

 隣に座る彼女も、私につられて上を見上げて晴れ渡り、真っ青な空を眺めた。

「…平和だねぇ」

 チリンチリンと風に揺られて鳴っているのは夏だと再度認識させられる風鈴で、それを聞き流しながら私は縁側に座って空中でプラプラと足を揺らしながら呟く。

「そうね…」

 日向ではないとはいえ結構外気温は高く、隣に座る赤と白色の生地が使われている特注的な巫女服を着た博麗霊夢がそう呟くと、頭の頭頂部と後頭部の間ぐらいの場所で結ばれている赤色の大きなリボンを揺らしながら息をつく。

「「………」」

 少しの間、霊夢と私の間に静寂が顔を見せ、どこかの木にとまっている雄のセミが繁殖をするために求愛行動として、羽をこすり合わせて大きな音を発しているのが静かな分大きく聞こえてくる。

「…しかし、熱いな…」

 私が呟きながら横を見るとじっとりと汗をかき、うなじあたりに浮かんできた汗で髪の毛を皮膚に張り付かせている霊夢が、片手に持っている団扇で自分のことを静かに仰いでいるのが見えた。

「…そうね……チルノでも近くを飛んでないかしら…」

 さすがの霊夢もこんな暑い日には、喉が焼けるのではないかと思うほどの熱々のお茶は飲んでいられないらしく、透明なガラスで作られている氷がいくつか入っているコップに、さっき冷蔵庫から出してきたキンキンに冷えている麦茶を自分のコップに注ぎ、半分ほどまで飲んでいた私のコップにもその麦茶を注いでくれる。

「…ありがとう」

 汗がタラりと額から流れ落ちてきたのを手で拭いながら、お礼を言うと霊夢は軽く手を振ってどういたしましてと私に伝え、彼女は自分のコップを掴んで持ち上げると氷がガラスに当たってガラッと音を鳴らす。

 気分的に多少は涼しくなるような音を聞きながら、私も八分目まで麦茶が注がれているコップを持って縁に口をつけ、少しだけ傾けて三分の一ほど氷で冷えている液体をゆっくりと味わって飲み込む。

「……」

 また私と霊夢の間に静寂が訪れるが、その無言の時間は嫌いじゃない。霊夢は知らないが、私は彼女と一緒にいるだけでもなんだか気分が落ち着くからだ。

「……こうしていると、昔を思い出すわね…」

 十分ほど何もしゃべらずに縁側に座っていた霊夢が、そんなことを呟きながら私の方向を見る。

「…昔のこと?」

 私はむせかえるような熱気でボーッとして頭が回らず、ろくに考えもせずに霊夢に聞き返した。

「…えぇ、私たちが初めて会った日のこと」

 私が霊夢の方に視線を向けると、彼女は私から視線を外して陽炎が揺らめいている赤色の鳥居の方向をずっと見つめている。

「……ああ、確かに…あの日に似てるな…あの日もこんな天気と気温だったよな……雲一つない晴れ渡った空…」

 絵具でもぶちまけたように真っ青な空は、本当に私と霊夢が出会った時に似ている。いや、気のせいかもしれない。あの日はもう少し涼しかった覚えがある。

「…異変でも起こってるわけでも、妖怪に襲われたわけでもないのに、全身が傷だらけだったからとても驚いたのをよく覚えているわ」

「……そうだな」

 少し声がこわばってしまったのを自分でも感じ、私はごまかすようにして横に置いてある。三分の二ほど残っているガラスのコップを掴んで口元に運び、一口だけ口に含んでゆっくりと飲み込んだ。

 緑茶などとはまた違った麦茶の独特な香りが鼻から抜けていき、私は床にコップを置いた。

「まだ……話すことはできない?」

 霊夢はほっと一息ついた私の方向を向き、呟く。

「……ああ、すまねぇ」

 霊夢がただ単に何があったのかを知りたくて私に聞いているのではなく。何か私の力になりたい、そういう思いがあって私に言ったということはわかっている。

 でも、どうしてもいうことができなかった。誰かに口止めされているとか、そういうことではない。

 たぶん私の中で、起こっていたあの出来事は強いトラウマになっているのだろう。

 だから、あれは悪い夢だった。そういうことにしたいが、私の右腕にある古い傷がそれは夢ではないと私に自覚をさせようとしてるように視界に映りこんでくる。

 右手とその手首、さらに肘のあたりまで雷に打たれた後のようなズタズタに引き裂かれた傷跡がズキリと痛んだ気がした。

「…いいわ…私もごめんなさい」

 霊夢がそう言って謝ると前に少しだけ顔を傾けて俯き、太陽な光に焼かれてカッサカサになっている地面を見下ろす。

「…いや、私もすまない……」

 私も小さな声で霊夢に謝ると、太陽の光で熱されて生ぬるくなっている風が私と霊夢の間に吹き、汗ばんでいた肌から地味に熱を奪い取っていく。

「「……」」

 また、しばらくの間無言で静かな時間帯が訪れる。

 壁にかけられている旧式のアナログ時計が午後二時を示す鐘を自動で二回鳴らし、思っていたよりも大きな音が響く鐘の音を聞き終えてから、私は霊夢の方をちらっと見た。

 霊夢は、おそらく私の正体に気が付いていることだろう。でも、それを聞いてこないのはさっき深く聞いてこなかったのと同じ理由で、無理やりに言わせたくはないのだ。

 少しだけ気まずい雰囲気が流れていたため、霊夢がそれを変えようと今の話から話題を変えた。

「…魔理沙、少しシャワーでも浴びてきたら?…すごい汗よ」

 霊夢のように脇などが露出していてある程度は通気性の良い服を着ているわけではない私は、熱中症になるのではないかと思うほどに汗をかいている。

「そういう霊夢も、薄着とはいえかなり汗をかいてるじゃないか」

 霊夢の額から落ちてきた汗はゆっくりと顎まで伝っていくと、そこから胸元のあたりにポタッと落ちて胸の谷間の方向に流れていき、そこをまじまじと見ているわけにもいかず、私は目をそらした。

