東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第二十六話をお楽しみください。

ようやく第一章の折り返し地点に来たってところです。


東方繋華傷 第二十六話 誰が

 意識のない状態で長く目を閉じていれば、どれだけ時間がたったかわからなくなるわけだが、私は不思議な浮遊感に体が襲われて、眠っている意識のない状態から意識が覚醒した。

 ゴボッ…。

 何の音だろうか。濁っていた何の音だかよくわからない音が近くで響く。何の音か確かめるためによくよく聞こうと耳を澄ませると音はそれだけではなかったらしく、様々な音が耳に入って来る。

 風とはちがう。何か液体状の物が流れる音だったり、私が腕を振るったことで気泡が潰れることによって生ずる水の音。

 私は水中にいるようだ。

 十数秒の時間をかけてようやく自分のいる場所が判明し、息苦しさを感じ始めた。水中から出ようとするがどの方向に水面があるかわからず、混乱してやみくもにもがくが、水面に向かって行っている気がせず、苦しくてたまらないが一度落ち着くことに決めた。

 ダイバーなどのプロでも水面の方向を間違え、潜っていっているのに上がっていっていると勘違いするという話を聞いたことがあるが、素人である私が闇雲にもがいて水面に出れる確率は低いだろう。

 少しだけ息を吐くと、口から洩れた息が五センチほどの気泡となって、私が進んでいた方向の上ではなく、下へ下へと下がっていく。

 空気も含めて存在するあらゆる気体の中で、水よりも重い物質はこの世には存在しない。つまり、この状況が示しているのは、今私が足を向けている方向が水面というわけだ。

 私は下に向かって行く気泡を負うために体を反転させ、上にある気泡を目印に手足を必死に動かした。

 肺の中にある空気が浮袋の役割をし、浮上する速度が少しずつ早くなるが、空気中とは違って水の抵抗は強く一定の速度以上に速さが上がらなくなる。

 水中の水の色が濃い青色から薄い青、そこから透明へと色が薄くなっていき、それと比例するように感じていた息苦しさが強くなっていっているのを感じた。

 その息苦しさが一層私を焦らせるが、私は落ち着いてゆっくりと確実に水面へと水をかき分けていく。

 そろそろ息止めが限界に達し、口からさらに空気が漏れてしまうと、それが気泡となって他のと同様に上っていく、すると私の数メートル先で気泡が水面に出たらしく、はじけて気泡が消えた。

「…っ!」

 私はそこにめがけて泳ごうと手を上に伸ばしたとき、目の前に伸びていた自分の手がかなり縮んでいて、幼い手なっていることに気が付いた。

「………?」

 それに、この光景をどこかで見たことがある気がする。水が波打つことによって水と空気の境界面で光の透過率が若干変わり、水の中からでは外の様子をうかがうことはできないが、

 ドォォッ…!!

 腹に響くような爆発音が空気中から水中へと振動が音で伝わってきて、水面近くにいる私の耳に届く。

 少し様子を見た方がいいのではないか、と水中から出るのを躊躇してしまう。

 だが、水面周辺に上がって来るだけで体内に存在している酸素をかなり消費してしまって頭に酸素が回らず、重度の酸欠状態に近い状態であるため、周りの様子をもう少し観察することなどできやしない。

「…っ!!」

 私はこれ以上息を止めていられなくなり、我慢できずに体を水中から外へと浮き上がらせ、肺いっぱいに空気を送り込んだ。

 

 

 なにか、耳から入ってきた音という刺激が鼓膜を揺らし、その先の小さな骨がその音を増幅して渦巻き官に伝え、脳に音の情報を送り込む。それによって、目覚ましを掛けるのと同じように、脳の機能が停止していた状態から、活動を再開する。

「……」

 体がものすごくだるく、指を動かすのでさえかなりの時間がかかった。それでも痙攣しているのかしていないのかわからない程度の動きだ。

 腕や手足、瞼でさえ鉛になってしまったかのように、言うことを聞かずかなり重く感じる。

「…っ…!」

 重い瞼を無理やり開けようとするが動かず、初めは瞼がピクピクと震えるだけだったが何度が繰り返すと、ようやくだが目を薄っすらと開けることができた。

「…あ、起きたようね」

 私が目を開けると真っ赤な点滴用の血液が入っている袋を交換している鈴仙と目が合い、起きたばかりで体のあらゆる器官が正常に働いていなくて声を出せずにいる私に彼女は言う。

