それでもいいという方は第二十七話をお楽しみください。
次の話まであんまり進展はないので、今回の話はたぶん見なくても大丈夫です。
ようやく病衣から魔女の服に着替え終えたが、私の魔女の服には大量の血液が付着していて、更に穴まで開いていてかなりボロボロだ。
血の鉄臭い匂いが服全体に染み渡っていて、私にも血の鉄臭い匂いが移ってしまいそうである。
「…魔理沙、予備の服は家にある?それじゃあ動きづらいんじゃない?」
霊夢が言いながら破れたスカートを軽く持ち上げ、幽香に掴まれて破れてしまっていた胸元のあたりを指さした。
「まあ、そうだな…一度家に帰って着替えた方がいいな……血で濡れてるから、服が体に張り付いて気持ち悪いぜ」
私が失神しているときに鈴仙か、霊夢のどちらかが体を拭いておいてくれたらしいが、服を着たということで体がまた血で汚れてしまう。
「それに、二人もキチンと異変の準備をした方がいいんじゃないか?解決するために動き始めていた早苗はともかく、咲夜は戦うことが前提で来てたわけじゃないからな」
また体を拭かなくてはならなくなり、はぁ、っと小さくため息をついた私はこのボロボロの服でどれだけ動けるかを体を動かして確認して2人に言った。
「まあ、そうですね……とりあえず紅魔館に戻ってお嬢様に報告をしなければならないので、いったん準備に戻りたいと思います」
時を止める時に補助として使っている銀で作られている平べったい形をしている銀時計を見てから、咲夜は私と霊夢の方を見て言った。
「それなら私も一度神社に戻ることにします…異変が長引きそうなので、少しだけ神社を留守にすると諏訪湖様達に伝えてきます」
「…なら、私は魔理沙のことを家に送るから、二人は今から一時間後までに博麗神社に来てもらえる?」
霊夢が壁に立てかけてあるアナログの針が一秒に一度、一定の間隔をあけて動く時計を見上げて言った。
「わかりました。では、後程」
咲夜はそう言って私たちに一礼すると、鉄製のドアをスライドさせて開け、廊下を歩いて行った。
「それじゃあ、霊夢さん…魔理沙さんを頼みますね。それと、魔理沙さんはあまり無理はしないでくださいよ!今回は運がよかったですけど、いつもこんなふうにうまくいくとは限らないんですからね!」
早苗がびっと私に人差し指を向けて言い放ち、閉まりかけていたスライド式のドアを開けて走っていく。
「…へいへい」
私は早苗がいなくなるのを待ってから、ドアの方に向けていた顔を横に向けて、カルテを眺めている永琳に礼を言い。霊夢の方を見た。
「それじゃあ、行くとするか」
私が聞くと霊夢は周り見回して忘れ物はないかと部屋を見る。念入りに確認してからこちらを向いた。
「…そうね、行きましょう」
部屋から出ると、花の化け物に襲われたことで村からたくさんの患者がきているらしく、手伝いをしているウサギたちはあわただしい感じで廊下を走り回っている。
真っ赤にそまっているガーゼと包帯を両手いっぱいに抱えて走っていき、専用のごみ箱にそれを捨てて私たちとは別の部屋へと急いで走っていく。
ロビーにまで行くとそこは重症者と軽傷者で溢れかえっていて、彼らや彼女らはウサギたちの応急処置を受けている。
「…あれだけひどい被害を受けてたはずなのに、意外とけが人が少ないんだな…みんな避難経路はきちんと確認してたってことか?」
思っていたよりも被害が少なかったのかと、思っていた私がロビーを見回して言っていると、前を歩いていた霊夢が顔だけこちらに向けて言った。
「…いや、多分……襲われた時点で最後ってことじゃないかしら?……来る途中に村を横切ったけど、あの被害からしてこの人数はあまりにも少なすぎる」
「……」
やはり、そんな都合のいい話はないということか、口ごもって返事を返すことができなかったが、少しだけ歩く速度を速めた霊夢に追いつくために足を出し、永遠亭を後にした。