「そうね……でも…どうせ汗はかいちゃうだろうし、何度も服を変えたりするのが面倒なのよね」

 霊夢がそう呟いてコップを手に取って口に運び、コップに入っていた麦茶を一息で飲み干す。

「…まあ、そうだよな」

 私はそう言いながら床に置いておいたコップを拾い上げ、霊夢のように飲み干すのではなく、チビリと少しだけ飲んだ。

「……そういえば……」

 霊夢が床にコップを置いたとき、私はとあることを思い出して霊夢に聞いてみることにした。

「……霊夢は、例のうわさは知っているか?」

「ええ、知ってるわよ…ドッペルゲンガーでしょう?」

 今、目撃自体が少なくて本当かどうかわからないが、幻想郷でドッペルゲンガーかそれに近い何かの現象が起こっているのだ。

「さすがは博麗の巫女だぜ」

 私が茶化すように言うと霊夢にわき腹を肘で軽く小突かれてしまい、持っていたコップを床に落としてしまいそうになる。

「まあ、私は聞いたのは今朝なんだけどね」

 霊夢は団扇で自分のことを軽く扇いで言い、さらに言葉を続けた。

「…文がうちに来てそのことについて取材をしてきたんだけど、そこで初めて知ったのよね」

 霊夢はそう言って鳥居の奥に見える村の方向を眺め、呟く。

「…そうなのか、私はあったことはないが巷では結構有名になってきてるらしいぜ、霊夢とか咲夜とかがフラフラっと現れては少し村の中を歩いてどこかに消えていく……咲夜に聞いたが村には行っていない…もちろん霊夢もな…」

 私はそう言って霊夢の表情を見て動き出すのか動かないのかを判断しようとしたが、暑さでやる気が出ないのか、面倒くさいといった表情をしている。

「はぁ、…なんでこんな死ぬほど暑いときに外に出なくちゃならないのよ…異変を起こす奴も起こす奴よ……季節を考えてほしいわ」

 はぁ、っと深いため息をついた霊夢はそう呟いて自分のコップに少し温度が高くなってきた麦茶を注いだ。

「…それは全面的に同意だぜ」

 ゴロンと後ろに寝っ転がった私が、天井を見上げながら動きたくないと完全に脱力していたが、麦茶を飲もうとした霊夢に聞いた。

「……誰だと思う?」

「さあ、現段階ではまだわからないわ……ドッペルゲンガーという現象が幻想入りした可能性もなくはないからね……でも、一番近いのはぬえとかよね」

「……まあ、そうだよな…本来の物を別のものに見せることもできる。正体をわからなくする程度の能力…あれを自分かもしくはその辺の人間にかけて霊夢や咲夜のフリをしていた……そう考えるのが妥当だよな」

 私が言いながら起き上がると、寝っ転がっていた状態では見えなかった霊夢の表情が見えた。少しだけしかめたような顔をしている。

「……妙蓮寺には私が行くぜ…あそこまではかなり距離があるからな……早い私の方がいいだろう…その代わりに霊夢は村で情報を集めてきてくれよ」

 私が言いながら、縁側の下に置いておいた日の光にさらされて熱くなっている靴に足を突っ込んで履いた。

「えぇ……。行かなきゃダメかしら?」

「…ああ、行かないとダメだろ…小さいとはいえ異変なんだ。それを解決するのが数少ない博麗の巫女の仕事だぜ」

「…はいはい。わかったわよ……行けばいいんでしょう?…でも、魔理沙に遠い方に行かせるのは少し気が引けるわ」

 霊夢が言いながら立ち上がり、必要最低限の物だけを持ち出して庭に降りている私を縁側から見下ろした。

「……大丈夫だよ、私の方が霊夢よりも飛ぶ速度は速いんだ、行って帰ってきたらちょうどぐらいだろ」

 それに今日はこの暑さだ。だらけている霊夢に妙蓮寺に行くのを任せたら明日になっちまう。

「…もしぬえが異変の犯人だったとして、戦うことになっても大丈夫なの?そんな準備はしてないでしょう?」

「ああ、確かに大したものは無い。でも…ぬえが犯人なら大丈夫だよ…あいつにも何か理由があるんだよ……たぶんな」

 私は壁に立てかけてあった箒を手に取ってまたがり、宙に浮きあがる。

「…それならいいんだけどね…外の世界からドッペルゲンガーが幻想入りしたものならどうしましょう…会ったら殺されるとか言われてるじゃない」

「霊夢なら大丈夫だよ、偽物なんて相手にならないぜ」

 私と同じように霊夢も宙に浮きあがり、簡単に言ってくれちゃってと私の言葉に愚痴をこぼす。

「まあいいわ…それじゃあ妙蓮寺はよろしくね。魔理沙」

「ああ、霊夢もいい情報を持って帰れよ」

 私たちは言い合うと、霊夢は村へと向かい。私は妙蓮寺の方向に向けて上昇しながら空を飛んだ。

 




五日から一週間後に次を投稿します。
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