「師匠を呼んでくるから、ほんのちょっとだけ待ってて」

 鈴仙は輸血パックの交換を手短に済ませると、私と同じ部屋にいる霊夢たちにそう言って離れ、スライド式の鉄製のドアを開いて廊下へと出ていった。

「魔理沙!?起きたのね?大丈夫!?」

 霊夢が座っていた椅子から飛びあがり、ひどく心配そうな表情で駆け寄ってきて私の顔を覗き込んでくる。

「…あ………ああ…」

 かすれた声が私の口から洩れ、まだ絶対安全とは言えないが容体が回復したことで霊夢は安心したように息はく。

「…手ひどくやられましたね、魔理沙」

 霊夢の横を通り過ぎて、ベッドの反対方向に回り込んだ咲夜が言った。

「魔理沙さん、大丈夫ですか?」

 回り込んできた咲夜に続いて、早苗もベッドに歩み寄ってきて私のことを見下ろしてくる。

「……ああ………それよりも…何が…あったんだ…?……途中から…記憶……が、ないんだが……」

 さっきよりも少しはしゃべることができるようになった私は、三人に聞くと霊夢が説明をしてくれた。

「体中に傷を負っていたのに無理をして戦ったせいで、霊力で多少なりと塞がっていた傷が広がり、余計に血が流れたことによる失神らしいわよ」

 らしい、ということは第三者から聞いたということだが、この病院のような白い天井と白色の塗装が施されている鉄パイプで作られたベッドから、永遠亭でお世話になっているのだとわかる。

「…確かに…記憶が…無くなるまで…あった、痛みと…体のだるさがない」

 腹に指を通せば背中側に貫通する穴が開いていて、それがひどい痛みを生み出していたが、今はかなり軽減されて痛みは無いに等しいぐらいだ。

「…本当…死んじゃってなくてよかった……」

 霊夢がそう呟きながら私に手を伸ばしてきて頬に触れ、優しく撫でてくれる。

「ああ、すまない……心配かけたな」

 私がそう言うと霊夢は不安で気を張りっぱなしだったのか、安心して気が抜けて表情が少しだけ緩んだ。

 そうしていると、鉄製のスライド式のドアがガラガラと開き、赤と紫があべこべになっている特徴的な服を着ていて、銀色の艶のある長髪はいつ見ても綺麗な髪だ。

 目覚めてから数分が経過しているが、私はそこでようやく体を起こすことができ、入ってきた永琳を起き上がって迎え入れた。

「危なかったわね、魔理沙…あと二、三分遅かったら今頃は寝てる場所は安置所だったわよ」

 永琳の笑えないジョークを聞き流し、体の上にひかれている布団をどかすと、気を失っているうちに着替えさせられていたのか私は白い病衣を着ていて、永琳がその服の裾を掴んでめくり、腹部にあった穴が完全に塞がって完治しているのを軽く触れて確かめる。

「…きちんと治癒はしているようね…あと十数分で体の機能も正常に働きだすわ…にしても、傷の直りが速いわね…」

 永琳はカルテに何かを書き込み、次のページを捲ると今度は首元に刺さってできていた傷があった場所に触れた。

「あと二ミリで頸動脈だったわよ…意外と運がいいのね」

 永琳はそう言うとまたカルテに何かを書き込み、次の傷を見ようとする。

「いや、運がよかったわけじゃない……ワザとだ…ワザと急所を外していた…あの花の化け物…私を殺そうとはしていなかった」

 私がそう呟くと、それを聞いた霊夢は何か気になることがあったのか、少しだけ眉をひそめた。

「…魔理沙、何か知ってることはある?」

「知ってること…?特にないが…」

「…魔理沙が岩の花の化け物に吸い込まれたとき、奴は私には目もくれないでどこかに向かい始めた……魔理沙を別の場所に連れて行こうとしていたってことかしら…?…今回の異変…何か知っていることがあるんじゃないの?」