迷いの竹林ということだけあって、かなり迷ったが霊夢の優れた感によって何とか竹林から抜け出すことができ、現在は空を飛んで家に向かっている最中だ。
暑い日差しが私と私の隣を並走している霊夢にも降り注ぎ、皮膚や服を焼け焦がすように熱してくる。
「……」
蒸せそうなほどの熱気で集中力が削がれてしまうが、私は絶えず上方向や後方にも気を配り、周りに意識を向けておいて誰かの接近もしくは攻撃にも備えた。
「なあ、霊夢」
「…なに?」
隣を並走している紅白巫女は暑くてたまらないのか、黒い服を着ている私以上に汗をかいていて、本当に周りを気にしているのかと思うほどに呆けた顔をしている。
「この異変…幽香と会う前にいろいろと探っていたドッペルゲンガーに繋がりがあるのかな?」
私がそう霊夢に聞くと、額の汗をぬぐった霊夢は静かに話した。
「…ドッペルゲンガーに繋がりがあるのか?…じゃない。…繋がりがあるに…決まってんじゃない」
「だよな…でも、どう繋がるんだ?」
私の問いに霊夢は少しだけ間をあけて答えた。
「…。まあ、異変を起こした本人に聞いたわけじゃないから、推測の域を出ないけど……あんたを呼び寄せるため、とか…その姿ならあんたの警戒心を解けると思ったからじゃない?」
確かにそれは一理ある、いつもの巫女服やメイド服ならば後ろ姿で本人だと思って声をかけてしまうだろう。
「確かに…そうなると…奴はどうやって霊夢や咲夜の姿になってたんだろうな」
「…さあね、幻想入りしてきた奴の能力なんて知らないけど、他人の能力を写し取る程度の能力とかだったら最悪よね…」
霊夢のたとえ話に私は小さく笑った。
「確かにな、でもそんなハチャメチャな能力があってたまるか…一人で何十人もの能力を使えるのと変わらん…チートもいいところだぜ?そんな能力……私がほしいぐらいだ」
「…ははっ、確かにね。でも、あんたなら対抗できるんじゃない?」
ボーッと隣を飛んでいる霊夢が私の方を見ながら言う。
「へ?なんでだ?」
「…あんたもいろんなところからいろいろな技を盗んで改造して使ってるわけだし、どっこいどっこいの勝負でしょ」
確かにパチュリーやら幽香からいろんな技をパクらせてもらってるが、そんなチート級の能力者には太刀打ちできないだろう。
「お前な…人を泥棒扱いしやがって」
「…誰も泥棒なんて言ってないわよ。あんたがそう思うならそうなんじゃない?」
「……」
何も言えなくなった私が黙ると、霊夢は少しケタケタと笑ってすぐに周りの警戒に気を巡らせる。
幽香は花などを操るため、地面から伸びてくる花にも警戒しなければならないが、永遠亭を出てから十数分でようやく家に着くことができた。
霊夢はともかく幽香が私の家の場所を知っているとは思えないため、特に警戒せずにゆっくりと自分の家の庭に降りると、霧雨魔法店と書かれている立札が立てかけられているドアが見え、朝出たばかりのカギをかけていないドアを開けると、床や机の上に様々なマジックアイテムが転がっている部屋が目に映し出される。
「すまないな…いろいろ作ってて机の上とか少し散らかってるんだが、くつろいでいてくれ」
家の中に入った霊夢に言うと、彼女はわかったと言って一番近くに置いてある椅子に座り、机の上に散乱しているマジックアイテムを作る素材などを手でどかして小さなスペースを作る。
「あんた、年頃の女性なんだから、もう少し部屋を片付けたら?拾ってきたゴミを処分すればこの部屋だいぶすっきりするわよ」
霊夢が自分の持っている札と針を、机の上に無造作に置きながら言った。
「へいへい、そのうちやるよ」
私は隣の部屋に着替えに入って、扉を閉めながら霊夢に言った。さっきの部屋よりはだいぶ片付いている自室に入り、パジャマが脱ぎ捨てられているベッドや小さな机などが視界に入る。
