東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第二十八話をお楽しみください。


東方繋華傷 第二十八話 古い友人

 

 博麗神社に向かい始めて約十分。隣を飛んでいた霊夢が先に高度を下げはじめ、博麗神社の庭にゆっくりと降りて咲夜たちがきているかどうか確認するため、周りを見回す。

「…咲夜たちはまだ来てないようね」

 私も霊夢に続いて神社に降りると、そこからは全く人の気配を感じられず、咲夜と早苗がきていないことが分かった。

「そう…みたいだな…じゃあ、二人が来るまで少し休むとするか」

 私が言うと霊夢はうなづいて神社の、幽香が奇襲を仕掛けてくる前に座っていた場所に近づくと、幽香の攻撃で舞い上げられた砂が部屋や廊下に散らばっている。さらに障子や襖に穴が開いていて、倒れているタンスなどを見て彼女はげんなりとしている。

 一人暮らしである以上は後で自分で片づけなければならないため、荒れ果てた家を掃除するのはかなり大変そうだ。

「はぁ…そうね」

 霊夢もため息交じりに言っていて自分が座る部分の床に散らばっている砂を手で払い、縁側に腰を掛けた。

 そろそろ夕方になってきた空は、色鮮やかなオレンジ色と青色の空の境界線がちょうど私たちの真上に見える。

「…これから夜だっていうのに、幽香を追わなきゃならないなんてな…危険すぎやしないか?」

 床に右手をついたとき手のひらにたくさんの細かい砂がこびりつき、私はそれを左手で払いながら霊夢に言った。

「…確かにそうよね……永琳たちが異変を起こしたときなんかは夜だったけど、あの時と今ではだいぶ状況も流れも悪いし……咲夜たちには悪いけどこっちに来てもらってから朝になるまで待った方がいいかしら?」

 昼間に負傷した私のことを思い出したのか、霊夢は顎に軽く手を触れさせて考え込むようにして唸っている。

「でも、幽香に時間を無駄に与えすぎると次にどういう手で私たちに攻撃を仕掛けてくるかわからないし、夜に私たちが寝静まったころに奇襲をかけてくる可能性もあるぜ?…」

「…それもそうよね」

 私たちが言っていると、カツカツと石を固いものが当たる音が聞こえてきて、階段のある赤い鳥居の方向からメイド服を着ている咲夜の姿が見えた。

 ハイヒールに近いローファーのようなものを履いているため、石をたたく音がして咲夜が近くにいる時はわかりやすい。

「どうかしましたか?何かわかったことでもあったんですか?魔理沙」

 咲夜は私と霊夢の前まで歩いてきて立ち止まると、考え込んでいる霊夢を見て私にそう質問を投げかけてくる。

「いや、夜は暗くて危ないから幽香を探しに行くのは明日にするか、それもと今すぐに探しに行くかを考えているだけだぜ」

 私がそう説明すると咲夜はなるほどとうなづき、神社の縁側に腰を掛けようとするが、砂が散らばっているため座らずにそのまま立つらしい。

「もう神社に来てしまったので、私個人としては異変の解決を進めたいところですが……」

 咲夜はそう呟き、ちらっと私に視線を逸らす。やはり昼間私が死にかけたということで、多少は彼女も慎重にはなっているみたいだ。

「…異変を解決しないといけない意味では、夜だろうと何だろうと出ないといけないけど。でもそれで怪我をしたら元も子もないじゃない…それにあんたらに何かがあったらレミリアとか諏訪湖たちに申し訳が付かないわ」

 考え込んでいた霊夢が顔を上げ、いつもあまり表情を変えない咲夜に言うと、彼女はふふっと小さく笑うと、呟いた。

「怪我はともかく、私はそう簡単にはくたばりませんよ」

「…あんたね…そうやってこの異変を甘く見てると足元をすくわれるわよ」

 霊夢はあきれたような表情で咲夜を見上げながら言った後、ゆっくりと顔を下げてさっきと同じく考え込んで呟く。

「…それに、魔理沙が言っていた…幽香以外にも異変を企てようとしている奴がいるっていう幽香の言葉……嫌な予感しかしないわ…」

 深刻そうな顔で言う霊夢を私たちは緊張せざるを得ない。永遠亭でもかなりやばい異変だとは思ったが、今までの異変で霊夢がここまで深刻そうな顔で嫌な予感がするといったことはない。もしかしたら、今までとは比べ物にならない異変が起こる可能性が高い。

「……」

 なぜ私たちがこんなに霊夢の言うことに敏感になっているかというと、

 霊夢は普段から努力をしない。鍛錬をして自らの魔力と戦闘スキルを高めて強くなろうとはしない。努力をすることが結果につながると思っていないというのもあるが、彼女の持っている常人では考えられないほどの鋭い感の持ち主であったり、元々持っている戦闘力が高いというのが大きいからだ。