 服を捲られて聴診器を胸に当てられている私が永琳の診察を終えてから、霊夢は私に言った。

「……いや……わからん……でも、幽香は私に心当たりがあるんじゃないかって言ってたぜ…」

「そうなんですか?…魔理沙さんは心当たりあるんですか?」

 早苗が言い、私は小さく顔を横に振って言った。

「どうだろうか…たとえ…誰かに恨みを買っていたとしても…」

「ここまでの異変を起こすまでのことはやっていない。…ですよね?」

 私の言葉を遮り、ベッドの近くに置いてあった丸椅子に座りながら、咲夜は静かに私に言った。

「……ああ…自分でいうのもなんだが…ここまでされるほどのことはやってないぜ…何かしたとしてもどれもくだらないことだ」

 私が言うと、それを聞いていた早苗はうーんと小さく唸って考え込んでから言う。

「…どうでしょう…自分が下らないと思っていても…周りがそうは思っていない…そういうこともありますよ」

 早苗は比較的この頃に幻想入りした一人だが、幻想入りする前の昔のことでも思い出しているのか、彼女は少しだけ嫌そうに顔をしかめて呟く。

「…確かに…私が知らないうちにちょっとしたことで恨みを買った可能性は捨てきれないが……幽香が、私程度で手こずっているようでは、これから起こる異変では生き残れないといっていた……これから本格的にやばくなっていくわけだが……この幻想郷に…それだけの異変を起こせる奴がいるか?」

 私の言ったことに対してうん、とうなづける人物がみんな思いつかないらしく、考え込んでいるが霊夢がこう切り出した。

「…考えにくいけど、外の世界から…幻想郷に幻想入りした人物が異変を起こしたってことかしら?」

「…その可能性は無くはないな…でも、信じられないな……そうなると外の世界から幻想入りした奴は幽香を圧倒的な力でねじ伏せて従えさせたってことになる……どんな力を持った化け物級の奴が幻想入りしたのか想像がつかんな…」

 私が言うと、みんなも異変の大きさがわかって来たらしく、息をのむ。そうなるのも無理はないだろう。幽香は幻想郷の中でも五本指に入るほどの実力者だ。そんな人物が幻想入りした人物にやられた可能性があるのだ。敵の持っている力は無限大だ。

「そうなると…この異変は相当なものになるということですよね…」

 椅子に座っていた咲夜も事の重大さに顔を緊張させ、こわばらせて私たちに言った。

「…それで、…霊夢はどう動くんですか?」

 咲夜が座っていた丸椅子から立ち上がり、ベットを挟んで向かい側に立っている霊夢にそう質問をする。

「…そうね……私たちは幻想入りした奴のことを知らない…魔理沙を襲う理由も…その目的もね……だから、まずはそれを探りましょう。幽香を追えば自ずとそいつらの目的も見えてくる…三人とも、手伝ってくれるかしら?」

 今は一人でも多くの人間の手がほしい霊夢が私たちに言った。

「もちろんです!」

「ええ」

 早苗が力強く言い、咲夜は小さく頷いて異変解決に手を貸すと言った。

「バックアップは任せて頂戴」

 永琳も直接動いて何かをすることはないが私たちを手伝ってくれるらしく、そう言って私の状態が書かれているカルテを小脇に挟んだ。

「…誰かが怪我をしたらよろしく頼むわね……魔理沙も行けるかしら?」

「……ああ…まだ戦える。それに、私一人で行動してたらどこで襲われるかわからないしな」

 ぼーっと病衣から魔女の服へと着替えていた私は、霊夢に言われて少し遅れたが彼女に返答を返した。

「…大丈夫?まだ薬が残ってるの?」

「ああ…たぶんな」

 私は永琳の隣に立って看病の手伝いをしてくれている鈴仙に、脱いだ病衣を返して霊夢に呟いた。

「…そう…じゃあ、何か思い出したら言ってね」

 霊夢はそう呟くと私から視線を外し、幽香がどこに行ったのかを咲夜たちと考え始めた。

 不意にズキッと右腕の古傷が痛むが、永琳の薬の効果がまだ少しだけ残っていたらしく、頭が働かなくて何の気にも留めなかったが、この時の自分の平和ボケをしていた感覚を私はこの先ずっとそれを呪うことになるだろう。

 




次は五日から一週間後に投稿します。
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