部屋の隅に置いてあるタンスに向かい、取っ手を握って開くと服を洗った時の洗剤の良い香りと、木材の香りが混ざった空気がタンスの中から漂ってきた。
手ごろな自分の予備の服を取り出してボロボロの着ている服を脱ぎ、たたまずに机の上に放り投げた。
パンツやブラジャーなどの下着にも血がこびりついていて、それらが空気と触れ合うことにより、酸化して茶色く変色している。
背中側に手を伸ばし、両手でブラジャーを胸の位置で止めているホックの金具を外し、肩にかかっている布の部分を下ろしてブラジャーを胸から取った。
タンスの下側の引き出しを開けて収納されている新しいブラジャーを取り出し、胸に当てて背中側に金具を回して噛み合わせて固定する。
上の下着と同じく茶褐色に変色しているパンツを脱ぎ、タンスから取り出した新しい下着を履いた。
日差しは暑かったが森の中ということで家の中が冷えていて、新しい魔女の服は着替えるとひんやりとしている。
体を動かしてきついところがないかを確認するが、きつくて体の動きが阻害される部分は特になく、問題はなさそうなため客室に残している霊夢のいる場所に移動した。
「…待たせたな、神社に移動するか?」
私が客室に移動すると霊夢はさっき机に置きまくっていた現在手持ちの妖怪退治用の二、三十センチはある針と札の残りの枚数を数え、整理していたようだ。
「…そのうち移動しないといけないけど、まだ二十分ぐらいしかたってないからまだいいわよ…それに神社にいるよりも森の中にいる方が涼しいから、しばらくこの場所で過ごしましょう」
さっきまで暑くて汗をダラダラかいていたが、この家は森の中でしかも日陰に建っているため神社よりもかなり温度が低く、汗はすでに引いているようだ。
「それもそうだな…水分を取って少し休むか…特に霊夢は結構汗をかいていたからな」
冷蔵庫から冷やしておいた麦茶が入っている入れ物を取り出し、食器が入ってる棚からコップを二つ取り、椅子に座っている霊夢の前にガラスのコップを置いた。
「…ん、ありがと」
霊夢が服の内側などいろいろな場所に針と札を隠しながら私に言う。
「どういたしまして」
私は霊夢の目の前に置いたガラスのコップに麦茶を注ぎ込み、手に持っている自分のコップにも麦茶を注いだ。
「…そうそう、魔理沙…戦いでだいぶ髪がぐしゃぐしゃになってるじゃない…私がとかしてあげるわ」
霊夢が机の上に放り投げられて放置されていた櫛に手を伸ばして手に取ると、机の反対側に座っていた私の目の前に立ち、髪の毛に触れてくる。
「そんなにひどい状態なのか?」
私が自分の髪に触れようとしたが、霊夢が櫛でとかすみたいに髪の間に指を入れて毛先に向かって動かすと、絡まっていた髪の毛に彼女の指がひっかがる。
「いたっ!?」
髪が引っ張られるとズキッとした痛みが頭皮から感じられ、反射的に口から言葉が漏れた。
「ほら、そういうわけなんだから、さっさと私に髪をとかさせなさいよ」
霊夢が後ろに回り、私の髪の毛に触れる。
「はいはい、わかったわかった」
堪忍した私は霊夢に頭を傾けると、彼女は片方だけ結んでいた三つ編みを丁寧にほどくと髪を背中側にかき集め、手に持った櫛でゆっくりと髪をとかし始めてくれた。
「…しっかし、いつ見てもあんたの髪って手入れが行き届いてて意外にも綺麗よね。……この散らかった部屋からは想像もできないけど」
一言余計だったが初めに褒めていてくれていたため聞かなかったことにしてやることにし、ボーッと櫛で髪をとかされ続けた。
幽香と戦った時などに飛び散っていた砂が髪についていたのだろう。それを櫛で落としていくため、時々木の床に落ちた砂の欠片などが乾いた音を立てる。
「…そういえば、魔理沙に聞きたいことがあるんだけど」