 そして、その私の数を撃てば当たるような感とは比べ物にならないほどの感の持ち主である霊夢が嫌な予感がすると言っているのだ。

「ほんと、今回の異変は私たちの中からも死人が出るかもしれねぇな…」

 私がぽつりと呟いた一言で、二人とも口を噤んでしまう。十数秒そうしていると、屋根を飛び越えて来た早苗が咲夜の隣に飛び降りてきた。

「すみません遅れました!」

 早苗が下りてきて元気よく言うが、私たちが醸し出している緊張している雰囲気を感じ取ったのか、緩やかだった表情を引き締める。

「…幽香のこともそうだけど…もう一つの異変の方…胸騒ぎがする……皆、今回の異変はいつも以上に気を付けて」

 霊夢がここまで念を押して言うということは、これまでにはなかった。時間を考えればバラバラに幽香を探した方が効率はいいが、今回だけは皆でまとまって動いた方がいいだろう。

「そうだな…バラバラになって移動するとどうなるかわからん…今回だけは皆で移動した方がいいんじゃないか?」

 私の提案には特に異論はないらしく、早苗が静かにうなづき、咲夜も何も言わずに肯定した。

 私は座っていた縁側から立ち上がり、床に散らばっていた砂がスカートについてしまっているのを手で払い落とした。

「それじゃあ、行こうぜ…霊夢」

 行った方がいいのか行かない方がいいのかわからない霊夢はまだ葛藤していたが、私たちが行く気なのを見て幽香を探しに行くと決めたらしく、床に置いておいたお祓い棒を拾い上げる。

「そうね、幽香がまた新しい花の化け物を作り出して送り込んでくる前に探し出しましょうか…幽香を従わせている幻想入りした妖怪もしくは人間がどんな奴なのかも聞きたいからね」

 霊夢が重い腰を上げて立ち上がろうとすると、どこからともなく女性の声が聞こえて来た。

「ん?」

 早苗が何かが来たのかと周りを警戒するが、この聞きなれた声は幽香の物ではない。と私が思っていると霊夢のすぐ横の空間に瞳が開くようにスキマが現れ、紫がそこから顔をのぞかせてくる。

「二時間ぶりね」

 いつも開いていることの多い傘を閉じて縁側に立てかけ、紫はさらに大きく開いたスキマの中から体を出して姿を完璧にさらした。

 西洋のようにも和服のようにも見える服を着ており、昼間と同じレミリアやフランがかぶっている被り物に似ている帽子を頭にかぶっている。

「…あんたが来たってことは、幽香の居場所が分かったのかしら?」

 霊夢がそう聞くと紫はええと短く返事をし、縁側の自分が座る予定の場所に散らばっている砂を払う。

「うちの式神に探させたら、幽香はいつもいる場所…太陽の畑にいるそうよ」

 紫は縁側に座ると、肘まで長さがある手袋の指先についている砂の粒子を払ってから、下げていた視線を上にあげて私たちを見回す。

「太陽の畑…か……それはいつのことなんだ?幽香はまだ太陽の畑にいるのか?」

 私が聞くと紫はだいぶ疲れているのかあくびを噛み殺して、小さく頷く。

「何かをするために、準備をしてるようでしたか?」

 今度は咲夜が質問を投げかけると、彼女は眠たそうに眼をこすって肩をすくめる。知らないということだろう。

 咲夜が少し苛立った様子を見せるが、霊夢が咲夜をなだめるように言った。

「聞いても大した情報にはならないわ…どういう状態に見えたっていうのは個人の主観で決まるから確実とは言えないし、それに紫は藍の口頭で伝えられて、私は紫の口頭で伝えられた……情報としては不鮮明すぎる…だから自分のこの足で現地に言って自分の目で確認した方が正確よ」

 霊夢の言わんとしていることはもっともだ。誰かが見たものを一人の人物を通して伝えられているのだ。紫がそのままのことを伝えていたとしても、言い方や雰囲気まで同じくできるわけがなく、何かしら間違って私たちが捉えている可能性があるため、間違えていたとしても自分の目で見るのが一番正確だろう。

「それじゃあ、異変の解決は頑張って…現地に私が送ってあげてもいいけど、どうする?」

 紫がそう聞いてくるが霊夢は考える間もなく、すぐに断った。

 紫の能力で移動すれば幽香に奇襲をかけられるという利点もある。しかし、もし相手が待ち構えている状態ではあまり意味をなさず、逆に危険にさらされる可能性もある。

 だから、霊夢は成功するかわからない奇襲よりも遠くから移動して、幽香に気が付かれたとしても彼女がどういう状況なのかを見極めてから戦いに挑むと決めたのだ。

「そう、頑張ってね」

 紫がそう呟き、霊夢はそれを聞き流して幽香のいるとされている太陽の畑の方向に向けて移動をはじめ、私は霊夢がいつも使っている箒を借りてそれにまたがり、霊夢たちに続いた。