しばらく静かに髪をとかしていた霊夢が言った。
「なんだ?」
「…いつも思ってたんだけど、なんで左側だけ小さく三つ編みしてるの?」
唐突に聞かれた質問に、なぜなのか自分にもわからず私はしばらくの間、返答できず沈黙してしまう。
「…魔理沙?」
「すまん……私にもわからん…言われてみればなんで片方だけ髪を結んでいるんだ?」
なぜ片方だけ結び始めたのか、忘れているということは特に重要なことではなかったのだろう。
「まあ、小さいころからだけど…どうせくだらない理由で結び始めたんじゃないか?」
忘れているという結論を出した私は、ぼんやりと霊夢に返答した。
「…そういうことをするのには何かしらの理由がある。だから、当時の魔理沙には衝撃的なことでもあったんじゃない?それが流行りだったとか…左はうまく結べたけど右はへたくそだったとか」
楽しそうに話しだした霊夢の言っていることもあながち間違いじゃないかもしれない。もともと私は指先が器用だったわけではないからな。
「右はへたくそだった…か、それありそうだな…」
私がそう呟くと霊夢が小さく笑い。まだ櫛を通していない部分の髪にも丁寧に櫛を入れていく。
「なんというか、誰かに髪をとかされるっていうのは…なかなかくすぐったいものだな」
私がそう呟くと霊夢がへぇと面白そうに呟く。
「…そうなの?あんまり他の人に髪をとかしてもらったこととかないから、わからないわね」
霊夢は私の左耳の後ろから少しだけ髪を摘まんで持ち上げ、髪とをとかしていたときと同様に丁寧に三つ編みを作り始める。
「…」
手こずっているのか集中しているのかわからないが、黙って髪を結んでいき、しばらくしてようやく髪を結び終えた霊夢が髪から手を離した。
「…はい、終わり……そろそろ出ようかと思ってたけど、まだ時間はあるようね」
霊夢は時計を見上げてから、さっき座っていた椅子まで移動して腰を掛け、私に視線を向ける。
「そうみたいだな」
私は前かがみになって机に寄りかかり、外気温との差で結露しているガラスのコップを掴み、中身の冷え切っている麦茶を一口だけ飲んでいると、霊夢が私に言った。
「…ねえ、魔理沙……なんだか幽香と戦ってた時…あいつ…変じゃなかった?」
「変って?…あいつが退いたことか?かなり強い幽香が戦いに置いて逃げるなんて聞いたことはないけど…そういうことか?」
私は思ったことをそのまま霊夢に伝えると、霊夢は少し考え込んでから再度口を開く。
「…それもある…自分が負けそうなわけでもないのに幽香が退くかしらね?…もう一つは…なんだかわからないんだけど…なにか違和感があるの」
「…違和感…ね……」
幽香の戦いについて特に思い当たる部分は無く、いつも通りに強かったが、幽香が逃げたというか退いたという部分しか私は思い浮かばない。
「…うーん……その違和感については次戦えばもしかしたらわかるかもしれないし、保留にしましょうか」
「そうだな」
霊夢は結露して水滴まみれのコップを持ち上げ、静かに一息で中身の液体を飲み干し、立ち上がる。
「そろそろ時間ね…出ましょうか」
時計を見ると時刻は待ち合わせの時間の丁度十分前を刺しており、そろそろ出ればゆっくり進んでも約束の時間ぴったりに神社につくだろう。
「だな、いくかぁ」
私も霊夢に続いて立ち上がり、麦茶の入っている入れ物を冷蔵庫に仕舞い。マジックアイテムがおいてある場所からいくつかアイテムを持ち出した。
「…準備はできた?」
「ああ」
いつも使っている箒は幽香と戦っていたときに無くしてしまっていたため、少し違和感はあるが箒がない状態で飛ぶしかない。
家を出た私と霊夢は博麗神社のある方向に向かって、魔力を使って体を浮き上がらせての飛行を始めた。
また、右腕にある古傷が痛んだ気がした。
次は一週間後から五日後ぐらいに投稿します。