 

 

 霊夢たちが花の化け物と戦っているとき、約二時間前まで時間は遡る。

 

 ドサッ

 地面に体が落ちる音が耳に届き、私はすぐに自分の体が倒れているのだとわかった。

 自分でいうのもなんだが、私は備わっていた魔力の量も質も高く、生まれつきこの幻想郷では強い順から数えた方が速くて、初めの五本指にはいる位置にいるといえるだろう。

 しかし、その最高クラスにいる私は、現在指の一本すらも敵に触れることもできずに地面にねじ伏せられていた。

 敵の私の頭に向けた鋭くて重い一撃に頭蓋が歪み、脳が揺らされて皮膚などの皮下組織を簡単に引き裂く。

「ごほっ…!?」

 せき込んだ私の口の中に肺から絞り出されてきた血が広がり、鉄の味がはっきりと舌に伝わる。受け身を取って地面に着地することもできずに、私は地面を転がって上向けに倒れ込んだ。

 誰かと戦い、地面に倒されて空を見上げることになるなんて、何百年ぶりのことだろうか。初めて倒されたあの時も今回のように戦って敗れた覚えがある。

 でも、あの時と違う部分もある。私を負かした奴よりはまだ弱いだろうが、数百年前の頃よりは私もだいぶ強くなったということ。それと、私を負かした初代博麗の巫女よりも目の前にいる奴らの方が断然強いだろうということだ。

「げほっ…!」

 さっきせき込んだ時よりも大量の血が口の中にあふれ、肺が重症というレベルで出血しているのがわかる。

 起き上がろうとしたが頭という急所をやられ、手足が鉛のように重く感じられ、指の一本すらも動かすことができなくなっていく。

「……」

 そうして倒れている私に、奴が近づいてくるのが地面の土を踏みしめる小さな音で分かった。そっちに顔を向けるとやはり私を殴り飛ばした女が視界に映りこむ。

「私…言ったわよね?…魔理沙をここに連れて来いって」

 太陽の位置が私が魔理沙たちを襲撃した時よりも傾いてきているとはいえ、まだ高い位置にあって彼女の顔がちょうど陰となり、表情をうかがうことができない。

「予想以上に抵抗されてね…無理だったわ」

 そう言った私に彼女は手を伸ばしてくると、首を鷲掴みにして魔力の作用で体を軽々と持ち上げた。

「うっ…ぐ……っ!」

 気道を絞められていつも通りに呼吸をすることができず、強い息苦しさを感じる。

「あんたさぁ、ここでは結構強い方なんでしょう?たかが人間一人をさらってくる仕事も満足にできないのかしらぁ?」

 顔を近づけて来た彼女の鋭い眼光が私を睨みつけて威圧してくるが、私は肩をすくめて、さあねと言わんばかりの態度をとると奴は私の首から手を離して腹に蹴りを放ってきた。

「あぐっ!?」

 魔力を防御に回しているはずなのに体に鈍い痛みが響き、体が自然と蹴られた腹を押さえてしまう。そうしている私の頭に彼女は手に持っていた得物を下から叩きつける。

 顔が上に跳ね上がり、真上で地上を照らしている太陽が視界に入る。すると跳ね上がった顔に引っ張られて体が後ろに傾いて地面に倒れ込んでしまった。

 殴られた顔と蹴られた腹がズキズキと痛み、脳震盪を起こしているわけではないが頭が軽くクラクラする。

「私になめた態度をとるんじゃない…いうことを聞いているうちは悪いようにはしないからねぇ……それとも、私に逆らってあっちの方を苦しませるかしらぁ?わたしはどっちでもいいわよぉ?」

 奴は私から視線を外し、家とは違う種などが保存されている小さな小屋に目を向ける。

「っち…くそ野郎…」

 私は彼女を小さく罵り、睨み付ける。

 誰かのために行動する日が来るなんて、私も焼きが回ったものだ。

「…」

 私は腹を片手で押さえつけ、激痛でひきつっている体を無理やり動かして体を起き上がらせた。

「本当……どうしようもない屑野郎ね…!」

 口の中が奴に殴られたせいで、肉に歯が当たって切れたのだろう。だいぶ深いらしくかなりの量の血が溢れ出てきている。

「それはありがとう」

 彼女は皮肉を込めた言葉を私に言い。今度こそ魔理沙を捕まえろと命じ、この場から立ち去ろうとした。

「…あんたは、いったい何なの」

 立ち去ろうとした彼女に私はずっと気になっていた質問を投げかけてみる。

 背をこちらに向けていた彼女は顔を横に向け、目だけをぎょろりと私を見て、にたりと口角を上げて呟いた。

「…そうねぇ……魔理沙の古い友人……ってところかしらねぇ」

 




たぶん五日から一週間後に次を投稿します。
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